Top > Zion-Seed_51_第30話
HTML convert time to 0.010 sec.


Zion-Seed_51_第30話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 18:16:40

 ガルマは自らの執務室で前髪をクルクルといじりながら、手にした資料に目を通していた。
 この資料はアフリカ北部に布陣するジオンの戦力とジブラルタルの予想戦力を比較したものだ。
「やはり制空権を取るのは難しいな」
 溜め息混じりに椅子にもたれ掛かるガルマ。なぜならば現在のアフリカ方面軍の戦力でジブラルタルを攻略
するのは到底不可能だったからである。

――――第30話

 バナディーヤ攻略後、ガルマが行ったのはサイーブとアフリカ共同体首脳を交えた三者協議だった。
 嘗てガルマはタッシルを本拠地にしたレジスタンス組織“明けの砂漠”と密約を交わしている。武器弾薬を
供給する代わりに、アフリカにおけるジオン軍の作戦行動を一切妨害しないというものである。明けの砂漠は
ザフト勢力をアフリカら駆逐したい。ジオン軍はジブラルタルへの道を切り開きたい。互いの利害が一致した
結果だった。しかし、それはあくまでガルマとサイーブとの間で交わされたものであり、北部地域の連合国家
であるアフリカ共同体は関わっていないのである。
 協議はもめることなくわずか3日で終わり、アフリカ共同体はジオン軍の残留を認めるという形でまとまる。
連合・ジオン・ザフト間の戦争に関わりたくないサイーブは顔を顰めていたが、アフリカ共同体と対立状態に
ある南アフリカ統一機構が連合寄り、かつ現在はザフトが占領中という状況下では納得するしかなかった。
 第一、ガルマとサイーブとの密約はあくまで口頭による約束であり、文章化されたものではない。口約束では、
反故にされても仕方が無いだろう。しかしガルマは、三者協議でサイーブをたてた。バルトフェルドのように
バナディーヤに部隊を配備させることは無く、できるだけ郊外に基地を建設すること、そして政治はアフリカ
共同体側が行う事を約束したのである。
 ガルマとしては面倒な占領政策を丸投げし、ジブラルタル攻略に集中したかったのだ。それに郊外に居れば、
あの我侭娘と関わらなくて済む。
「正攻法では難しい。かと言って奇策を要するとしても……」
 だが事は簡単に進まない。自軍とジブラルタルの戦力を何度見比べても、攻略できるとは思えないのである。
「07Hが回せればな」
「それって何だ?」
「07Hはディンに対抗できる唯一の……ん?」
 自分は誰と話してるのか。視線を前に向けると紅茶を飲みながらソファでくつろぐカガリがいた。その後ろ
には護衛のキサカと、自分の副官ダロダ中尉が立っている。
「何で君がここにいるんだ!?」
「あれ? ガルマ様がお呼びではなかったのですか」
「私は呼んでない! 招いてもいない!!」
 ダロダがあたふたとする中、カガリは気にもせず秘蔵の菓子をパクついた。
「何で君がいるんだ? タッシルにいると聞いていたが」
 改めてガルマがカガリに問いただした。
「別にいいだろ。固いこと言うな」
「あ、あのね……」
「このクッキー美味いな!」
「勝手に人のものを……」
 親しげ(?)に語り合うガルマとカガリを不思議そうに見るダロダ。それもそのはず、彼女の本名はカガリ・
ユラ・アスハ。赤道直下に位置するオーブ連合首長国の元代表ウズミ・ナラ・アスハの娘であるのだ。
 出会いのきっかけは数年前にオーブで行われたパーティーだった。同じパーティーに出席していたイセリナ
に声をかけるか迷っていたところを、カガリが御節介にもイセリナを連れてガルマに引き合わせたのである。
これが縁でイセリナと恋仲になり、カガリとも友人になれた。ガルマにとっては我侭な妹みたいなものだが。
「しっかし、アークエンジェルが虎を倒した後にバナディーヤを包囲するなんて、ガルマは悪知恵が働くな!」
「褒め言葉と受け取っておこう」
「褒めてるんだよ。それにガルマが占領なんてしなかったから、アフメド達喜んでたぞ」
 ガルマは彼女の正直な言葉に照れながら答える。
「……私がやってるのは砂漠の虎と変わらないよ。違うのは街に兵を置いてるか置いてないかだけだ」
 アフリカ大陸のジオンの基地は、この基地とキンバライト鉱山基地ぐらいだ。
 例外的にタッシルには補給部隊を置いている。1人のジオン軍人がたった1両の戦車で命を徹してザフトから
町を護ったらしく、住人達は感銘を受け、特別に滞在を許しているのだ。
「そうか〜。ところで私をオーブまで連れていってくれないか?」
 唐突に振られた話だったので、ガルマにはカガリが何を言っているのか分からなかった。
 暫し間の沈黙後、やっと意図に気づいたガルマは呆れてしまう。
「カ、カガリ……そんな事できる訳がないだろう」
「ダメか? スエズ運河はジオンが抑えてるんだろ。なら潜水艦か何かでオーブまで行けるんじゃないか?」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
 軍の作戦でもないのに潜水艦を動かす訳にはいかない。カガリがジオン軍人で相応の階級ならば可能では
あるが、彼女は軍人ではない。それどころかジオン国民ですらない。
「アスハ家の要望でもダメか?」
 カガリがオーブの要人であるのは確かだが、物事には順序がある。おいそれと承諾するわけには行かない。
「ダメだ」
「そこを曲げて頼む!」
「や、やめろカガリ! 兵が見ている!」
 ガルマに詰め寄るカガリ。傍から見れば誤解を与えかねない光景である。もはや人に物を頼む態度ではない。
 そんな光景を見たキサカはため息を吐き、横にいたダロダは同情する視線を送るのであった。






 オデッサ作戦開始までいよいよ5日に迫った。ヘブンスベースでの改装と訓練を終えたアークエンジェルは、
既にユーラシア連邦のハノーバー基地に陣取っていた。この基地にも数多くの部隊がおり、大量の物資が輸送
されている。
 そんな慌ただしい駐機場に、輸送機とは思えない大型機が砂塵を巻き上げ舞い降りた。黒を強調した色で、
姿形がアークエンジェルと瓜二つな軍艦は、今作戦に参加することとなるドミニオンだ。
「おおっ! 久しきかな我が故郷!」
「そういえば大尉はこちらの出でしたね」
 ドミニオンから降りてくるのはモーガン・シェバリエ大尉とジャン・キャリー中尉。ドミニオンのMS部隊の
一員である。モーガンは部隊長であり、ジャンの方はエースパイロットである。
「MS適正検査に引っかかり、大西洋に飛ばされたときはどうなるかと思ったが……」
「感傷に浸ってるとこ悪いだが……モーガンさんよ、食堂どこか分かるか」
「……お前は、そればっかりだな」
「んなこと言っても、宇宙人を叩き出すには腹ごしらえしねえと!」
「宇宙人じゃなくてスペースノイドよ」
 モーガンが呆れている男はエドワード・ハレルソン少尉、エドを嗜めた女性はジェーン・ヒューストン少尉だ。
「学がなくてすまんね。でも教官も宇宙人って言ってたぜ」
「レナはザフト兵を宇宙人と呼んでるの。ジオン兵は別よ」
「どっちでも同じだよ。ジオンだろうが、ザフトだろうが……」
 ジェーン達が振り向くと、タラップを降りながら青年が基地を見渡してる。
「貴方が外に出るなんて意外ね」
「僕と同じストライクのパイロットに興味があってね。コーディネイターの……」
「おや〜。エリートさんは美形好きか、こりゃまいったね」
「ジャンは期待外れだったからね。少しは僕を楽しませてくれるといいけど」
 エドの揶揄を無視して、期待するように話す彼はゼロ・ムラサメ少尉である。今回の作戦でアズラエルから
指名を受け、ストライクと共にドミニオンへ配属されていた。 
「おい! 無視すんじゃねえ!」
「うるさいな。生憎僕は弱い奴に興味はなくてね」
「なに!?」
「シミュレーションで秒殺されたオマエが、いきがるんじゃないよ」
「てめぇ!!」
「止めなさいエド! ゼロ、貴方もよ」
 3人がもみ合う光景にモーガンとジャンは呆れるしかない。
「困ったもんだ……」
「全くです」
 とりあえず、彼らを無視し2人はその足で基地へと向かった。






「失礼します」
 扉をノックすると、ナタルは部屋へ入った。やや固い表情で、コープマン大佐が出迎える。
「入りたまえ」
「アークエンジェルの出発準備は、滞りなく完了致しました」
「うむ、パイロット達はどうかね?」
「短期間ですが、訓練は完璧で……」
「特務大尉!」
 コープマンの激しく叱咤する声があたりに響いた。
「短期間で完璧な訓練は不可能だ。事実はありのまま述べたまえ!」
「も、申し訳ありません!」
 直立不動のまま固まってしまうナタル。無理も無い。ナタルとしては大規模な地上戦は初めてだ。その為、
少しでも兵の練度が良いと考えたかったのである。
 ナタルは自分に渇を入れると、今一度現状報告を行った。
「フラガ少佐およびイメリア大尉は問題ありません。コーディネイターであるヤマト准尉もプログラムは全て
終えました。しかしながらアーガイル伍長とケーニッヒ伍長には近接戦闘は難しいでしょう。イメリア大尉と
共に支援の任に付いてもらいます」
「分かった。しかし大尉、そう肩肘を張るな。若いからとは言え、指揮官は堂々としなければな」
 職業軍人であるコープマンも、少しはナタルのことを気遣ってるようだ。
「さて今回の作戦だが、君達に随伴する部隊が追加された」
「追加? 部隊の増強でしょうか」
 コープマンは頷くと、扉がノックされる。
「失礼します」
 計ったかのようなタイミングで現れたのはナタルの見知った人物であった。
「イアン・リー少佐。着任いたしました」
「……リー先輩!?」
「おや? 2人は顔見知りかね」
「士官学校の2期下です、大佐」
 振り返るとリーはやや照れながらナタルを諭した。
「久しいなバジルール大尉。だが、先輩はやめろ。我々はもう候補生ではないぞ」
 思わぬ苦言にナタルは赤面し、俯くしかなかった。
「作戦は解っていると思うが……」
 コープマンは改めて作戦の概要を語りだした。
 オデッサ作戦は欧州周辺の各基地で戦力を整えていたユーラシア−大西洋連合軍部隊が20日に進撃を開始。
サウスサンプトン、ブリュッセル、ハノーバー、ジェノバから発進した各部隊は、東欧中央部を挟み込むよう
に西側から包囲を縮める。ハルバートン中将は第1軍を直率してライプチヒを東進、ジナルアルプス南部を
回ってユーゴスラビア方面に、ユーラシア側はビラード中将が第2軍を指揮し、ルーマニア方面へ展開する。
 そしてアークエンジェルとドミニオンは、バルト海に面して進み北方から鉱山基地を急襲、敵軍の後方を
撹乱するのが任務だ。
「貴官らの当面の目標はクィヴィシェフだ」
「質問してもよろしいでしょうか?」
「許可しよう少佐」
「自分達の任務は主に陽動と御見受けしますが、鉱山基地は落としても構わないので?」
 大胆なことを言い出した。リーはたった2隻で鉱山基地を落とすつもりらしい。
「構わんが、出来るのか?」
「出来なくはないでしょうな。本隊が来るまで基地を維持出来るかは別問題ですが」
「……ふむ、そこは少佐に任せよう」
 臨機応変に、と言うことだろう。
「バジルール特務大尉は何かあるかね?」
「いえ」
「よろしい。それでは……」
 コープマンは立ち上がり、敬礼をした。
「貴官らの健闘を祈る!」

 部屋を出ると、ナタルはリーを呼び止めた。
「リー先……少佐。先程の話ですが」
「鉱山基地のことか」
「はい、一体どのような策があるのでしょう」
「そんなものはない」
 一瞬何を言ったのか分からない。長い沈黙の後、何かに気づいたかのようにナタルは声を発す。
「…………えっ?」
「大尉。私はハルバートン派を信用していないのだ」
 リーはあたりを気にすると、誰もいないことを確認した。
 今回の作戦は大西洋連邦とユーラシア連邦の共同作戦だが、MSや一部の戦闘機のパイロットを除いて戦力
の大半はユーラシア連邦のものだ。オデッサがユーラシア領土であること、大西洋連邦が戦力を出し惜しみし
ていることから、ハルバートン派の軍人しか作戦に参加していないのである。コープマン大佐も元は第8艦隊に
属する戦艦モントゴメリィの艦長だった。
 リーはあくまで主観だと念を押すと、自分の考えを述べた。
「ハルバートン派は対ジオンで団結している。しかし私にはそれが世界樹の復讐にしか見えん」
「復讐ですか、しかし……」
「ハルバートンは対プラントではなく対ジオン主戦論者だが……それは何故だ?」
「……プラントよりもジオンを脅威に感じているからでは」
 ナタルの言うとおりハルバートンはジオン脅威論を主張し続けていた。コロニー落としという暴挙に出た
ジオン公国は、南極条約があろうと必ず同じ過ちをする。だから早いうちに叩いてしまおうと言うのだ。
「なるほどな。では何故ソロモンを最初に攻めるのかね?」
 ハルバートンはオデッサを攻略後、宇宙要塞ソロモンに矛先を向けている。過去にはアルテミスに残留する
宇宙艦隊でソロモンを攻める案も参謀本部に提出していた。
「それは、ジオンの宇宙における最前線基地ですから」
「そうだな。だが一つ肝心なことを忘れているぞ。連合には制宙権が無いということを!」
 現在の宇宙勢力図は月・L1宙域・L2宙域・L4宙域をジオン、L3宙域を連合、L5宙域をプラントとなっている。
「しかしそれはプラントにも言える。ザフトは連合よりもジオンを脅威と感じているからな……ならば!」
 熱くなったのか、リーは拳を握り締める。
「プラントの防衛網がジオン公国に向いている筈、そうなればアルテミスから攻めるのは容易ではないのか!?」
「た、たしかに……」
 プラントのヤキン・ドゥーエを占領すればアルテミスとヤキンの二方面からソロモンに侵攻できる。
「これは戦争だ。連合とジオンとプラントの戦争だ。なればこそ、大局的に戦略を練るべきではないのか!」
 拳を突き上げ目立ちに目立ちまくっていることにやっと気づいたのか、リーは慌てて帽子を深くかぶった。
「すまん」
「い、いえ」
「今回の陽動にしても、敵軍が我々の情報を知っていれば何の意味も無い」
 さすがにそれは無いだろうと内心思う。
「オデッサの司令官がマ・クベ中将でもそう思うか?」
「たしかに彼の諜報機関は優秀ですが、この作戦を知りえるのはハルバートン提督とその幕僚達だけですよ」
 しかしナタルは、その幕僚に裏切り者が居ることを知らない。
「……いずれにせよ、撤退判断はこちらで自由に行なえる。その確認は出来たからな」
 ナタルは先程のコープマンの言葉を思い出した。
『……ふむ、そこは少佐に任せよう』
 どうやらリーは後で命令違反にならないようコープマンに言わせたのだろう。
「あの、少佐は参謀本部の判断が正しいと?」
 参謀本部はブルーコスモスの巣窟だが、
「今はな……」
 意味ありげな回答にナタルは安心した。必ずしも信用してる訳では無いようだ。
 中道派でガチガチの職業軍人であるリーからすれば、派閥というものが信用できないのだろう。
 同じ頃、基地の敷地に接舷したドミニオンを、食堂から物珍しそうに眺めるムウとレナ、キラの姿があった。
「大した船だ。アラスカはずいぶん金をかけてるみたいだな」
「嘗ての宇宙艦隊を再建したいのでしょうね。本土ではアガメムノン級やネルソン級も建造されているわ」
「あれがアークエンジェルの同型艦ですか」
 キラが横にいるムウに話しかける。
「ああ。アークエンジェル級2番艦ドミニオンだ」
「だとしたら……搭載機はガンダムなんですか?」
「そうだなぁ」
 ムウは考え深げに頭をかく。
「Xナンバーはヘリオポリス以外だと実験機しか存在しないが、作戦が作戦だからそれも考えられるわな」
 アークエンジェルはXナンバーの搭載を前提に造られた船だ。ストライクやイージスが1機しか造られている
とは思えず、他に存在するなら同型艦に搭載するはずである。
「何? アークエンジェルにそっくりだ」
 後ろから現れたのはトールだった。全身汗だくになって息を切らしている。
「2番艦のドミニオンだよ」
「ドミ……。へぇ」
「ケーニッヒ伍長、腕立て伏せはどうした?」
「先程、終わりました」
 レナに返事したのを確認すると、キラがトールに耳打ちする。
「サイは?」
「まだやってる……」
 トールとサイはキラとの模擬戦に敗れたペナルティとして腕立て100回を命じられていた。
 ムウに言わせてみれば、後方支援も無しに勝てるはずがないとのことだが、結果は予想通り。
「なあ、少しは手加減してくれよ」
「嫌だよ。僕が負けたら腕立て1000回なんだぞ」
 悲しきかな、レナはコーディネイターに容赦がない。
「まあまあ二人とも、訓練も今日で終わりなんだからよ。とくにトールは昇進だろ」
 志願兵となったトールとサイは訓練終了と同時に伍長に任命されることになる。連合ではMSパイロットは
原則で伍長以上(キラの場合は功績を立てているので尉官)と決まっているのだ。
「よっしゃ、昇進祝いにメシ奢ってやる」
「ムウ、あまり甘やかさないで!」
「今日ぐらいいいだろ」
「……二人ではなく、アーガイル伍長にも奢ってやりなさい」
「だったら俺にも奢ってくれよ少佐殿!」
 我ながらいいセリフを言ったのに水を差されたレナは、不機嫌そうに振り向いた。
「何で貴方がいるの、エド?」
「ドミニオンに乗ってここまで来たのよレナ」
「ジェーン!?」
 数少ない友人と言えるジェーンを見てレナは驚きの声を上げた。
「よう、久しぶりだな。“切り裂きエド”」
「エンディミオンのオッサンもな!」
「俺はまだ28歳だ! オッサンって言うな!!」
 ムウが物凄く嫌そうな顔でエドを怒鳴った。だがエドは楽しそうに笑うだけで止める気はなさそうだ。
「あの、この方達は知り合いなんですか?」
「うん? お前らは?」
「あっ、キラ・ヤマト准尉です」
「ト、トール・ケーニッヒ伍長です」
「俺はエドワード・ハレルソン少尉だ。そんなに固くなるな」
 そう自己紹介して握手をすると、エドは一目散に食券売り場へ走っていった。その行動にキラとトールは
目を丸くして戸惑った。
「気にしないで、彼はいつもああなの」
「はぁ……」
 「オバちゃ〜ん、メシ!」と叫ぶエドを見ながらキラは言った。
「私はジェーン・ヒューストン少尉よ。よろしくね」
「こいつら俺と同じパイロット候補生だったんだよ」
「じゃあイメリア教官の?!」
 ムウ、エド、ジェーンそしてこの場にいないモーガンは、連合におけるMSパイロット候補の第一期生で、
皆がレナの指導を受けた者達であった。ムウと同じように、個々人が異名を持つ古強者だ。
「ええ、ちょっとした同窓会になったわね」
「“エンディミオンの鷹”、“切り裂きエド”、“白鯨”、“乱れ桜”……“月下の狂犬”はどうした?」
「モーガン大尉はコープマン大佐の所、後で来るでしょ」
「それだけじゃないぜオッサン! “煌めく凶星”も来てる!」
「だからオッサンじゃない! ……って“J”も居るのか!?」
「連合のエースが一同に結したわけね」
 懐かしい顔ぶれにムウの顔がほころぶ。
 ムウにとって彼らは、自分にとってのトールやサイなのだから当然である。楽しそうに会話をするムウ達に
キラは何か間に入り込めない疎外感を感じるのだった。
「行こうか?」
「ああ」
 二人は戦友の再会を邪魔しないよう、静かにその場を後にした。
 食堂を後にしたキラは、サイの応援をしようと足を運ぼうとしたとき、背後から強烈な視線を感じて思わず
振りかえった。するとそこには、一人の青年士官が険しい表情で自分を見ていることに気づいた。
「君がストライクに乗ってるコーディネイター?」
「えっと、どなたでしょうか?」
「とてもそうは見えないな……。弱そうだ」
「なっ!」
 キラは驚いた。確かに自分の体は華奢であるが、そうだとしても自分はコーディネイターではある。それを
知った上で、まさか弱そうなどと言われるとは思わなかった。しかも初対面の相手にだ。
 さすがのキラも余りに非常識な言葉に怒りがこみ上げてくる。
 思わず言い返そうとしたキラであるが、それよりも早くトールが士官に噛み付いた。
「いきなり何なんですか? 初対面なのに失礼でしょう!」
「伍長ぶぜいが僕に指図をするな!」
 よく見れば士官の階級は少尉だ。自分はおろかキラよりも上である。
「ぐっ……」
「ふん、自分の立場を理解したようだな」
 嫌みたっぷりの態度をとる青年はそのままトールを無視してキラに視線を向けた。
「いいか。連合には君みたいなコーディネイターは必要ない。真のNTである僕だけで十分なんだ」
「NT?」
「そんなことも知らないのか。これはジャン同様、期待外れだな……」
 哀れむような視線でキラを見た士官はそのまま何処かへ行ってしまった。
 その姿が完全に居なくなるのを確認すると、トールは我慢していた言葉を吐いた。
「何なんだよアイツ! 失礼な奴だな!!」
「トール抑えて、相手は上官だよ」
 ムウ位になれば、多少軍規を緩めても問題ないが、そうでないと大事になる。
「でもよ! 弱そうって言ったんだぜ! キラの凄さも知らないくせにっ!」
 憤怒するトールを落ち着かせながら、キラはとても嬉しく感じていた。
 自分のために怒ってくれるトールに、先程のムウ達を思い浮かべる。トールなら絶対に信頼できる仲間だ。
トールだけじゃない。サイやミリアリア、カズィ、フレイもそうだ。これからもずっと……。
 そう思うキラの肩をいきなり誰かが叩いた。
「やあ、君がストライクのパイロットかい?」
「え、ええ」
 そこに居たのは、メガネをかけたやや年配の男性だった。
「君もコーディネイターと聞いたよ」
「君もって、じゃあ貴方も?」
「ジャン・キャリー中尉だ……よろしく、同胞」
 見た感じ軍人らしくないジャンは微笑みながらキラに右手を差し出した。






「……98……99…………100!!」
 罰則である腕立て伏せを終えると、サイはその場に崩れ落ちた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 暫し休んでいるとそれを見計らってか、フレイが冷えたドリンクを持ってやってきた。
「サイ、飲み物持ってきたわ」
「ありがとうフレイ」
 そう言ってフレイが持ってきたドリンクを受け取る。
「ねえ、今からでも遅く無いわ。パイロットなんてやめましょう」
「そんな訳にはいかないんだよ」
 フレイは辛そうな顔になった。サイはそれを見てすまなそうな顔になる。
「どうしてよ! 軍人になるにしても、パイロットじゃなくてもいいじゃない! 私からパパに頼んで、
 もっと安全な部署に……」
「違うんだよフレイ。俺はただ軍人になればいいと思ってるんじゃないんだ。君を護りたいんだよ」
「へっ……」
「俺達、今までキラに護られてきた。だからずっと考えてたんだ、自分には何もできないのか、護られてる
だけなのか……ってね」
 キラは自分達を護るために戦っている。だがサイは戦う姿を見ることしかできない。
「砂漠でキラが脱走しただろう。キラは苦しかったんだ。自分一人で何もかも背負い込んで、苦しんでた。
それなのに俺は何も出来なかった。ただ見てるだけだった。友達なのに、かっこ悪いよな」
「そんなことないよ」
「護られてるだけじゃダメなんだ。だから……」
 ――俺もキラの隣に立ってみせる。
 サイはそう心に決めた。
「それに俺はフレイを護ることさえもできてない、だからフレイを護りたいんだ。自分自身の力でっ!」
 その言葉は力強いが、フレイの表情は冴えない。
「大丈夫。俺は死なないよ。絶対戻ってくるからさ」
「サイ……」
 サイはフレイの首に腕を廻すと、そのまま彼女を抱きしめた。

 様々な思いを胸に秘めて、5日後の3月20日午前0時。
 天使の異名を持つ二隻の軍艦は、一路バルト海へ進路を向けた。
 そこで少年達は戦争という現実を目のあたりにする。
 だがこのときの彼らは、それをまだ知らなかった。