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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第04話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 09:59:58

『動き出す世界で』

 
 

 人類が宇宙に進出し、人工の大地を築いたコロニー群。その中でも特異な形をしたコロニー群が存在する。砂時計に似たそのコロニー群は、コーディネイターと呼ばれる人間が住んでいた。
 コーディネイターは普通の人類とは違う。遺伝子改良を受け、普通の人類よりもアドバンテージを持って生まれてくる。その違いを区別する為に、コーディネイターの対として、普通に生まれてくる人類をナチュラルと呼ぶようになった。

 

「何?それは本当なのか」
「はっ、ユニウスが謎の武装勢力に占拠された模様です」
「むぅ……」

 

 工業コロニー、アーモリー・ワン内の施設通路を、二人の男が歩いている。長身の男に付き従うようにもう一人の男が報告をしている。

 

「ミネルバの進水式は三日後だったな?」
「はい」
「二日繰り上げて明日に変更するとザフトに伝えろ」
「明日ですか!?」

 

 報告をする男が長身の男の発言に驚いた。対する長身の男は、顔色一つ変えずに穏やかな表情を保っている。

 

「準備はしてきたのだろう?」
「それはそうですが…」
「なら、やらせたまえ。手遅れになる前にな」
「しかし、調査隊を向かわせれば――」
「私が直接見に行く」
「しかし、御身に何かありましたら――!」
「ミネルバはザフトの自慢だよ。地球に居る連中に我々の力を見せて牽制しておく必要はあるだろう?」
「御尤もですが……」
「本国の守備隊の一部も連れて行く、心配はあるまい。それと、詳細が分かるまでこの事は内密にして置けよ」
「はっ」

 

 その男、ギルバート=デュランダルはコーディネイターのトップに立つ男である。最高評議会の議長を務めている。毛先に癖のついた長い黒髪をなびかせ、白と黒を基調とした制服を身に纏っている。やや細面の顔は端整に磨かれていて、双眸は何者をも見通すかのように鋭い。
一見するだけで只者ではない雰囲気を他者に知らしめるだろう。

 

「艦長はタリア=グラディスだったな?」
「議長のお気に入りでございますか?」
「昔はな」

 

 しかし、このような側近の失礼な発言にも、デュランダルは柔らかく返す。隙の無い厳しい印象を与える彼は、このように穏やかな一面も持っている。
 ヤキン戦役の頃の議長は、穏健派のシーゲル=クラインが失脚し、過激派のパトリック=ザラが実権を握っていた。しかし、戦争はそんな彼の暴走と共にプラント、連合の双方に悲劇しか残さなかった。だから今、比較的穏健派と謳われるデュランダルが議長に選ばれた。
パトリックのような過激思想全開も困るが、穏健すぎるのも相手に付け入られるだけだ。

 

(謎の武装勢力か…果たして、どちらの亡霊かな?)

 

 笑みを浮かべ、デュランダルは歩いていく。
 翌日、デュランダルは若い男を従えた少女を迎えていた。身なりの整った、金髪の少女である。髪はショートに纏められていて、顔には幼さを残している。

 

「それで、我が国から送らせていただいた、オーブ防衛戦の折に流出した人材やモルゲンレーテの技術に関する懸案の返答はいただけないので?」

 

 声は少年のものに近い。電話で話したら、きっと少年と間違えていただろう。勿論、デュランダルはそんな間違いをするつもりは無い。何と言っても、相手は小国ながら一国を預かる身なのだから。
 その少女、カガリ=ユラ=アスハはオーブの国家元首として、ここアーモリー・ワンを非公式に訪れていた。プラントへ送った案件の返答を中々貰えず、直接聞きに来たのだ。

 

「そうは言っておりません。しかし、故郷を追い出された彼等を受け入れたのは私達です。その彼等がプラントで生活していくには、持てる技術を以て働くしかないではありませんか」
「プラントはここで新造艦の進水式を行うとも聞いています。我々の技術を軍事転用なさるのを止めていただきたいとお願いしているのです」
「何故です?彼等の職を取り上げろと姫は仰るのですか?」
「そうではありません!プラントは力を蓄えて――それは危険なことです!強すぎる力は争いを呼ぶだけです!」
「アスハ代表、落ち着いてください」

 

 何かを焦っているのか、カガリは興奮し、思わず声を荒げてしまう。それを御付の男がなだめて落ち着かせる。
 デュランダルは、その男に一瞬視線を送った。サングラスを掛けていて、その表情を窺い知る事は難しいが、視線に気付いた彼は目を逸らしているように見えた。視線をカガリに戻す。

 

「それは違います。争いが起こるから、力が必要になるのです」
「では、デュランダル議長はまた戦争が起こるとお考えなのですか?」
「さぁ…供えあれば憂い無しですからね。それはオーブでも同じではありませんか」

 

 カガリの質問は的を射ているようで外れている。それに近い考えを持ってはいるが、実際にデュランダルが考えている事は全く違う。彼は、戦争はまだ続いていると考えている。連合とプラントが停戦し、ユニウス条約を結びはしたが、それは一時的な措置であると捉えていた。
最も危険な連中が、地球にはまだ残っている。

 

「しかし、ここでは新型のMSの開発も進められていると聞いています。外に力を誇示したがって居るのではないですか?」
「姫はMSがお嫌いのようで」
「話を逸らさないで貰いたい。折角落ち着きを見せ始めた地球圏です。わざわざ連合に刺激を与えるような真似をしなくても宜しいのでは、と言っているのです」

 

 カガリの言葉に、デュランダルはフッ、と笑う。その態度にカガリは眉を顰めたが、つい先程隣の男になだめられたばかりである。ここは我慢する。

 

「姫は何かに焦っていらっしゃる?」
「…私を姫と呼ぶのは止めていただきたいのだが」
「失礼、アスハ代表」

 

 単にオーブから漏れた技術を、ザフトが兵器開発に使っているのが気に入らないだけではないだろう、とのデュランダルの推理が当ったらしい。どうやら図星を突かれたようだ。カガリの表情を見て、デュランダルはほくそ笑む。
 オーブは小国と言えども、先の大戦で重要な役割を担った国である。連合各国の情報を集めている時に、デュランダルは大西洋連邦がオーブに、プラントへの技術供与を行っているとの理由で度々圧力を掛けていたことを知った。
恐らく、そろそろ相手側の圧力が限界に達してきたのだろう。だからこのような時期に、しかも非公式にデュランダルの下を訪ねてきたのだ。プラント本国ではなく、ここアーモリー・ワンでの会談はある意味正解とも言える。
 一応この場でその件に関して言及してみようかとも考えたが、もっとオーブの情勢が困窮した状態になった時でもいいだろう。今この場で変な疑いを掛けられてもつまらないし、こちらの狙いを探られるのも後々に影響を及ぼす。
そうなってしまえば、こうしてカガリに接触した意味がなくなってしまう。

 

(これから先、オーブがどうするかで、彼女が敵か味方かが決まるな)

 

 沈黙を続けるカガリを眺め、デュランダルは考える。一番いいのは、オーブをプラントに吸収する事だ。勿論、オーブに対する調査も行ってきた彼は、そこにラクス=クラインが居る事も知っている。
最悪同盟さえ結べれば、カガリとラクスという二人の強力な影響力を持つ手札を味方に付けることが出来る。
 オーブの国土自体に旨みは全く無いが、そこにあるモルゲンレーテの技術力も魅力的だ。それに世界で唯一のマスドライバーも存在している。ここでカガリを手篭めに出来れば、後に起こるであろう連合との覇権争いに先立って優位に立てる。
デュランダルは、戦争はまだ終わってないと考えているのだから。

 

「ん……!」

 

 カガリの護衛の男がふと声を漏らす。相変わらず目をサングラスで隠しているので表情を読み取る事は出来ないが、顔を外に向けて何かを感じ取っているようだ。

 

「代表」
「どうしたアス――アレックス?」
「外が騒がしい…何かあったようです」

 

 小声でカガリにそう告げる。低い声だったのでよく聞き取れなかったが、デュランダルはほぉ、と感嘆の声を漏らした。

 

「デュランダル議長、今日は演習の予定でも?」
「いえ、進水式前ですので、その様な予定は入ってないはずですが」
「…どうなんだ、アレックス?」
「演習ではなさそうです。悲鳴のようなものが聞こえます」

 

「デュランダル議長!」

 

 その時、一人の将校が飛び込んできた。やはり、そこの男――アレックスの言うとおり、緊急事態が発生しているようだ。

 

「何事か」
「MSが…工廠に格納されていた新型MS三機が何者かに奪取されました!」
「MSが?――何者かでは分からん、至急対処しろ!」
「は、はっ!」

 

 デュランダルに命令された将校は、敬礼をすると直ぐに出て行った。

 

「デュランダル議長!」
「申し訳ありませんアスハ代表。どうやら会談どころではなくなってしまったようです。先程の件に関しましては、後日じっくりお話いたしましょう」

 

 立ち上がり、部屋を後にしようとする。

 

「どちらへ?」
「ミネルバへ参ります。これから進水式がございますので。…おい、アスハ代表一行をシェルターへ案内して差し上げろ」

 

 近くに居た兵士に声を掛けると、デュランダルは足早に去っていってしまった。

 

「こんな時に進水式だと?何を考えているんだ!」
「……」

 

 歯を食いしばるカガリの横で、アレックスは先程のデュランダルの表情を思い出していた。あの表情、何か腹に抱えている気がする。新たに就任した議長と聞いていたが、シーゲルやパトリックとも違うタイプの政治家らしい。

 

「こちらへ急いでください」
「頼む」

 

 兵士に誘導され、カガリとアレックスはシェルターへ急ぐ。
 時代は、この新型MS強奪事件を契機に再び回り始める。その渦中に二人が巻き込まれていくことになろうとは、この時の彼等には知る由もない事だった。

 
 

「カガリさんとアスランは今頃プラントですわね」
「うん……」

 

 地球のオーブ、マルキオ邸宅。キラとラクスは、ベランダで海を眺めていた。宇宙へ出かけた友の事を思っているのだろう、その瞳は空を見上げていた。

 

「お話…上手くいくといいですわね……」
「うん……」

 

 気の無い返事をするキラ。彼は、現在の世界の情勢をある程度知っていた。世界は未だに燻り続けている。最も身近な懸念として、プラントへの技術供与を理由にして大西洋連邦の圧力が日増しに強くなってきていることが挙げられる。
 そんな不安定な情勢に、キラは最近警戒を強めてきている。彼がエマを警戒していたのは、そのせいだった。中立を標榜するオーブと言えども、何処に敵が潜んでいるやも知れない。守るべき目標がラクスであれば、尚更である。

 

「本当に、上手く行くといいね……」

 

 それはキラの願いかもしれない。このような世界情勢が続けば、いつまで経っても隣に居る少女に安寧の日々は訪れない。ただ、普通に暮らせる日を夢見て、キラはカガリに期待する。他人に頼る事になるが、今の自分には何の力も持たない。
故に、情けないと痛感しながらも、彼女に頼るしかないのだ。

 

(キラ……)

 

 ラクスはそんなキラを見て、申し訳なくなる。自分にこれほど深く関らなければ、このような生活を彼に送らせる事など無かったのだ。彼を好いてはいるが、こんな結末は彼女の本意ではない。キラに負担を掛けさせまいと、何度か普通の生活に戻るように告げた。
しかし、彼はやはり優しすぎるるのだろう。頑なに自分の事は気にするなと言って、ラクスの言うことを聞こうとしなかった。

 

 二人は並んで、同じ様に空を見上げる。その果てで、今まさに戦禍の火が再び切って落とされているとは知らずに……
 エマとカツが書斎に篭り、知識を集め始めてから既に一週間が経過しようとしていた。流石にひたすら文字を追う作業にうんざりしてきたが、それでも頑張った成果だろう。この世界の一般的な知識はあらかた頭に詰め込むことが出来た。
 中でも、ナチュラルとコーディネイターという人類の区別や対立は、自分達の世界でのアースノイドやスペースノイドの対立構造を髣髴とさせた。何処の世界でも、このような人種の区別が存在するものなのだろうか。

 

「ふぁ~ぁ…エマ中尉、いつまでこんな事続けるんですか?」
「真面目にやんなさい、カツ。いつまでも何も、元に戻れるまでよ」
「本当に元に戻れるんですかね、僕達?死人ですよ、死人。このままこの世界で暮らしてくのも、悪くないんじゃないですか?」

 

 カツの無神経な言葉に、エマはきつく睨んだ。

 

「馬鹿なこと言わないで。私達はこの世界の人間じゃないのよ」
「だから、何だって言うんです?それとこれとは関係ないじゃないですか。こんな非常識な現象が起こったんです。そう簡単には帰れませんよ」
「だからって……」

 

 珍しくエマはカツに言い負かされてしまった。確かにカツの言うとおりである。超常的な現象でこの世界に連れてこられた。しかも、死人であるはずの自分達が、である。万が一もとの世界に帰れたとしても、いい結果が待っている気がしない。
カツが投げやりになるのも無理もない。
 しかし、カツの言葉にふと思いついたことがある。エマはその可能性を話し始めた。

 

「でも、ちょっと待って。死んだ筈の私達がこうしていると言う事は、他にも居るかもしれないのではなくて?」
「僕たちのような人が、ですか?」
「そうよ。アポリーやヘンケンも――」
「サラにまた会えるのか――!」
「――もしかしたらレコアも?」

 

 期待が膨らむ中、エマがふと口にした名前が書斎の中の空気を凍らせる。そう、こういうことは都合のいい事ばかりが起こるものではない。それに付随してくる不都合な出来事が、必ず起こるはずである。

 

「ティターンズの連中も来てたらどうします……?」
「そうね…私達は偶々お互いの近くに放り出されただけかもしれないし。でも、この世界が元の世界と関係が無い以上、エゥーゴもティターンズも関係ないはずよ」
「エマ中尉の言っていることが正しければいいんですけど、僕にはそんな楽観は出来ませんよ」
「……」

 

 エマはカツの言う事に反論できない。ティターンズと言う組織はそういうものだったからだ。元ティターンズの一員だった彼女だから尚更その事が良く分かる。自分は、それが嫌でティターンズを裏切り、エゥーゴに身を投じたのだから。
 確かに中には信念を持った人間も居た。しかし、大半は極端な地球至上主義者の集まりである。この世界で旗を揚げ、再び地球圏の掌握に掛るかもしれない。
地球の重力に魂を引かれた人々…暗殺された元エゥーゴの指導者、ブレックス=フォーラの言葉だが、その言葉がぴったりと当てはまるほど、彼等は傲慢に見えていた。

 

「よぉ、はかどっているかい?差し入れを持ってきてやったぞ。…ん?」

 

 そんな風にして二人が頭を抱えていると、バルトフェルドがティーカップとコーヒーポットを手に書斎に入ってきた。しかし、気を落としている二人を見て、怪訝に思う。

 

「どうした?何か分かったのか?」

 

 慣れ親しい様子で、デスクに置いたティーカップにコーヒーを注ぎ始める。この書斎で対峙していた時とは、態度が随分と変わっている。
 もう既に一週間である。それだけ一緒に暮らしていれば、バルトフェルドの選眼ならエマ達が自分達に害を及ぼす人間で無いと言う事は分かっていた。それ以来、バルトフェルドは二人に興味を持ち、暇さえあれば書斎を訪ねていた。
他の人達に混乱を与えぬよう、三人だけになれるこの書斎に集っては、彼等の話を聞いている。
 最初はエマ達もそんな彼の行為を迷惑に感じていたが、慣れた今となってはリフレッシュの一環になりつつある。

 

「いえ、僕達がこうしてこの世界にいると言う事は、他にもあの戦争で死んでしまった仲間が飛ばされて来てるんじゃないかって話になったんですけど…」
「ほぉ!それは面白いじゃないか。もしその推測が正しいのであれば、是非君達の仲間に会ってみたいもんだ」

 

 カツが視線をバルトフェルドに向け、今話していたことを打ち明ける。こうして積極的に話をするようになったのは、最初の頃に比べて随分とバルトフェルドを信用するようになったからだ。
 バルトフェルドは、そんなカツの話に興味津々である。元々、エヴィデンス01という地球外生命体と思しき生物の化石を所持していたくらいである。この手の話題は嫌いではなかった。
 しかし、嬉々として目を輝かせるバルトフェルドとは裏腹に、カツもエマも表情は暗い。そんな二人を怪訝に思いつつも、コーヒーを注ぎ終わったティーカップを二人に差し出した。それを受けて一言謝礼を述べたが、表情は曇ったままだ。

 

「それだけじゃないんです。その考えが正しいとすると、もしかしたら僕達の敵であった人間までこの世界に来ているかもしれないんです」
「何?」

 

「相手はバリバリの主義者でした。そんな彼等がこの世界に来るとなれば、何かを企んでもおかしくないかもしれません」

 

 カツに続けてエマも口を開いた。

 

「しかし、君達のように少数だけなら何も出来ないだろう。この世界だって、そんなに甘くはない」
「その通りです。現に今の私達がそうであるように、いきなり普通の人間が、単身でこの世界にやって来たのでは何も出来ません」
「なら…」
「ですが、何人かに心当たりがあるんです。一人でもこの世界に戦いを巻き起こせそうな人物が」

 

 エマには一つの懸念があった。それは、自分がカミーユ=ビダンに全てを託した後の事である。残す敵の中には、パプテマス=シロッコとハマーン=カーンが居た。カミーユならば、この二人の存在を許しておかないだろう。
 もし、どちらかを仕損じたとしても、片方だけで十分脅威になる。彼等は、MSパイロットとしては勿論、それだけでなく政治的手腕にも長けていたのだ。特にシロッコは、地球連邦軍の巨大派閥組織であるティターンズを乗っ取った。
一時は連邦軍の全てを掌握しそうになったティターンズを、である。彼がもしこの世界に来ていたとすれば、同様の事をして戦乱を起こすかもしれない。

 

「中尉、それはもしかしてシロッコの事ですか?」
「そうよ。カミーユなら、彼を倒すでしょうね」
「そのシロッコっていうのは、そんなに凄い奴なのか?」

 

 コーヒーカップを片手にバルトフェルドが訊ねてくる。それに応えようとエマが口を開こうとしたその瞬間、カツが先に声を出した。

 

「凄いとか、そういうのじゃないんです!アイツは…アイツは女の子を利用して権力を欲しがる人間なんだ!」
「お、おい、カツ君…」
「そんな奴が、凄いわけないじゃないですか!アイツは…シロッコは唯の最低野郎です!」

 

 急に立ち上がり、声を荒げて捲くし立てるカツに気圧されたのか、バルトフェルドは何も言えなかった。カツを侮っていただけに、彼にとっては意外な発見だった。

 

「カツ、落ち着きなさい。ここでそんな事を言っても、切ないだけよ」
「……少し風に当ってきます」

 

 エマに背中を摩られたカツは視線を落として部屋を出て行った。残された二人が囲むデスクにはコーヒーカップが一つ余る形になってしまった。

 

「すみません。あの子、シロッコに――」
「いや、皆まで言わずとも、彼のあんな表情を見れば何となく察しがつく。気にしてないさ」
「でも、せっかく注いでくれたコーヒーが…」
「構わんよ。コーヒーの香りは、気持ちを落ち着かせてくれる。後で彼に一杯ご馳走してやるさ」

 

 バルトフェルドは微笑んでコーヒーを口に含む。エマは、彼の気遣いをありがたく受け取った。彼なら、男同士ならではの会話が出来るかもしれない。

 

「ただ、さっきの話、本当にそのシロッコと言う男が、君達の言うとおりにこの世界に既に来ているとすれば――」
「可能性の問題ですし、根拠もありませんが…」
「それは面白くないな」

 

 コーヒーカップを口につけ、険しい表情で語る。

 

「もう君にも分かっていると思うが、今もこの世界は不安定な状態にある。二年前に戦争が終わったとはいえ、ナチュラルとコーディネイターの怨嗟は未だ根深い。ちょっとお互いのバランスを崩すだけで、直ぐに瓦解する」
「分かる話です。お互いの理解にはまだ時間が足りてないと言う事でしょうか」
「ま、そういう事だな。…唯でさえこうなのだから、そのシロッコが居ない事を切に願うね」

 

 まだバルトフェルドはシロッコの実態が分かっていない。二人から伝え聞いただけなのだから当然と言えば当然なのだが、彼は心のどこかで安心している節がある。雲を掴むような話だから、実感を持てないのも無理はない。
 二人はカップに手を添えたまま黙り込んでしまう。特に話す事もなくなったのか、窓の外から聞こえる鳥のさえずりが部屋に響いた。
 と、その時、書斎の扉をノックする音が聞こえた。誰かが訪ねて来たらしい。

 

「どうぞ」

 

 エマが一言返事をすると、開いた扉の向こうから一人の男性が入ってきた。男性にしては長い髪を全て後ろに流し、オールバックにしている。

 

「おや、部屋を間違えましたかな?コーヒーのいい匂いがしますね」

 

 その男性は穏やかに語る。バルトフェルドの鼻腔をくすぐるブレンドコーヒーの匂いが、部屋中に充満していたせいであろう。

 

「導師、僕もご一緒させてもらっています」
「そうですか、これはあなたの匂いでしたか」

 

 一見ただの優しそうな紳士に見えるが、瞳を閉じっぱなしにしている。目が細いわけではない。彼は盲目なのだ。導師と呼ばれたその紳士こそ、この屋敷の主、マルキオだった。

 

「どうされたのです、マルキオ導師?」
「えぇ。子供たちがですね、また浜辺で見つけたらしいのです」
「また?」
「エマ、あなたに来てもらいたいのですが」
「私に?…まさか!」

 

 マルキオの話に、エマは立ち上がる。直ぐにバルトフェルドの顔を見たが、彼もこちらを見て一つ頷いた。マルキオの話から、丁度今話していた事態が起こったのかもしれない。

 

「それで、何処に?」
「入り口に一人待たせてあります。その子に案内してもらって下さい」
「分かりました、行きます」

 

 血相を変えて、エマは急いで書斎を出て行った。
 エマは何も感じていないようだったが、バルトフェルドはマルキオの言動を不思議に思っていた。何処となくわざとらしさを感じたのだ。

 

「マルキオ導師、あなたは…」
「最近、あなたたちは随分と仲が宜しいようですね」
「気付いていらしたのですか?」
「詳しい事は何も知りませんが…少なくとも、彼女達が私達に危害を加えるような人ではないと思っております。あなたが懇意にしている位ですから」
「お見通しですか」

 

 後頭部を手で摩り、バルトフェルドは照れくさそうにする。

 

「ですが、彼女達の事情を知ろうとは思いません。何であっても、彼女達から話してくれるのを待とうと思います」
「申し訳ない。ただ、僕の方もまだ殆ど何も分かっていない状態でして――何より彼女達自身も状況がうまく掴めていないようです」
「そうですか…哀れな事です。きっと、お寂しいのでしょう」
「――?」

 

 マルキオの言葉の意味、バルトフェルドは良く分かっていなかった。しかし、後に担ぎ込まれてくる少年を目撃する事で、その言葉の意味を知ることになる。

 

「時代が、再び回り始めようとしているのかもしれません」
「はい、そろそろ連合もプラントも睨み合いに飽きてきた頃でしょう。どんな些細な出来事でも、戦争に発展する可能性を秘めています」
「人間の業…ですかね」
「いえ、恐らくブルーコスモスが動くでしょう。彼等がこのまま大人しくしているはずがありません」
「青き清浄なる世界の為に…ですか」

 

(エマの話が本当だとすると、ブルーコスモスに彼等が接触する可能性は高いな……)

 

 バルトフェルドが警戒するブルーコスモスは、ティターンズと同じく主義者たちの集まりだ。しかし、その彼等も発足当時は単に地球を大切に思う正常な組織だった。しかし、いつしかその思想は歪められ、地球を祖とする彼等はコーディネイターを敵視し始めた。
 それは、二年前のヤキン戦役に於いて顕著になる。盟主であるムルタ=アズラエルが、核ミサイルをプラントに撃ち込むという暴挙に出たのだ。コーディネイターを全て抹殺するつもりだった。
 しかし、結局その目論見はキラ達の活躍で阻止され、ムルタ=アズラエルはその戦闘に於いて戦死する。その後の停戦でブルーコスモスは一先ずそのなりを潜めたが、彼等が再び動き出すのは明白だった。
そんな時に、エマの言うティターンズの面々が現れれば、その思想に合意して更なる混乱を引き起こすかもしれない。思った以上に深刻な問題になりつつあるのを、バルトフェルドは感じていた。

 

「あのような者達がここに訪れた事が、SEEDの発現に関係があることなのか…私も興味があります」

 

 それまでエマが読んでいた本に手を置き、マルキオは語る。彼は宗教家ではないが、それに近い信仰を持っている。SEEDという言葉が、彼の最も信仰する言葉だ。
マルキオがここでキラやラクスを住まわせている理由、それは、彼等がそのSEEDの発現に最も近い人間だったからだ。そんな彼等の行く末を、マルキオは見たいと思っていた。

 
 

「ちょ、ちょっと待って!」
「こっちこっち!早く早く!」

 

 少年に手を引かれ、砂に足をとられ、もつれそうになりながらエマは駆ける。よくもこんな走りにくい砂地を軽快に走れるものだ、とエマは感心しきりである。

 

「あっ!」
「何やってんだお姉ちゃん!置いてっちゃうぞ!」

 

 足が砂の柔らかい部分に嵌り、とうとう派手に転んでしまう。そんな彼女を囃し立てるように、少年が早くしろと急かす。口に入った砂をペッペッと吐き出しながら、急いで立ち上がる。

 

「何処なの?」
「もう直ぐさ。ほら、あそこだよ!」

 

 少年が指差す方向に、人だかりが出来ている。子供たちが集まっているのだろう、同じ背丈の囲いが出来ていた。その中に、抜き出た背丈の影が二つ。キラとマリアだった。

 

「マリア、キラ君!」
「エマ!」
「エマさん!」

 

 はぁはぁ、と息を切らし、エマが駆け寄ってくる。膝に両手をつき、息を整えた。

 

「それで、見つかった人って――」
「この方です」

 

 キラが体を避け、その姿をエマに見せる。その人物も、自分と同じ様に浜辺に横たわっているらしい。

 

「――!」

 

 足元から上にかけて、着ている服は間違いなくエゥーゴのものだ。少なくとも、ティターンズではないと確信し、一先ず安心する。しかし、その青い制服の色は見慣れた色だった。
 徐々に視線を顔の方に移していく。エマの鼓動が高鳴っていく。最初に、くりん、と外側にはねた襟足が見えた。その色は制服よりも濃い青。エマ同様に髪のボリュームは結構ありそうだ。
 そして、ついに顔に照準を合わせる。前髪はセンターより少しずらした横分け。髪に癖があり、毛先が内側に巻いている。その顔を、エマは良く知っている。

 

「カミーユ!」

 

 エマは驚き、その少年の名前を叫んだ。