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Zion-Seed_51_第38話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 17:52:12

 大西洋連邦首都ワシントンにあるホワイトハウスでは、大統領が数名の高官を呼び寄せていた。

「それで公王は何と?」
「現状では難しい、とのことです」

 大統領の問いに、ジョージ・アルスター外務次官がうなだれるように答えた。ジョージはアルスターの名字
から察せるとおりフレイの父親である。ブルーコスモスの人間ではあるが、彼自身はアズラエルのような殲滅
思想は持たず、緩やかなる回帰を掲げる穏健派であった。その為に、かつてブルーコスモス穏健派に属してい
たデキン公王とのパイプ役になれる唯一の人材でもある。
 ジョージは地球とジオン公国を行き来して、公王と会談を行っていた。初戦からの敗北が続いた連合政府は、
圧力に屈しないジオンとの講和を視野に入れていたのである。

「ただ、公王からはこのような親書を渡されました」

 ジョージが封筒を大統領に渡す。中身を取り出し、一通り目を通すと親書を他の高官たちに渡した。

「見てみたまえ」
「はあ」

 内容を知らされていなかった高官たちの顔色は、親書を読み勧めるうちに急激に変わっていった。

「大統領、これはっ!!」
「うむ。近いうちジオンはL5宙域へ攻め込むつもりだ。それもヤキンだけでなくプラントもだ」
「プラント本国までですか!?」
「1ヶ月前からギレン・ザビは準備をしている。あの独裁者は制宙権を手にするつもりだ」

 大統領は椅子に深く座った。

「これは好機かもしれません。プラントがこの戦争から脱落すれば、軍部の方針は対ジオンに傾きます」

 コーディネイター殲滅を掲げているブルーコスモス過激派は、ハルバートン提督がいなくなったことで発言
力を増している。しかし、彼らが忌み嫌うプラントが敗北したら、今までように口を挟む云われはなくなる。

「アズラエル代表は対ジオンに消極的な方です。公王が元ブルーコスモス重鎮なのですから」
「そう、うまくいくでしょうか」

 ジョージが苦々しい言葉で言う。

「元々、ジオン公国は独立を望んでいました。ギレン・ザビもそのつもりで南極で交渉を始めたのでしょう。
我々から話を持ちかけたとしても必ず乗って来ます。アズラエル氏もジオンの技術やNTに興味を持っている
ようですし。しかし、問題はアズラエルの背後にいるものです?」
「……影の政府、“ロゴス”だな」

 ロゴスはブルーコスモスの母体とされる組織である。各界の有力者達で構成される世界的な軍産複合体で、
ブルーコスモス盟主のムルタ・アズラエルもメンバーの一員であった。

「確かに、奴らがこのまま敗北を受け入れるかは疑問だ」
「次の選挙にも影響が出てくる」
「過激派の動向も気になります。奴らはまたテロに走るのではないかと」
「そうだとしても……」

 ざわつく中で、大統領が力強い声を発する。

「そうだとしても、我々は戦争終結の道を模索しなければならない」

 終戦への道は限りなく遠い。しかし、戦争終結の扉を閉ざすわけではない。どんなに時間がかかろうとも、
道はそこにあるのだから……。

「ところで、プラント側との交渉はどうなっている?」
「大統領、プラントは既に沈み行く船です。交渉など無駄では……」
「プラントがどうなるかは問題ではない。あらゆる事態を想定した上での外交だ」

 大統領の気迫に高官はジョージを見た。
 
「オルバーニ氏はマルキオ導師を通じてプラントへ和平の為の親書を渡したようですが、マルキオ導師が行方
不明で交渉内容が不明なのです。プラント側から何のアプローチもないことから決裂した模様ですが」

 オルバーニは地球連合理事総長である。連合という組織自体、突発的に造られた為、影響力は持っていない。
それでも彼なりに事態を好転させようと、外交官の肩書きを持つマルキオに親書を渡していたが、あまり期待
は出来ないようだ。






―――第38話






 整備班の手によってコックピットがこじ開けられる。開けられた中身に整備兵たちが嘔吐する。ムウですら
思わず顔を逸らした。

「くっ!!」
「……女子供には見せるんじゃねえ」

 凄惨な光景にマードック軍曹は顔を顰めながらも、サイの“回収”を始めた。

「うそ……うそよ! そんなのうそぉ!」

 90mmマシンガンの直撃を受けた105ダガーを一言で表現するならば“蜂の巣”と表すだろう。胴体部、特に
コックピットには3発が直撃。その中はミンチより酷い状況で、サイの体は原型を留めないほど四散していた。

「会わせて! サイに……サイにぃ!」
「ダメだ! 嬢ちゃんをこっち通すな!」

 フレイはサイに会いたいがため機体に駆け寄るが、ムウの叫びによって止められた。ムウの厳しい表情に皆
が黙り込む。フレイはがっくりと膝から崩れるとセイラに支えられた。静かに時間だけが過ぎるのも束の間。
彼女は泣くのをやめ、ジャンを睨みつけた。

「……何でよ」

 その目つきの鋭さに皆が唖然とした。特にヘリオポリスの少年たちにとってフレイはお嬢様である。彼女が
こんな殺気だった表情を人に見せるとは思いもよらなかった。

「何でこんなことになったのよ!!」
「フレイ、落ち着きなさい」

 金切り声を上げるフレイを、懸命にセイラがなだめる。

「――アンタ、どうして敵を倒さなかったの!? 殺せたでしょ!」

 取り乱すフレイに、ジャンは沈黙するしかなかった。彼の不殺主義がサイ戦死という結果になったのだから。

「フレイ! 上官よ」
「関係ないわ! どうして敵を殺さないのよおぉっ!」

 信じられないほどの力を込めて暴れるフレイ。それでもセイラは彼女を後ろから抱きしめ、なだめ続ける。
その光景を誰もが見つめていた。皆かける言葉が見つからないのだ。婚約者がミンチになったと知った彼女に、
何と言えば良いのか。
 暫らくするとフレイは叫び続けるのに疲れたのか、セイラの言葉によるものか、幾分落ち着きを取り戻して
自分の部屋に走り去っていった。

「僕も聞きたいです。どうして敵機を破壊しなかったんですか?」

 彼女が去ると、今度はキラがジャンに問いただした。ジャンの行動はキラから見ても不可解だったからだ。

「……」
「黙ってちゃ分りません! 中尉、答えてください!」
「私の責任だ」
「僕は何で破壊しなかったのかを聞いているんです!」
「それは……憎しみを増やさない為に――」
「貴方は、一体何の話をしてるんですか!!」

 キラは思わず大声を出した。キラでもジャンの言葉は理解できるものではなかったからだ。憎しみを増や
さない為に敵を倒さない。その結果がサイの死なのだから。

「いい加減にしろ!!」

 再び騒然となるところにレナが止めに入る。

「ヤマト准尉、貴官は戦闘により負傷している。今すぐ医療室へ行け」
「イメリア大尉、僕は……!」
「これは命令だ、准尉!」
「でも……!」
「アーガイル伍長は死んだ! それだけだ!!」

 結局命令には従ったものの、厳しい一言にキラは心臓を鷲づかみされる思いだった。通路を歩いていると、
サイの顔を思い出す。そして医療室に着くころにはキラも泣いていた。
 艦に暗い影を落とし、アークエンジェルはヘブンズベースへと戻るのだった。






 帰還してから数日後、ヘブンズベースに参謀本部から辞令が届いた。ハルバートン失脚の煽りを受けた人事
異動である。ブルーコスモス派は、ここぞとばかりに主流派の将兵を各地へと分散したのだ。
 ハルバートン提督は、“ビラード将軍に脚を引っ張られ絶望的状況でありながら、多くの味方を助けた功績”
により大将に昇進。アラスカの参謀本部付きとなった。だが、実権は無きに等しい。
 コープマン大佐は准将になり、ヘブンズベース基地司令官になった。今後、この基地は対ジオンだけでなく
対ユーラシア連邦の橋頭堡となる、言わば最前線基地になるだろう。
 他の将兵達も同様に、主流派は体の良い昇進と意味のない転属を受けるのであった。

「教官殿は辞令を貰いましたか?」

 人事局から出たムウは、長椅子に座り辞令を読んでいるレナに話しかけた。アークエンジェルクルーは大半
が現状維持のまま待機を命じられていたが、やはり数人のクルーは転属を余儀なくされたのである。その筆頭
がムウやレナといったエース勢であった。

「ええ、貰ったわ」

 レナが見せた書類は、カルフォニア士官学校教官職と書かれていた。

「元の鞘に納まった形ね。貴方は?」
「同じ。出戻りだ……」

 ムウへの命令は第七機動艦隊に戻ることだった。元々、第七機動艦隊に所属していた彼だが、ヘリオポリス
崩壊後の混乱でアークエンジェルに乗り込む形となったのだ。妥当な人事と言えよう。

「本当は教官職だったんだが、新しいストライカーパックを試すことになった。宇宙専用で扱えるのは俺だけ
みたいでね。それに伴ってドミニオンも上がるらしい。なんだか宇宙でも色々あるみたいだねぇ」

 ちなみにモーガンも宇宙に上がり、エドとジェーンはテストパイロットになる。ゼロは一旦研究所へ戻され、
調整を受けるようだ。その為、彼の乗っていたストライクは新しいパックの稼動試験用に宇宙へと上がる。

「まぁ、頑張りなさい」
「素っ気ないな〜」
「ラミアス大尉に言いつけますわよ」
「な、何でそこで大尉が出てくんだよ!」

 動揺するムウをよそに、レナはあの戦闘での切っ掛けを作ってしまった男に触れた。

「ジャンは?」
「……除隊するそうだ。アイツはもう戦えないだろ」

 ジャン・キャリーの名に、さすがのムウも真面目な顔をした。
 あの後、ジャンは誰にも告げず軍を去った。自分の所為で一人の少年の未来を奪ってしまったことが、彼の
心に深い傷を作った。己の信念であった不殺主義。それがレナが指摘していたことが現実に起きたのである。
正しいものと信じていたからこそ、ジャンは自分の存在意義を無くしたのだ。
 だが、ムウの言葉を聴いたレナは、悲しそうに俯いた。

「辞めることはなかった。アーガイルを殺したのは私なのだから」
「おいおい、お前さんまで自虐かよ」
「ムウ。私はジャンと居たくない為に前線へ出たの。警報が鳴る前に、不殺主義について言い合いになってね」

 下手に敵兵を生かしておいたら危険だ。だからこそ彼女は前線へと赴いた。ジャンと共に中衛を持っても、
彼が敵機を見逃してしまう。見逃した敵機を自分が撃てばいいがそれだけの余裕があるか疑問だった。だから
前線に赴き、一機でも多く敵を血祭りに上げようと考えたのである。

「公私混同も甚だしいわね」

 それもジオンの予想外の強さから実行できず突破を許してしまう。結果的に戦闘中に戦死者が出なかったの
は幸いだったが、逆にそれはジャンの言葉通りの展開が繰り広げられた為、レナの自尊心を傷つけたといって
いい。それに敵新型機の鹵獲もあながち間違いではないのだから。
 しかし、戦闘終了後、あの状況下で反撃をしてくるなど誰が予想しようか。レナは敵機よりも周囲の警戒を
優先していた為、敵の不穏な動きに気付かなかった。切っ掛けはジャンかもしれないが、自分にも責任はある。
レナはそう感じていた。
 重苦しい雰囲気に、ムウはあるお願いをレナに頼んだ。






「オーブに向かえと?」

 私物が片付けられつつあるハルバートンの執務室。そこでナタルは困惑しながらハルバートンに聞き返した。
オーブ代表のウズミが自ら職を辞する際に、今後は連合と関わらないと宣言しているからだ。

「何故ですか? 今更オーブの力を頼ることは必要ないと私は考えますが」
「そうはいかないのですよ、艦長さん。ヘリオポリスがああなったとはいえ、連合とオーブの繋がりが絶たれ
たわけではないのですから」

 彼女の疑問に答えたのは提督ではなかった。丁寧な口調で答えたのは最高級のスーツを着た、見た感じどこ
か軽薄そうな印象を受ける金髪の男だった。

「失礼ですが貴方は……?」
「おっと、これは失礼。自己紹介がまだでしたね。私はムルタ・アズラエルと申します。名前くらいは聞いた
ことがあるでしょう?」
「なっ……!」

 ムルタ・アズラエル。ブルーコスモスの盟主にして、軍需産業連合理事でもある男だ。ハルバートン提督と
敵対する派閥の長が、なぜここにいるのか。そんな疑問に答えるようにハルバートンが口を開く。

「アズラエル氏は、オーブで非公式の会談を行う。その為にアークエンジェルでオーブに行ってもらうのだ」
「公式にはアスハ家。非公式にはサハク家とね」

 オーブの五大氏族の名が出たことに、ナタルは面を食らった。そんな姿がおかしいのか、アズラエルは薄く
笑みを浮かべて彼女の顔を覗きこんだ。

「しかし、僕の乗る戦艦の艦長さんがこんなに若くて美人な人というのは、粋な計らいってやつですか?」

 褒めてくれたようだが、ナタルにとってはあまり嬉しくなかった。今の連合は目の前のアズラエルが主導権
を握っているのだから……。






 サイが死んでから、ヘリオポリス組は静まり返っていた。フレイは部屋に閉じ籠もっていた。キラも友人を
助けられなかった後悔なのか目に生気がない。ミリアリアにカズィも落ち込んでいる。
 ただ、トールだけは少し違った。あの日以来、暇なときさえあれば戦闘シミュレーションを動かしている。

「いよう! 乱入してもいいかな?」

 そんなトールに、ムウは気さくに話しかけた。

「構いません。丁度、手合わせをお願いしようと思ってました」
「おっ! 言うようになったな〜」

 ムウは嬉しそうにシミュレーターに座る。両者とも同じ機体を選択した戦闘はものの2分で終了した。新兵
のトールとエースのムウでは当然の結果と言えよう。

「さすが少佐ですね」
「お前も経験積めばこれぐらい……」
「話はなんですか?」

 全てを見透かしていたかのようにトールは口を開く。

「気付いてたか。実はな、お前の除隊許可書を……」
「少佐、俺は軍に残りますよ」
「……復讐のためか」
「そうです」

 間入れずトールは答えた。その目は何かを決意するような目である。

「フラガ少佐なら分かるでしょう。少佐も仲間の仇を撃つためにMS乗りになったと聞きましたよ」
「誰だよ、話したのは……」
「だったら、俺もサイの仇を取りたい!」
「……そうしたいなら俺も止めはしない。でもな、サイの死の責任をお前が背負うことはないんだぞ」

 ムウはトールの言葉を肯定した上で、彼自身が負い目を感じていることに触れた。
 トールはずっと己の無力さに自分を責め続けていたのだ。あの時、自分が、自分だけが足手まといだった。
実力はキラたちに敵わないのは当然だ。それだけならこれだけ後悔することはなかった。しかし、同じ境遇の
サイにも劣っていたらどうだろう。事実、あの戦闘でのサイは、支援側として十二分の働きをしていた。母艦
の守りはもちろん、ジャンのカバーも忘れなかった。
 それに比べてトールはどうだろう。敵機が近づくなかで手柄を焦り単身で突撃しただけだ。相手が手を抜か
さなければ一刀の元に切り捨てられていただろう。

「でも、俺が不甲斐ないばかりに……」
「なあトール。コイツは教官の請負なんだが――」

 ムウの言葉を聞いたトールの目から涙がこぼれる。自分が今まで抑えていた感情が溢れ出たのだった。






 その頃レナはキラの部屋に来ていた。ムウの頼まれ事とは、ふさぎ込んでいるキラへの叱咤だったのである。
部屋に入ると、彼はレナが来たことに驚きつつも、彼女の気遣いに心に答えるべく話を始めた。が――

「僕の、僕の所為なんです」

 第一声がこれである。ヘリオポリスから今日まで、キラは友人を守るために戦っていた。なのに守ることが
できなかった。自分がもっと上手く戦っていたら。あの指揮官機を取り逃がさなければ。サイは死ななかった
かもしれない。キラもトールと同様、自分を責め続けていたのだ。
 そんなキラの愚痴を黙って聞いているレナ。しかし、あまりにも情けない姿に我慢の限界が訪れた。

「これでは死んだアーガイルが浮かばれないな」

 イラついたレナは、キラに痛烈な一言を浴びせる。

「いい加減にしてもらいたいわね。コーディネイターの自意識過剰は!」
「ッ!!」
「キラ・ヤマト。ナチュラルを見下している貴方が奇麗事を吐かないでちょうだい!」
「ち、違う。僕は……!」
「違わないわ。『強者であるコーディネイターの僕が、弱者であるナチュラルの友人を守らなければならない』、
そう考えているのでしょう?」

 レナの問いにキラは黙り込んだ。確かにキラは自分がコーディネイターだからMSに乗り仲間を守らなくて
はならないと考えていた。しかし、それは友人は弱いから自分が守ってやらなくてはいけないという意味にも
なる。どのように好意的に考えても本質はそこに行き着く。レナの指摘は図星だった。

「質問を変えましょう。貴方にとって、コーディネイターとナチュラルは“等しい”存在なの?」
「そ、それは……」

 ――ナチュラルがコーディネイターには勝てない。
 それがキラの本音だ。キラでなくてもそう思うだろう。数値上の能力はコーディネイターの方が上なのだ。

「いいことを教えてあげるわ。遥か過去から差別や偏見は存在するの。男と女。白人と黒人。そしてコーディ
ネイターとナチュラル。皆は口には出さないけど誰もが差別しているの、貴方も含めてね」

 レナは軍に入ってから差別を受けていた。「女にパイロットは務まらない」、「女では無理だ」、そんな声を
周囲から言われ続けてきたのだ。確かに女性がパイロットになるには並大抵の努力では難しい。

「もし、それを認めたくないのなら。つまらない奇麗事はやめなさい。私はコーディネイターが嫌いだけど、
軍人として差別したことは一度もないわ!」

 MSを動かすということは、急激なGに耐えることを意味するからだ。つまり、筋肉の付きやすい男が優先
される。それだけ女性には難しい道だが、彼女は見事にパイロットとなった。

「兵士が死ぬのは当たり前よ。だけど問題なのは死ぬことじゃないわ。“何のために戦ったか”が大事なのよ。
アーガイルはジャンを守るために自分ができる行動をしたの」

 しかし、そうしても差別はなくならない。レナが女であるかぎり、無くなりようがなかった。

「お前もケーニヒも、死んだアーガイルも私の生徒であって部下よ。だから貴方も貴方の仲間を認めなさい。
それでも彼らに背を預けることができないのなら――」

 だから彼女は自分の教え子に平等に接することを心がけていた。

「――軍人を辞めなさい」

 自分が伝えるべき最後の言葉を言い彼女は部屋を出た。キラは放心し、扉をいつまでも見つめていた






 アークエンジェルの自室でフレイは電話をかけていた。サイを殺したジオンへ復讐する為に、自分に何かで
きないか考えたとき父ジョージのことを思い出したのだ。外務次官である父なら何か手助けをしてくれるかも
しれない。だが――

『何を言っているんだ! そんなことはできない!』

 ジョージの答えは当然“NO”であった。

「パパどうして!? サイはジオンに殺されたのよ!」
『……サイ君のことは残念だった。しかし、それとこれは別だ』
「でもッ!!」
『いいかいフレイ。大西洋連邦の対ジオン政策は対話路線になる』

 ――ジオンと対話ですって?!
 フレイはジョージの言葉に自分の耳を疑った。

『これ以上、あの国と事を構え続けてもメリットはないからね』
「何よ、それ……」

 それが事実だとすればサイの死は一体何だったのだ?

『兎に角、アークエンジェルはオーブを目指すのだろう? 途中、アラスカで降りて……』
「冗談じゃないわよ!」

 逆上したフレイは受話器を降ろした。髪は乱れ、青ざめた顔には放心した表情が浮かんでいる。かさついた
唇が動いた。その口から漏れたのは、地を這うようなかすれ声だった。

「――このままには、しないわ……」