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皇女の戦い 第六話 の変更点


 「本当にここまで来てくださいました!」「信じてましたよ。流石皇女だ。」
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 数人の技術者達が口々にマリナを誉めそやす。
 その内二人は皇女の到着前に焦りによって言葉を荒げていたが、それは彼らの立場からすれば自然なことと言えるのだが......
 マリナも相手が半ば無理をして話しているのを察知してか控え目に微笑んで首を横に振る。
 尤も頬は赤らめていたが...
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 「とにかく今日は休みなさい。明日の午後からだもの。響いたら事だわ。」
 「そうね。明日からだから...」
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 肩に手を置くシーリンに頷き会釈をするとホテルの個室に向かうマリナ。
 朝何者かに襲われたのでボディガード達が二人同行してくれた。
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 彼らにお礼を言って別れてから入った室内は自分の王宮とは違う、西洋風の部屋だった。
 イギリスなのだから当然と言えば当然なのだが、中東の伝統的な宮に住むマリナにとっては新鮮だ。
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 (......あんなに多くの機体が......それに今朝襲ってきた機体......あんなことをする相手は...?)
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 すぐにベッドに入ると今日一日の自分を取り巻く光景が頭を駆け巡る。
 ―――最も心に引っかかるのはあの奇襲してきた三体、特に一番好戦的なダークグレーのMSに搭乗していたパイロット...
 今までは例え苦戦しても純粋なファイトのみだったが、今回は不測の事態。
 動揺しつつもシーリンの言葉が頭を過ぎり―――シーツを握り静かに目を閉じた。
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 (...だめ。こんなことに囚われていたら全てが水の泡になってしまう...
 誰にも邪魔はさせないわ...!)
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 翌日――
 大会の為に暫定的に設けられた施設にマリナとシーリン、スタッフ達がいた。
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 「マリナ様、いつも通りに戦って下さいね。勝利するにはそれしかありませんから。」
 「ええ、ありがとう...肩の力を抜いていくわ。」
 「...それに、強張って負けることも許されないわ。マリナ。」
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 シーリンの真摯な表情に重く頷くマリナ。
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 「そうよね。私達の未来がかかっているもの。」
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 ユディータを見上げるとともにタラップで登っていく。
 機体内部の彼女は白い正装の服、紺色のスカート、下着を丁寧かつ素早く脱ぐとそれらは一時的に粒子に変換され消えていく。
 膝を着き両手を握りしめて切実に祈るマリナ。すぐに頭上から降りてくるスーツを身に纏い力強く立つ。
 胴体は水色、肩と股は薄い水色、四肢と臀部は純白だった。
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 会場はやはり、張り裂けんばかりの歓声で色めき立っていた。
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 「みなさん、記念すべき今回のファイト最初の日です!この目に焼き付けようではありませんか!」
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 実況を兼ねている司会者の隣にはイギリス代表にして前回優勝者がいた。
 ジャスパー・ディアス。筋骨隆々とした体躯に物静かな表情を浮かべた30代半ばの男だ。
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 「さて、栄えある最初のファイトは中東のアザディスタン代表・マリナ・イスマイール選手!
 何と皇女でありつつファイトに躍り出た異端と言うべきファイターです!
 その清楚な姿に秘められた力、しかと見せて頂きましょう!」
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 「対するはサモア代表!マロシ・デスタン選手!正統派のファイターとも言うべきパワータイプの巨漢!」
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 マリナと正反対の位置にはいかり肩の青い機体、ガンダムグラスプとそれを駆るデスタン。
 彼はどこかゴツゴツとした輪郭に荒くれ者の眼が印象的な大男だった。
 スーツの色は紺色。ややずんぐりとしているがファイターだけあって鍛えられている。
 本来ならマリナよりもこのような人物が国の代表になるのが普通だが...
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 「あの姉ちゃんに似て細っこい機体だな......どこまで戦えんだか...
 精々可愛がってやるぜ!」
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 自分の平手に拳をぶつけるデスタン。
 彼は格闘家でありながら、暴力的な嗜好も持ち合わせている男。
 会場の巨大モニターに映る線の細いマリナの写真は嗜虐心を煽るには十分だった。
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 「正にこの闘いの為に生まれてきたような男です!
 その剛腕で相手をねじ伏せるのか!それともマリナ選手の勝利か!
 それでは―――ガンダムファイトレディーゴー!」
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 ゴングと共に二体は近づいていく。
 しかし、敢えてマリナは腰を少し低くしあまりスピードを出さないようにしていた。
 相手の力を活かす戦法なので、行動を見て慎重にいこうとするが――
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 「姉ちゃん、勝たせてもらうぜ!」「!?」
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 得意げな声が聞こえたと同時に見た目からは想像できない程のスピードを突如見せるデスタンのMF。
 彼を掴もうとしたのも束の間、逆に細い首を強靭な腕で締め付けられる。
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 「どうよ?こいつが本物のファイトってやつだ!!
 今まで弱いのとしかやってねえんじゃねえのか!?」
 「うっ...!」
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 振り解こうとするが力の差は明確で、苦しみと共に呼吸が弱くなっていく。
 当然ながら相手の挑発を気にする余裕もない。
 何よりも抵抗していた両手に力が入らなくなり、古武道を使うことも適わない。
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 (...どう、すれば...!先に弓を使った方が正解だったかしら......)
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 しかしいきなりマリナのユディータを勢いよく放してしまう。ふらつきながらも背中の弓矢に手をかけようとした矢先――
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 「なっ......うぐっ...!」
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 儚い声と共にマリナは膝を着いた。腹部にデスタンの拳が入ったのだ。
 鋭い衝撃が入り込んでいくのがわかる。
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 (こんな......強いなんて...
 ずっと戦ってきたのに......世界にはこんなファイターがいたというの...?)
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 「うっ、...かはっ...!」
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 敢無く苦しげな息を吐いてしまうマリナ。
 気づけばグラスプは眼前で女鹿を狙う獅子のように見下ろしている。
 背中の矢を複数収めたボックスを強引に外され、場外に落とされてしまう。
 幸い機体本体の一部ではなく、マウントされたパーツだったのでGF自身のダメージは免れた。
 しかし、武器を奪われたのは絶望的だ......
 いつになく怒りの籠った視線を向けるマリナ。
 これまで戦ったファイターの中には流石にこのような行動に出る者はいなかった。
 どんなに手強く、態度に問題がある相手でも尊敬すべきところはあったが、デスタンは違った。
 どんな手段を用いても勝つ......
 決して武道に造詣の深くないマリナでも相手が道を外れたものであることがわかる...
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 「何てやり方...恥ずかしくないのですか!?」
 「ケッ、弱者の負け惜しみだな。悔しかったら実力を見せてみな。」
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 「おおーっと、デスタン選手。少々ダーティーなやり方だー!
 マリナ選手、大丈夫なのでしょうか!これはデスタン選手が有利か?」
 「全く、相変わらず大人げない奴だ。」
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 隣にいるジャスパーは呆れて溜息を吐く。
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 「彼を知っているので?」
 「ああ、見ての通り相手を挑発したり甚振るのがあいつの好む手段だ。
 正直まともなファイトとは言えないな。
 ...とはいえ、こういう状況を乗り越えられるかがカギだな。」
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 再度ユディータの白い機体に鈍い轟音と共にパンチが叩き込まれ、マリナは体の内外が衝撃と圧迫に襲われる不快感に襲われる。
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 「どうだ、パンチの味は?
 今まで城でぬくぬく生きてたお姫ちゃんには堪えるだろう。
 あんたみたいな姉ちゃんは王宮でお茶を啜っている方がお似合いなんじゃねえのか?」
 「――!!」
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 反射的に腹部を抑えた手に力が入る。
 男の言葉は全くの出鱈目だが心に深く突き刺さる...
 元より体力、腕力や相手を直接殴るセンスは他の選手に比べて乏しい...
 ――やはり心のどこかで自分にファイターの素質はない、闘いに相応しくない――
 そんなコンプレックスを自覚させられるが、きつく唇を噛んで相手の侮蔑を振り払う。
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 (だめ、挑発に乗っちゃ...聞き流さなきゃ...)
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 そしてデスタンが繰り出すタックル。
 文字通り目にも止まらぬ速さの攻撃を正面から喰らうマリナ。
 すぐに二発目が向かってくる!
 前面を向いたまま自ら後ろ側に跳ぼうとするマリナ。
 基礎体力の高い敵には基本的に背中を見せても無駄だと判断しての回避だったが...
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 「うあ......」
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 身体を足場から離したその矢先、低い呻きを上げて仰向けに倒れてしまった...
 気づけばステージのすぐ端。
 もはや敗北は寸前...アザディスタンのメンバーは諦めとも切実さとも取れる顔で見守る。
 しかしシーリンはそのどちらでもない表情で皇女を見つめていた。
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 (マリナ...あなたなら必ず...)
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 デスタンはやはりパワーとスピードを兼ね備える相手。マリナにとっては不利なファイターの一人だった。
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 (絶対、勝つ...!こんな人に負けられない!......イチかバチか)
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 痛みに耐えながらも腰を落とした姿勢で立つマリナ。
 敵を見据えて敢えて微動だにしない。
 集中力を意識的に高める。欲しいのは敵が見せる一瞬の隙......
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 (チャンスは一度だけ......!)
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 「観念したか!
 潔さに免じてこれで楽にしてやるぜ!有難く喰らいな!」
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 既に勝ち誇った表情の巨漢は拳を突き出す。最後は得意のパンチでマリナに止めを刺そうとする。しかし...
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 「はっ!」
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 ギリギリのタイミングで相手の足首を蹴った直後、脚を横にスライディングさせ避けるマリナ。
 元々体の軽い彼女はこのようなモーションを得意としていた。
 サバイバルイレブンに於いても、回避や攻撃への繋ぎとして何度も窮地を脱してきた。
 「?!」
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 突然のことに驚きながら倒れ掛かるデスタン。
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 半端に突き出され、今正に標的のいないステージに当たりそうになる彼の腕を掴み、柔らかい動きで捩じりながら外に投げ飛ばした!
 相手の不安定な態勢を利用する......マリナの得意とする技の一つだ。
 グラスプの巨体は一瞬轟音を上げて観客の鼓膜に鳴り響いた!
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 「そんな...俺が負けるだと...?」
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 ショックで唖然とするデスタン。
 無理もない、今まで屈強のファイターに勝ってきた巨漢が華奢な女性に負けたのだ。
 ただ青空と睨み合うしかなかった......
 マリナは汗を流しながら未だ真剣な表情は崩れなかった。
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 「おおっと!これは予想だにしなかった展開です!相手の動きを利用するとは!
 勝者、マリナ・イスマイール選手!」
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 「ほお、タイミングを計ったのか。中々繊細な動きをする選手だな...」
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 司会者の横でジャスパーも静かにだが感心を見せていた。
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 思わぬ結果に会場は一斉に沸き立つ。
 想像のできない試合を求める彼らは驚きと興奮を隠せない。
 タラップを伝って降りてくるマリナ。
 まだ痛みが取れず腹部を抑えているが、水色の瞳にあるのは嬉し涙だ。
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 「シーリン、私...」
 「おめでとう、マリナ。よく闘ったわね。
 まだ始まったばかりだけど今日はゆっくりおやすみなさい...」
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 そういって旧友にかけられたタオルで髪を拭く表情は自信と幸せに溢れていた。
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