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Zion-Seed_51_第40話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 17:57:09

 アークエンジェルの格納庫に巨大な巨人が鎮座していた。ストライク、イージス、それに105ダガーである。
其処ではマードックら整備班が右往左往していた。彼らの近くにマリューもいる。
 そんな格納庫に人影が動いた。真っ赤な髪をなびかせた彼女は物陰に息を潜めながら周囲を確認する。整備
班はイージスの整備に力を入れていた。変形機能を持つイージスは駆動系に負荷がかかる所為だ。ストライク
と105ダガーの周囲には人はない。

「キラのじゃ動かせない。トールの機体にじゃないと……」

 呟いた彼女――フレイはそっと、105ダガーのコックピットへ足を踏み入れた。ハッチを閉じ、OSを立ち
上げる。モニターに光が入り、計器が表示される。彼女は心の不安を振り払うようにレバーを傾けた。すると
105ダガーがゆっくりと動き始めた。

「ちょっと! どういうこと!?」

 105ダガーの駆動音に初めに気付いたのは意外にもマリューだった。マードックは彼女の叫び声に何事かと
振り向くと、105ダガーがキャットワォークを破壊しているではないか。可動式とはいえ乱暴に扱ったおかげ
で根元から折れ曲がっている。

「おい。何だってんだ! いったい誰だ!?」

 動きから搭乗者がトールでないことに気付いたマードックが怒りの声を上げる。それでも105ダガーは動き
続ける。ナチュラル用OSのおかげで動きは滑らかだ。だが動かし方を知らないのかそのまま直進、歩き続け
壁に激突した。当然、機体が横転したのは言うまでもない。

「……あちゃあ〜っ」
「私のMSがっ!」

 マードックは顔を覆い、マリューは持っていた書類をクシャクシャにした。
 アラスカに入る二日前の出来事である。






――――第40話






 アークエンジェルを降りる乗員が艦外に降りるタラップに集っていた。ムウにレナ、クリス、フレイの4人だ。

「短い時間でしたけど、この艦ともお別れね」
「記念写真の一つでも取りたい気分だな」
「フラガ少佐。学生の旅行ではありませんのよ」
「いいじゃねえか。青春時代を思い出す〜♪」
「空しくありませんの」
「…………空しいです。はい」

 三十路が近いムウとレナが共感しながら艦を降りていく。

「では、ラミアス大尉」

 マリューはクリスを見送っていた。折れた腕を吊る姿が痛々しい。彼女はアクタイオン・インダストリー社に
出向することになった。アクタイオン社は地球連合だけでなく、ザフトとも取引をしている民間企業だ。主に
戦闘車両やパワードスーツを主な商品としている。最近はXナンバーの強化改修を進めており、そんな関係で
クリスが出向くことになったのである。

「クリス、向こうでも元気でね」
「最高のMSが出来たら、真っ先にアークエンジェルへ回しますよ」
「期待してるわ!」

 クリスは冗談のつもりだったが、目を輝かせながら新型を期待するマリューに些か引いてしまう。送ったら
機体をさらに改造しそうな勢いだ。別れ挨拶もそこそこにクリスは急ぎ早にアークエンジェルを後にした。
 さて、最後に残ったのはフレイである。彼女はアラスカに着くまで自室で謹慎させられていた。

「大丈夫?」
「私は大丈夫よミリィ。ありがと」
「フレイとはここでお別れか」
「パパの差し金よ。気にすることないわ」

 フレイと楽しげに談笑するミリアリア。他の面々、特にキラとトールはサイのこともあってか黙ったままだ。
そんな二人に気付いたのか、彼女が話しかける。

「二人も気にしないでよ」
「で、でもフレイ。サイのこと」
「それにダガーの件……」
「いいから。私も自暴自棄になったけど、今はもう大丈夫!」

 力強いフレイの物言いに、マリューは顔を曇らせた。依存心が強いこの少女が、仲間たちとの別れに抵抗を
みせていない。それどころかサイの戦死から立ち直っている。これだけを見れば良い兆候だが、マリューには
一つだけ気がかりなことがあった。彼女の着ている服が、見習いの軍服ではなく正規の白い軍服であったのだ。
 婚約者を殺された憎しみから彼女は復讐へと走るのではないか。狂気に犯された人間は目的を達成するまで
あらゆる手を尽くす。笑顔のまま遠ざかるフレイの姿からは、その様な憎悪を感じられない。それでも一応の
不安を残すマリューであった。






 アラスカに着いたアークエンジェルだが、艦長のナタルはフレイの105ダガー無断搭乗に頭が痛めていた。
格納庫での出来事なので緘口令を引き、場にいたマリューやマードックと口裏を合わせたが、勘弁して欲しい。
艦橋でただ一人詰めていたナタルはため息を吐きながらうなだれた。

「見送りには行かないのですか?」
「……り、理事!」

 後ろからの声に振り向くと、そこにはアズラエルが立っていた。突然のアズラエル襲来に、慌てて敬礼する
ナタル。アズラエルはそれは自粛させると艦橋内を見渡しながらナタルに向き合う。

「なるほど。いい船だ」
「理事、このような所に何を……」
「艦内見学ですよ。人の少ない方が好きなのでね」
「は、はあ……」

 どうやらこの人物はかなりの気分屋らしい。

「しっかし、アレですね。お役所仕事ってやつですか? 何で人事異動の為にアラスカまで来なきゃいけない
のですかね? 僕だったら面倒なことははぶいちゃいますが」
「命令ですから」
「効率悪いですね。……それはそうと、アルスター二等兵の件ですが」

 フレイのことを振られ、思わず固まってしまうナタル。

「僕が格納庫の一件を知らないとでも?」

 緘口令を布いたのに、何故この男はフレイのMS無断使用を知ってるのか。どんなに考えても答えは見つか
らない。ナタルはあきらめて頭を下げた。

「……私の責任です。言い訳はしません」
「いやいや、いい対応でした。褒めてあげます」
「へっ?」
「彼女の父親は私の知人でしてね」
「アルスター外務次官と?」
「おや、知っていましたか。彼は、所謂“同志”でしてね」

 同志――つまり同じブルーコスモスを意味する。

「僕がこの艦に乗ると知り、連絡をしてきまして……。まぁ、そういう訳です」
「彼女は、これから何処に?」
「ジョージさんは除隊させると言ってましたが、あの一件を見る限り彼女は残るのを希望しそうですねえ」

 なにやら含みのある言い方をするアズラエル。彼の目はナタルではなく、何か別のものに向けられていた。






「コーディネイターのキラ・ヤマト准尉?」

 フレイたちとの別れの後、部屋へ戻る途中声をかけられてキラは振り返った。そこには金髪の男が軽蔑する
ような眼差しをキラに向けていた。

「ムルタ・アズラエルと言います」
「ブ、ブルーコスモスのっ!!」

 キラは体を凍りつかせた。なんせブルーコスモスの頂点に立つ男が目の前にいるのだから。

「驚きましたか? まさかブルーコスモスの盟主であるこの僕がコーディネイターの君に会いに来るなど」
「え、ええ……いや。はい」
「言っときますけど、君を殺すつもりはありませんよ。ナチュラルの僕が、コーディネイターの君に敵うはず
ありませんからねえ」

 それもそうだ。アズラエルは見るからに軍人というタイプじゃない。

「どうして僕に会いに……」
「裏切り者のコーディネイターである君が、プラントに銃を向ける気分がどういうものか聞きたくなりまして」
「うらぎりもの……!?」
「違いますか? 君はオーブへ戻る機会が合ったに連合軍に加わった。つまり同胞を裏切った訳だ」
「ち、違う……僕は……っ!」

 これまでの人生で、自分がコーディネイターだと強烈に意識したことはなかった。自分はコーディネイター
でありプラントと戦っている。ジオンにも多くのコーディネイターがいる。考えてみれば分かることだった。

「僕は、友達の為に……」

 キラは当然だがアズラエルの言葉を否定する。しかし、レナの言葉が彼の口を噤んでしまう。ナチュラルの
友人を守る為に軍に残った事実に負い目を感じたのである。

「友達の為に……ね」

 アズラエルは戸惑うキラに訝しむように見る。

「わかりませんね。どうして君の親は、君をコーディネイターしたんですかね」

 キラはアズラエルの言葉にハッとした。そういえば両親は、何故自分をコーディネイターにしたのだろう。
そんな疑問と共に、盟主であるアズラエルがコーディネイターにどんな感情を持っているのか聞きたくなった。

「……一ついいですか」
「何でしょう」
「貴方はコーディネイターをどうするつもりなんですか?」
「この世から、その存在自体を消し去ります。全ては青き清浄なる世界の為に、ってね」
「そんなことは不可能だ!」
「砂時計を潰せば可能です」
「プラントを潰してもコーディネイターは滅びませんよ」

 プラントにコーディネイターが数多くいるのは確かであるが、全てのコーディネイターが集まっているわけ
ではない。コーディネイターを受け入れてる国は他にもある。キラは戦争に巻き込まれないようにオーブへと
渡った。ジオンに行った者もいるだろう。アズラエルの、プラントを潰せばコーディネイターが滅ぶ、という
話は到底信じられない。
 キラの反論にアズラエルは嫌らしい眼でキラを見た。

「どうしてそこまで!?」
「キラ・ヤマト、質問をしましょう。オーブに住むコーディネイターはナチュラルよりも多いのですか?」
「一体何のことを……?」
「答えてください」
「少ないですけど」

 オーブはコーディネイターを受け入れる国ではあるが差別や偏見が無い訳ではない。実際に自分がコーディ
ネイターであることを隠している人も多い。キラ自身もコーディネイターであることを隠してヘリオポリスと
移り住んでいた。ばれたら周囲の自分を見る目が変ることは明白だし、それにブルーコスモスに見つかる恐怖
もあった。もっともトール達は例外だったが……。

「ならば、オーブに住むコーディネイター同士が結婚をする確率はいか程で?」
「もちろん低いですけど、それに何の関係が……!?」
「プラントがあればコーディネイターが集まる。コーディネイターだけの国ができればコーディネイターしか
生まれない。逆にナチュラルとコーディネイターが混ざった国家ならばコーディネイター同士の結婚の確率は
少なくなる。ハーフは増えるでしょうがね」

 現在のプラントは第二世代以降の出生率が問題になってはいるが、それも何れは解消されるかもしれない。
アズラエルはコーディネイターの集まることでコーディネイターが増えることを危惧していた。

「だったら何で連合はコーディネイター市民を受け入れないのですか? 矛盾してますよ」
「戦前は、まだコーディネイターへの差別が弱かったのです」
「えっ?」

 コーディネイターへの差別は、S1型インフルエンザの関係でコーディネイターに対する感情は悪かった。
決して弱いものではない。

「何を言って……」
「当時はブルーコスモスの規模も小さかったんですよ。だから散発的なテロしか起こせなかった」

 テロという言葉を平然と発するアズラエルにキラは驚愕する。

「でも、今日の反コーディネイター感情は最高潮。ブルーコスモスはスローガンも重なって入門者が鰻上り。
軍への志願も増え、合法的に戦争ができるのです。いやはや、これでテロなんて起こす必要も無くなりました。
これも連合とジオンの戦争に介入したプラントが、ニュートロンジャマーを地上に降らせてくれたお蔭です」

 エイプリルフール・クライシスによる混乱は記憶に新しい。二次、三次被害を含めれば、ジオンのコロニー
落としを上回る死者が出ているだろう。

「そしてこうなればコーディネイターの進む道は自ずと限られてきます。一つ目は自分をナチュラルと偽って
連合に残ること。二つ目は中立国への亡命。この二つはコーディネイター同士が結ばれる確率は低いのでこれ
以上数が増えることは無い。三つ目、ジオンへの亡命。君も知るように公王デギンは元ブルーコスモスの重鎮、
コーディネイターを受け入れてはいるが製造は禁止してる、よって数は増えない。四つ目、プラントに亡命。
コーディネイターが集まることでねずみ式に増える可能性はあるが、連合がまとめて殲滅するので問題なし」
「あ、貴方はっ!!」
「ねっ! プラントという拠り所を潰してしまえばコーディネイターは自然消滅するんですよ。地球の各国は、
その製造も禁止しています。これ以上コーディネイターが増えることはありません」

 強硬派のイメージを持つアズラエルだが、腐ってもブルーコスモスの盟主である。過激派と穏健派、双方の
主張をうまく扱っているようだ。プラントの殲滅とナチュラルへの回帰を使い分けている。

「正気ですか!? プラントには民間人もいるんですよ」
「どうやら君は、コーディネイターが憎悪された理由を考えたことがないようですね」

 やれやれといった具合にアズラエルが両手を広げる。

「君はオデッサで友人を亡くしたそうですね」
「いきなり何です!」

 アズラエルは人が嫌がることを平然と言う。キラは気分が悪くなった。

「友人を殺したジオンを君は許せますか?」
「それは……」

 アズラエルの問いにキラは言葉詰り、結局は首を振った。キラはサイを殺したパイロットを許せないでいる。
パイロットは既に死んでいるので許すも何もないが、キラ自身の感情がジオンを許さないのだ。

「では、君の友人を殺したのがジオンではなくザフトだったら」
「あ……」
「多くのナチュラルはエイプリルフール・クライシスで家族や恋人、友人を亡くしたのです。君と同じように」
「でも、それは血のバレンタインが……」
「ジオンと同盟を組んだ時点で攻撃対象となるのは当然でしょう。第一、エイプリルフール・クライシスの被害と
比べられますか? 向こうは万単位ですが、こちらは億単位で死者が出ているのですよ。さらに言えばザフトは、
中立国にも被害を与えている」

 民間人を巻き込んでいるのはプラントも一緒だと捲くし立てる。

「多かれ少なかれ、君の住んでいるオーブにも被害が及んだでしょう?」
「……」

 返す言葉もなかった。実際そうなのだから……。






 彼女は生まれて初めて目にするものを自宅の庭で見た。巨大な艦艇がオーブの軍港に入っていく光景である。
白と赤が基調となるその軍艦はオーブの護衛艦に随行する形で港に向かっていく。彼女は慌てて双眼鏡を取り
出して艦を確認した。

「連合軍のマーク」

 走って家の中からカメラを取ってくると何度もシャッターを押す。再び家の中に入ると

「はじめて見る……軍艦」

 呟きながら今見た艦艇についてキーボードを走らせる。

「一〇七号。以後偵察に入ります」

 風船の先端に情報を括りつけると彼女はそれを空に飛ばした。