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Zion-Seed_51_第二部第18話

Last-modified: 2008-11-25 (火) 20:41:02

 右翼のユウキ艦隊が敵第1波を押し返したのとは対照的に、左翼のシャア艦隊は意図的に戦闘を続けていた。
解放戦線はウィラード本隊をジェネシスαに置き、残りの部隊を右翼と左翼に展開させた。この時、左翼を
任された部隊は、主力であるゲイツRにコーディネイター至上主義者で構成された艦隊だった。

「ニュータイプなど紛い物だ! 我々こそが新人類であることを、奴らの眼前で証明してやる!!」

 この作戦意図はニュータイプの存在を嫌う彼らに、ニュータイプを撃たせる事で戦意の向上を計ったもので
ある。事実、彼らの戦意は高く、自らが新人類である事を決定付けるべく、艦隊を中心に紡錘陣形を取りつつ、
シャアの艦隊に向かっていった。
 対するシャア艦隊の布陣は、中央にはシャア率いるニュータイプ部隊、その前面にシャリアが指揮する部隊、
両翼にアンディとリカルド、デニムらが指揮する部隊を置いた。
 戦闘が開始されると同時に、解放戦線のMSは中央のシャリア隊を突破するために前進する。これに対して
シャリアは、敵の感情が高まっている事を看破、少しずつ押されながら敵の猛攻を受け流していく。その間に
左翼のアンディとデニムの部隊が敵右翼戦力を圧倒、壊滅させる。一方、右翼のリカルドとスレンダーの部隊
と敵左翼部隊は互角の戦いを繰り広げていた。

「大佐、敵が密集しました」
「シャリア・ブルを下がらせろ。我々の出番だ」

 通信を受けたシャアは、猛攻を受けつつ計画的に後退していたシャリア隊を撤収、乱れた戦列を整えさせる。
そして自身が指揮するニュータイプ部隊を前進させた。数は少ないとはいえニュータイプ専用機を与えられた
部隊である。各機体から射出される"ビット"や"ドラグーン"が敵MSを押し込んだ。
 一方、敵右翼戦力を壊滅させたアンディとデニムの部隊は、足の速いドラッツェを右翼に回し、リカルドと
スレンダーの部隊と交戦している敵左翼戦力を挟撃した。戦力的に劣勢となった敵左翼はほどなく壊滅する。
 この結果、敵艦隊の左右はがら空きとなり、そこには一旦戦線を離脱した後、戦列を立て直したシャリア隊
とアンディ、リカルドの両隊が投入された。更に右翼の機体が合わさったドラッツェが後方に回り込んだ事で、
敵艦隊はシャア艦隊に完全に周りを取り囲まれてしまう。

「か、囲まれた! 後方の敵戦力が少ないから、反転迎撃するか!?」
「冗談じゃない。そんなことをすれば全滅する、このまま前進だ!」

 シャアはこの戦いが困難である事を理解していた。単純に勝利を収めるならそれは容易い。しかし、彼には
護らなくてはならないニュータイプという存在がいる。もしも、自分の部隊が解放戦線に圧勝してしまえば、
ギレンはニュータイプの利用価値を高めるだろう。そうなれば彼らは、"優秀な兵器"として扱われ、老若男女
関係なく、戦争に投入されてしまう。
 今の時代では、ニュータイプが兵器として扱われるのは仕方がないのかもしれない。だが、それがギレンの
野望に利用されるなど、シャアには我慢できずにいた。
 結局、シャアはニュータイプ部隊に余り活躍させずに勝利するしかなかった。それにはニュータイプの力で
勝ったのではなく、自分の戦術で勝ったように見せる必要がある。

「残念だったな。私に出会った不幸を呪うがいい」

 相手は中央突破を試みるようだが、完璧な包囲の前に、彼らはジワジワと弄り殺されるしかなかった。
.
.
――――第2部 第18話
.
.
「イザークとディアッカは何を考えてるんだ!?」

 一旦ルソーへ帰還したアスランは、グフから降りると、栄養ドリンクを引ったくりながら怒鳴り散らした。
嘗ての戦友が敵に、それもマイウス市を攻撃した解放戦線に属していた事に怒り狂っていたのだ。
 あの2人とは、士官学校からの腐れ縁であったが、それ程仲が良かったわけではない。イザークは一方的に
自分をライバルと思っていたし、ディアッカはニコルをいじめていた。それでもシャアとの戦闘後には、少し
だけ打ち解ける事ができ、自分の背中を預けられる位の信用はするようになった。それなのに……。

「まさかあんな奴等と一緒にいるなんて、どうかしてるぞ!!」
「おいおい、いきなり怒鳴るもんじゃないぜ」

 そんなアスランの怒号を聞きつけたハイネが声をかけた。

「ヴェステンフルス大尉……」
「ハイネで良いよ。そんな堅苦しい。ザフトのパイロットは、それが基本だろ」
「ザフトはもう無くなりました」

 その言葉にハイネは肩をすくめる。

「お堅い奴だな……それより、何を怒ってたんだ? 敵に顔見知りでもいたか」

 ハイネの図星にアスランは何でもないと返すが、感情が顔に出ていたのか、ハイネはしつこく追求してきた。
その顔は、普段見せるムードメーカーの顔ではなく、1人の軍人の顔だった。

「昔の仲間が敵になると戦えないか」
「たとえ知り合いであっても、敵になるなら容赦はしません。ただ……」
「ただ、何だ?」
「あいつ等が、プラントを攻撃するような奴等と一緒にいるのが信じられなくて」

 無理をしている、そうハイネは感じた。さっきまではお堅い軍人を演じていたが、知り合いの話になると、
素が表情に出ている。口では「容赦しない」と言っても、本当にそれが出来るかどうか……。
 これ以上、彼に戦闘を行なわせるのは危険かもしれない。そう思い始めると、背後から声が掛かった。

「大尉、ザラ大尉!」

 興奮冷めやらぬといった表情で駆けてきたのはオリヴァー・マイ技術中尉である。

「いや見事です、大尉。グフがあんな機動するなんてはじめて見ました。と言っても、僕はグフが地上を走る
所しか見た事はないですが……」
「……ありがとうございます、中尉」
「ところで、ご相談があるのですがよろしいですか?」

 これから出撃にもかかわらず相談とは非常識だ。アスランは有無を言わさずに返答する。

「後にしてくれないか。今は敵の第二次攻撃が迫っている」
「その第二次攻撃の前に相談したいのです」

 アスランは仕方なく頷くと、マイは予想もしない要望を言った。

「大尉の交戦記録に連合のG兵器がありました。デュエルとバスターです」
「…………それがどうした」
「今後の研究の為に拿捕してほしいのです。前にシャア大佐がブリッツを鹵獲しましたが、あれはミラージュ
コロイドの原理を調べるのに時間をかけてまして、PS装甲に関しては手付かずなんです」

 マイの要望を聞き終えたアスランは立ち上がると、「要望には出来るだけ答える」とだけ告げて鎮座するグフ・
イグナイテッドの方へ歩いていった。
 その後姿を見るマイに、ハイネが声をかけた。

「G兵器のデータなんざ、ザフトのデータベースを漁れば出てくる。今更実機は必要ないだろう?」
「前の部隊にいたとき、彼のような目をした多くの人に会いましてね。彼に友人を殺させては、後悔しか残ら
ないでしょう」
「なるほどねぇ」

 ハイネは素直に感心した。始めは自分達を監視しにきたのかと思っていたが、目の前にいる中尉はそうでは
ないらしい。となると、やはりお目付け役は"もう1人"の方か……。

「だから拿捕させるか、意外に策士だな」
「そんなんじゃありませんよ。……それより、彼のフォローを頼みます」
「フッ、任せときな」

 返答と同時に警報が鳴り響いた。
.
               *     *     *
.
 再びアデスとユウキの戦いが始まったが、直ぐに膠着した。互いに決め手が無く、攻めあぐねていたのだ。
戦況が動いたのは、ユウキが艦隊を進めてからである。当然、艦隊に解放戦線のMSが砲火を集中させるが、
すぐさまアスラン達に妨害されてしまった。
 艦艇が怯まずに前進したおかげで、最小限のダメージでMS隊を突破する事に成功する。これでユウキ艦隊
はアデス艦隊と真正面から相対する事になった。

「向こうはナスカ級が4隻。ローラシア級が2隻ある分こちらが有利だが、相手は百戦錬磨のアデス艦長だ。
戦力の差は無いと考えるべきだろう」
「ユウキ大佐、やはりこの突破は無理があったのでは?」
「無理は承知だ。しかし、解放戦線は我々"ザフト"の手で倒さなければならない」

 自分達のような元ザフト将兵がジオンの信用を得るには、目に見える形での功績を作らなくてはならない。

「それに私は託されたからな」
「は?」
「気にするな……砲撃戦用意。何としてでもここを突破し、敵の本陣を叩く!」

 ジオンに吸収された以上、プラントが国として独立するのは不可能となった。となればジオンという国家の
中で地位を確立するしかない。その為に、プラントはジオンを納得させるだけの実績を作らなくてはならない。
そこでウィラードが、プラント敗北に納得のいかない将兵をまとめ、プラント解放戦線という組織を作った。
ユウキ達に自らを討たせ、プラントの地位を向上させる為に……。
 ヤキン・ドゥーエ陥落時、ユウキはウィラードからこれらの真意を聞かされた。だからこそ、自分の艦隊で
解放戦線を討たなくてはならないのである。
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               *     *     *
.
「レイ・ユウキ。特務隊フェイスの元隊長か」

 ユウキが士気を上げる一方で、アデスは考え込んでいた。
 軍議の後、作戦内容に異を唱えたアデスは、プラント解放戦線は眼前にいるユウキ艦隊に討たれ、プラント
の評価を上げる生贄でしかないと聞かされていた。彼もまた、ウィラードの真意を知ったのである。

『何故です。何故、それを私に……?』
『君は有能だ。ここで死なすのは惜しい。だから君の部隊は自由にしてよい』
『それは!?』
『最後までジオンと戦うもよし、投降するのもよし。向こうの指揮官はキリングだ。私に無理矢理命じられた
と言えば、ユウキ君もいる手前無下にはしまい』
『し、しかし!!』
『いいか。私はこれから死ぬが、それを止めようとはするなよ。アッシュがマイウスを襲ったおかげで、私の
悪名も広まっている。助けなどしては、君や君の部下も巻き込まれるぞ』

 アデスはウィラードとの会話を思い出しながら呟いた。

「グレイ・アッシュを自由にしていたのは、そういう理由だったか……」

 彼はウィラードを止める気にはなれなかった。尊敬する上官が最高の死に場所を見つけた事を悟ったのだ。
それを止める権利は自分には無い。
 そうなると次に考えるのは自分がどうすべきかだ。今は戦闘を継続させているが、このまま戦い続けるのが
正しいのか迷いがあった。部下が生き残る事を思えば降伏するのがベストだが、間違いなくイザーク達が反発
するだろう。何かの"切っ掛け"があれば別だが……。
 アデスは溜め息を吐きつつ、迎撃命令を出した。

「アンチビーム爆雷投下。迎撃態勢を執れ!」

 艦船も巻き込む乱戦となったが、ユウキが有利であることに変わりはなかった。艦隊戦はほぼ互角の戦いを
進めていたが、MS戦で力の差が出始めたのである。
 解放戦線のMS隊は、最初こそイザークやディアッカが中心となって互角の勝負をしていたが、時間が経つ
につれて疲労が出てきた。
 アスランのグフ・イグナイテッド、ハイネやホーキンスのザク・ファントム、そしてルナマリアやレイのザク・
ウォーリアにイザークやディアッカのエース級が対抗するが、機体性能はグフやザクが上、パイロットに疲れ
が出れば敗北は確実だ。

「イザーク! 今すぐに投降するんだ!!」
「ふざけるな! 母上の命を賭した思いを裏切れるものか!!」
「ええい、このマザコンめ!!!」

 叫び声を上げるが、この時のイザークは疲労困憊だった。アスランが鹵獲を優先していたので、何とか持ち
応えてはいたが、このまま戦闘を続ければ間違いなく負ける。ゲイツRのシホ達はハイネに遊ばれているし、
ジンやシグーといった2級線の機体はゲイツの対応が出来なくなっている。

「副隊長、状況はこちらに不利になっています。このままでは突破されます」

 アスランを押さえるのに必死なイザークではなくディアッカに通信を入れるシホ。それでも事態が好転する
筈も無く、このまますり潰されてしまうと思われたとき、戦場に3機のMSが来襲した。
 3機のMSに気付いたユウキ側のゲイツは、明らかにジオン製ではない機体を敵機と判断して攻撃を加える。
だが、内1機が凄まじい加速で接近、ビームサーベルで一刀両断してしまう。動揺したゲイツのパイロットは
数機掛かりで取り囲むが、後方からのもう1機がガトリングガンを正射して撃墜してしまう。

「あの機体は、テスタメント!!」
「テスタメント!? じゃあ、あれにはサトー隊長が!!」

 完成したテスタメントは、ザフト版ストライクとも言える機体で、完成してなかったストライカーパックを
装備していた。また、PS装甲を改良したVPS装甲を搭載しており、攻防共に高い性能を持っていた。今は
エールストライカーを装備し、その高機動を如何なく発揮している。
 そんなテスタメントに乗る解放戦線No.1エースの登場にシホとアイザックが沸き立つ。劾のブルーフレーム
とイライジャのジン改を従えたテスタメントは、ユウキ側のゲイツ隊を片端から壊滅させている。その強さは
"鬼神"と評するに値していた。

「助かった、サーペントテール。ここまでで結構だ」
「……分かった。これで契約は成立だな」

 劾はそう言って通信を切り、逃げ惑うイライジャを連れて離脱していく。サトーはそんな2人を見送ると、
ユウキ艦隊に視線を向ける。

「さて、よくも私が居ない間に好き勝手してくれたな!」

 サトーの来襲でMS戦は再び混戦と化す。グフ・イグナイテッドとデュエル、バスターが拮抗する状況下で、
ザク・ファントムにテスタメントが互いの相手に損害を与え続けていた。
 そんな両機が激突するのは必然とも言えよう。怒気を撒き散らしながらゲイツの群れを破壊していくサトー
のテスタメントにホーキンスのザク・ファントムが切りかかったのだ。突然の横からの斬撃にサトーは瞬時に
反応して一撃を受ける。

「格闘戦か、受けて立とう!」
「……」

 雄叫びを上げながらビームサーベルで斬りかかってくるテスタメントを迎え撃つザク・ファントム。一撃を
受け止めることなく避けると、ミサイルを撒き散らしながら距離を取った。
 サトーはホーキンスが接近戦を望んだと思い込んだが、実際にはそうではなかった。ザフトに長く勤務し、
上層部からも信頼が厚かったホーキンスは、テスタメントが核動力であることを知っていたのだ。幾ら新型の
ザクと言えど、核動力機を相手に接近戦を挑むのは無謀である。

「…………」

 挑発するように指を動かすザク・ファントム。テスタメントの危険性を知っているホーキンスは若いハイネ
達では抑えられないと判断したのだ。
 一方、サトーはホーキンスの行動に怒りはしなかった。テスタメントをよく理解している人間だと悟ったの
である。この状況で冷静に敵機を分析する相手にサトーは警戒心を持った。

「こいつ、白服クラスか!!」
「…………!」

 テスタメントがビームライフルを構えつつ突っ込み、ザク・ファントムの後を追う。このザク・ファントムも
ブレイズウィザードという高機動型バックパックを装備しているが、やはり核を動力源とするテスタメントの
加速力には劣る。それもミサイルとビーム突撃銃で牽制する事で何とか持ち応えていた。
 そんなホーキンスを援護するようにハイネのザク・ファントムがビーム突撃銃を撃つ。これに気を取られた
テスタメントが機動を変えた。

「ホーキンス隊長、後退して下さい。そいつは危険です!」
「……ッ!?」
「確かに、ルナ達の援護も必要ですが!」
「ッ!!!」

 長年苦楽を共にした上司に死んでほしくないが、ホーキンスが抜けた穴を埋めているルナとレイに疲労が出
始めている。2人から目を離したら落とされかねない。
 ハイネの心配も余所に、ホーキンスはテスタメントと相対する。テスタメントの強力なビームを避けながら
閃光弾を投げつけて視界を奪う。だが、持ち前の戦闘技術を総動員しても、こと戦闘経験に関してはサトーが
上回った。シールドで閃光を遮ると、ホーキンスの攻撃の隙を突いたのだ。動きの止まったザク・ファントム
にビームが撃たれ片足を直撃。体勢を崩す間にテスタメントが接近し、胴体を両断してしまった。
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               *     *     *
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 二つに分かれた第六艦隊が戦闘を続行している頃、ジェネシスαの前に陣取っていた第二艦隊へ向けて1機
のMAが飛翔していた。そのMAはジェネシスから一直線に、速度を落とすことなく第二艦隊に疾走していた。

「クックックッ……。単機で敵旗艦を落とせとは、無理を言うジジイだ」

 そのMA――リジェネレイトのコックピットでは、グレイ・アッシュが言葉とは裏腹に笑みを浮かべていた。
彼はウィラードの要請により、敵旗艦"ティベ"を撃破して戻ってくるよう命令されていたのだ。
 ジオン側の主力である第二艦隊を攻撃するには2つの方法があった。一つはジェネシスαを放つ事。しかし
これは敵が対策を取っている可能性を考慮して却下されている。もう一つは、通常戦力によって攻勢をかける
事なのだが、先に第六艦隊を撃破しなければ送った部隊が包囲される危険性があった。そうなると残る手は、
一撃離脱に特化しているリジェネレイトの強襲である。

「ライトクラフト・プロパルジョンによって加速されたリジェネレイトは誰も止める事など出来ないのだ!」

 ジェネシスαから光線を発射し、それをMA形態となったリジェネレイトの後部で受ける。すると普通では
考えられないほどの加速力を生み出した。道中で偵察らしきザクと鉢合わせするが、アッシュはそれに構わず
第二艦隊目掛けて宙を駆け抜けた。
 アッシュは新しい玩具を手に入れた子供のようにリジェネレイトを乗り回す。このときアッシュが、周囲の
ミノフスキー粒子濃度を調べていれば、戦況は変わっていただろう。
 数分後、デブリを避けながら進むリジェネレイトは、遂に第二艦隊を目視できる距離まで近づいた。そこに
は旗艦ティベを筆頭とする第二艦隊が並んでいる――筈だった。

「何だ、これは!!?」

 ところが、アッシュは信じられない光景を目にする。そこにはジオン軍の艦艇を象った"ダミーバルーン"が
浮んでいたのである。ジオンはダミーに熱源を付けて艦隊を偽造していたのだ。

「お、お、おおおおのれぇぇぇっっっ!!!」

 自慢のリジェネレイトで遊ぶ機会を失ったアッシュは、当り構わずビームを乱射した。明らかにエネルギー
の無駄遣いだか、今回ばかりはそうでもなかった。
 アッシュが乱射したビームの一つがダミーを貫く。するとダミーの背後から十数機のゲルググが現れたのだ。
中央では白いゲルググ――それも最新機種のゲルググイェーガー――がビームマシンガンを構えている。

「ふむ、我々が隠れていたのに気付くとは……。伊達に核動力機を与えられていないという事か」

 そう呟いたのは"白狼"と呼ばれるエースパイロットのシン・マツナガ大尉であった。キリングは解放戦線が
ジェネシスαを発射しないと見るや、第二艦隊に部隊を差し向けると予測し、マツナガが指揮する精鋭部隊を
伏兵として置いたのである。

「しかし、これは理解できんな」

 当初マツナガは、一個中隊はぶつけてくると読んでいた。しかし、現れたのはリジェネレイト単機である。
虎の子である核動力機を捨て駒のように扱う解放戦線を不可思議に思った。
 アッシュは、そんな疑問にさえも気付かないばかりか、本隊への通信も行なわずにロングビームライフルを
ゲルググイェーガーに向けた。

「キサマァァァ!! よくも騙してくれたなぁぁぁっ!!!」

 一方のマツナガも考えるのを止めてリジェネレイトと相対する。

「感情を処理できないと、一端の軍人にはなれんぞ」
「ふざけるなぁぁぁっ!!!」

 冷静さを失ったものは負ける。それは戦場では当たり前の事であるが、予想に反してアッシュの射撃は正確
だった。こちらが回避する事を予測して、避けたその瞬間を狙ってくる。
 マツナガはすんでの所でビームを避けると、今一度気を引き締め、部下に援護するように命じた。
.
               *     *     *
.
 アッシュがマツナガ隊との戦闘状態に入った頃、キリング率いる第二艦隊は解放戦線が事前に確認した位置
よりも遥か後方に布陣していた。

「組み立て作業が終了しました」
「観測隊、配置に就きました」

 次々と報告が入る中で、艦隊司令キリング中将は腕組をしながらジッと聞き、その横ではトワニングが戦況
報告をまとめている。

「第六艦隊の様子は?」
「シャア大佐、ユウキ大佐共によくやっています」
「うむ。彼らが陽動してくれねばこの作戦は上手くいかんからな」

 第二艦隊が後方に布陣した理由はジェネシスα対策の為であった。
 ジェネシスαの存在を知ったウィラード達は、それに対抗する為に、事前に入念な情報収集を行なっていた。
得られたのはジェネシスαがあくまでも試作機であるのでPS装甲を有していないという事のみであったが、
それだけでも対策を考える上で十分なものだった。

 ジェネシスα対策に出た案の一つは衛星ミサイルによる破壊である。PS装甲という実体弾に対して絶対の
防壁でないのなら、十数発の衛星ミサイルで破壊は可能と考えた。
 経済的にも最良の方法であると皆が思ったが、複数の問題が起きた。弾速が遅い事が槍玉に挙げられたのだ。
攻撃は、ジェネシスαが放たれる事を考慮しなければならないので、遠距離からによるものとなる。衛星ミサ
イルを発見された場合、衛星ミサイルが到達する前にジェネシスαで迎撃されてしまう。
 そこでウィラードはヤキン・ドゥーエ攻防戦で囮としての役割を果たした巨砲"ヨルムンガルド"を使用する
事にした。PS装甲を備えた完成品にすら損傷を与えた大蛇であれば、その弾速は衛星ミサイルの比ではない。
唯一の短所は運用が困難な事だが、それもダミー艦隊で相手の注意を引き、事なきを得た。

「閣下、間接射撃指示が送られてきました」
「直にヨルムンガルドへ回せ」

 彼は満足げに頷くが、内心では別の感想を持っていた。

(これでジェネシスαの脅威は無くなるが……。残る解放戦線はどうすべきか)

 殲滅するか、降伏をさせるかの二択である。キリングは、出来れば降伏させようと考えていた。解放戦線は
地上に残る残党軍とは比べ物にならない戦力を有している。これと真正面から戦えば、勝ったとしても自軍の
損害は大きくなるだろう。

(ギレン総帥は戦争継続を考えているようだ。戦力の低下は防ぎたいところだが……)

 そこまで考えた後、ふと彼は第六艦隊が襲撃された事件を思い出した。思えばあの襲撃は何処の勢力だった
のだろう。常識的に考えれば解放戦線の仕業なのだが……。

「閣下、全ての準備が整いました!」
「むっ、そうか」

 キリングは一先ず思考を切り替えると、戦術モニターを見ながら命令した。

「砲撃を開始せよ! 目標はジェネシスα!!」

 キリングの指示を受けてヨルムンガルドに蓄えられていたエネルギーが一気に解放された。恐るべき密度を
持ったプラズマ砲弾は、標的となったジェネシスαに命中する。無防備な外郭部を貫き、砲弾の磁場が周囲の
外壁に更なる損傷を与えていく。
 続けて第2射が発射される。今度は解放戦線も砲弾を防ごうと弾幕を形成するが、それを防ぐ事など不可能。
砲弾はジェネシスαの動力源である核分裂炉に直撃する。
 数分後、ジェネシスαは完全に崩壊していた。
.
               *     *     *
.
「な、何が起こった?!」
「砲撃だ! ジェネシスαが砲撃を受けた!!」
「そんな、馬鹿な!!」

 解放戦線旗艦"ベルヌーイ"の艦橋は、混乱の中で状況を確認していた。報告からジェネシスαが遠距離から
の砲撃を受けて崩壊した事が分かると、混乱は一層に増した。解放戦線の切り札が、簡単に失われたのだから
当然といえる状態だ。最早、勝ち目は無くなったと言っていい。

「終わりだな……」

 黙って座っていたウィラードが重い口を開いた。それは敗北宣言と取れる言葉だ。

「何を言います。まだ、これからですぞ!」
「そうです。我が軍は戦えます!」

 周囲の参謀がウィラードの言葉に反対する。もしここで降伏してしまえばプラント解放戦線が決起したのは
何だったのか。ジオンからのプラント解放を掲げた我々の、これまでの屈辱にまみれた戦いは何だったのか。
そんな思いが彼らの言葉から感じ取れた。

「では、君達は負けると分かっても戦うというのか?」
「例え死しても我々の志を継ぐ者が必ず現れます」

 ウィラードは彼らの言葉を聞き終えると、少し間を空けて答えた。

「いいだろう。前面攻勢に出よう」

 ウィラードは自分の艦隊を2つに分け、戦い続けている両翼の艦隊に部隊を進めると、解放戦線の全艦艇に
攻撃命令を出した。誰もが「ザフトの為に!」と叫びながらジオン軍に突撃していく。彼らは意地を見せる為
だけに死んでいった。

「さてと、最後の大仕事だ」

 散っていく兵士を見てウィラードは胸を痛めた。こうなるのは"必然"だったからだ。彼らをプラント復興の
生贄とする為にプラント解放戦線を作った。そして今日、業と負ける為に部隊を展開した。全ては、プラント
の未来を思って汚名を着たのだ。
 ユウキに撃たれるという使命を果たす為に、ウィラードはベルヌーイを進める。そしてモニターでユウキの
乗艦"ボルテール"を確認して攻撃命令を出す。ボルテールはアデスのヴェサリウスと交戦していたが、砲火の
間にベルヌーイが割り込んだ。それを見たユウキは、覚悟を決めた。

「ウィラード隊長、貴方の意思は私が継がせてもらいます……。全艦、ベルヌーイに集中攻撃だ!」

 ユウキの言葉どおり、ベルヌーイに砲火が集中する。何発もの直撃弾が艦を激しく揺らした。周囲のMSが
集まってきて援護しようとするが、それも既に遅く、直撃弾がベルヌーイの艦橋を吹き飛ばしてしまう。この
爆発にウィラードは即死、続いてベルヌーイも閃光に消えていくのだった。
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               *     *     *
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 ベルヌーイ轟沈を目の前で見たアデスは、帽子を被り直し、ユウキ艦隊に向けて通信を送った。

「プラント解放戦線分艦隊司令フレデリック・アデスより貴艦隊へ。我々は即時戦闘行為を中止する。停戦を
申し入れたい」

 アデスは二度三度と同じ台詞を繰り返す。これにイザークから抗議の通信が入るが、無視した。
 ユウキは何かを飲み込むように頷いてから、口を開く。

「第六艦隊分艦隊司令レイ・ユウキ大佐です。何故停戦へ踏み切ったのか、理由をお聞かせ願いたい」

 アデスは目を閉じ、眉間に深いシワを刻みながら、長い息を吐き出した。

「生きてこそ得ることのできる"真の勝利の日"まで……」

 ユウキは体を強ばらせ、僅かに仰け反った。それはヤキン陥落時に、ウィラードが彼に言った言葉だから。

「部下には寛大な処置を願いたい。彼らは、上官に付き合わされただけだ」
「分かりました。停戦の申し出を受け入れます」
「……感謝する」

 2人が敬礼を交わす。アデスの微笑とも言えぬ表情を最後に、通信映像は途切れた。
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               *     *     *
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 各地でも戦闘は終息へと向かっていった。シャアと相対していたコーディ至上主義者の艦隊は、降伏する事
なく全滅した。最後は特攻を仕掛けたらしいが、シャア艦隊の損害は全体の一割に満たなかった。マツナガと
交戦していたアッシュは、ゲルググ4機を撃墜するが、結局はゲルググイェーガーのビームマシンガンに蜂の
巣にされ、戦死した。

「終わったのか?」

 静寂を取り戻した宇宙で、アスランは自身に問い掛けた。作戦通りジェネシスαの破壊に成功したとはいえ、
あまりにもあっけない幕切れに驚いていた。ただ、ビーム光や爆発は何処にも見当たらない。
 とりあえずルソーに戻ろうと操縦桿に手をかけると、ふとMSのバーニア光が見えた。

「イザーク、大人しくしていろ」
「うるさいアスラン!」

 憎悪や殺意、破壊の衝動が、体中から噴出した。
 デュエルは真っ直ぐにヴェサリウスへ突撃する。手にはビームライフルを持っている。

「勝手に停戦など認めない!」

 行く手にディアッカのバスターとシホのゲイツRが立ちはだかる。

「イザークよぉ……一体何するつもりだ」
「知れたこと! アデス隊長に停戦を撤回してもらう!」
「隊長、もう終わったんです」
「それはお前が決める事じゃない!」

 デュエルは、バスターとゲイツRを追い抜く。

「俺は認めない、こんな結果など認めるものか! これでは、母上が命を賭した意味がないじゃないか!!」
『その通りだ、イザーク!』

 次の瞬間、宙域にいる全ての者に通信映像が入る。モニターには仮面を被る金髪の男が映し出された。

『人々よ! 我等を恐れ、求めるがいい! 我等の名は"歌姫の騎士団"!!』