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Zion-Seed_51_第二部第14話

Last-modified: 2008-10-02 (木) 23:05:37

 宇宙要塞アルテミス。ここには第七、八艦隊を中心とした連合宇宙軍の残存艦が集っていた。
 パナマ基地のマスドライバーが破壊されて以降、要塞への戦力供給は停止し、少ないMSと型遅れのMAで
護らなくてはならない状況に置かれていた。だが、戦争が休戦状態になり、ビクトリア基地を奪還したことで
マスドライバーを奪取、艦隊再建の目処が立った。少しずつではあるが、艦艇が集まりだしたのである。現在
は第一、二艦隊の再編に要塞は大忙しだ。
 そんなアルテミスの第七機動艦隊にはドミニオンが配備されていた。ムウにはガンバレルパックを装備した
ストライクが、そしてモーガンにはイージスが回された。このイージスはムウが使っていた試作機ではなく、
実戦データを元に改修された機体で、問題点であった燃費の悪さが幾分か解消されている。
 また部隊には新たなパイロットと共に最新鋭の機体ダガーLが配備された。ジオンのゲイツやゲルググには
105ダガーで対抗出来るが、この機体はオデッサで大半を失っている。アークエンジェル隊のような一部の
部隊に配備されていても、多くの部隊は今もストライクダガーだ。しかし、この機体だとジンやザクの相手は
出来るが、シグーやザク改には苦しい。よってこれらを打倒しうる新型が求められ、それに答えたのがダガー
Lであった。性能は105ダガーより若干低下するも、生産性を大幅に改善している。
 これでアルテミスには最新鋭の艦艇とMSが配備される事になったが、地上から上がったパイロットは宇宙
に慣れておらず、一から鍛え直さなくてはいけなかった。

「まだまだ烏合の衆だな」

 ムウが不機嫌そうに言った。行っている訓練内容が芳しくないのだ。

「ワインやウイスキーと同じだ、いい味が出るまで時間がかかる」
「そのワインやウイスキーに飲まれないよう、お気をつけてください、少佐」
「そいつは大丈夫だ。俺は今、君に会えて夢心地だから」
「…………今日の訓練はこれで終わりにします」

 ムウのアプローチに無視して答えるのはメリオル・ピスティス大尉である。彼女の所属する特務部隊Xは、
開戦時から研究していたMS戦術のノウハウを新兵教育に生かしていた。彼女らのようなベテランが、新兵の
訓練を行わなくてはならないのがアルテミスの現状であった。

「帰還するのか? あまりにも短いんじゃないか?」
「しょうがないだろう」

 モニター越しに言い合うのはカナードとモーガンである。2人はアグレッサー部隊のような役割で新兵達の
ダガーLと模擬戦をしていた。カナードの乗る最新鋭MS"ハイペリオン"がダガーLの攻撃を一挙に引き受け、
モーガンが変形機構を持つイージスを手足のように扱い部隊をかき乱す。この攻防一体の戦術に、ダガーLは
撃墜判定を受けた。

「あまりやりすぎても、俺達との実力差に、皆が自信を無くすだけだ」
「それを無くす為に訓練をするのだろう」

 愚痴るカナードと諭すモーガンが帰還すると、2人にメリオルが声をかける。

「カナード特務兵、被弾率が高くなっています。ハイペリオンとて無敵では有りませんので……」
「そんなことは分かっている!」

 カナードの乗機ハイペリオンは、ユーラシア連邦が開発したMSだ。ユーラシア連邦の得意技術である光波
防御帯シールド"アルミューレ・リュミエール"を搭載し、これを用いた独自の戦術の運用が可能だった。この
絶対防御壁にカナードは絶対の自信を持っていたのだ。

「それよりも――」

 カナードはムウを指差すと、怒気の篭った叫び声を挙げる。

「ムウ・ラ・フラガ、俺と勝負しろ!!」
「……またかよ……」

 ムウはいい加減にしろといった感じで呟き、ウンザリとした表情を見せる。
 カナードは、その出生上、キラに異常な対抗心を持っている。何時の日かキラを倒し、自分が真のスーパー
コーディネイターであると証明すべく努力しているのだ。ところが2ヶ月程前にアルテミスへ赴任したムウが、
その存在意義を根底から覆してしまった。
 切っ掛けはカナードの同僚バルサム・アーレンドがムウに絡んだ一件だ。バルサムは"アルテミスの荒鷲"と
自称するパイロットで、シミュレーションで7機撃墜の記録を有していた。"エンデュミオンの鷹"ことムウに
対抗心を燃やしており、ムウがアルテミスに赴任するなり自信満々で勝負を挑んだのだが、結果は返り討ち。
見事なまでにフルボッコにされてしまった。
 当初は2人の勝負に関心が無かったカナードであったが、ムウの実力をまざまざと見せつけられると、彼の
闘争心に火が付いた。放心状態になっているバルサムを無視し、ムウに挑戦したのだ。
 ナチュラルとしては強い部類に入るムウだが、スーパーコーディネイターであるカナードが負ける要素など
何処にもない。カナードだけでなく、場にいた特殊部隊Xの隊員達はそう考えていた。ところが結果は誰もが
目を疑うものだった。ムウが勝ったのである。
 この勝負は、同条件にする為に機体をストライクで固定し、ストライカーパックだけを各自で選んでいた。
カナードはエールパック、ムウは新しく開発されたガンバレルパックを選んだ。そして勝負が始まると、ムウ
のガンバレルにカナードは対応できず、終始翻弄されて敗北したのだ。
 自分が負けたのはストライカーパックの所為だと納得しなかったカナードは、互いの機体を取替え、二度目
の勝負を行った。だが、今度はカナードがガンバレルを扱えず、あたふたする間に落されてしまった。
 ――スーパーコーディネイターである筈の自分がナチュラルに敗北する。
 この事実はカナードの自尊心を傷つけ、キラよりもムウを倒す事が彼の第一目標になってしまったのである。

「さあやるぞ! 今やるぞ! 直ぐやるぞ!」

 カナードの要求に困ったムウだったが、新兵が戻ってきたのを見ると、逃げるようにそちらに駆けて行った。

「悪いな、新米どものレクチャーが残ってるから……おーい、お前らー」
「コラ、待て!!」

 頭から湯気を出して怒るカナードを尻目に、ムウは新兵達に駆け寄り助言を与えている。そのうちの1人が、
"ウェーイ!"という叫び声を上げてムウの腕に抱きついた。
 このほのぼのとした光景をメリオルとモーガンは呆れながら目にしていた。

「我々の部隊がこんな様子でいいのでしょうか?」
「さあな」

 ともあれ、アルテミスは平和である。
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――――第2部 第14話
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 大西洋連邦本土で休暇を満喫していたアークエンジェルの面々は、少将へと昇進したサザーランドの命令で、
オーブのオノゴロ島軍港へと入港した。
 オーブがコトー政権になると、連合の要求の一部を新政権は受け入れた。すなわち、オーブ領海の行動制限
を解いたのだ。これで連合軍は、ハワイから最短距離でカーペンタリアを攻めることが出来るようになった。
またコトー政権は、オーブの失態と混乱を陳謝する意味合いを含め、軍港での補給も申し出たのだ。おかげで
港には第4洋上艦隊こと太平洋艦隊の艦艇が並んでおり、それぞれが補給作業に従事していた。
 そんな太平洋艦隊旗艦"パウエル"へやってきたナタル、マリュー、ノイマンの3人は、サザーランド少将の
出迎えを受ける。サザーランドはカーペンタリア攻略の総指揮官であった。

「君達の活躍のおかげでインド洋は連合の勢力下となった。君達にもう少し休暇を与えたかったが、カーペン
タリアはテロリストどもの最後の砦だ。是非、ラガシュを落とした君達の力が欲しい」

 サザーランドに促がされ、ナタル達は宛がわれた椅子に腰掛ける。全員が座ると作戦図が広げられた。

「カーペンタリア攻略作戦、正式名称"9・9作戦"の概要は、先のビクトリア攻略と同じだ。地球軌道上から
奇襲を仕掛け、その後に揚陸艦でカーペンタリア基地に上陸する」
「ということは我々もビクトリアと同じように……」
「それだけではない。君達は揚陸艦の護衛と遊撃任務にも付いてもらう」

 つまり、アークエンジェルは太平洋艦隊と共に南下、真っ直ぐにカーペンタリア基地を目指す。そして揚陸
艦を援護しながら、自身もカーペンタリアに上陸し、遊撃部隊として動いてもらう。さらには基地を放棄した
残敵の処理も行えというのである。確かに護衛艦等では海岸近くまで随伴や残敵処理は難しい。今回のような
護衛や遊撃はアークエンジェルに最も適した任務だろう。だが、これでは与えられる役割が多すぎる。

「何か質問は?」
「2つほどよろしいでしょうか」

 説明を聞き終えたマリューが不安な顔をする一方で、ナタルは怯むことなくサザーランドに対した。

「何かな?」
「まず、この任に就くのは本艦のみなのでしょうか」

 ナタルにして見れば、ヘリオポリスやオデッサに比べて、今回の任務は困難ではない。どんな命令であって
もやり遂げる自信もある。けれどもリスクは極力減らしたい。

「もう1つの質問と合わせて聞こう」
「……我々に招集をかけた理由です」

 軍人である以上、命令を受ければ何処へでも向かう覚悟はある。しかし、今回は突然すぎたのだ。予定では
1ヶ月の休暇を貰えていた筈なのが、僅か1週間で"勤務に戻れ"では、上で何かあったのかと勘ぐりたくなる。

「2つ目から答えよう。今回の作戦に、盟主と対立する勢力が介入したのだ」
「それと我々と、どんな関係があるのです?」
「最後まで聞きたまえ。ジブリールというのだが、奴が"君達と同じような部隊"を寄こしたのだ。この作戦で
活躍し、"ナチュラルの力"を世界に見せ付けると息巻いている」

 つまりブルーコスモスの強硬派が、キラを連合から追い出そうと部隊を送り出してきたらしい。その部隊は
アークエンジェルと同じ護衛・遊撃任務に就いているそうだ。

「知ってのとおり、准尉の立場は微妙だ。盟主という後ろ盾があるから今までやってきたと言えよう。奴は、
そんなアズラエル様のやり方に不満でね。アズラエル様を蹴落とし、自分が盟主になろうとしているのだ」
「隙を見せるな、というわけですか」
「そのとおりだ、バジルール少佐。今作戦は今まで以上の活躍を期待しているよ」

 サザーランドの説明に不満の残るナタルだったが、これ以上は印象を悪くするだけだと考え、追求をやめた。
 ――迷惑なものだ。私達はブルーコスモスではないというのに……。
 サザーランド以外、誰もがそう思う中で会議は終了する。

「少将は本気なのでしょうか?」
「本気なのでしょうね。私達は道具じゃないっていうのに……」

 ハルバートンを支持していたマリューにしてみれば、自分達がブルーコスモスの派閥闘争に利用されている
ことが気に食わないようだ。

「でも皮肉ですね。ブルーコスモスの盟主が自分の地位を守るためにコーディネイターである准尉を頼ってる」
「そうね。本来なら、アズラエル氏も強硬派に属していたもの」

 現在のアズラエルの考えは強硬派から少し距離を置いている。何故そうなったかは不明だ。

「どうして考えが変わっちゃったんですかね?」
「氏は商人だからな。コーディネイターの存在に、利用価値を見出したのだろう」

 ノイマンが不思議そうに聞き返すと、ナタルがすかさず答えた。

「体の良い道具としてキラ君を使う、という事ね」
「駒扱いってことですか……」
「そうだな。だが、それを言ったら我々軍人も同じだ」

 軍人は戦争というゲームの駒でしかない、そんなナタルの考えは正しいだろう。アズラエルやサザーランド
のような立場ともなれば、末端の兵士の事を気にしてなどいられない。情は指導者の判断を誤らせてしまう。
情勢を見極めるには、感情に流されない事が必要なのだ。
 しかし、軍人とて人間だ。家族もいれば恋人もいて、その時折で感情を爆発させる。人を殺すのが仕事でも
抵抗がないわけではない。唯の駒にそのような事は出来ない。
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               *     *     *
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「な、なんだよこれ!」

 オーブに降り立ったキラ達は、島の光景を目にして驚いた。オノゴロ島の様相が、数ヶ月前に来たときより
も様変わりしていたのだ。島の一部が空襲に遭ったように焼け焦げ、建物の多くが崩壊し、半ば廃墟とも言う
べき状態であったのである。港の近くには避難所が設けられ、仮設住居が建てられていた。
 そこに住まう市民の瞳に希望の光は無かった。炎は残酷だ。それは人だけでなく、資産や思い出まで燃やし
てしまう。彼らは火災によって全てを焼かれてしまったのだろう。

「父さんと母さん、大丈夫かな」
「大丈夫だよ。オーブ本島は無事だって」
「これが、クーデターの被害……?」

 ミリアリアは両親を心配し、トールは彼女を元気付け、キラはクーデターの所為で住む場所をなくした人々
の光景をヘリオポリスの出来事と重ねていた。尤も、キラの考えは事実と若干異なる。この焼け焦げた大地は
クーデターによるものも含まれているが、大部分はテロ行為によって受けた被害である。
 ウズミが軟禁場所から居なくなったという報は、直にコトーへと知らされた。オーブ全島を探索したものの、
ウズミを支持する勢力に匿われたのか、見つけ出すことは出来なかった。この数日後にオノゴロ島が火の海に
なったのである。元手はモルゲンレーテの地下に設置された爆破装置で、その存在が五大氏族だけに知らされ
ているものだったことから、実行犯がウズミであるのを証明していた。
 そんな情報も、混乱を避ける為に、表には出ていない。

「それにしてもカガリもカガリだ。何だってクーデターなんか起こしたんだよ」
「しょうがないだろ。他にやり様がなかったんだから」
「百歩譲ってクーデターはいいとしても、ジオンと協力するのが頭に来るんだ」

 インド洋でジオン兵と邂逅したトールであったが、そう簡単に心情は変わらないらしい。

「でもジオンのおかげでオーブと連合の戦争は避けられたのよ」
「セイラさん。それでも俺は……」
「あなたの考えを否定しているのではないわ。ただ、そういった見方もあるということ」

 見方が変われば考えも変わる。セイラの言葉はキラ達を黙らせた。
 カガリは、ジオンの力を使って権力を手に入れたとも見れるし、ジオンの力を借りなければウズミの暴走を
止められなかったとも見る事が出来る。唯一分かっているのは、カガリが決起しなければオーブは連合と戦争
になり、自分達もオーブとの戦いに借り出されたかもしれないという事だ。

「ねえ、上陸許可って6時間だっけ?」

 ミリアリアが思い出したように言った。セイラが「そう」と言うと、自室へと駆け出す。

「私、写真撮ってくるね」

 ミリアリアは、オーブで戦災孤児に会って以来、カメラに興味を持った。戦争というものをレンズを通して
映しておきたいらしい。自分の目で見てしまうと、その時々によって感情が含まれてしまう。それにより事実
を歪めてしまうと考えたミリアリアは、写真を撮り、後で客観的な事実を見る様にしたのだ。今回も避難所の
光景をフィルムに映したかった様である。

「最近のミリィ、俺に構ってくれないんだ。なぁキラ、俺悪いことしたかな」
「え? うーん、気のせいだと思うよ」
「気のせいなもんか! なんだか、カメラで撮ることばかり考えてるみたいで……」
「そういえば、戦場カメラマンになるみたいなことを言っていたわね」

 セイラの爆弾発言にトールが腰を抜かした。

「何でそんなことをセイラさんが……!?」
「もちろん、女同士ですもの」

 2人は皆のあずかり知らぬ所で将来について話していたらしい。トールとしては、ミリアリアは自分の嫁に
なってくれるものだと信じていたので、戦場カメラマンという職業は受け入れられなかった。世界を駆け回る
職業では結婚生活どころではないのだから。

「……そうだ、逆に考えるんだ。"俺が立派な軍人になってミリィの密着取材を受ける"、そう考えるんだ……」
「ミリアリアも色々考えてるんだなぁ」

 ブツブツと自分に言い聞かすトールを余所にして、キラは将来について考えているミリアリアに素直に感心
するのだった。
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               *     *     *
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 避難所に足を運んだミリアリアは、そこにいる人々の写真を撮り始める。特に戦災孤児達の写真を撮った。
前に会ったミハルと同じような境遇の人に興味を持ったのだ。

「あんな小さい子まで……」

 中でも印象的なのは、親を亡くした兄らしき子が妹を背負っている姿だった。燃えるような赤い瞳に怒りを
感じ取れる。ミリアリアはやりきれない気持ちになった。

「オーブが救われたとはいっても、これじゃあ……」

 そんな彼女は、暫らくすると予想もしなかった人物と出会う事となった。

「あー! お前はアークエンジェルに乗ってた!?」

 突然呼びかけられたミリアリアは、何事かと振り返った。何とそこにはオーブ新政権の立役者であるカガリ・
ユラ・アスハが、自分を指差しながら突っ立っていた。
 ミリアリアは大声を発するカガリの姿を見て唖然とする。

「カガリ……様?」
「堅苦しいのはやめてくれ。前と同じカガリでいいよ」

 ミリアリアと再会にはしゃぐカガリ。彼女は避難民の慰問に訪れていたのだ。

「ミリィだっけ? 何でお前がこんな所にいるんだ?」
「えっと、写真を撮りに……」
「写真?」

 クーデターの被害者と思われる人々を撮りたいとは、カガリを前にして口に出来ない。ミリアリアは適当な
理由をつけて誤魔化した。ミリアリアの態度にカガリは特に気にしなかった。

「お前がここにいるってことは、アークエンジェルも来てるんだな」
「え、ええ」
「まったく、それならそうと言ってくれればいいのに……」

 カガリは、自分にアークエンジェルの入港を伝えなかったウナトに愚痴をこぼすと、周囲に目を配りながら
ミリアリアの服を引っ張り、とんでもないことを言ってきた。

「なぁ、私をアークエンジェルに乗せてくれないか」
「えっと、流石にそれは……」
「ちょっとだけの間だ。問題ないだろ」

 作戦前の軍艦に部外者を乗せるわけにはいかないのだが、カガリは「そんなの関係ねぇ」と言うかのように、
ミリアリアに詰め寄ってくる。すると、困ったミリアリアを見るに見かねた男が2人に声をかけた。カガリの
警護をしているレドニル・キサカ一佐である。

「問題大有りです、カガリ様」
「キ、キサカ、どこから聞いて!?」
「後のほうから……正確には、カガリ様が『あー』と叫んでいたあたりからです」

 平然と答えるキサカ。後どころか初めのほうから会話を聞かれていた事にカガリはショックを受けた。

「べ、別にいいじゃないか、挨拶するぐらい」

 カガリは、コトーに代表の座を譲った。それは代表という地位は荷が重いと感じたからだ。為政者としての
知識を学ばなければ代表の資格はない。そして自分が代表になるのは10年は先の事だと安易に考えてもいた。
勉強の傍ら、ガルマと遊ぶのまで考慮していた。しかし――

「ダメです。この後の予定が詰まってます。ウナト様も待っておられますよ」

 そこに気付かないコトー達ではない。早急に帝王学を学ばせ、マ・クベの策略に乗せられない程度の節度を
持たそうとした。おかげで新政権後のカガリは、昼は公人としてオーブ中を駆け回り、夜はウナトから帝王学
について学ぶ毎日を送っていた。

「い、嫌だー! 放せぇー! 勉強は嫌ぁー!!」

 襟首を掴まれ、引きずられていくカガリ。そんな姿を見て、"ドナドナ"の歌が聞こえてくるような気がした
ミリアリアであった。
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               *     *     *
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 カガリが不幸のど真ん中を突き進んでいた頃、アークエンジェルに見慣れた人物が顔を出した。長い黒髪を
束ねている女性で、"乱れ桜"の異名を持つエースパイロット、レナ・イメリア大尉である。

「ヤマト准尉、それにケーニヒ伍長じゃないか!」
「イメリア大尉!?」

 レナを見るなり2人は驚いた。

「二人共、久しぶりだな」
「なんで大尉がこんな所に!?」

 教官としてカルフォニアの士官学校に赴任していたレナが、何故こんな所にいるのか。2人の反応を見た
レナは眉間にシワを寄せる。

「今の発言、随分と調子は良いみたいね、ケーニヒ」
「いえ、そんなことは……」

 レナの引き攣った笑顔は、獲物を見つけた肉食獣のようだ。トールは彼女のシゴキを思い出したのか、蛇に
睨まれた蛙のように硬直している。

「その様子では、今私の訓練を受けても問題ないわね」
「ええー!?」

 レナの言った"訓練"の二文字に情けない声が挙がる。その姿を見たレナは、クスクスと笑いながら続けた。

「冗談よ」
「へ?」
「ヤマト准尉は気付いていたみたいだけど……」

 からかわれた事に気付いたトールは閉口してしまう。レナの罵声は幾度となく聞いたが、冗談などは一度と
して聞いたことは無かったのだから、どんな形で非難すればよいのか慣れていない。鬼教官のイメージが強い
人だと思っていたレナが、2人に対して冗談を口にするとは……。

「論理的に考えれば、そんな時間が無いのは分かるでしょう。しっかりしなさい」
「り、了解……」
「ところで大尉、今日はどうしてアークエンジェルに?」

 まさか教え子をからかう為に来たのではあるまい。聞かれたレナは、思い出したように口を開く。

「私も上陸部隊に参加するのよ。それで、あなた達が上陸部隊を護衛すると聞いてね。激励に来てみたの」
「そ、そうなんですか……」
「もう一つの部隊が気に入らないのよ。貴方達には頑張ってもらわないと」
「もう一つの部隊?」
「そう、ホアキンの奴!」

 サザーランドがナタルに話したジブリール派の私兵である。私兵という意味合いでは、アークエンジェルも
同様だが、彼女の場合、ブルーコスモスであることよりも指揮官が気に食わないらしい。なんでも任務遂行の
為ならば民間人を巻き添えにするのもいとわないそうだ。

「アイツに背中を守らせるなんて、上層部はふざけてるわ」
「そんなに酷いのですか?」
「ええ、気を付けなさい。特に、コーディネイターの貴方は」

 今度はキラも、レナの言葉に驚いた。コーディネイター嫌いのレナが自分を心配するとは思わなかったのだ。
先ほどの冗談といい、連合軍での働きが認められたという事なのだろうか。
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               *     *     *
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 大西洋連邦首都ワシントンで行われていたブルーコスモスの集会。その会場に招待された盟主アズラエルは、
宛がわれた豪華な部屋で、ある人物と話をしていた。

「困りますな。盟主の気分で部隊を組み込んでは、無用な混乱が起きてしまう」

 アズラエルに対しても堂々とした態度を取る男は、ロゴスの一員でブルーコスモス強硬派を指導するロード・
ジブリールであった。

「同じ言葉をそのままお返ししますよ。いきなり私兵を割り込ませたのは貴方でしょう」
「何を仰います。私は、盟主にいただいた"人形"の実戦データを得たいだけです」

 皮肉交じりの返答に、アズラエルは露骨に嫌な顔をした。
ジブリールの言う"人形"とは、アズラエルが極秘裏に研究を進めていたプロジェクトの試験体の事だ。それは
"ブーステッドマン"と呼ばれ、コーディネイターとの戦争遂行にあたって、投薬、特殊訓練、心理操作により
コーディネイター以上の身体能力を持たせた生体CPUである。このブーステッドマン計画はアズラエル主導
の下、莫大な予算と時間を掛けて研究されていた。プラントを駆逐する為に必要なMSの部品として期待され
た商品だった。
しかし、とある科学者がジオンから亡命した事で状況が変わる。その科学者はフラナガン機関に属していた
人物で、"人工ニュータイプ"の論文をアズラエルに見せたのだ。
 少し興味を持ったアズラエルは、その科学者に人工ニュータイプを作らせた。そしてその人工ニュータイプ
とブーステッドマンを戦わせたのである。これはアズラエルにとって、ブーステッドマンの能力を見極める為
だけの余興であり、人工ニュータイプ自体に過度な期待はしていなかった。
 ところが戦闘の結果は人工ニュータイプの圧勝で終わった。無意味な突撃を繰り返すブーステッドマンとは
違い、人工ニュータイプは常に冷静で、余裕を持って戦っていた。納得のいかない関係者が幾度となく再戦を
挑んだが、全て返り討ちされる。3対1でも人工ニュータイプが勝利したほどだ。
 この結果にアズラエルは激怒する。予算を出して、長い時間を掛けて作られたブーステッドマンが、僅かな
予算と期間で出来た人工ニュータイプに敗北したのだ。激情家な盟主はブーステッドマン計画を中止し、その
維持に莫大な予算のかかるブーステッドマンを対立関係にあるジブリールへ押し付けたのである。

「この機会を逃がしては、データもなしに戦争再開ですので」
「あんな骨董品に何が出来ます」

 現在アズラエルは、人工ニュータイプの試作品であるプロト・ゼロを基にして、"エクステンデッド"という
新しい強化人間の研究・開発をしていた。ブーステッドマンが薬物による肉体強化が中心なのに対し、エクス
テンデッドは心理操作を中心にした潜在能力を高めるタイプである。

「フッ……盟主が飼っている犬以上の働きは見せてくれますよ」

 ジブリールの露骨な言い回しがアズラエルを不快にさせた。キラ・ヤマトを利用している自分に対するあて
つけなのだ。ブルーコスモスだからといって、闇雲にコーディネイターを排斥しても何の利益にもならない。
戦略撤退もまた必要なのである。それをジブリールは、裏切り者だの、臆病者だのと毒突いてくる。この男の
性格は分かっていたつもりだが、ここまで粘着されると気持ち悪い。

「それで、今日の用件は何です。嫌味を言いに来たのなら、もう済んだでしょう」

 機嫌の悪いアズラエルは席を立つ。何時までもこの男と共にいる必要はないのだから。
 アズラエルが部屋を離れると、ジブリールは携帯で何処かへと掛けた。

「……盟主がお帰りだ、予定通り、丁重に御もてなしをな」

 そう、指示を出すと、立ち上がり窓に近づいて外を眺める。下を見るとアズラエルが車に乗り込んでいた。
その光景を見たジブリールは笑い出す。

「盟主、良くやってくれた。MSの開発・量産、艦艇の建造、パイロットの育成、戦争に必要なものは十分に
揃った。これらの活躍は賞賛に値するのだろうが、化け物を擁護した時点で、貴方は盟主の役には向かない。
ここいらで舞台を降りてもらいますぞ」

 この日を境にして、ブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルは消息を絶ってしまう。それはカーペンタリア
攻略作戦が実行される一週間前の出来事であった。