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Zion-Seed_512_第01話

Last-modified: 2013-10-25 (金) 02:32:49

執務室のモニターを通し、ムルタ・アズラエルは極秘事業の実績報告を聞いていた。
「それでですね、ムラサメ博士、人工ニュータイプ…強化人間の研究について、進行状況はどうです」
「はい。エクステンデッドの技術をベースに、強化人間の試作に成功しました」
「もうですか!? それは素晴らしい、予算とスケジュールを組みなおす必要がありますね」
ジオンは成立の経緯から、ブルーコスモスの構成員だったものやシンパが少なからずいる。
ギレンがそういった人間を通じて核攻撃の情報を入手したように、
地球側のブルーコスモスも、ジオンの情報をある程度入手することは可能なのだ。
もちろん、フラナガン機関についてもそれは当てはまる。
アズラエル自身はニュータイプ思想については態度を保留していたが
(『宇宙に出た人類が新人類に』ではコーディネイターもニュータイプになる可能性があるではないか!)
その生体CPUやエクステンデッドとは異なる性質の戦闘能力の高さは素直に認めた。
そして、ニュータイプ能力は初めは微弱なものであっても、訓練によって高めることができる、
つまり後天的な付与ができる可能性があるのだ。
そうした考えからアズラエルが私的に出資してニュータイプ研究を行わせているのがムラサメ博士である。
祖国がジオン側に寝返ったことを口実に研究機関から干されていたところをスカウトしたのだ。
「それで、どういった強化措置を施したのですか」
「基本的には精神操作です。プロトゼロは心的外傷を刺激して強迫観念を強める方法をとりました。
同時に記憶を操作することも行いました。薬物も使用しましたが、一時的なもので依存症や後遺症の心配はありません。
精神面でも操作は最小限度にとどめましたし、アフターケアの必要は無いでしょう。
いささか自信過剰な向きはありますが、それは許容の範囲内かと」
「おおむねこちらが提示した希望条件どおり、ということですか。
あとは実戦テストを行い、こちらが期待した性能を発揮すれば一段落、ですかね」
ニュータイプは生体CPUのように禁断症状に悩まされることもなく、
エクステンデットのように精神を安定させるための措置を施す必要も無い。
ジオンのニュータイプ兵ほどの能力が無くとも、平均的なジオン兵やザフト兵よりも
MSを上手く操るニュータイプ兵を『量産』できれば、パイロット不足は解消され、兵士の損耗も減少する。
極論すれば、連合兵全員に軽度の強化措置を施せるようになるのがベストなのだ―アズラエル個人の利益にとっても。
ただ、有効な強化処置については大きな個人差が存在する上、強化人間がまともな社会生活を営めるかという不安が
解消されていない。安価に、効率的に、安全に強化人間を『量産』できるレベルまで到達するには、
生体CPUやエクステンデッドの開発並みに人体実験を繰り返す必要はあるだろう。
しかし、そのリスクやコストを考えても、先行投資の対象としては非常に魅力的だった。

「その件ですが、強化人間の能力を試験するには、ストライクダガーでは力不足です」
「エース用の105では?」
「105のストライカーパックは魅力的ですが、耐久性に難があります。
まして強化人間は生体CPUやエクステンデッドより身体能力が低いのです」
遠まわしにデュエルダガーをよこせと言われている気がしたが、あえて無視する。
「ふむ…ではストライクを1機用意しましょう。もちろんOSは改良型。新型パックもつけます」
主力MSの選定が紛糾する今、ここでオリジナルの能力を強調しておくのも悪くない。
公私混同の極みだが、それをできる力がアズラエルにはある。
「…しかしムラサメ博士、その『プロトゼロ』という名前はこう、どうにかならないものですかね」
「識別できればそれでいいのです。兵器に奇をてらった名前など不要です」
「ですが、実戦に投入するには軍籍が必要です。プロトゼロなんてあからさまに怪しい名前、
聞いたらすぐに偽名とわかってしまうでしょう?」
にべもない口調にアズラエルは一瞬鼻白んだが、すぐにもとの顔と口調に戻り、翻意を促した。
「では、ゼロ・ムラサメでいいでしょう」
プロトゼロとほとんど変わらない命名に、アズラエルはため息をつく。
「二人目や三人目の強化人間の名前について、どうするつもりか聞きたくなりましたよ」
「単なる数字や英語はお嫌いなら、デュオでもトロワでも構いませんが」
「……お好きになさってください。それでは、次の吉報をお待ちしています」
まあ、成果が出れば文句は無いのだ。名前の件については、アズラエルは妥協することにした。
その後、いくつかの報告と質疑応答でムラサメ博士の実績報告は終わった。
「…さて」
何も映っていないモニターを切り、一人きりになった執務室でほくそえむ。
「強化人間は一応完成の目処はついたわけですか。情報の漏洩を見逃してくれた方には感謝しないといけませんねえ」
たとえどんな形であれ、最高機密であろうニュータイプについての情報が洩れることを
ジオン側が見逃すはずは無い。誰かがそれを許さない限りは。それができる人物は二人だけだ。
「あちらではできない人体実験をこちらにやらせたかった、というところでしょうね。
ま、ニュータイプを作ることができること、それから必要な技術の方向性くらいは
あちらに伝わるのは仕方ないでしょう。対価はお支払いいたしませんと」
連合の医学薬学―薬物強化や精神操作も含めた―はジオンやプラントを大きく上回る。
MSと違い、強化人間のリバースエンジニアリングは難しいだろう。
研究者の亡命でもない限り、ジオンが強化人間を作り出すには長い時間がかかるはずだ。
強化人間の技術転用がありうるとすれば、ニュータイプの能力強化だろうが、
「所詮、戦いは数ですよ。一握りのニュータイプとやらだけで戦局は変わりません。
変わりませんが…あちらも砂時計の馬鹿どもと違ってそのくらいはわかっているはずなのですが」
ジオンが新兵でも扱える新型MS開発に乗り出しているという噂は、アズラエルの耳にも届いている。
「これは探りを入れる必要がありますね。それにしても、ギレンか、キシリアか…
こういう相手を、戦後はビジネスパートナーにしたいですね」
嘆息して、アズラエルはいけすかないビジネスパートナーの意見をねじ伏せ、
ストライクダガーを主力機にするための作業に取りかかった。

 
 

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