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《短編機Ш汗なSide》 の変更点


 ひらひら、ひらりと。
 見事に色づいた銀杏と紅葉の葉が踊るように、しかしもの悲しく虚空を舞う。舞って、いなくなる。
 風に乗って蒼穹へ。或いは大地へ。ざぁ、ざぁと、さようならと言い合って思い思いに散っていく。
 そんな儚い様を眺めつつ、キラはとある少女に作ってもらった弁当箱を片手にのんびり歩いていた。
 11月下旬のある日の昼下がり、その貴重な1時間の休み時間。食事休憩。
 いつもは屋内で仲間達と過ごすその時間を使って、彼は珍しく独りで歩く。そういえば、ここに来て独りになったのは久しぶりのことだった。
 目的地は少女に教えてもらった工廠裏手の広場、そのベンチ。
 いつもは騒がしくも楽しいランチだけど、たまには一人落ち着いていたい時ってあるだろうと教えてくれた、云わば穴場スポットであるらしいソレ。
 確かにいつも六駆の四人と一緒にいる身としては、やはり「たまには」と思ってしまうわけで。だから早速、ちょっと悪いかなと思いつつもその場所に歩を進めてみるのだった。
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 (本格的な冬の訪れか。今まで意識したことなかったけど、この国じゃ侘び寂びっていう、散りゆく者の儚さってやつなのかな)
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 いなくなる哀しさに在る美しさ。
 その解釈が合っているかは定かではないが、なるほど、確かにこの様は美しい。
 道中でこれならその広場はもっと凄いのかもしれないと、吹きすさぶ木枯らしに首を竦めつつも期待感に胸を膨らませ、ようやく広場に辿り着いたキラ。
 そこで彼は、目的のベンチに先客がいることを知った。
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 「こんにちは翔鶴さん。編み物ですか?」
 「あら、こんにちはキラさん。お食事ですか?」
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 極彩色の乱舞の中でも一際目立つ白銀色の長髪を持つ少女、翔鶴。
 いつもおっとりとしていて微笑みを絶やさない、ちょっと大人びた翔鶴型航空母艦一番艦の艦娘。その妹の瑞鶴共々まだ数回しか話したことのなかった相手だったが、これも何かの縁かなと話しかけてみることにした。というか、話しかける以外の選択肢がなかったというのが正しいが。
 けれどまぁ勿論、話したくない嫌な相手というわけでもないので、その選択肢に不満や不安はこれっぽっちもない。
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 「うん。この辺りの紅葉が綺麗だって教えてもらって・・・・・・良いですね、これは」
 「そうでしょう。この時期に、ここで編み物をするのが私のお気に入りなんです」
 「へぇ・・・・・・」
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 彼女はベンチに座ってのんびり編み物をしていた。
 非番なのだろう。ゆったりとした私服姿で、二本の棒針を器用に操ってはただの一本線でしかなかった毛糸を意味のあるカタチに仕立てていく。編み物を実際に目にするのが初めてだったキラだから、その様は魔法のように思えた。
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 「この季節は、別れを告げる時期ですから・・・・・・だから何かを作りたいって思うんでしょうね」
 「そっか」
 「はい」
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 作っているのはコースターだろうか。かわいらしい花柄を象った小さな円盤が出来上がっていく様に、思わず目が奪われる。
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 「凄いね」
 「ありがとうございます。良かったらお一つどうですか?」
 「いいの?」
 「練習用で宜しければ、ですけど」
 「ありがとう。いただくよ」
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 お近づきのしるしに、というやつだろう。
 いろとりどりの毛糸玉を詰めたバスケットから取り出された、星柄を象った蒼色のコースター。練習用とのことだが、素人目で見ても充分精巧な出来で、言われなければ店売りのものと勘違いしていたかもわからない。
 勿論ありがたく頂くことにする。今度金剛さんのお茶会に誘われた時にでも使ってみようか。
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 「座らないのですか?」
 「邪魔じゃないかな?」
 「大丈夫ですよ。そもそも、ここをあえて独り占めなんて贅沢なことしたら、バチが当たりそうです」
 「それなら・・・・・・じゃあ、お邪魔します」
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 今までボケッと突っ立っていた青年であったが、見かねた少女に促されて、遠慮がちにその隣に腰を下ろすことに。
 そうしてようやく目的のベンチに座ることができたキラは、改めて広場全体を見渡してみた。
 種類も様々な沢山の木々に囲まれた小さな広場。散っていく落ち葉によって構成される絨毯とカーテンに飾られて、やはりとても綺麗な筈なのになんとも寂しげなものだと思う。それが不思議と心を落ち着かせ、ずっとここにいて耳を澄ませていたい気分になる。
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 「春になると桜が咲くんですよ」
 「じゃあ、それも綺麗なんだろうね」
 「ええ。ここが被害を受けなくて本当に良かった」
 「頑張ったもんね」
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 昔、ずっと海を眺めて一日を消費していた頃よりもずっと、優しい気持ちになれた。
 穏やかで、静かで。
 確かにここは、とても良いところのようだった。教えてくれた彼女にはまた改めて礼を言わねばなるまい。
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 「いただきます」
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 早速と、膝に置いた弁当箱を開いて一言。
 白米と唐揚げに卵焼き、茹でたブロッコリーにプチトマトというシンプルで手堅い構成のお弁当は、瑞鳳の手作りだ。一週間に二度、こうして料理が趣味な瑞鳳が第二艦隊全員分のお昼を用意する事があり、その時は皆思い思いの場所でお弁当と食べるのが第二艦隊のローカルルール。みんなで集まって食べるいつもの食堂とはまた違う趣があって、それこそ「たまには」こんなのもいいなと感じ入るキラだった。
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 「おいしそうですね」
 「瑞鳳さんのだから。食べます?」
 「いえ、さっき食べたばかりですから・・・・・・これ以上食べるとバルジが・・・・・・」
 「バルジ?」
 「なんでもないです。・・・・・・あら、にしては唐揚げが少し揚げすぎのようですけど・・・・・・?」
 「あれ、ホント。珍しいな」
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 紅葉と銀杏が舞う広場で、静かに美味しいお弁当に舌鼓を打つ。ちょっと寒いけど、こんな贅沢はなかなか無いと宇宙暮らしの長い青年は想う。
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 「もしかして・・・・・・そういうことですか」
 「え?」
 「・・・・・・いや。これも、なんでもありません。唐揚げもちゃんと味わって食べてあげてくださいね?」
 「?」
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 そんなこんなで、キラは食べて、翔鶴は編み物をして。
 ただただ静かな時間と空間だけを共有する。
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 「ごちそうさま」
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 いつもとはちょっと風味が異なる唐揚げもきれいに完食し、ついで支給された腕時計で時間を確認。休み時間終了まであと少し、これから何かをするには微妙に足りない微妙な時間帯だった。
 ならばこのままずっと、ギリギリまでここにいてもいいかもしれないと、不躾ながらボーッと翔鶴の手元を観察してみることにする。次はマフラーに挑戦しているらしい。
 こんなにも美しい景色の中で、黙々と毛糸を編み込む様は、実に「絵」になっていた。
 そこでふと、キラはあることを思い出した。
 この作りかけのマフラーのデザインは、つい最近目にしたものと瓜二つだ。
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 「そういえばこの前、瑞鶴さんが誕生日プレゼントだってはしゃいでたマフラーって」
 「ああ、私が作ったものですね」
 「すごく喜んでた。あれの色違いなんだ?」
 「ペアルックです♪」
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 姉妹お揃いの、デフォルメされた鶴が刻まれた手編みのマフラー。
 今まで見たことのない最上級の笑顔になった翔鶴に、ああ、愛しているんだなと強く感じた。
 少し、羨ましいと思った。
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 「妹か。いいよね、そういうの」
 「キラさんにも?」
 「うん。僕にも“きょうだい”が・・・・・・双子の姉がいるんだけど、誕生日とかそういうの、わかるな」
 「ペアルックを!」
 「あ、いや。流石にそこまではしなかったけど」
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 懐かしいなぁと、キラは微笑む。
 互いが互いにとっての唯一の肉親。双子の“きょうだい”。
 一緒にいられた時間は少なくて、たった二年だけ同じ国で暮らしていた戦友という感覚の方が大きいけど、それでも彼女と自分の誕生日は二人にとって特別なものだった。
 生きるということは、大切で、当たり前で、忘れがちで、難しくて。だから、それを確認しあえる日だけでも、ちゃんと大事にしていきたいからね。
 しかし、うむ、ペアルックか。その発想はなかったなぁ。兄弟姉妹でそういうのって普通なんだろうか。思えばこの鎮守府ってところ大体がペアルックだし、ここじゃ常識なのかもしれない。
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 「食事会して、ちょっとした小物を渡してさ。それだけだったけど、嬉しかったな」
 「生まれてきてくれて、今まで生きていてくれてありがとうと祝える日ですもの。嬉しくないはずないですよね」
 「そうだね。生きてるって、凄いことだから」
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 いつしか二人は、お互いの家族について語り合うようになっていた
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 「瑞鶴はね、いつもクッキー焼いてくれるの。作ってる姿がとっても可愛くて」
 「そっちなんだ・・・・・・、・・・・・・そういえば一回、カガリがケバブを作ってくれたことあったなぁ」
 「ケバブ? ・・・・・・あ、屋台とかで売ってるアレかしら・・・・・・」
 「リベンジとかいって有無を言わさずチリソースかけて持ってきて。そしたらどこからともなくヨーグルトソース握った大男が出てきて、僕はまたミックスソースを食べることになった」
 「わ、わぁー。ど、どうでした? チリとヨーグルトって、それは破滅では?」
 「やっぱりミックスが一番だね。そこからは血みどろの三つ巴戦だったよ・・・・・・勝利者はいなかったけど」
 「えぇー」
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 あんなことがあった、こんなことがあった、あの時の瑞鶴は可愛かった、とか。
 翔鶴は相変わらず編み物を進めながら、キラはそんな彼女の手元を観察しながら。
 そうしているうちに編み物は完成し、丁度休み時間も終わるという頃合いになって。
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 「じゃあまた」
 「ええ、また」
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 二人は何事もなかったかのように、自然に別れた。
 特に何かが変わったということでもなく、キラは持ち場へと引き返し、翔鶴はそのまま読書に移る。
 なんてことのない、ただ世間話が終わっただけだった。
 ただちょっとだけ、得られた何かに胸が暖かくなっただけの30分だけのお話。
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 「あ、そうそう。六駆の娘達が今朝頑張ってたみたいだから、ちゃんと褒めてあげてくださいね」
 「そういうことか。了解、教えてくれてありがとう、翔鶴さん」
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 それは別れを告げる木枯らしの中で、少しだけの絆と一つの編み物ができただけの、そんななんてことのない休み時間のお話だった。
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