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Zion-Seed_51_第50話

Last-modified: 2008-03-03 (月) 02:30:35

 『我が忠勇なるジオン軍兵士達よ、
 これより我が軍はプラント攻略作戦を行う。
 ザフトは同じスペースノイドの我々を裏切り、
 漁夫の利とばかりに地球にニュートロンジャマーという無差別攻撃を実施し、
 地球連合とは関係のない国家まで巻き込み戦火を拡大させた。
 更に中立国のコロニーを襲いそのコロニーを崩壊させ、
 そればかりでは飽き足らずその本国まで襲いその罪を我らジオンに擦り付けようとした。
 このような卑劣な者たちが新人類と言えるだろうか。

 

 否、断じて否である。

 

 自らを新人類と自称し、思い上がったプラント指導者達とそれに踊らされるプラントの人民に、
 我々ジオン公国国民こそが人類の魁であるということを教えてやるのだ。
 今やザフトの地上戦力は、我が弟ガルマのジブラルタル攻略によって多くが消えた。
 この戦いの勝利こそ我等ジオンの正義の証しである。
 決定的打撃を受けたザフトに如何ほどの戦力が残っていようとも、それは既に形骸である。

 

 敢えて言おう、カスであると!

 

 それら軟弱の集団が、プラントを守り抜くことは出来ないと私は断言する。
 プラントは我等選ばれた優良種たるジオン国々民に管理運営されて、初めて永久に生き延びることが出来る。
 これ以上戦い続けてはスペースノイドそのものの危機である。

 

 プラントの無能なる者どもに思い知らせ、明日の未来の為に、我がジオン国々民は立たねばならんのである!』

 

               ――――C.E.0071/4/22 サイド3ズムシティにおけるギレン・ザビの演説

 
 
 
 
 

 宇宙攻撃軍主力艦隊と言われれば、誰もがドズル中将指揮する第一艦隊を指すだろう。最も美しいと称される
グワジン級戦艦グワランに、要塞とも言えるドロス級大型空母ドロワ。この2隻を主軸とした艦艇群は、地球圏
最強の名をほしいままにしていた。
 そんな第一艦隊第二航宙戦隊に所属するザンジバル改の船内を、ランバ・ラルと内縁の妻クラウレ・ハモンが
見回っていた。部下たちと会う度に、気さくに話しかけ、作戦前の高まる気持ちを落ち着かせる。
 ラルにとって深い信頼関係を結んだ部下たちは運命共同体だ。戦友であり家族でもあるのだ。だからこそ部下
の様子には常に目を向けていた。そしてその中にはソキウスたちも入っている。

 

「イレブン。MSの調子はどうか?」
「良好であります」
「セブン。機体にはもう慣れたか?」
「どんな機体でも3日でモノにしてみせます」
「おい、そんなに力むな」

 

 緊張するソキウスたちに声をかけ終えると、ハモンは彼らを横目で見ながら呟いた。

 

「……若いわね」
「ああ、時代がかわったようだ。あんな坊やみたいなのがパイロットとは……」
「あなた……今度の作戦、どういうおつもりで受けたのです?」
「不服なのか?」

 

 ハモンは否定したが本心はそうではないだろう。今回ラル隊に命じられた作戦は、ヤキン・ドゥーエ内部への
強襲上陸なのだ。上層部は戦闘用コーディネイターであるソキウスたちに白兵戦を求めたのである。ナチュラル
の命令に忠実な彼らなら、その結果がどうなるかが想像できよう。

 

「おまえの言うとおり今度の作戦は無謀だ。しかしだな、この作戦をあやつらに任せれば確実に玉砕に走る」

 

 だからこそラルは、自らが先頭に立ち、突入すると決めていた。

 

「あなた……」
「MSはあやつらに与えた。クランプも了承したわ」

 

 ラル隊には2機の新型機が支給されていた。
 一つはラルの名に相応しい青い機体で、その名には“闘士”の意味が込められている。
 もう一つは次期主力機競争に敗れたギャンを中距離支援機に改修した機体である。
 この二つの機体は、それぞれラルと副官のクランプに渡されたものだが、イレブンとセブンに譲っていた。

 

「わしは子供に死ねとは言えん。それにザラ議長の首を取ってみろ、わしは二階級特進だ。わしの出世は部下
たちの生活の安定につながる」
「兵たちのため?」
「お前のためでもある。ザビ家により近い生活ができる」

 

 不安そうに見るハモンをなだめながら、二人は艦橋に戻った。

 

「まあ見ていろ」
「信じております」
「大尉。そろそろです」
「もうそんな時間か」

 

 窓から周囲を見渡す。外には、崩壊したコロニーの残骸が浮かぶ中に、無数の艦船が入り乱れていた。

 
 

――――第50話

 
 

 ジオン公国軍が動いた報を受けたザフトでは、高官達がプラント防衛について議論してた。

 

「ヤキンか本国。どちらかに攻めてくるのは確実ですな」
「常識的に考えるならばヤキンだが……」

 

 偵察隊からの報告で、ジオン艦隊がL1宙域、嘗て世界樹と呼ばれたコロニーがあった場所に集結している
事が判明し、その動向に議論が集中していた。ヤキン陥落は、実質的にザフトの敗北を意味する。そうなれば
プラントの敗戦が決定してしまう。本国が落ちるのは言わずもがなだ。

 

「奴らの戦力は!? 推定でいい!」
「おそらく二から三個の艦隊であると思われます」
「双方を守りきるのは難しい。どうするか……」
「決まっている。こちらから打って出ればいいのだ!」

 

 しかし、今のザフトにヤキン・ドゥーエ、プラント本国双方を守りきる戦力は無い。何しろMS数だけなら
1500機は有しているが、艦艇数は約80隻、二個艦隊程しかないのだ。これはMS至上主義のザフト軍上層部に、
艦隊決戦という思想がない結果だった。
 艦艇が少ないとなると補給の兼ね合いもあり、ヤキン近くで迎撃しなければならない。だがそれは敵が要塞
内部に進入する危険が大きい。プラントにおいてはコロニーへの直接攻撃を許すことになる。となれば艦艇を
集結して敵艦隊と相対するしか方法はないのだが、

 

「指揮官はどうする?」

 

 今度は艦隊指揮の問題が浮上するのだ。前にも述べたが、ザフトは各隊員の知的レベルの高さに基づく判断
力を生かし柔軟に戦うため階級が存在しない。その上、艦隊決戦という思想がないため、ザフトに艦隊を指揮
する経験者が皆無なのだ。白服は隊長格であるが、殆どの者が2隻前後の戦隊規模しか指揮したことがない。
しかも各隊長はプライドが高く、余程の人間でなければ指揮官の命令に従うとは思えなかった。

 

「議長に指揮していただくのは……」
「そんなこと出来るわけがないだろう。議長はヤキンで全体の指揮を取らなければならない」

 

 あれこれ考えた結果、白羽の矢を立てられたのはレイ・ユウキとウィラードだった。
 ユウキは、パトリックの右腕である。黒服ではあるが、ザフト軍の特務隊フェイスの隊長を務める人材だ。
アスラン達の訓練校時代の教官であるため、若い士官から慕われている。
 一方のウィラードは、ザフトの創立以前から従軍している宿将である。温厚な性格であり、部下思いでもある
彼は、隊長格から一兵卒まで人望があった。

 

「妥当なところだな」
「うむ。早速部隊を二つに分けよう」

 

 一通り防衛策を練ると、高官の一人が思い出したように呟いた。

 

「エターナルはどうします? 艦長が決まっていませんが……」

 

 エターナルとは、ザフト軍がフリーダムの専用運用艦として建造した最新鋭の高速戦闘艦である。ある理由
により装備されている武装は乏しいものになっているが、宇宙戦艦としては破格の高速航行性能を有しており、
最大戦速では快速艦のナスカ級すら上回っている。
 そんな艦を運用させるのだ。相応の人物でなくてはならない。
 しかし、パトリックから出た言葉は、高官たちを絶句させるものだった。

 

「……クルーゼに任せようと思う」

 

 一瞬にして部屋の空気が固まる。

 

「皆が納得いかないのも理解している。しかし、他に適任者がいない」

 

 本来、エターナルの艦長にはバルトフェルドが内定していたが、今やジオンの捕虜となって任命は不可能だ。
他にも該当者はいるが、パナマ戦でのマスドライバー破壊など、実績の部分ではクルーゼがずば抜けていた。
 信頼はできないが、有能な人材を放置するわけにもいかない。ジレンマの中での苦渋の決断である。

 

「ではミーティアも奴に与えるのですか!?」
「……仕方がない。ミーティアは一機が一個大隊に匹敵する戦力だ」

 

 パイロットの人選も好きにやらせようとパトリックは考えた。パナマ戦でもクルーゼの子飼いの部下が活躍
したらしいことをデュランダル経緯で聞かされていたので、いっそのことクライン派の将兵をまとめてみよう、
と思いついたのだ。

 

「奴には遊撃部隊として戦場を走り回ってもらう」

 

 パトリックは、彼らをこき使うことでザラ派将校たちを納得させることにした。

 
 

 会議を終え執務室に戻ったパトリックは、椅子に疲れた身体を沈め、ある人物の出頭を待った。
 しばしの時間が経過すると、その人物が扉を叩く。入ってきた赤服の男は、パトリックの目の前で敬礼をする。

 

「アスラン・ザラ。出頭いたしました」

 

 地球から呼び戻した息子アスランだった。

 

「……地球はどうだった。アスラン」
「自分の未熟さを痛感しました」

 

 パトリックの責めるような目に、アスランは頭を下げるしかなかった。ジオンの工作員を見抜けず、容易に
ジブラルタルへの進入を許し、ジブラルタル陥落の遠因を作った。アズラエルの暗殺のためジオンを偽装し、
オーブに進入した折は、不注意から正体をばらしてしまった。おかげでオーブ政府からは抗議が来ている。
 これら軽率な行動は表ざたにはなっていないが、地上軍の将兵からは白い目で見られるようになった。

 

「お前が何をやらかしたかは知らん。唯一つ聞きたいのだが、何故自分の名を晒すなどという事をしたのだ」
「それは……」

 

 アスランは、ここに来るまでの間、キラのことを父に話すべきかどうかを考えていた。
 キラのことはパトリックも知っている筈だ。直接会ったことはないが、母レノアには何度となく話している。
母から父にキラが知り合いであることは伝わってはいるだろう。
 しかし、パトリックは厳格な男だ。自分が息子であっても兵卒となれば部下として扱う。特別扱いはしない。

 

「まあいい」

 

 悩んでいると、パトリックは溜め息をつきながら呟いた。

 

「お前のことだ。余程の事情があったのだろう」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アスランの顔が驚きに変わった。パトリックが自分の失態を追及しないなど想像す
らしてなかった。

 

「……アスラン、今の情勢は既に承知だろう」

 

 パトリックの厳しい言い方に、アスランは姿勢を正した。現在ジオン艦隊がL1宙域に集結していることは
アスランも知っている。父は、赤服である自分をヤキンの防衛を命じるのだろうと考えた。
 しかし、アスランは予想もしていなかった言葉に愕然とすることになる。

 

「ザフトはこれに打って出るが、お前にはプラント防衛を命じる」
「な……っ!?」

 

 アスランは聞き違いではないかと耳を疑った。

 

「ゲイツの改良型を与える。実験機だが、従来のMSより高性能だ」
「お、お待ちください父上! 何故私が本土防衛に廻されるのです!?」

 

 アスランはパトリックに強く問いただした。今は一人でも多くの戦力が必要なのだ。赤服であるアスランの
技量は、間違いなくザフトの上位に位置する。にもかかわらず後方へ廻されるなど納得がいかない。

 

「敵の目標はヤキンだろうが、だからといってプラントの防衛を疎かにするわけにはいかん」
「……地上での不手際が原因ですか?」
「そうではない。前から決まっていたことだ」

 

 ――そんなバカな。
 アスランは呆然としたように固まってしまう。

 

「本土の防衛には士官候補生も参加させる。お前は彼らを導け」
「父上!」
「……先程から何だ。その呼び方は……」
「!!」
「話は以上だ」

 

 アスランはパトリックの強い口調にうなずくしかなかった。

 

「了解……しました……」

 

 素直に敬礼し、命令を受領すると部屋を後にした。
 アスランが部屋を出ると、パトリックは飾っていた写真立てを手に取る。レノア――愛していた妻の写真。
その傍らにはまだ幼いアスランが写っていた。

 

「実験機で許してくれよ」

 

 本当はアスランに新型機ジャスティスを渡したかった。ジャスティスとはフリーダムの兄弟機で、奪取した
Xナンバーのデータを流用して開発されたものだ。しかし、ジャスティスを渡せば、必然的に最前線に送らな
くてはいけなくなる。

 

「今の私に残せるのは一つだけだ」

 

 妻が愛したプラントが、息子の育ったプラントが、ジオンに蹂躙されようとしている。

 

「親は子を護るもの……そうだな、レノア……」

 

 パトリックは、議長としてではなく、一人の父親として息子の居るプラントだけは守り抜くと固く誓った。

 
 
 

「いよいよ決戦だな、ユウキ君」
「ウィラード隊長。お元気そうでなによりです」

 

 モニター越しに話すのは、今回の艦隊指揮を任されたウィラードとユウキだ。二人は残存している戦闘艦を
まとめ、作戦本部が立案した作戦を検討していた。
 作戦は『L1宙域に集結しているジオン艦隊を撃滅せよ』と至ってシンプルなものだ。

 

「やれやれ。『撃滅せよ』とは簡単に言ってくれる」
「どうします。全力を持って叩きますか」

 

 二人に宛がわれた戦力は、エターナル級高速戦闘艦1隻、ナスカ級高速戦闘艦26隻、ローラシア級MS搭載艦
34隻の含んだ計61隻。いずれも前線で戦い続けていた古参兵ばかりで、スピットブレイクに参加したイザーク
たちもいる。相手がナチュラルなら、倍以上の戦力でも押し返せる筈の戦力だ。

 

「それは早計だよ」
「……伏兵の可能性ですか?」

 

 ウィラードは頷きながら続ける。

 

「うむ。奴らが馬鹿正直に艦隊を晒すとは到底思えん」

 

 偵察隊の報告では、宇宙攻撃軍旗艦グワランと超大型宇宙母艦ドロワの姿が確認されている。これだけでも
相手が名将ドズル・ザビであることはあきらかなのだが、

 

「空母を囮にし、我々をおびき寄せる可能性もある」
「レイテ沖海戦」
「ほう、知っていたか」

 

 ユウキがコズミック・イラ以前の海戦を知っていることに感心する。

 

「しかし、当時のニホン軍とジオン軍は違います。奴らが虎の子のドロワを囮にするとは思えません」
「それも一理ある。だが……」

 

 このとき長年の軍人の勘というものが、この老将に待ったをかけていた。ウィラードは、勘とは長年の経験
と理論によって得た才能であると考えている。この直感に助けられたことも一度や二度ではない。

 

「失礼ながら深読みしすぎでは?」
「君にはまだ判らんか……」
「……?」

 

 しかし、まだ30代のユウキはそれだけの経験を得ていない。理解されないのも仕方がないだろう。

 

「とにかく別働隊の可能性を否定することはできん。ドズル艦隊にはわしが当たろう。君は留まってくれ」
「了解しました」
「エターナルは貰っていくぞ。もしもの時は早急に廻すのでな」
「……お気をつけください。獅子身中の虫かもしれません」
「安心しろ。そう簡単にやられんよ」

 

 クルーゼを不信に思っているユウキは念を押すが、ウィラードはものともしない。

 

「兎に角、周囲の警戒は怠るでないぞ」
「了解しました。御武運を」

 

 回線が切れると同時に、艦隊の陣形を組み終わったとの報告があげられた。

 

「よし。全艦、出撃!」

 

 ウィラードの命令を受けて艦隊が動き出す。即席の艦隊だが、そこはウィラードの人望とコーディネイター
の学習能力で見事な艦隊機動を行った。

 
 
 

 ウィラード艦隊がL1宙域に出撃した頃。新造艦エターナルの艦長室では、仮面をつけた芸人……もとい、
ラウ・ル・クルーゼが資料を片手に笑っていた。

 

「クックックッ……ハァーハッハッハッハッ!!」

 

 その資料には、MSの設計図が描かれていた。

 

「ニュートロンジャマー・キャンセラーとは……」

 

 この設計図は、プレアの乗るフリーダムと兄弟機であるジャスティスのものであった。この機体は、動力源
として核エンジン、そしてその稼動を実現する新装備“ニュートロンジャマー・キャンセラー”を搭載していた
のだ。これにより本機はビーム兵器とPS装甲の併用と、従来機を遥かに上回る稼働時間を両立している。

 

「遂に私にも運が向いてきたか!!」

 

 クルーゼは、戦局を左右する機体を2機も手に入れたことで、俺に時代が来たとばかりに有頂天になった。
 そんなクルーゼを部屋の隅で見ていたプレアは、悲しそうな目を向けていた。ジオン軍が核融合炉の開発に
成功しているのを知っている彼は、その事実をクルーゼに話そうと思っていたのだが、

 

「フハッハッハッハッ!!!」

 

 あまりのクルーゼの喜びように言うに言えなくなってしまった。