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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第03話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 09:50:57

『陽が沈んで』

 
 

「む…これは駄目だなぁ」

 

 ベランダでコーヒーを一口含み、即座にカップの端を離して渋い顔をする。バルトフェルドの趣味であるコーヒーのオリジナルブレンド作成に勤しんでいたようだが、うまくいかなかったらしい。

 

「どうしたんです、バルトフェルドさん?昨日はもう少しで新しいブレンドが出来るって言ってたじゃないですか」
「いや、ちょっと別のブレンドを試してみたくなってね。挑戦してみたんだが…やはり駄目なものは駄目だな」

 

 隣で本を読んでいたキラが怪訝そうに話してくるのを、バルトフェルドは渋い顔で言葉を返した。ここでキラに味見をさせないのは、バルトフェルドなりのこだわりを持っているからだ。他人に媚びたオリジナルブレンドなんぞ、趣味とは呼べない。

 

「どうして急に?」
「なに…ほんの気まぐれさ」

 

 バルトフェルドの声が濁ったのをキラは聞き逃さなかった。何か思うことがあるのは確かである。しかし、無理に聞き出そうとは思わなかった。自分も、あまりしつこく他人に質問されるのが嫌いだったからだ。
 キラはそのままそうですか、と一言だけ発して再び文字を追い始めた。

 

「なぁ、キラ。君はこの世界以外にも別の世界があるって思った事は無いか?」
「え?」

 

 丁度その手の本を読んでいただけに、キラは一瞬驚いた。だが、そんなものは現実にはありえない話で、その類の話題は本の中だけのものだと思っていた。バルトフェルドの言葉は、まるで手元の本の中から飛び出して来た台詞みたいだ。

 

「あ、バルトフェルドさんも興味あるんですか?」
「ん…い、いや。そういうわけじゃないんだ」

 

 笑ってキラが手にしていた本をかざしてアピールする。それに対してバルトフェルドは苦い顔をして拳を口元に当て、一つ咳払いをする。我ながらおかしな事を言う、と自嘲する。
 それもこれもエマとカツのせいである。彼女達の話があまりにも飛躍し過ぎていて、自分も少し感化されているのだろう。もう一度彼女達の話を整理する為、その時の事を思い出してみた。

 
 

 エマから大まかな事情を聞いたバルトフェルドは、呆然としていた。それというのも、内容が内容であったからだ。とてもではないが信じることは出来ない。

 

「すると、君達は本当は既に死んでいて、ここは死者が訪れる天国かなんかだと…そう言いたいのか?」
「私だって信じたくはありません。しかし、これは事実なんです。この子だって、確かに隕石にぶつかって死んだはずなんです」
「それに、僕達の知っている世界との相違点が多すぎます。連合だのプラントだのは知らないですし、最初に話した年号だって違うじゃないですか」

 

 二人のやり取りに割って入るようにカツが身を乗り出す。そんなカツに、エマが少し迷惑そうな顔をしていたのをバルトフェルドは見逃さなかった。
 しかし、気を取り直して彼は続ける。

 

「だが、ここは天国じゃあない。れっきとした地球のオーブという国だ。何より、君たちの話には証拠が無い」
「ですが!」

 

 これまでエマが話した内容は、殆ど知らないことばかりだった。中にはMSという言葉の共通点はあったが、とても信用できる話ではない。しかし、フィクションにしては良く出来ている。いや、出来すぎている感もある。信じることは出来ないが、妙なリアリティは感じた。

 

「面白い話だとは思うがねぇ」
「ちゃんと聞いてください!本当のことなんです!」
「もう止しましょう、カツ」
「エマ中尉!」
「私だってまだ信じられないんだもの。それはあなたも同じでしょ?だから、この人に信じてもらうことは出来ないわ」

 

 興奮して少しずつ前進するカツの肩を掴み、エマがなだめる。そんなエマの言葉に、カツは仕方なく従うしかなかった。
 確かに彼女の言うとおりである。これ以上説明しても、証拠が無い以上こんな荒唐無稽な話など、誰も聞く耳を持たないだろう。自分たちは、身一つで放置されていたのだから。

 

「君達の話は分かった。で、どうするんだい?仮にその話が本当だとしても、君達が連合の回し者でないという確証は無い。エマ、君は中尉と呼ばれていたのだからね」
「だから、それはエゥーゴでの話で――!」
「カツ!」
「――!…分かりました」

 

 もう何度このやり取りを見てきただろうか。バルトフェルドとの会話の中で、カツはエマに何度も窘められていた。多分姉弟というのは嘘なのだろうが、この関係を見ている限り、あながち間違いでもないような気がしてきた。

 

「しょうがない。怒られっぱなしのカツ君に免じて、君らが連合の人間で無いと言う事だけは信じよう。それで何もしないのであれば、もう暫くここに居てもいい。君達、特にエマ君は疲れているようだしね。顔色があまり宜しくない」
「本当にそれで宜しいのですか?」
「勿論、僕も鬼ではない。疲弊している人を放り出すような鬼畜じゃないさ。但し――」
「監視は受けます」
「助かる。カメラと盗聴器だけだが…いや、ちゃんと死角は作らせて貰う。レディーの着替えを覗く趣味は無いのでね。あぁ、そうそう、まだ調べたい事があるのならこの部屋を使うといい」

 

 笑いながらそう告げると、バルトフェルドは振り返る。これ以上彼女達を問い詰めた所で、碌な情報が出てこないだろうと踏んだからだ。

 

「カツ君、あまり余計なことは考えるんじゃないぞ」

 

 去り際のバルトフェルドの言葉にカツは何も応えなかったが、ちらりと見えたその表情を鑑みるに、どうやらちゃんと釘は刺さったらしい。それに満足すると、バルトフェルドは書斎を後にした。

 

 思えば、何故エマ達はあんな浜辺に打ち上げられていたのだろう。こちらの油断を誘うにしても、発見当時のカツや先程のエマを見る限り、本当に疲弊しているように見えた。そんな体たらくでは工作員としては間抜けすぎる。
 元ザフトの砂漠の虎としての選眼は、それ程鈍らせているつもりは無い。自分の感じた印象は恐らく間違っていないだろう。エマ達は演技をしていない。
 所謂戦争屋としての経験を彼が手放そうとしていないのは、戦争が終わって二年経とうとしているのに地球圏は未だに戦禍の兆しが消えていないからだ。いずれ再び自分の力が必要な時が来るだろうと予測し、刃は研ぎ続けてきた。

 

(キラやラクスを不安にさせるわけにはいかないからな)

 

 先程のエマ達とのやり取りを、キラには話していない。自分ひとりの心の内に秘め、万が一の事態には自分一人で何とかしようと思っていた。今この屋敷で最も戦えるのが自分だからだ。
 バルトフェルドが彼等についているのは、ヤキン戦役で中心人物であった彼等を守る為だ。特に、キラは先の大戦でMSパイロットして多大なる戦績を残してはいるが、今は戦う力を残していない。
そして、ラクスは世界的に見ても超重要人物である。そんな彼女を狙う輩は多いだろう。だから、そんな時に助けになるために自分は彼等の側に居る。
 本当はもう一人重要な人物が居るが、彼女は恐らく大丈夫だろう。加えて、頼りになる護衛も付いている。

 

(ま、入ってくる情報を見れば、心配なのは別の線なんだがね)

 

 ただ、その心配事もあまり深く関るつもりは無い。その問題に首を突っ込むのは下世話だと思うからだ。それに、余計な事をして自分達のスポンサーとも言える彼女の機嫌を損ねたくない。今はマルキオ導師の邸宅に厄介になってはいるが、いつ彼女の世話になるやもしれない。

 

「……さん、バルトフェルドさん」
「…ん」

 

 じっと物思いに耽っていると、キラが自分を呼ぶ声が聞こえた。何度も呼んでいたのだろう、少し心配そうな顔つきをしている。結構長い時間呆けていたようだ。

 

「どうしたんです、バルトフェルドさん?少し変ですよ」
「あぁ、済まない。間抜けな顔を見られてしまったかな?」
「どこか具合でも悪いんじゃないですか?」

 

 少し呆けていただけなのにこの心配のしよう。キラは優しすぎるとバルトフェルドは思う。

 

(まあ、こんな奴だからこそ、自分が守ってやらなければならないと感じたわけだがな)

 

 自分の中にキラに対する父性愛のようなものが芽生えているのだろうか。ふと感じた気持ちに、バルトフェルドはそんな事を考えた。

 

「大丈夫だ。今日は天気が良くて気持ちいいからなぁ。思わずぼぅっとしてしまったよ」
「そうだったんですか」

 

 おどけた顔で自分が大丈夫である事をアピールする。そんなバルトフェルドの表情に安心したのか、キラも笑顔を見せた。
 そう、それでいい。これ以上、彼にもラクスにもきつい想いはして欲しくは無い。バルトフェルドは、そう心の中で念じる。しかし、この後にそんなバルトフェルドの願いは打ち砕かれる事になる。その時は、徐々に近付きつつあった……
 書斎に残ったエマとカツは、そのまま本や資料をあさって知識を集めていた。先程のバルトフェルドとの会話に於いて、この世界の知識が足りない事を痛感したからだ。ある程度効率のいい行動をするには、会話を合わせるために知識が必要になってくる。
それが出来なければ、情報を集めるどころではない。

 

 資料をあさりながら、エマはバルトフェルドとのやり取りを思い返していた。彼は自分たちを最初から警戒していたのだろう。自分達が書斎で何かをすると思い、やって来たと考えられる。
 ただ、彼と話していて分かったことだが、去り際に冗談を交える辺り、バルトフェルドにはまだまだ余裕があったと見える。彼の底知れぬ器の大きさを測りきれず、エマは複雑な表情をする。結局、こちらの情報を引き出されても、彼の方の情報を引き出す事は出来なかった。
完敗である。

 

「結局の所、何であんな人がこんな屋敷に居候になっているんですかね?」
「さあ、何ででしょうね。ただ、今の私達にはどうにも出来ないわ」
「エマ中尉……」
「でも、一つだけ推測する事が出来るわ」
「何です?」
「彼は、この屋敷の人達を守りたかったんじゃないかしら?そうでなければ、カツを野放しにしておく事なんて考えられないわ」
「それ、どういう意味です?」

 

 エマの発言は、カツが隙だらけだと言っているようなものである。その意図に気付いたのか、カツはむくれ顔でエマに抗議した。だが、エマはそんなことに構ってられないとばかりに話を続ける。

 

「それだけではないわ。さっきここに一人で来た時もそうよ。わざわざ三人だけの空間を作ったのは、他の人を巻き込みたくないからと考える事は出来なくて?
あのキラって言う子が居るのにも関らず一人で来たって事は、ここの人達が彼にとってそういう人だって事の証明じゃないかしら」
「買い被り過ぎです。僕にはそんな優しい人には見えませんでしたよ」
「釘を刺されたからでしょ、あなたは。もっと冷静に物を見られなければ、本質なんてものは見えてこないものよ。それが出来なくて、あなたはよく怒られてたんじゃない」
「エマ中尉は、頭の回転がお早いのですね」
「生意気言うんじゃないの!」

 

 口数の多いエマを皮肉ったカツの言葉に、軽くではあるがエマはげん骨を落とす。それを受けたカツは、渋い顔をし、黙々と知識の詰め込み作業に戻る。

 

(でも、ここが本当に異世界だとすれば…一体誰が何の為に私達を呼んだのかしら?)

 

 神などという存在が実在するとは思いたくないが、それでも現実として自分やカツはここに存在している。今はまだその実態は掴めないが、いつかその答が分かる時が来るのだろうか。
 ただ、それが分かった時、どうするかは分からない。自分やカツは確かにあの戦いで死んだ。例え元に戻れたとしても、その時何が起こるのか、あまりいい想像は浮かばない。疲れるだけだと思い、エマは目の前の資料に集中する事に決めた。
 次にエマの目に飛び込んできたのは天井だった。どれくらい時間が経ったのだろう。エマは書斎で調べ物をしている最中に眠ってしまったようだ。目を覚ましたら、個室のベッドの上で横になっていた。
 作業の途中で眠ってしまうとは、我ながら情けないと思う。しかし、何分ひたすら文字を追う作業は眠気を誘いやすい。集中力が足りないと思ったが、それは疲れが溜まっていたせいだろう。そういえばラクスやバルトフェルドにも顔が疲れていると言われていた。

 

「御気分はいかがかしら?」

 

 機嫌を訊ねてくる声に気付き、視線をその方向に移した。優しそうな人柄の美人が直ぐ脇の椅子に腰掛けている。

 

「あまり無理はしないほうがいいですよ。疲れを残すのは女性にとっては天敵なんですから」

 

 何とも優しい笑みを投げ掛けてくる。この女性は会った事が無い。マリアよりも年上なのは間違いないが、この女性も随分と若く見える。誰だろうか。

 

「えと…」
「ご紹介がまだでしたね。私、カリダ=ヤマトと申します」
「ヤマト…では、あなたはキラ君の――」
「えぇ、そうです。キラは息子です」

 

 言われてみれば納得できる節もある。この女性から感じる雰囲気は、キラに感じた雰囲気に似ている。成る程、親子と分かれば、その相似点にも理解が届く。…キラの親にしては若すぎる気もしなくは無いが。
 しかし、彼女は本当にキラの母親なのだろうか。じっと顔を見つめてみる。

 

「…あまり似てないでしょ」
「い、いえ!そういうわけじゃないんです」
「正直に仰っていただいて結構ですよ。私とキラは、あなたとカツ君との関係みたいなものですから」
「え?」

 

 カリダは笑みを浮かべてはいるが、言葉の裏に隠された本心は隠せていない。自分とカツと同じ様な関係とすれば、血の繋がりというものが存在しないと言う事か。

 

「本当のご子息ではない…ということでしょうか?」

 

 おずおずとしたエマの問い掛けに、カリダは少し視線を落として口を開く。

 

「…あるきっかけで――なんですけど、あの子と私との間に血の繋がりはないんです」
「そうなんですか」

 

 つまり、キラはカリダの養子というわけだろう。そう考えれば、似てないのも若いのも理解できる。ただ、その事をエマは口に出さないでおいた。無神経な事と思ったからだ。

 

「そのせいであの子に辛い思いをさせてしまった事を、私は後悔しています」
「キラ君はその事を知っていらすのですか?」
「えぇ。詳しくはお話できませんが、そのことで随分苦しんだようなんです」

 

 カリダの表情が、徐々にではあるが沈んでいくのが分かる。これは良くないと踏んだエマは、何とか元気付けようと口を開く。

 

「でも、今は違うのではないですか?彼と一緒に暮らしていらっしゃるという事は、養子とか関係なく――」
「はい。キラを本当の息子のように思っています」

 

 カリダの表情が少しだけ明るくなった。エマはほっと一安心する。

 

「…ごめんなさい。疲れてらっしゃるあなたに気を遣わせるような真似をさせてしまって」
「いえ、お気になさらないで下さい。私の方から話題を振ったようなものですから――もう体調の方も大丈夫ですし」

 

 そう言ってエマは体を起こしてベッドから這い出ようとする。しかし、まだうまく体に力が入らないのか、バランスを崩してよろけてしまう。カリダは咄嗟にエマの体の下に身を滑り込ませ、ベッドに戻した。

 

「無理をしないで。遭難して流れ着いたんでしょ?まだゆっくりしなくては駄目ですよ」
「済みません…」
「ううん、良くなるまでゆっくりしてくださいまし。ここは、そういう所でもあるのですから」
「はい」
「食事の準備が出来たら呼びますから、それまでは安静にしていてくださいね」

 

 カリダは、エマをそっと寝かしつけると、部屋を出て行った。
 扉が閉まると、部屋の中は薄暗くなる。日も随分傾いてしまったようだ。カーテンの外が暗くなっているのが分かる。
 そういえばカツはどうしているのだろう。まだ、真面目に書斎で知識をあさっているのだろうか。それとも、彼の事だから独自に調査を開始しているのだろうか。ただ、それだけは止めておいてくれと、エマは願う。今はこの屋敷に居辛くなるようなことは避けたい。
バルトフェルドに嫌疑を掛けられているとはいえ、逆に言えば彼が今の一番の理解者なのだから。

 

 そんなことを考えていると、再び眠気が襲ってきた。天井を見つめる瞳を閉じると、エマは眠りに入る。若干お腹が空いてはいるが、時間帯的には直ぐに夕食となるだろう。それまでは我慢できる。その後はカツの報告を聞いて、具体的な行動を決めるのは明日以降にしよう。
眠りにつくと、体の疲れが急に押し寄せて来た。
 エマの長い一日が、終わろうとしていた。