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Zion-Seed_51_第14話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 18:07:58

第07話 『無知な人々』
1.

「……ここは?」
 ニコルはゆっくりと目を開けた。前進に走る激痛が彼の覚醒を促したのだ。ニコルは頭を抑えながら自分の置かれている状況
を確認する。あたりを見渡すと、ここが医務室なのはわかった。だが、明らかにヴェサリウスのそれとは違った。
「ジオンの艦か……?」
「目が覚めたか」
 突然、背後から声が聞こえ、ニコルは顔を向ける。
「え……?」
 そこにはジオンの軍服を着た男が立っていた。整った顔立ちと不自然な水色の髪から、コーディネイターである事がわかる。
 ニコルは男に話しかけようと体を起こした。すると、男はニコルへ近寄りいきなり胸倉を掴み掛かった。
「勝手に起き上がるんじゃない!」
 そう叫ぶなりベットへ押し倒す。
「か……はっ……!」
「いいか! お前は捕虜だ! 許可無く行動する事は禁止される!」
 あまりのも理不尽な言葉にニコルは、何故? という疑問符が浮ぶ。同族であるコーディネイターから、このような目に合わ
されるとは思ってもいなかったからである。
「起きろ、と言われるまで横になっていろ! わかったな!」
「ま、待ってくだ……がっ!」
 次の瞬間、返ってきたのは言葉ではなく拳だった。
「お前が発言する事は認めていない!」
 殴られて呆然となる。男の行動が、言動が理解できない。それは明らかに悪意が込められているのだから……。
「話を聞いていなかったのか!? コーディネイターならば直に理解しろ!」
「何をしている軍曹」
 軍曹と呼ばれた男を威厳のある声が制する。見ると男の上官らしき人物が立っていた。
「……」
「貴様の今の行動は、ジオンの旗を泥で汚す事になるのだぞ。自粛しろ」
「……了解しました」
「休息をやる。頭を冷やして来い」
 男はニコルをジロリと見ると、上官に敬礼をし部屋を出ていった。それを確認すると、その上官はニコルに対し頭を下げた。
「部下が失礼をしたな」
「い、いえ。それよりも貴方は?」
「ふむ……」
 男はなにやら考え込むようにニコルを見た。
「このような場合は、私が質問をするのだが……捕虜から名を問われたのは初めてだよ」
「……あっ!」
「まあいい、まずは自己紹介といこうか」

2.

「――そうしてアスランは私にピンクちゃんをくださったの」
 ララァはウンザリしていた。言うまでもなくラクスの相手にである。
 ララァはラクスを助けた要因になりはしたが、まさか自分がその相手をするとは思わなかった。シャアにそれを告げられた時、
彼女は心の中でシャアを恨んだ。何故だかはわからない。ただ自分の第六感がラクスとの接触を拒んでいるのだ。
 それでもシャアに嫌われたくはない。その一心で、ララァは任務を受けた。
「最近は会う機会がないので文通を――」
 元々共通の話題が無かった所為か、ララァは終始聞き役に徹していた。
 そのラクスが語るのは、主にアスラン・ザラの事である。婚約者だの、料理が上手だの、ペットロボットを作ってくれただの、
散々ノロケ話を聞かされたララァは、ラクスの会話が苦痛になっていく。自分はシャアに思いも告げられないというのに……。
そのような自慢話されてもいい気分にはなれない。むしろ迷惑だ。
 また、ラクスの心を読んでみたが、一瞬除いただけでやめた。今口にしている事と変わらないからだ。(例えるならピンクの花畑)
 そもそも自分とラクスでは、育った環境が違う。
 ラクスはプラント最高評議会議長の愛娘、恵まれた環境に生まれ、何不自由なく育ったプラントの歌姫である。
 ならば自分はどうだろう? 世界樹の貧民層に生まれ、生きていくために身すら捧げた事のある汚らわしい女。世界樹戦役の
折に故郷のコロニーは破壊され、シャアの乗る軍艦に救助されていなかったら死んでいたはずの自分。
 ――話し相手となるのは無理がある。
「貴女は純粋ね」
 不意に、ララァが呟く。
「光ばかり見てきて、この世の闇を知らない……」
「はぁ……? ありがとうございます」
 当分彼女を好きになれないだろう――そう、ララァは感じた。一方のラクスは、ララァの言葉の意味を理解できずにいた。

 しかし、後にこの些細な言葉が彼女の運命を決めてしまう事になるとは、ラクスはおろか言ったララァも知る由もなかった。

3.

「ニコル君。君の身柄は、おそらくソロモン経由でジオン本国へ移される事になる」
「そう……ですか」
「ああ。詳しい事は言えんがな……」
 男はニコルに対して同情した。ニコルの父がプラント最高評議会議員ユーリ・アマルフィである事が判明したのだ。このまま
ならラクス・クライン同様、外交カードとして利用されるのは目に見えている。
「一つだけ聞いてよろしいでしょうか?」
「なんだね」
「先程の方についてですが、彼はコーディネイターですよね」
「ああ、そのとおりだ」
「何故彼は、僕にあのような態度を?」
「……君は『デザイン・ベイビー』を知っているかね?」
 コーディネイターが普及した十数年前、自分の子供を好きな外見にデザインして作り出そうという親が現れた。
 黒髪の親に、金髪の子供。
 黒人の親に、白人の子供。
 背の低い親に、長身の子供。
 鼻の低い親に、鼻の高い子供。
 といった具合に、遺伝子調整は自然法則を無視し、あらゆる可能性を提示した。
 この夢のような存在『デザイン・ベイビー』は希望に満ち溢れていた、はずだった。
 デザインされた子供たちの中に、望みどおりの外見で生まれなかった者が少なくない数存在していたのだ。
 『デザイン・ベイビー』を希望した親にとって、デザインどおりに生まれなかった子供は自分が愛を注ぐべき存在ではない。
ただの不良品。不良品は製造元に返品されるのが当たり前だった。
 不良品の烙印を押された『デザイン・ベイビー』は他の親に引き渡されるか、コーディネイター達を兵士として育て派遣する
組織「サーカス」に売り飛ばされるかのどちらかだった。
「アイツが捨てられた理由は“髪の色が緑じゃなかったから”だそうだ。ある夫婦に引き取られたことが不幸中の幸いかな」
 ニコルは合点がいった。自分の髪は緑色をしているからだ。彼が得る事の無かった緑色の髪を――
「根はいい奴なのだが……髪の色となると周りが見えなくなるのでな……」
 彼の人生は、ニコルにとって想像もつかないことだった。

4.

 アデスは数刻前に出した強行偵察型ジンの帰還を待っていた。ジオン艦がいる以上、うかつな事はできないからだ。
「偵察隊はまだ戻らんのか?」
「待ってください……レーダーに反応! ジンです」
 戻ってきたジンは、2機から1機に減っていた。アデスは、パイロットをすぐさま艦橋へ呼び出して報告させた。
「はっ。2番機の反応が途絶えたので、その場所を調べてみると、ムサイ級1隻を確認しました」
「艦の特定は?」
「……間違いなく、ファルメルです」
 瞬間、辺りが静かになると兵達に不安が伝染していく。
「赤い彗星」
「奴がラクス様を……」
「そんな……」
 私語は禁止されているが、なにかを話さなければ耐えられなかった。シャアの恐ろしさは身にしみているのだ。
 そんな中でアデスは落ち着いていた。部隊を任される者として取り乱すわけにはいかない。だがそれ以上に、前回受けた借り
を返す気持ちが大きかった。そして傍らのアスランが先程と違って冷静でいるのに気づくと、アデスは声をかける。
「アスラン」
「は、はい?」
「君は、この事態をどうするべきと考える?」
 意見を促がされたアスランは、少しの間の後に口を開く。
「相手はシャアです。正面から戦いを挑んでも前回の二の舞でしょう」
「だろうな」
「そこで我々は前回のシャアと同様の手を使います。奇襲です」
 前回の戦闘で、ヴェサリウスはファルメルの確認を怠っていた。その為にシャアの先制を許したといっていい。だが、今回は
こちらが先にファルメルを発見した。デブリベルトにいるファルメルは、多量のミノフスキー粒子を散布しているので、MSで
近づくのは容易である。
「シャアが出てくる前に勝負を決めます」
 アデスはうなずくと、アスランの策に同意した。
「それしかないな。アスラン、MS隊の指揮を頼む」
「自分がですか!?」
「他に適任者がいるか?」
 イザークが、と言いかけてやめた。今のイザークは自分の作戦に反対するだろう。そもそも彼がシャアを見れば、ディアッカ
と共に突撃しかねない。
「了解しました」

5.

 一方、シャアは何段にも重なった書類の山に埋もれていた。
 サイコミュ試験にヘリオポリス崩壊、“G”の解析データといった報告書に目を通さなければならないからだ。
「……オールレンジ攻撃は、障害物のある宙域での使用は困難」
 そう呟きながら先程の稼動実験を思い出す。
「たしかにそうだな……」
 ララァはザクを見事に乗りこなしていたが、腕をデブリにぶつける事が数回あった。
 他にも機体の欠点がいくつか書かれてある。有線を切られたら武器を失う。接近されたらオールレンジ攻撃が出来なくなる。
これらを理由とし、常に護衛機をつけなければならない。また、宇宙でしか使えない、稼働時間が短い……といった具合だ。
「やはり有線を無線にするべきか……」
 今回の稼動試験を元にこのザクの後継機が造られるはずだった。だが長所以上に短所があることが判明してしまったのである。
フラガナン機関の開発部は多大な苦労をすることになるだろう。
 そこに、コーディネイターを監視している保安部員が報告書を持ってきた。書類が増えたが嫌な顔ひとつせず目を通す。その
内容は捕虜とのいざこざ以外特に問題は無いが、ザフト兵の名前を見るとシャアはおもわず苦笑した。
「私は運がいいのかな?」
 シャアは連合のMSを奪取しただけでなく、最高評議会議長の娘と議員の息子まで確保したことになる。本国へ帰還すれば、
中佐の階級と合わせて、勲章の一つは貰えるだろう。
「だが、欲張りすぎるのも問題だ」
「はぁ……?」
――ギレンにカードを与えすぎる。
 そんなことを考えながら部下を下がらせようとしたその時、頭を貫くような重圧をシャアは感じた。まるで自分に向けられた
悪意のようなものであり、その感覚が自然と体にでてしまった。只ならぬ雰囲気に、保安部員は心配そうな顔をする。
 シャアは部下を退室させ、端末から艦橋へ連絡を入れようとすると、モニターにララァが映る。
<シャア少佐!>
「ララァも感じたのか?」
<はい。間違いな……>
<どうされたのですか?>
 突然モニターに、ラクスの顔がアップで映る。
<座っていてくださいラクスさん! 間違いなくザフトで……>
<まぁ、ザフトのお船が迎えにいらしたのですね>
<…………>
 シャアは二人のやり取りに呆気にとられたが、気を取り直すとララァに待機するよう命じる。
<何故ですか? 私は少佐のお役に立ちたいです>
「デブリベルトではララァのザクは本来の性能を発揮できない」
<……わかりました>
「ララァ。その気持ちだけ頂いておこう」
<はい……少佐、どうかお気をつけて……>
 通信を切ると、シャアは今度こそ艦橋へ連絡を取った。

6.

「俺は納得していないからな」
「まだ言ってんのかイザーク」
 デブリベルトの中を数機のMSが動いていた。シグーを先頭に、デュエル、バスターそしてジンが3機続いている。
「当たり前だ」
 愚痴をこぼすイザークにアスランは不快感を感じた。
「いい加減にしろイザーク! そんな考えだからニコルが死んだんだぞ!」
「そんな事はわかっている! だから俺はこの作戦に賛成したんだ!」
 イザークはアスランの作戦に賛成した。反対するものと思っていたアスランはそれを意外に感じたが、冷静に考えれば十数日
の訓練で、シャアを超えることなどできない。イザークはそれを理解した上で、作戦に賛成したのだ。全てはシャアが乗艦する
ファルメルを落とすために……。
「……すまん」
「構わん。ニコルの事は、俺が先走った結果だ」
「…………」
「仇を討つために奴とは決着をつけたいが、今は個人的な感情は無くす……居たぞ!」
 見ると、デブリの中にたたずむ巨大な艦、ファルメルが鎮座していた。
「もう一度確認するぞ。ジンは艦の後方、バスターは側面に展開」
「そして俺とアスランが前面だな」
 アスランはうなずくと、健闘を祈りながら部隊を散開させた。