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Zion-Seed_51_第二部第28話

Last-modified: 2009-09-23 (水) 19:05:01

 トレント――イタリア半島の付け根にあるユーラシア連邦の軍事基地である。基地と呼ばれているが実際は物資集積所と言ったほうが正しかった。少し前まではオデッサ侵攻のために物資が集められたものの、すでにオーストリアを奪回して物資はすべて別の場所へ移動されていたのだ。
 そんな基地の警備には旧式の戦車部隊が置かれ、MSは1個小隊しか着けられていなかった。MSの多くが第二次オデッサ作戦に廻されており、後方にはまったく置かれていなかったのである。
 歩哨についていたストライクダガーのパイロットは、自分に置かれた状況を必死になって耐えていた。何せやることがない。敵襲など皆無だし、前線が変わったことで味方もやってこない。たまに警戒用のセンサーが反応するが、そのすべてが獣のたぐいに引っかかったものであった。

「なぁ、モナカってさ。受身のお菓子だと思わねえか」
「知らねえよ……って、そんな話題しかないのか、お前は!」
「じゃあ、そっちは面白い話はあるのか?」
「そうだな……。オーストリア攻略時、敵にとんでもない旧ザクがいたそうだ。曰く――」

 旧ザクなら大丈夫だろうと戦車部隊を突撃させたら撃退された。
 まさかと思いMS小隊を突入させたら1時間後に小隊が全滅した。
 気をつけろと通信を入れた両機が次の瞬間、コックピットに直撃を受け倒されていた。
 航空機による爆撃なら安全だろうと空軍に要請したら、爆撃機を狙撃済みだった。

「なんだそりゃ? そんな奴いるわけがない!」
「そう言いながら攻撃しに行ったMS部隊が、1日で全機スクラップになって発見されたそうだ。噂によるとパイロットはコーディネイターでザフト出身者だとか。上層部は"G(グゥレイト)"と呼んでるそうだ」

 話を聞いて背筋が寒くなる。ここが後方とはいえ、欧州である以上、鉢合わせする可能性があるからだ。

「何か別の話題はないか……?」
「だったら幽霊艦の話は聞いたことがあるか」
「幽霊艦?」
「アークエンジェルという脱走艦があった。その艦は追手を退け続けたが、度重なる攻撃に武器弾薬を消耗し、遂には破壊されてしまう。その後、怨念によって幽霊艦となったアークエンジェルは、各地の戦場を渡り歩き、連合軍に攻撃を仕掛けているとか……」
「馬鹿馬鹿しい!」
「それが馬鹿馬鹿しいなんて言葉で片付けられないんだ」

 しかし、彼は真剣な口調で語り続ける。

「何故ならその艦が俺たちの目の前にいるからだ!」
「その手には乗らねえぞ!」
「冗談なんかじゃない! 敵襲だよ!!」

 次の瞬間、彼らの周囲に爆炎が上がった。
 見ると白色の艦艇がこちらに向かってきている。そのカタパルトからは、ストライクと105ダガーが射出
されようとしていた。
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――――第2部 第28話
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「チクショウ!!?」

 Xナンバーであるストライクの存在は連合パイロットであれば有名だった。ストライクダガーにストライクの名が入っているのが、それを助長している。故に、味方であればこれほど頼もしい存在はないとパイロット間で言われていた。しかしそれは裏を返せば、敵に回ると恐ろしい存在であることを意味していた。
 ストライクダガーのパイロットは、直に援軍を呼ぼうと通信を入れる。それに気付いているのかいないのか、ストライクがビームサーベルを片手に突っ込んでくる。叫びながらマシンガンを連射するが、そのこと如くが避けられてしまい、当たったとしてもPS装甲によって弾かれる。

「来るなー! くるなー!?」

 叫び声も空しく両機体が交錯すると、ストライクダガーは腕部を断ち切られた。
 戦闘不能となった僚機を見たもう1人は悲鳴を上げるようにストライクへと通信を入れた。

「ま、待て! 我々は投降する!」

 しかし、ストライクは通信を無視するように僚機へと攻撃を続ける。倒れたストライクダガーは四肢を失い戦闘どころか逃げることもままならない無残な状態になっている。

「おい、投降すると言ってるんだ! するから攻撃を……ッ!!」

 もう1機の105ダガーがマシンガンを放ってきた。何とかシールドで防ぐものの、衝撃で言葉が続かない。そうこうしている内に一発が顔面に命中し、メインカメラが破壊される。直ちにサブカメラへ切り替えようとするが、激しい衝撃がコックピットを襲い、それどころではなくなってしまう。
 105ダガーがアンカーを使い、ストライクダガーを転倒させたのである。そしてストライク同様に攻撃を行なう。慎重にコックピットを外しながら……。
 この行為に、外の状況が分からないパイロットは、恐怖で顔を引きつらせて気絶してしまった。
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「やるじゃないか。数ヶ月前とは大違いだ」

 105ダガーの戦いぶりを見ていた女性士官――シーマが口元に笑みを浮かべながら感想を述べた。

「当然です。あれ以降、我々はあらゆる戦場を経験したのです」
「その結果がジオンの傭兵とは、踏んだりけったりだねぇ」

 痛いところを突かれて黙るナタル。
 共闘しているとはいえ彼女の言葉は冷淡だ。少し前までナタルたちはジオンと戦争をしていたのだから当然である。特にシーマの部隊とは直接交戦したことがあるのだから……。
 彼女は傍らの女性から視線をはずすと、こうなった経緯を思い返すのだった。
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 アークエンジェルは、ラルの案内でジブラルタルへと寄港した。ナタルはガルマへの面会を希望していたが、流石に元連合兵が相手ではそうもいかず、ジオン地上攻撃軍参謀長マ・クベ中将へ謁見が許されるに留まった。捕虜同然の立場であるナタルが、彼に会えるだけでも特別な待遇である。
 部屋に通されたナタルは、ジオン随一の謀将を前に冷や汗をかく。一方、そんな彼女を見ていたマ・クベは何故ジブラルタルに来たのか訊ねた。

「実は閣下、私達はいささか苦しい立場に立たされています。ご存知かと思いですが……」
「公的には死人。実際は名を変えたオーブへの亡命者かつ捕虜といったところか」

 マ・クベの返答は冷たい。しかし動じるわけにはいかなかった。

「その通り、私たちは生きている。いや、貴方の策略によって生かされている。私は先の一件で感謝を述べると共に疑問を口にしなければなりません。マ・クベ中将、貴方は何故我らを助けたのか」
「筋違いだな。貴官がそれを聞くべきはカガリ・ユラ・アスハであって私ではない」

 アークエンジェルがオーブ湾に逃げてきたとき、救援を指示したのはカガリだ。マ・クベは連合を出し抜く方策を述べたに過ぎない。
 しかし、マ・クベも気まぐれで策を述べたわけではない。アズラエルとの繋がりを得るという明確な理由が存在するが、ナタルを前に本心を口にするほどこの謀将は迂闊ではない。

「そもそも私はアークエンジェルという軍艦が欲しかっただけだ」

 なるほど、とナタルは思った。
 アークエンジェルは連合・ジオンをあわせてもトップクラスの性能だ。ナスカ並の高速艦でザンジバル並の艦載能力を持つ。防御面ではラミネート装甲によりビーム耐性が高く、ローエングリンやゴットフリートなど砲戦能力も高い。そして地上、宇宙ともに運行が可能な万能艦でもある。
 実際に連合もザフト残党部隊を排除するのにアークエンジェルを利用し、多大な戦果を挙げていた。

「これ程目立つ艦艇はジオンにないのでな。それと――」

 それはあまりに自然な問いかけだった。

「貴官の謁見を承諾したのも艦の受け渡しの要請をするためだ。当然、引き渡してくれるのだろう?」

 マ・クベの平然とした問いにナタルは戦慄した。上手く交渉の席に着けたと高をくくっていたが、そういう魂胆だったとは気付かなかった。ここで引渡しを拒否しても実力行使で奪われる。受け入れるしか道はない。かと言ってタダでアークエンジェルを渡すのは論外である。ならばどうするか……。
 考え込もうとした瞬間、咄嗟にマリューの話を思い出す。

「一つ条件が……」
「条件?」

 そんな立場ではないだろうと言っているような視線を向けられる。それでもナタルは動揺することなく次の言葉を吐き出した。

「私たちを傭兵として雇うこと、それが条件です」
「何をバカな。貴官らを雇ったところで我々に何のメリットがある」
「アークエンジェルを手に入れたところで乗組員はどうするお積りでしたか?」

 唐突な質問に、マ・クベは少し考え込んでから答える。

「それは……我が軍の人間を充てる」
「その養成期間はいかほどです? 1週間? 1ヵ月? それに艦はラミネート装甲です。地上攻撃軍に装甲を修復できるスタッフは? PS装甲の機体もありますからその知識も必要でしょう」

 アークエンジェルは操艦機構のオートメーション化が図られており、少人数での運航が可能となっているが、大西洋連邦とモルゲンレーテ社の最新技術が多数盛り込まれた結果、実験艦的な要素も強い。おかげで複雑な機構が多く、専門のスタッフが必要となっていた。

「何れにせよアークエンジェルは連合の艦、貴方方では、動かすのにかなりの期間が必要になります」
「つまり貴官のクルーをそのまま雇用したほうが効率的なわけか」

 マ・クベは懐疑的な目でナタルを見る。

「しかし、疑問はある。君は元ではあるが連合軍人だ。そう簡単に主義主張を変えられるものなのかね?」
「主義主張などというものは生きるための方便です。それが生きるのに邪魔なら捨てるのみです」
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 こうしてアークエンジェルは傭兵として遇されることになり、ユーラシア方面に投入された。
 アークエンジェルに与えられた任務はヨーロッパ方面における囮だった。白色で塗装された外観は、囮部隊として利用するのに最適であった。ユーラシア連邦の補給物資を焼き払い、時にはMSを相手にすることで、オデッサを攻める連合の注意を一身に引き寄せるのである。
 しかし、その際にジオン側から監視者が乗り込んできた。

「初めは攻撃するのをためらってた坊主どもも、なかなか慣れてきたじゃないか」

 それがシーマ・ガラハウ。階級は中佐。長いマントと狐のような顔が印象的なガルマ親衛隊の1人である。奇しくもアークエンジェルがオデッサ撤退時に戦った相手であり、間接的にではあるがサイの命を奪った相手でもあった。
 彼女の素性をマ・クベから聞かされたときナタルは驚きと共に、また頭痛の種が増えることに頭を悩ませた。間違いなくヘリオポリス組と揉め事を起こす。トールあたりは仇討ちと称して殴りかかるだろう。そうなればジオンとの交渉は終了。アークエンジェルは連合だけでなくジオンからも追われる立場になる。
 最終的にシーマの素性はナタルの胸のうちにとどめて事なきを得ているが、どこからか話が漏れるかもしれないと思うと胃の痛い毎日を送ることになる。

「元友軍とはいっても、奴らは"ユーラシア連邦"です。大西洋連邦の以前の仮想敵国ですよ」

 ナタルを見るシーマの目は、まるで品定めをしているようだった。

「そんなもんかねぇ……?」
「不安でしたら、中佐自ら出撃してはいかがでしょうか」
「背中を任せられる連中ならそうするさ」
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 キラとトールは何ともいたたまれない感情の中、アークエンジェルに帰艦した。ユーラシア連邦を仮想敵国として教育を受けたナタルたちとは違い、キラたちは相手を連合軍として認識していた。少しは慣れてきたが、以前は友軍であった機体を攻撃するのには少なからず抵抗がある。

「いつまでこんなこと続けるのかな」
「連合のオデッサ侵攻が終わるまでじゃないの?」

 マ・クベからは"囮部隊"としか命じられておらず具体的な期間などは指示されていなかった。ヨーロッパで作戦を行なう以上、オデッサ侵攻に関するものなのは確かなのだろうが、詳細が分からないので不安になる。

「コックピットやエンジンを外すのって、難しいんだよな。キラお得意のプログラミングで、そういうOSに出来ないか?」

 2人は相手を殺傷する制限を受けていた。囮としてアークエンジェルを目撃させるためである。

「無茶言わないでよ! 高速で動く敵機を補足するだけでも御の字なのに、腕や足を正確に狙うなんて無理だ」
「そうか……」

 淡い期待も露と消え、ガックリするトール。

「そんなトコに突っ立ってないで、早く艦長に報告しに行ったらどうです」

 コンテナの上から声が上がる。モルゲンレーテ社から(騙されて)出向したシン・アスカだ。搭乗するMSに不都合がある関係で、彼は出撃を許可されていなかった。

「何やってるんだ、シン!」
「整備班を見てるんです」
「そうじゃなくて、危ないからコンテナから降りろ!」

 怒鳴られたシンはやれやれと手を広げ、コンテナの上から飛び降りた。

「これでいいですか」
「可愛げのない奴だ」
「それよりキラさん、今回の敵はどうだったんですか?」
「どうって、別に普通の相手だったよ」
「トールさんじゃなくてキラさんに聞いてるんだけど」
「本当に可愛げがないな……」

 キラはトールを宥めながら話を続けた。

「まあまあ。トールの言うとおりだよ。それほど強い相手じゃない」
「強いて言うなら、コックピットを狙わずに攻撃するのは難しかったな。シールド構えながら変に動き回るから狙いがつかめなくて」
「やっぱりそうなんだ」

 シンの皮肉めいた言い回しにトールの顔が強張る。

「"やっぱり"ってどういう意味だ」
「トールさんでも戦えるなら俺でも出来るなって思っただけです」

 その一言で険悪な雰囲気が漂い始める。シンの言葉は、まるでトールを見下しているような物言いなのだ。

「……それは喧嘩売ってんのか」
「別にそんなつもりじゃないですよ」

 ――まずい。
 キラがそう思った瞬、後ろから声をかけられた。

「そこの2人! 艦長への報告は終わったの!?」

 いつの間にか3人の近くにマリューが立っていた。今まで整備をしていたのか、汚れたツナギを着ていた。

「軍属じゃなくなったけど、艦内規則はしっかりしないとね」
「すみません。トール、行こう」
「……ああ」

 これ以上場の雰囲気が悪くならないように、キラはトールを引っ張って格納庫を後にした。
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 ナタルとマリューは艦長室に集まり、今後の方針を話し合っていた。

「ガラハウ中佐が言うにはこの周囲に連合の基地は無いそうです」
「そうなると北上するしかないわね。連合軍はオーストリアまで侵攻していると聞くし……」
「あまり進めばユーラシアの主力と鉢合わせする可能性があります。危険は冒せません」
「向こうから来てくれると楽だけれど」

 ナタルがこたえた様子もなく、首を振った。
 アークエンジェルの働きもむなしく、連合軍のオデッサ侵攻は順調である。囮として後方をかく乱しているつもりではあるが、これでは役に立っていないのと同じだ。

「補給部隊を攻めるだけじゃあ地味だし、何よりありきたりよね。やっぱり名のあるエースパイロットを倒すぐらいはしないと」
「そういう部隊は前線に行っていますよ」
「ガラハウ中佐はなんと言っているの?」
「暫らくは自由に動いていいと……」
「なによそれ。ジオンはやる気があるのかしら」
「まぁ、彼女は乗機が"アレ"ですからね。囮として使わなければ"アレ"を持ってくることはないでしょう」

 シーマの機体を思い浮かべたマリューは複雑な顔をした。2人にとってシーマの機体は因縁深いものなのだ。

「まぁ、今はやれることはやるしかないわね」
「そうですね」

 結局は目に付く部隊に奇襲をかけるくらいしか、アークエンジェルの選択肢はなかった。

「ところで、クルーのことで報告があると聞いたのですが」

 ナタルは格納庫でのシンとトールのやり取りを聞き、ため息を漏らす。

「苦労してるわね」
「他人事みたく言わないでください」

 ナタルはうんざりした顔で、マリューを見返した。
 シンの仕草は、最初はキラを慕っていることからコーディネイターお得意のナチュラル軽視かとも思った。しかし、トール以外の乗組員には真摯な態度を取っていた。マリューやマードックに敬意を払っているし、歳の近いセイラやミリアリアにも普通に接している。
 それなのに何故かトールとだけは距離を置いていた。トールが彼に話しかけるたびに突っかかるのだ。

「ケーニヒが眉間にしわを寄せていたのはそういう理由か」

 てっきりシーマの素性がばれたのではと内心ビクビクだったナタルである。

「それで、シン・アスカに対する貴女の見解は?」
「シン君はガキだってこと」

 マリューはシンの態度を背伸びしたい子供であると考えた。シンがトールにだけ反応を示すとなれば2人に共通するのはMSのパイロットであることだけだ。トールは実戦経験を積んでいるとは言ってもナチュラルである。彼よりも自分の方がMSを上手く扱えるとシンは思っているのだろう。

「実際にシン君は私に出撃させろと何度もせがんできたわ」
「一から出撃許可を与えておいたほうが良かったのでしょうか?」
「その結果、MSは脱落しました。では元も子もないでしょ」

 シンの搭乗機は試作MS"ムラサメ"である。世界初の可変型MSであるが、可変時の安定精度は極めて低く、オーブ本国での変形試験は空中で変形しきらずに墜落するというお粗末さであった。
 モルゲンレーテからは実戦データの収集という名目で貸し出されたが、明らかに欠陥品を押し付けられた形となる。恐らく、GAT-Xシリーズの開発に関わるマリューを利用しようとしているのだろう。そしてアークエンジェルで事故が起きた場合、あわよくば責任を擦り付ける気だ。

「ムラサメは使えるのですか?」
「何とも言えないわね。シミュレーションでは変形に問題ないけど、実際に動かしたわけじゃないから」
「ぶっつけ本番しかないか……」
「戦闘機として動かすのなら問題はないわ。スカイグラスパーと一緒に出撃させるのがベターじゃない」
「……そうします」

 こうしてナタルは次の戦闘でシンをセイラと一緒に出撃させることに決めた。しかし、それが新たな問題を起こすことになる。
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 ヨーロッパ方面における戦況は連合側が優勢であった。ビラード中将率いる主力はオーストリアを制圧し、着実にオデッサへの扉を開けつつある。
 そんな状況下において連合には一つの懸念があった。それはジブラルタル基地のことである。
 現在、ユーラシア連邦はオデッサ攻略に全力を注いでおり、英本土の残留部隊はごく僅かだ。こんなときにガルマ直属のジブラルタル艦隊が英本土へ侵攻したら、残念ながらユーラシアに防ぐ手立てはない。
 そこでジブリールはジブラルタル基地を封鎖するよう命じた。ユーラシアの戦力がオデッサ方面に集中している関係で大西洋連邦の艦隊を借りた格好となるが、指揮官にネオ・ロアノーク大佐を指名し、後期GAT-Xシリーズを有するキュリオスを送り込んだ。これでジブラルタル基地は身動きが取れなくなる。
 意気揚々とオデッサへの侵攻を進めるジブリールの下へ、アークエンジェル目撃情報が入ったのはそんな折であった。

「まったく、ジブリール様にも困ったものだ」

 艦橋でホアキン中佐が部下に愚痴をこぼした。

「今はオデッサ奪回に全力を注ぐべきだろうに……」
「しかし、件の連中は補給部隊にも攻撃を行っています。今の連合で対処できるのは我々しかありません」

 彼の乗るキュリオスは、大西洋ではなくイタリア北部を南下していた。

「まぁ、我々が沈めておけばこんなことにはならなかったのですが」
「そんなことは分かっとる!」

 ジブリールにとってアークエンジェルは"オーブ沖で沈んだモノ"であり、それがいまだに存在しているなど許されるものではなかった。スーパーコーディネイターが生きていることになるのだ。これでは新盟主就任の際に、その抹殺を宣言した新盟主ロード・ジブリールの面子は丸つぶれとなる。
 そこで一度アークエンジェルを追い詰めたキュリオスに再び破壊命令が下されたのである。

「艦長はどうお思いですか。例の連中が生きていたと?」
「まさか、そんなことはありえんよ」

 ジブリールはアークエンジェルが生き延びていたと考えていたが、ホアキンはジオンが鹵獲したのだろうと考えていた。今も中立を宣言しているオーブではあるが、新代表のコトー・サハクがジオンよりなのは明白だ。恐らくはオーブが引き上げたアークエンジェルをジオンが受け取ったのだろう。

「連中はジオンに決まっとる。それはそうと人形どもの様子は?」

 ホアキンはブーステッドマンの様子を聞く。

「様子に変わりはありませんが、薬の量が増えております。このままでは戦闘への影響があるかと」
「構わん。最悪の場合は自爆でもさせよう」
「大丈夫でしょうか。アークエンジェルに対抗するには不安があるのですが……」
「君は敗北主義者かね?」
「い、いえ!」
「ならいいのだよ」

 このときホアキンはアークエンジェルを侮っていた。そしてそれが最大の失敗へとつながることになる。

 
 

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