Top > Zion-Seed_51_第二部第17話
HTML convert time to 0.010 sec.


Zion-Seed_51_第二部第17話

Last-modified: 2008-11-10 (月) 20:34:28

 宇宙要塞ソロモン――ジオン公国宇宙攻撃軍の本拠地であり、嘗て"新星"と呼ばれた東アジア共和国の資源
衛星である。ソロモンには八個ある宇宙艦隊の内で三個艦隊が駐留しており、宇宙攻撃軍の総司令官ドズル・
ザビ中将が常駐していた。
 ドズルは傍らに副官のラコック准将を置き、現在ソロモンで行われている改装工事を見て回っていた。

「このままいけば二ヶ月で終了します」
「こんなものを付けんでも、ソロモンは難攻不落の要塞だというのに……」

 2人の眼下には円筒形及び尖塔状の巨大なミラーの取り付け作業が行われていた。それはヤキン・ドゥーエ
攻略戦に参加した誰もが恐れた兵器"ジェネシス"であった。
 プラントが敗北した後、ヤキン・ドゥーエに設置していたジェネシスは、ギレンの意向もあってソロモンに
取り付けられる事になったのである。理由としては、ジェネシスをプラントの近くに置いていては、万が一、
プラントが反乱を起こした場合、奪還される危険があるからだ。
 ザフトの開発したNJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)のおかげで核兵器の使用は可能となったが、
それでもこの大量破壊兵器の存在は目に見える驚異でもあった。

「ヤキンを占領されたときのリスクを考えれば致し方ありません」
「あのキリングのオヤジが、ヤキンを奪われるものかよ!」

 己が師事する男の有能さをよく知っているドズルは、思い出したように今日の討伐を思い出す。

「そうだ、そのオヤジの事だ! 何でゲリラ討伐に艦隊を出さねばならんのだ!? 解放戦線の本拠地に、この
デカブツを放てばよかろう! 連合への牽制にもなるのだぞ!」
「ギレン総帥は、この一件に元ザフト兵を使う事によって、スペースノイド全体の意思が一つになったと主張
したいのではありませんか? ご自身の親衛隊とザフト艦隊のいる第六艦隊が随伴したのが証拠かと……」
「それで独立できるなら安いものだな!」

 無駄に戦力を消費したくないドズルは、ギレンの政治的パフォーマンスにウンザリとした。

「そもそも取り付け作業は終ってはいません。現状では致し方ないかと……」
「判っとる。それはもう聞いた!」

 ラコックはそこで口を閉じたが、別の考えもあった。それはギレン自身が戦争続行を望んでいる事である。
ドズルやガルマはジオン公国の独立が最終目的だが、ギレンは本気で連合を屈服させようとする節があるのだ。
公国が独立するだけなら、ジェネシスを見せて恫喝すれば十分だろう。それを行わないということは……。

「ガルマの奴もオーブを押さえてから戻ってこん!」
「はぁ……」

 そう、そしてガルマの動向も不可思議だ。総帥府の許可も無しに、いきなりオーブの政変の手助けをした上、
あのような演説を行なった。少しでも政治に関心があれば、暗にギレンを批判しているのが分かるのに。
 ――これは独立の足を引っ張る事に繋がるのではないだろうか?
 兄弟揃って何を考えているかは分からないが、ラコックは老婆心ながら思うのであった。
.
.
――――第2部 第17話
.
.
 プラント解放戦線はジェネシスαに近づくジオン艦隊の存在をキャッチしていた。その規模、及び展開から、
相手が哨戒目的でない事は明白だった。ジオンは艦隊を分散し、前方と左右の三方から攻めようとしていた。
そして相手が宇宙攻撃軍第二、第六艦隊であることが判ると対処法を話し合う。しかし、それは紛糾する事に
なった。
 ジオンが艦隊を分散している事から、相手はジェネシスαの存在を知っているのではないかとの意見が出る。
しかし、分散しているのは第六艦隊のみ。第二艦隊は戦力を分けることなくジェネシスαに近づいていた。
このジオンがジェネシスαの情報を知っているか否かは、ジェネシスαを発射する判断としては重要である。
もし、ジェネシスαの存在をジオンが知っていれば、相手は相応の対処をする筈で、三方に分かれた布陣も対
ジェネシスαの布石と見るべきだ。容易には発射できない。しかし、存在を知っていないとなれば、問題なく
ジェネシスαを発射できる。
 時間が無い中、会議はジェネシスαの存在を知っていると結論が出た。そして作戦は正面から迎え撃つ事に
決まる。最悪の事態を考慮しての結論であった。こうして会議は早急に終わりを告げる筈だったが、部屋では
指揮官達が残って議論を続けていた。指揮官の一部がジェネシスαの発射を進言したのである。

「貴様は話を聞いていたのか?」
「聞いておりました」
「敵はジェネシスαの存在を知っている。故に何らかの対策を練っているかもしれんのだぞ」
「しかし、正面から戦って、勝てるわけでもありません」

 進言したのはアデス、イザーク、ディアッカの3人である。彼らはシャアとの戦闘で生き残る唯一の部隊で、
その経験からジェネシスを使用せずに事態を逃れようと考える他の指揮官に異を唱えたのだ。

「貴様は我々の力が劣っていると言うのか!?」
「そうではありません。分散しているとはいえ、相手はザフト艦隊。一筋縄ではいきません」
「裏切り者は半数が新兵だ、取るに足らん!」
「半分が新兵と言っても、もう半分はフェイス並の実力者で構成されています」
「だからジェネシスαを放つと!?」
「それだけではありません。赤い彗星が率いるニュータイプ部隊もいるのですよ!」
「そうそう。慎重になるべきだと思いますがね」

 アデス達の反論に、周囲のものから罵声が飛んだ。ジオンが強力であるのは周知の事実だ。自分達はそれを
知った上で鍛錬を重ねてきた。それなのに何故ジェネシスαを撃たねばならないのか。彼らの耳にはアデス達
の進言が「お前達では返り討ちに合うぞ」と聞こえていた。
 特にニュータイプ部隊の存在が彼らを感情的にさせていた。ニュータイプは、新人類を自称していた一部の
コーディネイター至上主義者にとって肯定する訳にはいかない存在。是が非でも自らの手で打ち倒し、自分達
が新人類である事を証明する。そんな欲望に駆られていたのだ。

「くだらん、ニュータイプなど幻想にすぎん!!」
「ニュータイプ部隊とて、実力も無いのにギレン親衛隊には抜擢されないだろう……」
「いずれにせよ、我々の部隊とて古参兵で固まっているわ。皆がフェイスクラスと言っていい!!」
「さよう、動かせる艦艇で確固撃破を行なえば迎撃は可能だ!」
「その点は俺達も同意だ。しかし、奴らを甘く見ては痛い目に合うぞ!」

 そこに議論が終わらないと悟ったウィラードが割って入った。

「今は言い争いをしている場合ではないのだ。我らが団結しなければジオンに勝つことは出来ぬ」
「ウィラード隊長、改めて進言します。ジェネシスαを撃ち、敵戦力を少しでも軽減すべきです」
「アデス君、君の言いたいことはわかるぞ」

 周囲から文句を出る前に、ウィラードが静かに口を開く。

「確かにジェネシス程の存在となれば、如何に敵が対処法を考えていても大小関係なく損害を与えられる」
「その通りです。それにサトー隊長もいません」

 ジャンク屋組合に核動力のテスタメントを受け取りに行ったサトーはまだ戻っていなかった。連絡によると
ジオンの警戒が厳しくなっているらしい。いざとなれば単機で突入すると言っていたが、今回の防衛戦に間に
合うかどうかは不透明だった。

「サトーが戻るまで待つ必要は無い!」
「こちらにはゲイツRもあるのだぞ!」
「そうだ。テスタメントが無くてもいける筈だ!」

 周囲が騒然とする中で、ウィラードは話し始めた。

「アデス君、敵指揮官はキリングだ。奴はヤキンの戦いでダミーを用い私の眼を欺いた。今回も同じ手に出た
らどうする。貴重な時間と物資を浪費するだけだ。それに、仮にジェネシスαを撃ち、この戦闘に勝利したと
しよう。そうなれば今度は、ジオンのジェネシス、もしくはNJCを搭載した核ミサイルが、艦隊の代わりに
放たれるだろうな……」

 ジェネシスや核兵器といったもので殲滅する。通常戦力で落とせなければそれも当然だろう。それどころか
ジェネシスαを撃った瞬間に、その存在を危険視され、ジェネシスを撃たれる可能性もある。そうなれば退避
する暇もなく、本拠地ごと消滅するだろう。
 しかし、それらは過程の話である。アデスが納得する筈もない。

「以上の理由から、今回の戦闘でジェネシスαは撃たん」

異議を唱えようとするアデスだったが、横から思わぬ邪魔が入った。

「それでも加速装置は使わせてもらうぞ」

 一同が声のした方を向く。そこには会議に出席していなかったグレイ・アッシュの姿があった。
 嫌われ者の登場に、真っ先に口を挟んだのはイザークである。

「軍議に遅れるとは、何を考えているのです!」
「少し黙るんだな、オカッパ頭」
「オ、オカッパッ!?」

 アッシュはイザークを軽くからかうと、ウィラードの前に立つ。

「リジェネレイトはジェネシスαが有ってこそ力が発揮できる。まさか、嫌とは言うまいな?」
「それについては構わん。ライトクラフト・プロパルジョンの使用は君に一任しよう」

 ライトクラフト・プロパルジョンとは、ジェネシスαに備え付けられたレーザー加速システムの事である。
本来の外宇宙航行技術の一部を転用したもので、ジェネシスαから発射されたレーザーが、リジェネレイトの
推進剤を燃焼させて驚異的な加速を可能とさせるのだ。
 核動力のリジェネレイトは解放戦線にとって切り札に近い。それを最大限に活用するにはライトクラフト・
プロパルジョンを使用するしかなかった。

「但し、攻撃目標はこちらの指示に従ってもらう」
「それで構わない。では、早速戦争の準備をしようか」

 アッシュはライトクラフト・プロパルジョンの使用許可を得られると、満足したように退室していった。

「これにて会議を終わる。各自、己の任務を全うせよ」

 軍議が終了し、各々が席を立つ。
 そんな中で納得の行かないアデスは、イザーク達へ先にヴェサリウスに戻るよう言うと、自身はもう一度
ウィラードに進言すべく彼を呼び止めた。

「ウィラード隊長、待ってください」
「何かね? もう結論は出たが……」
「隊長、近づく敵艦隊はどのようにして察知したのですか?」
「一体何の話を……?」
「目視なのか、レーダーなのか。答えてください」

 一瞬の沈黙の後、ウィラードは口を開く。

「レーダーだ」
「なるほど。つまりミノフスキー粒子は散布されていなかった訳ですね」
「それがどうした? 問題は有るまい」
「いいえ、大問題です!」

 ジオンは今までミノフスキー粒子濃度を高め、隠密裏に接近、強襲を加えるのが定石だった。それを今回は
行わずに自らの居場所を晒すような真似をしている。

「十中八九、我々を誘い出そうとしているのではありませんか」
「……先の軍議で言ってもらいたかったな」
「言おうとしました。ですが、アッシュ隊長が間に入って……」

 一部隊の指揮官でしかないアデスとは違い、アッシュは解放戦線内でもウィラードに次ぐ立場にいる。温厚
なウィラードならアデスの言葉も聞くが、彼に直接意見の言えるものはウィラードかサトーぐらいだった。

「今からでも遅くはありません。ジェネシスαを使用すべきです」
「それは出来ない」
「何故ですか? ジオンに奪われたジェネシスが発射されるからですか」
「その通りだ」

 その言葉にアデスは愕然とする。基地ごとジェネシスによって消滅させられる危険性は確かにある。しかし、
それは通常戦力で護った場合でも同様ではないか。ジェネシスαを使わずにしてギレン親衛隊を迎撃すれば、
ギレン総帥の顔に泥を塗ることになるのだから。そもそもそんな事を一々恐れていては、プラント解放戦線は
何も出来なくなってしまう。
 アデスは不満を述べようとしたが、それはウィラードに静止される。そして、立ち話も何だろうとばかりに
自身の部屋へと招きいれられた。

「ジェネシスが発射されたら、我々は第六艦隊に負けられないじゃないか」
「……仰る、意味が分かりません」

 そしてアデスは、ウィラードの真意を知る事になる。

「アデス君、次の戦闘で我々解放戦線は負けるべきなのだよ」
.
               *     *     *
.
 オリヴァー・マイ技術中尉はニコルと共に、ルソーの格納庫にいた。格納庫には、ニコルが持ってきたMS
が並んでいる。既に格納庫内のあちこちでは、整備員らがそれらの整備や調整に当っていた。

「いい機体だ。あのMS-06をここまで改良するとは、見事だよ」

 マイは素直にプラントのMS開発技術を褒めた。ザク・ウォーリア、ザク・ファントム共にゲイツと互角に
渡り合える性能を持っている。戦時に、このような機体を開発されなくて良かったとさえ思うほどだ。

「大した事はありませんよ。元の性能が高いおかげです」

 ニコルの言葉も決して誇張ではなかった。ザクの汎用性と拡張性はジンを遥かに上回る。そうでなければ、
新型ザクは完成しなかったのだから。
 ニコルは、マイと話すにつれ、彼が純粋な技術者である事を知った。ニコル自身は純粋な技術者ではないが、
彼の技術に対する姿勢は評価を高める事になる。

「ニコル君、君に話さなきゃならない事がある」

 そんな談笑していた2人だったが、マイが真顔で切り出した。

「こんな話をするのもなんだけど、僕はウソをつくのが苦手だから正直に話すよ。僕はこれらの新型機を試験
評価する立場にある」
「……はい」
「何故こんな事をするのかというと、はっきり言って上層部は君達と新型MSを信用していないからだ」

 彼らが来た時から分かってはいたが、面と向かって言われるのは良いものではなかった。
 マイがやって来た時、ニコルはジオンが元ザフトを信用していないと理解した。そりゃそうだ。数ヶ月前は
互いに憎しみあい、殺し合いをしていたジオンとザフトだ、信用するほうがおかしい。ザフト艦隊に新型機を
優先したのも、プラントが造った機体などに乗りたくないからなのだろう。
 マイは自身の発言にショックを受けるニコルを見て、慰めるように言った。

「そんなに落ち込まないでくれ。僕は信用してるんだ。あのMS-06をここまで進化させるなんて、レム中佐
以外は無理だと思っていた。そんな機体を君や君のお父さんは造った。技術者として尊敬するよ」

 マイは、ルソーに転属する前、第603技術試験隊に属していた。そこで数多くの試作兵器を見てきた彼は、
兵器と同時に、それにかかわる多くの人とも出会った。歴戦の砲術士官やテストパイロット、元戦車兵に頭の
固い大佐、自分の恩師もいた。
 多くの兵器は、欠陥兵器の烙印を押されて、戦場に投入されていった。しかし、誰もそれを不満に思う者は
いなかった。自分の仕事に誇りを持っていたからだろう。

「それに新型機は若いパイロットには好評だけど、ベテラン兵が遠ざける傾向もある。ゲルググの配備を断り、
高機動ザクを愛用していたパイロットもいるらしいよ」
「ええっ!?」

 マイの言葉にニコルは驚いた。ザフトのパイロットは、同じ機体を使い続けるよりも、より高性能な機体に
乗り換える傾向があった。中にはイザークの様に、愛機を改造してまで使い続ける者もいるが、大半は高性能
機に率先して乗る。これは機種転換訓練を殆ど必要としないコーディネイターが故の傾向だった。

「そういった考えでは、僕達は君たちに比べて遅れているのかもね」

 ハハハッと笑うマイ。その時、艦内に警報が鳴り響いた。見ると、アスランがグフ・イグナイテッドに乗り
込む姿がある。

「そろそろ作戦開始時刻か……。観測ポッドの使い方は覚えたかい?」
「はい!」
「流石だ。僕はザクの観測をするから、グフは君に任せるよ」

 マイは思った。ニコルや彼の父ユーリも同じだ。与えられた役割に最大限の努力を行い、予想以上の機体を
完成させた。そして建前とはいえ、機体の発表も行なった。後は、実戦において十分な戦果を上げられれば、
新型グフ・ザク共に日の目を見ることになるだろう。
.
               *     *     *
.
 第六艦隊は2つの分艦隊に分けられていた。シャアが指揮するニュータイプ部隊と、ユウキ指揮するザフト
艦隊である。トワニング自身はキリングを補佐する為に第二艦隊に随伴し、第六艦隊を2人の指揮官に任せた
のだった。彼は、キシリアの片腕として働いていたとはいえ、自分に艦隊を率いる将才は無いと自覚していた。
その為に、若くして力量を持つシャアとユウキに任せたほうが、結果は良くなるとの判断であった。

「まさか、ジェネシスαを撃ってこないとは……」

 左翼艦隊を任されたシャアは、シャリアから敵拠点から多数の艦艇が出撃している事を知り、驚いた。

「こちらが戦力を分散したのを警戒したのでしょう」
「ふむ、対策をしているとはいえ、撃たないのは意外だったな」

 プラント解放戦線も本拠地が狙われているのだ。何時にもなく慎重であるのは納得するが、いきなり自分の
分艦隊目掛けて突進するのは如何かと考える。相手にして見れば、それがニュータイプ部隊であると知らない
のかもしれないが……。
 シャア分艦隊は、旗艦のザンジバル級巡洋艦1隻にムサイ級軽巡洋艦6隻という布陣だ。ムサイ級は3隻で
一戦隊とし、指揮には部下だったドレン大尉とマリガン大尉をそれぞれ当てている。

「よし、迎撃するぞ」
『了解です、大佐殿』
『ジェネシスを撃たれないといいのですが……』

 シャアはドレンとマリガンにMS隊を発進させるよう命令した。ニュータイプ部隊は艦隊防衛に置き、敵の
攻勢には通常のMS部隊を当てたのだ。MSを蹴散らすのは容易ではあるが、あまりにも簡単に制宙権を得て
しまえば、敵はジェネシスαを撃つしか手がなくなり、ララァ達の精神に負担をかけてしまう。
 命を受けた両者はMS隊を発進させた。アンディにリカルド、デニムを長としたMS隊が各艦から出撃する。
彼らが乗るのは大半がザク改だが、中にはゲルググの姿もあり、解放戦線にとっては手強い相手となっている。
 これに対して解放戦線は新型のゲイツRから旧式のジンまで、ザフトの多種多様なMSで迎え撃つ。彼らは
ベテランから中堅クラスで構成されて練度も高い。その為かジオンのMSを相手にソコソコ善戦するのだった。

「左翼は戦闘状態になったらしいな」
「はい。そしてこちらにも敵が近づいています」
「……敵軍はウィラード隊長が指揮しているのか……」

 一方のユウキ有するザフト艦隊は、ジェネシスの左側、ジオン艦隊から見て右翼に陣を引いていた。旗艦の
"ボルテール"を含むナスカ級巡洋艦4隻、ローラシア級巡洋艦2隻という布陣だ。MSはザク・ファントムと
ザク・ウォーリア、ゲイツで構成されていた。
 彼らも敵の攻勢を受けつつあった。ユウキは即座にMS隊を発進させ、迎撃に当らせる。元フェイスが中核
となるザフト艦隊は質の面で解放戦線を圧倒していた。
 若いパイロットも初陣を経験しているのが幸いしていた。彼らは、アイザワ隊との戦闘やマイウス市襲撃で
生き残った兵である。焦りは感じてなかった。特にルナマリアは趣味で赤に塗装したザク・ウォーリアを駆り、
意気揚々と高エネルギー長射程ビーム砲を乱射する。

「待てルナマリア、いきなりオルトロスを放つのはやめろ」
「敵を発見したら撃つのは当然じゃない」
「お前は撃ちたいだけだろう。撃つなら敵を引き付けて、狙いを定めろ!」
「こういうのは数撃ちゃ当たるの!」

 これに対して解放戦線はゲイツRが中核となってザフト艦隊へ攻勢をかけた。ゲイツRはゲイツの改修機だ。
スラスターを増設し、機体を軽量化することによって、機動性・運動性の向上が計られている。武装は両腰の
エクステンショナルアレスターがレールガンに換装され、中距離での射撃戦も視野に入れていた。
このゲイツRには、当然ながらエース級が乗り込んでいる。ルナやレイ達では相手をするわけにもいかず、
アスラン、ハイネらが率先して対処に当っていた。

「実戦なのに、このはしゃぎようは何だ!?」

 アスランは腹を立てながら目の前のジンを破壊する。彼が乗るグフ・イグナイテッドはザク・ファントムや
ザク・ウォーリアとは違い、エース向けに開発された機体だ。接近戦が主体となるが、それでも1機で複数を
相手取れる機体ではあった。

「いきなり新型機を回されれば有頂天になるのも仕方がない。もっと肩の力抜けよ、アスラン・ザラ」
「分かっている……ん、アレは!?」

 そんなアスランの目に信じられない機体が映る。それは、嘗てヘリオポリスで強奪したG兵器のデュエルと
バスターである。つまりそのパイロットは……。
 アスラン考えるまでもなくデュエルとバスターに斬りかかった。一撃は惜しくもデュエルのビームサーベル
に阻まれるが、関係ないとばかりにテンペストを押し付ける。

「イザーク! それにディアッカか?!」

 アスランの叫びが接触回線で2人の耳に入る。

「アスラン!?」
「アスランだと!?」

 イザークが驚きをこめて彼の名を口にし、ほぼ同時にディアッカ自身も反応していた。

「貴様っ……よくも俺達の前に現れたな!?」

 士官学校で殆どの主席を自分から掠め取った戦友に、イザークは激昂した。
 アスランがジオンに下ったのは知っている。マイウス市を救い、英雄と呼ばれているのも聞かされていた。
だが、幾らプラントを護るためとはいえ、ジオンの犬に成り下がったライバルを許せないでいた。

「それはこっちの台詞だ! 2人とも自分のしている事を理解しているのか!?」

 アスランは同じ部隊にいたときとは違い、感情を込めて言い返した。イザークはむっとして怒鳴り返す。

「当然だ! 俺は奪われたプラントを俺達の手で奪還する為に戦っている!」
「マイウスを攻撃しておいて、よくもそんな事を言えるな!?」

 アスランの行動はプラントを護る一点しかない。一部の暴走とはいえ、プラントを直接攻撃する組織に属し
ているイザークを許せずにいた。

「あれは俺じゃない! 一部の人間がやった事だ!!」
「だったら降伏しろ! そして裁判で、そう弁解するんだな!!」
「それは出来ん! 母上の名誉にかけて降伏だけはっ!!」

 一方のイザークも、母であるエザリアが命を賭けてプラントを救おうとした事を聞き、引き下がるわけには
いかなかった。
 デュエルはグフ・イグナイテッドのテンペストを数度受けると、ミサイルをばら撒きながら距離を取る。

「いきなりキツイ返事だな、アスラン」
「ディアッカ! お父上のタッド元議員はプラント存続の為に身を粉にして働いているのに!」

 ディアッカも、アスランの降伏勧告に乗るつもりは無かった。彼自身はプラント奪回に興味は無いのだが、
自分が持った部下――シホとアイザック――の面倒を見る事と同時に、彼の持つ父親へのコンプレックスが、
解放戦線への参加理由となっていた。

「あいにくと親父は関係ないんでね!」

 デュエルの攻勢に合わせて支援するバスター。しかし、2機がどれだけ頑張ってもグフ・イグナイテッドを
仕留めることはできなかった。2対1とはいえ、パイロットとしての力量はアスランの方が上であるに加え、
機体性能もグフ・イグナイテッドが一枚も二枚も勝っている。それにアスランだけに構っている暇も無いのだ。

「ジュール隊長、前線を突破できません!!!」
「敵の戦力は予想を超えています。ここは一旦後退するべきかと……」

 慌てるアイザックと冷静なシホの言葉に、イザークは舌打ちする。だが、確かにこのままでは状況が変わる
訳でもない。それに自分とディアッカは頭を冷やすべきだと考え、部隊に退くように言った。

「いったん退く。一度立て直すぞ」
「悔しいけど、そうするしかないね」

 アスランが執拗に追ってきたが、シホ達の支援もあって何とか後退に成功する。しかし、予想を上回る敵の
戦力を肌で感じ、イザークとディアッカは苦々しく感じていた。たった一度の交戦で、MS部隊の五分の一が
撃破されてしまったのだ。こちらも何機か落としたが、それは全てゲイツであり、新型機であるザクとグフは
含まれていない。

「クソッ! 何なんだ、アイツの機体は!?」

 言うまでも無く、アスランのグフ・イグナイテッドである。
G兵器とグフ・イグナイテッドでは機体の世代が1世代違うと考えられた。特に接近戦が、アスランの腕と
重なって凄まじいものになっている。デュエルはアサルトシュラウドを外して機動力を上げることが出来るが、
ザク・ファントムに乗るパイロットもかなりの腕なのだから、果たしてそれで対応できるかは不透明だ。

「サトー隊長さえ居れば、奇跡が起きるものを……」

 ジェネシスαを発射しないとなれば、唯一の希望はサトーのテスタメントだ。核動力なら機体出力に膨大な
エネルギーを使うことができる。幾ら新型グフでもバッテリ機であるの違いない。そうなれば接近戦で優位を
保てる。同じ理由でリジェネレイトも当てはまるが、イザークは考えの相違から選択肢を放棄していた。
.
               *     *     *
.
 解放戦線本拠地がジオン艦隊の攻撃を受けているとの情報は、進撃中のサトーにも届けられた。

「ジェネシスαが!?」
「ああ、30隻程度の艦隊が包囲している。こりゃあ近づくのも困難だぞ」

 サーペントテールの宇宙船のブリッジで、サトーはウェラーの言葉に顔を顰める。

「何とかならないのか」
「難しいといったろ。この船は民間からの払い下げで武装がない。戦闘宙域に突入なんて自殺行為だぜ」

 完成したテスタメントを受領したサトーは、直ぐにでもジェネシスαに戻りたかったが、マイウス市襲撃を
契機に厳重な警戒網が敷かれ、本拠地に向かうのが困難になっていた。ジオンが艦隊を動かしたことで警戒網
に僅かな隙ができた事、さらにサーペントテールに依頼した事で近くまで来たが、戦闘は既に始まっており、
ジェネシスαに近づくことは敵わなかった。

「そうか、致し方ないな………」
「何処へ行く」
「テスタメントの準備だ。事が既に始まっているなら、このまま戦闘に参加するのみ」

 格納庫へ向かうサトーの姿を見た一同は、隅に座っていた男――叢雲劾を見た。

「劾、どうする。このままだと奴さん飛び出して行っちまうぜ」
「俺はこのまま逃げたいね。ジオン艦隊と正面からやり合うなんて正気じゃない」
「でも、このままだと依頼は不達成。信用問題が発生するわ」

 ウェラーとイライジャ、ロレッタの3人が意見を述べる。彼らの言葉を聞き終えると、劾は決断を下した。

「俺達の依頼は解放戦線の本拠地までテスタメントを届ける事だ。ウェラーとロレッタは、シャトルで現地点
に待機していてくれ。俺とイライジャで、テスタメントを護衛する」
「ええっ!? お、俺も行くのか!?」

 ガックリと肩を落とすイライジャを無視し、劾は格納庫へ向かうのだった。
 かくしてサトーと劾、イライジャの3人は戦闘の真っ只中に突入する破目になる。