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Zion-Seed_51_第48話

Last-modified: 2008-02-10 (日) 12:04:39

「隊長、お見事でした」


 クルーゼが105ダガーのハッチを開けると、イザーク等ジュール隊が敬礼で迎えた。


「見事なものか……」
「そんなご謙遜を!」


 撃破されたときは生きた心地がしなかったと言うイザークを、クルーゼは鬱陶しく思いながらコックピット
から身を乗り出す。それに続き、フレイも恐る恐る顔を出す。
 そんなフレイへのシホの質問が、彼女の頭の中を真っ白にさせた。


「クルーゼ隊長。そちらは?」


 シホの疑うような目にフレイはどうすればいいか自問自答する。成り行きでクルーゼに着いてきてしまったが、
先のことをあまり考えていなかった。考えたのはサイの仇であるジオンへ復讐とこのまま連合に居ても復讐は
不可能であることだった。ならばザフトならと思いつき、咄嗟にあのような行動に出たのである。


「見たところ連合軍の制服を着ているようですが?」


 少し威圧するような視線に、フレイはギクリとして息を止める。
 シホは凍りつく彼女を頭から足先まで見ると、自分の体と見比べてみる。そしてフレイの体が自分と比べて
細いことに気づいた。MSパイロットとして鍛錬を怠らないシホはしっかりとした筋肉がついている。しかし、フレイは細い。特にウエストが細い。余計な筋肉をつけないよう努力しているシホからしてみればどうしても軍人には見えない。


「何者ですか?」
「あ、私は……」


 凍りつくフレイを見て、ひそかに笑みを漏らしたクルーゼは、仕方なく助け舟を出した。


「そう構えるな。彼女は私の部下だ」
「部下……この女が?」
「私の指示で連合に潜入していたのだ」
「そうだったのですか……?」
「そうだ。私はこれまでの経緯を彼女に聞かねばならん。君はもう下がりたまえ」
「……ハッ」


 それでも納得いかないシホだったが、軍人である以上、上官の命令は絶対だ。彼女は、後で絶対にスタイル
を保つ秘訣を聞こうと誓い、渋々ながら下がった。


「ところでイザーク、ディアッカにヒルダ達が見えないが……」
「彼らは別の艦に乗った様です」


 撤退時、ディアッカ達別働隊は殿ではなかった。その為に乗り込む艦が違ったのだ。


「そうか……さて、君ももう休みたまえ。殿は疲れただろう」


 口うるさいヒルダが居ないことに満足しながら、イザークを下がらせると、背後で小さく息をのむ声を聞き、振り返った。


「……何で?」
「それはこちらの台詞だ。貴様の真意を聞くまでは、部下として扱ってやる」


 そしてクルーゼは宛てられた士官室に入ると、艦長に連絡を取った。


「私はフェイスのクルーゼだ。艦長はいるか」
<クルーゼ隊長ですか。実は……>
「分かっている。例のMSが着艦しようとしているのだろう」
<そ、そのとおりです!>
「許可を出したまえ」
<し、しかし、IFFは味方を示していますが……>
「フェイスとして命じる。許可を出したまえ。パイロットは私の部屋へ。それから――」


 ちらりとフレイに視線を移す。


「女性用の制服を持ってこい」
<は? そんなもの一体……>
「フェイスとしての命令だ!!」
<ハ、ハハッ!>


 数分後、服を持ってきた女性士官から白い眼で見られ、やっぱり妙な噂を立てられるクルーゼであった。




――――第48話




 パナマ基地攻防戦の幕は閉じた。ザフトは、目標であるマスドライバーの破壊に成功したばかりか、損害を
総数の20%に抑えることが出来た。バクゥやザウート、ディンなどの地上軍はかなりの損害を受けたが、降下
部隊はほぼ生き残り、カーペンタリアの艦隊も水中用MSを覗いて被害は皆無だった。
 一方の連合はパナマ基地其の物の防衛は成功した。損害はザフトと粗同数、と言っても総機数の10%に満た
ない数だ。これだけを見れば連合の勝利なのだが、その犠牲はマスドライバーの喪失、さらにはパナマ運河が
崩壊という非常に大きいものだった。マスドライバーの復旧は、どんなに早くても半年は時間が必要である。


「そしてこのような結果を作り上げたのが君か」


 クルーゼの前には、今回の戦闘に介入した謎のMSのパイロット、プレア・レヴェリーが座っていた。
 フレイは着替えるために別室に移っている。


「こうまで損害が無いのは驚きだよ」


 大規模な戦闘であったにもかかわらず、双方の部隊損害は少なかった。これはザフトがパナマ基地に突撃を
敢行した直後にプレアが乱入し、早い段階で撤退を指示、さらに自らがマスドライバーの破壊に成功した事が、この様な結果に結びついたのだろう。


「お話しなくてはいけないことが、たくさんありますね」
「そのとおりだ」


 クルーゼとムウが感じあえるように、自分はプレアとも感じあえる。そしてムウの“オリジナルの近親者”が既に存在しないことから、彼は自分と同じ存在であることが察知できる。


「君は、クローンだな」
「そうです。僕はクローンです」
「それもムウ・ラ・フラガの、だな」
「はい……」


 ムウの複製であるプレアと、ムウの父アルの複製クルーゼ。
 親子のクローンがこうして会うとは、二人にとっては皮肉でしかなかった。


「貴方のことはギルバートさんから聞きました」
「その様子だと、奴から薬をもらった様だな」


 プレアは頷くと、今までのことを語りだした。




「まあ……おはようございます」


 愛らしい声を聞いたプレアは、まどろみの中で目を開いた。ここが何所だか認識できない。周囲は緑の芝生
が広がり、花が咲き乱れ、甘い香りが一息ごとに入り込んでくる。そして、青い空をバックに、ピンクの髪を
ふわふわと漂わせて自分を覗き込んだ女性を見つめる。


「えっと、貴女は……?」


 言いながらプレアは体を起こそうとするが、激痛に倒れこんでしまう。


「ラクス・クラインと申します。ラクスとお呼びになってくださいな」
「ラクス……クライン!?」


 プレアは歌姫の名に飛び起きた。彼女の顔は知らなかったが名前は有名である。


「おや、彼が目覚めたようですね」


 聞き覚えのある声に目を向けると、盲人特有の探るような足取りでやってくる男性が見えた。


「マルキオ導師様!?」
「驚かれましたか? このような場所で」


 マルキオに言われ、プレアはようやく自分が広々とした庭に据えられたサンルームらしいガラス張りの建物
にいたのだと気づいた。


「皆さんはそういって反対されたのですが、ラクス様がどうしても、ベットはここに置くのだとおっしゃって」
「だって、こちらの方が気持ちがいいじゃありませんか、お部屋より……ねえ?」
「え、あの、その……」


 ラクスが顔を近づけ同意を求める仕草に、プレアは思わず顔を染めた。
 その初々しい姿に、クスクスと笑いながら、ラクスは立ち上がる。


「それではマルキオ様、私はデュランダル様を呼んでまいります」
「そんな、ラクス様にその様な事をさせるわけには」
「お目が見えない方に、御任せするわけにはいきませんわ」


 そう言って部屋を出て行く。


「まったく……」
「――あの、導師様。僕は……」


 呟くとマルキオが答えた。


「貴方は傷つき、私の祈りの庭に辿り着いたのです」


 その声は穏やかであったが、過度のいたわりは含まれていなかった。淡々と事実だけを述べる。


「そして私がここへ連れて来ました」


 ――私は世直しなど考えていない!
 記憶の断片が意識に浮かび上がり、プレアの心臓が突然跳ね上がった。穏やかな声、柔らかいベット、甘い
花の香り――自分を取り巻く心地よいものの感触が、一瞬にして色褪せる。


「あ……」


 プレアはもがくように身を起こし、とたんに襲ってきた全身の激痛にあえぐ。
 ――その才能を何者かに利用されている者の言うことか!
 よみがえってきたシャアの言葉に、プレアは圧倒されて震え出す。


「僕は……シャアさんと戦って……」


 ――何者かの代弁など、聞く耳持たん!
 よみがえった記憶。その全てがマルキオの導きを否定する言葉で満ち溢れていた。


「違う……違う! 僕は、僕の意思で……!!?」


 頭を抱え錯乱するプレアにマルキオが手を掛ける。


「もういいのです。プレア、あなたはよく頑張りました」


 マルキオは静かに言い放った。


「どうしようもなかったのです。相手はあの赤い彗星なのですから」


 少し落ち着いてから、プレアは自分がプラントにいることを知った。なんでもリード・ウェラーの知り合いのジャンク屋の男が、プレアとシャアの戦闘に介入したのだという。そして半壊したギャンのコックピットから、負傷したプレアをマルキオのところまで運んでくれたらしい。
 その後、ちょうど和平交渉の仲立ちとしてプラントに呼ばれていたマルキオが、プレアの素性を隠し、この
クライン邸に運び込んだそうだ。オーブには近いといえども、あの島では満足な手当てはできなかっただろう。
だが、ある人物に会わせる為、マルキオはわざわざプラントまで彼を連れて来た。


「体の調子はどうかね?」


 微笑みながら話す男の名はギルバート・デュランダル。ラウ・ル・クルーゼ唯一の友人である。
 デュランダルはクルーゼのことを話しながらプレアを安心させようとしていた。


「心配することはない。私の作った薬ならテロメアの促進を抑えることができる」


 彼はクライン派に属する政治家だ。そんな彼にプレアを会わせる理由は、以前は遺伝子学者だったからだ。
 不完全なクローン体であるプレアは、テロメアの影響で細胞分裂が終えようとしているため、DNA解析の
権威と称されているデュランダルを招いたのだ。


「ありがとうございます……」


 プレアはデュランダルに礼を言うと、体をマルキオに向けて頭を下げた。


「申し訳ありません導師様」
「謝ることはありません。先程も述べたように、貴方に非は無いのです」
「でも……」


 ここでチラリとデュランダルを見る。ジオンが核融合炉を実用化したことは誰も知らない。政治家の彼が、
この事実をどう扱うか警戒したのだ。
 プレアの意図に気付いたデュランダルは、席を立とうとするが、マルキオがそれを制す。


「プレア。構いませんよ」
「…………地球の人々を救うはずの核が手に入れられませんでした」


 デュランダルは“核”という言葉に目を細める。


「そしてあの人は導師様の考えを否定したのです」


 シャアはマルキオの教えを全否定した。しかも自分がマルキオに利用されているとまで言った。その言葉が
プレアの脳裏から離れないのである。


「それに、あの人が言うのです。導師様を疑えと……」


 マルキオを信頼し、信用し、世界平和の為に努力してきた。


「僕は、僕はどうすれば……っ」


 任務を果たせなかったことと、信じていたものを否定されたという衝撃が、プレアの内に渦巻いていた。
 デュランダルは、ふとマルキオの顔を見る。普段とあまり変わらない、瞳を閉じながらプレアの言葉に耳を
傾けている。だが、デュランダルは、普段のマルキオとは違うことに気づいていた。


「私にはやましい事などありはしませんが、それでも疑うというのなら、私の心を除いて御覧なさい……」


 一言一言をゆっくりと言う。何時の間にか柔らかな表情は影をひそめ、能面のように無表情だ。
 プレアは衝撃を受け、まじまじとマルキオの顔を見入る。


「しかし、貴方が言う赤い彗星。彼の言葉はそんなに信じられるものなのですか?」
「え……」
「彼自身の心に何か問題はありませんでしたか?」


 プレアはマルキオの言葉に、今一度考えてみた。
 あの戦闘の際、彼からは嫌悪しか感じ取れなかった。始めはザビ家に向けられたものと思っていた。それが
自分に向けられていることに気づいたのは、シャアにSEEDの話をした直後だった。マルキオのことを理解して
もらう為に話したのだが、何故あそこまで嫌悪したのか見当が付かない。
 プレアはそのことをマルキオに話す。


「……そうですか。おそらく彼の心には深い闇があるのでしょうね。SEEDを持つ者といえど人間です。自分の
感情を上手く処理できないのでしょう」


 彼は静かに言った。


「プレア。私は貴方に、私の命に従えとは言いません。ただ信じてほしいのです。この混沌とした世界を救う
には、貴方の力が必要なのだから……」




「――間もなく雨の時間です」


 数日が経ち、ぼうっと海を見ていたプレアは、声をかけられ振り向いた。ティーセットを手にしたラクスが、にっこりと微笑んでいる。


「中でお茶にしませんか?」


 目が覚めてからプレアは、デュランダルからは安静にしているよう厳命されており、日がな海を眺めたり、
ラクスとお茶をしたり、花の名前を教わったり、マルキオを疑った邪まな自分を戒める毎日を送っていた。
 時が経つにつれ、蝕まれていく自分の体を眺めると、マルキオの期待に答えたい気持ちが沸々と湧き上がる。


「何で僕はここにいるのでしょう……」


 雨が降り出し、雨粒がガラスを叩くのを見つめながら、ふと、プレアが呟く。


「プレアは何所にいたいのですか?」


 問われて、始めに思い浮んだのはマルキオの修道院だった。多くの孤児たちとともに育った場所、マルキオ
から教えを受けた場所でもある。次に浮んだのがクライン邸。まだ数日しか居ないが、ここは楽園に近い所だ。
ゆっくりと時が流れ、静かで美しい場所。
 しかし、いずれも自分の居るべき場所とは思えなかった。ここも修道院も居心地のよい所だが、何時までも
留まっていても、マルキオの期待には答えられない。


「……判りません」
「ここがお嫌いですか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」


 プレアは、ラクスにお茶を注いでもらいながら、マルキオに目をやった。
 マルキオに自分が必要と言われたものの、それから何も言うことなく、体を気づかうだけだった。それでも
何かを行いたいと申し出るが、


「自分の向かうべき場所、せねばならぬことは、やがて自ずと知れましょう……」


 といった具合にはぐらかすばかりだった。


 静寂が辺りを包む中、ドアを開けてシーゲル・クラインが姿を見せた。マルキオと相対すると、残念そうな
表情で席に着いた。


「やはりダメですな。導師のシャトルでも、発進許可は降りないということで……」


 和平交渉は失敗に終わり、マルキオは地球へ帰ろうとしていたが、現在プラントは厳戒態勢が布かれている
影響で動かないらしい。シーゲル自身はパトリックに説得を行っていたが、パトリックは頑なに拒否していた。
 その後和やかな会話を続けていると、そこにアイリーン・カナーバから緊急の連絡が寄越されてきた。何事かとモニターを外部通信に繋げると、険しい表情の若い女性が映る。


「大変だシーゲル・クライン。ソロモンに動く兆候があると、情報部がっ!!」


 シーゲルは驚きを見せたが、内心ではいよいよ始まったかと思考した。ジオンが動く気配は前から言われて
いたことだ。それが遂に動き出す。ヤキン、そしてこのプラントへ向けて。シーゲルは出かけてくると言うと
急ぎ早に屋敷を後にした。
 それを見送ったプレアはラクスを見た。スピットブレイクが実行されたタイミングは、プラントの防衛網が
薄い。ラクスの胸中も穏やかではないだろう。プレアは知らなかったが、作戦部隊は終了後にビクトリアから
打ち上げられ、一週間で本国に戻ってくる。しかし、このままジオンがプラント本国に攻めてくるとなれば、
プラントは瞬く間に占領されてしまうだろう。


「……かせます」
「はい?」
「僕は、MSが動かせます」


 小さく、そして力強くプレアは呟いた。マルキオが言う“せねばならぬこと”とはこのことだ。ラクスのいるプラントを護る事こそが、自分が今生きている理由なのだ。
 プレアの決意に、ラクスは少し表情を曇らせる。一方でマルキオは澄んだ顔でプレアの前に立つ。


「プレア。自分の言っていることが、何を意味するのか判っていますね」
「はい」
「死ぬかもしれませんよ」


 マルキオの確認に、プレアは迷う事無く頷いた。


「じっとしていても死ぬんです。なら、導師様やラクス様を護ってから死にます」


 プレアの迷いの無い言葉に、マルキオはラクスに向けて頷いた。ややあって、ラクスもこくんと頷く。


「わかりましたわ……あちらに連絡を。ラクス・クラインが平和の歌を歌います」


 そしてプレアはZGMF-X10A“フリーダム”を手にすることになる。




「その後、僕はフリーダムでジオンと戦うつもりでしたが、二人はそれよりも作戦を終わらせてくれと……。
そして戻ってきてほしい、細かいことはこちらで何とかすると……」
「なるほどな」


 話を聞き終え、クルーゼは脱力した。まさか、ラクスがマルキオと組み、このような大胆な行動を起すとは
思いもよらなかった。それもシーゲルとは別に動いている。デュランダルも一枚噛んでいるようだが、あの男
は政治家だ。ラクスを利用しようとしているのかもしれない。
 プレアの話に耳を傾けながらクルーゼは、早急にラクス・クラインと接触する必要があると考えた。


「しかしギルめ、何を考えている」


 クルーゼが考え込んでいると、ちょうどフレイが着替えを終えて部屋に戻ってきた。


「ねぇ……服ってこれしかないの? 胸がきついんだけど……」
「贅沢言うな。それよりこっちに来て座れ」
「……変な事しないでよ」


 一先ず二人は自分の部下として振舞うように言う。そして何か聞かれたらクルーゼの名と共に“機密だ”と
答えるよう指示した。今日ほどフェイスの立場が役に立ったことは無い。
 翌日、艦隊はビクトリアに到着し、クルーゼは予定外の二人を連れて宇宙へと戻ることになる。






おまけ


シホ「失礼ですが、随分と細身の体ですね。よくよく見れば胸もある」
フレイ「な、なに?」
シホ「質問してもよろしいでしょうか?」
フレイ「え、ええ」
シホ「いつもはどの様な訓練を?」
フレイ「き、機密よ」
シホ「………………はぁ?」
フレイ「機密だって言ってるでしょ!」
シホ「普段の訓練がですか……?」
フレイ「そ、そうよ!」
シホ「理由をお聞かせ願えますか?」
フレイ「それは…………ク、クルーゼ隊長が機密にしろって! 絶対話すなって!!」
シホ「……………………」


 この日、シホの中でクルーゼの株が大暴落することになった。


シホ「やはりあの人は変態ですね」