Top > Zion-Seed_51_第33話
HTML convert time to 0.011 sec.


Zion-Seed_51_第33話

Last-modified: 2008-03-13 (木) 23:55:35

「ハルバートン提督、意外に善戦していますね」
 アズラエルに言われ、サザーランド大佐は些か不機嫌な顔になった。
「……そうですな」
「ビラード将軍も作戦通りに事を進めていますし、オデッサ攻略は決定的のようだ」
 目の前のモニターには1時間前の戦場が映し出されている。欧州の地図と各軍を簡略化して並べたものだ。
2年前ならリアルタイムで戦場を見れたが、今はミノフスキー粒子とNジャマーの所為で不可能であった。
 そんな配置図を見て、2人は各軍勢の同行を伺っていた。

――――第33話

「しかし、よろしいのですか?」
「何がです」
「作戦が成功すればハルバートンの発言力は増します。我々としては今後の戦略に変更が生じるかと」
 反ブルーコスモスの急先鋒であるハルバートンは、サザーランドにとって厄介な相手だった。彼の発言力が
増せば、連合は対ジオンに傾くだろう。ザフトを始末したい自分達は不利になってしまう。しかし、それにも
拘らずアズラエルは余裕の笑みを浮かべていた。
「大佐。いけませんよ、曲がりなりにも彼は大西洋の人間ですからね。勝つに越したことは――」
「新しい情報が来ました!」
 モニターに映る青い光点――連合軍が更に侵攻を進めた。赤い光点――ジオン軍は前線を突破されて後退し
始めている。第2軍が遅れてはいるが、連合が圧倒的優位なのは素人目にも分かった。
「これは……」
「第1軍は順調ですが、第2軍が遅れてますな。と言っても進路を変えただけでは影響は少ないでしょうが」
 サザーランドの言葉を聴きながらも、アズラエルは浮かない顔をしている。
「どうされました?」
「大佐。貴方が敵軍の司令官ならこの状況どう打開します?」
「撤退するしか道は無いでしょう。如何にジオンのMSが強力でも、数には勝つことはできません」
「そうですか。では、こうするとどうでしょう」
 アズラエルはモニターを操作して光点を動かした。
「む――」
 アズラエルの指摘に、サザーランドは呻き声を上げる。
「こ、これは……まさか!」
「素人の考えですから、こう旨くいくとは思いませんが、相手は策士と呼ばれるマ・クベ中将です。私が思い
付くプランに気づかない訳が無い……嬉しそうですね大佐。顔が笑ってますよ」
「し、失礼……しかし盟主の推測が当れば、今後のシナリオが書き易くなります」
 参謀本部に属するサザーランドなら、ハルバートンを更迭にできる。そうなれば軍内部勢力はこちらに傾く。
さらに査問会で嫌味を言い放題なのだ。日頃の鬱憤を晴らすのに丁度よかった。
「何はともあれ、手を打っておく必要がありますね」

 艦橋ではナタルとムウ、そしてイアンが今後について検討していた。
「ダメです。スカンジナビア王国からの応答無し」
「そうか……」
「既に見限られたと見て間違いないな」
 まずはじめに出た案が撤退である。今来た航路を逆に辿ればいいが、それにはスカンジナビア王国の領海内
であるバルト海を通過しなければならない。中立を貫くこの国はユーラシアからの嘆願で一度だけの領海侵犯
を許していた。しかし二度は許せないのか、先程から通信を送っても反応が無い。
「リー少佐、ドミニオンの方は?」
「動かすことはできる。動かすだけなら、な」
 ドミニオンは右舷エンジンを損傷して航行不能になっている。アークエンジェルの整備班も総出となり修理
に当たっているので航行は可能になったが、巡航速度がやっとである。最高速度が出せれば、強引にバルト海
を通過できるが、巡航速度ではスカンジナビア海軍を振り切ることができない。
「ドミニオンが速度を出せないとなると、バルト海側からの脱出は困難だ」
「やれやれ俺達は完全に孤立したってことか」
「……」
「どうする? 救助を待つか? それとも玉砕覚悟でミンスクに突撃するか?」
「ドミニオンを捨ててアークエンジェルだけ脱出、という手もある」
「もちろん投降も視野に入れるべきだよな」
「ま、待ってください!」
 消極的な意見ばかりが出る中でナタルが口を挟む。
「何か打開策があるはずです!」
「どんな?」
 イアンが険しい顔でナタルを睨んだ。
「そ、それは」
「この状況下でどんな手がある?」
「もう少し考えれば、何か……」
「悠長に考えている時間は無いぞ。敵の第2陣があるかもしれん」
 イアンの嫌味に俯き加減で艦橋を出るナタル。
 彼女が居なくなるのを確認すると、イアンは帽子を脱ぎ、息を漏らした。
「少し言い過ぎたか?」
「彼女にはアレ位でいいでしょ」
 ムウが頭をかきながらにこやかに言う。
「最初は驚いたよ。フラガ少佐からこんなことを頼まれるとはな……。しかし彼女に方針を決めさせるなど、
些か厳しいのではないか」
「分かっている。しかし、指揮官に迷いが有っては全体の士気に影響しちまう。彼女の状況対処能力が低い
のは親譲りみたいだから、乗り越えてもらわんと今後に支障が出る」
「確かに彼女は想定外の事態に固まることが多い」
「任されちまったからな。これを機に指揮官としての覚悟を持ってもらわんと」
 ムウはパオロから頼まれた時のことを思い出した。

 その頃パイロット達は、戦闘の分析結果をマリューから説明されていた。
「ハレルソン少尉とイメリア大尉が抗戦した相手はノリス・パッカード大佐と思われます」
「欧州一のエースだな。厄介な相手だぞ、奴は共和国時代からの古株だ。技術も戦術も備えたトップクラスの
パイロットだ。こと地上戦に限っては“青い巨星”以上とも言われている」
「何より厄介なのは、彼の部隊は練度が高いことね。教官だった時期もあるみたいで、部下達は直々に訓練を
受けているそうよ」
 強敵の存在に頭を抱える大人達。
 キラも話半分で聞いている。わからない単語が出てきたが、相手が只ならぬパイロットなのは理解できた。
「あの飛行MSは何なんだ?」
「グフ・フライトタイプです」
 そのままじゃん――と心の中でツッコミを入れるパイロット達をよそに、マリューの説明は続く。
「グフを媒体とした飛行MSでしょう。形状を見る限り一から作り上げた改良型ね。頭部にしかグフの名残が
なかったのが裏付けになるわ。飛行そのものはディンのシステムを応用している。機動速度から逆算すれば、
本体重量は若干軽くなってるけど、ディン程ではないからグフ特有の格闘戦もこなせる。だけどヒートロッド
は装備してないから組しやすいかも。ガトリング砲は要注意ね。威力があるからPS装甲でも長くは持たない。
全体的には中近距離仕様で小回りの利く……」
「ラミアス大尉。それくらいにせんと、トールの頭から火が吹いちまうぜ」
 モーガンの指摘に見ると、トールがウトウトとしている。
「……コホン……兎に角、総合性能では105ダガーの方が上回っていると結論できるわね」
 マリューの言葉に皆が静かになった。
 この言葉が意味することが解ったからだ。敵兵の練度は此方の予想をはるかに上回っていることを、
「ふざけるなッ!!」
 しかしそんな事実を認めたがらない男が一人いた。
「そんなはずは無い! 何かの間違いだ!」
「ムラサメ少尉。これは事実です」
「もう一度調べろ! 僕が、僕があんな奴に劣っているなど認められない!!」
 ゼロは終始グフに翻弄されており、1機も撃墜することができなかった。それを気にしていたゼロは納得の
いかないマリューの分析に鬼気迫る勢いで詰め寄った。
「貴方があのグフに負けたのは純粋な腕の差よ」
「ぐぅああぁぁぁっっ!!!」
 目が血走り、もの凄い形相で叫ぶゼロ。モーガンとジェーンが慌てて押さえつける。
 尋常でないことが起きている。それはキラにもよく分かった。自信満々で自分に絡んできたゼロとは思え
ないほどの取り乱し容である。キラも2人に加勢してゼロを押さえる。
「真のNTであるこの僕が負けるなどありえないんだぁぁぁっ!!」
 しかしゼロは3人を振り払い逃げ出した。
「どうしたってんだアイツ」
「“ニュータイプ”とか言ってたよな。それって……」
「NTは、ジオン共和国の建国者ジオン・ズム・ダイクンが提唱した思想よ。人類は過酷な宇宙環境に進出・
適応する事で、生物学的にも社会的にもより進化した存在=ニュータイプになれるという考え方で、全人類が
宇宙に移民する事で人類に革新が起こり、戦争や地球環境の汚染などを克服した一段高いレベルの文明……」
「だからラミアス大尉、それくらいで……」
 説明を止められ、不満なマリューを放置して、ジェーンが語り始めた。
「そのNTだと、アイツは思い込んでるのよ」
「思い……込んでる?」
「ええ。きっかけはジオン軍人の強さの秘密にはNTではと考える派閥よ。小さな派閥で誰も相手にしていな
かったけど、ジオン公国からの亡命者の中にNT研究者だと言い張る奴が出てきた」
「NT研究……ですか」
「ええ、フラナガン機関とか言うものなんだけど、詳しいことは分からない。その研究者がフラナガン機関の
資料を持っていたらしいの」
「その派閥は研究者を迎え入れた。そして“そして人工的なNT”という論文をまとめ、ある人物に渡した」
 引き継ぐようにモーガンが話す。そして次に出た人物の名は、キラを戦慄させた。
「ブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエルだ」
 ブルーコスモス――言わずと知れた反プラント、コーディネイター思想とその主義者の総称である。
 しかも組織のトップであるアズラエルの名は、コーディネイターであるキラに恐怖を感じさせた。
「彼自身はNTに対する見解を出していないけど、コーディネイターに対抗できる研究に興味を示したのね。
NT研究への投資を行っているわ。薬物や暗示による能力強化を中心にして……」
「奴はその“人工的なNT”の試作品。コードネームは“プロト・ゼロ”だ」
「なるほど。彼はMSの性能差で負けたと思い、精神の均衡を保っていたけど、私の分析結果を聞いたことに
よって自己矛盾が生じた。だからあんな行動に出たのね」
「そのゼロをあしらったあのグフのパイロット……本当のNTかもしれない」
「そうなると厄介だな」
 大人達が冷静に議論する中で、顔を真っ赤にしたトールが立ち上がった。
「おかしいですよ“試作品”だなんてっ!! まるで兵器みたいじゃないですか!!」
「トール……」
 トールは最初にゼロに会った時、彼のことが気に食わなかった。面と向かって侮蔑されれば誰も好きにはな
れないだろう。だが、それでも彼の自信たっぷりな振る舞いは、一緒に戦う人間として頼もしく見えたのだ。
「貴方達はそんな目でムラサメ少尉を見ていたんですか!?」
「そんなことはないぞ少年。俺は奴を頼もしい仲間だと思ってる」
「えっ?」
「実際、奴より腕の立つパイロットはこの場にはいない。対等に戦えるのはムウとレナぐらいだ」
「信頼はできるのよ。でも、ブルコスが関わってることがね……」

 ナタルは一人艦長室で落ち込んでいた。
 具体案が全然出てこないのだ。ムウとイアンは様々な案を示しているのに、自分は何一つ出てこない。
「特務大尉が聞いて呆れるな……」
 自分はこんな弱い人間だっただろうか。士官学校を主席で卒業した自分が右往左往している。
 思えばヘリオポリスで初めて指揮を執り、今日までやってきたが、これだけ大規模な軍事作戦に関わるのは
初めてである。しかも作戦は敵に察知されているらしく負け戦は決定的だ。
 このような状況下で自分はどう動くべきなのか。ナタルは悩む。アークエンジェルが単独で動いていた時は
まだ耐えられた。しかし今度は、自分達の行動が連合軍全体に関わってくる。ハルバートン提督は後方撹乱を
アークエンジェルに任せることにより、安心して進軍しているのだ。もし自分達が失敗すれば作戦そのものに
影響が出る。それがどれほどの重圧か、ナタルは身をもって知った。
「これならラミアス大尉が艦長の方が良かったかもしれない」
 技術士官ではあるが、だからこそ艦の特徴を理解している。もしかしたら自分よりうまくやるのではないか。
「“砂漠の虎”を倒して舞い上がっていた自分が恥ずかしい」
 頭を抱えるナタル。そこに扉をノックする音が聞こえる。
「は、入れっ!」
 妙に気張りながら返事をした。入ってきたのはセイラである。
「失礼します艦長。先の戦闘による損害をまとめました」
「そこに置いてくれ」
 言われるままに書類を置く。途中、セイラの視線はずっとナタルに向けられていた。
「どうなさったの?」
 不意に出た言葉にナタルは身を震わせた。セイラが敬語を使わなかったことにも気づかない。
「何故そんなことを聞く」
「貴女がいつも以上に気張っているから……」
 自分ではいつも通り話しているつもりだが、セイラには自分の苛立ちを隠せなかったのか? 
 いや、隠さなかったのかもしれない。
「カウンセラーとまではいかないけど、話してくれます?」
 それが決定的だった。ナタルは今まで溜め込んでいたものをセイラに語った。責任という重圧に耐え切れな
くなっていること、そして艦長の任を降りようと考えたこと……。自分でも驚く程に弁が立った。セイラは
彼女の独白を頷きながら聞いていた。
 全てを話し終えると、セイラはゆっくり口を開く。
「今逃げ出すのは卑怯ではなくて? 今は悩むより、艦長として最適な行動を執るべきではない?」
 厳しい言葉をぶつけられる。しかし次の言葉にナタルの心臓を大きく打った。
「ヘリオポリスから少ない人員で頑張ってこれたのは貴女がいたからでしょう?」
 ハルバートンにも似たようなことを言われたが何も感じることはなかった。
 身近に居る人間の純粋な感謝の言葉――それがナタルの心に響いたのである。
「ありがとうございます。目の前のモヤが晴れた――」
 ここでナタルは初めて重要なことに気が付いた。
「――何故私はマス伍長に敬語を使っているんだ!?」
 慌てるナタルの姿に笑みを浮かべるセイラであった。

「デュクロ大尉」
 白い煙を吐きながら地図を見ていたデュクロに背後から声が掛かる。
「我が大隊の損害は如何ほどかね」
「戦車2両が中破。負傷者は14名、全員軽症です」
「他の大隊はMSを失っている所もある。それと比べると上出来だな」
 進路をソフィアに向けた第2軍は、大した損害も出さず進軍していた。途中、いくつかの襲撃はあったが、
そのことごとくをこの2人の部隊が食い止めていた。コーネル少佐指揮下のMS大隊である。
 コーネルは大戦初期からMSを指揮した経験があり、沈着冷静な指揮官だ。そして副官のデュクロ大尉は、
鬼車長とまで言われた戦車乗りで、経験に裏付けられた確かな実力を持っていた。
 この2人の指揮するMS隊と戦車隊は、絶妙ともいえる連携でジオン軍を迎撃していた。
「しかし、MSと言うのは凄まじいですな。ユーラシアも早期に開発していればジブラルタル位は取り戻して
いたのですが……」
「フフフッ、そう褒められるものでもないぞ。私が昔、指揮していた部隊は、もっと腕の立つ奴がいたからな」
「煌く凶星ですか?」
 コーネルは拍子抜けした顔をする。 
「なんだ。知っていたのかね」
「ええ、一部では有名ですからね」
 辺りを見回しながら、コーネルが溜め息を付いた。
「驚かそうと思ったが、残念だな」
 他愛の無い会話が続く。このとき、コーネルはもちろんのこと、デュクロにも油断があった。
 2人が敵の存在に気づいたのは、レイエス伍長の叫び声を聞いてからだった。
「て、敵襲だーっ!!」
 前方のリニアガンタンクが爆発する。
 周囲が慌てふためく中、コーネルとデュクロは瞬時に頭を切り替えた。
「慌てるな! 弾道は!?」
「左方、10時方向、発砲炎!」
「何!?」
 デュクロが手にした双眼鏡を向ける前に、後方のリニアガンタンクが爆発する。
「全車、散開、止まるな! 敵はマゼラアタックだ!」
 デュクロは咄嗟に全車に指令する。陣形を整えてあった戦車隊が広がった。
「恐ろしく腕の立つ戦車乗りです」
「どうやら本命のようだな……」
 コーネルは冷静に分析する。今までの敵とは明らかに違うのを悟ったのだ。
「少佐、伏兵のMSがいる可能性が高いです」
「うむ、私もそう考えていた。MS隊は周囲の警戒に当たれ! デュクロ大尉、マゼラアタックは任せた」
「ハッ!」
 指揮車を飛び出ると、手近に停めてあった戦車に飛び乗る。モニターで敵を確認すると、デュクロの目に
映ったのは連合のブラックリストに載っている、狼のマークを付けたザクの部隊だった。

「何が起こっているのだ!?」
 ボナパルトの艦橋は騒然となっていた。第2軍の前線部隊がいずれも奇襲攻撃を受けたのだ。特にMS隊へ
の攻撃を第一目標としていたらしく、充電中のMSは迎撃もできぬままやられてしまう。
「どうやら本格的な攻撃のようですな」
「そんなことは言われんでもわかっとるよ」
 エルランの発言にイラ付きながら応える。それもそのはず、ビラードは先程まで優越感に浸っていたからだ。
このまま進撃し、ハルバートンよりも先にオデッサを奪還しようとしていた。それなのになんだこれは!?
「敵MSが前線を突破しました!」
「止めろッ! 何としてでも止めろッ!!」
「護衛の MSはどうした?!」
 ビラードを始めとする幕僚達が、ヒステリックに指示を出しまくる。今まで順調すぎた所為で、楽勝気分が
蔓延していたのか、冷静に行動できる者が司令部に誰一人としていなかった。エルランを除いては……。

「クルツ軍曹! 護衛機はこちらで引き付ける。戦艦はお前がやれ!」
「了解」
 トーマス・クルツ軍曹の乗ったグフが一直線にボナパルトに迫る。護衛のデュエルダガーがそうはさせじと
前に出るが、ジャニス・マコンネル少尉のMS小隊が後方より援護している。ボナパルトは目の前のMS群に
向けて砲火を集中させるが、G-27部隊として最前線を駆け巡り、戦いの度に生還を果たしてきたクルツの
悪運の前では敵うはずもない。
「司令官はビラード将軍か……」
 クルツは嘗て連合に所属していた。しかし開戦初戦のグリマルディ戦線で連合が敗北が決まると、クルツは
プトレマイオス基地に置き去りにされたのである。この時、クルツを置いて逃げ出した司令がビラードだった。
 彼はザクを奪って逃げ出そうとしたが、ロイ・グリンウッドに説得されてジオンに亡命していた。
「俺を月に置き去りにした借りを返させてもらうぞ」
 クルツはボナパルトをヒートソードで斬りつけた。ボナパルトの巨大な無限軌道は切り裂かれ、その巨体は
動きを止める。これで砲撃が止み、クルツにとっては千載一遇の好機だ。
 だが、不思議なことにクルツは追撃を加えず、対空砲火を潰しながら後退していく。ジャニス小隊も護衛機
を仕留めると、そのまま後退した。
「よくやった軍曹。さすがだな」
「アレでよかったのですか隊長」
 クルツが不満をこぼす。ジャニスもそれに同意するような仕草をするが、口にすることはなかった。
 彼らの目的は敵司令部を足止めをすることだった。外人部隊を指揮するローデンは、初めから第2軍を押し
返す気がなかったのである。唯でさえ3倍の兵力差であるのだからできることは限られていた。
「兎に角戻るぞ。グリンウッド中佐の陽動も長くは持たない」
「……了解」

「中々やるではないか……尤も、力押ししかしておらぬが」
 オデッサ基地司令部では、マ・クベが全戦域の様子を確認していた。
 現在、ダグラスの遊撃部隊が少ない戦力で善戦していた。さらにはロイ・ジューコフ大佐のマゼラアタック
1個大隊が援軍として向かっている。連合の第2軍を釘付けにすることには成功するだろう。そしてケラーネ
の欧州方面軍も第三防衛ラインまで順調に後退していた。
「ですがマ・クベ司令。計画的に後退はしていますが、犠牲は少なくありません」
「ケラーネ少将も援軍を求めております。ドムを向かわせるべきでは?」
「無用だ」
 参謀の助言を平然と払いのけるマ・クベ。ドムはノリスに譲渡したのだから無理もない。そしてドズル派の
ケラーネを助ける気もなかったのである。ガルマから派閥抗争はやめよとの訓示は受けてはいるが、あの熊の
様な男に手を差し伸べるには抵抗があったのだ。
「しかし、ケラーネ軍の戦力低下は見過ごすわけにはいきません」
 それでも参謀は食い下がらない。実はこの参謀、ガルマとは同期の人間で、派閥の争いを監視するように
ガルマから勅命を受けていたのだ。マ・クベもその事は知っており、さすがに折れるしかなかった。
「致し方ないな……。少し早いが第三防衛ラインを放棄して、最終防衛ラインにまで下がる。オデッサ基地に
残っている爆撃機は?」
「第24、27爆撃隊の二個中隊のみです」
「ガウは?」
「ガウ攻撃空母は2機残っていますが、これはいざという時の脱出用で……」
「構わん、2機とも出せ。連合を最終防衛ラインで釘付けにするぞ」
 参謀はドムではないことに首をかしげながらも、直に命令を実行した。
「ウラガン、ガウの代わりはザンジバルを使う。もしもの時に用意はしておけ」
「ハッ!」
「力押ししかできん者に、負けるわけにはいかぬ」
 マ・クベは保険を掛けたが、内心ではその様なことは起きないと確信していた。
ハルバートンは戦果を聞くと、ジオン軍はオデッサを放棄すると判断した。
「勝ったな」
 ジオンの欧州方面軍は既に軍としての機能を失っている。ケラーネのいる部隊はまだ陣形が整っているが、
他の部隊は陣形も何もなく、ただ散り散りに逃げていくだけだ。
「掃討戦は後回しにする。一気にオデッサへ向かうぞ」
 オデッサ放棄後、ジオンはロシアおよび極東方面軍と合流するか、アフリカ方面へ向かうと予想できる。
確率としてはガルマ・ザビがいるアフリカ方面軍との合流が高くなるだろう。だが、仮に他の軍勢と合流して
も負けることは無い。連合もジオンやザフトと同じMSを戦力に加えたのだ。大西洋本土では今もストライク
ダガーを中心に量産体勢に入った。後1ヵ月もすれば戦局は大きく変わる。
 勝ちを確信したハルバートンは今後のことに思いをはせた。だが、直後の報告でそれは中断される。
「第3大隊が攻撃を受けている?」
「はい。詳しいことは解りませんが“高速で動くMS”との通信が……」
 第3大隊はMSを1個中隊を配備し、第1軍の左翼に置いていた部隊だ。先行しているアークエンジェル隊
と合流するため、第13独立部隊が同行している。
 気になったハルバートンは直ちに偵察機を向かわせると、送られてくる映像にハルバートンは絶句した。
「馬鹿な! 第13独立部隊が壊滅だと?!」
「生き残っているのはミラー大尉の105ダガーと数機のデュエルダガーだけです」
「何なのだ、あのMSは!?」
 重好感漂う装甲で覆われ、かなりずんぐりとしたMSが地面を滑るように高速移動している。
 デュエルダガーはその高速に対応できず、虎の子と呼んだ105ダガーもエールパック装備を除く機体は何も
できずに撃墜されていた。
「ジオンの新型MSか!!」
「移動速度が……なんということだ! 提督、あのMSはバクゥより速く動いています!」
「ぐっ……ぬう……」
 第3大隊を壊滅していくドムの姿に歯軋りする。ハルバートンは知らなかったが、このMS隊はノリスに
与えられていたドム2個中隊だった。ノリスの独断で前線へ向かった部隊が救援に来たのである。
「提督! 左翼部隊が敵の猛攻を受けてます!」
「中央も……後方にもジオンのMSがッ!!」
 しかも不幸なことに、ドム部隊が駆けつけたことを知ったケラーネが一斉に攻勢へと転じた。第1軍の前後
左右にジオンの部隊が展開していたのだ。ハルバートンはジオンが散り散りになるのを見て、統制が取れなく
なったと考えたが、そうではなかったのである。
 如何に数で増しているからといっても、四方から挟撃を受ければ溜まったものではない。
「提督……」
「今度は何だ!?」
 また悪い報告か?
 いや、これだけ悪いことが重なっているのだ。ひとつぐらい良い話があってもおかしくはない。
「ジブラルタルが……」
「なんだと!?」
 気の抜けた報告をしたコープマンに怒鳴り返す。よく見るとコープマンの表情は呆然としたものだった。
「ジブラルタルが落ちたそうです」
 ハルバートンはコープマンが何を言っているのか理解できなかった。
 ジブラルタルはカーペンタリアと並ぶザフトの地上基地のひとつ。それが陥落したと言う。もちろん連合が
ジブラルタルを攻める話などハルバートンは聞いていない。つまりジブラルタルを落としたのは……。
「ガルマ・ザビのアフリカ軍がジブラルタルを占領したのです、提督!!」
 他の幕僚が騒ぎ始める。それでもハルバートンは理解することができなかった。