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Zion-Seed_51_第11話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:03:52

1.

 四つのモノアイがギラリと輝いた。シャアは、前方のガモフを見ると、部下達に攻撃命令を与える。
「ララァとデニムはローラシア級を落とせ。スレンダーは私について来い」
「少佐、お気をつけて……」
 シャアとスレンダーのMSがガモフを追い抜く。それを見届けたザク改と足のない白いザクはガモフを挟むように展開した。
それを見るやいなや、ガモフの艦長は薄ら笑みを浮かべる。2機とも対艦戦闘用のバズーカを装備していないのだ。白いザク
に至っては、武装すらしていない。
「フッ、ハエを撃ち落せ!」
 ガモフから対空砲が放たれる。2機のザクはそれを避けると、ララァがデニムに命じた。
「デニム曹長! 対空砲を落とします! 離れてください」
 ララァは命じると、精神を集中させる。次の瞬間、白いザクの両腕が本体から切り離された。
「な、なんだ!?」
 ガモフの艦長はその光景に愕然となるが、彼にはそのような事をしている暇はなかった。
 五つ並んだ閃光がガモフを貫き、一撃で対空砲火を破壊する。再び別方向から閃光が走ると全ての対空砲を一掃した。
「バ、バカな!!」
 その閃光は、白いザク――サイコミュ高機動試験用ザクの指先から放たれた5連装メガ粒子砲である。これはニュータイプ
の発する特殊な脳波であるNT波を利用し機体内外の装置の制御を行なうシステム『サイコ・コミュニケーター』を搭載した
NT専用機で、それを使って連合のガンバレルのように、オールレンジ攻撃を可能とした機体なのだ。
「曹長!」
「了解であります!!」
 対空砲を失ったガモフは、もはやまな板の上の魚も同然だった。
「ザフトめー! ジーンの仇だ!!」
 叫びながらデニムは、獲物に向かってザクを走らせた。

「“赤い彗星”だと!? おもしろい……このイザーク・ジュールが落としてやる!!」
 ストライクと対峙していたイザークはキラの力量に満足していなかった。その為シャアの存在を知るとデュエルの向きを変え、
そのザク目掛けてスラスターを吹かす。
「待てイザーク! 一人じゃ危険だ!!」
 アスランは飛び去るデュエルを追おうとするが、ふとキラの方を目をやる。
「……キラ、お前とは次の機会に話そう」
 言うとシグーをデュエルが向かった方向へ走らした。
「アス……ラン……」
 キラはその姿をただ眺めているしかなかった。

2.

 シャアはデュエルが近づくのを確認するとスレンダーに離れるよう指示する。
「頼むぞスレンダー」
「はっ!」
 スレンダー機が離れると閃光が闇を切り裂いた。
「落ちろー!!」
 これでもかと言うようにデュエルは57ミリ高エネルギービームライフルをザクに向けて撃ちつづける。シャアはそれを難なく
回避する。決してイザークの腕が悪いのではない。純粋にシャアの操縦技術が卓越しているのだ。
(フッ……素人め……)
 そう、シャアは思った。戦いなれたパイロットは決して無駄弾を撃たない。彼にとってデュエルの攻撃は実に滑稽だった。
「ええーい! 何故当たらん!!」
 イラつくイザークをよそに、シャアはデュエルに狙いを定めライフルを撃つ。もちろんそれはPS装甲により弾かれてしまう。
しかし、それは問題ではなかった。シャアはデュエルの機体性能を観察しているのである。
(PS装甲と言うやつか……そして火力はララァのザク並み……)
 シャアはザクの姿勢を制御させると、デュエルに向かって機体を急接近させた。デュエルは必死にビームを放つがザクが近づ
けば近づくほど射角は狭くなる。これでは落とせない事を悟ったデュエルは、ライフルを捨てビームサーベルを抜こうとする。
「遅い!!」
 だが、それよりも早くシャアの機体がデュエルと重なった。
「…………!?」
 イザークは息を呑んだ。その瞬間、正面のモニターが一瞬消えて急激なGが彼の体をシートにめり込ませる。イザークは何が
起きたのか最初は理解できなかった。なぜなら、デュエルはザクに蹴られ、後ろに跳ね飛ばされたのだから。
「キ……キ、キサマアァァッ!!!!」
 これはイザークにとって屈辱的な出来事だった。MS同士が戦闘行為をして一年しか経っていないが、MSに蹴り飛ばされた
MSはイザークのデュエルが初めてだろう。
「このイザーク・ジュールを足蹴にするとはっ!」
 イザークの怒りは凄まじく、まさに“キレた”といっていいだろう。
「このままにはさせん!!」
 ビームサーベルを抜き、機体をザク向けて走らす。
「MSの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる。」
 シャアは先程と一転して距離をとり、ライフルを当て続けるがザクのライフルはまったく通用していない。
「ハッ! そんなものがデュエルに効くか!!」
 そんな2機の戦闘の傍らではアスランのシグーが戦況を見守っていた。
(……イザークが、あの“赤い彗星”を押している……のか?)
 その姿は、逃げるザクに追うデュエル。違和感を感じながらもアスランにはそう映る。しかし――
「頃合か……」
 ――そう呟くと、シャアはライフルを連射させた。
「効かんと言っているだ……な、なに!?」
 イザークは目の前のエネルギーゲージを見ると驚愕した。ゲージがレッドゾーンに達しているのだ。冷静さを失っていた為に、
その事に気づかなかったのである。青と白の装甲が、鋼色に変わっていく。
「自身の腕とMSの性能を過信し、敵の攻撃を避けようともしないとは……」
 ヒートホークを手にすると、振りかぶった。
「うわあぁぁぁっ!!」
 目の前に迫る“死”にイザークは恥も外聞もなく悲鳴を上げていた。

3.

 次の瞬間、シャアは後方へ飛び退けていた。
 デュエルを守るように、重斬刀を持ったシグーが間に割って入ったのである。
「イザーク退け!」
「ふ、ふざけるな。俺はお前の助けなど……」
「そんな事を言っている場合か! 早く退け!!」
「……くっ!」
 イザークは何とか機体を制御させるとヴェサリウスへ帰還する。
「次の相手は俺だ……赤い彗星!」
 そう言ってシグーは重斬刀を構える。シャアはそれがオレンジである事に気づくと、
「“黄昏の魔弾”、ミゲル・アイマンか」
 キラと同様の大きな勘違いをしていた。
「いいだろう、相手になってやる」
 シャアはヒートホークへのエネルギー供給を切り、熱を失ったホークを構えた。重斬刀であるシグーに合わせた形となる。
「なめるなー!」
 シグーはザクに向かって突貫し重斬刀がザクを襲う。ザクの装甲を切り裂く為にやや大振りであるが、それは的確かつ正確な
攻撃だった。シャアはその猛攻を、急旋回を繰り返す事により全て回避する。
「なるほど。一撃、一撃が正確だ……」
 呟きながらシャアは、まるでそこに斬撃がくる事が分かっていたかのように、重斬刀を受け止めた。
「故に読みやすい!」
 ザクが振りかぶる行動にアスランは咄嗟に身構えるが、シャアが放った攻撃はホークの一撃ではなく、素手による殴打だった。
「がっ……何!?」
「武器を振りかぶったからといって、斬撃が来るとは限らない」
 コーディネイターは優秀である。故に1を聞いて10を知る事が出来る。シャアの攻撃は、まさに彼らの特徴を利用した物だ。
「この程度か……“黄昏の魔弾”の実力は?」
 接触回線からアスランはシャアの言葉に驚く。
「ち、ちが……!!」
「違うのなら、本気でくる事だ!」
 意味を履き違えつつも、シャアはその後も殴打と斬撃、時には蹴りもまじえアスランを追い詰めていった。

4.

 ムウとニコルは、未だに互いの刃を合わせていた。シャアの参戦は戦場にいる者の意識を大きく変えている。ディアッカも、
アークエンジェルへの攻撃を止め、意識をジオンへ合わせていた。
「ニコル!」
「イザークが後退しました。先に行ってください!」
 ディアッカのバスターは元々支援用のMSである。単機で性能を発揮するブリッツとは正反対の機体だ。
「僕の機体は援護に向いていない!」
「分かった!」
 バスターが離脱するのを見ると、再び意識をイージスに向けた。
「赤い彗星がいるんだ! そこを退けえぇ!!」
「行かせません!!」
 イージスのビームサーベルを攻盾システム“トリケロス”で防ぐと、ニコルは考え込んだ。
(とは言ったものの、シグーとバスターだけで赤い彗星を仕留められるでしょうか?)
 相手はデュエルに乗ったイザークを凌駕した力の持ち主だ。対ザク用に開発されたシグーと、Xナンバーのバスターだけで、
抑えきれるとはどうしても思えなかった。
 そんなニコルはある考えを実行に移すべく、グレイプニールをイージス目掛けて放つと、あるシステムを起動させた。
(ぶっつけ本番だけど……やるしかない!)
 次の瞬間、ニコルの乗ったブリッツは宇宙の闇に溶けるように、その姿を消した。
「ミラージュコロイドか!」
 ミラージュコロイドとは可視光線を歪曲させレーダー波を吸収する特殊なコロイド状の微粒子、及びこれを利用したステルス
機能だ。このコロイドを磁場で物体表面に定着させ、その物体に対し電磁的・光学的にほぼ完璧な迷彩を施す事ができる。
 ムウは神経を研ぎ澄ませ、相手の気配を探った。こうなった以上、頼れるのは自分の第六感しかない。
「何処から来る……」
 1分、2分と時間が経過してもブリッツは攻撃を仕掛けない。それが5分も経つと、ムウには嫌な考えが脳裏に浮かぶ。
「……もしかして逃げた?」
 実は、ニコルは攻撃すると見せかけてアスラン達の援護に向かっていたのだ。
「………………と、とにかく! 今は赤い彗星をっ!!」
 イージスをMA形態にし、ムウはシャアの元へ向けてスロットルを全開にした。

5.

 ザクに蹴り飛ばされてシグーが虚空を舞った。
「く……そ……っ!」
 アスランの乗ったシグーはボロボロだった。ミゲル用にカスタム化された機体が見るも無残な姿を晒している。
「まだまだだな……ん?」
 そんな戦場に高出力のビームが2機の間を貫いた。
「……支援MSのようだが」
 見ると94ミリ高エネルギー収束火線ライフルを構えたバスターがいる。
「待たせたなアスラン……援護してやるよ」
 言いながら220ミリ径6連装ミサイルを一斉に発射した。アスランは後方へ下がりながら体勢を立て直す。シグーが安全な位置
に移動するのを確認すると、ディアッカは再び収束ライフルを撃った。しかし、
「当たらなければどうと言う事はない」
 ザクを旋回させそれを避けると、シャアはシグー目掛けて機体を動かす。アスランは重斬刀を構えそれを迎え撃つが、途端に
バスターからの援護射撃が途切れてしまう。シャアはバスターとシグーの対角線上になるよう自機を操作しながらシグーに迫る。
「ちぃ! アスラン退け!」
 アスランも必死に引き離そうとするが、シャアの乗るザクは高起動が特徴に機体だ。おまけにシャア専用にカスタム化もされ
ている。ザクは接近するとシグーにヒートホークで斬りつける。さらには頭部を掴みメインカメラを握り潰すと、今度はシグー
を盾にバスターへ向けてスラスターを吹かした。
 迫り来るシャアにディアッカは戦慄し、トリガーを引くのに躊躇する。バスターの火力だとシグーを巻き込んでしまうのだ。
引き金を引けばアスランは間違いなく死ぬ。
「戦場で迷ったら終わりだぞ!」
 シャアは、シグーをバスターに叩きつけると、絡み合った2機を漆黒の宇宙に蹴り飛ばす。
「「うわああぁぁぁっ!」」
 幸いな事に、彼らが蹴り飛ばされた方角はヴェサリウスの居る宙域だった。
「連合のMSはこの程度なのか?」
 しかもコーディネイターが乗っているにも拘らずである。シャアはあまりの不甲斐なさに肩を落とした。その時――
『少佐! 後ろです!』

6.

 ヒートホークとビームサーベルがぶつかり光が飛び交う。
 シャアは『声』を聴いた瞬間に、ザクを反転させヒートホークを身構えたのだ。
「そんな!!」
 そう発したのはニコルだった。彼はミラージュコロイドでシャアの背後に回りこみ、一撃で勝負を決めるつもりだった。
「やってくれたな」
 ブリッツを殴りつけ、最大出力のヒートホークを叩きつける。
「……くぅ!!」
「透明化はもう終わりかね?」
 イージスとの戦闘に、ミラージュコロイドの使用が重なり、ブリッツのエネルギーは残りわずかであった。
「……熱光学迷彩、使えるかもしれんな……ん?」
 シャアはセンサーに映った高速物体――イージスに気づいた。
「連合側の“G”か……ララァ!」
「少佐、ご無事で!?」
「君の『声』が無ければ死んでいたよ。それより、この機体を頼む」
「分かりました」
 言うと、シャアはブリッツを見向きもせず、その場を離脱した。入れ替わりでサイコミュ・ザクとザク改がブリッツに迫る。
「新手!? でも……!」
「うおおぉぉぉ!!」
 ブリッツに対し、デニムはザク改を急速接近させるとグレネードを放つ。ニコルはトリケロスでそれを防ごうとするが、彼の
目に映ったのは、爆炎ではなく眩い光。デニムが使ったのは閃光弾だったのである。そして、
「今です少尉!!」
 そんなデニムの叫びよりも早く、ブリッツの頭部をメガ粒子砲が貫いていた。

7.

 ムウは赤い光点が近づくのを目視すると、イージスを変形させビームサーベルを抜く。
「赤い彗星!!」
 叫びながらシャアのザクに斬りかかる。シャアはヒートホークを抜いてそれを防いだ。
「月以来だな! シャア・アズナブル!!」
「何だと!?」
「隊長達の仇は取らせてもらう!!」
「“エンデュミオンの鷹”、ムウ・ラ・フラガか!」
 互いの存在を確認すると、ムウは鍔迫り合いの合間に額のイーゲルシュテルンを撃った。致命傷を与えるのではなく、カメラ
の一つでも潰せればいいのだ。シャアはムウの狙いを読み取り、後ろに下がると相手が先程のザフト兵と違う事を理解した。
「さすがに戦いなれている……何!?」
 そのシャアを追い、ムウはサーベルを斬り上げる。もちろんシャアは避ける。だが、イージスはその勢いのまま一回転すると、
ザクを蹴り上げようとした。次の瞬間目に飛び込んできたのは光の刃だった。それがイージスの脚部から伸びている短いビーム
サーベルである事が分かるとシャアは戦慄した。
「隠し武器とは……」
 ヒートホークはビームサーベルを受け止める事はできるが、出力の問題で競り負けてしまう。それに加えて隠し武器となると、
接近戦ではイージスに軍配が上がった。シャアは距離をとるとライフルを構える。今度はムウも無理にシャアを追おうとはせず、
相手の出方を見ていた。
 どうするか――シャアは思考する。接近戦はこちらに不利だし、PS装甲がある以上、手持ちの装備でダメージを与える事は
難しい。ならばデュエルの時と同様にエネルギー切れを狙う。照準を合わせ、最大戦速で機体を直進させると手にしたライフル
を一斉射する。だが……
「まさか!」
 イージスはそれを避けたのである。シャアは今の戦法で、多くの敵に損害を与えてきた。一、二発は当たったようだがシャア
の動きが読まれたのである。過去に自分の射撃を回避したのは、模擬戦でのララァ・スン少尉だけであった。
「もしや、ニュータイプ?」
 言って、その考えを振り払った。少なくとも、ニュータイプの概念は、連合軍のどの部分でも考慮されていないはずなのだ。
それに彼自身もその能力を持っている。シャアは自身よりも強い力を持つララァと接触する事により、覚醒する事ができたのだ。
まだその力は弱いが、もしムウがニュータイプなら、自分はおろかララァが気付くはずである。
「……あり得んことだ」
 その後もシャアはライフルを連射するが、それは星々の間に消えていった。

 幾許かの射撃後、シャアはイージスの動きを見るうちに、あることに気がつく。
「これは……やってみるか」
 ライフルを放つと、即座に別方向へ射撃する。するとイージスは、弾丸が飛ぶ方向へ吸い込まれるように動いていた。
「フフフッ……」
 笑みを浮かべると、同様の射撃を幾度も行なう。それらは全てイージスに命中していった。
「クソッ! なんでこうも!!」
「どうやらザクのOSを使っているようだな!」
 シャアはイージスの動きを観察するうちに、それがジオンの開発したOSであることに気がついたのだ。
 連合は捕獲したザクからナチュラル用OSを得ていたのだ。ジオンは今日の戦争の為、2年近くの時間を掛けて製作している。
その完成度は高く、少しの改良でXナンバーを動かす事が出来た。だがそれは、ザクに乗り続けているシャアにとって次の行動
を全て読まれる事を意味している。
「次は右……今度は左……」
「何でだ!? 回避プログラムはランダムの筈なのに!!」
「ランダムに見えるが、いくつかのパターンがあるのだよ」
 次第に追い詰められるイージス。ここでムウは勝負に出た。
「こうなったら一か八かだ!!」
 ムウはMAに変形させるとザク目掛けて特攻したのだ。
「正気か!?」
 シャアはムウの行動に目を疑う。さらに畳まれていた両腕脚部が展開し鉤爪と化したのである。
「冗談ではない!」
 バーニアを吹かして、距離を取ろうとするシャア。だが一直線に進む加速力においてはザクを上回っており、ジワジワとその
差は埋められつつあった。
「クッ! これならどうだ!!」
 ムウは腹部にエネルギーを回すと、戦艦を一撃で沈めるほどの威力を持つ580ミリ複列位相エネルギー砲“スキュラ”を放った。
「なんとっ!」
 シャアもギリギリでそれを回避すると、続けてライフルを連射する。このスキュラで大半のエネルギーを使用したイージスは、
ついに動きが止まりPS装甲がダウンした。だが、シャアの乗るザクもバッテリが尽きかけていた。
「……さすがに5機を相手にするとバッテリが持たんな……!!」
 その時、シャアの目にとんでもないものが飛び込んだ。GAT-X105ストライクガンダムである。

8.

 その頃、ヴェサリウスの艦橋ではクルーゼとアデスが言い争っていた。
「私も出る!!」
「隊長、落ち着いてください!」
 クルーゼが半壊したシグーで出撃しようとしたのだ。シャアの乱入後はアスラン達の不甲斐ない光景に激怒するだけだったが、
ムウのイージスがシャアと接戦を演じているのを見るなり、自分も出撃するといきり立った。
「無茶です!」
「黙れアデス!!」
「黙りません!! 冷静になるのです隊長! ガモフが落ち、アスラン達が破れた今、もはや勝機はありません!」
 アデスの必死の説得にクルーゼは歯をかみ締めた。そして徐々に冷静さを取り戻していく。
「ジオン側には、まだMSが3機もいます! 撤退を!!」
 それはニコルを見捨てる事を意味する。だが彼らにブリッツを助ける手立てなど無かった。
「……シグーとバスターを回収後、この宙域を離脱する」

 ニコルは自分の置かれている立場を考えた。
 エネルギー残量はほぼゼロ。仲間達は損傷し帰還中。ガモフが落ち、援軍もない。
「チェックメイト……か……」
 自分は死ぬ、それが結論。優秀なコーディネイターの頭脳をフル回転しても打開策など浮ばない。ブリッツは頭が吹っ飛び、
右腕も捥げている。PS装甲が落ち、残量が0を表示すると生命維持装置すら切れた。薄れ行く意識の中で、彼の瞳には近づく
2機のザクが写し出されていた。

9.

「坊主っ!? 何やってんだ! 逃げろー!」
 ムウは通信を送るが、キラは返事をしない。
「うぅ……あぁぁ……」
 キラは怯えていた。ムウが、アスランが、他のザフト兵達が、ことごとく目の前のザクに敗れたのである。
 民間人である彼にとって、今起こった戦闘は常軌を逸していた。レベルが違うのだ。自分は元より“エンデュミオンの鷹”や
“黄昏の魔弾”よりも“赤い彗星”の実力は上だった。
「怯えているのか、このMSは……」
 シャアにとってはそれは好都合だった。戦えば勝てるだろうが、バッテリ残量がわずかの状況では戦闘は行なえない。
 ピクリとも動かないストライクを威圧するようにライフルを構えると、キラは思わず後退りしてしまう。
「フッ……命拾いしたな、ストライクのパイロット……スレンダー聞こえるか!?」
「感度良好であります」
「首尾の方はどうか?」
「はっ! 少佐と連合製MSとの戦闘データ、全て記録しました」
 言いながらスレンダーの強行偵察型ザクは手にしたガンカメラを叩いた。
「壊すなよスレンダー……ララァ! デニム!」
「Gを一機、確保しました」
「ローラシア級は既に落しております」
「よし……全機、ファルメルに帰還する」
 シャアは戦果に満足し、大胆にも全方位チャンネルで通信を送った。
「では諸君、機会があればまた会おう」
 そして赤い彗星はその場を去った。後に残されたムウとキラは、その後姿をただ眺めるだけだった。