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Zion-Seed_51_第56話

Last-modified: 2008-04-21 (月) 19:57:27

 ラルは困惑していた。ラルは部隊を引き連れ、ヤキンの中核にまで足を進めた。警備は思ってのほか少なく、
容易に中核まで進むことができた。そして中央司令部を発見。周囲の掃討を確認し、そのまま突入を決行した。
 しかし、次に彼の目に飛び込んだのはパトリック・ザラの変わり果てた姿だった。

 

「これはどういうことだ……?」

 

 散乱する書類の束。床や壁に付着した赤い染み。そして胸から血を噴出し、宙を漂っているパトリックの体。
ラルの突入など誰も気にしていない。皆が凍りついたように、生気を失ったパトリックの姿を見つめていた。

 

「何があったかは分からんが、状況が状況だ。代わりの代表はいるか!?」
「私だ……」

 

 やや語気を強めた物言いで、ようやくラルの存在に気付いたのか、ジェネシス運用のため司令部にいたユーリ・
アマルフィが前に出る。

 

「ザフトはジオンに対して降伏する」
「ユーリ議員!」
「もういいだろうエザリア……」
「しかしっ!!」
「ザラ議長は軍を戒めるために自決なされたのだ」

 

 ――自決?
 ラルはその言葉に違和感を覚える。

 

「我々は議長の意思を汲み、降伏する。いいな」
「……くっ!」

 

 異様な空気が場を制していた。パトリックは胸部に銃弾を受けて息絶えているのだ。その死に様は誰がどう
見ても自決ではない。傍で少年らしきザフト兵が銃を片手に呆然としている状況から、彼が撃ったと思われた。
 暗殺の二文字がラルの脳裏を過る。ザフトはクライン派とザラ派で激しい権力争いがあったと聞く。それも
両者の子が婚約することで沈静化したようだが、それを快く思わない人物がこの機に乗じて議長の暗殺を図った
のではないだろうか。
 そこまで考えてラルは首を振った。
 自分たちは警察ではない。態々犯人探しなどバカげたことだ。自分に課せられたのは司令部の制圧と評議会
議長パトリックの首。その両者が達成した今、後のことはどうでもよかった。

 

「分かった。貴殿の降伏を受け入れよう」

 

 暗殺されたにせよ、自決したにせよ、これでジオンの勝利が決定付けられたのだから。
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――――第56話
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 二つの光点が重なり、離れ、そしてまた重なる。
 ゲルググとハイマニューバ2型。両者の戦いはいつ終わるともなく続いていた。

 

「ぬあああああっ!」

 

 サトーは咆哮を上げる。妻を、娘を、そして多くの戦友を失った。さらには自らの眼前でユニウスセブンを
落とされた。その憤激がサトーを叫ばせていた。

 

「甘い!」

 

 サトーの重機刀を、ガトーは脚を振り上げて反動でかわす。紙一重の間隙。一分たりとも無駄な動作はない。
サトーもそれは同様だが、彼の場合は無駄がなさすぎた。これはコーディネイター全体に言えることなのだが、
彼らは常に効率を優先した動きをする。個人差はあるが、必要最小限の行動をしない傾向があるのだ。それは
ガトーのような戦闘経験が豊富な者にとって動きが読みやすい。
 事実ガトーはサトーの放つ斬撃をことごとく見切り、完璧な間合いでかわし続ける。もちろんかわしながら
反撃を浴びせることも忘れない。

 

「その程度か!」

 

 宇宙空間における白兵戦は技量以上に場数の多さが勝敗を決する。ガトーが歴戦の勇士なのは言わずもがな。
 対するサトーも負けてはいなかった。何せサトーはザフト軍で初めて対MS戦闘を行った人物である。それ
以降、常に激戦を潜り抜けてきた彼は、ガトーに勝るとも及ばない。

 

「おのれ!」

 

 それでも二人が互角の勝負を繰り広げていた。これはサトーの機体がハイマニューバであるのが大きかった。
ガトーが乗るのは最新鋭のゲルググ。一方のサトーが乗るのはジンの改修型。いくらサトー専用機と言えど、
元がジンでは性能に限界がある。
 結局、両者の戦いは決め手の無いまま、時が過ぎていくのだった。
 宇宙空間に一つの通信が入り込むまでは……。
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               *     *     *
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「ウィラード隊長。ヤキンから通信です」
「何だ? 援軍の催促か?」
「いえ、違います。こ、これは……」

 通信士は驚きながら、通信内容をオープン回線にした。

 

『この戦闘に参加している全ての機体・艦艇に通達する。私は、ヤキン・ドゥーエ司令部のユーリ・アマルフィ。
議長に代わって司令代行を務めている』
「司令代行……どういうことだ!?」
『ザフト将兵に告ぐ。ザラ議長は自決なされた』

 

 艦橋がどよめく。誰もが信じられない表情で顔を見合わせた。
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               *     *     *
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『ザラ議長はこの戦争の敗北を悟り、降伏しようとした。だが、それで諸君等が納得するはずがない。今まで
必死になって戦ってきたのは諸君等なのだからな。そこで議長は、この戦争責任と、散っていった同胞たちに
懺悔する思いで自決なされた』
「これはジオンの謀略だ!!」

 

 反響する怒鳴り声に、格納庫にいた誰もが振り返る。ディアッカもそちらに目をやると、イザークが顔を
真っ赤にしているのに気付く。

 

「ふざけるな! こんな形で終わらせてたまるか!!」
「お、おい。イザーク!」

 

 部下を持ち、指揮官としての自覚を持ち始めていたイザークも、この事態に感情を抑えられなかったようだ。
シホやアイザックの前で狼狽し、勢いあまって出撃してしまった。

 

「ったく。手のかかる隊長さんだ……」

 

 ディアッカは呟くと、シホに事の詳細をアデスに伝えるよう指示し、イザークの後を追った。
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               *     *     *
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『我々は議長の決意を知り、説得した。しかし、ダメだった。議長の決意は固く……』
「嘘だ。こんな馬鹿なことがある筈が!!」

 

 ――降伏? 自決? 一体何の話をしているのだ?
 ユーリの演説が続く中で、サトーは戦闘中にもかかわらず取り乱していた。

 

「おお、ランバ・ラル大尉がやってくれたか!」

 

 その一方でガトーは通信を聞きながら、上陸作戦が成功したことを知った。そしてサトーの注意が通信に向け
られている間に、サトー隊と抗戦していたカリウスを呼び寄せ離脱を計る。

 

「カリウス、ガンズ。二人とも無事か!?」
「自分は大丈夫です。しかし……」

 

 カリウスの重い声に、ガトーは悪い予感がした。

 

「敵部隊はかなりの手足れで、私もフォローしたのですが……残念です」
「……そうか」

 

 ビスレィにダルシム、ガンズと若い部下を続けて失った。戦友のケリィも行方知れず。残ったのはカリウス
1人になってしまった。

 

「カリウス、奴等を怨むことはできんぞ。スペースノイドの真の解放の為に、今は宇宙に住む者同士が争って
いる場合ではないのだからな」
「心得ております」

 

 チラリとサトーに目をやる。今だ信じられないのだろう。彼のジンはその場を動こうとはしなかった。
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               *     *     *
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 五条のビームがフリーダムに迫る。それは確実にフリーダムを貫く、筈だった。
 フリーダムの前に突如として飛翔体が過った。ジオングから放たれたビームは、その飛翔体によって遮られ、
フリーダムに当ることなく爆発を起こす。そして噴煙の中に一瞬姿を消したフリーダムは、側面から急速接近
した機体に掴まり、ジオングとの距離を取る。

 

「何?」

 

 シャリアは敵の援軍に凶暴な力を感じると、モニターにクルーゼのジャスティスが映し出された。
 その赤いMSからの凶悪なプレッシャーが、シャリアを一瞬だけ躊躇させた。その隙を衝いたクルーゼは、
ビームライフルでジオングの右腕を撃ち落す。

 

「むっ! 何者だ?」

 

 この攻撃で相手が只者でないことをシャリアは悟った。
 強敵を相手にジオングは身構えるものの、フリーダムとジャスティスはそのまま後退していく。

 

「何と言う憎悪だ。あれに乗っているのは一体……」

 

 プレアというNTの存在もあって、2機の後を追う衝動に駆られるが、損傷したジオングでは対抗できない
と判断し、彼も後退を決意する。

 

「プレア。無事か?」
「は、はい。何とか……」

 

 無事なのを確認したクルーゼは、エターナルに戻る途中、クライン将校に向けて通信を送る。

 

「各隊に告ぐ。これよりエターナルは後退する。“歌姫”に集いたき者はエターナルに続け」

 

 ヒルダから通信が入るが、それを無視してエターナルに着艦した。
 その後にクルーゼの言葉に心を引かれた兵たちが続く。艦橋に行くと、ナスカ級2隻、ローラシア級3隻の
計5隻から賛同する通信が入る。
 ――これでいい。今はこれで……。
 新たに思い描いたシナリオと共に、クルーゼの乗る艦はプラントへと向かった。
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               *     *     *
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 事の詳細を知ったウィラードは、驚愕のあまりシートから腰を浮かしていた。

 

「ヤキン司令部はジオンによって占拠されており、ユーリ議員から戦闘停止命令が出ています」

 

 唖然としているウィラードを見た副官は、粛々と報告を続けたが、

 

「大変です。兵が戦闘をやめません!」
「何!?」

 

 司令部から戦闘停止命令が出ているにもかかわらず、各宙域で戦闘が継続されていた。何れもがベテラン兵
である。レイ・ユウキが懸命にこれを止めているが、まだ若い彼の命令を誰も聞こうせず、ザクやゲルググに
立ち向かっていく。
 ウィラードは彼らの行動を理解できた。戦況はザフトに有利だったのだ。ジェネシスにより味方も巻き込ま
れたが、それは問題ではない。このまま戦闘を続行しても、ザフトが勝利すると誰もが信じていたのである。
 しかし、ザフトの精神的支柱とも言えるパトリックが死んだことで、兵たちは皆冷静さを失っていた。
 ――どうすべきか。
 ウィラードは日頃の冷静さを必死に取り戻し、宿将として自分が取るべき道を模索した。
 このままでは多くのザフト兵の犬死という運命へ向かうだろう。ウィラード自身、潔く散るのも悪くないと
考えている。考えてはいるが、そこにあるのは何の意味もない死だ。それならば……。
 そして一瞬、ほんの一瞬ばかりの思索の時を置いて、ウィラードは立った。

 

「全艦、および全MSを集結させる。我が艦隊は、この宙域を速やかに離脱する!」
「ウィラード隊長!?」

 

 艦橋にいる誰もが驚いた。あのウィラードが、命令を無視して兵を動かすなど考えられないのだから。

 

「皆の者。今は耐えるのだ。生きてこそ得ることのできる勝利の日まで、皆の命、わしが預かる!」

 

 この事態に、ユウキも通信を送る。

 

『隊長! 一体何を……?!』
「すまないユウキ君」

 

 ウィラードは、一語一語を噛みしめるように言葉を紡いだ。

 

「古参兵の多くは降伏に納得しないだろう。こうでも言わなければ、皆が犬死するだけだ」

 

 ユウキへ向けてと言うより、内なる自分自身に対する決意の言葉だったのかもしれない。

 

「わしは彼らと共に行くよ。彼らが納得できるよう導くつもりだ」
『私も行きます』
「それはいけない。君はプラントに残り、若い連中を指導しなければならない」
『私に生き恥を晒せと?』
「そうだ。晒してもらう。生きてこそ得ることのできる、“真の”勝利の日まで」

 

 ユウキは無言でモニターに映る老将の顔を見た。
 ――真の勝利。
 理解するには、この一言だけで十分であった。この人は、自分に尤も困難な道を歩むよう言っているのだ。

 

「老兵は、ただ消え去るのみ。後は頼んだ」

 

 ザフトが敗北した今、武力による勝利はありえない。ウィラードたちがどこまで行けるかは分からないが、
力による独立は最早不可能と言っていい。ならば残る手は、ジオンを“内側”から変えるしかない。
 ――生きてこそ得ることのできる、“真の”勝利の日まで。

 

『了解……しました……』

 

 ユウキは涙ながら敬礼する。ウィラードは、ただ黙ったまま笑顔で頷いた。
 この後、ウィラード隊長旗下の艦隊はジオン軍の追撃をかわし、ヤキン・ドゥーエから離脱した。
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 コズミック・イラ71年4月23日深夜。ヤキン・ドゥーエは陥落した。
 その翌日、すなわち24日。元プラント最高評議会議長シーゲル・クラインから正式に降伏の意思が伝えられる。
この申し出をグワジンにいたキシリアは受け入れ、ドズルを経由し、攻撃中止が指示された。
 戦火を交えて1年と2ヶ月。長らく続いたジオン公国軍とザフト軍の戦争は、ジオンの完全勝利という形で
幕を閉じた。残存していた多くの艦艇、MSが宇宙の漆黒の中に姿を消して行く。この大半がウィラードに、
残りがクルーゼに感化された行動である。
 そして散発的な抵抗も終息し、ヤキン要塞が完全に制圧された後、将官たちのうちで最初の一歩をしるした
のはザビ家の兄妹のドズルとキシリアだった。

 

「ぶ、無事だったようだな。キシリア」

 

 最高司令官にもかかわらず、妹の危機に狼狽したドズル。

 

「……兄上もお元気そうで」

 

 方やジェネシスの存在に気付かず、艦の半数を失ったキシリア。

 

「どうした。先に行くといい」
「いえ、兄上が先に……」

 

 二人は再会すると、共にばつの悪い顔をするのだった。