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Zion-Seed_51_第二部第10話

Last-modified: 2008-08-15 (金) 19:56:39

「アデス隊長はどうお考えです!?」
「イザーク。少し落ち着け」
「奴はプラントを攻撃したんですよ。許されることではありません!」

 ヴェサリウスの艦橋で、アデスとイザークが押し問答していた。アッシュ・グレイの一件である。
 アッシュの率いる特殊防衛部隊。それは宇宙に巣くうザフト残党軍の中の一派。プラント解放戦線のように
終戦時の混乱に紛れて身を潜めた部隊ではあったが、他の残党軍と最も異なる点があった。それは隊長である
アッシュが殺人狂ともいえる性格であったのだ。
 先日アッシュが起こしたマイウス市襲撃事件は、ギレンの命によって直ぐに公開され、多くのプラント市民
に衝撃を与えた。今までプラントを防衛していたザフトが、平気で弓を引いたのだ。特にアスランとアッシュ
の通信内容が公開されると、プラント解放を信じていた多くの人々がパニックを起こす。その内容が明らかに
殲滅を意図していたものである事実が公表されてしまったのだ。
 市民の反応を見たギレンの対応は早かった。早々にテロには決して屈しないとの演説を行って民の心を掴む。
しかも演説の中でアスランを絶賛し、真にプラントを考えているのはジオンに入隊した元ザフト隊員であると
言い切ったのだ。おかげで、売国奴扱いされていたアスランは、一転して英雄へと立場を戻した。アッシュの
言葉が全てをひっくり返したのである。
 そしてギレンは卑劣なザフト残党軍を最後の1人に至るまで狩り尽くせと命令した。明らかな人気取りだが、
その効果は抜群だった。プラント市民はギレンの演説に酔いしれ、軍に志願する者が急増するのだった。
 この事態に多くの兵がアッシュに反感を懐いた。プラントを侵略者から解放する。皆がそう考えていたのに、
いつの間にか悪者にされている。彼等にしてみればたまったものではない。
 誰もがアッシュを排除すべきとの声を上げた。しかしウィラードはそれらの意見を突っぱね、処分を無期限
の出撃禁止措置に留めた。これには兵士達の不満が大きかった。イザークもその1人である。

「何故ウィラード閣下はあのような者をお加えになったのです。奴からは狂喜が感じられます」
「仕方がない。我らが合流するまで、あの男は拠点を護っていたのだ」
「それは理解できます。しかし納得できません!」

 イザークにとってアッシュとは憤激の対象であった。皆がプラント奪回の為に心身を削る思いで日々を過ご
しているにも拘らず、あの男は命令を逸脱した行為を続けている。それは怒りを通り越し、殺意すら覚えた。

「君の考えは皆が感じている所だ。しかし、仕方がないのだよ」

 ところが解放戦線はアッシュを切る事ができないでいた。それは彼の乗るMSリジェネレイトが核を動力源
にしているからである。核分裂を搭載したMS、それは解放戦線にとって虎の子で失うわけにはいかないのだ。
ならばアッシュをパイロットから外せば良いのだが、リジェネレイトはMSとMAの特性をあわせ持った特殊
な機体だ。そんな機体を完全に乗り回せるのはアッシュしかいない。

「もうすぐサトー隊長も合流する」
「サトー隊長が戻られるのですか!?」

 ザフトでも有名な武人の名にイザークの心が踊る。

「テスタメントが完成したのですね」

 テスタメントとは、リジェネレイトと同じように核分裂を搭載したMSである。これはザフトが強奪に失敗
したストライクを参考に開発された。リジェネレイトと共にロールアウトし、実働試験を兼ね施設の防衛部隊
に配備されたが、各種オプションは完成に至っていなかった。
 これを受けてジャンク屋組合に専用の兵装を造らせていた。サトーはそれを取りに向かっているのだ。

「ああそうだ。サトー隊長とテスタメントが戻れば、アッシュとて好きな事はできない。それまでの辛抱だ」
「……分かりました」

 言っている間にヴェサリウスは、半壊して、外板の至る所が欠落した廃棄コロニーの近くまで艦を進めた。
コロニーの周囲には無数の太陽電池板、建設用資材、水素タンク等がデブリのように浮かんでいる。

「帰還信号を」

 アデスの合図でヴェサリウスから発光信号が出される。するとコロニーの一部が扉のように開放されていく。
内部には多数のナスカ級戦闘艦、ローラシア級MS母艦が鎮座していた。それはコロニー自体が一つの係留地
となっている。
 そのコロニーからやや離れた位置に、円盤状の巨大なミラーと尖塔状の小さなミラーが浮かんでいた。
 ヤキン・ドゥーエに設置されたジェネシスの試作運用型“ジェネシスα”。
 それが地球圏に残留するザフト残党軍の最大組織であるプラント解放戦線の拠点となっているモノだった。
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――――第2部 第10話
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 宇宙で様々な思惑が渦巻いている中、大西洋連邦ではアズラエルが怒りに震えていた。

「もう一度、言ってくれませんかね」
「オーブは申し出を拒否しております」
「…………」

 アズラエルは、オーブ領海を通過できるよう、再三に亘ってアスハ家と交渉を続けていた。だが、アスハ家
は理念に反するとして、連合の要求を拒み続けていたのである。

「期待を裏切らない人だとは思っていましたがこれ程とは……」

 アズラエルは何度もテロとの戦いは理念には反しないと説得を続けたのだが、オーブは遂に首を縦には振ら
なかった。これにはアズラエルも我慢の限界である。
 彼は常に冷静で的確な判断力を身に着けているが、元は短気な性格だ。ここまで自分の思惑に外れた行動を
するのなら、最早遠慮は無用、強弁な姿勢を取るしか道はない。こちらもボランティアでブルーコスモス盟主
や国防産業連合理事をやっているわけではないのだ。

「フフフッ。さぁて、どうしてやりましょうか」
「手短な所で、関税の引き上げなどどうでしょう?」

 サザーランドは、頭に血が上りつつある盟主に、当たり障りのない意見を述べた。経済的にオーブを干上が
らせる事で屈服させるのだ。軍事制裁のほうが手っ取り早いが、ジオン地上軍は強力である為、あまり戦力を
消耗させる気にはならなかった。しかし――

「テロ支援国家として制裁を加えるのもいいですねぇ」

 アズラエルは平然と軍事制裁を決断する。

「アズラエル様、中立国を攻めるのは対外的にいかがなものかと……」
「何を躊躇うことがあるのです? 中立国なんて他にもあるじゃないですか」

 オーブの他にもスカンジナビアや赤道連合などが中立を保っている。ただオーブと違うのは、自国の領土内
を通過する程度は認めている事だ。これは過去の中立国家ベルギーがフランス侵攻時の通り道とする為、二つ
の世界大戦に亘ってドイツ軍により中立を侵犯され占領された教訓から、始めから領土内の通過を認め、ある
程度の中立は保つという考えなのだろう。
 これに対してオーブが進んでいる道はスイスだ。彼の国は第二次世界大戦中においても中立を維持するため、
連合国、枢軸国どちらにも与せず、領空侵犯してくる軍用機に対しては、陣営、目的を問わず迎撃する措置を
執った。正にオーブが現在行なっている政策である。また自国の兵器を他国に売り、利益を得る所も似ている。

「そうです。攻め落とすんです。そしてマスドライバーもモルゲンレーテも手に入れるんです!」

 こうなってはアズラエルを止める術はない。サザーランドは気分屋な盟主に困りつつ、真珠湾の太平洋艦隊
に連絡を取るのだった。
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               *     *     *
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「ガルマ様、おめでとうございます」
「取って計ったようなタイミングで現れるな参謀長」

 同じ頃、カオシュン基地の執務室では、ガルマがジブラルタルより駆けつけたマ・クベと談義を行っていた。

「たった一個旅団の戦力でカオシュンを落とすとは……流石と言わざるおえませんな」

 そう、カオシュン攻防戦はジオン軍の大勝利で幕を閉じた。ザフト残党は抵抗らしい抵抗すら出来ずに降伏
したのである。ジオン軍の損害は皆無といってよく、その強靭さを世界中に知らしめた。
 カオシュンを確保する事により、東アジアにおけるザフト残党は一掃される事になった。おかげで東シナ海
からインド洋、紅海、地中海のシーレーンが確立、物資の輸送が大分楽になった。またマスドライバーも無傷
の状態で確保できた。現状で使う機会はないが、連合の手に渡らなかっただけで良いといえる。

「私は昔、一個中隊で一個連隊を武装解除したことがある。あれに比べれば驚く必要はない」

 ガルマはジブラルタルやラガシュと同じ戦術でカオシュンを落とした。ようするに基地司令部の制圧である。
少数の兵で多数を相手するにはこれ以上の策はない。特にザフトの弱点は指揮系統にあるのだから、嵌まれば
大きな効果を得るのだ。

「ですが連合に対しては同じ策は通用しないと考えるべきです。ガルマ様の活躍は連合に知られているのです。
当然、戦術は分析されているでしょう。できるなら大軍を指揮していただかねば……」
「そうだな、敵より多数の兵力を整えることが用兵の根幹だ。少数をもって多数を破るのは、一見華麗ではあ
るが、用兵の常道から外れている」
「素人のウケはよろしいでしょうがな」

 「まったくだ」と笑いながら答えるが、直ぐに真剣な顔になる。

「ところで、例の作戦なんだが」
「9割方、準備は完了しております」
「残りの1割は?」
「赤道連合の動きです。あそこは昔から宗主国同士が対立してますので」
「独立に介入してくるかもしれないわけか」

 ガルマが話す作戦とは、東アジア共和国の工作についてだ。ジオン軍は日本を筆頭にした東アジア共和国の
独立派と接触しており、支援の手を差し伸べているのである。ギニアス・サハリン少将とノリス・パッカード
准将が中心となって、MSの提供、技術支援、パイロット育成に力を入れていた。
 もしこれらの独立派が一斉に声を上げれば、東アジアは内戦に突入し、ジオンと戦争どころではなくなる。
そうなれば連合の生産力の半数が封じ込める事が可能だ。

「実行に移されるのですか?」

 東アジアを放置しては折角のシーレーンも使えなくなる。できるなら先手を打ちたいが、あまり早すぎれば
戦争再開が引き伸ばされる。仕掛けるタイミングを間違えれば無意味なものになりかねない。
 ガルマは暫し考え込んでいると、背後から何者かの襲撃を受けた。

「見つけたぞガルマ!」
「な、なんだ、残存兵か!?」

 いきなり背中から蹴りをいれられたガルマは危うくつんのめて倒れそうになる。ガルマは体勢を立て直し、
相手の正体が分かると、こめかみを震わせながら振り返った。

「カガリ、君は人に声をかける時にタックルを仕掛けるのか?」
「お前がいつも逃げるからだろ!!」

 ガルマを襲ったカガリは悪びれる様子もなく手を腰に添えた。

「カガリ、私には仕事が――」
「私は何時オーブに戻れるんだ!?」
「――うん、聞いてないな。思いっきり……」

 ザビ家の御曹司を背後から蹴り倒すなど、カガリぐらいしかやらないだろう。何しろ彼女はオーブのお姫様
なのだ。ガルマと自分は同格だと思っているのか。一歩間違えれば外交問題に発展するのに……。
 まったくもってカガリの傍若無人ぷりには悩まされる。ガルマは呆れ果てた顔でそう思っていた。
 一方でマ・クベは、じゃれ合う2人を冷静に観察しながら、オーブ攻略の策略に頭を働かせていた。
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               *     *     *
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 ガルマ親衛隊は街に繰り出してささやかな戦勝会を行っていた。なにせ親衛隊が結成してからというもの、
戦争は休戦状態になり、ガルマの無気力化が重なって、出番のない毎日を送っていた。しかもシーマ海兵隊や
G-27部隊の悪評もあり、軍内部では隊を疑問視する声もあった。それがカオシュン陥落を成し遂げたのだ。
何よりガルマの復活が元突撃機動軍や元ザフト地上軍の士気を上げた。前者からはキシリアの後継者として、
後者からは自分達を負かせた宿敵として……。
 カオシュン基地攻略の立役者はシーマ海兵隊とグリンウッドの指揮下にあるG-27部隊だ。両部隊ともならず
者で構成されたいるが、両者とも激戦区を渡り歩いており、その戦闘能力は1個連隊で1個師団に匹敵すると
言われている。この2部隊が司令部占拠と陽動を其々行ない、勝利に貢献したのである。

「おーっと、ご両人。何とか生き残ったようだなぁ」

 両部隊の活躍を一番に喜んでいたのはグリンウッドだ。正確には、部下であるジャニス・マコンネル中尉と
トーマス・クルツ少尉が生き残った事に対しての喜びが強かった。2人はG-27部隊の隊長と副隊長で、白兵戦、
MS戦共に優秀な軍人である。

「みんな聞いてくれぇ〜。おらぁ見ちまったんだ。教会でチョメチョメしてる2人をよぉ〜!」
「ちょっ、中佐!!」

 既に出来上がっているグリンウッドは、2人の関係を躊躇いもなくばらした。それを知った荒くれどもは、
ニヤつきながら生還を祝う。作戦前に告白したり、仲良くするカップルは殆どが戦死してしまう。それを生き
残ったのだから、余程運に恵まれているのだろう。2人のコップには次々と酒が注がれる。
 2人とも顔を真っ赤にしながら、酒が注がれたコップを傾けた。

「確かぁ口紅をプレゼントしてたなぁ」
「し、中佐、酔いすぎです。今水を……」

 付き合ってるのが知られても、あまり動揺はしない2人だが、それ以上をばらされるのは恥ずかしい。必死
に静止させようとする2人だが、それとは裏腹にグリンウッドの口は軽くなっていく。
 そんな誰もが飲んで歌って馬鹿騒ぎをしているのを横目に、シーマは少し離れた席でグラスを傾けていた。

「いいのか? お前も混ざらなくて」
「ロイの旦那が出来上がってんだ。まともの奴が一人はいないと、安心して飲めないだろう」
「部下思いなのだな」
「そ、そんなんじゃないよ」

 おどけて肩を竦めるラルに、シーマは照れながらグラスに口をつける。

「しかしロイの奴、あんなに酒癖が悪かったのか」
「フラグ全開の2人が生き残ったんだ。嬉しいのさ」

 調子に乗ったグリンウッドが茶色い液体――おそらくウイスキーの一気飲みを始めた。順調に胃の中に流し
込んでいたようだが、途中、飲むのをやめると、良いのを貰ったボクサーのようにテーブルへ倒れこんだ。
 グデングデンになるグリンウッドを見て、シーマが呆れた顔をする。

「ありゃあダメだね……」
「ああ……ところでシーマ、少し話があるのだが、いいか?」
「いいけど。何だい、あらたまって?」

 人気の無いカウンターの隅へと2人は席を移す。

「それで、話って?」
「この手紙をハモンに渡してくれんか」

 手紙はアルテイシアことセイラから頼まれたキャスバルの探索に関することだった。現状で動けない自分に
代わり、ジブラルタルに残した内縁の妻クラウレ・ハモンに探らせようとしたのだ。彼女は民間人ではあるが、
情報屋としての腕は確かで、キャスバル・アルテイシア兄妹のジオン脱出にもかかわっている。

「ノロケかい。そういうのは自分でやりな」
「緊急の用事なのだ。ワシはオーブまでガルマ様の護衛をしなければならん」
「だから私かい?」

 グリンウッドに頼んでも良かったが、あの様子ではジブラルタルに着く頃には忘れているだろう。
 シーマは自分がガキの使いをやらされるのは不満ではあったが、ラルは軍内で信用できる数少ない人物だ。
それに名も売れている。後々の為にも借りを作っておいたほうがいいと判断した。

「変わりにワインの一杯は奢ってもらうからね」
「それで済むなら安いものだ」

 そう言って上等な一本を頼み、其々のグラスに注いでいく。

「で? ハモンさんへのラブレターには何て書いたんだい」
「勝手に読むなよ。重要なものなんだ」
「そういうふうに言われると読みたくなるのがサガってもんさ」

 シーマは冗談交じりに言うが、ラルの真剣な表情のままだ。

「そんなに重要なのかい?」
「そうだ」
「どれくらい?」
「聞くな!」

 断固として語らないようだ。やれやれと言いながら、シーマはそれ以上の追求をあきらめた。
 この後、ようやく仕事を終えたシュマイザーのフェンリル隊が合流した。ラガシュ攻略と合わせた報告書を
作成していたので合流が遅れていたのだ。

「相変わらず仲の良いな、ご両人」
「それはロイの部下に言ってやんな」
「ほれ、お前の為に取っておいたスコッチだ」

 振り向いて騒動を見ながら、納得したように席につくと、ラルがグラスに注いだウィスキーを受け取った。

「なにか面白いニュースはあるか」
「そうだな、バルトフェルドが親衛隊に入るらしい」
「本当かい!? 勘弁しとくれよ……」

 彼女は差別主義ではないが、前まで命のやり取りをしていた相手が上官となると仕事がやり難くなる。

「優秀な副官が欲しいんだとよ。こいつは美味いな、もう一杯、こいつの奢りで」
「シュマイザー……」
「ハモンさんには黙っておいてやるから」

 渋い顔をするラルを尻目に、シュマイザーはグラスを傾けた。

「しかし、随分と早く立ち直ったな。ガルマ様は……」
「そうだな。バルトフェルドのおかげだ」

 2人は、インド洋でのガルマの立ち直りは予期していなかった。当初はカオシュン基地を攻略させ、戦場の
空気からガルマを本来の状態に戻そうと画策していたのだが、バルトフェルドが渇を入れて立ち直らせるとは
思わなかった。それも昔にラルがやったのと同じ方法で。

「ワシが同じ事をしても効果は無かったろうな」
「これも参謀長殿の謀なんだろうな。きっと」
「普通の神経をしていれば、元敵兵を欝になった司令官の横にはつけんからな」
「お見事と言うべきなのだろうな。気に食わんが……」

 こうしてその日の夜は更けていった。
 しかし次の日、二日酔いの痛みが吹き飛ぶほどの衝撃的なニュースが発表される。それは大西洋連邦大統領
が緊急声明を行い、オーブ連合首長国をテロ支援国家として名指しで批判したのである。
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 ガルマの執務室にマ・クベとバルトフェルドが出向き、更に当事者ともいえるカガリとキサカも呼ばれていた。
厳しい表情のカガリを前にしてマ・クベが連合の発表文を読み上げる。

「要求内容は以下のとおりです。現政権の即時解散による新政権の誕生、テロリストの情報開示、テロリスト
撲滅への協力体制、オーブ軍港使用許可……返答は48時間以内との事です」

 これは降伏勧告であり、間違いなく最後通牒であった。オーブへの宣戦布告である。

「あのウズミ氏です、要求は受け入れないでしょう。戦争が起こるのは避けられない。そしてオーブの勝利は
ありえません。連合とオーブでは戦力差が大きすぎる」
「なんとも……やってくれましたなぁ」

 場を和すつもりなのだろうか、バルトフェルドは笑いながら言う。

「笑い事じゃないだろ! 一体何なんだよ、これは!!」
「連合は痺れを切らしたのでしょう」

 動揺するカガリを余所に、マ・クベが厳然たる事実を述べる。

「連合は幾度に亘って交渉していたようです。内容はオーブ海域の通航許可、カーペンタリアを攻めるつもり
なのでしょうな、ところがウズミ前代表が提案を蹴ったようです」
「当たり前だろ! オーブには理念があるんだ。許可なんて出るわけがない!!」
「そうとも限らないんじゃないか」

 怒気に反論するのは、なんとガルマだ。

「これを読むかぎり、連合側の言い分は筋が通っている」

 他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。オーブの理念は、どれも他国間で生じる
ものであってテロリスト相手の政策ではない。連合からテロリスト殲滅の協力を打診された時、それを断れば
いらぬ疑いがかかるのは当然の事だ。

「オーブ政府は素直に謝罪するしかないんじゃないかな」
「ガルマ! お前、私の味方じゃないのか!!」
「私は客観的な意見を述べただけだよ」

 冷酷なように聞こえるが、これはオーブの自業自得だ。自分で自分の死刑執行書に判を押したといえる。

「な、なあ、何かいい手はないのか。ジオンがオーブを護るとか」
「そりゃあ無理だ。これは連合とオーブの問題で、攻め込む大儀もある。ジオンは関われないよ」

 当然の如くカガリの意見はバルトフェルドに一蹴される。

「いや、同じ大儀で我が軍がオーブを攻める事はできる」

 ギレンがテロ対策を強化すると演説したのはつい最近だ。オーブがテロ支援を行なっているなら攻める口実
になる。地上軍を動かすのに時間は掛からないだろう。

「連合に負ければ、オーブは良い様に利用されるのが落ちでしょう。我が軍、正確にはガルマ様に降伏すれば、
そのような事態は起きません。国家としての存続も許されるでしょう」

 ――ジオンにとって都合のいい国として……。
 マ・クベは都合の悪い事は言わなかった。

「なるほど。そんな手もあるね」
「そんな事、許せるわけないだろう!!」

 その言葉にカガリは力一杯首を振った。
 仮にオーブがジオンに降伏すれば、他国の侵略を許した事になる。つまり理念は破られるのだ。

「何か手はある筈だ! 何か別の――」
「残念だが、私には君をオーブへ帰す事と、ジオンで保護する事しかできない」
「……そんな……」

 懸命に模索するカガリであったが、ガルマの非情な言葉に涙を流した。
 王手、チェックメイト。
 思い浮かぶのは、そんな言葉だけだった。最早カガリは、亡国の姫となるしか道は残されていない。

「もう一つ手はあります」

 しかし、絶望に打ちひしがれていたカガリに、希望の手を差し伸べた人物がいた。
 マ・クベ中将である。 

「この手を使えば、連合が攻める口実はなくなる。更にオーブの理念も保たれます」
「な、何だ、その手段は!? 教えてくれ!!」

 藁にもすがる思いで、カガリはマ・クベに頭を下げる。

「要求を受け入れるのです」
「そんなのは無理だ! お父様が受け入れる筈がない! 第一、お前が自分で言ってたじゃないか!!」
「そのとおりです。ですから――」

 マ・クベから発せられた言葉は、この場の誰もが耳を疑うものだった。

「カガリ様がクーデターを起こすのです」