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Zion-Seed_51_第43話

Last-modified: 2007-12-15 (土) 21:01:51

 訓練を続けていたトールは警報を聞くとMSシミュレータから飛び出し、急いで愛機105ダガーに走った。
その際、昇降機の近くに居たマリューが状況を教えてくれる。

「伍長、敵はまだジオンのMSよ。今のところ一機しか姿が見えないけど、単機で行動するのはありえないわ。複数いると考えてちょうだい」
「ジオンですか……」

 意味有り気に答えるトールの声は、気のせいか低いものだ。

「ええ、水陸両用MS“ゴッグ”。地上戦に長けているとは言えないけど、相手はジオンよ。油断しないで」
「分ってます。オデッサで高い授業料を払いましたから」
「……そうね。武器はソードでいくわよ」
「了解」

 コクピットに乗り込み、機体を起動すると、何か思いついたように言った。

「ソード装備のままポッドを持たせることは出来ますか?」
「あん……? ちょっと待ってろ!」

 マードックはトールの言葉に嫌な顔一つせず、作業に取り掛かった。
 ポッドとはGAU8M2-52mm機関砲ポッドのことで、105ダガーが携帯しているアサルトライフルである。
ソードにはポッドは装備されていないが、トールの場合は接近戦に慣れていないため、無理にでも射撃武器が
欲しかった。エールやランチャーで出撃してもいいが、ビーム兵器主体では水中戦になったとき不利になって
しまう。それにトールがビーム兵器より実弾兵器の方が扱いやすいと気付いたこともあった。
 ビームライフルは単発式。実弾兵器のように弾倉交換もできない。バッテリから徐々にエネルギーが補充さ
れてはいるが、その分の機体の稼動時間も減ってしまう。また問題なのはパイロットの技量だ。連射できれば
弾幕が形成でき、まぐれ当たりも期待できるが、単発式のビーム兵器では不可能。多数のMSがあれば問題は
無いが、今回はそうも行かない。
 結局のところ、実弾兵器の方がエネルギー消費が少なく、その分のパワーを機動性に振り向けられる。当に
ソードに適した装備と言えよう。

「出来たぞ! ただし水中では使えないからな!」

 マードックの指示でトールは機体を格納庫から出した。周囲の状況を確認すると、やや太った流線型のMS
を映し出した。あれがゴッグなのだろう。腹部からのメガ粒子砲でドックにある建物を破壊している。

「ケーニヒ伍長。聞こえるか!?」

 スクリーンの中にはナタルの顔が映っている。

「艦長。敵は1機ですか?」
「いや。ソナーにはもう1機確認できる」
「……それだけですか?」

 たった2機でオーブ本土を攻撃するなど、これまでのジオンの戦術からはありえないことである。

「現状ではだ。増援の可能性もある」
「了解」
「ヤマトとマスも直に出させるからな」
「……」

 トールはナタルの言葉に答えない。無理をするなと言われても、サイの仇が取りたい彼には出来ない相談だ。
 ゴッグがまだこちらに気付いていないのを確認する。そしてトールはポッドの設定を操作し、フルオートに
セットした。ゆっくりとポッドを構え、目標をセンターに捉える。

「これがサイの分だ!!」

 叫び声と共にゴッグ目掛けて引き金を引いた。

――――第43話

 ミハルの家に泊まることにしたミリアリアは、その一室で眠りについていた。だが、そんな彼女をいきなり
とんでもない事態が襲う。大きな爆発音が鳴り、家が大きく揺れたのだ。

「な、何っ!?」

 驚いたミリアリアは飛び起きる。何事かと窓の外を見ると、港の方角が赤く染まっていた。

「これって、攻撃!?」

 もっとよく見ようと部屋を出る。するとリビングにはミハルが居た。

「ミハルさん……って、それあたしの服!?」

 ミハルはミリアリアが持っていた連合の服を着込んでいた。
 慌てて逃げ出そうとする彼女をミリアリアが止める。

「ちょっと待ちなさいよ! あたしの服着て何処に行くつもり!?」
「悪いとは思ってるけど、この服は借りてくよ。宿泊料と思ってくれればいいからさ」
「質問に答えて。何処に行くつもりなの!?」
「見逃しとくれ」
「そんなの説明してくれないと出来ませんよ」

 ミリアリアの追求に観念したのか、ミハルはゆっくりと事実を語り始める。

「あんたの乗ってた船で情報を集めたいんだ」
「どうして?」
「ジオンに売ればいい金になるからね」
「あ、貴女スパイだったの?!」

 ミハルは初めから情報目的で自分に近づいたことになる。
 自分は利用された。そんな思いを懐く一方でミハルがスパイであることが信じられない。

「纏った金が欲しいんだよ」
「そんなことしなくても真っ当に働けばいいじゃない!」
「あんたには分からないよ! コーディネイターを受け入れたこの国が、どんな状況になっているか!」

 ミハルから語られた言葉はミリアリアを驚かせるものだった。彼女は難民で戦火を逃れる為にオーブに来た。
しかし、両親は碌な職に就くことができなかった。いい所は皆、コーディネイターを雇った所為である。

「ニュースじゃ政府がどうにかするとか言ってたけど、今日までどうにかなった日なんて一日も無いよ」

 戦争を避ける為にオーブへと来ても、まともな職にありつけない。同じコーディネイターを受け入れている
ジオン公国はコーディネイター自体を管理・運営しているのでこのような問題は起きていないが、オーブはただ彼らを受け入れてるだけである。ナチュラルの難民は職を探すのが困難になるのは必定だった。

「結局、アタシの親は無理な仕事して死んじまった。弟たちはまだ幼いから私が働くしかないのさ。初めは姉弟暮せる分で良かった。でも気付いちまったんだ。ナチュラルだけの国家に移住すれば、少しは真っ当な職にありつけるかもしれないってね」
「でも、戦争が嫌でオーブに来たんでしょう? ここには平和があるわ」
「ハッ、平和の国って言っても結局はこれさ。理想はでっかいけど、そのでっかい理想ばかり見て小さな問題
を見ようともしない。これなら戦争のある国の方がまともな暮らしが出来るってもんだ!」
「でも、それでアークエンジェルを……っ!」
「うわあーっ!」
 
 止めるミリアリアの足に小さな影が飛びついた。それはジルであった。彼はミリアリアの足にしがみ付き、
放そうとしない。この隙を突いてミハルは彼女を振り払い、家を飛び出した。

「あんたは、もうあの艦と関係が無いんだ。どうなろうと関係ないだろう!」
「関係ないですって? 関係あるわよ。あたしはアークエンジェルの通信士なんだから!」

 ミリアリアも直に追おうとするが、ジルが離れようとしない。

「ジル君、放して」
「ダメだ……姉ちゃんに言われたんだ」

 子供の力だが必死になっている。それだけ姉思いの少年なのだろう。力任せに振り払うことは出来る。だが、
それを行うには忍びなかった。ミリアリアは彼の肩に手をかけ、優しい声で話しかける。

「ジル君。貴方のお姉ちゃんは悪い人に騙されてるの」
「そんなはずないよ!」
「いいえ。貴方も気付いてるでしょ?」
「ううう……」

 ジルの反応にミリアリアは確信を得る。幼い子供は感受性が強い。ミハルのよそよそしい態度から、何か
とんでもないことをしているのに、ジルは気付いてたのだろう。

「貴方だってお姉ちゃんが悪いことしたら嫌でしょう?」
「……うん」
「だからお願い。私にお姉ちゃんを呼び戻させて」

「とは言ったものの……」

 ミリアリアは足を止めて、滴り落ちる汗を拭った。肩から息をし、疲労感で全身が重い。あれからミハルを
追いかけてはいたが、彼女は自転車で行動している。ミリアリアの足では、とても追いつくことはできない。
 さらにアークエンジェルのドックは、ミハルの家から数キロもあるのだからたまったもんじゃない。

「港まで、後どれだけ歩けばいいのよ」

 これではたどり着いた頃には、戦闘が終わってしまうではないか。タクシーの一つでも見つければいいが、
時間は深夜の上に港が攻撃されていては、捉まるものも捉まらない。
 イライラ感が増してきたちょうどその時、聞きなれた声が耳に入った。

「あれ……ミリィ? ミリアリア!?」

 振り向くと、そこには自転車をこいでいるカズィの姿があった。

「カズィ? グッドタイミング!」
「べ、別にアークエンジェルが気になるわけじゃないんだ。ただ……って、いきなり何?」

 ミリアリアはカズィの独白を無視し、自転車に飛び乗る。

「二人乗りはあぶないんだよ」
「いいから、早くドックに向かいなさい!!」

 ゴッグ目掛けてポッドを放ったトールは、一気に距離を詰めようとした。が、ゴッグに命中した弾丸は厚い
装甲に弾き返されてしまう。

「PS装甲……!? いや、ただ単に厚いだけか!」

 一瞬は躊躇したものの、構わずポッドを連射する。たとえ通用しなくても牽制にはなる。敵機を中心に円を
描くようにして機体を動かした。
 105ダガーの存在に気付いたモラシムはメガ粒子砲を撃ち返すが、いとも簡単にかわされてしまった。

「ちょこまかと……」

 52mm弾程度ではゴッグに損傷はつかない。無視してアークエンジェルを攻撃してもよいが、モラシムは
名のあるエースだ。たった1機のMSを相手に背を向けるわけにもいかない。

「大物の前の余興と言ったところか? ストライクモドキ!!」

 モラシムはポッドに躊躇したよう乗機を操作、巧みに105ダガーを誘導した。案の定、相手はゴッグの動き
に自分が押している錯覚を覚え、後を追ってしまう。
 トールは後退するゴックを狙って、慎重な姿勢でマイダスメッサーを投げつけたが、

「しまった。水中にッ!!」

 後ろに倒れるように海中へと身を隠し、それはかわされてしまった。ゴッグの姿は何所にも無い。焦った
トールは不用意にも海に近づいてしまう。この一瞬を狙うように飛び出したゴッグが105ダガーに覆い被さる。

「楽しめたかね? それでは零距離からのメガ粒子砲をプレゼントしよう」

 抱きかかえる体勢の両者。トールは必死になって離れようとするが、ゴッグのパワーにピクリともしない。
足掻くようにイーゲルシュテルン兇鰺霄佑垢襪、52mm弾が通用しない相手に40mm弾など無力である。
 万事休す――と思われたその時、ゴッグの腕にはパンツァーアイゼンが食い込んだ。伸びたアンカーの先に、キラの乗るソードストライクが佇んでいた。

「トール! 今のうちに!!」

 キラは自身に注意を向けるべくアンカーを引くが、やはりゴッグのパワーには負けてしまう。それでも僅か
に力が緩み、トールは脱出に成功する。

「やるではないか。私を拘束するとは……。だがっ!!」

 綱引き状態のまま体をストライクに向けると、そのままメガ粒子砲を発射する。キラはアンカーを直に外し
回避するが、そこを新手に漬け込まれた。海中から飛び出たアッガイがストライクよりも早くロケットを撃つ。
PS装甲のためダメージにはならないが、完全に虚を突かれ、次の一撃をまともに受けてしまうことになった。
 俊敏な動きで接近したアッガイは、アイアンネイルを顔面に叩き込み、そのまま暗い海中へと引きずりこむ。
ストライクのコックピットでは、必死で機をコントロールするキラがいた。
 超伝導電磁推進を使えば水中での稼動も可能なストライクだが、あくまでも動かすことが出来る程度である。
本格的な水中用MSを相手にすることは出来ない。警告音が鳴り響く中で正面モニターに目をやると、猛然と
突っ込んでくるアッガイが見えた。

「体当たりする気か!!」

 シュベルトゲベールを構えて衝撃に備えたが、意外なことにアッガイの体当たりは大した物ではなかった。
肩透かしを食らうキラだったが、敵機が真正面にいることに変わりはない。
 気を引き締めて相対しようとした刹那、敵機から通信が入った。

「キラ。お前はキラなのか!?」

 始めはそれが誰だか分からなかった。まさか敵から通信に自分の名を聞くなど思いもよらないのだ。まして
ジオン公国に知り合いなどいない。呼びかけられるなどありえない。
 暫し混乱するキラであったが、注意深く通信を聞くと、声の主の正体が明確なものになった。

「ア、アスラン?!」
「キラ。やっぱりキラなんだな!」

 ザフトである筈のアスランがジオンのMSに乗っていることに、キラは今一度混乱をきたす。

「キラ、俺と一緒に来い!」

 困惑するキラに気づいていないのか、アスランはやっと会うことのできた親友に今までの思いを捲し立てた。

「コーディネイターのお前が地球軍と一緒にいる理由が何処にあるんだ、キラ!」

 この行動は襲撃がザフトの仕業であることを暴露しているようなものだが、アスランはキラが自分の説得に
応じてくれるものと何の確証もなく信じきっている。
 一方のキラは混乱と驚きに包まれるが、アスランの一言が彼の中の何かを弾けさせた。

「アスラン。君は――」
「お前は連合の人間に騙されてるんだ。だから……」
「――君は何を言ってるんだ!!」
「!?」

 アスランの自分勝手な物言いに、キラは己の内に潜んでいた怒りが爆発したのだ。唯でさえヘリオポリスを
見捨てられたことで気が高ぶり、自分の感情を何処にぶつければいいのか悩んでいた。そんな時にアスランが、ヘリオポリスの時と同じように攻めてきては、

「こうなったのも全部、アスランの所為じゃないか!!」

 火に油を注ぐ行為であるのは明白である。
 元を正せばザフトがヘリオポリスに攻めてこなければ、キラは軍に入って戦うなんてことはしない筈だし、
皆も巻き込まれなかった。そしてサイも死なずにすんだ。

「キラ。やめ……うおっ!!」
「君はヘリオポリスを攻めても、まだ攻め足りないのかーっ!!」

 アスランが必死に何かを言おうとするが、キラはそれに取り合わない。憤怒と失望とが入り混じったキラは、自分でも何を言ってるのか分からなくなっている。それでも感情が彼の操縦から迷いを振り払い、アスランに対して攻撃をするという行為に抵抗がなくなった。
 アスランはキラが本気で攻撃を仕掛けてくることに絶句しながらストライクの猛撃をかわしていた。

 同じ頃、パナマでは――

「なあ」
「あん?」
「俺たちは何時まで待てばいい?」
「さあな」
「もう3日だぞ。何時になったら宇宙にいけるんだ」

 愚痴りながらモーガンにチェンジを要求するムウ。二人はパナマ港に来てから、ずっと宇宙への便が空くの
を待ち続けていた。ジオンとザフトにバイコヌール、カオシュン、ビクトリアの基地を落とされたことにより、連合に残されたマスドライバーはパナマのみ。このマスドライバーから、壊滅した宇宙艦隊の再建のために、膨大な数の艦艇が打ち上げられている。

「ハルバートン提督の失脚から、かなりの人事異動もしたしな」
「シャトルで行けないのかよ」
「ドミニオンはマスドライバーじゃないと無理だろ」

 このような後が支えてる状況では、ムウたちが上がるのはもう少し先になるだろう。

「くっそー」
「まぁ、気長に待とうや……賭けるか?」
「当然!」

 そう言ってムウが出したカードはフルハウス。どうだとばかりに胸を張るムウを見ながら、モーガンは余裕
の笑みを浮べカードを広げた。同位札が4枚揃っている。

「悪いな。フォア・カードだ」
「…………絶対、イカサマしてるだろ。アンタ」
「5回連続で負けたからって、イカサマはないだろう」

 と言いながらも、彼の尻ポケットには数枚のカードが見え隠れしているのだった。