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Zion-Seed_51_第47話

Last-modified: 2008-01-29 (火) 21:38:54
 
 

イザークはデュエルの中で、その通信を聞き、耳を疑った。

 

<ザフト、連合、両軍に伝えます。戦闘を中止してください!>

 

発進元は、突如上空から舞い降り、戦場に乱入し、エネルギー砲を降り注いだ見慣れない機体だった。一見
してXナンバーと似た形状から、連合のMSと疑ったが、よく見るとIFF(敵味方識別)は味方を表示している。
味方ならばいいが、この状況で撤退を打診――それも両軍に対して行う相手に、イザークは不信感を持つ。

 

「貴様、所属とIDは?」
<――両軍とも直ちに戦闘を停止してください!繰り返します――>
「話を聞けっ!?何処の部隊の者だと聞いている!!」
<僕は味方です。今すぐ撤退をっ!>
「ふざけるなよ!そんな事は出来ん!」

 

作戦の目的はマスドライバーの破壊だ。ここでザフトが逃げ出したら作戦自体が頓挫してしまう。破壊を
確認するまでは撤退など出来はしない。

 

「目標を破壊するまで撤退はあり得ん!!」
<……マスドライバーが破壊されれば撤退するんですね>

 

それだけを確認すると、謎の機体は体をパナマ基地へと向ける。

 

<では、僕がマスドライバーを破壊します>
「お、おい……!」
<ですから撤退してください>

 

止める声も聞かず、彼――プレア・レヴェリーがマスドライバーを目指そうとした、その時だった。

 
 

――――第47話

 
 
 

「行かせるかよ!!」

 

ムウが叫び、プレアの機体に襲い掛かったのだ。搭乗者が声変わりもしていない子供である事に戸惑うが、
決して攻撃の手を緩めない。何故ならば――

 

「これは!?いや、違う、アイツじゃない!!」

 

プレアから発せられる感覚に、ムウはクルーゼに似たのモノを感じ取ったのだ。

 

「お前、一体何者だ!」
<貴方は!?>

 

プレアも動揺したが、ストライクからのプレッシャーに気を引き締める。ストライクの動きは鋭さがあり、
射撃の精度も徐々に増していく。

 

<どうしてこんな時に……>

 

プレアはムウの腕と、その存在自体に焦り始めていた。まさか自分の“関係者”と出会うなど思いもよらない。
まして、シャアと同じ感覚に目覚め始めているとなると、事情は複雑になってくる。
このSEEDという感覚を持つ人間は選ばれた運命にあると、プレアはマルキオ導師から教えられていた。
そして、SEEDを持つ者に出会ったら、自分達の仲間に引き込む努力をするようにとも教わっていた。戦争
で苦しむこの世界を、救世主である彼らが救うのだと。
教えに従えば、自分はムウを説得しなければならない。説得し、マルキオの元へ彼を導かねばならない。
しかしである。嘗てプレアが出会ったシャア・アズナブルは、自分の考えを全否定した。自身の高い能力を
自覚しているにも拘らず、救世主であることを否定したのだ。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

考えている間にも、ストライクは攻撃を仕掛けてくる。ビームサーベルを抜き放ち、プレアの機体に迫る。
プレアは、その剣撃をあっさりかわし、ムウと距離を取る。

 

<ま、待ってください。僕は……>
「なんだぁ?」
<えっと……その……>

 

ここでプレアは思わず口ごもった。

 
 

――ムウを説得した結果、シャアと同じ反応をしてきたら?
その時、自分はどう答えればいいのだろう。今までマルキオの考えを否定するものが誰もいなかった所為か、
プレアは自身を否定されることを恐れていた。

 

「チィ。何なんだよ、お前さんは!!」

 

業を煮やしたムウが再び斬りかかると、その一撃に気づいたプレアが楽々と剣撃をかわしながら、バランス
を崩したストライクを蹴り飛ばす。

 

<ゴメンなさい。今は話せません!>
「――ッ!?」

 

突き飛ばされ、地面に叩きつけられる寸前、モーガンのデュエルダガーがストライクを受け止めた。

 

「大丈夫か?」
「ああ、奴は!?」

 

空を見上げるがプレアの機体は其処には無い。モーガンが黙って指を刺す方向を見ると、マスドライバーに
向けて飛び去る姿があった。

 

「まずい、マスドライバーに……」
「やめとけ。俺達はここの防衛が優先だ。あの敵は基地守備隊に任せるんだ」
「…………クソッ!!」

 

切り替えるモーガンを尻目に思わずムウは毒づいた。それは自分が動揺し、熱くなったことで、相手に隙を
与えてしまったからだ。そして何より、

 

「しかし、ザフトは子供まで徴兵してるのか?いくらなんでもやり過ぎだろ」

 

その子供にクルーゼに似た感覚を得た事が、彼を一層苛立たせていた。
言葉では言い表せない異様な感覚。始めは、哨戒任務中のクルーゼと戦った頃から異常なほどに感覚が研ぎ
澄まされ始めた。その後は、シャアとの戦闘、オデッサ戦、そして先程のクルーゼ戦で経験し、ソレは自分で
も分かる様になっていた。このどれもは差異があり、似た感覚は只一つも無かった。
ところが、今の機体に乗っていた子供はクルーゼに非常によく似た感覚だった。

 

「キレイなクルーゼ?そんな訳ないだろうし、一体何者なんだよ……」

 

結局、どんなに考えても答えが見つからないので、ムウは考えるのをやめた。

 
 
 
 

同じ頃、戦艦フィッシャーの艦内に侵入したクルーゼは、フレイの案内で格納庫まで辿り着いていた。

 

「ムウめ……」

 

近づきつつある宿敵の感覚に思わず口が滑る。
フレイはいきなりムウの名を呟いたクルーゼを不思議そうに見た。

 

「気にするな」

 

視線をかわしつつ、艦内を見渡す。105ダガーにデュエルダガー、ストライクダガーとMSが並んでいる。
そしてなにやら整備員とMSパイロットらしき人物が、出撃するか否かの言い争いをしていた。大方、血気
盛んなパイロットがザフトの襲撃に熱くなってるのだろう。
耳を澄まして聞いてみると、予想通り「出撃する」「出来ない」の言い合いだ。

 

「敵が来てるんだから、出撃するって言っんだろ!」
「だから、上の許可が下りないと無理ですよ!」
「許可が取れなかったからこうしてお前等に頼んでるんだろうが!」
「我々にそんな権限はありません!」
「一体何を騒いでいる!」

 

聞き覚えのある声に、フレイが顔を上げた。

 

「パパ……」
「ほう、あれが……」

 

面白そうにジョージに注意を払う。確かに自分によく似た声である。フレイが間違える筈だと納得しながら、
一方で自分はあんな親父声なのだろうかと悩むクルーゼであった。

 

「何だ、アンタは一体誰だ?」
「ミ、ミラー大尉、その人は警護対象っ!!」
「……っと、失礼しました」
「構わんよ。焦るのも無理はないが、君達はこの戦争を一刻も早く終わらせる為に必要な部隊だ。こんな所で
戦力を消耗するわけにはいかん」

 

ジョージの物言いにミラーがむっとする。彼はオデッサ作戦後、パナマに配属され、この基地で教官として
部下を鍛えていたのだ。その部下たちが前線で戦っている。彼らを助けたい気持ちがジョージに喰らい付いた。

 
 

「しかし、今この艦は無防備です。出撃の許可を!」
「ザフトが来るまでに、この艦は宇宙へ上がるから問題ない」
「くっ。冗談じゃありません。仲間が目の前で戦ってるんだ!」
「小事の前の大事だ。それよりも私の娘を探してくれんか?先程から姿が見えんのだ」
「ふ、ふざけんな!それこそ小事じゃねえか!!」

 

戦っている仲間を置き去りにする考え方に隊員が反発する。ジョージもフレイを悪く言われたと思ったのか、
冷静さを失い血走った目で隊員に飛び掛った。

 

「貴様ぁぁぁ!私の娘を、小事扱いするなああぁぁぁ!!」

 

父親の痴態に頭を抱えるフレイ。

 

「パパ……orz」
「あれがお前の父親か。随分と個性的な性格の様だな」
「やめて、皮肉にしか聞こえないわ」
「フッ、今のうちにMSを頂くとしよう。来い!」

 

そう言ってフレイの手を掴むと、近くにあった搭乗用リフトに乗った。騒いでいる連合兵に気づかれない様、
リフトを静かに上昇させる。リフトはものの数秒で上昇すると、105ダガーの腹部付近で止まる。この機械音に
整備員の一人が気付いた。女性士官を連れた男がハッチに手をかけて、乗り込もうとしている。よく見ると、
ザフトの制服を着ているではないか。

 

「おい、何をしている!!」

 

騒いでいたジョージ達も、叫び声のただならぬ雰囲気を察知する。
慌て始める彼らを尻目に、クルーゼはコックピットに腰を下ろすとフレイに目をやった。

 

「行け」
「へっ……?」
「コイツさえ頂けば、お前は用済みだ。行ってしまえ」

 

――どうしよう。
意外な言葉に戸惑いながら、フレイは迷っていた。確かにこのまま離れれば安全だ。しかしそれは父と共に
ジオンへ行き、講和を目の当たりにする事になる。サイを殺したジオンに……。

 

「精々パパに甘えることだな」

 
 

クルーゼがハッチを閉めようとした瞬間。フレイは意を決してコックピットに飛び込んだ。

 

「きゃあ〜。誰か助けて〜」
「ふぐっ!!?」

 

わざとらしい悲鳴を上げながら飛び込むと同時にハッチが閉ざされた。機体の目が発光、主電源に火が入る。
低く唸るような音が周囲に響きわたり、リフトを押しのけながら一歩前に踏み出した。
ちなみに妙なうめき声は、飛び込んだ際に彼女のヒジがクルーゼの腹部に入った為だ。

 

「フ、フレイィィィーーー!!!」

 

フレイの叫び声にいち早くジョージが反応し、愛する娘の名前を叫ぶ。しかも、

 

「チィッ!他のMSを回せ!!」
「やめろ!あそこにはフレイが乗っているんだ!!」

 

他のMSに乗り込もうとする隊員を制止する。おかげで格納庫はちょっとした混乱に見舞われた。

 

「女、一体何のつもりだ!?」

 

この隙を突いたクルーゼは、機体を操作しながら横腹を押さえると、人質であるフレイに目をやる。

 

「な、なによ。いいじゃない。人質が出来たんだし……」
「人質?お前のような小娘がか!?」
「わ、私はアルスター外務次官の娘よ。人質としての価値はあるわ」

 

確かに外務次官の娘ともなれば人質の対象となるだろう。外務次官自身がこのパナマ基地にいる今ならば、
おいそれと攻撃されることはあるまい。脱出どころか、マスドライバーの破壊も有利に働く。
しかしだ。フレイの必死さに、クルーゼは何らかの意図があるよう感じたのだ。先程まで震えていた少女が、
まるで自分に着いていきたいよう振舞っている。どう考えても裏があることは明白だった。

 

「……まあいい」

 

それでも優先順位がある。そう判断したクルーゼは機体をマスドライバーまで走らせた。今まで乗っていた
ジンやシグーとは比べ物にならないほど楽な操作性に感嘆としつつ、MSの武装を確認する。

 

「武装はビームサーベルとライフル。銃身にはグレネードランチャー」

 
 

ストライカーパックの一つでもあれば良かったが、都合良くはいかない。

 

「これでマスドライバーが破壊できればいいが……んっ?」

 

基地の守備隊なのか、マスドライバー周辺にはストライクダガーの集団が陣取っている。
実戦馴れはしていないようで、クルーゼの腕を持ってすれば殲滅は可能だが、

 

「……女。早速、その価値を試させてもらうぞ」
「フ・レ・イ。いい加減名前で呼びなさいよ!」

 

怒るフレイを無視しながらクルーゼは、連合軍に向けて全周波で通信を送ることにした。

 

「連合軍に警告する。この機体にはジョージ・アルスター外務次官の娘フレイ・アルスター嬢が搭乗している」

 

通信内容を聞いたパナマ基地司令部は水を打ったかのように静まり返った。パイロット達も呆然としている。
そりゃそうだろう。連合のMSを奪ったザフト兵が、あろう事か政府関係者の娘を人質にしているのだから。
動揺したストライクダガー達は、構えていたライフルをこぞって下げだした。
その光景を見ていた基地司令は怒号を上げる。

 

「卑怯なっ!!」
「司令……」
「分かっている。全部隊攻撃中止だ!」

 

基地司令はうめくように叫ぶと、密かに戦艦フィッシャーへ連絡を取るよう通信士に言う。通常なら迷わず
攻撃を実行しているところだが、政府の要人、それもブルーコスモスの人間となると確認を取らなければなら
ない。何かの間違いでアズラエルの気分を損なえば、彼の出世は絶望的になる。

 

「おかしな真似をすれば、彼女の身が危うくなると考えたまえ」

 

これで時間が稼げると安堵したクルーゼは、銃身をマスドライバーへと向け、グレネード弾を全弾発射する。
グレネード弾は支柱を数本破壊した。これだけでもマスドライバーは使用不可能な損傷だが、連合軍の総力を
結集すれば半月で修復してしまうだろう。本当なら、もっと損傷を与えたいが、時間もなければ武装もない。
クルーゼは、パトリックに色々と借りがある事を思い出しながら、こんなものでいいと自己完結した。

 

「さて、このままザフトまで戻らせてもらうぞ。自業自得だからな、女」
「の、望むところよ!」

 
 
 

虚勢を張りながらフレイは答える。そしてここまで自分の想像どうりに進んでいる展開に心底嬉しくなった。

 

「全く、一体何を……ムウッ!!」
「な、何よ急に」
「違う、何だこれはっ?!!」

 

突然の叫びにフレイは、思わずクルーゼを見つめた。仮面で表情はうかがえないが、様子から増悪のような
感情が見て取れた。
そして歯軋りしながらクルーゼが見つめるモニターには、翼の生えた見慣れないMSがあった。そのMSは
一直線にこちらへ向かってくると、突如急停止して自分達を見た。もちろんモニター越しで分かる筈がない。
それでも見たように思えた。

 

「貴様、一体何者だっ!!!!」
<あ、まさか貴方が……っ!?>

 

訳が分からなくなっているフレイを尻目に、クルーゼは謎のMSに回線を繋ぐと、またもや訳の分からない
事を言い出した。一体どうなっているのか……。

 

<クルーゼさんですね>
「!?」
<ギルバートさんから聞いています。マスドライバーは僕が破壊しますので、貴方は撤退を……>
「…………分かった……」

 

友人の名前を聞き、おぼろげながらプレアの正体に気が付いたクルーゼは彼の言うとおりにした。
退却する間、クルーゼはただの一言も発しなかった。フレイの方は彼に話しかけようとしたが……。

 

「大丈夫?」
「うるさい。今は話しかけるな……」

 

冷たくあしらわれ、黙るしかなかった。
気まずい雰囲気のまま30分たった後、クルーゼは撤退の殿を務めていたジュール隊と合流し、無事に味方の
艦隊へ戻ることになる。