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Zion-Seed_51_第二部第22話

Last-modified: 2009-02-12 (木) 20:24:42

 1人の女性が、ドック入りしている艦艇を眺めていた。彼女の名前はエリカ・シモンズ。モルゲンレーテに 勤めるMS主任設計技師で、M1アストレイを設計・開発したコーディネイターだ。

「しゅにぃ〜ん」
「情けない声を出さない。で、どうしたの?」

 エリカに作業着を着た女性が駆け寄ってきた。彼女はユン・セファン。モルゲンレーテの技術者、エリカの 部下で、極度のおっちょこちょいだが、社内でも五指に入る優秀な技術者である。

「あちらが資材の追加を言い出してきましたぁ」
「また!? 一週間前に十分渡した筈よ!」
「艦を改造するからと言い出しましてぇ。これ、その要望書ですぅ」

 渡された要望書を流し読むと、こめかみに青筋を作るエリカ。今日こそは己の立場を改めさせてやると考え、涙目のユンを伴って問題の人物に歩み寄った。

「これはどういう事です?」
「あら、エリカさん。何か問題でも」

 問い掛けに、その女性はやわらかな声で答えた。栗色の長い髪を肩に流した彼女は、ユンの着る作業着とは 違う制服を着ている。顔はにこやかな表情を見せてはいるが、目は笑っていない。

「必要な資材はお渡ししました。それなのに、これは何ですか?」
「艦に潜水機能を追加したのですが、水中ではMSが発進できなくなってしまうので、改装を考えまして」
「なるほど、それにしては随分と資材が必要ですね?」
「ついでに大気圏突破するぐらいの推進力の向上を考えておりまして」
「その予算は何処が出すのでしょうか?」
「モルゲンレーテではありませんの?」

 その一言で互いの笑顔が消える。

「"私"の艦をここまで傷つけたのだから、当然と思いますが」
「攻撃を仕掛けたのはオーブ軍であって、モルゲンレーテではありません」
「モルゲンレーテは国営企業では? なら、あなた方が払ってもよろしいではありませんか。そもそも連合の 技術を盗んでMSを造っているのだから、感謝の証として無償奉仕するべきでしょう」
「最初に協力を求めてきたのは連合です」

 同族嫌悪とはこの事なのか。ユンは、今にも取っ組み合いを始めそうな2人を見て、慌てて身をひるがす。
これ以上関わっては、自分にも被害が及んでしまう。

「そ、そうだ。大浴場の改装をしないと!」

 そうしてユンは、ドックに佇むアークエンジェルへと早歩きで向かった。
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――――第2部 第22話
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 軍用ジープがある基地に到着した。風に短い黒髪をなびかせながら、サングラスの女が呟く。

「一々戻るのも大変なものだ」

 演習を目的として造られたその基地には、非常に小さい建物がひとつ建っているだけだ。警備兵も1人しか 立っていない。一見すれば何の変哲も無い基地であるが、建物の中には地下へと続くエレベーターがあった。
 サングラスの女は、部下を伴ってエレベーターに乗り込む。地下5階のボタンを押すと壁に寄りかかった。
 たどり着いた地下5階に造られた施設は、地上とは比べ物にならない広大なものだった。MSの開発施設、 性能試験を行なう演習場、そして艦艇を建造・修理する乾ドックまで備わっている。

「身を隠すには最適なのだろうが、な」

 呆れるように言うサングラスの女の名前はナタル・バジルール。自分の身分を明かすことなくアカツキ島に 暮らす、連合の兵士である。
 彼女は現状に不満がある様子で、隣を歩くアーノルド・ノイマンに愚痴をこぼしていた。

「本土から遠すぎる。わざわざ呼ばれる方の身にもなってみろ」
「ですが、この島から離れられないクルーの事を考えますと、我々は随分と待遇がいいと思います」
「ジオンの尋問のために本土に行く事が、待遇がいいというのか?」
「連中はブルーコスモスの情報が欲しいんですよ。盟主が変わって、色々とやりづらくなったんでしょう」
「必要な情報を得たら、殺されるかもしれん」
「それならあの時に撃沈されていたほうが良かったのですか?」

 ノイマンの反撃に、ナタルは言葉が詰まった。
 ――アークエンジェル、オーブ沖にて撃沈。乗組員は全員戦死。
これはオーブ軍及び連合軍の公式記録である。しかし、事実は違った。彼らは死ぬことなく生きていたのだ。
 あのオーブ沖でアークエンジェルはオーブ艦艇の集中砲火を受けた。だが命中弾は殆ど無く、大半は海面を 叩いただけだった。愕然とするナタルの元に「撃沈を装い海中に潜れ」という電文が送られてきたのは砲撃と 同時であった。その時の状況を考えれば、彼らに選択肢は無かった。
 指示通りに海中へと潜ると、そこで待っていたのはジオンの水中用MSだった。彼らは半壊したアークエン ジェルの巨体にワイヤーを取り付け、アカツキ島の地下施設まで牽引した。

「ジオンが絡んでいたのは予想できませんでした。それだけあの時は切羽詰っていたのですから」
「分かってはいる。だが、指揮官として気付かなかったのは汚点だ」

 アークエンジェルとその乗組員は、オーブ軍に助けられたと思っていたが、実際はジオン軍に助けられたと 言っても過言ではなかった。
 助けられたナタルは即座に地上攻撃軍参謀長マ・クベ中将の尋問を受けた。この時、ナタルは初めてジオン 軍きっての謀将にアークエンジェルが目を付けられたのを知った。彼の尋問は淡々としつつも、強い威圧感を 持つものだった。何故連合軍を脱走したのか。ブルーコスモス内部で何が起きたのか。盟主アズラエルは何処 にいるのか。次から次へとナタルは追求を受け、疲労困憊だった彼女は、ブルーコスモスの内情を暴露した。 流石に連合群軍の機密は話さなかったが。
 その後、彼らはオーブの客人という肩書きで、アカツキ島の地下施設に暮らしている。

「何時までも落ち込んでいても仕方がないでしょう。我々は生き残った。ならばこれからの事を考えなければ」
「……分かっている」

 やや楽観的なノイマンの考えに不満を抱きつつも、彼の迷う事のない言葉にナタルは幾分か励まされた。
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               *     *     *
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 シンは、町外れにある高台にいた。ウズミに待ち合わせとして指定された場所である。近くに車を隠して、 高台から双眼鏡を覗いていたシンは、軍時基地に通じる検問所を見ていた。
 その時、軍用トラックがシンの横に停車した。助手席に乗っているのはオーブ軍の作業服を着たウズミだ。

「ウツミさん、そのトラックは?」
「輸送用だ。これで基地まで向かう。荷台に乗りたまえ」

 見ると荷台にはダンボールごとに選別された野菜や果物が積まれていた。

「こんなに積んだんですか!?」
「言っただろう。この先にある基地は、広大な地下施設を有している。中の人も多い」

 ウズミは急かすように作業着を渡すと、着替えるよう指示する。シンは黙って受け取り、荷台に乗り込んだ。それを確認し、トラックはゆっくりと動き出した。
 暫らくすると例の検問所に着いた。運転手が愛想笑いをしながら偽造した通行カードとオレンジがつまった 紙袋を一緒に渡す。中身を見るなり小銃を肩に担いだ衛兵は、不審を抱くことなくカードと紙袋を受け取る。 確認を終えると、再びトラックは走り出した。

「今のうちに確認するぞ。我々はこのまま作業員を装い、基地内部に侵入。地下10階に格納している目標を 奪取するのだ」
「そんな深く」
「直通のエレベーターがある。君はそれに乗って地下10階を目指せ」
「待ってください。地下の様子なんか分からないのに……」
「地下10階はそれほど広くはない。直ぐに見つかるさ。目標を奪取したら、MS専用のエレベーターから、 地上まで出るんだ。我々が陽動を行なう」
「陽動?」
「なーに。M1を奪ってひと暴れするだけだ」

 それは危険ではないか。人を傷つける気のないシンは、一抹の不安がよぎるのだった。
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               *     *     *
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 キラはアークエンジェルのある区画から更に深い場所に連れてこられていた。広大なドック区画と比較して、やや小ぢんまりとした印象を受ける地下格納庫だ。ライトが点いておらず、真っ暗である。

「えっと……」
『正面のゲージよ』

 ふいに無線が流れる。キラはキャットウォークを操作し、下に降りると、ジャケットにジーンズというラフ な格好をしたエリカが立っていた。

「よく来てくれたわ。貴方と会うのを楽しみにしてたの」
「はあ……」

 まだ困惑しているキラに、エリカは手招きしながら歩き出した。

 発端は数日前、アークエンジェルがアカツキ島に隠されてからの事だ。カガリの意向で客人となったキラが 艦の修理作業を手伝っていると、モルゲンレーテの作業員が大慌てで自分に話しかけた。何でもストライクの OSに興味を持ったらしく、プログラムを書いたキラの力が欲しいそうだ。
 オーブは、何もジオンやカガリの意向だけで助けたわけではない。これまでのストライクの戦闘データや、 連合独自の技術を得がたい為に、わざわざ自作自演を装ったのだ。
 キラ自身は、色々と思う事はあったが、拒否する立場にないと考えて承諾した。

「貴方に見てほしい機体は、これよ」

 エリカがスイッチを入れてスポットが当てられる。その先に現れたのは、全身を金色にコーティングされた MSだった。その光景にキラは息を呑んだ。
 それはストライクと見まがう形状の機体だ。背面のジョイントは明らかにストライカーを意識している。

「名前は"アカツキ"。形式番号は与えられていないわ。見ての通り、貴方の乗るストライクを元にしています。スペックは段違いだけどね」

 エリカは手に持った資料をキラに渡す。

「貴方にアカツキのOSを組んでほしいの」
「……僕に? 分かりません。何故、僕にOSを?」
「簡単な理由よ。オーブには空中戦を実体験したパイロットが皆無なの」

 ストライクとM1アストレイでは空中機動の質が違った。ストライクのエールストライカーは、主翼の空力
効果と増設したプロペラントタンクによって飛行能力を得ているのに対し、M1アストレイのシュライクは、
主に回転翼で空中機動を行っているのだ。つまり戦闘機とヘリコプターほど違うのである
 プログラム自体は簡単なもので、それ程の時間はかからないと思われた。

「――なんだ……警報?」

 エリカが事態の把握の為に内線で連絡を取る。

「主任、大変です。アストレイが起動しています!」
「何ですって。何処のバカよ!」

 エリカは幾つかの指示を出すとキラに協力を求めた。ストライクでMSを押さえてほしい訳だ。キラは快く
承諾すると、エリカの後に続いた。早速エレベーターに乗り込もうとする2人だったが、キラよりも若い少年
がエレベーターの中に佇んでいた。

「あれーっ!?」
「誰だ、お前は?」

 少年――シンはいきなり見つかった事に頭を抱えたが、格納庫の奥に鎮座しているMSを見るなり、直ぐ様
思考を切り替えた。呆気に取られる2人を無視して、アカツキに一直線に向かう。搭乗用リフトに乗り込むと、素早く操作してリフトを上昇させる。
 その時になって、2人はようやく気付いた。

「あの子、まさか?」
「アカツキを奪う気か!?」

 リフトはものの数秒で上昇し終わり、アカツキの腹部、コックピットハッチの真正面で止まった。

「こりゃ、スゲエや!」

 シンはアカツキのコックピットの中で感動していた。自分は今、オーブが誇る最新鋭MSに乗っているのだ。
そのコックピットは作業用MS"レイスタ"と似ており、まるで自分に合わせたようにしっくりいった。シンは、早速目の前にあるスイッチ類を次々と入れてみた。アカツキの基本構造はレイスタとそう大差があるわけでは
なく、始動に至る手順は殆ど変わらなかったのである。

「これでよし。後は専用エレベーターを……」

 アカツキに灯が入ると、黄金に色づいた装甲が一層に目立った。間近で見ていたキラは思わず唖然となる。

「クッ……これじゃあ、ヘリオポリスと同じじゃないか!」
「キラ君、あの専用エレベーターはドック区画に繋がっているわ。今は上へ向かいましょう」

 言われるがままアークエンジェルのあるドック区画へ向かうと、そこにはM1アストレイが施設を破壊して
いた。混乱する整備員の中にはユンの姿を見つけ、エリカが強引に引き寄せる。

「ユン、状況は?」
「貨物運搬員の方々が突然MSに乗り出しましてぇ〜」
「105ダガー。トールか!」

 ユンが言い終えるよりも早く状況を理解したキラはアークエンジェルに走った。丁度、キラの前にトールの
105ダガーがソードストライカーを装備して現れた。暴れるM1アストレイを押さえる為だ。

「キラ、遅いぞ。ストライクが待機中だ!」
「分かったよ! 直に行くから」

 相手は2機、それに地下のアカツキもドックに上がってきている。トール1人だけに任せてはおけない。
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               *     *     *
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 ソードダガーは暴れるM1アストレイ目掛けてパンツァーアイゼンを発射した。ロケットアンカーが一直線
に相手の腕部に食らいつき、動きを止める。しかし、もう一方のM1アストレイがビームサーベルを引き抜き、アンカーを切断する。

「本気を出したのかな。テロリストさん」

 トールは、相手が潜伏中のウズミ派テロリストであると聞かされていた。アカツキ島に造られた地下施設は
アスハ家の命令によって建てられたものであり、その存在を知っているのは政府首脳に限られている。外部の
者がこの場所を知っているとなれば、逃走中のウズミしかいない。
 そんなウズミ本人は、M1アストレイのコックピットでアークエンジェルをどうすべきか悩んでいた。
 脱走艦として知られているアークエンジェルだが、初めは各地のザフト残党を押さえていた事で有名だった。その武勲は賞賛に値するもので、オーブ軍でも噂されるほどだ。
 ウズミの目的はあくまでもアカツキであり、アークエンジェルではないが……。

「……やはり、理念は護らなければいかん」

 連合軍の艦艇がオーブにいるのが気に食わないのか。ウズミはアークエンジェルの破壊を決心する。
 部下にトールの相手をするよう合図を送り、ウズミは機体のビームライフルをアークエンジェルに向けた。
下で女の整備員が凄まじい奇声を上げているが、ウズミは無視して引金を引いた。誰もが息を飲んだ目の前で、放たれたビームの粒子はアークエンジェルに突き刺さり、消滅した。ラミネート装甲である。
 事態が分からないウズミに、整備員――マリューが吐き捨てるように叫ぶ。

「オーブのビームなど、アークエンジェルには通用しない!」

 アークエンジェルはビーム兵器に対して鉄壁に近い。と言っても受け続ければ長くは持たない。
 それを知るトールはもう1機のM1アストレイと相対していた。相手はビームサーベルを振り回しているが、ソードダガーにはかすりもしない。トールの戦闘経験が相手を上回っているのだ。

「対艦刀を使うには狭すぎるから……マイダスメッサーを使って……」

 ビームブーメランとして備え付けられているマイダスメッサーをダガーのように持つと、M1アストレイの
ビームサーベルを弾き返し、その切っ先を首にあるジョイント部に突き立てた。電気系統に火が噴き、敵機は
バランスを崩して倒れ込んだ。
 これで残るのはウズミの機体のみ。制圧は時間の問題と思われた。

「何これ。どんな状況?」
「シンか! あのMSを頼んだ!!」

 エレベーターの駆動音と共にアカツキが現れると、ウズミは直ぐにソードダガーを押さえるよう命令する。
 事態を理解してないシンはどうしたらよいか混乱したが、一先ずはウズミの言うとおりに動いた。

「悪いけど、邪魔はさせないよ」
「何だよ。この金ピカ!?」

 トールは金色のMSの登場に些か驚きながらも、相手が自分に向かってくるのを確認し、それが敵であると
認識した。
 迫り来るアカツキにマイダスメッサーを突き立てる。が、ビームはアカツキの装甲を切り裂かなかった。

「ダガーと同じラミネート装甲か?」

 シンを護ったのは"ヤタノカガミ"と呼ばれるナノスケールのビーム回折格子層と超微細プラズマ臨界制御層
から成る鏡面装甲で、ビームを跳ね返すことができる代物である。

「なんだか知らないけどラッキー……って、ウツミさん?」

 喜びもつかの間、シンはある光景を見て絶句した。M1アストレイがビームライフルを振りかぶり、アーク
エンジェルに叩きつけているのだ。叩かれている場所は酷く歪んでいく。
 ドックの作業員が止めるよう叫んでいるが、ウズミはそれに対して機銃で答えた。

「な、なにやってんだ、あんたはーっ!!」

 外部スピーカーを使って、シンが叫んだ。それを聞いて、ウズミが鬱陶しく答える。

「邪魔者を排除しただけだ。それよりお前はMSを……」

 ウズミが機銃掃射を続けていると、アカツキの腕がM1アストレイを殴りにかかった。

「私に逆らうのか!」
「人を殺していいなんて、いつ言ったよ!」
「大儀の為に犠牲はやむを得ない!」

 ウズミはM1アストレイをアカツキに突っ込ませ、ライフルでアカツキを殴打した。だが、それよりも早く
アカツキの腕がM1アストレイを横殴りする。

「ふざけんな! もうあんたと組むのはやめた。人殺し!」
「盗みに加担しておいて何を言うか!」

 そんな2人の言い争いに耳を傾けていたエリカは、あることに気がつく。

「あの声、間違いない……アカツキのパイロット。あのM1に乗っているのは、指名手配中のウズミ・ナラ・
アスハよ。あなたはそれを承知で協力しているの!?」
「え?」

 シンは思わず耳を疑った。

「あ、あんたがーっ!!!」

 シンの怒りは頂点に達した。シンの両親は、ウズミの破壊工作に巻き込まれて死亡している。彼にとって、
ウズミは両親の仇を意味するのだ。

「絶対に捕まえる!」

 そう叫ぶと、アカツキをM1アストレイに突っ込ませた。対するM1アストレイはアカツキから距離を取り、専用エレベーターに向けて駆けた。部下が動けず、シンも裏切った以上、戦闘を続けていては自分が捕まって
しまう考えからだ。
 しかし、コーディネイターのシンに操縦で勝てる筈もなく、あっさりと機体を羽交い絞めにされてしまう。
 コックピットにあるスイッチを滅茶苦茶に押しまくるウズミ。それに合わせてM1アストレイは手足をバタ
つかせ、アカツキの戒めを解いた。再び逃げようとするウズミだったが、シンもバカではない。脚を引っ掛け
M1アストレイを転倒させる。

「こんな所で捕まるか」

 ウズミはそのままの姿勢でビームライフルをアカツキに放った。するとヤタノカガミがビームを反射させて
天井を破壊する。アカツキの頭に鉄骨が何本か降り注ぎ、内の1本が直撃した。この衝撃でアカツキも転倒。
隙を見たウズミはMSから降り、地上への直通エレベーターへ乗る事に成功する。

「ちくしょう。俺は何やってるんだ?!」

 アカツキのコックピットで、シンは怒りに身を震わせていた。知らなかったとはいえ、両親の仇に手を貸し
てしまった。目的であるアカツキは奪えたが、このような結果では納得できる筈もない。とりあえずシンは、
ゆっくりとアカツキを起こし始めた。
鉄骨は退かした時、ストライクに乗ったキラがやってきた。ストライクは機関砲ポッドを構え、アカツキの
背後を取っていた。
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 ドック区画での騒動は終わりと告げた。犯人の1人を拘束、主犯であるウズミを取り逃したのは痛手だが、
島全体に警戒線を張ったので、捕まるのは時間の問題だ。
 取り返したアカツキは、残念ながら無事ではすまなかった。鉄骨の一撃がフレームを損傷したのだ。通常の
MSなら大した問題にならないが、アカツキの場合は違う。損傷したのはヤタノカガミそのもので、修理には
時間が必要だった。モルゲンレーテの英知の結晶は、暫らく日の目を見ることはないだろう。
 これで残された問題は、シンの処遇であった。

「おい、この縄を解け!」
「ダメだ。それは出来ない」

 ナタルは縛られたシンを見て、冷たく払うように言った。

「お前は重大な罪を犯した。それを償わなくてはな」
「艦長、相手は子供です。説教の一つでもすれば十分かと」
「却下だ。彼をこの施設の外に出す事は出来ない。出せば我々の存在が特定される」

 アークエンジェルは撃沈された事になっている。これが連合に露呈すれば、オーブを攻め込むかもしれない。

「かわいそうだが、ほとぼりが冷めるまで拘束だな」

 ナタルの辛辣な言葉に顔色が悪くなるシン。それを見て、エリカが妥協案を提示した。

「拘束はやりすぎですわ。それよりも彼を有意義に使う事のほうが私達の為になります」
「例えば?」
「彼はコーディネイターです。モルゲンレーテ社でテストパイロットとして使うという手もあります」
「子供にテストパイロットを?」

 確かにアカツキを操縦した腕前は見事なものだったが……。

「貴女もキラ・ヤマトをパイロットにしてますわ」

 それを言われればナタルは何も言えなかった。
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「ではアズラエルは生きていると?」
「はい。アズラエル氏と思しき人物を輸送した記録があります」

 マ・クベは報告書に目を通すなり、渋い顔をした。

「思わしき、か。いいかげんなものだな」
「時間をいただければ確証を得られます」
「あまり時間はかけられん。生きている前提で、氏の居場所を突き止めろ。分かっているな? エルラン少将、貴官の亡命を認めたのは相応の実力があると判断したからだ。無能者は必要ないぞ」
「り、了解です」

 エルランは緊張した面持ちで部屋を後にした。

「……奴は切るべきかも知れんな」

 1人残された執務室で、マ・クベは呟いた。
 エルランは連合軍の元将官である。マ・クベがまだオデッサ防衛司令官だった頃、連合内の情報を得るのに
近づいたのがエルランだった。オデッサ作戦の失敗を機にジオンへ亡命し、今は情報機関を勤めるマ・クベの
腰巾着みたいなものだった。
 策謀や陰謀に頭が回り、連合内の情報を詳細に調べる能力も持っている。その一方で、再び裏切る危険性が
高く、マ・クベは完全に彼を信用しているわけではなかった。

「アズラエルを救出するまでは無理か」

 コレクションの壺を手に取り、模様を指でなぞりながら、マ・クベは考え込んだ。
 ――私はギレン総帥が好かん。
 全てはこの一言からだった。南極の会談で戦争が終結しようとしていた時、自分は地球の文化財を獲得する ため連合との戦争継続を願っていた。キシリアの計らいで連合との講和の全権を委任されたマ・クベに彼女が
言った一言。始めは何の事か分からなかった。それがギレン総帥への強い対抗心である事に気付いた。
 その後、自分はキシリアを利用して地球侵攻軍の一員となり、地球の文化・美術品を収集した。次第に地球の文化遺産に比べればジオニズムの理想やザビ家の権威も何ら価値のあるものではなくなった。
 それからというもの、如何に戦争を終結させるかをマ・クベは考えた。その結果、思いついたのがギレンを
追い落とす事だった。戦争を主導しているギレンを排除できれば、戦争は終結する。しかし、一介の中将には
そんな大それた事はできない。計画を実行するには、自分を隠す存在が必要だった。そしてそれがキシリアに
なるのは必然だったと言えよう。
 だが考えは直ぐに破綻する。キシリアが植物状態になってしまったのだ。代わりにガルマを選んだが、彼は
政治的野心が皆無だった。ガルマがギレンを蹴落とす事はありえない。
 そこで思いついたのが連合側から講和を仕掛ける案だった。それも大西洋やユーラシア連邦の首脳ではない。一国以上の権力を持つ組織――"ロゴス"との交渉である。彼自身もロゴスの全貌は知りえていない。分かっているのは軍産複合体であり、アズラエルがその一員だということだ。

「アズラエルを通じてロゴスとの窓口を開く。そして彼らの協力を得られれば戦争は終結する事ができる」

 それでも問題は無いわけではない。ロゴスと協力を得るにしても、ジオン側での協力者が必要になってくる。盟主アズラエルを救出するにはラル隊やシーマ隊のような精鋭部隊が必要になるだろうし、その為にはガルマ
の協力は不可欠だ。

「やはりガルマ様には立ってもらわなくてはならない。その為には……」

 ガルマ・ザビにギレンを撃たせる動機を作らなくてはいけない。
 暫らく考えて、マ・クベは一計を思いついた。

「お呼びですか」
「ウラガン、早急にやってもらう事がある」
「なんでしょう?」

 いきなり呼び出されたウラガンは緊張を隠しきれなかった。

「噂を流せ」
「噂、でございますか?」
「そう。噂だ」

 この上司はいきなり何を言い出すのだろう。ウラガンは彼の思いつきに閉口してしまう。

「簡単な噂だ。『キシリア様の暗殺命令を出したのはギレン総帥だ』というな」