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Zion-Seed_51_第二部第2話

Last-modified: 2008-08-14 (木) 20:08:34

「おやおや、青い巨星ともあろうお方がシケた面してるね」
「むっ。お前か……」

 

 ジブラルタル基地のバー。長いコートを羽織った士官が一人グラスを傾けていると、これまた長いマントを
羽織った女性士官が近寄った。
 二人は地上攻撃軍なかで双璧とされるようになったランバ・ラルと、シーマ・ガラハウである。
 共にガルマ直属の遊撃部隊の長であり、パイロットとしての技量にも指揮官としての智謀にも欠けるところ
はないとされている。二人は必要とあれば、後方攪乱でも、破壊工作でも、戦術的攻撃でも、状況に応じて最高
水準の用兵技術を使いこなすことができる。
 ランバ・ラル中佐は今次戦争以前からゲリラ戦を戦い抜いてきた根っからの職業軍人であるが、父親がザビ
家の政敵であったジオン・ズム・ダイクンの遺臣ジンバ・ラルであったこともあり、ザビ家が牛耳るジオン軍で
は出世コースから外れた日陰者的な存在であった。しかし先のヤキン・ドゥーエ攻防戦において、その司令部を
占拠したことがジオン軍の勝因を作ったと評価され、中佐の地位と勲章を得た。その後ドズルの命でガルマの下
に再び配属されることとなった。
 シーマ・ガラハウ中佐は、開戦直前に編成されたキシリア配下のジオン公国軍海兵隊に配属された異端児だ。
彼女の部隊は全員が彼女同様のコロニー・マハルの出身者で固められた外人部隊であり、主に破壊活動や虐殺
など公国宇宙軍の汚れ仕事の実行を任されることが多々あった。そのため軍に不信の念を持ち始めていたが、
それもガルマの目に留まり、転属したことが一つの契機となって、今では名指揮官の仲間入りを果たしている。
 この二人は第一次リビア会戦で殿を務めて以来、共同作戦を取ることが多くなり、戦友の間柄となっていた。

 

「ガルマ様のご様子は?」

 

 真剣に問うラルに対して、

 

「相変わらずだよ。金髪の嬢ちゃんと遊んでる。あんな小娘のどこがいいのか……」

 

 問われたシーマは笑みを浮べ答えた。

 

「……ほぅ。ならば主が慰めてやってはどうか?」
「フフフッ、それもいいかもねぇ」

 

 互いに、それが悪い冗談であることは判っていた。ガルマ直属の身となったはいいが、ジオンと連合が休戦
状態になったことで出撃の機会が無く、手持無沙汰な状況が続いているのだ。酒を飲みながら冗談の一つでも
言わなければやってられない。

 

「まったく。キシリア様があんなことになって三月が経つというのに、何時まで落ち込んでいるのやら……」
「…………」

 

 ラルはシーマの愚痴を聞きながら、あのプラント敗北後に起きた事件を思い返した。
.
.
――――第2部 第2話
.
.
 4月26日。この日、ヤキン・ドゥーエ要塞で開かれていた勝利の式典は、華やかなものであった。
 後日行われるジオン首都での戦勝式典に引けを取らないもので、その派手さはジオン公国国内というよりも、
プラント側の要人に見せ付ける形で作られていた。 

 

「我が戦士たちは輝けるこの勝利によって、ダイクンの偉大な教えを証明した。ジオン公国延いてはスペース
ノイドは世界に冠たるであろうという教えだ」

 

 場には佐官以上の将校か功績を上げたパイロットがズラリと並んでいる。戦士を称えるキシリアの言葉に、
各々が気分を良くし、胸を張った。

 

「プラントの要人方にも敬意を払いたい。卿らはよく戦った。僅か2000万人という“小国”が、公国とここまで
渡り合えるとは驚きの一言だ。これからは公国の一員として卿らの活躍を期待するものである」

 

 この言葉にプラント側は少し気を悪くするが、その一方で裏に隠されていることに気が付いていた。
 ――公国の一員。これは暗にキシリアがプラントとジオンを同列に扱うことを示している。もちろん彼女が
どこまで期待しているのかは不明だが、連合とジオンの戦力比を考えればザフトの戦力は魅力的なのだろう。
コーディネイターであることだけでも、ジオンは多大な戦力を手に入れたことになる。
 タッド・エルスマンやユーリ・アマルフィはそれらを理解していたし、クライン派のアイリーン・カナーバは、
連合と講和を考えていた所為で顔を顰めてはいたが、敗北した以上彼女に出来ることはないと悟っていた。
 いずれにせよ、要人の多くが今後の身の振り方を考えていた。
 キシリアも彼らの内心に気付いているのか、まるで決定事項であるかのごとく演説を続けていた。

 

「これよりプラントは我の統治の下、一層の繁栄を司ることになる。そして……」

 

 そこでキシリアが口を閉ざしたのは、咽が渇いて声がかすれたためではない。一人の女性が壇上へと近づく
のに気付いたからである。
 シルバーの頭髪をした壮年の女性。それはエザリア・ジュールであった。

 

「キシリア閣下。敗戦国であるプラントに対し、そのような真摯な態度を取っていただいたこと。エザリア・
ジュールが評議会を代表して礼を述べたいのです」
「ほう……」

 

 パトリック・ザラの腹心と言われたエザリアが下手に出ている。キシリアは彼女に真意に興味が湧いた。

 

「地球の重力に引かれた旧時代のナチュラルなど烏合の衆でしかありません」
「フッ……よく判っているではないか」
「ええ、よく判ります。ジオンとザフトの力が合わさればジェネシスなどに頼らなくとも勝利は確実でしょう。
スペースノイドにとってはそれが一番です。しかし――」

 

 静かに語るエザリアの姿に、誰もが冷静なように見えた。

 

「――しかし、私にとってそのようなことは……どうでもいいのだ!!」

 

 エザリアが、彼女に似合わない叫び声を上げる。

 

「キシリア・ザビ! 我が息子イザークの仇を取らせていただく!!」

 

 そしてスカートを捲り上げると、その内に隠していた拳銃を素早く取り出し、狙いを定めトリガーを引いた。
放たれた弾丸は一直線にキシリアの頭部に向かい、彼女の服を血色に染めた。
 だが彼女は倒れこむことなく立ち続けていた。
 致命傷でないと判断したエザリアは第2射を放つ。確実に撃ち抜くために心臓を狙った。あまりの出来事に
その場に居た将校たちが生ける化石となっているなかで、それを防ごうと一つの影がエザリアに飛び掛った。
ドズルの護衛を勤めていたイレブン・ソキウスである。
 ナチュラルを護れという本能が、思考とは別に体を動かしたのであった。同じ場に居たセブンもキシリアの
前に立ちはだかり、体を盾にしようとした。
 再び銃声がこだまする。同時にイレブンがエザリアを押さえつけた。
 護りきったのだろうかとセブンが振り返る。だが目にしたのはキシリアが胸を押さえ崩れ落ちる光景だった。
 そこで初めて周囲が騒然となった。ラルとシンはイレブンに加勢し、エザリアの体を床にねじ伏せた。押さ
え込む拍子ににぶい音がして彼女の手首の骨が折れた。たとえ女であろうと容赦はしない。

 

「医者だ! 医者を呼べ!」

 

 ジョニーがキシリアに駆け寄り、傷口にハンカチを押し当てる。白い絹がたちまち真紅に染まった。必死に
止血を続けるジョニーは、側に自分が上げたユニコーンの紋章が血まみれになって落ちていることに気付いた。
それは、まるでユニコーンがキシリアに食らい付いたように見えた。

 

「うおおおおおああああああああっっっ!!!!」

 

 混乱する場でキリングが的確な指示するなか、ドズルの野獣のような雄叫びが式典場をこだました。その目
は血走り、完全に正気を失っている。エザリアへ向けた視線は、まるで相手を呪い殺すようなものである。

 

「キサマァァァッッ!!」

 

 ドズルは嘗て、次兄のサスロ・ザビを自分の目の前で殺されていた。乗っていた車が爆破され暗殺されたの
である。同乗していたドズルは顔に傷をつけたものの、サスロにかばわれ一命を取り留めていた。そのために
サスロの死の責任を感じたドズルは、自分の目の前で家族を傷つけることは二度とさせないという誓いを立て、
顔の傷を消さなかった。
 それなのに自分の目の前でキシリアが撃たれてしまったのだ。その衝撃はドズルから理性を失わせた。エザ
リアを捻り殺そうとばかりに近づこうとする。

 

「いかん!」

 

 これをラルは制止した。さすがに最高司令官であるドズルがこの場で下手人を殺すのはマズイ。
 しかしドズルは凄まじい力でラルを跳ね除けようとする。

 

「ドズル閣下、落ち着いてください!」
「退けぃ!!!」
「閣下!!」
「退けといっておるだろう――がぁっ!!」

 

 ドズルは邪魔するものは排除するかのようにラルを押しのけようとしたが、背後から殴りつけられ前のめり
に倒れた。ドズルの盟友シン・マツナガ大尉が気絶させたのである。

 

「ラル大尉、無事か?」
「かたじけないマツナガ殿。殴ってでも止めるべきなのを躊躇してしまった」
「気にすることはない。それよりも……」

 

 倒れたキシリアに目をやる。まだ医師は居らず、ジョニーが応急処置に奮闘している。そこに聴衆の中から
一人の男が駆寄った。憲兵がそれを静止すると、男は自分は医者だと申し出た。それはプラント評議会議員の
タッド・エルスマンであった。

 

「バ、バカなことを言うな!」

 

 この申し出に憲兵たちは拒否した。キシリアはプラントのコーディネイターによって傷を負っているのだ。
幾ら医者だからといっても、見せられるものではない。

 

「貴様らプラント人に、誰がキシリア様の傷を見せようか!!」
「待て!」

 

 熱り立つ憲兵を押さえたのはキリングであった。

 

「貴公は医者なのか?」

 

 問いにタッドは頷いた。彼はプラントのフェブラリウス出身で、基礎医学、臨床医学、生化学、分子生物学、
応用生体工学の専門家である。そのため、コーディネイターという種族の根幹を担う人物であった。

 

「よかろう。手を尽くせ」

 

 応急処置くらいなら構わないと、キシリアをタッドに見せる。
 そのタッドに侮蔑する声が上がった。

 

「何を……何を考えているタッドッ!!」

 

 拘束されたエザリアだ。

 

「お前も私と同じだろう! なのに何故!!」
「君がイザーク君のことでジオンを恨むのは理解できる。私もディアッカを失ったのだからな」

 

 イザークとディアッカは先の戦闘でMIAとなっていた。宇宙で行方不明になった場合、大抵は戦死扱いに
なる。今回の場合は戦場を離脱した艦があるので、二人ともどこかで生きているかもしれない。しかしそれは
ジオンに敵対し続けることを意味する。降伏したプラントには温情な扱いをしても、ゲリラとなった彼らには
実力行使を行うだろう。そうなれば二人は死んだも同然だった。

 

「死んだかどうかは定かではないが、もう会うことはあるまい」
「だったら!」
「戦争に個人の恨みを持ち込んではいかんよ。パトリックがいい例だろう。奴は私情に走りジオンとの開戦を
決めたからな」

 

 エザリアは“息子の仇を取る”と叫んだ。その時彼女は私人として動いていた。だがタッドは最後まで公人
であることを選んだ。

 

「直ぐに手術が必要です」
「よし。では……」
「私にやらせていただきたい」
「むっ! それは……」

 

 この言葉にはキリングも迷いが生じた。応急処置だけならまだしも手術となると……。
 迷うキリングにタッドは言った。

 

「ナチュラルの医師とコーディネイターの医師。どちらに任せるべきかは考えれば判ることです」

 

 キリングはタッドの目を見た。そこに差別的な意味は含まれていなかった。自分たちなら彼女を助けられる、
そんな医師としての意地がタッドから見て取れた。

 

「……いいだろう」
「ダニガン中将!?」
「今はキシリア様のお命が優先される。急げっ!」

 

 キリングの許可を得たタッドの対応は早かった。まず要塞内の軍医たちに連絡を取り、キシリアが手術室に
入ると同時に手術を行えるように指示を出した。また自室に待機していた“ドクター”ことミハイル・コースト
を呼び出し、胸部の手術に当たらせた。タッドは優秀な医師ではあるが頭部と胸部を同時に手術することなど
出来ないからである。
 手術は数時間を要した。その間、目覚めたドズルはもちろん、キリングやトワニングら将官からジョニーに
シャリアといった佐官まで、多くの軍高官が一度は手術室を訪れている。
 そして日付が変わった27日午前4時30分。ついに大手術は終わった。
 タッドらの懸命な努力により何とかキシリアの命は取りとめたが、頭部への銃撃が脳を損傷。彼女の意識は
戻ることはなかった。プラントの医療技術をもってしても植物状態を治療することは不可能である。仮に意識
が戻ったとしても確実に障害が残る。とてもではないが突撃機動軍を任せることは出来なかった。
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               *     *     *
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 キシリアが意識不明という事態を重く見たギレンは公国軍の再編成を開始した。突撃機動軍を解体したのだ。
 目覚めたとしても軍務に支障を来たすなら彼女の居場所は軍にはない。ならば彼女の指揮する機動軍は必要
がなくなったのである。これは異論も出たが、本来ドズルとキシリアの対立から出来た軍だったのだ。
 結局、新たに地上攻撃軍を設立し、宇宙攻撃軍の下に置くことで事態の収拾を図ったのである。突撃機動軍
は地上戦力がガルマの地上攻撃軍に、宇宙戦力がドズルの宇宙攻撃軍に吸収された形となっていた。
 そして植物状態と診断された当のキシリアは、プラントのフェブラリウス市にその身を移された。今は集中
治療室でコーストを中心とした医師団による懸命の治療が続けられている。

 

「ギレン総帥やドズル閣下が同じことになっても、ああはならぬだろうな。キシリア様は特別なのだから」
「シスコンってやつかい? まったく、あのお坊ちゃんは……」
「シーマ。それは少し違うぞ」

 

 グラスを傾けながらラルは続ける。

 

「ガルマ様は目標を失われたのだ」

 

 ガルマにとってキシリアは絶対的な存在だった。十代の頃から頭角を現し始めたキシリアを、ガルマは幼き
頃から見ていた。彼女はギレンやドズルと違って歳がガルマに近い、それも女である。その所為かキシリアは
ガルマにとって憧れであると同時に、越えるべき目標でもあった。

 

「越えるべき壁を失ったことで、その内に残ったのは空虚のみ……」

 

 それが突然いなくなってしまった。戦場で散ったのなら、仇を撃つことが出来たであろう。しかし、今回の
場合は暗殺未遂でしかも犯人は捕まっているときてる。これでは目標を失ったばかりか、仇を撃つことも出来
ない。そのもどかしさがガルマから覇気というものを欠落させていた。

 

「だからと言って、何時までも呆けてもらっちゃ困るんだよ!」
「そう熱り立つな。ガルマ様も、もう大人なのだ。いざとなれば指揮官としての姿勢を見せてくれよう」
「だといいけどね……」

 

 ビンが空なのに気付いたシーマは、追加で注文しようと振り返る。その先に笑みを浮かべた軍人が近づいた。

 

「おっと、ラル中佐。こんな所で密会ですかな? ハモンさんに言いつけますぞ」
「シュマイザー……冗談はよしてくれ」

 

 ラルは呆れるように親友ゲラート・シュマイザー少佐に言う。
 彼は“闇夜のフェンリル隊”の隊長で、ラルと同じガルマ直属の一人だった。

 

「どうしたんだい? お前さんがここに来るのは珍しいじゃないか」
「ローデン准将のお呼び出しだ」
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               *     *     *
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 五カ国協議を終え、スカンジナビア王国より帰還したマ・クベは、基地内部としては狭い部屋に足を運んだ。
地上攻撃軍総司令官ガルマ・ザビ中将の私室である。執務机に向かって書類に目を通していたガルマは、顔を
上げてマ・クベを迎え入れた。

 

「ただいま戻りました」
「よく戻った……。どうだった、協議は?」
「芳しくありません」

 

 ただ一言聞くと、ガルマは「そうか……」と呟き膨大な書類に注意を移した。軍の再編成に関する書類だ。
ガルマはそれを適当に読むと黙って判子を押した。

 

「お疲れですか。ガルマ様?」

 

 マ・クベは、今のガルマに覇気というものが感じられなかった。

 

「少しお休みになられてはいかがでしょう」
「気遣ってくれるのは嬉しいが、公務を疎かにする訳にはいかないからな」

 

 そうは言うが、やはり覇気は感じられない。一見真面目に公務を行っているようには見えるが、まるで流れ
作業を行っているようだ。無気力と言ってもいい。
 この傾向は地上攻撃軍の設立時にも出ている。キシリアがいなくなったことで、ギレンは地上攻撃軍を宇宙
攻撃軍の下に置いた。突撃機動軍と宇宙攻撃軍が同格だった所為で、指揮系統に不備が生じていたための組織
改革である。
 しかしこのような改革は草案を見た段階で誰もが反対しただろう。戦線は維持されていたし、戦況も有利に
働いていた。指揮系統の不備もガルマが司令についていれば問題はなかった。ドズルはガルマを高く評価して
いる。それだけで両軍の対立は最小限に狭められるのだ。
 しかしガルマはギレンの案を受け入れた。地上攻撃軍を宇宙攻撃軍の下とする草案を、無条件で受け入れて
しまった。おかげで戦力は、義勇兵や海兵隊のように高い技量を持つ兵はいるが、大半がザビ家から疎まれた
者や外国人志願者、それに旧ザフト兵というはみ出し者で編成されている。
 この地上攻撃軍の危機を感じ取ったマ・クベは、現状を打開すべく策を練っていた。

 

「では来週の公務について、この書類をご覧ください」

 

 そして思い立ったのが、カガリ・ユラ・アスハと共にオーブ首長国連邦へ外遊に向かうことであった。
 この3ヶ月、ガルマはキシリアの見舞いに行ったことを除けばジブラルタルに籠もりっきりなのだ。どんな
形であれ環境を変える必要があるとマ・クベは考えた。

 

「……私にオーブに行けと?」
「はい。地球圏が安定なうちにカガリ・ユラをオーブへ送らなくてはいけません」
「それは分かるが、何故私も行かねばならぬのか?」
「この機にオーブと繋がりを持っておくのは悪いことではありません」
「フッ、何時ぞやの悪い冗談を思い出したぞ」

 

 ガルマとカガリが結婚するという最低レベルのジョークのことだ。

 

「……護衛には親衛隊を全て就けます。どうかご安心を」
「おい、それは多すぎないか?」

 

 ガルマ直属部隊、通称“ガルマ親衛隊”は一個旅団の規模を持つ。外遊のための護衛には些か過剰であった。

 

「ザビ家の御曹司足るガルマ様、そしてオーブの姫君足るカガリ嬢。暗殺の対象としては魅力的です」

 

 “暗殺”という言葉を聞いたガルマは、暫しの沈黙の後、ゆっくりと頷いた。キシリアの事件を思い出して
いるのだろう。ガルマの顔は強張っている。

 

「分かった。貴官の言うとおりにしよう」

 

 それだけ聞くと、マ・クベは一礼をして部屋を後にした。そしてガルマが思っていた以上に重症だと悟った。
 今のガルマは事務処理に終始している。以前ならこのようなデスクワークは全て自分に任せ、自らはザフト
残党を取り締まるため陣頭指揮を取っていただろう。それがこの様とは……。

 

「やはりあの男に焚き付けさせねばならんか……」

 

 オーブ外遊の真の意味を思い浮かべ、この男は新たな謀略を練り始めた。
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               *     *     *
.
「カオシュンを攻め落とす!?」

 

 ジブラルタル基地にある専用の会議室に、親衛隊の各部隊長が参集した。
 ランバ・ラル、シーマ・ガラハウ、ロイ・グリンウッド中佐に、ゲラード・シュマイザー中佐。そして
親衛隊を統括するダグラス・ローデン准将の5名である。いずれもジオンに勇名をはせた者たちだ。

 

「あたしたちだけでかい?」
「左様、と言ってもゲストはいるが……」
「ゲスト?」

 

 ゲストという言葉に首を傾げながらも、生真面目なラルが話を促す。

 

「それは構わないのですが、何故この時期に?」
「ビクトリア基地が連合によって陥落した。それが原因だ。我等が動かなければザフト残党の領土を無条件で
連合に差し出す形となる」
「なるほど。そして国際的にテロリストを放置しておくわけにもいかないのですな」

 

 ローデンの答えに眼帯をつけたグリンウッドが納得するように続く。

 

「しかし軍を動かそうにも、先の編成によって動かすことができんのだ」
「そこで我等の出番と言う訳か」

 

 カオシュン基地はビクトリア基地ほどの規模はないものの、カーペンタリア基地クラスの軍港がある。艦隊
戦力だけで見れば侮れない。つまり彼らは一個旅団でこの基地を落とせという命令を受けたのだ。
 しかし彼らはそのようなこと気にもしていなかった。各々が話を聞いているが如何にしてカオシュンを陥落
させるかという疑問は微塵もなかった。

 

「ガルマ様はどうするんだい?」
「できれば指揮を取ってもらう。今回の作戦でガルマ司令に気力を取り戻してもらいたいのだ」
「なるほどねぇ。戦場の雰囲気を思い出させる訳か……それで決行日は?」
「来週、ガルマ司令がオーブに立ち寄られる。それを口実にして極東まで移動する」
「おや? 金髪の嬢ちゃん、やっと帰れるのかい」
「そりゃあそうだろう。カガリ姫が居られたら、食費だけで馬鹿にならん」

 

 冗談を言う余裕すら彼らにはあった。常に最前線を戦い続けてきた彼らにとって、このような理不尽な命令
は四六時中受けていたことで、大した問題ではなかった。

 

「まずはガラハウ中佐とグリンウッド少佐が先行して飛んでくれ。後の者はゲストを含めガルマ様と共に行く」

 

 ある程度話し終えると、先程からローデンが口にしている言葉に注意がいった。

 

「ところでさっきからゲストって一体誰の話だい? 金髪の嬢ちゃんではないみたいだけださ」
「いや、遅くなってすまないねぇ」

 

 その問いに答えたのはローデンではなかった。

 

「いい豆が入ってね。副官相手に毒見をしてたもので……」

 

 隻腕、そして足に何かの障害があるのか杖を持ち、日焼けした顔には大きく傷痕が横切り、その左目は閉ざ
されている。だが数多の傷さえその男の強烈な存在感を失わせるには到らなかった。むしろそれらの傷は男の
精悍な顔立ちを一層引き立たせている。

 

「あー、紹介しよう。カオシュン攻略のオブザーバーとなってもらう――」
「アンドリュー・バルトフェルド“大佐”だ。よろしくな」

 

【地上攻撃軍】
 本拠地:ジブラルタル
 総司令官:ガルマ・ザビ中将
 参謀長:マ・クベ中将
 欧州方面軍司令:ユーリ・ケラーネ少将
 アフリカ方面軍司令:ノイエン・ビッター少将
 ロシア方面軍司令:ウォルター・カーティス准将
 極東方面軍司令:ガルシア・ロメロ少将
 日本派遣軍司令:ギニアス・サハリン技術少将、ノリス・パッカード准将
 オデッサ防衛司令:ロイ・ジューコフ少将
【潜水艦隊】
 ジブラルタル基地:ドライゼ中佐
 スエズ基地:エーリッヒ・ハルトマン中佐
 種子島基地:フラナガン・ブーン中佐
【ガルマ親衛隊】
 親衛隊隊長:ダグラス・ローデン准将
  ラル独立遊撃隊:ランバ・ラル中佐
  シーマ海兵隊:シーマ・ガラハウ中佐
  闇夜のフェンリル隊:ゲラード・シュマイザー少佐
  G-27部隊:ロイ・グリンウッド中佐