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  第二話 『また戦いがしたいのか』後編 
 
  プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、今年で三十二歳になる少壮の政治家だ。 
  ユニウス条約締結後に退陣したアイリーン・カナーバの後を受けて選出され、一年半に渡ってプラントの執政を行っている。 
  政治党派としては旧クライン派に属し、カナーバ政権の対地球穏健政策を継承している。 
 だが一方では、旧ザラ派の議員を政権に復帰させて国内の融和をアピールするといった度量や、条約で義務付けられた量的な軍縮の背後で新型MS開発を強力に推進する腹芸も併せ持っており、清濁併せ呑む中道派と目されていた。 
 「状況はどうなっている!?」 
  混乱した工廠内を、司令部を目指して足早に進みながら、デュランダルは随員に厳しい口調で尋ねた。普段は柔和な笑みを絶やさない端正な顔にも、険しい表情が浮かんでいる。 
  明日の式典を主催すべく本国を離れてここアーモリーワンを訪れたデュランダルは、友好国元首との極秘会談中にこの奇禍に遭遇したのだ。 
 「誰がここの指揮を執っている!? あの三機はどうした!? 状況を説明してくれ!」 
 「お、お待ち下さい議長。何分、回線が混乱しておりまして、司令部との連絡が――」 
 「ええい!」 
  苛立たしげに舌打ちすると、デュランダルは工廠の一角を睨みつける。そこには我が物顔で施設を破壊し、迎撃に出たザフトMSを蹂躙する三機のMSがあった。 
  ZGMF−X24Sカオス、ZGMF−X31Sアビス、そしてZGMF−X88Sガイア――共に最新鋭の高性能MS群、セカンドステージシリーズの機体である。 
  だが今、新たなるザフトの力の象徴として建造されたこの三機は、皮肉にもそのザフトを相手に、能力の全てを遺憾なく証明していた。 
 「議長、司令部と繋がりました!」 
 「貸したまえ!」 
  デュランダルが随員に手を伸ばした正にその瞬間、水平に発射されたカオスのビームライフルが司令部棟を直撃、跡形もなく吹き飛ばした。 
 「司令部、沈黙しました」 
 「見れば分かる!」 
  雑音しか流さない通信端末を呆けた様に掲げる随員を怒鳴りつけたデュランダルの目が、ふと工廠最奥のドック――正確にはそこに係留された一隻の宇宙戦艦に止まる。 
  淡いグレイに塗装されたその艦の名はミネルバ。進宙式を明日に控えた、セカンドステージMSの運用母艦である。 
 
   ○   ●   ○   ● 
 
 「司令部とはまだ繋がらないの?」 
  ミネルバの艦橋で、白服を着た妙齢の女性士官が固い声で尋ねた。艦長のタリア・グラディスである。 
 「駄目です! どの回線でも応答ありません!」 
  コンソールと格闘していた情報管制官のバート・ハイムが答える。頷いたタリアは、傍らに直立する黒服を着た中肉中背の青年士官――副長のアーサー・トラインを振り向いた。 
 「アーサー、シンはまだなの?」 
 「は、はい、いまだに」 
  あからさまに動揺した声で、アーサーは答える。 
 「そう……」 
  表情に苦いものを滲ませながら、タリアはしなやかな指を顎に当てて考え込んだ。 
  状況は、控え目に言って魔女の大釜といった有様だった。コロニーの内外で同時に発生した戦闘により、事態は混乱への一途をたどっている。 
 「それにしても……どこの部隊かしらね? こんな大胆な作戦」 
  タリアが呟くと同時に背後の扉が開き、緑色軍服を着た小柄な少女――MS管制官のメイリン・ホークが駆け込んできた。 
 「申し訳ありません、遅くなりました!」 
  急いで自分の席に座り、モニターをチェックする。 
 「メイリン、あなたが戻ったという事は、シンも一緒?」 
 「はい! 今、格納庫に向かってます!」 
  メイリンの答えに、タルアは頷く。何にせよ、これでこちらも手が打てる。 
  その時だった。バートが、緊張した表情で振り返った。 
 「艦長、港湾部で新たな戦闘が発生しました」 
 
   ○   ●   ○   ● 
 
  戦闘の合間を縫って、オルバは港湾部へと潜入していた。ここにも混乱は波及しており、ザフトの軍服を着たオルバを見咎めるものは誰もいなかった。 
 「全く、なっていないね」 
  冷笑したオルバは、宇宙港の片隅に係留されていた一隻の民間宇宙船に乗り込む。その船には六角形に組まれたネジの意匠――ジャンク屋組合のマークが描かれている。 
  現在のジャンク屋ギルドは地上・宇宙を問わず、持ち前の技術力を生かして大規模公共事業への参画を推進している。これは休戦によって、ジャンクという『資源』の供給が先細りになる事を見越したリーアム会長の方針であり、ここアーモリーワンの建造にも多くのジャンク屋が参加していた。 
 「これはフロスト少佐」 
  船に残っていたいかにもジャンク屋、といった風情の大男が、オルバを見てニヤニヤと笑った。 
 「その名では呼ばないようにと言ったよ。アレは?」 
 「格納庫に置いてまさあ。言われた通り、一切手をつけてやせん」 
 「よろしい。ならば君も避難したまえ。ここも直に戦闘になる――ああ、報酬にはこの船の代金も上乗せしておくよ」 
  そいつは桑原桑原と、ジャンク屋の船長はオルバを残してシェルターに向かった。 
 『始末しておかなくて良かったのかい』 
  格納庫へと続くタラップを下りながら、オルバは思念でシャギアを呼ぶ。 
 『まだ利用価値はある。使える手駒をわざわざ減らす必要もあるまい』 
 『それもそうだね』 
  たどりついた格納庫の一画、廃品寸前の作業用MSやジャンクパーツの山に紛れ、一体のMAがあった。 
  黒と紫に塗られ、甲殻類に似た形状を持つその機体のコクピットにオルバは乗り込んだ。 
 熟練した手つきで、素早く機体に火を入れる。 
  敵対勢力化へとMSを持ち込むのに、ジャンク屋の看板ほど都合のいいものは無い。独立不羈の気風が強いジャンク屋だが、飴と鞭を巧みに使えば、尻尾を振るものは必ず現れる。 
  かつてのAW世界で海千山千のバルチャーと渡り合った経験のあるフロスト兄弟にとって、ジャンク屋を手懐けるのはさほど難しい事ではなかった。 
 「さて行こうか、相棒」 
  船のハッチを体当たりでぶち破り、MAが踊りだした。凄まじい加速で、今まさに出航しようとするローラシア級MS搭載艦に追いつく。 
  変形。機体の前部が背後に回って大型バックパックとなり、その下からデュアルアイとアンテナを備えた頭部が現れ、折り畳まれていた四肢が展開し――MAは一瞬で、頭頂高にして20メートル近い大型MSとなった。 
  GAT−X315アシュタロンR(リファイン)。フロスト兄弟がブルーコスモスに持ち込んだ二機のMSを解析し、得られた技術を用いて建設された『習作』というべき機体である。 
  核融合エンジンが再現できず、バッテリー駆動の採用による稼働時間の低下を覗けば旧アシュタロンに匹敵――いやCE独自の技術を併用した事によって、部分的には凌駕しうるMSとして完成していた。 
 「見せてあげるよ、ガンダムアシュタロンの力をね」 
  バックパックの両脇に装備された一対のクローデバイス、アトミックシザースを展開、先頭のローラシア級の艦橋に振り下ろした。大質量と高速移動が相まったその一撃はブリッジを艦長以下の要員ごと叩き潰した。続いてシザースに内蔵されたクロービーム砲が火を吹き、内部から高エネルギーに晒されたローラシア級は爆発を起こす。 
  続く艦も狭い港口では巻き添えを避けられず、二隻が残骸に突っ込んで擱座した。全ては、一瞬の出来事だった。 
  満足そうに頷いたオルバはアシュタロンを再びMA形態に変形させると、破壊され機能を停止した宇宙港を後に、アーモリーワンの内部を目指す。 
 「さて、引率の仕事がまだ残ってるか」 
 
   ○   ●   ○   ● 
 
  最早、一刻の猶予も無い――タリアは決断した。 
 「これより本艦は、独自の判断で行動します」 
  タリアの言葉にアーサー、メイリン、バート、それに操舵手のマリク・ヤードバーズや砲手のチェン・ジェン・イーといったブリッジクルーが頷いた。 
 「エイブス主任、インパルスは行けるわね」 
 『いつでも出せます、艦長。たった今、パイロットが到着しました』 
  艦内通信モニターの向こうで、マッド・エイブス技術主任が力強く答える。 
 「そう。メイリン、緊急シークエンスでインパルスを発進させて。――ああ、フェイズ6から11、20から28までは省略してね」 
 「了か――ってえええぇぇぇっ!?」 
  タリアの無茶苦茶な命令に、思わずメイリンは素っ頓狂な大声を上げる。ただでさえ、インパルスの発進には複雑なシステムが採用されているのだ。そんなギリギリまで簡略化した手順で強行すれば――最悪の場合、事故を起こしてパイロットが死ぬ。 
 「復唱なさい、メイリン。発進時間の最短記録更新を期待しているわ」 
  タリアの笑顔は、メイリンには悪魔のそれに見えた。 
 
  六三秒後、四機の飛翔体がミネルバから飛び立った。 
 
 「くそっ!」 
  全長6メートル弱の小型戦闘機、コアスプレンダーのコクピットで、シンは悪態をついた。 
  工廠内には黒煙が立ちこめ、破壊されたMSの残骸がそこかしこに転がっている。ふつふつと滾る怒りを感じながら、シンの目は目標を探す。 
 「見つけた!」 
  三機のセカンドステージを捕捉すると同時に、シンの手がコンソールを叩く。 
  コアスプレンダーの機首と主翼が折り畳まれ、後続の飛翔体が前後から挟み込むようにドッキング、最後に最後尾の無人機シルエットフライヤーから分離したモジュールが背部に装着される。 
  鉄灰色の機体表面が相転移反応を起こし、赤と白の二色に染まる。そこに現れたのは一機のMS――セカンドステージシリーズの一機であるZGMF−X56Sインパルス、その近接戦闘形態であるソードインパルスだった。 
  ソードインパルスは背負った二振りの大剣、レーザー対艦刀エクスカリバーを抜き放ち、アーモリーワンの人造の大地に降り立った。二本の対艦刀を柄の部分で接続し、モーション確認を兼ねて頭上で大きく振り回す。 
 「何でこんな事……」 
  振り下ろした刃の切っ先を、カオス、アビス、ガイアに突きつける。 
 「また戦いがしたいのか! あんた達はっ!!」 
  込み上がる激情のまま、シンは吼えた。 
 
 
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