Top > Zion-Seed_51_第二部第1話
HTML convert time to 0.010 sec.


Zion-Seed_51_第二部第1話

Last-modified: 2008-05-13 (火) 20:27:28

 コズミック・イラ71年8月8日。地球連合軍は、作戦決行日から八・八作戦と呼ばれる軍事行動を起こした。
それは南アメリカ合衆国軍とユーラシア連邦軍を主力とした地上部隊に大西洋連邦軍を中心とした洋上艦隊の
計25万人もの兵員を投入したビクトリア基地及びマスドライバー奪還作戦である。
 大気圏外からの奇襲を皮切りに、洋上からの艦砲射撃、大量の戦略爆撃機、さらには1000両の戦闘車両と
500機からなるMS部隊による制圧作戦。
 圧倒的とも言える連合軍に対し、ザフト軍――いや、ザフト残党軍は弱体化していた。整備部品、弾薬、食糧、
医薬品など、戦う上で必要な物資が底を付き、プラントの敗北により補給も皆無。誰がどう見ても勝つ見込み
などなかった。
 当然、その点にザフト残党軍が気づかない筈が無く、早い段階で基地放棄を決意した。
 ベテラン兵で構成される部隊を殿に置き、友軍の脱出を支援する。この大半がジンやザウートで、虎の子の
バクゥは脱出部隊の護衛となった。
 レセップス級陸上戦艦デズモンドも、そんな脱出部隊の一つである。

 

「ラッド隊長……私たちは、宇宙に戻れるのでしょうか……」
「当たり前だ! 弱音を吐くな!」

 

 隊を指揮しているアレック・ラッドは、弱気になっている味方を鼓舞し続けていた。
 隊の大半は士官学校を出たばかりの新兵である。それも15歳を過ぎたばかりの子供。彼らは訓練もそこそこ
に前線に送り込まれてきた。当然実戦の経験は少ない。
 本来なら前線に出ることのない彼らは、戦争が長引き、募兵年齢を引き下げたおかげでここにいた。
 ラッドの副官は、そんな彼らを痛々しく見ていた。

 

「隊長。もう降伏すべきです。これ以上は……」
「バカモノ! 今更降伏などできるか!!」

 

 プラントが敗北したことで、ジオン軍はザフト残党軍に降伏勧告を行っていた。当初は幾つかの部隊が勧告
に従い降伏していた。しかし大部分の部隊は彼のように徹底抗戦を貫いたのである。
 ビクトリアが落ちてもザフトはまだ負けていない。まだカーペンタリアとカオシュンが健在だ。宇宙では、
ウィラードが残存艦艇をまとめている。まだザフトの灯は消えてはいない。
 そんな浅はかな考えが、彼らを滅亡へと向かわせていた。

 

「本国はジオンに押さえられているのですよ」
「それでもだ!!」

 

 ラッドもそんな考えを持つ男だった。正義を愛する熱血漢、プラントのためなら死ねる男。ただ問題なのは、
自分のなかの理想こそが人にとっての理想であると妄信している点だ。

 

「海に出ればこっちのものだ。インド洋の制海権は今だザフトに――」

 

 その声がいきなり凍りついた。デズモンドの前方を走っていたバクゥにビームが突き刺さったのだから。
.
.
――――第ニ部 第1話
.
.
「なっ?! 敵だと?!」

 

 後方からではなく、前方からの強襲にラッドは困惑しつつも、何が起こったのか瞬時に悟った。
 連合は卑劣にも奇襲を行ったのだ。

 

「おのれ、卑怯な!!」
「隊長、何所へ!?」
「迎撃する!!」
「待ってください。ここは直衛に任せて……」

 

 正々堂々な戦いを重んじ、“ミスター・ジェントル”の異名を持つラッドは、コーディネイターに勝てないと見ると
卑怯な手ばかり使うナチュラルに怒り狂った。
 ラッドは感情に赴くまま駆け、愛機のラゴゥに乗り込む。

 

「何所だ卑怯者め!! このアレック・ラッドが成敗してくれるわ!!」

 

 外に出るとラッドの目には一隻の艦艇が映る。白く輝く、全長400mはあろうかという戦艦が宙に浮んでいた。
 甲板には一機のMSが狙撃用ライフルを構えている。頭部はストライクダガーに似ているが、基調色は青色。
上位機種である105ダガーのようだ。

 

「あの船はアークエンジェル級!?」
「まさか例の“足つき”かっ!?」

 

 ラッドたちはたまらず身をひるがえした。
 足つき――連合におけるアークエンジェルのコードネームである。クルーゼ隊を退け、バルドフェルド隊を
壊滅させた。さらにはここ数ヶ月の間でザフトの残党狩りを行っているとの情報を彼らは耳にしていた。

 

「落ち着け! 本当に彼奴らならストライクがいる筈だ!!」

 

 直ぐに周囲を索敵する。ストライクらしき機影は見当たらないが戦闘機らしきものを発見した。その戦闘機
――スカイグラスパーはデズモンドから発艦するアジャイルを次々に落としている。
 当然だ。戦闘機に対して戦闘ヘリでは相手になる筈がない。

 

「くそぉ。ディン、いやインフェトゥスでもあれば制空権を……」
「隊長! 遠方から射げ……グオッ!」

 

 部下の悲鳴に振り向くと、横にいたバグゥが一撃で破壊された。足つきの甲板上からダガーの狙撃を忘れて
いたのだ。まるで新兵がするようなミスを自分がするとは……。
 ダガーの狙撃に気を取られていると、別の方向からビームがもう一機のバクゥを貫いた。
 ラッドはここで初めて冷静さを取り戻した。もう少し早く冷静になっていれば、破壊された両機に何かの影
がかかっていることに気付いていただろう。

 

「これは、太陽の方角か!?」

 

 そうして見上げる。そこには基調カラーが白色にグレーのフレーム。後背部には赤が強調されたウイングを
背負い、右手にはライフル、左手にはシールドを構えたMS――ストライクがいた。

 

「降りて来い! このアレック・ラッドが相手だ!!」

 

 背中のビーム砲をストライクに向け、高らかに宣言する。部下のバクゥも同調してレールガンを構える。

 

「手を出すな! これは私の決闘だ!」
「ラッド隊長。アレはXナンバーです。慎重にかからねば……」
「所詮は試作機、恐るにたりん!」

 

 言い放ち、ラゴゥがビーム砲を放つ。ストライクはアンチビームシールドを構え、牽制射撃を数回行ないな
がら地上に着地すると、全周波で残党軍に呼びかけを行った。

 

『ザフト軍に勧告します。直ちに武装を解除し、投降してください』

 

 それは降伏勧告であった。この勧告にザフト兵たちは騒然となる。

 

『あなた方に勝機はありません。今降伏すれば、それ相応の処遇は認めます。だから投降してください』

 

 デズモンドで指揮を取っていた彼の副官は、冷静にこの事態をどうすべきか、思考を巡らした。

 

(相手は殲滅の意思がない……?)

 

 一方、ラゴゥのコックピットでそれを聞いていたラッドは憤慨していた。ナチュラルがコーディネイターに
降伏を勧告するなど不愉快極まりなく、一層ビームを撃つ手に力を入れた。

 

「お、おのれ。ブルーコスモスの犬がぁ!」
『…………残念です』

 

 ラッドの行動から彼らに降伏の意思がないことを確認し、ストライクはライフルを捨ててサーベルを抜き、
ラゴゥ目掛けて突っ込む。ラッドは慌ててラゴゥの口元に装備されたビームサーベルを展開してストライクを
迎え撃った。それが愚作であるとも気づかずに……。

 

「ぬおおおぉぉぉ!!!」

 

 あわよくば頭を飛ばしてやろうとしたラゴゥの突撃は紙一重で受け止められていた。そのまま押し切ろうと
するが、ストライクのパワーが上なのかビクともしない。これにはラッドも困ってしまった。
 従来のラゴゥの持ち味は高機動戦闘である。砂漠というMSにとって動きづらい環境下での高速攻撃は脅威
に値する。だが、接近戦となるとその持ち味は消滅した。理由はラゴゥが獣型な所為だ。
 サーベルというものは獣が咥えて使うことなど考えられていない。生まれた時から人が持つことを想定して
いる。人型なら上下左右からの斬撃に突きなど、数種類のモーションをプログラム可能。人の動きそのものを
トレースできるのだからこれ程容易なことはない。
 では、獣型はどうだ。
 まず突きができなくなる。サーベルの向きを変えればやれないことはないだろうが、そうなるように体勢を
変えるのはラゴゥやバクゥでは難しい。そう考えれば敵の斬撃を受け止めるのも困難だ。残るは斬る動作だが、
これは相手の間合いに飛び込み刃をぶつけているだけ。いうなれば体当たりに近い。
 結局の所、ラゴゥは砲戦で威力を発揮するのであって、単純な斬り合いには向かないのだ。

 

「ええい! ならばビーム砲でっ!」

 

 埒が明かないのか、背中に装備してある二門のビーム砲をストライクに向け放つ。
 しかしそれを読んでいたストライクは、サーベルの重心を落とすことでラゴゥの体勢を崩す。

 

「私を踏みだ――」

 

 そして相手の頭部を踏み押さえつけ固定すると、その砲身を切り裂き、爆発させた。
 エネルギーの溜まったビーム砲の爆発は大きなものだ。ストライクは後方に下がりつつシールドで爆風をや
り過ごしたが、ラゴゥはビーム砲を離脱させることもできずに爆発に巻き込まれた。

 

「ラッド隊長が……」
「や、やられただと……」

 

 ラッドの戦死にその部下たちは戦意を喪失した。指揮官としては無能なラッドではあったが、パイロットの
腕は砂漠の虎に匹敵すると言われていた。それがいとも簡単にやられては、自分たちではストライクを押さえ
ることができないと悟るしかない。

 

『これで貴方たちの指揮官はもういません。まだ抵抗するのならお相手しますが……?』

 

 戦闘を続行したとしても敗北は必至。かといって降伏するのにも抵抗がある。相手は地球連合軍、もし彼の
派閥がブルーコスモス派だとしたら問答無用で殺されるだろう。奴等は、ただコーディネイターであるという
理由だけで化け物扱いしてくるのだ。
 再びの降伏勧告を聞いた旧ザフト兵たちはどうすべきか思い悩んだ。

 

「本当に相応の処遇を与えられるのか?」
『はい。捕虜として扱います』
「……根拠を聞かせてくれ。上手い誘いに乗って殺されるなら、抵抗して死んだ方がマシなんだ」

 

 この投げ掛けにストライクは黙り込む。暫らくして、思いついたように口を開いた。

 

『僕はコーディネイターです。それを証明することはできませんけど』

 

 これには誰もが驚いた。ブルーコスモス派が大勢を占めている連合軍に、まさかコーディネイターの兵士が
残っているとは……。だが、納得もできた。ラッドがナチュラルに倒されたとは考えたくなかったから。
 ラッドの副官は周囲に目配りして頷いた。どうせなら同胞の手でという思いが皆にはあった。

 

「分かった。降伏しよう」

 

 その言葉を聞いたストライクのパイロット――キラ・ヤマトは、ホッと胸を撫で下ろした。
.
               *     *     *
.
 地球連合が奪還したビクトリア基地に入港するアークエンジェル。
 その格納庫で、報告書を書き終えたキラは、整備中のストライクを眺めていた。

 

「おーい、キラーッ!」

 

 振り向くと両機を勤めていたトール・ケーニヒが歩いてくる。
 ヘリオポリス崩壊から今日まで、キラと共にアークエンジェルに身を寄せている友人だ。

 

「不景気なツラだな。やっぱり捕虜のことか?」

 

 言って憲兵に引き渡した捕虜を思い出す。

 

「うーん。ちょっとね」
「俺らと大して違わない年齢だったよな。まぁ、ナチュラルとコーディネイターは違うのかもしれないけど」

 

 言って、自分の言葉にハッとなる。

 

「悪い、そういう意味じゃないから」
「大丈夫。気にしないよ」

 

 悪気がないのは分かっているので、キラは簡単に流す。

 

「それはそうと今回の作戦、何なのかねぇ」

 

 トールは空の弾薬ケースの腰掛けて、思い出したように言った。

 

「僕もあの人が何でこんな命令を出したのか気になった」
「わけわかんないよな。捕虜を取れなんてさ」

 

 今回の作戦はビクトリアを脱出した敵兵の確保であった。
 ビクトリア基地はプラントが敗北したことで降伏すると思われていた。プラントという後ろ盾がない以上、
ザフトは武装集団でしかなく、殲滅されても文句は言えない。そのために降伏勧告を行ったが、彼らは予想に
反して徹底抗戦を主張してきた。
 プラントを併合したジオン公国は、地上の旧ザフト勢力を管理しなければならない。しかし実際はカーペン
タリアやビクトリアが放置され、ザフトの残党が徹底抗戦を続けている。そのため少しでも多くの捕虜をとり、
ジオンへの交渉に生かそうと上層部は考えていた。
 そこで軍司令部は、アークエンジェルに敵兵の確保を命じていたのである。

 

「大方、ジオンとの交渉材料にするんだろうね」
「政治ってやつか……」

 

 現在、プラントが完全敗北してから3ヵ月が過ぎている。ザフトは解体され、ヤキン・ドゥーエにはジオン
公国宇宙攻撃軍を主力とした占領軍が駐留するようになってた。
 このプラントの敗北は戦争の転機となった。地球連合とジオン公国は休戦したのである。
 連合はこの戦争からプラントが脱落したことで、ブルーコスモス派の発言力が低下。加えて、彼らの多くが
戦争継続派だったことから講和派の力が増した。中には戦争を継続しつつ、プラント殲滅を掲げる者も居たが、
講和してジオンとの交易で設けようと考える者も居た。ブルーコスモス内にも様々な考えを持つ人が居るのだ。
 ジオンもこの戦争が独立戦争と位置づけたことと、ヤキン戦における戦力の低下、プラントの統治や対テロ
対策、そしてなによりデギン公王の一言により休戦交渉を受諾するのだった。
 現在は中立のスカンジナビア王国において、主催国とジオン公国、大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア
共和国らが五カ国協議の真っ最中だ。
 何れにも様々な思惑はあるが、地球圏は一時的な平和を取り戻したのである。

 

「見つけたわよ二人とも」

 

 キラたちが押し黙っていると、マリュー・ラミアス大尉が二人を見つけて駆寄った。
 トールは、またなにか小言か、とでも言いたげそうな顔をする。

 

「なーにその顔?」
「いえ、別に……」

 

 マリューは戦闘が終わるといつも二人に助言をする。無駄撃ちが多いとか、被弾しすぎとか、機体に関する
ことを逐一言ってくるのだ。本人は二人の身(機体)を案じているからこその助言なのだが、トールにしてみれ
ば小言にしか聞こえない。

 

「どうだった。新しいストライカーパックは?」
「良かったです。今までのより出力が段違いで動きやすくなりま……」
「それだけじゃないわ!」

 

 目の色を変え力強く拳を振り上げると、いつものように説明を始めた。
 彼女が説明しているのはエールストライカーの改良型。後に、ジェットストライカーと呼ばれることとなる
高機動空戦パックである。滑空しかできなかったエールストライカーの出力を向上させたことにより、大気圏
内を自在に飛び回ることが可能。ゆくゆくはミサイルを装備させることまで考えて設計されている。

 

「PS装甲を取り込んで防御も万全! これで前みたいにストライカーパックを破壊されることはないわよ!」
「えーと……話はそのことですか?」

 

 このまま放置すれば話を聞くだけで数時間は拘束される。そう感じ取ったキラは、マリューの話を逸らす。
マリューも他に用件があったことを思い出し、渋々ながら説明を中断した。

 

「手紙?」
「作戦前に届いた手紙よ。宛名は貴方のご両親」
「オーブから!?」

 

 差し出された手紙を受け取ったキラは宛名を確認する。確かにそこには母親であるカリダ・ヤマトとあった。

 

「ごめんなさい。作戦前だから渡すに渡せなかったの」

 

 マリューは申し訳なさそうに言う。八・八作戦はオデッサ作戦以来となる地上での大規模な作戦だった。作戦
前に余計な動揺を与えたくなかったのだろう。彼女の性格を知るキラは、その心情を理解できた。

 

「いえ。これで落ち着いて読めます」

 

 礼を言うと、そのまま部屋へと駆ける。マリューの悪い癖が始まる前に……。

 

「あの〜、俺には……」
「ケーニヒ伍長にはありません」
「そうですか……」
「それじゃあ、説明の続きをするわよ!」
「げっ!」
.
               *     *     *
.
 ビクトリア基地に集められたナタルとノイマンは、入ってきた将校に敬礼した。

 

「座りたまえ」

 

 言葉をかけるウィリアム・サザーランド大佐は、彼女らの作戦指揮官だった。

 

「今回のテロリスト捕獲任務を達成したのは君たちだけだった。実に良くやってくれたよ」
「ありがとうございます。大佐、彼らの待遇ですが……」
「悪いようにはしない。それよりも任務だ」

 

 旧ザフト兵など眼中にない態度でナタルに書類を渡す。

 

「まず、目を通せ」

 

 受け取った二人は書類を廻し読みした。それは地球上における勢力図のようだ。
 連合の勢力は青で塗られ、ジオンの勢力圏であるアフリカ北部及びオデッサ周辺地域が赤だ。今回奪還した
ビクトリア基地を別にすれば、ジブラルタルが陥落した以降、大勢に変化はない。

 

「見て分かるとおり、休戦以降、連合とジオンの勢力に変化はない。それはテロリストも同様だ」

 

 サザーランドの指した領域が黄色に塗られている。彼の言うテロリスト――旧ザフトの領域である。

 

「問題なのはインド洋の制海権がテロリストにあるということだ。奴らによって航海中の輸送艦が幾度となく
沈められている。物資の略奪を目的としたな」
「はぁ。つまり、それを我々の手で叩けと?」
「……少し違う。テロリストの秘密基地の探索が君たちの任務だ」
「秘密基地? そんなものがあるというのですか?」
「あるかもしれん。だから君たちに調べてもらう」

 

 しれないだけ。なんともあやふやな話だった。

 

「この略奪行為はインド洋に集中しすぎている。奴らのエネルギー事情を考えれば、わざわざカーペンタリア
やカオシュンから出向くとは思えない。中立国の赤道連合が協力しているのも考えにくい。考えうる可能性は、
無人島の地下か海中に基地を造ったかのどちらかだ」
「まるでコンペキフリートだ……」

 

 ナタルはノイマンの呟きを肘で制し、サザーランドに敬礼する。

 

「了解しました。アークエンジェルはテロリストの基地探索任務に尽きます」
「水中用MSと専門の部隊を派遣する。君たちの健闘を祈る」
.
               *     *     *
.
「しかし分かりませんね」

 

 部屋を後にした二人がアークエンジェルに戻る途中、ノイマンは今回の命令に疑問を口にした。

 

「今回の任務。別に我々で行う必要はありません」
「そうだな……」
「わざわざ専門部隊を派遣して、有るかどうかも分からない基地を探すなんて……」

 

 ノイマンの言うことは理解できた。これらの略奪行為が物資の補給を目的としているならカーペンタリアか
カオシュンを攻めればいい。旧ザフトにとって大部隊を置くことのできる箇所はこの二つしかないのだから、
両方を潰せば略奪をしたとしても意味が無くなる。まあ、行き場を失った彼らが、そのまま海賊に成り下がる
可能性も否定できないが……。

 

「少佐は、何も思わないのですか? アークエンジェルは最新鋭艦なんですよ。それをこんな……」

 

 ノイマンの問いかけにナタルは、少しだけ思考を駆け巡らせた。
 この3ヶ月、アークエンジェルはザフト残党の取り締まりのため第81独立機動部隊として動いていた。今回
の命令も残党狩りと考えれば、今までやってきた命令と変わりはない。だが今回はあまりにも不確定な要素が
多すぎる。
 ふと、ナタルは思いついた。この任務にアークエンジェルを就かせたいのではなく、別の任務にアークエン
ジェルを就かせたくないのなら……。
 そこまで考えて頭を振ると、咳払いをし、考えを頭の隅にやった。

 

「上の判断だ。従うしかない」
「しかしっ!」
「それよりもノイマン中尉、あの時は何を呟いていた? 私語は慎むよう言っておいたが」
「も、申し訳ありません」

 

 ノイマンは、技術尉官であるマリューを除いて、艦長のナタルに次ぐ階級だ。ナタルにしてみればしっかり
してもらわないと困る。

 

「ところで少佐はご存知ありませんか? 架空戦記なんですけど……」
「知らん」
「そうですか。今度、本をお貸ししましょうか」
「必要ない。中尉、君はそういうのが趣味なのか?」
「ええ、まあ」

 

 ノイマンの特殊な趣味を知り、彼との距離を少し開けると、ナタルはアークエンジェルへの歩みを早めた。
.
               *     *     *
.
 自室に戻ったキラはカリダからの手紙を読んだ。そこには、キラにオーブへ戻ってきて欲しい、一度話をし
ようという旨が書かれていた。

 

「戻れないよな、今更……」

 

 手紙を読むにつれて、両親に対する申し訳ない気持ちで一杯だった。思えばオーブに戻った時、会って話を
する暇もなかった。息子を心配するのは、親として当然のことだというのに。
 しかしキラはオーブに戻る気にはなれなかった。オーブという国が信用できないのだ。
 オーブに襲撃が遭った後、キラはオーブのあらゆる政府機関に今一度ハッキングを試みた。国防総省を始め、
国防本部、行政府、内閣府官邸、モルゲンレーテとあらゆる箇所に侵入を試みた。その結果、ヘリオポリスに
向けてオーブ艦隊が出撃したというアズラエルの言葉が、疑念から確信へと変わっていった。
 改めて考えると、理念の内二つがヘリオポリス崩壊には当てはまっていない。
 オーブ艦隊がいたにもかかわらずザフトの攻撃を許し、連合と協力してMSを造っている。

 

『他国に侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入せず』

 

 オーブの理念とは一体何なのだろう。単に戦争にかかわらないことか、それとも民の人気取りなのか……。
 キラは薄ら寒さを覚えた。

 

「……返事を書こう」

 

 兎に角、オーブは信用できない。キラは両親にオーブを出るよう記した手紙を書くのだった。
.
               *     *     *
.
 ビクトリア基地を取り戻した頃、スカンジナビア王国で行われている五カ国協議にマ・クベは出席していた。
地球の美術・歴史等の文化全般に造詣の深い彼は、南極条約でも全権を委任されており、今回の協議ではオブ
ザーバーとして出席している。

 

「これを認めろと?」

 

 各国代表は、ジオン代表から渡された書類を見て驚愕した。

 

「左様。公国はそれ以外の条件を認めません」
「冗談じゃないぞ! 我々の領土を占拠しておいて!!」

 

 ユーラシア代表は怒りに肩を震わせている。大西洋代表や東アジア代表も顔を歪め、スカンジナビア代表は
押し黙っている。ジオン代表が渡した講和条件は誰もが怒りを覚える内容だった。
 その条件とはジオン公国の独立、賠償金の支払いを始め、現在ジオン軍が占領下にある地域をジオンの領土
とするといった内容だった。

 

「ユーラシア連邦はこのような条件を認めない!」
「そうアル! 新星を返すアル! 謝罪と賠償もアル!」
「……一つよろしいかな?」

 

 ユーラシアはオデッサを中心とした一帯を、東アジアはソロモンとなった新星をジオン軍に奪われている。
大西洋連邦は直接的な侵攻を受けていないので黙っているが、一つだけ気になることがあった。

 

「それはプラントも含めているのかね?」
「無論だ」

 

 これには大西洋代表も憮然となった。連合にとって最も重要なのはプラントの存在だ。
 本来プラントは研究コロニーであった。それが大西洋連邦、東アジア共和国、ユーラシア連邦が出資し拡大。
大規模生産基地としての意味合いを持つようになりプラントと名を改めた。以後プラントへの投資は継続され、
やがて、“プラントで作れないものはない”とまで言われるようになっていた。
 つまりプラントが失われれば、資源は勿論、画期的な技術も搾取もできなくなる。安い価格で資源と技術を
得られるプラントは格好の植民地なのだ。それを失うのは理事国は承認できない。

 

「プラントは、理事国が投資して造られたものだ。それすら奪うとなると、講和は難しくなる」
「では戦争を継続するだけです」
「望む所だ!」
「その前に謝罪と賠償アル!」

 

 いきり立つ連合側。議論が悪い方向に傾きつつあった。

 

「待て! もう少し冷静に……」

 

 スカンジナビア代表のリンデマン外相は必死に場を収めようとする。

 

(茶番だな)

 

 マ・クベはその光景を見下すような目で見ていた。
 遠めで協議を見ていれば、連合側、ジオン側共に講和の意思がないことがハッキリと判るのだ。
 ユーラシアは直接被害が大きい所為でジオンと抗戦を続けたい。東アジアは自分たちのことしか頭にない。
唯一、大西洋が講和に前向きだが、プラントの利権だけは手放したくない。それにブルーコスモスのシンパは、
プラントを破壊するまでは戦争を続けたいだろう。こうして見ると連合の足並みは全く揃っていなかった。
 ジオン側もだ。交渉の席には着いたが姿勢だけ。譲歩を一切せず、到底通る筈のない条件を突きつけている。
マ・クベならば多少譲歩しつつ話を進めるが、ギレン総帥が送り込んだ代表は己の主張をするに終始している。

 

(結局は互いに時間稼ぎか)

 

 戦争のための準備期間。それがこの一時的な平和の正体であると、マ・クベは見抜いた。

 

(だがこのまま戦争を再開すればジオンは負ける。それをギレンやドズルは理解しているのか?)

 

 プラントが敗北してから3ヶ月。ジオン本国は軍事面で大規模な改革を行った。突撃機動軍を解体し、地上
に降りていた宇宙攻撃軍と突撃機動軍の部隊を“地上攻撃軍”としたのである。
 司令官はガルマ・ザビ中将。マ・クベ中将が参謀長となり、その下にダグラス・ローデン准将、ユーリ・
ケラーネ少将、ノイエン・ビッター少将、ウォルター・カーティス准将らが名を連ねる。
 これにより今まであった複数の指揮系統が一本化され、ジオンの強さは強固なものになる――筈だった。

 

(ガルマ様の受けた傷は深い。それをどうにかしなければ我らの勝機は無いぞ)

 

 一人考え込む中で、目の前の茶番劇の続きは後日に持ち越されることになる。