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Zion-Seed_51_第二部第15話

Last-modified: 2008-10-12 (日) 13:41:39

 ロード・ジブリールの計略が進んでいる事も知らず、太平洋艦隊はオーブを出港していた。スペングラー級
強襲揚陸艦を中核にした約80隻の機動艦隊は、朝日に照らされる海上を埋め尽くすかのように見える。正に
太平洋の王者の風格であった。
 この大隊の指揮を任されているのは、第4洋上艦隊司令ダーレス少将である。作戦の全権を握っているのは
ウィリアム・サザーランド少将なのだが、海軍の出身ではない彼はダーレスに指揮権を委譲したのだ。これは
宇宙軍出身のハルバートンが、オデッサで失態を演じた二の舞を避けようとするサザーランドの判断だった。

「お前が前線に立つとは、人材が不足しているのではないのか」

 艦隊旗艦"パウエル"のブリッジで、艦隊司令ダーレスが首脳部の人事に愚痴をこぼしていた。

「そう言うな。世界樹で将官を、オデッサでは将来有望な佐官を数多く損失したのだ」
「そうであっても参謀本部付きのお前が来るのが、な」

 ダーレスは不満気に傍らのサザーランドへ視線を移す。

「聞いた話によるが、本来はブルコスの盟主が乗り込むはずだったらしいな。サザーランド、我々はいつから
ブルコスの手先になったのだ」

 サザーランドは困った顔で友人を見た。サザーランドとダーレスは同期の間柄で、昔からの戦友だ。自分が
ブルーコスモスに入ると、職業軍人であったダーレスと疎遠になったが、戦争で次々と同期が亡くなる事態に
陥り、葬式などで再会する機会が増えていた。

「そういった発言は自粛してくれんか……」
「何だ? 自重するとでも言うのか? ふん、やれるものならやってみろ」

 ダーレスは怯むことなく、サザーランドに作戦内容を確認する。

「指揮権は上陸するまでは俺、上陸後はお前、だったな」
「その通りだ」
「まったく面倒なことを……大方、あの艦に乗せた連中が関わってくるのだろうが」

 ダーレスは、旗艦パウエルの前方を航行する艦を不機嫌そうに見た。
 ――アークエンジェル級3番艦"キュリオス"。
 ジブリールが寄こした肝いりの精鋭部隊である。その艦名はどこぞの可変MSと勘違いするかもしれないが、
立派な強襲機動特装艦だ。搭載されたMSは、G兵器の開発データ・戦闘記録を元に地球連合軍が独自に開発
した最新鋭MSが三機配備され、そのパイロットはアズラエルに捨てられたブーステッドマン達である。

「戦争は軍人が行うものだ。強化人間などにやらせたら、我々はどうしたらいい」
「それは……」
「言い訳は聞きたくない。だが、私の部下を奴らの様に人形として扱うことは許さんからな」
「判っている」
「それならばよろしい。各員準備は終わっているな……では9・9作戦を開始する。全艦隊出撃!!」
.
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――――第2部 第15話
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 太平洋艦隊が南太平洋に進出してきているとの情報は、ザフト残党も入手していた。その圧倒的物量の目に
すれば誰もが怖気づくであろうが、残党軍兵士にその兆候は見られなかった。何故なら、カーペンタリアには
自慢の潜水艦隊と水中用MSが戦力として残っていたからだ。そしてこの部隊指揮を任されていたのがマルコ・
モラシムだったのである。

「遂にきたか……」

 "紅海の鯱"マルコ・モラシム――"砂漠の虎"アンドリュー・バルトフェルドと並び証されるザフトの勇将だ。
カーペンタリア基地が今日まで持ち続けていたのは、彼の存在があったからこそである。

「上空から反応です」
「予想通りだな……空襲警報を発令、ディン部隊と戦闘機を全て出撃させろ!」

 カーペンタリアは地上に残された唯一のザフト軍基地であり、ビクトリアやカオシュンから逃れてきた者が
数多く集まっていた。それゆえに各基地を落とされた戦訓から、連合軍の戦術がある程度の予測出来たのだ。
迫り来る強襲部隊には濃密な対空砲火が浴びせられ、モラシムの命を受けた空中部隊が追い討ちをかけるべく
襲い掛かる。

「コイツは予想外だぜ! 全機、AGMはばら撒いちまえ!!」

 これに強襲部隊長のエドワード・ハレルソン中尉は、カーペンタリアへの爆撃だけは行おうと、高高度から
主要陣地に向けて対地ミサイルを発射した。予定ならば爆撃によって湾口と滑走路を破壊し、敵部隊を基地に
閉じ込める手筈だったが、湾口への被害は皆無、滑走路も既にディンとインフェトゥスは発進した後だった。

「敵が来るぞ! 全機散開しろ!」

これによってエド達は対地攻撃から対空戦闘に移行する事になった。
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               *     *     *
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 "9・9作戦"はコズミック・イラ71年9月9日、カーペンタリアを最終目標にした大規模な作戦である。
その概要は、まずオーブのマスドライバーから降下部隊を打ち上げ、強襲機"レイダー"で統一した大隊で降下・
奇襲を仕掛ける。続いて太平洋艦隊がカーペンタリア基地へと進撃、湾口使節及び基地を確保する。そして敵
残存戦力を遊撃部隊でオーストラリア内陸部に押しやり、あらかじめ降下させていたデュエルダガー、ストラ
イクダガーを中心とした地上部隊で挟撃するという、三段構えの作戦だった。
 しかし、連合軍は完全に出鼻を挫かれてしまった。施設へのミサイル攻撃は行ったものの、大打撃は与えて
いない。初手で制空・海権を掌握する事をザフト残党が読み取る事実に、作戦司令部は驚きを隠せなかった。
今までザフトが戦術を読む事はなかったのだから。
そんな中、"紅海の鯱"の存在を思い出したサザーランドの呟きが、皆を納得させた。

「そういえばカーペンタリアには"鯱"がいたな」
「そうか、まだ奴がいたか」

大物の存在をすっかり忘れていたダーレスは、気を引き締めて参謀に言う。

「戦況はどうなっている?」
「敵の水中及び空中部隊は健在。現在はレイダー隊が応戦中」
「よし、救援を送るぞ」

 このレイダーは、後期GAT-Xシリーズに属する機体"GAT-X370"の制式仕様機だ。全翼機型SFC(サブ・
フライト・システム)を装備する事によって長距離航空強襲を可能にしたMSであり、その装甲はPS装甲を
改良したトランスフェイズ装甲を採用、電力消費を抑える事で稼働時間が大幅に延長された強襲機である。
とは言っても、このレイダー隊だけで制空権が取れる筈もない。ダーレスは、艦隊の主力である空母群から
スピアヘッドとスカイグラスパーを出撃させた。程なくして艦載機部隊がザフト航空部隊と交戦状態に陥る。

「敵は我々の上陸を阻む筈……敵部隊は、既にこちらに向かっているな。フォビドゥン隊と駆逐艦群を迎撃に
向かわせる」

 連合軍の水中部隊は"白鯨"ジェーン・ヒューストン中尉が指揮するフォビドゥン隊である。ジェーンが乗る
フォビドゥンブルーと部下のディープフォビドゥン合わせて一個大隊の戦力は、機体性能だけをみればザフト
水中部隊を凌駕しているといえる。しかし、相手は"紅海の鯱"。一筋縄にはいかないだろう。

「それと空母一隻と遊撃部隊を回せ」
「空母を?」
「予定外の戦闘でレイダー隊は疲弊している。彼らを回収しなければならない」
「しかし……」
「リスクは承知の上だ。だからこそ遊撃部隊を出す!」
.
               *     *     *
.
 ダーレスの読みどおりに、モラシム指揮する潜水艦隊と水中部隊が太平洋艦隊に向かっていた。この戦闘は
"白鯨"と"鯱"の因縁の対決だった。ジェーンが指揮するフォビドゥン隊とモラシムが指揮するザフト水中部隊。
機体の性能面ではフォビドゥン隊が上回り、パイロットの技量ではモラシム達が上回っている。両者の規模は
共に一個大隊で、戦力的には拮抗しているよう思われた。しかし、戦況はモラシムに不利と言えた。何故なら、
モラシムは潜水艦隊の指揮もとらなくてはならないからだ。
 連合は、世界樹やオデッサで多くの指揮官を失ったとはいえ、大規模海戦を行ってない海軍には平均以上の
指揮官が多数存在する。ダーレスは人材不足を危惧していたが、まだまだ余裕があったのである。それに対し、
ザフト残党には有能な指揮官がモラシムしか居なかった。

「我々には今日までの戦闘経験がある。機体の性能だけで勝とうとする連合軍に、それを教えてやれ!」

 モラシムは、MS部隊の指揮は副官のハンスに任せ、旗艦クストーの艦橋で頭を悩ませていた。部下の手前、
上記のような訓示を行ったが、実際は厳しい戦いになると予測したのだ。
 ザフト残党軍の主力水中用MSは当初グーンだった。多数の魚雷を装備し、水中での運動性を最大限に発揮、
四方から魚雷を発射する戦術で幾多の艦艇を海の藻屑に変えてきた。ジオン軍が水中用MSを投入してきても、
接近戦という弱点をゾノと連携する事で補い、今日までやってきた。
 ところが、彼の眼前に迫るフォビドゥンにグーンでは勝負にならないという。

『どんな戦術を構築しても、機体性能だけで押し切られてしまう……』

 今日まで敗北を重ねてきた、各地の水中部隊の言葉であった。カーペンタリア司令部は、これらの戦訓から
モラシムの直轄部隊よりグーンを排除、配備する機体をゾノ一色とした。歴戦の勇士を乗せたゾノであれば、
フォビドゥンと互角に戦える。それにはグーンは足手まといでしかないと考えたのである。
 しかし、この判断にモラシムは疑問を拭えなかった。それは、"互角"では勝てないからである。

「やはりグーンを支援に回すべきか? いや、駆逐艦の対処もせねば……」
「ゾノ部隊、敵と接触しました!」

 かくしてカーペンタリア奪還の前哨戦ともいえる海戦が始まった。フォビドゥン隊とゾノ隊が同時に魚雷を
放つと、互いに全てを軽々と回避して見せた。

「遂にこの時が来たわね……」

 ジェーンは、魚雷を回避し終えると、誰にも聞かれぬよう小さく呟いた。彼女は、ザフトの地球侵攻の際に、
マルコ・モラシム率いる水中用MS部隊によって、所属した部隊を壊滅させられた過去を持っている。以後、
モラシムへの復讐を誓い、地球連合軍における水中用MSの開発に力を注いできたのだ。
 念願の宿敵との接触に、あのときの借りを返す思いが広がり、戦意が高まる。

「今日、この日が有ったことを神に感謝するわ。信じてないけど……」

 ジェーンは3機で1個小隊を編成し、集団戦を心がけるよう指導していた。いくらフォビドゥンが高性能と
いえど、相手は"紅海の鯱"が率いる精鋭部隊だ。それに身体能力でもコーディネイターが勝っているのだから、
自分は兎も角として、部下達は連携によって優位性を確保したい。

「怯むなよ! 乱戦に持ち込めば、我らが優位だぞ!」

 モラシムも同様に、連携を行なうことをハンスに厳命していた。元々ザフト軍パイロットは、個人の技術が
優れている故に連携を疎かにしていた。しかし、今はジオンとの苦い戦闘経験から、それは一新されている。
尤も、それは集団戦法というものではないが……。

「まずはお前だ!」

 一つのディープフォビドゥン小隊がゾノに急接近した。1機が正面、残りが左右に回りこむ。こうすれば、
ゾノは正面のディープフォビドゥンに注意が向けられ、背後からの攻撃を受ける事になる筈なのだ。ところが
次の瞬間、ディープフォビドゥンの射線上に別の小隊のディープフォビドゥンが重なってしまった。これでは
引き金を引く事が出来ない。

「おい、邪魔をするな!」
「違う、不可抗力だ!!」
「何だと?!」

 この混乱は他の小隊でも続いていた。ある者は機体同士が衝突、またある者は彼らと同様に射線が重なり、
思うように攻撃が出来ない。

「まさか、これは!?」

 意図に気付いたジェーンは敵との距離を取るよう指示する。だが、それを容易に行える程ザフトは甘くない。
乱戦に持ち込みたいハンスは追撃を指示した。

「気付いたか。敵から引き離されるなよ!」

 ザフトの狙いは、相手に連携を取らせない事、具体的には"1対1が複数"という状況下を作る事であった。
それは各自がその時折で適切な判断をしなければならないという高度な連携だ。

「ちくしょう、こいつら何て連中だ!」
「1対1ならば!!」

 フォビドゥン隊は再び1機を囮にしてゾノ隊をおびき寄せるが、相手は誘いに乗らない。次第に焦り始める
フォビドゥン隊であったが、それはゾノ隊も同様だった。
 例え数の上で劣っていても、味方が最善の位置取りを行う事で敵の連携を無効化し、"1対1"という状況を
作る――このモラシムの考えた戦術は、理論上は完璧なように見えた。だが、それは机上の空論であり、実行
に移す事など不可能と呼べる代物である。そんな戦術を実現可能としたのは、コーディネイターの身体能力と
度重なる訓練、そして仲間との信頼関係の厚いモラシム隊であって、初めて実行できる神業なのだ。
 しかしそんなモラシム隊でも、この戦術を長時間に亘り維持し続けるのは不可能。早急にフォビドゥン隊を
撃破する必要があった。

「隊長格は"白鯨"か……」

 連合軍の底の強さは連携にある。その連携を崩すには指揮官を撃破しなければならない。ハンスは、味方が
フォビドゥン隊を押さえている間にジェーンを倒し、戦況を優位に運ぼうとする。
 これにジェーンは、相手がモラシムでない事に憤慨しつつも、敵の指揮官を攻略する事で本来の連携を取り
戻そうと考えた。

「"白鯨"さえ落とせば、後は烏合の衆に過ぎん!」
「アンタに用は無いよ! モラシムを出しな!」

 ジェーンとハンス。互いの部隊をかけた戦いが、今始まる。
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               *     *     *
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 両軍の水中部隊が激突する中、アークエンジェルは空母護衛の任に就いていた。本来ならば揚陸艦の護衛を
行う筈が、闘将の一言で早めに出番が訪れたのだ。

「まさか初手から作戦が狂うなんて」
「仕方あるまい。作戦というものは、"敵がこう動くだろう"と予測して立てるものだ。もしも予測が外れたら、
その時折で修正しなければならない」
「それは判っていますが……」

 ノイマンの弱気な発言に釘を刺すようナタルは言う。

「中尉、貴官の階級は私に次ぐ。上級士官である以上、弱気な発言は控えろ」
「す、すみません」

 そんな会話をしていると、ジェーンのフォビドゥン隊が敵部隊と交戦したとの報告が、CICのチャンドラ
鏡いらもたらされる。ナタルは頷くと、ブリッジクルーを見た。

「我々の任務は空母を護る事だ。マス伍長のスカイグラスパーは制空権確保を優先、MS隊はエールパックを
装備。ストライク、105ダガー共に空母の正面へ展開する」
「艦長、"キュリオス"から通信が入っています」

 ロメロの報告に名を聞いたとたん、硬直するナタルとノイマン。事前にサザーランドから注意しろと言われ
ていた強硬派が乗る艦である。

「戦闘前だ、作戦にかかわらないなら通信を切れ」
「――ダメです。作戦についてだと……」

 作戦に関すると言われては無視する事も出来ず、ナタルは通信を受けた。

「ご用件は何でしょう、ホアキン少佐。手短にお願いします」

 ナタルの硬化した態度から、ホアキンは不敵な笑みを浮かべていた。

「そうカッカするな、バジルール"大尉"」
「……私の階級は少佐です」
「おっと、すまない"少佐"。数ヶ月で3階級も昇進した例など過去に無いのでな。つい言ってしまった。尤も、
上層部にゴマをすって早く昇進する輩もいるがね。特に女性の場合、女特有の武器があるからな……。まぁ、
君は違うと思いたいが……」

 セクハラに近いホアキンの言動に、ノイマンが思わず腰を浮かせる。他のクルー――特にミリアリア――も
軽蔑の目でモニターに映った男を見た。

「お話はそれだけですか? 作戦と関係ないのなら……」
「そう焦るな少佐。本題はこれからだ」

 皆の視線に気にする様子も無く、ホアキンは続ける。

「我々は空母の護衛を任された訳だが、余りに効率が悪くないかね?」
「どういう意味です」
「我々の艦は連合でも最新鋭だ。それを空母の護衛などに使っては、宝の持ち腐れと言えよう?」
「……まさか!?」

 質問の意図を読み取ったナタルが息を呑む。

「攻撃は最大の防御とも言うだろう」
「待ってください。それでは命令と……」
「命令は空母の護衛だ。結果的に空母が無事なら問題は無い。それにレイダー隊を救援する事にも繋がる」

 つまり、ホアキンは空母を置いて先行し、敵部隊が来る前に迎撃しようと言うのだ。水中部隊はジェーンの
部隊に任せ、自分はレイダー隊を狙う敵航空部隊を相手にする。確かにこれは効率が良く、上手くいけば一気
に上陸することができるだろう。
 しかし、いつ敵が陣形の穴をついてくるか判らない状況下で空母をがら空きにするのは自殺行為に近い。

「反対です。命令を逸脱した行動は控え――」
「ほほう、自信が無いのか。コーディネイターを従えて活躍していると聞いていたが……どうやら君の出世は
上層部のおかげらしい」
「!? 貴方は!!」

 揶揄するように言うホアキンに、ナタルは激昂しかけた。自分の後ろにアズラエルがいるのは理解している。
それでも周囲からそういった目で見られても堂々としていた。彼女には実績を重ねてきたという自負があった
からだ。しかし、こうまであからさまに挑発してくるとなると我慢の限界である。

「少佐、自信が無いのは其方ではございませんか?」

 そんなとき、暴言を放とうとしたナタルを、別の声が遮った。

「君は?」
「マリュー・ラミアス技術大尉です、ホアキン少佐」

 何時の間に艦橋へ来たのか、マリューがナタルの横に立っていた。ホアキンは眉を顰めて聞き返す。

「先ほどの言葉、どういう意味かね」
「そのままの意味です。キュリオスに配備された"後期GAT-Xシリーズ"、すばらしい性能ですわ。火力支援、
電撃侵攻、一撃離脱をコンセプトとした、連合で作られているMSの中でも最高傑作と言っていいものです」
「御託はいい。結論を言え」
「ですから、これ程の高性能機を所持しているなら単独で行動しても問題ない筈。もしも問題があるとすれば、
搭乗パイロットに何らかの原因があるという事ですよね? そうでなければ"初期GAT-Xシリーズ"の内1機
しか配備されていないアークエンジェルの助けを求める筈がありませんもの」

 褒め殺しという意外な反撃にホアキンは表情を失い、冷たい目でマリューを見ると捨て台詞を吐いた。

「そういった態度に出るか。よかろう、ではキュリオスは単独で行動させてもらう」

 通信が切られる。
 剣呑な空気が解かれるなり、ナタルはマリューに感謝した。

「あ、ありがとうございます、大尉」

 あのまま感情に任せてホアキンを中傷していれば、アズラエルを非難する口実を作りかねなかった。それは
キラを護る権力を失う事を意味している。

「あいつら、キラ君を事故に見せかけて始末する可能性があるわ。挑発に乗ったらダメよ、艦長」
「はい」

 キラは、ヘリオポリスで巻き込まれながらも、今日までアークエンジェルを護ってきた。大人の事情で命を
狙われるなど、あってはならない。
 気を引き締めたナタルは、改めて前を向く。

「キュリオスを無視していい。我々は空母を守り抜くぞ!!」
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               *     *     *
.
 地上のザフト残党が連合艦隊の攻撃を受け始めた頃、宇宙のザフト残党にはジオン艦隊が近づきつつあった。
先のマイウス市襲撃事件で捕らえた襲撃犯に、合法非合法問わずにあらゆる手段で尋問した結果、解放戦線の
拠点場所を白状したのである。
 迎撃艦隊は二個艦隊。総指揮を取るのはキリング・J・ダニガン中将であった。

「中将、今回の作戦、些か早計ではありませんか?」

 モニター越しに不安を口にしたのは、新しく第六艦隊司令となったトワニング少将だ。

「不安かね少将」
「私は、アレに良いイメージを持っていません」
「ハハハッ、そうだろうなぁ」

 戦術モニターの映像を見たトワニングは、映像に嫌悪感を抱く。そこに映されているのは"ジェネシスα"で
あった。捕らえた襲撃犯はジェネシスαの存在も暴露していたのだ。
 ジェネシスαの存在を知った上層部は、それを一部の人間にしか知らせなかった。詳細を知ればトワニング
のように動揺する者が必ず出る。その中から逃げ出す者が出ないと断言できる程、尋問で得た情報は、残党に
対して危惧を抱かせるものだった。

「しかし、だからこそ君の艦隊を呼んだのだよ。ジェネシスを攻略する上で、君の経験は貴重だ」
「私に何が出来るというのです。一度ジェネシスが発射されれば、出来る事などありません」
「そうかな? 君はヤキンでジェネシスが発射された時、唯一冷静だったと聞くが?」
「それは……」
「私はね。常に冷静でいられる君を高く評価している。この老いぼれに力を貸してくれないか?」

 キリングの言葉にトワニングは困ってしまった。嘗ては宇宙攻撃軍と突撃機動軍に分かれていたが、宿将の
人望は突撃機動軍にも広がっていた。

「……分かりました。主君を守れなかった私ですが、微力を尽くしましょう」

 その彼に頭を下げられては、断る事など出来ない。言ってトワニングは、再びジェネシスαを見た。