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Zion-Seed_51_第54話

Last-modified: 2008-04-02 (水) 13:20:14

「隊長、ヤキン・ドゥーエ後方に巨大な物体!」

 

 突如、ヤキン・ドゥーエの後方に何かが揺らめく。まるで雲を衝いて月が姿を現すかのように、巨大な円形が
反射光に浮かび上がり、灰色をしていた巨大ミラーが、いきなり磨かれたような輝く銀色に色づく。そちらに
向いたウィラードは目を凝らした。離れた場所でありながら、その姿は肉眼でもはっきりと見ることができる。

 

「あれは何だ……?」
「隊長。隊長も知らないのですか!?」
「わしは何も聞いてない……」

 

 無理もなかった。ジェネシスの存在は最高機密になっており、ザラ派の評議会議員にしか知らされていない。
しかも存在自体を隠し通すために、ミラージュコロイドを周囲に展開させる程の手の加えよう。さらに防御を
万全にすべくPS装甲まで取り付けている。何れもXナンバーを奪取した際に得たデータから開発したのだ。

 

「バカな!」

 

 筒状になったミラーの奥、カートリッジ内部で核分裂が始まり、強烈な閃光が発せられる。

 

「味方がいるのに撃つ気か! 正気の沙汰ではない!!」

 

 ウィラードはジェネシスの存在を知らないが、目の前で何が起こっているかは理解できた。ヤキン司令部は、
巨大な要塞砲を味方ごと敵艦隊に放とうとしている。
 怒りに震えるウィラードではあったが、その反応は迅速だった。

 

「射線上の部隊! 直ちに退避せよ!」

 

 通信士からインカムを奪って叫ぶ。だが、彼の耳には空しいノイズが響くばかりであった。

 

「Nジャマーとミノフスキー粒子の影響で、あそこまでの通信は不可能です」
「くっ!!」

 

 ウィラードはインカムを叩きつけ、これから始まる惨劇に息をのむ。

 

「戦術的には理解できる。できるが……」

 

 そして光の奔流がジェネシスから放たれた。

 

「これでは兵たちが浮かばれん」

 
 

――――第54話

 
 
 
 

 ジェネシスから放たれた強大なエネルギーにラコック大佐は愕然として目を見開いた。太い光条は突撃機動
軍を貫いていき、そこにある艦艇、宇宙空間を漂っていたデブリに至るまで、全ての物質を焼き払っていった。
光が去った後に残されたのは、無残に焼き尽くされた艦艇の破片と、航行もおぼつかない多くの船体、そして
士気の挫かれた兵士だけだった。

 

「こんな……っ!」
「突撃機動軍、3分の2が消滅……」

 

 まさに圧倒的。ラコックは眼下に広がる光景に頭が真っ白になりながらも瞬時にそれを切り替えると、援軍
を打診すべく振り向いた。ドズルも敵に対するあまりの怒りに言葉を失っているようなのだが……。

 

「……キ」
「閣下?」
「キ、キシリアのグワジンはどうしたぁー!!」

 

 突如叫び声を上げると、血走った目でスクリーンを直視した。
 鬼気迫った声に、オペレーターも慌ててグワジンを探索する。

 

「大丈夫です。グワジンは健在の模様」
「そうか。それは良かった……」

 

 ドズルは報告に安堵すると、力が抜けたように崩れ落ちる。その光景を艦橋にいる将兵は唖然と見ていた。
あのドズルが、犬猿の仲とまで言われていたキシリアを心配するなど予想していなかったのである。
 周囲の様子に気付いたドズルは、慌てた様子で言い訳を始める。

 

「べ、別にキシリアを心配してるのではないわ。それよりもっ!」

 

 話をはぐらかすように、ドズルは話題を上陸作戦に移す。

 

「ヤキンには要塞砲のコントロールがある筈だ。何としてでも上陸を果たせ!」

 

 しかし、ドズルの激も実らず、主力艦隊は今だヤキンに取り付くことが出来なかった。

 

               *     *     *

 

 グワジンの艦橋では、キシリアが鋭い声で状況確認を行っていた。

 

「残存艦の把握を急げ! グラーフ・ツェペリンはどうか!?」
「反応ありません!」
「脱出艇は!?」
「確認できません!」

 

 グワジンには、完全に落ち着きを失った通信が次々と入ってきていた。

 

「くっ。あんなものの存在に気付かんとは……。失態だな」

 

 キシリア機関の長として、ジェネシスの存在どころか建設の兆候すら確認できなかったことに無念を感じた。
そして被害が明確になるにつれて愕然とする。
 無防備ともいえるプラントへ向かっていた突撃機動軍は、ジェネシスの砲撃によって半数を失っていたのだ。
第六艦隊旗艦グラーフ・ツェペリンは司令官ユーリ・ハスラー准将、艦長フォン・ヘルシング大佐等と共に消滅、
艦隊は事実上壊滅していた。第五艦隊も約3割の被害を被り、生き残った艦は小破ないし中破している。
 キシリアは動揺を面に出さないようにしながら、隣にいたシャリアに視線を移した。

 

「味方を巻き添えに……? こんなことが……」

 

 シャリアの心には死者の叫びともいえる声が聞こえていた。味方ごと巻き込んだジェネシスの一撃は多くの
将兵を死に追いやったのだ。あまりの事態に、彼も心ここにあらずといった具合だった。

 

「キシリア様。敵の追撃が予想されます」

 

 誰もが冷静さを保てない中で、トワニングだけは自分の仕事を忘れていなかった。

 

「直衛機を出すべきです。幸運なことに機動部隊の被害は最小。このまま温存するのは得策ではありません」
「そうだな……」
「我が軍の部隊ならやってくれます」

 

 トワニングの言うとおりだった。宇宙攻撃軍はヤキン攻略に係りっきりで援軍を送る余裕はない。今は戦力
を出し惜しみせず、局面ごとに投入するしか活路は見出せない。

 

「各MS隊を発進させよ。キマイラ隊も前面に出させい! それからシャリア・ブル少佐!」
「は、はっ!」
「NT部隊も出てもらう。しっかりしろ少佐!」
「……了解しました」

 

 正気を取り戻したシャリアは急ぎ早に格納庫へと向かう。ただ途中、彼は一つの懸念を抱いていた。
 能力の低い自分でさえ瞬間的に多くの死を見てしまったのだ。強い力を持つ彼女たちに、どれだけの影響を
与えているか見当がつかない。

 

「何もなければいいが……」

 

 しかし、残念なことにその懸念は当ってしまうことになる。

 

               *     *     *

 

 眼下の光景に、兵たちは自国の兵器であるにもかかわらず、背筋を凍らせていた。パトリックを除いて――

 

「圧倒的じゃないか、ジェネシスはっ!!」

 

 その言葉どおり、ジェネシスの存在で戦況は変わりつつあった。ドズルの主力艦隊はヤキンを攻めあぐね、
コンスコンの機動艦隊は身動きが取れない。キシリアの増援艦隊は壊滅状態で、救援どころか補給もままなら
ない状況だ。最早、勝ちは決まったと言えた。

 

「何をしている、エザリア? この機に奴等を叩きのめすのだ!」

 

 ジェネシスの威力に唖然としていたエザリアも、その声に我に返ると防空隊に掃討を指示した。ところが、
パトリックにも予想外のことが起きていた。各部隊の動きは緩慢で、覇気が全く感じられないのだ。まるで、
ヤキン・ドゥーエから離れたくないようだ。

 

「何をしている! 直ちに動かぬか!!」

 

 少し考えれば判ることだが、それはパトリックが味方部隊を巻き添えにし、ジェネシスを撃ったことが原因
であった。誰もが戦闘中に背後から撃たれると考えては、士気が低下するのも当たり前である。
 この出だしの遅さからキシリア艦隊は迎撃準備を整えてしまっていた。

 

「ええい、使えぬ奴等め! もういい、エターナルを迎撃に当たらせろ!」

 

 結局、使い潰そうと考えていたクルーゼ隊と命令に従った数部隊でキシリア艦隊に攻勢をかけることになる。
想定していたよりも少ない戦力だが、それでもキシリア艦隊を殲滅するには十分の戦力だった。残りの戦力は
主力艦隊にぶつけ、そのまま機動艦隊を押しつぶせば戦闘は終了、だったのだが――

 

「新しい艦隊だと!? ジオンのか!?」

 

 エザリアが部下から受けた内容の内容に驚き、パトリックは彼女に振り返る。

 

「なに!?」

 

 この終局間近でのジオンの援軍はパトリックの想定外だが、表示された艦隊の概要を知ると拍子抜けだった。

 

「例の囮艦隊です」

 

 新たに現れた艦隊はキリングの第二艦隊、L1宙域でウィラードを騙した艦隊だった。パトリックは援軍の
正体を知り、囮艦隊に何が出来るのかと鼻で笑う。

 

「ふん。所詮、悪あがきだ。ほおっておけ」

 

 囮艦隊が主力艦隊ほどの戦力を有している筈がない。あれば初めからウィラード艦隊に追撃を加えている。
それを実行しないということは、囮艦隊は初めから戦闘をする予定になかった。つまりそれだけの戦力が無い
ことを意味する。唯一、衛星ミサイルが気がかりだが、ジェネシスはPS装甲で護られている。いくら破壊力
があっても衛星は実体弾であることに変わりはなく、PS装甲を突き破ることは出来ない。内部に侵入される
ならまだしも、あの程度の戦力ではそれも不可能。わざわざ戦力を割く必要も無い。

 

「勝ったぞ。この戦い我らの勝ちだ」

 

 ソロモンや月の防衛も考えれば、ジオンにこれ以上の戦力は存在しない。パトリックは勝利を疑わなかった。
その咆哮を聞くまでは……。

 

               *     *     *

 

「衛星ミサイル。第5射、発射!」

 

 第二艦隊はキリングの指示で衛星ミサイルの放ち続けていた。放たれた衛星群は加速しながらジェネシスに
到達するものの、直撃と同時に爆散してしまう。PS装甲の防御力は砲熕兵器としては最大の貫通力を有する
レールガンの直撃にも耐える程であり、衛星ミサイルであってもそれは例外でなかった。
 唯一の欠点は相転移を維持するために装甲に電流を流し続ける必要があり、搭載機のエネルギー消費が早く
なり稼働時間を大幅に短縮してしまう点である。しかしこれも核分裂炉を搭載し、無尽蔵にエネルギーを供給
することで欠点を補っている。その広大な装甲面積によりエネルギー許容量がMSのそれより遥かに高いため、
陽電子砲ですら破壊は不可能となっていた。

 

「……やはり効果はありません」
「中将、キシリア艦隊の被害が判りました」

 

 キリングは想像以上に被害が大きいことに眉をつりあげた。援軍を送りたいところだが、今の第二艦隊には、
パトリックの予想はどおり、戦力など残されていない。輸送空母はダミーバルーンを搭載するだけで満杯で、
実質キリング艦隊のMS配備数は100機に満たなかった。

 

「構わん。続けて放て」

 

 だがキリングは、そんな状況下でも気にすることなく攻撃指示を出し続けた。

 

「折角補充したんだ。撃たなければもったいない」
「ムスペルヘイムより入電。準備完了とのことです」
「相変わらず速い仕事だ」

 

 戦闘が始まる前、キリングは一つの懸念を感じていた。学徒兵のいるカスペン戦闘大隊である。その中でも
特に気になったのが“オッゴ”と呼ばれる駆逐MP(モビルポッド)の存在であった。
 このオッゴは、軍上層部がゲルググのような高性能MSを求める一方で、安価で量産性の高い機体を求め、
造られた機体だった。月基地を占領した際に連合軍が大量に放置したミストラルを元にして、一定水準の機動
兵器として改修したのである。
 この機体は戦争の長期化が原因で開発されていた。まだ戦線に余裕はあるものの、連合が本格的にMS
の量産態勢に入ると苦戦は否めない。その結果、この様な急増兵器が造られる破目になっていた。
 しかもそれに乗るのは学徒兵である。総合的な戦闘能力はミストラルを上回るが、乗り手の練度が低ければ
どうなるかは目に見えていた。
 ――オッゴの実戦投入を拒むにはどうしたらいいか?
 そこで思いついたのが、友人が関わっていたある兵器だった。

 

「これで手紙が無駄にならずに済みそうだ。奴にどやされることもなくなった」

 

 キリングは事の詳細を手紙に書き、事前にカスペンに託していたのである。

 

「ですが、よろしいのですか? ヘンメ大尉も、致命傷を与えるには近づく必要があると申してますが……」

 

 戦前よりジオンの仮想敵であったのは、言うまでもなく連合軍であった。その連合軍艦隊の最大の火力は、
主兵装としてゴットフリートを有するアガメムノン級宇宙母艦だった。これに対抗するためにジオン軍が建造
したのが、多数の兵装を有し、アガメムノン級よりも巨大なグワジン級宇宙戦艦だった。

 

「君は釣りは好きかね?」
「はぁ……?」
「フッフッフッ。今はザフトに要塞砲を破壊できると思わせればいい」

 

 一対一の戦闘なら、グワジン級はアガメムノン級を凌駕できた。
 だが、戦艦と戦艦が一対一で戦うような状況があり得る筈もなく、想定される戦場は艦隊決戦の場となる。
そうなれば連合軍の半分以下の戦力しか有していないジオンでは勝ち目が無い。ジオン軍とて、グワジン級の
量産は容易ではない。そこで艦隊決戦で敵戦艦を撃破のみならず、数で圧倒できる兵器が求められた。
 そこで核融合技術から超高温プラズマを作り出し、それを砲弾とするという兵器が開発された。それは戦艦
の建設より容易で、なおかつ安価であった。そんなどんな装甲でも撃ち抜ける巨砲を量産できれば、艦隊決戦
において圧倒的優位に立てる。
 しかし時既に遅し。時代は大艦巨砲主義からMS主兵主義に移行しており、この巨砲は試作が出来上がった
段階で無用の長物と化していた。

 

「よし。では、大蛇の咆哮を聞くとしようか」

 

 ――QCX-76A試作艦隊決戦砲ヨルムンガンド
 敵主力艦を、その射程外から狙い撃つ大蛇。それがキリングの用意した切り札だった。

 

               *     *     *

 

「こちらヨルムンガルド、展開完了。作業員の退避も済んだ」

 

 宇宙空間にヨルムンガルドと共に浮ぶ射撃指揮所で、宇宙服を着用したままのアレクサンドロ・ヘンメ大尉は
コンソールから状況を報告する。

 

「冷却剤、準備よし! 大砲屋冥利に尽きるってもんだ。初弾装填!」

 

 一発の砲弾が弾倉からスライドし、砲身へと送られる。

 

「へへへ、もう実戦に出れねえと思ったぜ。キリング艦長様様……っと、今は提督か」

 

 キリングの友人とはヘンメのことだった。昔、キリングがまだ戦艦の艦長だった時代に、彼は砲術長として
キリングの艦に乗り込んでいたのである。

 

「大尉、まもなく観測値が届きます」
「ああん? そんな物はいらん」
「そうですか……って、何を言ってるのです!? 間接射撃指示が無ければヨルムンガルドは……!」
「おい、技術屋ぁ! あんなデカブツ――ジェネシス――直接照準で十分だ!」

 

 直接照準での命中率の悪さは専門家の彼が誰よりも判っている。しかし、相手はヤキンの半分程もある物体。
彼にとって外す道理など無かった。
 次の瞬間、ヨルムンガルドは蓄えていたエネルギーを一気に解放した。

 

               *     *     *

 

「ミラーブロックの換装は!?」
「あと1時間はかかります」

 

 ヨルムンガルドの一撃はジェネシスの一次反射ミラーに直撃した。従来、ミラーはジェネシス発射とともに
反射したレーザーに妬かれ、廃棄する。その換装作業中にプラズマ砲弾が直撃したのである。いくらPS装甲
といえど、恐るべき密度を持つプラズマの砲弾に耐えることは出来なかった。

 

「急がせろ!」

 

 パトリックは係員の答えに怒鳴りつけ、作業を急がせた。

 

「……ジオン軍の動きは?」
「今はありません」

 

 エザリアの返事に、パトリックは周囲を動揺させないよう冷静さを装った。

 

「発射されたのは高密度のプラズマ――」
「講釈は後でいい。直ちに既存の部隊を向かわせろ。ジェネシスを破壊されれば終わりだぞ」

 

 このパトリックの判断は正しいようで間違っていた。
 確かにヨルムンガルドにはジェネシスを破壊する力があった。これを放置すればジェネシスを危険に晒すこ
とになる。しかし、ジェネシスを止めるには何も外部から破壊する必要は無い。ヤキンからのコントロールを
奪えばいいのである。つまり――

 

「閣下、敵の防衛網が弱まりました」
「ランバ・ラルに連絡しろ。ヤキンに突入するのだ!」

 

 ドズルの主力艦隊に隙を見せてしまったのである。