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Zion-Seed_51_第12話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:04:04

第05話 『それぞれの状況』

1.

 アルテミス――この基地は光波防御壁に守られている連合軍唯一の宇宙要塞である。
 この基地は辺境の小惑星に造られた小規模なもので、再建当時は戦略的に重要なものではなかった。しかし、開戦と同時に月
基地が陥落し、その後もL1、L4の軍事基地も落とされた事により、その重要性が一気に高まった。
 現在では、再建された地球軍第8艦隊によって護られている。

 アルテミスに入港したアークエンジェルであったが、クルー及び避難民がアルテミスに降りる事は許されなかった。
「これはどういうことです!?」
「我々は民間人を50人以上連れているんですよ! それに怪我人も居るのです!!」
 マリュ―とナタルが抗議しているが、相手の士官は困ったように言う。
「私らだって降ろせるもんなら降ろしてやりたいよ。けどな、アルテミスだって緊急事態の連続なんだ」
「味方の基地に着いたというのに休むこともできないなんて、そんなことがありますか?」
「申し訳ないが識別コードが無いのでこの様な形を取らせてもらったぞ」
 そう言って現れた男は、第8艦隊司令官を務める地球連合軍スティン・ホフマン准将であった。
「ホフマン准将!?」
「久しぶりだなラミアス中尉……いや、今は大尉か。君達の質問には私が答えよう」
 その言葉にナタルが問う。
「避難民達はとても疲れています。基地で落ち着ける場所を探していただきたい」
「民間人を収容しておく余地はない」
「そんな」
「とにかく、マリュー・ラミアス、ナタル・バジルール、ムウ・ラ・フラガの3人は司令室に来てくれ」

ムウ達が基地司令の元へと連れて行かれ、残された者は不安げにひそひそと話していた。
「俺達、どうなるのかな……」
「さあ……」
 今まで自分達が住んでいたヘリオポリスが、僅かな時間で崩壊したのだ。外の世界の現実に、彼らは俯くしかなかった。
「ところで大西洋とユーラシアって仲が悪いんじゃなかったけ?」
「半分正解だけど半分不正解ね」
「どういうことです?」
 サイの疑問にクリスが説明し始めた。
 現在、地球軍内部の派閥は二つに分かれていた。対ジオンを主張するハルバートン派と対ザフトを主張するブルーコスモス派
である。ハルバートンが地球に戻った後、どちらを先に攻めるかで意見が分かれた。互いに相手の主張を認めず、結局上層部は
2方面作戦を決定する。この時に、対ジオン派と対ザフト派に分かれたのだが、いざ分かれてみると大西洋軍の大半が対ザフト
に偏ってしまったのだ。これは世界樹戦役でブルーコスモスに反抗していた軍人が大量に戦死した結果であった。ハルバートン
は「ジオンに兵なし」と叫んだが、自身の兵もいなくなってしまったのである。
 この事態にハルバートンは、ユーラシア連邦との関係を強くしていった。戦争が始まってから同盟を結んだ大西洋とユーラシ
アであったが、それはうわべだけのものである。しかし、ユーラシアがジオンの地球侵攻作戦で国土の大半を奪われると事情が
変わった。戦うには兵の無いハルバートンとジオン相手に劣勢のユーラシア。対ジオンという部分で彼らの利害が一致する。
 その後、ハルバートンはMS開発計画を実行に移し、量産が整えばユーラシアにも供給するという約束で強固な同盟を得た。
「一応、私達は対ジオン派だからね」
「問題があるのは識別コードが無いってことか」
 クリスの説明の間で、キラはぐっすりと眠っていた。MS戦に限らず、戦闘機動は疲労が溜まる。生死を賭けた極限状態では
パイロットの神経を削り取るからだ。
「ねえ、この子、コーディネイターだったの?」
 フレイの問いにサイは小さく頷いた。フレイはそんなキラに薄気味悪がっているような目で見ている。
「……この状況で寝られちゃうってのもすごいよな」
「疲れているのよ。キラ、本当に大変だったんだから」
 カズィの不安そうな言葉にミリアリアが返す。
「『大変だった』か、キラにはあんな事も『大変だった』ですんじゃうもんなんだな」
「何が言いたいんだカズィ」
 トールがとがめるような視線を向ける。
「別に……」
 彼らはキラがコディネイターである事を知っていた。それでも自分達ナチュラルとの能力の差に複雑な思いを抱いていた。

2.

 アルテミスの司令官室にムウ達を招きいれ、各自に名乗りとIDの提出させられた。
「――なるほど。君らのIDは確かに大西洋連合のもののようだな。私がアルテミスの司令官ジェラード・ガルシアだ」
「お手間をとらせて申し訳ありません」
「いや、なに。君の輝かしい経歴は私も耳にしているよ“エンデュミオンの鷹”殿。月基地攻防戦には私も参加していた」
「おや、ではビラード准将の部隊に?」
 おっとりと返すムウに向かって、ガルシアは目を細める。
「そうだ。戦局では敗退したが、ザクを5機落とした君の活躍には、我々も随分励まされたものだ」
「ありがとうございます」
 本当は4機なんだがな、思いつつ話は本題に入った。
「我々としては、できるだけ早く補給をお願いしたいのです。我々は一刻も早くアラスカへと向かわ――」
「報告はホフマン准将から聞いておるよ。補給に関しては早急に行おう。しかし物資だけだ。人員や護衛艦は無いと思ってくれ」
「なっ!?」
 3人は驚きの声を上げる。
「待ってください! 我々はザフト及びジオンの攻撃を受けました。ザフト艦は撤退した模様ですが、ジオン艦は――」
「だからこそ護衛は着けられないのだよ」
 強い口調でガルシアは言う。
「先程の戦闘はこちらでも確認している。中に“赤い彗星”がいる事もな! 相手が、ジオンの“赤い彗星”となると第8艦隊だけで
 アルテミスを防衛する事は難しくなる」
 アルテミスは“傘”と呼ばれる光波防御壁で護られているが、ミノフスキー粒子の登場によりそれは強固な物ではなくなって
いた。昔は敵が近づくのを察知すると“傘”を開き、その侵入を阻止していたのだが、ミノフスキー粒子を撒かれるとレーダー
類が死んでしまう。“傘”を展開し続けるには膨大なエネルギーが必要な為、常に開いておく事も出来ない。
「アルテミスを統括するものとして、諸君らの行動にはいささか問題があったのだ」
 ガルシアは更に言う。
「このアルテミスがいかに生き延びているか。ここでの緊張を持続する事が、連合全体にとっても戦略的にどれほど重要な事か」
「……」
 ナタルは何か言いたげにしているが口に出せない。マリューやムウも同様だった。
「理解したかね? ならば補給後、直ぐに出て行きたまえ!」
 要するにガルシアは、厄介な存在であるアークエンジェルを追い出したいのだ。ジオン艦が離脱したかどうかは分からない。
だからこそ、その恐怖は計り知れない。
「宜しいですかな?」
 重苦しい空気の中、今度はホフマンが発した。

3.

「補給に関しては閣下の申し上げるとおりです。ですが、護衛艦を付けないのは些か問題があると思われます」
 ホフマンはガルシアの意見に同意しつつ、自論を述べ始めた。
「護衛を付けないとなると、彼らがアラスカに辿り着けなかった場合、事は責任問題になりますでしょうな……」
「な、なに!?」
 責任という言葉にガルシアは顔色を変えると、大きく目を見開いた。
「どうです? ここはあの哨戒任務中の部隊を護衛に付けるという事で……」
 ガルシアはホフマンの言葉に動揺していた。
「し、しかし……」
「彼らはユーラシアに所属し、かつ第8艦隊にも籍を置いている。我々にとって有益になると思いますが?」
 ガルシアはしばし考え込んだ。
(何だぁ? 厄介者の押し付けは勘弁してくれよ……)
 ムウはそんな事を思いながら、ガルシアを注視すると、
「…………いいだろう。私から伝える」
 そう言って立ち上がり、部屋を後にしてしまった。
 ホフマンはガルシアの態度に溜め息を吐くと、ムウ達を気遣った。
「すまんな」
「いえ、我々は嫌われているようです」
「奴は病人なのだ。精神面のな」
「はぁ?」
 ジェラード・ガルシアは、元々アルテミスに左遷されて来た。その為にガルシアは功績を上げることに執着していた。そして、
アルテミスの重要性が高まると彼は一層躍起になる。だが戦争が長引いて故郷のユーラシアがジオンに侵略されてゆき、ジオン
の強さを目にすると、ガルシアは日に日に圧し掛かる重圧に耐え切れず、心身を病んでいった。
「昔は出世欲に執着した男だったが、この一年で事なかれ主義の小心者になってしまった。戦争は人を変える、と言うが……
 寒い時代になったものだな、まったく」
 ガルシアも戦争の被害者なのだろう。
「ところで、護衛の部隊ですが……」
「失礼します!」
 突然、憲兵が入ってくるとホフマンに耳打ちをする。それを聞いたホフマンは沈痛な面持ちでムウ達に向かった。
「君達に残念な事を伝えなければならん」

4.

 クルーゼは自室で酒を飲んでいた。グラスにワインを注ぐと背後に誰かの気配があることに気づく。
「私に何か用かギル?」
「君を笑いに来た。そう言えば君の気が済むのだろう?」
 そう言ったのはギルバート・デュランダル。クルーゼの数少ない友人で、気の許せる相手でもある。
「好きでこうなったのではない。それは君にだって分かるハズだ」
「しかし同情が欲しいワケでもないのだろ。ならば、レイの期待にも応えるラウ・ル・クルーゼであって欲しい。それが私に言える
 最大の言葉だ」
 現在クルーゼは本国にいる。ヘリオポリス崩壊の査問に呼び出されたのだ。そこで彼が待っていたのは批判の嵐であった。
『――しかしクルーゼ隊長。その地球軍のMS。果たしてこれほどの犠牲を払ってでも手に入れる価値のあったものなのかね?』
『MS開発を理由に襲撃するのはいい。だが、せっかく奪ったMSをジオンに奪われるのはな』
『結局手元には5機中2機しかない』
『しかも、君はジオン艦が現れると取り乱したというではないか!』
 パトリックはクルーゼを擁護したが、評議会議員の息子であるニコル・アマルフィが行方不明になった事が決定的になり、
クルーゼは隊長職を失う事となる。そして今や謹慎中の身であった。
「……私の隊はどうなった?」
「解散は免れた。今は君の副官が……いや、かつての副官が指揮をとっている」
「アデスか……」
 あの男なら旨くやるだろう。アデスは冷静かつ客観的に戦況を見れる本物の軍人だった。
「これから君はどうなると思う?」
「さあな」
「辺境の守備隊、もしくはテストパイロットかな?」
「はっきりと言ったらどうだ。君は私を励ます為に、ここに来たのではあるまい?」
 図星だったのか、デュランダルは肩をすくめて見せた。
「このままだと君は決して前線に出られんだろう。君の更迭は議長の命によるものだから、ザラ国防委員長も手が出せない。しかし……」
 目を細めるとクルーゼの耳元でささやいた。
「それは議長の命で撤回が可能を意味する」
「私にクライン派へ下れと言うのか!?」
 デュランダルの真意を察したクルーゼは、思わず彼を睨む。
「このままでは君の目的はもちろん、“赤い彗星”と戦う事も出来ない」
「……」
「首を縦に振るのなら、私から議長に進言しよう。ああ、当然今すぐ答えを出せとは言わない」
「私はあの男が嫌いだ」
「だが、考える余地はあるだろう?」
 言いながら部屋を出ようとするデュランダルだが、立ち止まり振り向くと、何かを確かめるように問いた。
「“赤い彗星”……君は彼をどう思う?」
「忌々しい男だ。奴は一年前よりも実力が上がっていた」
「……聞いた話だが彼はナチュラルらしい」
「馬鹿な!?」
「なんでも“ニュータイプ”と、ジオン本国では噂されているようだ」
「人類の革新か? 笑える話だ!」
「ラウ、私は君も赤い彗星と同じなのではないかと考えているのだよ……」
 デュランダルが部屋を出るとクルーゼは高らかに笑いだした。
「出来損ないの私が? あり得んよギル……」
 クルーゼは残っていた酒を飲み干した。今はただ、酒に酔っていたかった。

5.

 アルテミスの医務室で、ムウ達はパオロの最後を見取っていた。パオロはアルテミスに着き次第緊急手術を行なったが、間に
合わなかったのだ。そのパオロは横になり安静にしている。痛め止めが効いているのか辛そうな表情はしていない。
「何故、君を庇ったのかを話そう」
 傍らにいたナタルに、パオロは静かに話し始めた。
「私が昔、士官学校の教官をしていた頃、教えた生徒の中に君のお父上……バジルール提督がいた」
「父を艦長が……」
「優秀な男だった……鍛えがいがあった……ただ、提督には一つだけ欠点があった。なんだか分かるかね?」
 その問いに、ナタルは首を振る。
「理論・実習共に申し分なし、ただし時として思考に柔軟性を欠く……」
 ナタルはハッと顔を上げた。
「覚えがあるかね? そうだろう、君の総合評価の項にも書かれてある」
 笑いながら、パオロは続ける。
「私が敢えて艦を君に委ねたのは、それを学んでほしかった。教科書には載っていない、危機的状況をいかに打破するかを……」
「……」
「今思えば、私が戦術は常に変わりゆく事をしっかり教えておけば、提督は世界樹で死なずにすんだかもしれん……」
「そんな! 父の死は艦長の責任ではありません!」
「それだけではない! 私はあの時、世界樹にいたのだ。提督の指揮する第1艦隊に! ……目の前で提督の乗るアガメムノン
が落とされた時、私は何も出来なかった! 盾になる事すら出来なかった!!」
「艦長……」
「分かっている。私が今言っているのは老人の戯言にすぎん……だが、謝らせてほしい……すまない少尉」
「勿体ないお言葉です」
「フラガ大尉、ラミアス大尉……これからも少尉を支えてやってくれ……」
 力強くうなずく二人に、パオロは安心したように目を閉じる。
「私はね、しばしば考える事がある……私の様な老人はキラ君の様な若者達に……何を残したのだろうと……」
「……」
「争いと死と独善と傲慢……天から与えられた大自然の荒廃……私は退場する時なのかもしれん……新しい訪れを……
 妨げない為……にも……」
「!?」
「艦長!!」
 こうして、パオロ・カシアス中佐(後に准将)は、アークエンジェルに残された全ての人達を案じながら息を引き取った。

6.

 L3宙域へ向かう1隻の宇宙母艦に、アルテミスからの通信が入っていた。
「――が次の任務だ!」
「哨戒の次は護衛か。もう少し面白い仕事はないのか」
「うるさい! 貴様は私の命令を聞いていればいいのだ!!」
「……チッ!」
「まったく、コーディネイターという奴は……」
 モニターの中でガルシアは頭を抱えていた。その姿が気にいらないのか、黒髪の長髪の青年はいやらしい口調で言った。
「そうそう、途中でザフトの武装シャトルを発見したから落しておいたぞ」
「貴様! 勝手の事をするな!! いらん挑発……」
 ガルシアが言い終える前に通信を消す。一種の嫌がらせである。
「カナード・パルス特務兵、武装シャトルではなく民間シャトルですが」
「フンッ! ジンが護衛に付いていて、何が民間だ」
 副官のメリオル・ピスティス大尉が指摘を一蹴すると、乱暴に座席に座り呟いた。
「キラ・ヤマト……貴様は一体何所にいる」