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Zion-Seed_51_第二部第9話

Last-modified: 2008-08-08 (金) 20:46:35

 ラガシュ基地は制圧された。艦隊を率いたマーレは戦死し、基地司令のルドルフは拘束、他にも多数の捕虜
を得て基地は陥落した。ナタルは朗報をビクトリアに送り、占領維持に必要な部隊の召集を求めた後、協力者
であるガルマに謝辞を述べた。

「ご協力感謝します。我々だけでは占領は不可能でした」
「そんなことはない。貴官の部隊の働きは見事だった。我が軍の手本にしたいくらいだ」
「ご謙遜を……」

 再び頭を下げるナタルは、ジオン軍の精強さを再認識した。ガルマはああ言っているが、ラガシュ制圧から
アークエンジェルの救援までの流れは見事と言うしかない。連合の部隊を従えていたにも拘らず、まるで疾風
のような速さで戻ったのだ。これ程、統率力のある人物は連合軍にいないだろう。
 ランバ・ラルにしてもそうだ。ドタイに乗った慣れない状況でも、キラとトールの援護を絶やさなかった。
青い巨星の名は伊達ではないという事か。

「さて、私はそろそろお暇しよう。またの機会に、と言うべきかな?」
「正直に言えば、貴方とは戦いたくありません。勝てる機がしないのですから」
「私もそうだ。今回は貴官らと共に戦うことができた、戦争が始まらなければ我々は良い友人になりえたかも
しれんしな」

 言って手を差し伸べる。ナタルはそれを掴むと、最後は敬礼で彼らを見送った。
 レセップスに戻ったガルマは、バルトフェルドに迎えられる。

「バルトフェルド、貴官には感謝するぞ。お前の叱咤がなければ私は負け犬のまま終わっていただろう」
「いえ、私は無礼な振る舞いをしたまでです」
「あくまでそう言うか。ならば、ジブラルタルに帰った後、貴官は二階級降格だ」
「!?」
「そうなりたくなければ、オブザーバーとしてカオシュン攻略に知恵を働かせよ。期待しているぞ」

 バルトフェルドは苦笑すると、嘗ての宿敵であり現上司であるガルマの後に続いた。後日、カオシュン基地
は僅か3日で攻略されるのだが、それはまた別のお話……。
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.
――――第2部 第9話
.
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 ガルマ達がラガシュを攻略している頃、プラントのマイウス市ではセレモニーの準備で賑わっていた。
 式典を明日に控え、マイウスの軍事工廠は何時もとは違う活気に満ちている。荒っぽい叫び声が飛び交い、
数多くの作業員が各担当の機体に群れ、額に汗を浮かべながら立ち働く。そこに3機のMSが固定されていた。
グフイグナイテッドと2機のザクである。足元ではニコルが機体の調整を行っている。

「これで……駆動部は終了っと」
「精が出るわね、アマルフィ少尉」

 そのニコルにコーディネイターでも珍しいメガネをかけた人物が話しかけた。リーカ・シェダーだ。彼女は、
アスランと同じようにザクの改修機のテストパイロットである。

「ここがこんなに活気付くなんて久しぶりね」
「仕方ありませんよ。今回の式典は急遽決まったのですから」
「そうね。貴方達が派手な戦闘しちゃったからね〜」
「あ、えっと、その……」

 先の第六艦隊壊滅の報は、ザフトの残党がプラントの解放をまだあきらめていない事をプラント市民に印象
付けてしまった。これを放置しては水面下でテロリストを支援する者が出てくる。その対抗策としてジオンは、
マイウス市で改修していたザクとグフのお披露目をする事を決定した。残党に睨みを効かせようという魂胆だ。

「まぁ、これもアスラン君の腕が良いからよ」
「それを聴けば、アスランも喜びます」

 言って、まだコックピットで調整をしているアスランに目を向けた。
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               *     *     *
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『パトリック・ザラは俺が殺したんだ』

 クルーゼにあった日、軍の宿舎に向かう途中の事を思い出す。

『俺は、父上を追い詰めていた。そうとも知らずに俺は、昔の友人の事ばかりを考えて……』
『どういう意味です?』
『……地球軍に俺の幼なじみ――キラがいたんだ』

 ヘリオポリス襲撃時にキラと再会した事。そしてキラがストライクのパイロットをしていた事。アスランは
隠していた全てをニコルに話した。

『コーディネイターのキラが、連合にいるなんて信じられなかった。それからというもの、俺はキラの事が頭
から離れなくなった。何時また戦場で出会うのか、そして殺し合いをしなければならないのか。毎日が不安で
仕方がなかった。暫らくの後、俺はキラと再会できた。そして説得した。プラントに行こうと、そうするのが
一番だと……』
『そして断られたのですね』
『そうだ……。俺は動揺した。動揺して命令に逆らって、ストライクを破壊ではなく捕獲しようとしたんだ。
おかげで作戦の目的を果たせなかった。今考えれば、それ以前からも俺は失態を重ねていた』

 キラがアスランにとって、とても大切な友人であるのをニコルは理解した。そうでなければ、アカデミーを
トップの成績で卒業したアスランがする筈のないミスを続けて起こすわけない。

『俺はプラントに戻って父上に会った。頬が痩せこけ、疲れ果てた父上は俺を叱った。そして決戦を目の前に、
俺をヤキンではなくプラント防衛に当らせた。その時に気付いたんだ。父上はどんな手を使ってでもプラント
を護ると、家族である俺を護ると……』
『アスラン……』
『ジェネシスが撃たれた時、父上が限界まで追い詰められているのが解った。俺は志願兵を募り、ヤキンまで
出向くと決めた。親孝行がしたかったのかな、今まで迷惑をかけていた分も戦うと……』
『アスラン、もういいです』
『それなのに俺は間に合わなかった! 俺がヤキンに着いた頃には、父上は自決していた。自らを罰する事で
しか、プラントを守れないと悟って……。父上は血眼になってプラントの事を考えていたのに、俺は……』

 ニコルはなんとか諌めようと手を肩にかける。

『そんなに自分を責めないでください。もしかしたらクルーゼが言っていたように、誰かに殺されたのかも』
『一体誰が!? 司令部にいた人間が父を殺してどうなるというんだ!?』

 しかし、それは狼狽するアスランに振り払われた。
 パトリックは、ラルの部隊が司令部に突入した段階で既に死んでいた。もしパトリックが殺されたとすれば
それは司令部にいた人間という事になる。だがそれはありえない。

『で、でも、議長が死んだのは、貴方の所為ではありませんよ』
『俺の所為なんだよ! ジブラルタルが落ちた事も! アズラエルを殺せなかった事も!』

 アスランはひたすら自分を責め続けた。

『だから俺は、父上が守ったプラントを守ると誓った。私情を捨ててプラントに尽くすと誓った。俺自身は、
どう思われても構わない。俺は最後の瞬間まで、プラントの平和を護りきる。例え相手が誰だろうと戦う!』
『キラさんやラクスさんでも、ですか』

 ニコルの問いにアスランは一呼吸おくと、決意するように頷く。

『ああ、そうだ!』
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               *     *     *
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 アスランの意思を聞いてからというもの、ニコルは彼にどう接すればいいか分からなくなっていた。

(一体どうすればアスランの心の闇を振り払えるのでしょう)

 今のアスランは危険な位置にいる。プラント敗北の責任を全て自分で背負い込んでいるのだ。その上で無理
をしているか、あるいは無理をしている事に気付いていないか。

「ニコル・アマルフィ少尉、聞いてるのか?」
「へ?」

 考えていた頭を切り替えると、目の前にリーカと並んでコートニー・ヒエロニムスが立っていた。ヴェルヌ
局所属のテストパイロットで、リーカと同じくザクの改修機のパイロットを行っている人物だ。

「心ここに在らずといったようだな……」
「す、すみません!」

 恥ずかしながら頭を下げるニコル。コートニーはやれやれといった様子で溜息をついた。
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               *     *     *
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 その日の夜、マイウスの迎賓館ではささやかなパーティーが開かれた。会場には、軍の高官や総督府の要人
らが顔を並べるが、表情は新型機への不安と疑念が見え隠れしている。プラントで改修された機体がどれ程の
ものなのか懐疑的なのだろう。
 そんな会場に、一組の男女が姿を現した。黒を強調する正装をした彼女はプラント総督マハラジャ・カーンの
娘ハマーン・カーン。もう一人のサングラスをかけた男性はシャア・アズナブル大佐である。

「はぁ……」
「気分でも悪いのか、ハマーン」
「せっかく新しい服を作ってもらったのに、こんな服じゃあ普段着に出来なくて……」

 今日は公務で出席出来ないマハラジャの代わりに二人が招待されていた。

「この式典だって、好きで来てる訳じゃないのに……」

 その様子をみてシャアは苦笑いを浮かべ、まだまだ彼女が子供である事を認識させられた。

「あっ! でも、良い事もありましたよ。大佐と一緒にパーティーに出れるんですから」

 そう言ってシャアに腕を絡ませてくるハマーン。何故だか分からないが、シャアは彼女に気に入られている。
それ自体は構わないのだが、彼女がシャアの部隊に来てからというもの、部隊内がギスギスして仕方がない。
特にララァの自分を見る目が明らかに変わった。何故そうなったのか、シャアには皆目見当がつかなかった。

「これはこれはハマーン様。ご機嫌麗しゅう」

 二人に気付いた佐官が近づいてきた。式典の警備主任でプラント保安本部長でもあるエンツォ・ベルニーニ
大佐である。保安本部という大層な名前を付けてはいるが、実態はドズルの下にいた戦闘用コーディネイター
“ソキウス”を部下に持つ秘密警察組織だ。

「シャア大佐もパーティーを楽しんでおられるかな」
「ええ、一応に。エンツォ大佐、警備のほうは万全ですか?」
「当然です。キシリア様の二の舞は起こしません」

 エンツォはスパイ摘発やレジスタンスの狩り立てなど、些細な事でも厳格に取扱うので有名だ。やり過ぎと
の声もあるが、ヤキンの戦勝式で警備主任を担当していた彼は、キシリア暗殺未遂事件を未然に防げなかった
責任感が彼を厳格にしているのだろう、という同情の声もあった。
 しかし、シャアは別の考えを持っていた。それはエンツォが業と事件を見逃したというモノである。
 エンツォの派閥はギレン派だ。政治的に対立をしていたキシリアを抹殺すべく、犯人を意図的に潜り込ませ
たのではないか。警備主任なら実行は可能でもある。
 それは考えすぎなのかもしれない。しかし、以後ギレンは急速に力を付けた。行き場を失ったキシリア派を
取り込む事で派閥を広げ、同時に懐の深さを表す。更には軍をドズルに任せつつ、研究機関であるフラナガン
機関を自らの元へと置く。その為に彼はNTという強力な兵士を部下に持った。おかげでララァもギレンの下
に就く事になり、安否を心配したシャアはギレン親衛隊に志願するハメになってしまった。

「だと良いのですが」
「赤い彗星殿は心配性ですな」
「気になるタチでして……」

 この事実を知ったシャアは戦慄を覚えた。ギレンは政治と軍事の両面で力を付けたのだ。自分の手を汚さず
にキシリアを表舞台から引きずり落とし、プラントの自治権を剥奪する。更には、それらの力を最大限に利用
しようとしている。
 自分は、ギレンを過大評価しようとしているのかもしれない。シャアはそう思いたかったが、それは一時の
逃避でしかないようだった。

「ご安心ください、猫の子一匹たりとも入れたりはしません」

 自信満々に答えるエンツォ。その時、突然轟音と凄まじい揺れが彼等を襲った。
 エンツォは事態を把握しようと部下に確認を取り出す。シャアもハマーンの傍によると、今までの考え事を
別にして周囲に目を配った。そしてハマーンの手を掴むと、全速力で入り口へと駆けた。

「なに? 隕石?」
「違う、これはコロニーへの攻撃だ!」
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               *     *     *
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「よろしかったのですか」
「当たり前だ。何度も言わすな」

 マイウスを襲撃した男――アッシュ・グレイは悪びれる事もなく言い返した。

「俺の家に勝手に上がりこんだのは向こうだ。だから俺のやることに文句は言わせん」

 彼らの組織名は“プラント解放戦線”。ウィラードが纏めるザフト残党勢力である。
 その中のアッシュ隊はウィラードに報告をすることなく独断でマイウスを襲撃していた。これは越権行為に
当たるのだが、とある理由からアッシュは組織内でも自由に動く事を許されていた。

「それに新型MSを放置するわけにもいかん。違うか、ん?」

 アッシュはからかうように副官に問いかける。彼もグレイの本性を知っているのか、半場諦めた表情だ。

「分かったのなら口を挟むな――さあて、ようやく面白くなるぞ、諸君」
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               *     *     *
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「艦艇は8隻。MSは50機近くいます」
「こちらの哨戒部隊は何をしていた?」
「突然現れたそうです。おそらくミラージュコロイドでしょう」

 管制室からの報告にシャアは不満を示した。自分が先の戦いで入手したブリッツは技術本部に回されている。
それにも拘らずミラージュコロイドの対抗策は今だ確立されていない。これでは職務怠慢も甚だしい。
 残党軍の奇襲を受けた結果、戦況は些か不利だった。敵艦隊が接近し、マイウスを含めたコロニー群に艦砲
射撃を行っている。慣れない戦闘なのか、ジオン軍が苦戦を強いられている。ジオン軍はこれまで攻勢し続け
ていた。守勢に回ったのはソロモン防衛時の時のみ、更に言えば民間施設を護るのは初めてなのだ。旧ザフト
兵で構成される防衛部隊も、同胞を相手にするのに躊躇っている。
 そんなの中で唯一、第六艦隊は善戦していた。ララァ達のNT部隊が中心となって防衛線を張っているのだ。

「ハマーン、準備はいいか?」

 ハマーンはこれが初陣だ。シャアは一応励ましてみたが、彼女を護りながら何処まで戦えるか不安だった。

「はい。シミュレータでの経験を見せてあげます」
「ハマーンは、後方からドラグーンで援護するように」
「大佐、私も戦えます」
「君は戦えるかもしれない。しかし問題なのは機体のほうだ」

 ZGMF-X13A“プロヴィデンス”――型番から分かるようにフリーダム、ジャスティスと同時期に開発された、
いわば兄弟機に当たる機体だ。ヤキン陥落時にザフトから押収したものである。頭部はXナンバーに似ていた
ので、誤認をなくすべく従来のものからザクのものへ変更させた。右腕には高エネルギービームライフルを、
左腕には複合兵装防盾システムを装着。円形のバックパックには大型3基、小型8基の砲を備え付けている。
これはドラグーンシステムと呼ばれる無線式のオールレンジ攻撃用兵器だ。
 ザフトでは量子通信を使い完成させようとしていたらしいが、ミノフスキー粒子が量子通信を阻害する為に
失敗に終わっていた。そこでこの機体を回収したジオン軍が、量子通信をミノフスキー通信に変更し、更には
サイコミュを搭載させる事によって完成させ、NTの片鱗を見せたハマーンの専用機となった。
 しかし問題がないわけではない。ザフトの技術に、無理矢理ジオンの技術を組み込んだのだ。実験段階では
不具合も報告されていた。

「初陣で無理はさせられない。今日は実戦の空気を感じるだけでいい」

 シャアは不満げなハマーンを諭しながら防衛戦へ向かうと、すぐさま向ってきた1機の敵MSを、シャアの
ゲルググが切って捨てた。赤い彗星に単機で挑むのは勇気ではなく無謀である。

「……凄い……!」
「私は前線に出る。いいな、ハマーン」

 ハマーンはシャアの技量に息を呑み、彼の後ろにしっかりついていかなければならないと感じた。
 戦場に着いた2人は第六艦隊と合流すると、ユウキにはコロニー防衛を指示、自分の隊には敵艦を優先して
叩くよう命令した。このまま守勢を維持しても敵の攻撃を全て防ぐ事はできない、ならば敵母艦を潰したほう
がコロニーへの被害は減ると判断したのである。シャアはハマーンとララァ・スン中尉、シャリア・ブル少佐は
クスコ・アルとマリオン・ウェルチの両少尉と共に敵艦へと向かった。

「MS3、MA3が急速接近」
「おやぁ〜? コロニーの防衛を放棄したのか?」

 このシャアの動きは、のんびりと肘をついて戦闘を見ていたアッシュも確認していた。

「あの機体は何だ?」
「あれはゲルググです」
「そんな事は分かっている。私が聞いているのは色のほうだ。彗星か? それとも稲妻か?」

 コースト隊の戦闘データからシャアであるのを確認すると、アッシュはエレベータに向かって飛んだ。

「私も出撃する。残りのMSも全て出せ」
「はっ……」

 指揮官が自ら戦場に出ることは、あまり望ましい事ではないが、殺人狂であるアッシュを止めるのは時間の
浪費であるのを副官は熟知していた。

「格納庫、アッシュ隊長が出るぞ!」

 程なくしてハッチから歪なMAが射出された。それは流星のように、接近しつつあったシャアのゲルググを
目指す。シャアも向かってくるMAの機影を捉える。接近する機影はかなりの速度で近づきつつあった。

「MA? ララァ、ビットで捉えられるか」
「難しいでしょう。あれは速すぎます」
「のろまなMAじゃあ無理ですよ。大佐、私がやります」
「ハマーン“少尉”、危ないですので後方に下がっていてください。それと私のエルメス兇錬唯咾任后
「そうでしたっけ? ずんぐりむっくりしてるからMAかと思いました」
「……もういい。両機は敵艦を……」

 敵を目の前にして口論する2人に頭を痛めながらも、シャアは敵艦への攻撃を優先させる。
 MAの速度は驚異的だが、直線的な動きゆえ読みやすい。シャアは牽制しつつ、相手の未来の行動を読み、
そこへビームを放つ。MAはビームと交差して撃破される、筈だった。

「!? これは……MAではない!!」

 ところがMAは思いも寄らない方法で攻撃を回避した。MAからMSへと変形したのだ。その動作により、
加速を殺し、強引にビームを回避したのである。これには流石のシャアも読みきれなかった。
 ZGMF-X11A“リジェネレイト”――ザフト軍が強奪に失敗したイージスの可変機構の運用検証を目的として
開発された機体である。装甲は毒々しい紫色で、鋭角的なフォルムは虫を思わせる。手にはプロヴィデンスと
似たビームライフル。そして最も特徴的なのは不自然なまでに大きいバックパックだ。
 奇抜で意表をつく動きは読み難い。ゲルググ単機であれば苦戦は免れないだろう。そう、単機であれば……。

「可変機か……ララァ!」

 シャアが通信を入れると同時に彼女のエルメス兇らビットが射出される。ビットはリジェネレイトの周囲
に展開し、全方位から攻撃を開始する。リジェネレイトはMAと変形して回避を試みるが、そこにゲルググの
ビームライフルが火を吹いた。一撃を受けたリジェネレイトは必死に母艦に帰ろうとするが、続くエルメス
のビット攻撃により四肢を破壊されていく。
 MSならばオールレンジ攻撃で、MAなら機動予測による狙撃で対処する。一件簡単に見えるが、息が合う
2人だからこそ可能になる完璧な連携攻撃だ。
 四肢を失い、胴体もズタボロな状態にされたリジェネレイトは、最早ピクリとも動かない。勝負は呆気なく
決まった――かに思われた。

「まだです大佐……来ます!」

 どす黒い感情を読み取ったララァは咄嗟に叫んでいた。
 何処からかMSが飛び込んでくる。リジェネレイトはその機体に呼応するようにバックパックを切り離すと、
ゲルググ目掛けて突っ込んだ。当然シャアは避けたのだが、驚くべきはその後だった。飛び込んできたMSに
離脱したバックパックが装着したのである。
 一瞬何が起こったのか分からなかったシャアだが、よく見てみるとそのMSはリジェネレイトと同じ機体で
あるのに気が付いた。

「これは……」
「予備パーツ、ですね」

 ララァの言葉どおりだった。今2人が破壊したのはリジェネレイトの本体ではなかったのである。
 通常MSは胴体部にコックピットを置くのだが、リジェネレイトに関してはバックパックにコアユニットを
置く事により、胴体が破壊されても新しい胴体を付け替える事が出来るのだ。

「如何かな赤い彗星。貴様が破壊したのは本体ではない。予備パーツに過ぎんのだ。俺はパーツを付け替える
事で永久に戦う事が出来る。これこそがリジェネレイト(再生)だ!」

 勝ち誇ったかのように言うアッシュ。

「ここからは俺のターン、狩りの時間だぁ!」

 アッシュは危ない発言をしながらMAへ変形すると、なんとシャア達に目もくれずマイウスに向けて機体を
加速させた。意図に気付いたシャアが直ぐ後を追う。

「大佐!」
「私は奴を追う。ララァはハマーンと敵艦を沈めてくれ」

 リジェネレイトは真っ直ぐにマイウスに向かう。接近に気付いたユウキ隊が迎撃に向かうが、圧倒的加速の
前にかすりもしない。そして防衛線を突破されると機体の前部を、足を広げたようにして開けた。腹部に搭載
してあるスキュラを放つ形態だ。
 スキュラの存在を知らないシャアではあるが、それが大口径の武器である事は察しがついた。

「間に合わん!!」

 シャアはマイウスに大穴が開くのを覚悟した。運が悪ければコロニーは破壊される。良くてもコロニー内の
空気が流出される。宇宙に住む者にとって空気は何よりも貴重なものだ。それを流出させる事は命取りになる。
シャアは最悪の事態を想像した。
.
               *     *     *
.
「迷惑なことだ。こんな形で実戦投入とは」
「そうね〜。まぁ、アスラン君のグフは経験があるからいいみたいけど」

 其処ではコートニーとリーカが愚痴を言い合っていた。
 残党軍が攻撃を開始した時、彼らは自分の機体に乗り込んでいたのだ。その中にはアスランとニコルもおり、
式典への最終調整の真っ最中だった。おかげですぐさま出撃を果たすことができたのである。
 リーカとコートニーの乗る機体はザクウォーリアとザクファントムだ。ウォーリアは量産機、ファントムは
指揮官機として運用する機体である。両機ともバックパックを換装する事が出来、連合のストライクのように
状況に応じた汎用機だった。

「敵の数は?」
「コロニー内に3機。外にはナスカ級もいる」

 マイウス内部に侵入した機体は、アスラン達のいる工廠に向かってきている。どうやらコロニーの生産力が
目的ではないらしい。工廠にある何か――要するにアスラン達が乗る改修機――を目的としているようだが、
敵機はD装備を施したジンだ。状況しだいではコロニー破壊も視野に入れているのだろう。

「防衛隊は外の敵に掛かりっきりだ」
「なら私達でやるしかな――」

 リーカの声に答えることなく、アスランはグフのスラスターを全開にして敵機に目掛けて突っ込んだ。突然
の事に2人は反応が遅れた。その遅れを取り戻そうとするように、両機体もバーニアを吹かすが接近戦を主体
とするグフイグナイテッドの加速力は他の追随を許さない。2人が援護することなく瞬時にして懐に入ると、
1機をビームガン、もう1機をビームソードで撃墜した。最後の1機も僚機がやられた事に動揺、退く機会が
あったにも拘らず、ヒートロッドの一撃で機体をショートさせられる。
 それら一連の動きを見ていた2人は唖然としてしまった。アスランの事は散々流れたプロパガンダで知って
いたが、その実力がこれ程とは思わなかったのである。

「すっごーい。アスラン君、凄腕ってもんじゃないわよ!」
「大したものだ。機体の特性を知り尽くしている」

 2人が感嘆の声を上げる中、ニコルはアスランの怒りを感じ取っていた。先程から一言も発しない。かなり
熱くなっているようだ――とニコルは考え、無理もないと思い返す。アスランはプラントを護る為に誰とでも
戦うと言い、実際に戦った。だが彼も、まさか嘗ての同胞がコロニー本体に対して攻撃を加えようとは考えて
いなかったらしい。残党軍がなしている事を目にして冷静でいられる筈がない。

「外の敵も排除する」
「ア、アスラン。防空隊も来てますし、シャア大佐の部隊もいますし……」
「また内部に侵入する可能性がある。リーカとコートニーはここに待機してくれ」

 アスランは素っ気なく言って、機体を上昇させた。そして非常扉から外部へと出る。その真空の空間で彼が
見たのは、コロニーに向かっていくリジェネレイトの姿。瞬時に何が起ころうとしているか悟った。
 次の瞬間、脳裏で水面のイメージが浮び、跳ねて弾ける種のイメージが重なる。

「やらせるかあぁぁぁ!!」

 アスランの叫び声がコックピットに木霊し、グフイグナイテッドがリジェネレイトに突っ込む。アッシュは
防衛線を突破した事による油断があったのか、気付いた時には距離が詰められていた。

「伏兵だと!?」

 グフイグナイテッドはビームソードを抜き、リジェネレイトに切り付けようとしている。リジェネレイトは
最大速度を出しているので避ける事は不可能。出来る行動は唯一つ、コアユニットを切り離す事だけだ。
 アッシュが脱出すると同時に、アスランはリジェネレイトを真っ二つにした。コアユニットが離脱していく
のをアスランは目にすると、全ての通信チャンネルを開いて問いただした。

「答えろ、何故プラントを攻撃した! 何故だ!」
「敵だからに決まってるだろ。何を言っている」
「ふざけるな! お前もザフトだったんだろ。プラントを護ってたんだろ。なのに何でプラントを攻撃する!?」
「クククッ! プラントはジオンに膝を屈した。その時点で殲滅対象だ!」

 アスランの怒気に、アッシュは笑いながら答えた。

「こんな甘ちゃんに楽しみを邪魔されるとは。次に会った時、いの一番に殺してやる。覚悟しておけ」

 そう捨て台詞を残すと、アッシュはミラージュコロイドを展開して姿を消してしまう。
 アスランは顔をゆがませて消えたコアユニットのいた空間を凝視した。そしてモニターに別の敵機が映ると
それ目掛けて突貫する。ビームソードを振りかぶり、防衛部隊と交戦中のジンを撃破。返す刀でガントリング
砲を構え、周囲にいたMSを全て破壊していく。敵を掃討すると次の獲物を探す。そして友軍を攻撃している
MSに弾が切れたガントリンク砲を投げつけ、追撃を行う。
 複座に座っていたニコルは困惑を隠せない。アスランは優秀なコーディネイターであるが、いくらなんでも
強すぎる。味方の支援を一切受けずに、敵を殲滅していく。いとも簡単に撃破していくが、アッシュの部隊は
特殊防衛部隊というザフトでも重要施設を護る為に作られた部隊だ。彼らが決して弱い訳ではない。どんなに
優秀でもこんな事は不可能だ。
 このアスランの姿を見たニコルは、友人にもかかわらず恐怖した。

「一体何者だ?」

 シャアもニコルと同じ感想を感じていた。改修機である事からパイロットはコーディネイターなのは分かる。
しかし技量が異常だ。NTでも戦闘に馴れていなければこのような事は簡単に出来ない。
 シャアはアスランの実力に恐怖は感じなかった。逆に素直に感心した。

「コーディネイターの身でここまでの事をするとは……」

 兎にも角にも戦闘は終わった。ジオンの被害は艦艇2隻、MS12機、民間の被害はマイウスの外壁が幾つ
か破損したのみで、市民には死者は出なかった。奇襲を受けてこの程度で済んだのは奇跡的である。
 対するプラント解放戦線は艦艇5隻、MS30機を失うという甚大な損害を被った。内艦艇4隻がララァ、
1隻がハマーンの成果だ。この結果に、泣きながら悔しがるハマーンをシャアが優しく励ますのだが、その
姿をララァに見られる事となる。どうなったかはご想像に任せよう。
 アスランは17機を撃墜し、後日グフイグナイテッドの正式パイロットになる。これは再び戦場に行く事を
意味していた。彼がキラと再会するのは、もう少しの時が経ってからである。
.
               *     *     *
.
『これが先の戦闘データです』
「よくやったレイ。引き続き情報を回してくれ」

 ジオン軍に潜り込ませたスパイからの話を聞き、ラウ・ル・クルーゼは上機嫌だった。

「解放戦線め、功を焦ったな」
「あの、どうなったんですか? ジオンを攻撃したんですか?」

 言ったのはフレイ・アルスター。ジオンへの復讐者だ。

「プラントを攻撃したらしい」
「!!」
「何故驚く? プラントのマイウス市はジオンのMS製造にかかわっている。君にとって復讐の対象だろう」
「そ、そうだけど、民間人は、違うっていうか……」

 強がるフレイの姿を滑稽に思う。クルーゼは既にフレイが思いつきで自分に着いて来たのに気付いていた。
初めの内は邪魔な存在と感じてはいたが、今考えてみれば彼女の存在は大きい。彼女がいる事で、マルキオや
ラクス、それにプレアは自分を信じた。「打倒ジオン」と「ナチュラルとの共存」をスローガンに掲げるには
彼女ほど説得力のある広告はない。

「確かに民間人を巻き込むのはいただけないな」
「……そうよね。貴方もそう思うわよね!」

 自分に肯定的な事を言うとすぐに喜ぶ。そんな姿も滑稽だ。

「フレイ、もう少しで舞台が整う。その時になれば後戻りは出来ないぞ。君はそれでいいのか?」
「え、ええ。私は、サイの仇を……打つわ」

 これから始める喜劇にはコーディネイターとナチュラルのヒロインが必要だ。
 1人はラクス・クライン。
 もう1人はフレイ・アルスター。
 これで駒は揃った。後は、幕が開くのを待つばかり……。