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Zion-Seed_ガルvsバル_第03話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:10:22

 バクゥ隊は、突如起きた爆発と砂煙の前に足を止めていた。異常事態に動揺したこともあるが、未だ爆発していない地雷の存在を警戒
してもいたからである。しかし、高機動性を誇るバクゥにとって、動きが止まると言うことは命取りに他ならなかった。
 突如として1機のバクゥの足が捕まれた。わけもわからぬまま引き倒され、混乱するパイロットの目に飛び込んできたのは、鈍く光る
モノアイの光、そして――
「ふふふ、よりどりみどり」
 接触回線からの、サディスティックな声だった。

 砂の中から現れたのは、砂漠迷彩を施されたザク……ザク・デザートタイプである。しんがり部隊のため、破格の待遇によって供与され
たこの機体は、ジオンの砂漠戦の現時点での切り札の1つだった。
 仰向けにされ、無防備になったバクゥの胴にヒートホークを叩きつけて沈黙させると、シーマは素早くクラッカーを投擲し、周囲の
バクゥの出鼻をくじく。そこに、ロンメルたちの集中砲火が加えられた。
 持ち味を発揮できないまま沈んでいくバクゥを満足そうに眺めると、シーマはからくも離脱した数機に舌なめずりして向かっていった。
「さあ、ワンちゃんたち、オイタは終わりだよ。おしおきの時間さね……!」
 奇襲に冷静さを失ったザフト軍は、攻撃を集中され、次々と撃破されていった。

「始まったな。アコース、コズン、我々も往くぞ」
 迷彩シートを剥ぎ取り、半身を砂の中に埋もれてさせていたMSが立ち上がった。その前方には、無防備に横っ腹をさらしたレセップス
の姿がある。先頭に立つ青のグフは、マゼラトップ砲を構えて砂地を駆け出す。
「この風、この肌触りこそ、戦争よ!」
 パイロットの太い笑みとともにグフが放った175mm無反動砲が、レセップスの主砲を破壊した。

 今まさに格納庫から出撃しようとしたバルトフェルドは、突如襲った振動に動きを止めた。
「どうした、ダコスタ君!」
「伏兵です! 左舷の主砲がとられました! 砂漠迷彩のザクが2機と、青色の新型です!」
 その言葉に、バルトフェルドの顔が苦渋に歪んだ。
「“青い巨星”か!」
 その名は、ジオンのエースパイロットのなかでも、バルトフェルドが最も警戒していた男だ。単に腕が良いというだけではない、統率
力と戦術眼に優れ、なにより戦場という物を誰よりも知っている男。
「ダコスタ君、僕が発進したらすぐにレセップスを下がらせたまえ! 今残ってるバクゥは借りていく」
 言うが早いか、バルトフェルドはレセップス護衛用のバクゥを引き連れてグフへ向かっていく。その間にも、レセップスは激しい砲撃
にさらされ続けていた。


 バクゥは、レールガンを斉射してラル隊の動きを止める。ラル隊はすばやくマゼラトップ砲を捨てると、各々の武器を取り出した。
「コズン!」
 ラルの声にコズンはザクバズーカを乱射する。もちろん弾速の遅いバズーカはバクゥには通じない。しかし、この攻撃は爆発でバクゥ
の視界を制限し、動きを捉えるのが目的だった。
「アコース、クラッカーだ!」
「了解!」
 進路上でクラッカーが炸裂し、バクゥの動きが完全に止まる。そこに、ラルの5連装75mmマシンガンが止めを刺した。
 次の獲物をさがすラルの前に、1機のバクゥが突っ込んできた。すれ違いざまに頭を飛ばしてやろうと、グフがヒートサーベルを振る
う。しかし、その一撃は紙一重で受け止められていた。
「むうっ!」
 その頭部には、通常のバクゥには無い、サーベルタイガーを思わせる1対の牙があった。プロトタイプラゴゥ、通称バルトフェルド専
用バクゥである。そのことをラルは知らなかったが、しかし、自らの攻撃を受け止めるほどの男は、1人しか思い当たらなかった。
「貴様……“砂漠の虎”か」
「そういうあなたは、“青い巨星”でいいのかな?」
 期せずして開かれた接触回線で、2人は『敵』の声を聞いた。
「指揮官がのこのこ出てくるとはな!」
「昨日の君たちの総司令官を真似てみたんだけどね!」
 バルトフェルドは軽口を叩くが、その表情に余裕はない。先日の戦いでザクを圧倒したバクゥが、グフにじわじわと押されているのだ。
「なるほど……さすがは新型といったところか……」
「ザクとは違うのだよ! ザクとは!」
 勝ち誇ったラルの叫びとともに、バクゥが押し込まれる。バルトフェルドはとっさにその勢いを利用して後方に離脱した。
「く、はずしたか!」
「危ない危ない……ん?」
 バルトフェルドはそこで、アラームが鳴っていることに気付いた。バクゥの翼が片翼、真っ二つに断ち切られている。グフを見ると、
右腕から鞭のような物――ヒートロッド――が伸びていることに気付く。
「仕込み武器か。危ないところだった」
「できればここで仕留めたかったが……やはり一筋縄ではいかんか」
 2機は一時にらみ合うと、再び戦闘を再開した。


 戦いは当初のザフトの思惑を越えて長引いていた。
 先の戦いと違い、数に勝るザフトだったが、砂漠の特性を生かし、エース級のパイロットで固められたジオン軍を圧倒するには至らな
い。逆にジオンは、じわじわと劣勢に追い込まれながらも、不敵な笑みを崩さなかった。
「そろそろきつくなってきたねぇ、ロンメル。逃げてもいいかい?」
 シーマが、背中合わせに立つザクに接触回線を繋ぐ。
「本当にきつくなるのはこれからだぞ。そろそろのはずだ」
 ロンメルが生真面目に答えた。
「ち、お堅いねぇ。せめていたわりの言葉ってものを言えないのかい。だいたい、あたしは死にたがりを助ける趣味は無いよ」
「シーマ!」
 シーマの愚痴に、ロンメルが怒りで声を荒げたとき、遠くで三度砂煙が上がった。
「来たぞ」

 バルトフェルドとラルは一進一退の攻防を続けていた。
 一撃離脱戦法で攻めるバルトフェルドと、その一瞬の交錯にカウンターを狙うラル。その傍らでは、アコースとコズンがバクゥ相手に
ボロボロになりながらも奮戦していた。
「ここまでか。出来れば貴様の首を取りたかったのだがな」
 もう幾度目かもわからない鍔迫り合いの最中、ラルが言った。
「その引き際の良さ、感心するけど同時に厄介だね。君のようなタイプにゲリラ戦に持ち込まれたらたまらないからね、悪いけど、逃が
さないよ」
 バルトフェルドの答えに、ラルはおかしさを堪えられない、と言う風に笑った。
「くく、何を言っている? 逃げるのは貴様の方だ」
 次の瞬間轟いた爆音に、バルトフェルドは慌ててサブモニターを開いた。そこには、爆煙を上げるレセップスの姿があった。
「な!? しまった、まだ伏兵が!」
 慌てて引き返そうとして、いつの間にか開いていたレセップスとの距離に愕然とする。一緒にいたバクゥの何機かが、ザクの攻撃をか
いくぐって救援に向かうが、バクゥの速度を持ってしてももはや間に合わないだろう。
「まいったね……戦いに夢中になりすぎて、まんまと誘い出されてしまったってわけか」
 歯噛みしながら、バルトフェルドも踵をかえす。ラルは、それを黙って見送った。大将首は惜しいが、彼の部下もそろそろ限界だ。救
援に向かい、後退を開始しなければならなかった。


「我々がここまで苦戦するとは……」
 レセップスブリッジで、ダコスタは信じられないものを見る思いだった。無敵を誇ったバクゥが翻弄され、尊敬するバルトフェルドが
たった一人のナチュラルに苦戦している。それは、ありえないことのはずだった。
 しかし、彼は気付いていない。彼にとってそれ以上の悪夢が、今まさに牙を剥こうとしていたことを。
「副長!」
 オペレーターが切羽詰った声でダコスタを呼んだ。
「どうした!?」
「熱源接近! 陸戦艇クラスです!」
「なんだって!?」
 モニターには、カタツムリを思わせる形状の陸戦艇、ギャロップが一直線に向かってくる様が映し出されていた。減速する気配が無い
ことを考えると、その目的は明らかだ。
「特攻する気か!? 弾幕を張れ! 近寄られる前に撃沈するんだ!」
 しかし、撃ち放たれた砲撃は対空機銃だけだった。
「左舷! 弾幕薄いぞ! 何をやっているんだ!」
 帰ってきたのは、絶望的な言葉だった。
「無理です! 左舷の砲台はほとんどが先ほどのランバ・ラルの攻撃で潰されてしまっています!」
「な……! あれが、布石? 最初から、これを狙っていたと言うのか!?」
 ダコスタが恐怖とともにその言葉を叫んだときには、すでにギャロップは目の前だった。
「総員、衝撃に備えろ!」
 恐慌状態でその命令を出せただけでも、彼の精神力を褒め称えるべきだろう。果たして、ギャロップはその後部に大量の爆薬を積んだ
カーゴを連結したまま、レセップスに激突した。

 例によって砂の中に隠していたギャロップの自動操縦を設定した後、脱出し結果を見届けたビッターは、満足感とともに信号弾を発射
した。作戦完了の合図だ。
 煙を上げるレセップスを見上げると、彼は自身のザクをドダイに乗せ、空へと浮かび上がらせた。先ほどの信号弾で、敵はこちらに向
かってくるだろう。あわてて戻ってくるバクゥを突破して味方に合流しなければならない。
 正直、難しいだろう。しかしそれでも、作戦の成否は知らせる必要がある。味方には、損耗が激しければ躊躇無く見捨てて脱出するよ
う取り決めてはあるが、さりとて座して死を待つつもりはない。ビッターは静かにスロットルバーを押し込んだ。
 バクゥ部隊は、自分たちの旗艦を奇襲したビッターを、親の仇と狙ってくる。その弾幕をかろうじてかわしながら飛んでいくが、やは
り多勢に無勢、ついにドダイが破壊されてしまう。そして、レセップスへ帰艦しようとしていたバクゥの只中に落ちてしまった。
「ここまでか……」
 いっそすがすがしい気分でザクマシンガンを構えたビッターだったが、その標的は、背後からの射撃によって破壊された。
「あきらめるのはまだ早いぞ、ビッター」
「ラル!?」
 そこにいたのは、やはり後退をしていたラルだった。部下2人とともに敵陣を中央突破してきたのだ。さらに、前方からも無数の弾丸
がバクゥを追い立てる。
「ビッター殿、ご無事ですか?」
「ふん、死にぞこなってたかい、ならさっさと後退するよ。こっちの弾薬も無限じゃないんだ」
「ロンメル、シーマ……お前たちも生き残れたか」
「生き残れるかはこれからじゃないのかい? ビッター殿。さあ、さっさと本隊に合流しなければねえ」
 階級が下のシーマの無礼な物言いにもさほど目くじらは立てず、ビッターはうなずいた。バクゥはバルトフェルドの命令もあって、形
勢不利とみて撤退を優先している。その間に、彼らは無事本隊と合流を果たしたのだった。


「やれやれ、見事にやられたねえ」
「申し訳ありません、隊長! 自分がもう少し状況を判断できていれば……」
 煙を吹くレセップスを背後に頭を下げるダコスタに、バルトフェルドは手を振って、
「いや、敵の策を読みきれなかった僕の責任だ。てっきり消耗戦を仕掛けてくると思ったからね、まさか“青い巨星”が囮とは思わなか
った」
と、悔しそうに言った。
「レセップスの損害は?」
「動かすのは無理です。本格的な修理が必要ですね。追撃戦の続行は、言うまでもありませんが不可能です」
「だろうね……応急修理を急がせてくれたまえ。なんにせよ、バナディーヤまで戻らないことには話にならない」
「はい」
 敬礼をして去っていくダコスタを見送って、バルトフェルドは周囲の兵たちの様子を見る。やはりショックは大きかったようで、あち
こちでひどく落ち込んだ姿が見えた。彼らには、最初から最後まで敵に踊らされたとしか思えなかっただろう。
 正確には、後退した時点で余力を残していたのはザフトのほうだった。しかし、敗北感に打ちのめされた彼らに、精神的な余裕は全く
なかった。それに、仮にあそこで殲滅したところで、レセップスが動けなくなった時点で勝者はジオンなのだ。そんな悪あがきをするぐ
らいなら、次の戦場で今度こそ叩きのめす、というほうがバルトフェルドの流儀に合っていた。
「それにしても……」
と、バルトフェルドは、先ほどまで戦っていたジオンの戦士たちのことを思い描いた。
「ハルバートンも、いいかげんなことを言ってくれるものだ。なにが『ジオンに兵なし』だ、あれほどの兵(つわもの)が揃っているって
いうのに」


 カイロに帰還したガルマは、疲労とショックで丸1日寝込んだ。
 3日目の朝、マ・クベから地上部隊撤退完了の報告を受けたガルマは、見事足止めを成し遂げたビッターらをねぎらうため、すぐに彼ら
を呼び寄せた。
「今回の任務、本当にご苦労だった。諸君らのおかげで、我が軍の損害は最小に抑えられたと言って良いだろう。みな、本当に良くやっ
てくれた」
 笑みを浮かべて、1人1人と硬い握手を交わしていく。最初にビッター、次にロンメル、シーマと続き、最後にラルの番になった。
「ランバ・ラル、今回の作戦立案は君だと聞いた。あいかわらず、見事な手並みだな」
「いえ、運が良かっただけです。“虎”が自ら出てきたため、旗艦に出来た隙を突いただけです」
 ラルの言葉を謙遜と思ったのか、ガルマは上機嫌で続ける。
「それを実行できたのも諸君らの力だ。私はいい部下を持った」
「それだけ……ですか?」
 ラルが低い声で言った。その声にマ・クベはじめその場に居た者が体を固くしたが、ガルマは気にせず答える。
「む? ああ、もちろんこのことは本国にも報告しておく。追って何らかの褒章があ……」
「御免!」
 彼は、そのセリフを最後まで言うことが出来なかった。ラルが、いきなりガルマを殴りつけたのである。ビッターは黙ってそれを見つ
め、ロンメルとシーマは驚きのあまり硬直し、そしてマ・クベは顔をしかめたものの何も言わなかった。
「ラ、ラル、何を……?」
「申し訳ございません。しかし、ジオン兵の総意を汲んで、ご無礼を承知で“修正”をさせていただきました」
 わけがわからない、という顔をするガルマに、マ・クベが諭すように言った。
「お分かりになりませんか。今回の戦い、ジオンもザフトも、総司令官が不用意に前線に飛び出し、それが原因で負けたのです」
 ガルマが出撃しなければ、ジオンは優勢のまま撤退できていただろう。また、バルトフェルドがレセップスに残っていれば、ギャロッ
プの特攻を寸前で察知していた可能性は高い。どちらも、大局を見るべき指揮官が個人の戦いにこだわったがゆえの敗戦だったといえる。
「ガルマ様が成すべきことは戦場で自ら敵を殺すことではなく、大局を見極め、味方を“生かす”ことです。それができて初めて、あな
たは兄上様、姉上様と肩を並べることが出来るのです」
 マ・クベの言葉に、ガルマは目の覚める思いだった。同時に、自分のつまらない意地で死なせてしまった、傷つけてしまった兵士たち
に申し訳ない気持ちで一杯になった。
「すまなかった、ラル、そしてマ・クベ。たしかに、私は指揮官としてあまりに軽率だった」
 ガルマは素直に頭を下げると、ラルに向き直った。
「そして、ラル。先ほどの修正、身に染みた。私はこの痛みを生涯忘れぬようこの身に刻もう」
「いえ、もったいないお言葉」
 がっちりと両手を握り合う二人の間に、マ・クベが割って入る。
「では、ランバ・ラル。総司令官への暴行の処罰についてだが」
「な! マ・クベ、ラルの拳は私を思ってのことだ、それは……」
 ガルマはマ・クベの言葉を撤回させようとするが、そんな彼を見るラルとマ・クベの目を見て、すんでのところで思い直した。
 どんな理由があれ、軍で上官に暴力を振るうことはあってはならないことだ。1度例外を作れば、そこから軍の規律は崩れてしまう。
それがわかっているからこそ、マ・クベはラルを処罰し、ラルはそれを甘んじて受けようとしているのだ。ならば、司令官としての自分
がするべきことは1つだ。
「ランバ・ラル。いかなる理由があれ、総司令官たる私への暴行を許すわけにはいかない。しかし貴様は今回の作戦において多大な功績
をあげた。それを考慮し、今回は不問とする。ただし、貴様への褒章は無いものと思え」
 ガルマの言葉に、ラルは深々と敬礼した。
「は! 寛大なお言葉、ありがとうございます」
 ガルマがマ・クベを見ると、彼は静かにうなずいた。
 これをきっかけに、地球方面軍総司令官ガルマ・ザビはその才能を開花させていくのだが、それはまた別の作品(お話)である。

                                                  to be continued >>349?
349=Zion-Seed_ガルマ_第02話