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CCA-Seed_631氏_第5話 の変更点


 世界の情勢は、カリダの嘆きとは裏腹に最悪の方へ展開していった。
 大西洋連邦がプラントに対し、犯人の身柄の引渡しがなされないことを理由に、宣戦をしたのだ。
 一度はプラントの、犯人グループは全員死亡したという回答を受け入れた大西洋連邦であったが、すぐさまそれを棄却し先端を開いた背景には、高まった市民感情を抑えられない弱い体制と、ブルーコスモスからの圧力が見え隠れしていた。
 「どうやら、最悪の結果になってしまったようだな」
 テレビを見ていたシャアが、はぁとため息をつく:。ここのところ、この家の大人は四六時中ニュースに噛り付いていた。
 「戦争の回避は出来ないのでしょうか」
 不安そうにつぶやくラクス。
 「無理だろうな。ここまで開戦の機運が高まっては」
 「そうだな、ナチュラルの受けた傷は大きい。コーディネーターを打つことでしか、もはや傷を癒すことは出来ないだろう」
 アムロも、シャアの意見に賛同した。
 「そんな。でも、一度はプラントの犯人死亡と言う説明に納得したのに」
 カリダが嘆くが、シャアは冷静に反応する。
 「そんなことは、大西洋連邦も当然分かっているさ。実際、今回の被害は赤道直下の国々が主だ。大西洋連邦にはほとんど被害は無い」
 「だったら何故?」
 「これを見れば分かるだろう」
 シャアはリモコンでチャンネルを変える。ディスプレイには、コーディネーターを罵倒するプラカードなどを掲げた人々のデモが、延々と映されていた。
 「このままいけば、この怒りが大西洋連邦に向けられる。ユニウスセブンを止められなかったのはお前らのせいだとな。だからこそ、自分たちから目をそらす意味でも敵を作る必要があるのさ」
 「それと、ブルーコスモスも一枚かんでいるはずだ。連合と近い位置にいる彼らが、この気を逃さぬはずが無い」
 アムロがシャアに続いた。
 「だが、私は戦争よりも、オーブが今後どのように舵を取るかが気にかかる」
 「まあ、それは一体・・・?」
 ラクスが問いかける。自分の住んでる国の名が出てきて困惑しているようだ。
 「今回、少なかったとはいえオーブも被害を被った。市内でデモ隊が活動しているし、コーディネーターに対する目も厳しくなっている」
 「そのようですわね」
 ラクスは先ほどのニュースを思い出す。被害を受けた市民が、集団でコーディネーターに襲い掛かる事件が勃発しているようだ。
 「大西洋連邦は同盟に加わるように言ってきている。もしかしたら、同盟に参加するかもしれないと思ってね。それを危惧している」
 「だが、それはオーブの精神に反する。中立の理念はどうなるんだ?」
 「そうですわ。それに、カガリさんは絶対にその信念を曲げぬ方です」
 アムロとラクスは問いかけるが、二人の言うことは分かっていると言わんばかりに鷹揚に肯き応えた。
 「その、カガリという少女。私はあったことはないが、国民からはかなりの人気を集めているようだな。だがそれは彼女の政治手腕ではなく、オーブの前代表の娘というステータスと若々しいエネルギッシュな対応が受けてのことのようだな」
 「シャアさんはカガリさんを侮辱なさっているのですか?」
 ラクスが彼女にしては珍しく、柳眉を逆立ててシャアを睨む。親友と思っているカガリのことを貶されたと思ったようだ。
 
 「そんな顔で睨まんでくれ。私は別に彼女を貶しているのでない。実際、18という年齢を考えれば、彼女はたいしたものだと思う。よく一国をまとめていると思うよ。しかし、政治は知識や理想、理念、きれい事だけでは動かない。
 時には、老獪で卓越した経験がものを言うときもある。彼女には圧倒的にそれが足りないのだ。そして、この国でそれを担っている者がセイランだ」
 シャアは、以前調べた五大氏族の名を口にする。
 「厳しい言い方だが、彼女が担っているところはきれいな部分でしかない。実質、この国はセイランが動かしている。そして、そのセイランが大西洋連邦よりだというのが問題なのだよ」
 「セイランが大西洋連邦に付こうとしていると?」
 「可能性の無い話ではなかろう。もしセイランが同盟を結ぶつもりなら、周辺の根回しはとっくに出来ているはずだ。そんな狸どもに、18の女の子が一人で対処できると思うかね」
 「しかし、それではオーブの理念が・・・」
 カリダが食い下がる。
 「無論、理念は大事だ。しかし、そのためにもう一度国を焼くことになってもいいのかね?万が一、復興した国を再び焼かれる事態になったとき、それでも人々の前でオーブの理念を守らなくてはならないと言えるかね?」
 シャアの意見に、全員が考え込んでしまった。連合とプラントの戦争のみに頭が行ってしまっていたが、オーブも人事ではないのだ。確かに、そういう考えはあってしかるべきなのだ。
 しかし、何もすることが出来ないアムロは、ただ歯噛みするしかなかった。
 
 キラは、星空を眺めていた。
 宇宙には昼も夜も無い。まもなくこの無数の星空の中で、戦端が開かれようとしていた。
 「キラ」
 背後から声がかかる。ラクスだ。
 ラクスはキラの横に立ち、何も言わなかった。キラが空を見上げる理由が分かるからだ。二人はただ空を見上げていた。
 「何?ねえ、なあに?」
 一人の子供が目を擦りながら近づいてくる。ラクスの隣で寝ていた子供だ。
 「あらあら、起こしてしまいましたか」
 ラクスは微笑みながら、その子の崩れたパジャマを着なおさせる。
 キラはそんな二人の様子に笑顔を見せた。
 そんな最中、空が一面光出した。
 「あー」
 子供が空に向かって指を刺す。薄い紫色の光がいくつも弾けては消えていく。子供はまるで花火でも見るかのように喜んでいた。
 それとは逆に二人の表情は厳しくなる。
 「あれは・・・」
 ラクスが確認するように言葉を発する。
 二人には見覚えがあった。2年前、宇宙であれと同じ光を目撃していた。
 「あれは・・・核の光だ」
 手すりを掴む手に力が入る。キラの脳裏には2年前の情景がありありと浮かんできた。
 最終決戦。ラウ・ル・クルーゼとの死闘。すべてに絶望し、全人類の抹殺を企てたその男は、争いを生む人類の業を嘲っていた。
 「人は・・・結局はこういう結論に行き着くのか・・・」
 キラの口から悲しみが漏れていく。
 
 
 
 時を同じくして、アムロは自室で眠れないでいた。
 何か胸騒ぎがした。どう言い表せればいいのか分からない。宇宙が泣いている、無理やり表現するならそんな感じだろうか。
 アムロは体を起こし、ベッドから出る。そして、その足で屋上に向かった。
 ドアを開けると、見慣れた人物が空を見上げていた。
 「シャア」
 アムロの呼びかけに、シャアは振り返る。
 「アムロか・・・」
 「ここで何をしているんだ?」
 「君こそ何をしに来た?」
 「・・・寝付けなかった。ただ、夜風に当たりに来ただけさ」
 「嘘だな」
 シャアは断言する
 「お前も何かを感じてここに来たんだろう?」
 口ぶりからして、シャアも何かを感じたのか。
 「お前もと言うと・・・あなたも感じたのか?」
 「ああ、ざらざらとした感覚。不愉快極まりない」
 「俺は悲しみを感じた」
 アムロはシャアの横に立ち、手すりに背を預け言った。
 「悲しみ?」
 「感覚的なものだ。宇宙が泣いている、無理やり例えて言うならそんな感じだ。」
 「泣いている・・・か」
 シャアは考え込むように空を見上げた。アムロも習って頭を上げる。
 「ふふっ」
 シャアが軽く笑い声を上げる。
 「何がおかしい」
 「いや、すまない、別にお前を笑った訳じゃない。ただ同じ宇宙を見ているのに、こうも感じ方が違うというのがおかしくてな」
 「・・・・・・」
 「これが私とお前の違いなのかもな。この宇宙に私は不愉快さを感じた。だがお前は悲しみを感じ取っていた。私には、この宇宙に広がる表面の部分しか感じ取れないというこということを思い知らされてね」
 「カミーユなら俺以上に真理を感じ取れるはずだ」
 「そうかもしれないな・・・」
 それ以降、二人は押し黙る。自分たちが知る限り、最も人の革新を見せてくれた少年を、思い出すかのように。
 
 
 そんな中、空が急に明るくなった。
 核の光だ。
 「なっ、あれは・・・核!!」
 アムロとシャアは、驚愕の表情で宇宙を見上げた。
 少し前、自分たちの世界でも放たれた光。目の前で体験したそれを見間違うはずは無かった。
 「連合はプラントに対し核を撃ったというのか!!」
 人に対して核を撃ったということに対し、アムロは怒りが湧いた。ロンド・ベルも核を使用したが、それはあくまでアクシズを破壊するために使用したに過ぎず、ネオ・ジオン相手には一度として使用したことは無かった。
 いかに戦時中とはいえ、最低限のモラルがあるとアムロは考えていた。
 「連合はプラントをこの世から完全に抹殺するつもりなのか!」
 「そのようだな。この世界のナチュラルとコーディネーターの関係というのは、我々よそ者には理解できないほど溝の深いもののようだ」
 「しかし、人間相手に核なんて・・・」
 アムロはこの世界に来て日は浅いが、おおよその世界の情勢はすでに得ていたつもりでいた。自身も危険なNTとして軟禁されていた経験を持っているため、ナチュラルがコーディネーターを危険視するのは、ある意味納得できた。
 しかし、この孤児院でナチュラルとコーディネーターがうまく共存しているのを見ていたせいか、甘い考えが無意識のうちに刷り込まれていたようだ。ナチュラルとコーディネーターの溝の深さを、完全に認識させられた瞬間であった。
 「これじゃ完全に虐殺じゃないか」
 「それほど、今回の事件の与えた影響が大きかったということだろう。それと、もともとナチュラルはコーディネーターを人間として考えていないのかもしれないな」
 「コーディネーターは人間じゃないって言うのか。ばかばかしい」
 アムロはシャアの考えを一蹴した。それでは、キラやラクスも人間ではなくなってしまう。
 「私の意見ではない。むしろ、私にもそんな考えは理解できん。しかし、こうも躊躇いも無く核などを撃つところを見ると、そんな考えをせずにはいられん。
 人間は町で獣が暴れだしたら、躊躇無く殺すだろう。だが、人が暴れても殺しはせん。例えやむおえず殺すにしても躊躇うはずだ。人は、自分たち以外の種族にはどこまでも冷酷になれるものだからな」
 「・・・人はそこまで愚かじゃない・・・はずだ・・・」
 アムロは声細に呟いた。
 否定したかったが、否定しきれない自分がひどく悔しかった。
 アムロは人の可能性を信じていた。人の暖かさを信じていた。そして、それはこの世界に触れても変わることが無かった。ナチュラルもコーディネーターも同じ人間なのだ、分かり合えないはずが無い。
 しかし、現実はいやおう無くアムロの心に、棘を突き刺していく。自分たちの世界で、サイコフレームが見せてくれた人の心の温かさを否定するかのように。
 「・・・人はそんなに愚かじゃない」
 アムロは拳を握りながら、心の中で再度確認するかのように呟いた
 
 
 
 先日の核攻撃の失敗は、ほとんどニュースには上がらなかった。
 メディアがこの様な情報の統制をしかれている背景には、オーブがすでに大西洋連邦との条約締結に向けての算段が加速していることを意味していた。すなわち、同盟国の無様な姿は見せられないということである。
 「タイムリミットだな」
 バルトフェルドは、杖を持ち無線室に向かうと、あるチャンネルに周波数を合わせた。
 「ミネルバ、聞こえるか?もう、猶予は無い。ザフトはまもなくジブラルタルとカーペンタリアへの降下揚陸作戦を開始するだろう。そうなれば、もうオーブもこのままではいまい。黒に挟まれた駒はひっくり返って黒になる。脱出しろ、そうなる前に」
 バルトフェルドは何度も、ミネルバに対し脱出を薦めていた。その時、無線から凛々しい声が返ってきた。
 “ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ。あなたは?どういうことなの、この通信は?”
 いぶかしむ様子が声色から伝わってくるのが分かる。
 「おお、これはこれは、声が聞けてうれしいねぇ。初めまして。どうもこうも言った通りだ、のんびりしてると面倒なことになるぞ」
 “匿名の情報など、正規軍が信じるはず無いでしょ。あなた、誰?その、目的は?”
 タリアは至極最もなことを言ってきた。
 バルトフェルドはどう言えばいいか迷っていた。自分としては利益云々では無く、ただ純粋に元同胞に対し、この危機的状況を回避して貰いたかったに過ぎない。
 「うーん、アンドリュー・バルトフェルドって男を知ってるか。これはそいつからの伝言だ」
 苦肉の策として、ザフトでも有名であろう自分のネームバリューを使うことで信じ込ませることにした。
 しかし、これに対し、「うふっ、ふふふっ」と言う笑い声が後ろから聞こえてくる。マリュー・ラミアスである。彼女にはよほどおかしかったらしい。
 通信越しで何か考え込むような態度が窺える。バルトフェルドは構わず、先を続けた。
 「ともかく警告はした。降下作戦が始まれば、大西洋連邦との締結は押し切られるだろう。アスハ代表が頑張ってはいるがな。留まることを選ぶならそれもいい、後は君の判断だ、艦長。幸運を祈る」
 そういって、バルトフェルドは通信を切った。これ以上、警告する意味は無いと思ったからだ。会ったことは無いが、この凛々しく威厳を感じさせる声を聞いて心配ないと思った。きっと、的確で合理的な判断をしてくれると。
 
 
 
 バルトフェルドの言葉を受けてであろうか、ミネルバはその翌朝、オーブを出航した。
 そのミネルバは、オーブの領海を出るや連合軍に囲まれた。それもバルトフェルドは予見していたが、あのままオーブにいれば、間違いなく最悪の展開に発展する。酷かもしれないが、最新鋭艦のミネルバの力に期待しての通信であった。
 期待が通じたのか、どうにかミネルバは連合軍を撃退し、カーペンタリアへ向かうことに成功したらしい。
 「よおし」
 そう言うとバルトフェルドは、人数分のカップにコーヒーを注いでいく。4つのカップを盆に載せ、テラスへと足を運ぶ。
 テラスには、アムロとシャア、マリューの姿が見られた。
 「うーん、いい風だねぇ」
 潮風を感じながら、バルトフェルドはコーヒーを手渡していく。アムロは何故か顔が引きつっていた。
 「昨日よりも、ちょいとローストを深くしてみた。さあて、どうかな?」
 三人はカップに口を付ける。口に含み、舌先で味わうように飲んでいく。
 最初に評価を下したのはマリューだった。
 「昨日の方が好き」
 続いてシャア。
 「私は昨日のよりも、こちらの方が好みに合うな」
 二人の反応に何か思案げなバルトフェルド。
 「ふうん、君たちの好みが大体分かってきたぞ」
 一方のアムロはというと、二人の反応に半ば呆れていた。
 (俺には、このコーヒーのうまさがどうしても分からない)
 兎にも角にも、バルトフェルドのコーヒーは人を選ぶようだ。
 4人は手すりに腕を置き、海を眺め始めた。子供たちの無邪気に駆け回る姿が、なんとも可愛らしかった。
 「それで・・・」「でも・・・」
 バルトフェルドとマリューの声が重なる。二人は互いに譲り合うが、「こういう時は男性からでしょ」と言うマリューの言葉に、バルトフェルドが口を開いた。
 「まあ、オーブの決定はな。残念だが、仕方の無いことだと思うよ」
 大西洋連邦との同盟締結に対してのことである。
 「ええ、カガリさんも頑張ったんだろうとは思いますけど」
 「代表といっても、まだ18の女の子にこの情勢の中での政治は難しすぎる」
 アムロとシャアもオーブの決定は予測の範囲内であったが、それでもこういう決断を下したオーブの未来を案じずにはいられなかった。
 「まあ、彼女を責める気は無いがね。問題はこっちだ。君らはともかく、俺やキラやラクスは引越しの準備をしたほうがいいかも知れんな」
 「プラントへ?」
 「そこしか無くなっちまいそうだね。このままだと、俺たちコーディネーターの住める場所は・・・」
 バルトフェルドの言葉に、マリューは顔をしかめた。そんなマリューを見て、すぐに取り繕う。
 「あっ、いや、よければ君も一緒に。無論、シャアとアムロもな」
 「俺たちもか?」
 アムロは問いかける。
 「まあ、あんな宣戦布告を受けた後だ。今はまだ、プラントの市民感情も荒れているだろうが、デュランダル議長っていうのは、割りとしっかりしたまともな人間らしいからな。馬鹿みたいなナチュラル排斥なんてことはしないだろう。
 それに、二人はこの世界で戸籍が無いだろ。それもプラントに行けばどうにかなるだろ。今回のユニウスセブン落下の被害者を装ったりすればな」
 「ふうむ、確かに一考の余地はあるな」
 考え込むシャア。確かに元の世界に戻る手段が無い以上、この世界で生きて行く手段を考えなければならない。プラントに行けばそれも適うかもしれない、とシャアは考えた。
 アムロとマリューも考え込む。正直、今の状況を打破するためにはどの方法が最適なのか判断に困っていた。
 4者とも考え込む。お気楽な子供たちが羨ましかった。
 「どこかでただ平和に暮らせて死んでいけたら、一番幸せなのにね」
 マリューの言葉が、3人の心に深く染み渡った。
 
 
 
 それは、深夜に起こった。
 家中に、ハロの甲高い機械音声が響き渡った。
 正規の軍人として訓練を受けていた者達は、一様にそのハロの声で目を覚ます。キラも声に反応して、何事かと周りを見回した。
 アムロは何事かを確かめるため、バルトフェルドの部屋に向かった。その途中でシャアとかち合った。
 「これは一体?」
 「分からん、とにかくアンディの元へ行こう」
 二人はバルトフェルドの部屋に着き、開けようとした瞬間、向こうからドアが開かれた。ドアを開けたバルトフェルドの手には銃が握られていた。
 「アンディ、この騒ぎは一体?」
 アムロが問いかける。
 「ハロの声を聞いたろ。あれはこの家のセキュリティーを兼ねているんだ。何者かがこの家に侵入したようだな」
 そう言うとバルトフェルドは部屋に戻り、戸棚の中からさらに2丁の拳銃を取り出すと、アムロとシャアに投げ渡した。
 遅れて隣の部屋からマリューが顔を見せる。その手にも銃が携帯されていた。
 「一体どこの連中が・・・?」
 マリューが呟く。
 「今はそんなことを言っている場合ではない。アンディ、どこか逃げる場所はあるのか」
 シャアが安全装置を外しながら問いかける。
 「この家の奥がシェルターに繋がっている。とにかくそこに向かおう。君はラクスや子供たちを」
 マリューはすぐさまラクスや子供たちの寝室へと向かう。
 「二人は俺と一緒に迎撃に出てくれ」
 バルトフェルドの言葉に、アムロとシャアは首肯で応えた。
 3人は侵入されたと思われる場所へと足を運ぶ。
 キラの部屋を過ぎようとしたとき、本人がドアを開けて出てきた。
 「なっ、どうしたんですか?」
 3人の手に銃が握られてるのを見て、顔を強張らせる。
 「早く服を着ろ、嫌なお客さんだぞ。ラミアス艦長と共にラクス達を」
 「あっ、はい」
 キラは素早く着替えを済ませ、ラクスの部屋に駆け出した。
 3人は1階に着き、辺りを警戒する。相当の数の気配が感じられた。ただの押し込み強盗では無いことが窺える。
 その時、窓の外で動く影をアムロは見逃さなかった。
 「アンディ、窓の外だ」
 アムロが叫ぶ。
 その声を聞くや、バルトフェルドは銃を窓に向けると、気配が逃げた方へ、銃を数回発砲した。
 ガラス戸が割れる音と共に、「うあっ」と言う悲鳴が木霊した。
 バルトフェルドはすぐに壁に隠れる。その瞬間、マシンガンの嵐が、バルトフェルドがいた空間を過ぎていった。
 アムロとシャアも壁や倒したテーブルを盾に、銃撃戦を繰り広げていった。
 
 
 
 一方、マリューはラクスの部屋に入るや全員を起こしにかかった。
 「ラクスさん、それにみんなも起きて」
 マリューの声に、全員が体を起こした。
 「なあに」「眠いよ」
 子供たちは、目を擦ったりしながら不平を垂れている。ラクスも、すぐにこの状況が理解できなかったようだ。
 「マリューさん?」
 何事かを聞こうとしたラクスは、「ラクス」と彼女の名を呼ぶドアの方へ目をやった。
 キラがカリダとマルキオ導師を従え、部屋に入ってきた。
 その時、ガラス戸が割れる音が聞こえてきた。
 子供たちが悲鳴を上げる。
 「みんな、静かに。私についてきて」
 子供たちを黙らせると、全員を先導してシェルターに向かった。
 「窓から離れて。シェルターへ急いで」
 キラとラクスに先導させ、最後尾から警戒するマリュー。
 ちょうど窓際を通ったとき、影が動くのが見えた。マリューは敵の走るほうに中りを付けて、銃弾を叩き込む。
 子供たちが悲鳴を上げ、ラクスたちに抱きついてくる。ラクスはそんな子供たちを軽く抱きしめ、シェルターへ向かった。
 
 「ちぃっ、一体何人いるんだ」
 アムロは途切れることのマシンガンをテーブルの影でやり過ごし、銃のマガジンを換装した。
 「我々だけではどうしようもない。隙を見てこの場を離脱するぞ」
 「ああ」
 隣で壁に身を潜めながら銃撃戦を繰り広げているシャアの言葉に、アムロは素直に耳を傾ける。
 一瞬、銃撃が止んだ。弾が切れたのだろうか。二人はこの瞬間を見逃さなかった。
 「今だ、アムロ」
 そう言うやシャアは後方へと駆け出していく。アムロもそれに続き、後方へ走り出す。
 T字路の廊下に差し掛かり、シャアはシェルターのある左側に入っていく。アムロの方に目を向けると、後ろには戦闘服に身を包んだ兵士が追いかけてきていた。
 「アムロ、後ろだ」
 シャアは叫ぶや、アムロの後方にありったけの銃弾を叩き込む。アムロはT字路の左側に飛び込むように滑り込んでいく。間一髪、二人のすぐ横を銃弾が過ぎていき、壁に大量の銃創を刻んでいく。
 二人は壁に身を潜め、銃の音が近づいてくるのを頼りに敵が来た瞬間、シャアが敵の鳩尾に蹴りを叩き込むと、すぐさまアムロが止めを刺した。
 二人はすぐに、シェルターへと走っていく。
 シェルターへ向かう途中で、バルトフェルドが敵を倒し終えたところに出くわした。その左手は肘から下が、重厚な銃になっていた。
 「なっ、アンディ、その腕は・・・!?」
 アムロは驚き、詰問した。
 「ふっ、2年前の名誉の負傷さ。そんなことより、早くシェルターへ」
 腕のカバーを被せながら、バルトフェルドはシェルターへと向かっていく。二人もそれに続いた。
 
 
 
 3人がシェルターの元に着くと、マリューが一人で銃撃戦を展開していた。その後方では、マルキオがシェルターの扉の暗証番号をインプットしている。
 3人はマリューを援護し、銃弾を打ち込んでいく。
 「みんな無事のようだな」
 合流するや、全員の顔を見回すアムロ。無事を確認し、安堵の息をついた。
 シェルターの硬い扉が開かれる。
 ラクスは子供たちを連れ入って行く。全員入り終ると、バルトフェルドは扉を閉めるため、システムに手を伸ばした。
 その瞬間、ハロが機械音声を出し始めた。
 キラは、通気孔から伸びた銃に目が入った。その狙いは、ラクスへと向けられていた。
 「ラクスッ」
 キラは、ラクスに飛び掛る。ラクスの頭のあった場所を、銃弾が通過していった。
 銃を持っていたものは、みな通気孔に銃弾を叩き込んだ。
 絶命を確認するや、すぐにシェルターにロックをかける。
 みな、一様に荒い息をついていた。マリューはその場に座り込んでしまった。
 「はあはあ・・・コーディネーターだわ」
 「ああ、それも素人じゃない。ちゃんと戦闘訓練を受けてる連中だ」
 「ザフト軍ってことか?」
 アムロが尋ねる。
 「まだ分からんが・・・その可能性が高いだろう」
 「だが・・・何故、ザフト軍が彼女を狙う?」
 「そこまでは分からんさ」
 みんなの視線がラクスに集中する。そのラクスは、「大丈夫ですからね」と泣く子供たちを慰めていた。
 そんな折、強い地響きがシェルターを襲った。
 「これは・・・?」
 マリューの悲鳴にも似た声がシェルター内に響き渡る。
 「これは・・・MSか」
 「おそらくそうだろうな」
 アムロとシャアが口々に言い出す。
 白兵戦の失敗によって逃げ帰ったと思っていたが、MSを出してくるとは誰もが予想だにしなかった。
 「何が何機いるか分からんが、火力のありったけで狙われたらここも長くは持たんぞ」
 バルトフェルドは「くそっ」と悪態をついた。
 「何か対抗する手段はないのか?」
 アムロはバルトフェルドを問い詰める。
 「・・・1つだけある」
 そう言うや、ラクスのほうに目を向ける。
 「・・・ラクス・・・鍵は持っているな」
 ラクスの顔に陰りがよぎる。いや、ラクスだけではない。アムロとシャア、それに子供たちを除いた全員の顔に力がない。
 そんなラクスを気にすることも無く、バルトフェルドは続けた。
 「扉を開ける、仕方なかろう。それとも今ここでみんな死んでやったほうがいいと思うか?」
 「いえ、それは・・・」
 力なく響く声とは対象的に、キラの手を握るラクスの手に力が入る。
 アムロは、何か手段があるなら講じないでどうするとばかりにラクスに詰め寄ろうとするが、シャアに肩を止められた。
 
 「何故、止める?」
 「落ち着け。少し考えれば分かることだろう」
 シャアはそういうとアムロから手を離した。
 アムロは足を止め、全員を見回した。この状況を打開する手段があるのに、乗り気じゃない住人たちを。
 (相手のMSに対抗する手段?扉を開ける?・・・・・・・・・そうか、そう言う事か!!)
 アムロは状況が飲み込めた。MSに対抗する手段。それは、こちらもMSで対抗するということに他ならない。
 しかし、それはキラを再び戦場へ帰還させることに繋がるのだ。2年前の戦争を未だに引きずるキラに、MSに乗れというのはあまりにも酷な話であった。
 そんな中、躊躇い顔を伏せるラクスに、キラはやさしく微笑みかけた。
 「貸して、僕が開けるから」
 「えっ、いえ、でもこれは・・・」
 ラクスはキラを行かせまいと、ハロを抱きしめた。
 そんなラクスをキラはやさしく抱きしめた。
 「大丈夫。大丈夫だから・・・」
 「でも・・・」
 「このまま君たちのことも守れずに、そんなことになる方がずっと辛い」
 「キラ」
 ラクスの頬を涙がつたう。
 「キラ、本当にいいのか?」
 アムロが確認する。確かにそれしか手段が無いのは分かっているが、それでも聞かずにはいられなかった。
 キラはアムロのほうに振り返る。
 「はい」
 「再びMSに乗ったら、普通の生活に戻るのは難しくなるぞ。いや、もう二度と戻れないかもしれない」
 「分かってます。それでもここで何もしなかったら、それこそ一生後悔してしまいますから」
 「決意は固いようだな」
 「はい」
 アムロはそう言うと、バルトフェルドに顔を向けた。
 「アンディ、MSは1機しかないのか?」
 「いや、他にルージュとムラサメがあるが・・・」
 「そうか、ならば俺も出よう」
 「アムロさん!!」
 キラがアムロを見つめる。
 「君1人を辛い目に合わせてしまっては、大人としての立場が無い。情けない大人と思われたく無いからな」
 「ふっ、同感だな」
 これまで聞き手に回っていたシャアも口を開く。
 「MSがあまっているなら好都合だ。私も出よう」
 「シャアさんまで!!」
 「君は2年間のブランクがあるのだろう。出るMSは1機でも多いほうがいい。最も、7年間のブランクを全く感じさせない天才も、異世界にはいるがな」
 そう言ってアムロに目を向ける。アムロもそんなシャアの皮肉に、軽く笑い返した。
 「アムロさん、シャアさん、ありがとうございます」
 キラが二人に頭を下げた。
 
 
 
 扉の中にはフリーダムを中心に、その横を固めるようにルージュとムラサメが並んでいた。
 「アムロ、お前がルージュを使え」
 シャアはそう言うと、ムラサメの方に行こうとした。
 「待て、俺がルージュを使ってもいいのか?」
 アムロは聞き返す。2年前の機体とはいえ、仮にもオーブ代表の機体である。現在の技術で改良を加えられたこの機体は、量産型MSのムラサメより高い性能を誇っているはずであった。
 シャアは足を止める。しかし振り向きもせず、ただ一言、言葉を発した。
 「“ガンダム”はアムロ・レイの機体だ」
 そう言うや、ムラサメのコックピットに入っていった。
 アムロはそんなシャアに軽く一礼すると、ルージュのコックピットに座り込んだ。
 全周囲モニターに慣れ親しんだアムロにとって、前方にのみモニターのある機体に乗るのは、実に15年ぶりの事だった。
 「一年戦争時を思い出すな」
 ガンダムに初めて乗り込んだ時を思い出す。無我夢中だったあの時には、自分が異世界に行くなんて、それこそ夢のまた夢であった。
 アムロはMSの設定を、OSに補助を任せるオートから、大半をマニュアルで操作できるように変更した。この機体は、ナチュラル用のOSが組み込まれているため、大半をOSでまかなうように設定されていたからだ。
 “アムロさん、シャアさん、お先に出ます”
 キラから通信が入る。
 MS専用の出入り口が無いため、キラはビームライフルを真上に向けて発射し、穴を開けた。バーニアが火を噴き、フリーダムは真上へと消え去っていく。
 「シャア、先に出るぞ」
 アムロはシャアにそう言うと、フリーダムの開けた穴から飛び出した。
 
 
 地下を飛び出したアムロは、すぐさま敵MSを確認する。
 全体を緑色でカラーリングされたその機体は、全部で16機確認された。
 (ゴッグやズゴックに似ている。形状から考えて水陸両用タイプか)
 そんなことを考えていると、穴から飛び出したシャアから通信が入った。
 “1機は必ず残せ。真相を吐かせなければならない”
 「分かっている」
 アムロは、敵が撃ってきたビームを交わしながら、高速で敵機へと突っ込んでいくと、1体をビームサーベルで頭から真っ二つに切り裂いた。その後方からもう1機が突っ込んできたが、アムロはアッシュの爪を避けつつ、腕を切り落とすと、すかさず胴体を二つに切り裂いた。
 シャアの方に意識をやると、機体性能を考えてか、遠方でビームを交わしつつ、的確な射撃を見せていた。あの回避や射撃から考えて、シャアもマニュアル操作で戦っているとアムロは感じた。
 キラも2年のブランクを感じさせることも無く、機体性能をフルに使い、近距離遠距離を縦横無尽に飛び回り、攻撃を展開していった。
 もはや、アッシュ部隊に勝ち目は無かった。いや、それは最初から分かりきっていたことであった。この世界でおそらく最強であろう3人のタッグに、どれだけ数で責めようと、勝てる見込みなどどれほどあろうか。
 敵隊長機であろう機体を残し、すべてのMSが撃破及び無力化させられていた。
 隊長機が、半ばやけくそにキラに突っ込んでいく。それをキラは、シールドでかち上げ、無理やり地面に叩き付けた。すぐに機体を起こし攻撃に入ろうとするが、キラは冷静に武器のみに照準を合わせ、無力化していく。
 すべての武器と足を無力化させられ、達磨と化したアッシュにアムロは投降を呼びかけようとした。しかし、その瞬間、機体は大きな爆発音と共に鉄屑の山と化していった。それに連動するように、無力化されただけの機体も隊長機と同じ道を辿っていく。
 “なっ”
 キラの声がアムロに届く。
 まさか、自爆するとは思っていなかったのだろう。キラの驚愕が声を通して伝わってきた。
 “ふう、これで真相は闇の中か”
 シャアのため息も聞こえる。
 日が差し始めた空の下、3体のMSがただ悠然と佇んでいた。
 
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