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sin-kira_SPIRAL_第05話

Last-modified: 2011-12-12 (月) 10:55:19

―欲しいモノはあるかい?
―えっとねぇ。お母さんが欲しいなあ。それとねぇ……
―おやおや。まだあるのかい?
―うんっ!僕は家族が欲しいんだぁ。だから……

 

『マユも欲しいなぁ』

 

 数日後。シンが色々な言い訳を考えながら研究所に向かうと、そこにいたのは妙齢の美女だった。
「あっ……」
シンは空いた口が閉まらなかった。
陶磁器のように白い肌に豊かな艶を湛えた長い黒髪。
宝玉の様な紅い瞳。
見詰め合う美女とシン。
先に口を開いたのは美女の方だった。
「あ、シン君。来るの遅かったわね」
`何時もの口調'で言われ、シンはやっと目の前の女性が誰なのかに気付いた。
「先生っ!?」

 
 

機動戦士 ガンダムSEED DESTINY SPIRAL 〜黄金の輝き〜

 

第五話 『まだ始まらぬ物語』

 
 

シン君が模擬戦で倒れた。
その報せを受けて、私は慌てに慌てた。
 やっぱりあんな実験に無理があったのかなとか、そもそもストレスとか溜まりに溜まってたんじゃないかなとか色々とある(ていうかありすぎる)心当たりが頭の中を目まぐるしく駆け巡った。
最近の私は一向に出ない結果に、苛立ち、半ば諦観すら抱いていた。
だけどシン君は何時も一生懸命で。
私もそれを助けてあげたくて……。
あれ?何時の間にか逆転してる?
私が彼を元々自分勝手な理由で巻き込んだのに、主体が入れ替わってる?
駄目だ、これじゃ駄目だ。
何が駄目かっていうのも分からないけど、これじゃ―
「失礼する」
億劫していた私の前に、長身の男が現れた。
いきなりノックも無しに入ってきた男に、彼女は警戒を露わにする。
机の引き出しに隠してある拳銃が頭を過ぎった。
「……」
前髪越しに、その瞳で男を睨む。金髪赤眼の男。
黒いスーツで完全武装している姿は、いつか見たSF映画を思い出させた。
すると、男は苦笑して言う。
「おいおい、実の兄に向かってその眼差しはないだろう」
今度は彼女が驚く番だった。
兄?はて、アニ?えと、そんなのいたっけ。
「……どうやら相変わらず癖が治らんらしいな。私の名と、兄妹という絆は、お前にとってどうでもよかったということか」
そう言われ、彼女が思い出すには、三分の間があったという。
「えと……とりあえず私は謝らないわ」
「別に謝らなくていい。そもそもここ数年、会ったことなど一度も無かったからな」
二人は向かい合って椅子に座り、紅茶を飲んでいた。
「……普通に不味いんだが」
「わ、悪かったわね!どうせパックモノよ!」
彼女はそう言うと紅茶を思いっきり喉に流し込んだ。
その様子を見て男は笑う。
「その様子だと、私の名前も自分の名前もまた忘れたか?」
「えぇ、思いっきり」
やや挑発的に彼女は返した。
先程から男のペースに巻き込まれっぱなしである。彼女としてはあまり喜ばしくない構図だった。
「昔から定期的にお前のその足りない頭に家族の名と自身の名を刻み直してやっていたのは私だからな。言っておくと、私の名前はチハヤ・アーガイルだ」
そう言って男―チハヤ・アーガイルも紅茶を飲み干した。
何でこんな風に毎度毎度自己紹介させられなければならないと小さく呟きながら。
「……で?兄さん。今日は何をしにきたのかしら?」
「妹に会いに来るのに、理由がいるか?アリス」
おどけた風にチハヤが言った。
彼女―改めアリスは眉を吊り上げながら、
「いる」
と、簡潔に斬り捨てたのだった。
チハヤはきょとんとした後、ゲラゲラ笑い出した。
「はははっ!相変わらずだな。まあいい。結論から言うと、今日は訳ありだ」
チハヤは真面目な顔を作り、眼をアリスに合わせる。
もっとも、前髪で隠れたアリスの瞳が、本当にチハヤを向いているかは別として。
「お前のお気に入りのシン・アスカ。彼を病院送りにしたのはこの私だ」
自信満々に言い張ったチハヤの顔に、アリスの拳が突き刺さった。
「言うに事欠いて、いきなり何言い出すかと思えば……」
蹲るチハヤを見下ろしながら、アリスは吼える。
「何でアンタがシン君を病院送りにしてるのよぉっ!」
さらに蹴りまで見舞う。容赦がない。
というか容赦が無さ過ぎた。
「OK。時に落ち着け」
赤くなった顔を真顔を保ったまま押さえつつ、チハヤはポケットからティッシュを取り出して鼻血を拭いた。
「全く……。我が妹ながら容赦がない。敵は全て殲滅か?お前はどちらかというと軍人向きだ。元々体力も、私のそれの比ではなかった」
「うっさいわね。研究が趣味なんだからいいでしょ?」
「よくない。国の損失になる」
完全に平静を取り戻したチハヤは、懐からカルテを取り出すと、それをアリスに渡した。
「なにこれ?」
「カルテだ、シン・アスカの。不明瞭な点が幾つか見られたのでな。お前の研究の役に立つのではないかと思って持ってきてやった」
言われてアリスは、素早くカルテに眼を通す。
そして愕然とした。
 今までも、端的には興味深い結果をシンは示していた。
それがアリスとシンの求めるものでないとしても。
そして今回、このカルテでアリスは一つの結論にたどり着くことになる。
 それは彼女が認めたくなかったこと。
自らの夢の全否定。
「……これって……まさか」
その声は呟きだったのだろう。
チハヤは律儀にもそれに答える。
「あぁ。異常だろう?それはもう興奮の塊と言っていい。発狂寸前とも言えるだろう。収容された時にそれ
だったのだから、戦闘中の彼はさらに危険な状態だったろう。
そしてこの症状、一年前だかの『面倒事』の際にAA(アークエンジェル)に居たパイロットの彼に似ている」

 

「「キラ・ヤマト」」

 

「ごめんねぇ。いきなり髪切っちゃ、誰か分からなくなるわよね」
 先生の様子がおかしい。
あまり長くない付き合いの中だが、多少なりとも彼女の人となりを理解しているつもりのシンは何となく察した。
 それにしても……
と、シンはマジマジと彼女の顔を凝視した。
「……?どうしたの?」
「い、いえ……」
まさか見惚れていたとは言えまい。
それにしてもなんで突然髪なんか切ったんだろう―
「シン君」
いきなり冷めた声で言われたものだから、シンはどきりとした。
「は、はい?」
そしてまたすぐにどきりとすることになる。
というよりドッカンだろうか。
「……もうこの研究も、終わりにするから」
 突然の宣告。
あまりにも唐突過ぎて、シンはその言葉を耳からすっぽ抜けさせた。
「は、はいぃっ!?なんでですか!なんで突然っ!」
取り乱すシン。
先生は何を言ってるんだろう?なんで研究を止めるなんて……。
「何れあなたにも辞令がくると思うけど、どうも『引き抜き』ってやつらしいわ」
「引き抜き、ですか?」
「えぇ引き抜き。それも軍の御上の人達直々にね」
 訳が分からない。
だが、自分が眠っていた三日間程で、多くの事が動いていたのだけははっきりと理解した。

 
 
 

誰もが己の役目を知り、それにそって生きる世界。
『君は本気なのかね?アーガイル三佐』
「はい。私は冗談は言わない主義です」
 それは夢物語。
何故なら人に、決まった役目を与えることなど出来はしないのだから。
『しかし……』
「一佐。先日の私の軽率な行動は今ここでは忘れて頂きたいのです。私のあの暴挙が導き出した一つの答え。それは一佐とてお分かりの筈ですが」
 生き方に意味を、役目を与えられるのは己のみ。
『『雷光』が、優秀とは言えまだ過程を終えていない生徒に遅れを取った、か』
「はい。あの攻防の中で、私は確信しました。彼は、彼こそは『シンリュウ』を駆るに相応しいと」
 そして彼が選んだ道は王道ではなくて。
『……よかろう。他ならぬ君の意見だ。今の君の立場はかなり危ういが……考慮してみよう』
 ただ、誰かを立てる道。
 この世界の流れを創る者が本当にいるというのなら、自分はその影でいい。その役目だけで十分だ。
「(悪いな、アリス。お前のお気に入りはこちら側に引き込ませてもらう)」
 チハヤは心の中で静かに笑った。

 
 
 
 

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