Top > Zion-Seed_51_第16話
HTML convert time to 0.006 sec.


Zion-Seed_51_第16話

Last-modified: 2007-11-12 (月) 18:04:43

 先の戦闘から数時間後。ヴェサリウスはファルメルに横付けした。周囲ではザク、ジン、そしてバスターが互いを警戒している。ジオンにザフト、連合のMSが漂うそれは、なんとも奇妙な光景であった。
 ヴェサリウスからアデス、アスラン他数名がファルメルの格納庫に降りると、数名のジオン兵が警戒するように自分たちを見る。そしてその中には、彼らに悪意を向ける者もいた。

「このたびは、シーゲル・クライン議長閣下のご息女ラクス・クラインの救出。そして二コル・アマルフィへのご配慮、大変ありがたく思っています」
「いえ、当方は至極当然のことをしたまでですよ」
 アデスが謝礼を述べると、シャアもそれに答える。
 形式的に行なわれているこの作業を横で眺めながら、アスランはクルーゼと同じく仮面をつけた男――シャアを見ていた。
(アレが“赤い彗星”……服まで赤いのか)
 自分やイザークを手玉に取ったジオンのエースパイロット。
 クルーゼ隊長、連合の“エンデュミオンの鷹”よりも格上であるパイロット。
 そしてニュータイプと噂されているパイロット。
 そんな男が今、目の前にいる。
 アスランはシャアが、仮面をつけていることにいささか驚いたが、それと同時になんとも言えない感情があふれ出した。
 不気味な印象を持つ上司のクルーゼとは違い、シャアからは自分をひきつける何かがあるといってよかった。
(しかし分からない。何故ラクスとニコルを返す?)
 ラクスの存在は、ジオンにとって政治的に利用できる存在だ。ニコルにしても、こうもあっさり返すと裏で何かあるのでは、と考えてしまう。
 その時、ふいにシャアが自分に近寄ってきた。
「君が“黄昏の魔弾”かな?」
 思わずズッコケそうになる。
「……私は“黄昏の魔弾”ではありません」
 アスランは誤解を解くため自己紹介すると、その経緯を話した。
「これは……フッ、どうやら私はとんでもない早合点をしていたようだ。すまなかったなアスラン・ザラ君」
 シャアは顎に手をやると苦々しく笑う。
「しかし、こうもザフトの情報を教えてくれるとはね」
「何のことです」
「分からないのかい? 君はザフトのエースである“黄昏の魔弾”が戦死したことを敵である私に話したのだよ」
 その言葉にアスランは凍りついた。
 “黄昏の魔弾”の名は有名である。もしそれが討たれたとなると、ザフトの士気に関わる。
 それに加え、自分はシグーでシャアと戦い敗北している。其れも一方的にだ。これはジオン公国のプロバガンダに使われるかもしれない。
 アスランは、今後この男の前ではスキを見せてはいけない事を実感するのであった。

 一方のシャアは、コーディネイターに哀れみを感じていた。
 今自分がいる状況は異常といってもよかったからだ。ジオンのコーディネイター兵とザフト兵が互いに殺気を放っている。
 一方は自分たちを捨てた者へ。
 一方は裏切り者へ。
 同じ種であるコーディネイター同士がここまで憎しみ合うとは思ってもみなかったのだ。
 そしてそれは、自分の愚かな過去を映していたといってもよかった。

 シャア・アズナブル――この名は偽名である。彼の本当の名はキャスバル・レム・ダイクン。ジオン共和国創始者、ジオン・ズム・ダイクンの息子であった。
 彼はザビ家に復讐するためこの名を使っていたのだ。幼少の頃、自分をかくまってくれたジンバ・ラルから父がザビ家に暗殺されたと教えられたからである。
 復讐のためにジオン軍に入隊し、ガルマ・ザビに近づいた。彼を利用し、他のザビ家にも近づこうとした。
 彼女――ララァ・スンに会うまでは全てが順調だった。
 かつて父が人類の革新と位置づけたニュータイプ。それが彼女だった。
 彼女はとても優れていた。まるで自分のことを理解してくれる母のような女性だった。いつしか彼は彼女に引かれていった。そして自身もニュータイプであることに気づいたのである。
 ララァとの出会いによってシャアは人類の革新を見たくなった。そしてそれは、復讐という小さなことに囚われている自分を改めさせることになる。
(私も彼らの様な顔をしていたのだろうか……)
 憎しみ合うコーディネイター達。
 それはかつての自分自身。
 だからこそシャアは彼らを哀れんでいた。
「アスラン、来てくださったのですね」
「ラクス!」
 ここが敵艦であることを忘れてアスラン・ザラとラクス・クラインが抱き合っている。
 彼らは、自身を新人類と言っている様だが、
「戦場でラブロマンスとは……甘いよ、お坊ちゃん」
 感情的で、物事を客観的に判断できず、能力の低い者を見下す彼ら……。
 果たして彼らは本当に新人類と言えるのだろうか。

 同じ頃、アークエンジェルとオルテュギアは障害もなく順調に航行し、ついに地球軌道上まで辿り着いた。
後はアラスカに向けて降下するだけである。しかし、そんな2隻の存在をやや離れた宙域で確認した艦がいた。
「少佐、連合の艦を発見しました。1隻はアガメムノン級、もう1隻はデータにない艦です」
 報告を受けた彼は、モニターに映った2隻をなめるように見た。
「どうなさいます?」
 現在の彼らの任務は通商破壊、要するに敵の補給艦の撃破である。通常なら、ソロモンに連絡を入れるか、
近くにいる他の部隊と合流すべきなのだが、副官は自分の上司の性格をよく知っていた。故に発見した連合の
戦艦をどうするか、彼に指示を求めたのである。
「そろそろ補給艦にも飽きてきたなぁ」
「では、やはり?」
 副官は、嬉しそうな上司を見てもう一度確認した。
「俺のザクを用意しておけ」
 その言葉を言うと、彼は艦橋を後にする。
 彼の副官は、総員に第一種戦闘配備を命じると、ミノフスキー粒子を散布した。

 格納庫では整備班が出撃に追われていた。そんな光景をコックピットで眺める彼は、部下に状況を知らせる。
「という訳だ。久々に大物だぞおまえ等」
「少佐! いいですかい?」
「構わない。やったもん勝ちだ」
「そもそも、この俺がこんな任務についてること事態おかしいと思わないか?」
「違いありません」
 パイロット間でどっ、と笑いが起こる。普通なら上司と部下がこんな会話をすることはない。
だが彼は実に気さくな性格をしていた。
「MAは俺とクラウンでやる。他の者は艦艇を叩け」
「了解です」
「1隻は新造艦だ。おまえ等、気を緩めるなよ」
 そんな彼の乗る機体はクリムゾンレッドで塗装されている高機動型ザクだった。

――特務部隊『X』
 ユーラシア連邦で設立された部隊である。その任務はMS運用ノウハウの収集であった。
捕獲したザクやジンを使い、対MS戦術に対艦攻撃、またMAとの連携などである。
 しかし、司令官と隊長との関係に問題があるのか、あまり捗らず今に至っていた。

 つまらない哨戒任務をようやく終え、アルテミスに帰還すると今度は新造艦の護衛任務。
襲撃の一つもあれば、多少は面白みのある任務だが、そんなものはなく航行は順調そのもの。
 こんな中で『X』の隊長であるカナード・パルスはとても不機嫌だった。
「カナード特務兵、そろそろ大気圏に到達します。シャトルの降下準備に入ろうと思いますが……」
「お前に任す」
 気だるそうに副官のメリオルに言うとカナードは席を立つ。
「何処へ行かれます?」
「トレーニングルームだ」
「またですか?」
「当たり前だ。奴を超えるために、万全の備えが必要なのだからな」
「……構いませんが、オーバーワークはしないでください」
 そう言いながらメリオルは「奴」ことキラ・ヤマトについて考える。彼は今、アークエンジェルに
乗艦しているのだ。
 何故カナードがキラを探すのか。それは二人の生い立ちに関わってくる。
 カナード・パルスは、最高のコーディネイターという研究によって生み出された存在であった。
と言っても、その失敗作としてである。この所為で、彼は幼少期をモルモットとして生きていた。
それは、カナードにトラウマを与えるには十分だったのである。何時しか、完成体を倒して自分が
本物になろうという考えに行き着いた。そしてその完成体こそが、キラ・ヤマトだったのだ。
 これらの事情を知っていたメリオルは、この二人を会わせるのは時期尚早と判断した。
リストから彼の名を削除し、カナードの目に触れさせないようにしたのである。
「メリオル!」
「は、はい?」
「あれはなんだ!?」
 そう言いながらカナードは指差した。しかし、その先は漆黒の宇宙空間。
「なにも見えませんが……」
「何か光った!」
 言うより早く、カナードは動いていた。

「少佐、折り入って頼みがあるんですが」
「なんだあからさまに」
「戦争が終わったら少佐の話を書いていいですかい」
「なんだそりゃ?」
「伝記ですよ伝記! 少佐はジオンのエースですからね」
「おいおい……」
「俺は悔しいのですよ。この間、新聞の一面で少佐の機体が載ってたんで、読んでみたんですがね。
なんと少佐のことを、“赤い彗星”の名で紹介してたんすよ! 思いっきり誤認されてるでさぁ!」
「おい、何処の新聞社だそりゃ!!」
「それででしてね、少佐の部下であるこの俺が伝記を……タイトルは『真紅の稲妻の真実』ってどうです」
 一同は思わず苦笑してまう。
「……分け前はきっちり貰うからなクラウン。さて、全員準備はいいか?」
「こっちは万全ですよ」
「いつでも行けます」
「右に同じ……っと」
「俺が前衛をとる。ついてこい」
 軽口を叩くと、ムサイ級巡洋艦<プリズム>の後部ハッチが開かれる。
 真紅のザクが一歩、二歩と歩いてからフワリと浮かび上がると、MSデッキからその巨体を投げ出した。
「ジョニー・ライデン、出るぞ」
 “真紅の稲妻”をご存知だろうか。
 クリムゾンレッドに塗られた彼の機体<MS-06 R-2>は、わずか四機しか生産されなかった高機動型を
さらにカスタム化したものである。その戦闘機動は、正に“真紅の稲妻”の名に相応しい動きであり、
連合の戦闘艦を葬り去る姿は華麗の一言に尽きた。
「少佐、もう直ぐ敵艦の有効射程距離に達します」
「あの真新しい艦を先にやれ。無理は絶対にするなよ……うん?」
 四機が連合側からも確認できる距離まで接近すると、オルテュギアから一機のMSが射出された。
「気づかれたか……!?」
 瞬間、彼は驚きと共にそれを見る。
「アレはF型です」
「我が軍のMSを鹵獲しやがったのか!」
「ハッ! ザクのことは俺達の方が知り尽くしてるぜ」
 その目に写ったMSはザクであったのだ。だが彼はそんなことで狼狽したのではない。
「クラウン! お前も対艦攻撃に加われ!」
「へ? いいんですかい?」
「かまわん! いけ!」
 彼が着目したのは、そのカラーリングだった。そのザクは白く塗り替えられていたのである。
 この白い塗装には、コーディネイターが乗っていることを意味していた。ナチュラル中心の連合では、
コーディネイターを戦場で監視するために、わざと目立つようにしているのだ。これがジンであれば、
機体の能力差から互角以上に戦えるが、相手の乗機はザク。ナチュラルである部下達には荷が重かった。
 つまり、ハーフコーディネイターである自分が相手にしなければならない。
「連合のコーディネイターが護衛についてるってことは、あの新造艦は何かあるな」
 彼は新たに気を引き締めると、真剣な顔つきで呟いた。
「面白い……戦場を駆ける真紅の稲妻、ジョニー・ライデンの力を見せてやる!」

「メリオル! AAの連中にも迎撃させろ!」
 この時カナードは興奮せずにはいられなかった。自目の前にはザクが四機。内一機は赤い機体なのだ。
ジオン公国は功績を上げた者にはパーソナルカラーを許している。その中でも赤く塗られたザクは有名だ。
エースの中のエースで知られた機体は、相手は大気圏突入の最中に戦闘を仕掛けてきたのだ。それだけでも
カナードに高揚感を感じさせる。
「彗星に会えるとは、俺もつくづく運がいい!!」
 カナードは笑みを浮かべながら、バックパックから大量の小型ミサイルを発射した。
 カナードが乗るザクは、アルテミスで改造した特注品である。左肩のショルダーアーマーを外し、代わりに
スパイクシールドが付けられている。右肩にも同様のシールドが装備し、背後部には換装型バックパックを
背負っていた。これはストライカーパックと同様の物である。高出力スラスターを持つ高機動戦闘用であり、
元のエールストライカーに小型ミサイルを計28発も取り付けたものである。
 このミサイルの群は、嵐のようにザクに降り注いだ。しかしそれらは容易に回避されてしまう。
 もし、これがザフトのMS部隊ならば、ミサイルを避ける暇もなく全滅だった。それだけでもジオン軍の練度は
連合やザフトに比べて群を抜いていることが分かる。
「そうこなくてはなぁ!!」
 カナードはヒートホークを装備すると、迷わず赤いザク目掛けて自機を走らせた。

「行け! 手柄立てて来い!」
 その一撃を受け止めると、ジョニーは部下たちに命じる。
 分かってはいたが、やはり目の前の相手は只者ではない。ミサイルでの弾幕形成から接近を許してしまったのだ。
 先手を取られたジョニーは、白いザクのフェイントを混ぜた波状攻撃に思わず舌を巻いてしまう。しかし、伊達に
“真紅の稲妻”は名乗っていない。それらを受け流しながら、ジョニーは相手の回線に割り込んでみた。
「やるな、名前を聞いておこうか!」
 コーディネイターとは言え、ここまでの腕の持ち主はまずいない。
 元々ジョニーは、自分の誇りの為に戦っている。幾多の戦闘をしてきた彼であったが、誇りの為に戦える相手に
会うことはなかった。そんな彼の前に、全力を出せる相手が現れた。そんな相手に敬意を表したくなったのである。
「カナード・パルスだ。覚えておけ“赤い彗星”!」
 言いながら、白いザクはヒートホークを振りかぶる。だが、その刹那――

――パリーン

 いきなり赤いザクの動きが変わった。
 カナードの一撃をハーフとしての反応速度を逸脱した動きで受け止める。
「俺は“真紅の稲妻”! ジョニー・ライデン様だ!!」
 そしてその絶叫と共に攻守は交代する。ジョニーの内でなにかが弾けたらしい。
 その恐ろしく精密な連撃に、さすがのカナードも思わず息を呑んだ。
「やはり赤い彗星はコーディネイターだったか!!」
「うがあぁぁぁーーーー!!!」
 失敗作とはいえスーパーコーディネイターとして生まれたカナード。
 誇りを傷つけられて、なにかが弾けたハーフコーディネイターのジョニー。
 勝利の女神はどちらに花を持たせるのだろうか……。