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Zion-Seed_51_第二部第16話

Last-modified: 2008-10-28 (火) 20:29:11

 宇宙のザフト残党"プラント解放戦線"を殲滅すべく、ヤキン・ドゥーエ要塞から出撃した二個艦隊。規模は
艦艇数32隻。その陣容はティベ級を含む重巡洋艦3隻、ザンジバル級巡洋艦2隻、ムサイ級軽巡洋艦23隻、
そしてナスカ級巡洋艦4隻という布陣であった。艦艇数だけ見れば二個艦隊に満たないが、これはシャア大佐
率いるニュータイプ部隊が加わった事によって、総合的な戦力は一個艦隊に迫ったとの判断から、第六艦隊の
規模が半個艦隊に止められた所為であった。
 そんな第六艦隊に、マイウス市への直接攻撃を防いだアスランが、解放戦線との戦闘でパイロットを失った
ナスカ級巡洋艦"ルソー"へ赴任することになった。

「アスラン・ザラ大尉、乗艦致します」
「ニコル・アマルフィ技術少尉、乗艦します」

 踵を合わせ、タリア・グラディス艦長に向き合う。

「乗艦を許可します。2人ともよく来てくれたわ」
「積荷は格納庫に届けました。調整は出来ていますので、直にでも実戦可能です」

 彼らが持ってきた積荷とは、ザク・ファントム1機とザク・ウォーリア2機である。それぞれハイネ、レイ、
ルナマリアへの搭乗機として与えられたものだった。
 これらの最新MSがザフト艦に優先して与えられた事に、タリアは苦笑を隠せなかった。

「フフフッ、シャア大佐に貴方達、そして新型MS、やっとジオンも私達の価値を認識してくれたようね」

 彼女がそうまで喜ぶ理由は、そこにあった。今回のプラント解放戦線掃討任務に当たり、マイウス市襲撃時
の戦闘に加わっていなかったルソーは、初めてシャア率いるニュータイプ部隊と肩を並べるのだ。ジオン公国
が国を挙げて宣伝するニュータイプ。その部隊を、ギレン総帥はザフト艦隊が所属する第六艦隊にその部隊を
置いたのである。しかもギレン親衛隊という箔まで付いている。
 タリア自身はニュータイプの存在を信じていないが、そのことだけでも、自分達のような元ザフト兵が信頼
された証ではないかと考えた。それが彼女を喜ばせたのである。

「貴方達を歓迎するわ。特にアスラン大尉は、マイウスを救った英雄の腕を見せて頂戴」
「いえ、自分は……」
「謙遜する事は無いわ。貴方はマイウスを救った。それだけじゃない、先の解放戦線との戦闘でも……」

 彼女が続けて賛辞を述べようとした時、艦橋のハッチが開くと、タリアとさほど年齢の違わない若い男女が、
滑るように入ってきた。
 タリアの真正面に位置したのは女性だった。凛とした雰囲気の彼女は、総帥府に属する事を示す徽章をつけ
ている。タリアに向かい、臆することなく教科書どおりの敬礼をする態度は、やや挑戦的に見えた。タリアが
返礼すると彼女は始めて口を開く。

「先の貴方方の戦闘は聞きました。公国の独立の為には筆箱のような船を危険に晒す事もありましょう」
「筆箱!!」

 それは明らかに侮辱であった。どんな船であれ、乗員に対し、船を貶めるような言い方をするのは古今東西、
侮辱以外の何ものでもない。しかも、ザフトの技術の粋を使って造られたナスカ級高速戦艦にである。それが
証拠に、ジオン軍はこの船を4隻も徴用し、巡洋艦として扱っているではないか。ナスカ級を侮辱することは、
ジオン軍の判断を馬鹿にすることでもある。
 しかし、タリアは彼女の挑発を真に受け、怒りを露にするほど子供ではない。何故なら、彼女はその子供を
諭す立場にいるのだから……。

「筆箱とは何だ! このルソーはヤキン・ドゥーエ攻防戦を生き残った優秀艦だぞ!!」
「アーサー、少し黙ってなさい」

 軽い挑発に乗せられた副長に目もくれず、彼女は改めて申告する。

「モニカ・キャディラック特務大尉、乗艦致します」

 そしてモニカの後ろから、ブロンドの髪をオールバックにした男も申告した。彼の口調はモニカとは違って、
生真面目に聞こえた。

「オリヴァー・マイ技術中尉です。乗艦致します」
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――――第2部 第16話
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 ボズゴロフ級潜水母艦13隻というモラシムの潜水艦隊が海中を進む。更に空中には潜水母艦から発進した
30機のディンとインフェストスが展開している。対するは、迎撃体制を整えたイージス艦を中心とする駆逐
艦14隻に、レイダー隊を着艦させる空母1隻と護衛の特務艦2隻だ。
 モラシムは敵の布陣を見るなり、空母を第一目標とし、空中部隊に命じて攻撃を仕掛けた。連合軍は輪形陣
を敷いている。グーンといえども対潜シフトを敷いた駆逐艦群を攻略するのは難しい。グーンは支援に回り、
ディンとインフェストスのモラシム空中部隊で空母を沈めようとしたのだ。
 しかし、その空中部隊が駆逐艦群に辿り着く前に、主天使の名を持つ悪魔が立ちはだかった。

「撃滅!!」
「うらあああっ!」
「うっせーよ、お前ら!」

 レイダー、フォビドォン、カラミティという3機の後期GAT-Xシリーズを引き連れ、先行していたキュリ
オスである。レイダーとフォビドォンはエドとジェーンが乗る機体の先行試作機で、カラミティはバスターの
発展型といえるMSであった。3機共、単一のコンセプトに特化した装備や機構を持ち、最適な状況において
は総合性能で1、2ランク上の機体とも対等に渡り合うことが出来る。その反面、特殊化し過ぎた機体は量産
機用に開発されたナチュラル用OSでは扱えない代物になっていた。
 1隻だけ突出している事に戸惑いつつも、相手がMSを出したのを確認したモラシム空中部隊は、空母への
攻撃をインフェストス隊に任せ、ディン隊はキュリオスの迎撃に向かう。

「たった3機のMSでなにができるッ!」

 ディン隊は数的優位なのを利用し、包囲殲滅を図ろうとする。しかし、彼らよりも早くレイダーのプラズマ
砲が火を吹き、数機のディンが巻き込まれる。そして相手が怯んだ隙を突き、レイダーはMS形態に変形する
"ミョルニル"が振り回される。
 ミョルニル――言い換えればハンマーという予期せぬ攻撃手段に、ディンのパイロットは一瞬だけ思考停止
に陥ってしまう。レイダーのパイロットであるクロト・ブエルは、その隙を見逃さず、ミョルニルをディン目
掛けて叩きつけた。
 そんなディンと空戦を繰り広げるレイダーに向けて一条のビームが放たれた。クロトはあわててそれを回避
すると、閃光が放たれたほうを見た。

「邪魔すんな、シャニ!」

 視線の先には、シャニ・アンドラスの操るフォビドゥンが、誘導プラズマ砲"フレスベルグ"をディンに向け
て放っていた。シャニは味方を巻き込む攻撃を何とも思わず、レイダーに群がるディンに目掛けて発砲する。

「ビームが曲がるだと!?」

 フレスベルクは、砲身に設置された誘導装置の磁場干渉により、ビームの軌道を自在に偏向する事ができる。
だが、そんなことを知らないディンのパイロットは、ビームが曲がるという常識では考えられない事態に次々
と落とされていった。

「うざいんだよ!」

 そしてキュリオスの艦上にカラミティの姿があった。カラミティを操るオルガ・サブナックは、バスターを
遥かに圧倒的する砲火を無差別に振りまいていたのだ。キュリオスの対空砲火と合さって、とてつもない弾幕
を形成している。この両者の弾幕は、レイダーとフォビドゥンの相手をしなければならないディン隊にとって、
悪夢であった。

「ひえー、あの連中、スゲェな……」

 一方、空母への攻撃を仕掛けたインフェストス隊は、キュリオス隊の迎撃を抜けてエールパックを装備した
ストライクと105ダガー、そしてスカイグラスパーと激しい空中戦を行っていた。

「トール、右から来てる!」
「うおっ!」

 声と同時に、右後方からのミサイルを回避する105ダガー。

「向こうを関心している場合じゃないよ」
「悪い、助かったぜキラ!」
「トールはセイラさんの援護があるから、後方の確認が疎かになってるんだ。もっと注意しなきゃ」
「分かってるって!」
「御二人とも、無駄話をする暇があったら目の前の敵に集中なさい!」

 セイラの叱咤を受けながらも、キラとトールは襲来するインフェストスを次々と撃墜していった。撃ちもら
した機体はセイラのスカイグラスパーがフォローした。
 アークエンジェルは、休戦中においてもザフト残党を相手に第一線で戦っていた部隊。自ずと3人の技量は
上がっていたのだ。特にキラの成長は目を見張るものがあった。コーディネイターであるというだけで、その
成長は理解できる。だが彼には、それだけではない”素質”があるのだと感じられた。

「艦長、敵MSが接近。グーンです」
「ッ?! 弾幕を張れ! 対潜部隊を護るんだ!」

 アークエンジェルとキュリオスの活躍で制空権を押さえていた事で、対潜ヘリ部隊がグーンを狙う。上空を
旋回するキラの目は、そのグーンの影を追うことが出来た。だが、対潜装備を持たないエールパックで支援を
行うことは出来ない。空戦で優位に立っている今はいいものの、何時戦況が覆るかわからない。

「グーンはアークエンジェルに任せるしかないか……」

 援護が出来ない事に歯軋りするキラ。そんな彼に、一つの通信が入った。

「よう、キラじゃないか!」

 通信はキラが援護していたレイダーから入った。いきなり自分の名を呼ばれたことに驚きながら、その声に
聞き覚えがあることを思い出す。

「俺だよ、俺、エドワードだ」
「ハレルソン少尉ですか!?」
「今は中尉な……。奇遇だな、こんな所で」

 オデッサ以来の再会に懐かしさを感じるキラ。久しぶりに会ったエドには、嘗ての荒々しさが見えず、落ち
着いた雰囲気を感じ取れた。

「お前、援護が必要か?」
「援護が必要なのは中尉の方でしょ」
「ハハハッ、違いない」

 エドのレイダーは、味方の支援が来る前から、率先して空戦を繰り広げていた。元は空軍出身の男である。
戦闘中でも余裕を見せていた。

「グーンがいるのか。ジェーンの部隊はどうした?」
「何とかの鯱とかいう、敵の精鋭部隊と戦ってます」
「モラシムか……」

 ジェーンの事情を知っているエドは、自分が休んでいる暇が無い事を悟る。

「少し待ってろ、ちょっくら弾薬を補給してくる。それまで耐えててくれよ」

 空中戦は連合が優位といえ、何かの拍子で戦況は変化する可能性がある。エドのようなエース格の言葉は、
キラのような若いパイロットには心強かった。
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               *     *     *
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 同じ頃、ジェーンとハンスは一進一退の攻防を続けていた。

「こいつ、意外に手強い!」

 モラシムで無い事に落胆を見せていたジェーンは、速攻でハンスのゾノを沈めるつもりだった。機体性能は
フォビドゥンブルーの方が勝っている。しかし、ハンスの予想外の技量の高さに決定打が打てず、攻めあぐね
いていた。彼も長年モラシムの副官を勤めていた男だ。相応の腕は有している。

「ザフトの技術を舐めるなよ、ナチュラル!!」

 ハンスはゾノを巡航形態に変形させ、フォビドゥンブルーに突撃する。これにジェーンは魚雷とメーサー砲
で迎撃するが、ハンスはそれを全て回避してしまった。巡航形態は変形に要する時間が短い。故に戦闘中でも
変形は可能、しかも水の抵抗を受けにくい形状なので、水中での機動力はフォビドゥンブルーよりも上になる。
さらに言えば、ゾノの採る基本的な戦闘スタイルは近接戦、近づけばハンスに有利になるものであった。

「終わりだ!」

 ハンスが繰り出した巨大なクローをトライデントで受け止めようとしたジェーンだったが、反応が一瞬だけ
遅れてしまった。手にしていたトライデントは弾かれ、海底へと落ちていく。

「しまった!」
「これで、終わりだ!」

 距離を取ろうとしたフォビドゥンブルーにゾノが追撃をかける。メーサー砲でフォビドゥンブルーの回避を
強要すると、六連装の魚雷発射管を開いて、中身を放つ。動きを封じられたジェーンは迫り来る6本の魚雷を
回避する事ができず、その全てが直撃してしまう。
 ハンスは、結果を見ることなく勝利を確信した。水中での爆発が二度、三度と起こり、海中を大量の気泡が
包んだ。6本の魚雷を同時に喰らって無事でいられるMSなどこの世には存在しない。

「!?」

 ――そう、ハンスは思い込んでいた。
 気泡の隙間から2本の魚雷が現れた。ハンスは慌てて回避行動に入ったが、間に合わず片腕を破壊される。
見ると、傷一つないフォビドゥンブルーが魚雷を発射する姿があった。

「まさか、PS装甲?!」

 ハンスは己を恥じた。相手は連合なのだ、量産機とはいえPS装甲を施している事は予想するべきだった。
 しかし、腑に落ちない点もあった。既に戦闘開始から40分が経過しているにもかかわらず、装甲がダウン
していないのだ。この装甲の弱点は莫大な電力を消費する事。時間の経過と合せて6本の魚雷が直撃すれば、
バッテリが切れてもいい筈である。ところが、フォビドゥンブルーにその兆候は見られない。
 それもその筈で、フォビドゥンブルーの装甲はPS装甲の改良型”TP(トランスフェイズ)装甲”だった。
連合は、実弾には圧倒的な防御力を誇るPS装甲の持続時間を増やす為に、通常装甲の内側にPS装甲を備え、
攻撃を受けたときのみフェイズシフトするように改良したのだ。この為、従来のPS装甲の様に常に相転移を
維持する必要が無くなった。又、外側は相転移を起こさない通常の装甲である為、外見からエネルギー切れが
露呈する心配も無いのである。

「バレちゃしょうがないね!」

 ジェーンは手の内を知られた事に唇を噛む。モラシムと戦う前に、自分の機体の特性を相手に知られたくは
無かったからだ。だが、こうなった以上、割り切るしかない。ジェーンはゾノが離れたのを確認すると、海底
に落ちたトライデントを回収し、片腕を無くしたゾノに突っ込んだ。いくら接近戦に特化しているとはいえ、
片腕が無いのは致命的である。

「まだだぁ!」

 気合を入れ直すハンスではあるが、機体のダメージに顔色は悪い。そんな中で、ジェーンが止めを刺そうと
突っ込んでくる。

「落とさせてもらうよ!」

 トライデントを突き出すように構えてゾノへ突貫する。ゾノは必死で攻撃を往なし、何とか回避する。だが、
フォビドゥンブルーはさらに踏み込んで蹴りを喰らわせ、できた一瞬の隙を見逃さずにフォノンメーザー砲と
スーパーキャビテーティング魚雷を撃ち込んだ。
 ハンスは、迫り来るメーザーと魚雷を見つめ、モラシムに「申し訳ない」と言葉を残した。
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               *     *     *
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「そうか……ハンスが死んだか……」

 ハンス戦死との報は、モラシムに敗北を悟らせた。ザフトの戦術は数的に不利な状況であっても互角以上に
戦える戦法であったが、あまりにも困難な連携なので、一つの狂いが生じると直ぐに瓦解してしまう諸刃の剣
でもあった。前線指揮官のハンスが逝った以上、部隊は混乱するだろう。場にモラシムがいれば立て直す事も
可能であったが、彼はクストーで全体の指揮を取っている。建て直しは不可能だ。

「た、隊長、ゾノ隊が……」

見ると戦術モニターに映されたゾノ隊の光点が、1つ、また1つと消えていく。もはやそれを止めることは
出来ない。頼みのゾノ隊は、指揮系統が崩壊したのだ。

「あと2人……いや、1人いれば、このような事は起きなかったのかもしれん……」

 モラシムは、改めてマーレ・ストロードがラガシュ基地で戦死したことを悔やんだ。ナチュラルを軽視する
人物ではあったが、水中での戦闘技術は確かなものがあった。自分とハンスとマーレの3人がいれば、前線が
崩壊する事は無かったかもしれない。

「終わりだな。総員、カーペンタリアに戻るぞ」

 それだけを命じ、モラシムは席を立つ。

「隊長、どちらへ?」
「殿は私が取ろう」

 そう呟くと、モラシムは自身のゾノに乗り込んだ。度重なる改修を受けた愛機は、様々な技術を受け入れて
原型を止めていなかった。グーンだけではなく、ゴッグやハイゴッグといったジオン系MSの部品が使われた
キメラとなっている。それで性能が上がっているのだから皮肉なものだ。
 そんなゾノ改に乗って海中に身を投じたモラシムは、クストーや他の艦が転進しないことに気付いた。

「クストー、何をしている。カーペンタリアに戻れと命じたのだぞ」
『隊長、戦況を覆すのに手は一つしかありません。敵旗艦の撃沈です』
「そんなことは聞いていない。私は……」
『我々の艦隊が囮となります。鯱よりも鯨の群れのほうが目立ちますからね』

 モラシムの言葉を無視して、クストーの面々は話を続ける。

『モラシム隊長、潜水艦や水中用MSは陸に上がれば役に立ちません。使うなら今しかありません』
『隊長だけに格好はつけさせませんよ』
『ザフトの意地が見せられるかどうかなんだ。やってみる価値はありますぜ』

 モラシムは切なそうに彼らを見る。逃がそうとしたにもかかわらず、自分を援護することで死地へと向かう
役割を買って出た部下達。自分達は不器用な生き方しかできない人間なのだと思う。ザフトの敗北は決定的だ。
カーペンタリアに撤退しても、連合軍に降伏しても、誰も咎める事はあるまい。しかし、モラシムも部下達も、
皆、一矢を報うという無意味な事を自ら望んでいる。

「……このバカどもが……」

 周囲の仲間に向かって、モラシムは万感の思いを呟く。

「そこまで言うならば、このマルコ・モラシム、期待に答えねばならんな!!」

 それが合図だった。クストーを初めとした各潜水艦が、最大船速で太平洋艦隊に突入する。インフェストス
は対潜ヘリ部隊、ディンはアークエンジェルとキュリオス、そしてグーンは駆逐艦に特攻を開始した。全ては
モラシムへの目を自分達に引き付ける為に……。
 太平洋艦隊の布陣は鉄壁だった。各艦ともに対潜ミサイル、対空ミサイル、対空機銃を撃ち放し、接近する
潜水艦を、MSを、戦闘機を迎撃していく。さらにアークエンジェル、キュリオス両隊のMSが立ちはだかる
だけでなく、補給を終えたレイダー隊、ゾノ隊を壊滅させたフォビドゥン隊が前に出る。
 艦隊と機動部隊による迎撃。まさに壁であった。

「どっちを向いても敵ばかりだ、狙いをつける必要はないぞ!」

 クストーの真横にいた艦に対潜ミサイルが直撃、轟沈する。各潜水艦は、残っているミサイルと魚雷を惜し
気もなく撃ちまくる。それらは幾つかの敵艦を沈めるが、それでも太平洋艦隊の戦力を削っただけに過ぎない。
圧倒的物量が、彼らの前に立ちはだかっていたのである。

「撃ちまくれ! ここで全滅しても、無駄死にはならん!!」

 周囲の味方艦が次々と沈められる中で、クストーは驚異的な粘りを発揮していた。まるで死んでいった仲間
の執念が、彼らを守っているように見える。

「あと一歩、あと一歩だが……」

 それでも限界は近づいていた。クストーは駆逐艦や巡洋艦の真下を抜けたところで、対潜ロケットの直撃を
受けてしまったのだ。この衝撃で船体に亀裂が入り、中の海水が入ってくる。沈没は時間の問題だった。
 しかし、そんな中でもクストーの艦橋は冷静だった。彼らの目にモラシムのゾノ改が映っていたからだ。

「……もう、充分だな」

 自分達の役目は終わったのを確認すると、クストーは自爆し、壮絶な最後を迎えた。
 味方が次々と失われていく。自慢のゾノは既に全滅、グーンやディン、インフェストスも生き残りは少ない。
モラシムが見渡せば、既に味方は自分しか存在していなかった。

「うおおああっ!!!」

 絶叫を上げてモラシムは太平洋艦隊旗艦パウエルに迫った。自分の卓越した操縦技能と今日までの戦闘経験
の全てを引き出しながら、ゾノ改はパウエルに突貫する。
 この突貫に気付いたダーレスは怒号によって答えた。残る艦艇から対潜兵器をばら撒かれ、ただ1機のMS
に集中砲火が浴びせられる。これにはモラシムも回避しきる事ができず、幾つかの直撃弾を受ける。しかし、
それでもモラシムの突貫は止まらない。眼前を凝視し、常人を逸した動きでパウエルに接近する。右腕を失い、
左膝から下が砕ける。だが、それでも勢いは止まらない。

「ダーレス! 迎撃は!?」
「落とせ、何をしている!」

 ダーレスの叫びも効果がなく、ゾノは遂にパウエルの真下に達する。それは確実に魚雷を当てられる距離を
意味していた。魚雷発射口がパウエルに向けられる。ダーレスとサザーランドが直撃を覚悟したとき、突然、
モラシムのゾノ改の動きが止まった。見ると、ゾノ改のコックピットからトライデントが生えていた。

「これで終わりだ、モラシムッ!!!」

 それはジェーンのフォビドゥンブルーのものだった。ハンスを撃墜した彼女は、部下達に残敵の処理を任せ、
モラシムを探したのだ。紅海の鯱の異名を持つ相手があれだけで後退するとは到底思えない。必ず一発逆転の
手を考える筈。そしてそれは旗艦を落とすことだけだ。案の定、モラシムは隠れながらパウエルに接近した。
それを、ジェーンは見逃さなかったのである。

「仇は撃ったよ……」

 彼女は呟き、モラシムのゾノ改からトライデントを引き抜いた。支えを失ったゾノ改は鉄の塊となって海底
へと沈んでいった。
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               *     *     *
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 モラシムの戦死によって前哨戦は終結した。そして、この前哨戦の終結こそが、カーペンタリア基地の終焉
を告げるものとなった。
 本来、カーペンタリア基地はモラシムに依存していた部分が大きい。彼の存在はザフト兵の精神的な支えと
なっていたからだ。ところが、その支えである筈のモラシムが死んだ。これはカーペンタリアの将兵の士気を
大きく低下させる要因となった。
 後は脆いものだ。戦意はガタ落ちし、抵抗らしい抵抗もすることなく各地で白旗が上げられる。何とかして
逃げようとしていた者も、オーストラリア大陸南部に降下していた陸戦部隊とアークエンジェル、キュリオス
ら遊撃部隊との挟撃によって各個撃破されていった。
 唯一、連合を慌てさせたのが、基地の地下に置かれていた強力なEMP発生装置である。"グングニール"と
呼ばれたそれは、電離層の乱れを引き起こし、通信や精密機器を使用不能にする対電子機器用特殊兵器だった。
グングニールを使用されれば、EMP対策を施していない連合軍の火器は、軒並み鉄屑となっていただろう。
 何故このような兵器を使用しなかったのか、理由は後日判ったことだが、カーペンタリアはプラントが敗北
してからというもの、碌な補給も無い状態で戦っていたらしい。食料だけでなく、武器弾薬も不足していて、
海賊同然の行為をして何とか基地を維持していたそうだ。そんなカーペンタリアには、MSや施設に対して、
EMP対策を施す技術者や施設など有りはしなかった。
 つまりグングニールを使用すれば、自らの兵器も使用できなくなる為に、動かさなかったらしい。連合軍が
基地を制圧したのを見計らっての自爆も検討したそうだが、彼らはコーディネイターが故に、それが無意味な
行為であると気付いてしまったのだ。 
 モラシム隊はザフトの意地を見せたが、カーペンタリア基地はそれを無意味として正反対の決断を行った。
これだけを見れば、モラシム隊はコーディネイターとして劣った行動をしたのかもしれない。しかし、彼らを
愚かと評する者は、連合にもプラントにもいないだろう。
 かくして、カーペンタリア攻略作戦"9・9作戦"は連合の勝利で幕を引いた。この戦いで地上における
ザフト残党軍は壊滅したことになり、一部の中立国を除いて、地球は連合かジオンの勢力化となるのだった。
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               *     *     *
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「カーペンタリアが落ちたようです。これでジオンとの戦争を再開する事ができますよ」

 ユーラシア連邦の旧イギリス領にロード・ジブリールの家はあった。古くからの名門であるジブリールは、
中世の貴族を思わせる屋敷に住んでいた。
 そんな広い屋敷の地下室に、ジブリールはある男との会話を楽しんでいた。

「ジオン公国はコーディネイターを保護している。ブルーコスモスとしては見過ごすわけには参りません」
「…………」
「それにジオンだけではダメです。オーブもコーディネイターには甘い政策です。早急に潰さなければ……」

 笑いながらワイングラスを傾けるジブリール。隣に座った男は一言も発しない。

「盟主に頂いたブーステッドマン、見事な働きだったそうです」
「…………」
「あれを量産すれば戦争は早く片が付きますよ。そうすれば、あのスーパーコーディネイターは不要です」
「……貴方は、キラ・ヤマトを処分する為だけに、こんな事を行ったのですか? だとすればアホですね」

 黙り続けていた男は、余裕を持って問い掛ける。それを聞いたジブリールは不愉快な顔をする。

「それだけの為に、ここまで手の込んだ招待はいたしませんよ。……私は貴方に組織のトップとしての自覚が
ないことに気付いたのです。だからこうして私の家に招待したまででしてね」
「招待? ユーラシアでは、誘拐のことを招待と言うのですか?」

 ジブリールはグラスを置くと、男へ顔を向けた。そこに腰掛けていたのは、ブルーコスモスの盟主であると
共に国防産業連合理事でもあり、デトロイトに本社をおく大手軍需産業の経営者でもあるムルタ・アズラエル
その人であった。