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sin-kira_SPIRAL_第01話

Last-modified: 2011-12-12 (月) 10:15:49

私は目の辺りにした。
自分達が戦っている裏で犠牲になっている国民達の苦しむ姿を。
分かってはいた。
彼ら兄妹の様な悲しい犠牲者が必ず生まれることを。
それを分かった上で、私達は戦ったのだ。
初めての実戦だったからなどと、言い訳出来る筈もない。
自分達の弱さがこの事態を引き起こしたのだ。
 強くあらねばならない。この国は。
この戦時下で中立を貫き通すというのならば、我々は強くなければならないのだ。
いや、戦後もそうでなければならない。中立を維持する為には言葉だけでは足りない。
それを護る鉄壁の防備が必要なのだ。
それが軍。すなわち我々。
私はかねてからの持論をより強いものとした。
彼ら兄妹は……私にとって護れなかった者達の象徴となった。
だからせめて……私に現実を改めて突き付けてくれた二人を護っていこう。
託けた願掛けなのかもしれない。馬鹿らしい偽善なのかもしれない。
それでも……
「私が君達を護ろう」
 彼は悲しそうに微笑んで頷いてくれた。

 

 その後、私は大勢派だったアスハ派を抜け、ウナト氏が率いるセイランの派閥に転向することとなる。
ウズミ様は自ら命を絶ち、カガリ様が宇宙に上がってしまった今、旧五大氏族は形骸化したも同然だったからだ。
氏族達の中で割合力を保ち続けていたサハク家は元々信用ならなかった。
私はこれから大きくなるであろうセイランに付いたのだ。
例えカガリ様が帰ってきたところで何も変わらない。
あの姫は理想に燃える熱きお方だ。
だが獅子ではない。
あれにはまだ牙が無いのだ。
理想を幾ら振りかざしても、それをも抑えつける力の前には容易く吹き飛ばされる。
ならばとるべき道は……。
「それをも上回る力を、私達が手に入れてみせる」
 それは悪魔との契約かもしれない。
アスハとは正反対の方針を打ち出すだろうセイランに取り入ったことが、今後どういった形で現れるかは分からない。
だが、彼らは何れ力を求めるだろう。
自らの利益の為、ひいては国益の為に。
汚いと罵られても、私は貫いてみせる。
私は今、暁に誓った。

 
 

機動戦士 ガンダムSEED DESTINY SPIRAL 〜黄金の輝き〜

 
 

第一話 『現状・1』

 
 

 終戦。
およそ二年にも及んだ戦争は終結した。
最後の戦いの場、ヤキン・ドゥーエでのクライン派―通称、三隻同盟(後の歌姫の騎士団)の介入によって、戦場は大いに混乱。
連合、ザフト両軍は、お互いを潰しあい、さら三隻同盟の誇る規格外MS、フリーダムとジャスティスの二機を中心とした
無差別攻撃の前にその戦力を殆ど奪われる形となった。
つまり、結果だけ見てしまえばこの場の勝利者とはすなわち三隻同盟―ラクス・クラインに他ならなかったのだ。
しかし彼女達は何をするでもなく戦後の混乱の闇に消えてゆく。
勝利者不在の戦争終結。
結局この停戦は、お互いに戦う力を失った両勢力が仕方なしの合意の元に行った脆いものだった。
一応プラントは国家としての体制を地球側に認めさせられたわけだからプラント側の優勢勝ちとも取れないではないが。
ともかくこうして戦争は終わった。
が、オーブにとってはこれが新たな始まりだったのだ。

 
 

―終戦より半年後 オーブ連合首長国・アカツキ島―

 
 

「これが、ウズミ氏が遺した`オーブの護り手'か」
オーブ領、アカツキ島。
その地下施設にトダカはいた。ここはオーブにとって、特に意味のある島ではなかった。
しかしそれはアスハ家によって隠匿されていたある施設を隠す為の方便だった。
この島の地下には、兵器製造工場がある。
そこに隠された一体の開発途中のMSこそがアスハ家の切り札である。
「連合に取り入り、MS開発に参入したモルゲンレーテ。事実上、その指揮をとっていたロンド・ギナ・サハク氏。
彼らに遅れること数ヶ月。連合の戦艦、アークエンジェルが寄港した折に手に入った連合製MSの詳細なデータ。
それをモルゲンレーテにいたアスハ寄りの人間―エリカ君、君だが―によりサハク家に渡ることなくアスハ家に
流し、その技術を元に開発したのがこの……」
「『アカツキ』です。形式番号はまだ与えられていませんが」
トダカの問いに、ここの責任者であるエリカ・シモンズが答える。
彼女はモルゲンレーテのMS開発の最高責任者であると共に、この場の全てを知る数少ない人間でもあった。
先程から、この二人のやり取りが延々と続いていた。
「骨子は連合の、『GAT・X−105』を元にしています。素体に『MBF−02』のパーツを流用していますので、
基本構造は全く同じといってもいいでしょう。多少の変更はありますが、大元は変わっていません」
エリカは手に持った資料を捲っていき、ファイルに挟まれていた一枚をトダカに渡す。
「……資料を見る限り、色は金のようだが、実物はグレーだな。これは例のPS装甲というものか?」
「いえ。資料にある金色の装甲は、ヤタノカガミと言いまして、ビーム兵器を反射、屈折させる特殊装甲です。
何れはMSの主力傾向装備がビーム兵器主流となることを予測してのものですが、理論は完成させたものの、
あまりにも予算が掛かりすぎるということで……」
そこでエリカは口篭る。
トダカはそこを鋭く突く。
何か不都合があったのでは困る。
「その掛かりすぎる予算だが、具体的には?」

 

「M-1が二桁建造できます」
エリカは事務的にきっぱりと告げた。
トダカは溜息を吐く。
「お話にならんな。ウズミ氏は、本気でこのようなものを……」
トダカは悠然と屹立するアカツキを見上げた。
確かにこのMSは色々な意味で規格外だろう。
しかし、戦略的に見ればその価値はどうだろう。
こんなMS一機を仕上げるぐらいなら、性能は落ちるが量産可能なM-1の改良型を模索していった方が余程建設的な気がする。
トダカはMSについてはあまり詳しく無いが、軍人としての頭脳がこのMSを全面的に否定していた。
「大体、金色というのが酷いだろう。目立つことこの上ない。一気に集中砲火を浴びせられるぞ。全てのビームを
反せるわけでもあるまいに。それに、実弾兵器に対する防御力はこの装甲に無いわけだ。鳴り物入りのオーブの
象徴が、厚い弾幕の前に蜂の巣、なんてことにならば目も当てられない」
トダカの口調にやや熱が加わる。
あまりと言えばあまりの仕様に、これの開発者に対する怒気が混じったのだろうか。
「無論、実弾対策に盾の装備は欠かせません。それとヤタノカガミについてですが、この色はヤタノカガミに
欠かせないものなのです。ヤタノカガミは特殊材質の装甲に特殊な塗料を塗装することで製造するのですが、
この塗料というのが問題でして、どうしてもこのような光沢が生まれます」
エリカの説明にトダカは呆れた。
最初から問題を内包した設計だったわけだ。
「ならばヤタノカガミは駄目だな。改善の余地はあるだろうが、当面はそれも不可能だろう」
「はい」
エリカはやはりきっぱりと答える。
自分達の技術が半ば否定されたというのに、別段気にした風ではなかった。
「随分とさっぱりとしたものだな」
トダカが苦笑交じりに言った。
エリカはそれに、苦笑で返した。
「かねてよりの案件でしたから。金色の装甲で通そうとなさったのも、アスハ派閥の方々のご威光があったからで。
政界から離れ、軍に接収されるというのならば、今更気にする必要はありませんもの」
どうやらエリカ自身、思うところはあったようだ。
トダカはやりにくいものだと呟いた。
 こうして、獅子が娘に贈るはずだった黄金の象徴は軍の手に。トダカはウズミのその想いを知っている上で
この機体を接収するのだった。
「姫を護る盾のつもり、だったのでしょうが……。しかし私はその前に、これが国を護る盾であってもらいたいのですよ」

 
 
 

オノゴロ島。
オーブ軍にとっての本陣とも言える島である、軍事産業の中心、モルゲンレーテ社の本社、工廠もこの島にある。
「はぁっはぁっはぁ」
オーブ軍のとある施設にキラ、改めシン・アスカはいた。
彼は今、特殊な短期集中訓練を受けていた。
ランニングマシーンに仰々しい装置をあれやこれや付けた様なよく分からない機械の上を、ひたすら走っている。
とっくの昔に息は上がっているというのに、シンは止まる様子が無かった。
正規兵は決してこのような訓練は受けたりしない。
これにはキラ自身の意向と、この施設の人間の思惑があった。
「はい、今日はここまでよ」
走っていたシンに付きっ切りでデータ取りをしていた白衣を着た女性研究員が装置の電源を落とす。
と同時にランニングマシーンも音を立てて止まった。
シンはそのままへたり込む。
「おぇっ、おぶぅ……先生、結果は?」
口から胃液を吐きながら、シンは言った。
声は震えに震えていたが、シンも先生と呼ばれた女性も気にしなかった。
彼女は瞼に掛かった黒い前髪を鬱陶しそうに払って、
「駄目ね。芳しい結果は得られずよ。昨日の数値と何ら変化無し」
と言った。
眉間に皺を寄せて、メモをゴミの様に放り捨てた。
デスクに置いたチューブドリンクを、シンに投げ渡す。
「……そう、ですか」
シンはドリンクを受け取ると、震える脚に渇を入れて立ち上がる。
よたよたとパイプ椅子に近寄って座り込んだ。
「もうかれこれ三ヶ月ね。でもこれと言った変化は無し、か」
 三ヶ月。
今のシンにとって、短いようで、長く感じる時間だった。

 

シンはトダカの養子になることを選んだ。
他に行く当てもなく、眼を覚まさない妹のこともあった。
だがそれ以上にトダカの役に立ちたいという思いが生まれていた。
一戦災者に過ぎない自分達に親身になってくれた軍人。
彼の深く沈んだ、しかし何かを秘めた眼差し。昔の自分―キラに似た、ともすれば危うい必死さをそこに感じてしまったからだ。
しかしよくよく考えると、彼の役に立とうということは、軍に入ることに他ならなかった。
それでもシンはその道を選んだ。
今の自分はもうキラ・ヤマトではない。
かつての力も無いかもしれなかった。
それでも、何かの役に立てるなら……。
「(僕は、ボクの家族を奪ってしまった。そんな僕が、彼女を護ろうというのはおかしいことかもしれない。
オーブを、護りきれなかったことに対する責任感、なのかな?何にしても僕は、今を、これからを護りたい)」
仮面の男―ラウ・ル・クルーゼは言った。
「君こそが究極のコーディネイターだ」と。
その器は失ってしまったが、この身体、この手に感じるのはMSに乗っていた頃と何ら変わらない感触。
それに、今の自分の身体は、`究極'のそれではない。
「今。今だからこそ……」
彼は思った。
少なくとも今の僕はあの頃よりは自由だと。

 

 もっとも、運命は皮肉にも未だに彼を呪縛で縛り上げていた。

 

オーブ軍の士官学校に入れられて数週間後、シンの元に不思議な女性が訪ねてきた。
黒い長髪をストレートに流した、妙齢の美女、と言ってしまえば話は早いが、どこか違和感があった。
前髪がその眼差しを隠している為、変に暗い印象を与えていたのだ。
シンも、寮にいきなり乗り込んできた彼女に一瞬身構えてしまった。
彼女は周りの寮生達の視線を気にすることも無く、シンの頬に手を当てていった。
「顔立ちはまあ合格か。ともかく、こんな子がS.E.E.Dを持つ者なんてねぇ」
シンはこの時、彼女が何を言ったのか分からなかったが、それでもすぐに背筋が凍る感触を覚えた。

#br 
 そして今、彼はそのS.E.E.Dを知る為にここにいるのだった。
「S.E.E.D―『Superior Evolutionary Element Destined-factor』の略、か」
聞かされた時には驚いた。
自分の力の源、それがこのS.E.E.Dだったとシンは直感した。
まさか自分が憑依(違う気がしたが、表現上こういうしかない)した少年もその力を持つ者だったとは。
シンは眼に見えない運命というものを、信じてしまいそうになった。
途方も無い大きな力に惑わされているような錯覚。
いや、これを錯覚と言っていいのだろうか。
シンは額を押さえて思考の海に沈んでゆく。
「……知りたい。だから僕はここにいるんだ」
捨てたつもりだった。
キラ・ヤマトであったことは。
だからこそシン・アスカでいられる。
なのに、まだ縛られているというのか。
「そうね。君が知りたいように私も知りたいわ。S.E.E.Dとは何なのか。そしてあなた達のような力を持つ者が
何故生まれたのかを」
何時だったか、今と同じことを考えていた時に言っていた先生の言葉が響く。
彼女は名前を教えてくれなかった。
知りたいと少しは思ったが、前髪の奥の瞳がそれを拒んでいるようで躊躇われた。
 そう、知りたいのだ。
利害は一致している。
「(僕の持つこの力が、何なのか。その意味を知らなくちゃ、僕はまたキラに戻ってしまう。シンとしての、
シンが持つS.E.E.Dを、僕は掴まないといけないんだ)」
キラだった頃は、力の意味なんか問わなかった。
力は願いを叶える為に行使する力。
願いが、目的があって、その後に力が必要になった。
シンがやろうとしていることはその真逆だった。
この力は、何を叶える為に与えられた力なのか。
シンはそれをただ知る為に。
「先生……まだ続けます」
そうして彼は向かってゆく。
己の運命に。

 

 だがシンは一歩を踏み出すその時に、一つの事実から目を背けていた。
彼が身を置く軍は、人々の理想の全てを許容する場ではない。
力に意味があったとしても、軍はまた別の意味をその力に与え、利用する。
シンがその壁に直面するのは、もう少し先のことである。

 

 丁度その頃、プラント・アプリリウス市の病院で、一人の少年が眼を覚ましていた。
「……」
ふらふらと視線を彷徨わせる少年。
その視界に、長髪長身の男が映った。
少年はその男に、じっと焦点を当てた。
「目が覚めたようだね。おはよう」
男は言った。
少年はその言葉をじっくり吟味して、
「おはよう、父さん」
と言った。
矢継ぎ早に彼は喋り続ける。
「ねぇ父さん。僕、どうしちゃったのかな。母さんは?マユは?何処にいるの?」

 
 
 

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