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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第14話

Last-modified: 2009-05-13 (水) 22:16:22

『急襲、ファントム・ペイン』

 
 

 大西洋連邦軍との戦いは、オーブ軍に甚大な被害をもたらした。ザフトの援軍がやって来たとはいえ、オーブの現有戦力は当初の40%にまで落ち込んでいた。
これでは、次に大西洋連邦軍が今回同様の戦力を送り込んでくれば、ひとたまりも無いだろう。ザクでは、沿岸部で迎え撃つ事しか出来ない。

 

「演出家だな、デュランダルは」

 

 オーブ、セイラン邸で、ウナトはユウナと二人でオーブの報道番組を観賞していた。どこのチャンネルでも、オーブの窮地にやって来たザフトを歓迎する内容だった。
オーブ軍の体たらくを見かねたマスコミが、プラントとの友好関係をアピールしているという事だろう。

 

「ザフトがあのタイミングで現れたのは彼の策略だったと?」

 

 ユウナが訊ねる。

 

「そうだ。オーブを窮地に立たせたのは、ザフトの恩恵を我々に知らしめるのと同時に、オーブを弱体化させる意味があった。デュランダルは徐々にオーブをプラント化させるつもりなのだろう」
「父上はそれでよろしいのですか?」
「良いわけが無い。しかし――」
「手の内はなるべく見せないで置きたい――知れば、カガリが黙っちゃ居ないですからね」
「そうだ」

 

 ウナトは腰掛けていたソファから立ち上がり、窓の側に立ってオーブの街を見下ろした。自分達がロゴスと通じていると知れば、いくらカガリでも自分たちを疑ってくるだろう。
彼等はオーブを守る手段としてロゴスとのパイプを繋げているが、理想家のカガリにそれは通用しない。そうとなれば、ユウナとの婚約も破談にされかねない。
 今回も、いざとなればそのパイプを使って大西洋連邦軍を退却させる事も出来ただろうが、その前にデュランダルの手配した軍がやって来た。ロゴスには、ブルー・コスモス盟主のジブリールが関与している。
そのパイプは、大事にしたいものだ。

 

「上手く付き合っていかなければな。どんな所とも……」
「そして、最後に立っているのはこのオーブ…ということですね?」

 

 本心を声に出され、ウナトは笑った。

 

「デュランダルのような道楽者にくれてやるには、このオーブは美しすぎる。奴には、餌でも与えておけばいい」
「その為のキラ=ヤマト…そしてラクス=クラインですか」
「デュランダルが欲しがっているのはあの二人だ。必死に信頼を集めておるよ」
「では――」

 

 ウナトにとって、キラやラクスの存在など目障り以外の何物でもない。彼等のお陰でオーブが脅威に晒されるのなら、排除した方がマシだとも考えている。しかし、それはカガリが決して許しはしないだろう。
彼等と親交の深い間柄ゆえに、カガリは二人に特別な情を挟んでいる。別荘を貸与したのも、その情が絡んでいたからなのだろう。普通なら、あんな屋敷を無償で貸し出す事などしないはずだ。
 現状、セイランにとってカガリは目の上のたんこぶ以外の何物でもない。だからこそ、ウナトは息子のユウナとカガリに婚約を結ばせている。ただし、カガリの方は今のところ全く乗り気でないのが問題ではあるが。

 

「僕らもデュランダルの手法を参考にするべきですかね? どうも、僕はカガリに嫌われているようなので」
「恋敵は不在。やるなら、今のうちかも知れんな。…だがユウナ、お前にそんな甲斐性があるのか?」
「あの子が髪を伸ばしてくれたのなら、本気にもなれましょう。今は真剣に口説く気になれませんね」

 

 ユウナの女性の好みは髪の長い女性だ。今のカガリはちょうどショートカット。その顔つきからややボーイッシュな印象が強い。ユウナの好みからは外れている。
 しかし、政略結婚を成立させ、セイラン家がオーブの実権を握るにはそれしか方法が残されていない。ここは少しずつカガリに髪を伸ばさせるよう仕向けるのが確実な方法か。我ながら甘い事を考える、とウナトは笑った。

 

「情けない息子よ。女の趣味でオーブの行く末を決めるつもりか?」
「とんでもない。ただ、僕にだって伴侶を選ぶ権利があります。今のカガリじゃ、僕は喜べませんよ」
「お前は気に入っていると思っておったのだがな」
「見せかけですよ。あの子は僕のお嫁さんにはまだまだです。そうですね…もっと女性らしい――」
「よい」

 

 ユウナが女性の趣味を語るとき、ウナトはいつも逃げ出していた。彼のこの手の話は長くなるからだ。
 ウナトは葉巻を一本取り出し、火を点けた。煙を纏い、目を細める。青い空と海が、美しかった。

 
 

 ファントム・ペインの指揮官、仮面の男ネオ=ロアノークは新設の基地に向かっていた。まだザフトにも知られていないその基地は、カーペンタリア基地の目と鼻の先にある。

 

「新たに私の部隊に配属になったというのは君たちか?」

 

 目の前に現れたのは金髪のリーゼントの男と、大分髪が後退した黒髪の男。リーゼントの方は細面で端正な顔立ちをしていて、黒髪の方はいかにも無骨そうな四角い顔をしていた。
ただ、二人とも体つきはかなりいい。それだけで、彼等が優秀な兵士であると分かる。

 

「連合軍特別派遣兵のジェリド=メサ中尉」
「同じく、カクリコン=カクーラー中尉。貴官が司令官か?」
「ネオ=ロアノーク大佐だ。ファントム・ペインの指揮を任されている」

 

 三人はお互いに自己紹介を交わす。ジェリドとカクリコンは口には出さなかったが、彼等もエマ達同様異端者だ。
 フランクに語りかけてくるのは、彼らの自信の表れか。普通なら上官に対する態度の修正として懲罰の対象になるだろうが、ネオはそんな事をするつもりがないし、そういう性格でもない。
だから、パイロットとして優秀であるならば、態度に特に文句はない。

 

「ほぉ…スローター・ダガーか。いいものを持ってきたな」

 

 ネオが視線を二人の後ろにあるMSに移す。黒系統で塗装されたそのMSは、高級量産型MSであるストライク・ダガーのバリエーション機だ。
本家と同様に、かつてのGAT-X105ストライクの様にパックの交換で戦況に応じる事が出来る。

 

「何機か選ばせて貰ったんだが、これが気に入ってね」
「特に色がな」

 

 ジェリドとカクリコンは振り返り、満足そうにスローター・ダガーを見上げる。彼等にとって、スローター・ダガーの専用色である黒のカラーリングは、かつてのティターンズ・カラーを髣髴とさせたのだろう。
そのジム・クウエルに似たプロポーションも、気に入っている点の一つだった。

 

「こいつにはストライカーパックの換装が出来るって思っていたんだが――」
「MSは汎用性が命だ。砲撃戦は他の機体に任せりゃいいし、接近戦主体のソードなんかおまけ以外の何物でもない」
「そりゃあそうだが……」
「だから、俺達はエールだけで十分だ。心配しなくても、大佐にはいい思いをさせてやりますよ」

 

 からかうように言うジェリド。それだけ自分の実力に自信があるということか。ネオはそれを受けて苦笑いする。ただ、このような頼もしい味方が増えるのであれば、あの3人に無理をさせずに済むかもしれない。

 

「頼むぜ? これからザフトの新型戦艦を叩かなきゃならないんだからな」
「カーペンタリアから出るミネルバとか言う新造艦か。インド洋を渡ろうってんで、それをこちらから急襲して出鼻を挫こうってんだろ?」
「手強いぞ。相手は何と言っても陽電子砲を積んでいる。それに、MSも新型が配備されるって話だ。一筋縄で行く相手ではないな」
「臆病風に吹かされるのは御免だな。それなら、俺達は俺達で勝手にやらせてもらうぜ」
「それは勘弁してもらおうか。私も、一応責任者の立場にあるからな」

 

 ジェリドの発言に、ネオは釘を刺した。いかに彼等が実力者であろうとも、こちらの命令を無視されたのではたまったものではない。

 

「中間管理職は、胃に穴でもあけていればいい。だが、その分に見合った働きは、してやるよ。なぁ?」

 

 カクリコンが笑いながら言う。冗談だとは思いたいが、あの顔で言われたら冗談に聞こえない。ネオは何も言わず、口元の引きつった笑みで返すしかない。

 

「では、私は失礼する。ガルナハンのローエングリン・ゲートの様子を知っておきたいのでな」
「ゲリラ共なぞ、苦戦する程の相手でもなかろう?」
「これも責任者の仕事でね」

 

 そう言ってネオは去って行った。口では軽く言っていたが、その後ろ姿に中間管理職としての哀愁が漂っていないとは言いきれない。色々と大変なのだろう。

 

「…マウアーとライラはガルナハン行きだったな」

 

 ネオが去り、ジェリドはふと漏らす。二人の女性の事を思っていた。

 

「また女か?」
「いけないかよ?」
「いいや」

 

 カクリコンは首を横に振る。

 

「だが、お前がどちらを選ぶのかと思ってな」
「からかうなよ。俺はもう一度生きる、このチャンスをモノにしたいだけだ」
「そりゃあそうだ」

 

 二人で笑い合う。こうしてまた出会えたのも、何かの縁なのだろう。
 サイド1での攻防戦で戦死したライラ、エゥーゴのジャブロー降下阻止作戦の折に大気圏で燃え尽きたカクリコン、ジェリドを庇って宇宙に散ったマウアー、そして最後まで復讐を果たせなかったジェリド。
その面々が、再び出会ったのだ。これは奇跡と呼ぶべきものだろう。ジェリドは、その奇跡を大事にしたかった。

 

「シロッコは月だったな」
「地球の重力が気に喰わないんだとさ。全く、これだから木星帰りは――」

 

 地球育ちのジェリドにしてみれば、シロッコの感覚が理解できない。地球は生命を育んだ母なる星だ。その地球の重力を嫌うのは長い間地球を離れていたからだろうが、そこに郷愁の念を感じないのだろうか。
宇宙空間に比べ、ずっしりと感じる地球の重力を心地よく感じられないのは、シロッコが既に宇宙人である証拠か。

 

「ん…?」
「へへへ…」

 

 ジェリドはふと気付いた。いつの間にか、直ぐ側のコンテナの上に3人の少年少女が座っていたのだ。その中の青髪の少年が、こちらを見てにやけている。その顔が気に触った。ジェリドは顔をそちらに向ける。

 

「何だ、貴様等は?」

 

 見た目どおり生意気そうなガキだ。派手な髪の色は、教育がなっていない証拠だろう。

 

「おっさん達だろ? 今度俺達の部隊に配属になったってのは」
「おっさん…」

 

 ジェリドは24歳である。まだおっさん呼ばわりされる年齢でもない。

 

「俺達は、おっさん達の先輩さ」
「貴様のようなガキがMSのパイロットをするのか?」
「おっさん達よりもいい働きをするぜ」
「このガキ――!」

 

「待て、ジェリド」

 

 激情家のジェリドには、この少年の言い方が気に喰わない。加えてティターンズのエリートであったというプライドが、彼をいきり立たせた。しかし、そんなジェリドをカクリコンが止める。

 

「そうそう。そっちのデコッぱちのおっさんの言うとおり、やめて置いた方がいいぜ。俺達、強ぇからな」
「言わせておけば!」
「だから、やめて置けといっている、ジェリド」
「何故だ、カクリコン! こういう生意気なガキには――!」
「こんな乳臭いガキにムキになるな。こいつ等から見れば、俺達は確かにおっさんだろうよ」

 

 そう言いながらカクリコンは笑う。直ぐに冷静さを失うジェリドに比べ、カクリコンの方は冷静だった。

 

「笑っている場合か! 舐められているんだぞ!」
「こっちは、やってもいいんだぜ? その代わり、どうなってもしらねーけどな」

 

 逸るジェリドを制止しているカクリコンを尻目に、青髪の少年は更に挑発をしてくる。対するジェリドの苛立ちは募るばかりだ。

 

「こんな娑婆ガキの言う事に一々構うな。どうせ、そいつらは大した事無い」
「言ってくれるじゃねーか、デコッぱちのおっさん。何なら、試してみてもいいんだぜ?」

 

「止せ、アウル」

 

 身を乗り出し、カクリコンに対して詰め寄ろうとするアウルを、緑髪の少年が制止する。見た感じでは、彼がリーダーなのだろう。3人の中では一番の年長に見える。

 

「止めんなよスティング。こいつらに、俺達の実力って奴を見せてやろうぜ。…おい、ステラもボーっとしてんな!」

 

 アウルは先程から遠くを見つめて呆けている金髪の少女に向かって怒鳴る。しかし、ステラと呼ばれた少女は横目でアウルを見やると呟いた。

 

「…アウル、うるさい」
「何だと!?」

 

 アウルの怒りの矛先がステラに向かう。

 

「だから、止めろって言ってんだろうが! こんな所で喧嘩したって何にもなんねーだろ!」

 

 しかし、それを良しとしないスティングがすかさず止めに入る。それを尻目に、ジェリドとカクリコンは去ろうとした。こんな子供の喧嘩には付き合っていられない。

 

「ちょっと待てよおっさん! 逃げるのか?」

 

 アウルがそれに気付き、カクリコンに向かって怒鳴る。しかし単純な挑発だけあり、カクリコンは意に介していない様子だ。溜息をつき、振り返った。

 

「相手にしないと言っている。ガキはとっとと帰ってママのおっぱいでも飲んで寝てな」
「――っ!」

 

 カクリコンが何気なく言った言葉を聞いたアウルは、急に表情を一変させた。顔色が青ざめ、体を震わせる。
 彼等は3人とも身体を強化されたエクステンデッドだ。特殊な訓練と投薬により、ナチュラルでありながらコーディネイターに匹敵する能力を備えている。
しかし、その代償に彼等には"ブロックワード"という一種のタブーが其々用意されていた。その言葉を聞くと、今のアウルの様に苦しむ事になってしまう。

 

「か…母さん――! あ…あぁ……!」
「ア、アウル!」

 

 アウルのブロックワードは"母親"だった。カクリコンの"ママ"という言葉に反応してしまったのだ。
 アウルの急変に慌ててスティングが体を支える。その様子に気付き、ジェリドとカクリコンは疑問の色を浮かべた。

 

「どうしたってんだ?」
「さあな」

 

 アウルは両手で肩を抱き、跪いて苦しんでいる。並みの苦しみようではないのは見れば分かった。ジェリドはその苦しみ方に、過去を思い出す。

 

「この感じ…強化人間か?」
「強化人間? ここにもあるというのか、ジェリド?」
「あの苦しがり様は、強化人間のものだ。前にキリマンジャロでカミーユと一緒に居た強化人間の女を見たことがある」

 

 かつて、キリマンジャロ基地で療養をしていた頃、ジェリドは潜入してきたカミーユが強化人間の女をつれている現場に遭遇した事がある。その時感じたのは、彼女の精神が異常であった事だ。
目の前のアウルは、ちょうどその時の強化人間とダブる。

 

「ふん、随分とでかい口を利くからどんなものかと思ったが、まともに話も出来ないポンコツとはな」

 

 吐き捨てる様に言うジェリド。これでは先が思いやられる。

 

「気にするなジェリド。どうせ、ガキに何も期待しちゃ居ない。俺達は俺達でミネルバを落とせばいい」
「そうだな」

 

 未だに苦しむアウルを気にも留めずに、ジェリドとカクリコンはその場を後にする。
 強化人間は基本的に不安定で、肝心な場面で頼りにならないのが慣例だ。それはかつてティターンズに在籍していた頃から報告で聞いていたことだ。
 だとすれば、頼りになるのは自分達の腕だけだろう。確かに強化人間は強大な力を有してはいるが、反面とても脆い部分がある。それが事もあろうに日常会話で噴出してしまうようでは、話にならない。
普通の人間が常識の範疇を超越した力を有するには、こういった代償を伴わなければならないと言う事だろう。
 ティターンズは力――そう言った自分の言葉を噛み締め、ジェリドはああはなるまいと心に決めていた。

 
 

 カーペンタリア基地で指令を授受し、ミネルバはスエズ支援のために発進する。地球上は連合軍の支配地域が殆どだ。
そこで、東ユーラシアにおける連合の勢力をスエズのマハムール基地で牽制し、彼らが築こうとしている橋頭堡を崩そうと言うのが今回の任務の内容だ。
加えて、ガルナハンにある火力プラントを奪取し、エネルギー確保をして地球上でのザフトの活動をしやすくするという目的も兼ねている。
 しかし、ガルナハンにある火力プラントへの道程には峡谷があり、連合軍がそこにローエングリンを配置しているという話だ。
現地の連合軍に対するレジスタンスと共に何度か攻撃を仕掛けたらしいが、ローエングリンが邪魔で失敗続きらしい。そこで、様々な新型兵器を積んでいるミネルバの出番というわけだった。

 

 カーペンタリア基地を発ったミネルバはインド洋を行く。エマは甲板に出て、潮風に髪を弄ばれながら新鮮な空気を満喫していた。目の前に一面に広がるのは、青い水の絨毯と綿飴のような白い雲。

 

「エマさん」

 

 柵に体を預け、首を伸ばして潮風の匂いを堪能していると、背後から声が掛った。

 

「ルナマリア。どうしたの?」

 

 振り向いた先に立っていたのは、一人の少女。気の強そうな顔立ちに、少女とは思えない抜群のプロポーション。だが、大人と呼ぶにはまだかわいらしいあどけなさの残る印象を受ける。
そして、最大の特徴は赤髪のショートカットから生えている一本の角。最初に彼女と対面した時、カツがそれを見て"シャア専用ですよ"とか訳の分からない事を言っていたのを覚えている。

 

「オーブ、無事だったみたいでよかったですね」

 

 ルナマリアは笑顔で言う。オーブが再び大西洋連邦軍の攻撃に遭ったと聞き、エマが気を落としていたのを彼女は見ていたのだ。
 エマがオーブ襲撃の報を聞き、何とか撃退したと聞いたのはつい先程だ。本当はバルトフェルド達を助ける為に飛び出して行きたい所だったが、ザフトの救援が間に合ったらしく安堵していた。
ただ、その件でカツとシンが何やら揉めたと聞いたが。

 

「ありがとう、ルナマリア」
「いえ。エマさんって、オーブに住む前は砂漠の虎の部隊にいらっしゃったんですよね?」
「えぇ、そうよ」
「どうでした? あたし、オーブ海戦の時に少し会ったんですけど、どんな人なのか良く知らないんです」
「え? ど、どうしてアンディの事を知りたいの?」

 

 聞かれてエマはギクッとした。バルトフェルドの元部下というのは勿論嘘で、本当は彼の過去の事など文献で読んだ程度の知識しかなかったのだ。
そして、ルナマリアがザフトの士官であるならば、自分の知っているバルトフェルドの知識などよりももっと多くの情報を知っているだろう。

 

「えっ…と――ほら、あの人渋いじゃないですか! だから、お近付きになる為に少しでも何か知れればなぁ…と思って……」

 

 対するルナマリアの興味はバルトフェルドには無かった。彼女が本当に知りたいのは、エマの人となりだ。
ナチュラルで、しかも女性という立場でありながらコーディネイターに混ざって戦っていたというエマの人物像を知りたかった。同じ女性としてエマに興味を持ったのだ。
それは、深い意味では彼女を尊敬しているという事なのかもしれない。

 

「そんな事…カツに聞けばいいじゃない。カツなら、教えてくれるわよ」
「えぇ~…?」

 

 当然ルナマリアは肩を落とす。彼女が知りたいのはエマの事である。だから、カツの所にではなく、エマの居る甲板にやってきたのだ。

 

「そんな事言わないで教えてくださいよぉ。あたし、砂漠の虎と居た頃の事をエマさんの口から聞きたいんです!」
「そ、そう言われても…ほら、彼にだって知られたくない過去とかあるかもしれないでしょ? あなただって、昔の事とかで知られたくない事とか、あるのではなくて?」
「そ、そうですけど! でも――!」

 

 ルナマリアが言いかけたその時、ミネルバの警報が鳴った。艦内アナウンスでメイリンがコンディション・レッドを告げる。敵襲だ。

 

「敵襲!? こんな所で――!」
「話はまた今度ね。出撃準備に取り掛かるわよ!」

 

 言うが早いか、エマは即座に駆け出して甲板を出て行った。

 

「あ――! ちょっと、エマさん待って下さい!」

 

 遅れてルナマリアが駆け出し、エマの後を追って行った。

 

 一方ブリッジでは、敵襲に備えて次々とブリッジ・クルーが入ってくる。それぞれが持ち場に就き、最後にタリアが艦長席に腰を据えた。

 

「索敵、敵の規模は?」
「11時の方向からウインダムおよそ20機。それに、別方向から奪取された3機も来ています」
「ミネルバ一隻に大した力の入れようね。…敵艦の数は?」
「それが、まだ見つからなくて…こちらのレーダーには引っ掛かっていません」

 

 バートの報告を聞き、タリアは考える。こんな辺鄙な場所で、しかもカーペンタリア基地の近くでMSの編成だけで攻めてきたということは、もしかしたら近くに母艦なり連合軍の基地なりがあるのかもしれない。

 

(そうでなければ辻褄が合わないわね…複数方向からと言う事は、両方があると考えるべきか)

 

 恐らくこちらが情報を得ていない基地なのだろう。密かに存在していたのか新設なのかまでは分からないが、カーペンタリア基地に対抗するために造られた物なのかもしれない。
そして、ミネルバがスエズに向かうと聞き、部隊を派遣してきたか。ならば、ここで敵基地を叩いて後続の憂いを断つのが賢明と判断する。

 

「メイリン、MS隊の発進準備はどう?」
「順次発進可能です」
「了解。MS隊順次発進後、ミネルバは現空域に固定。レイとルナマリアには水上ウィザード装備でミネルバの援護をさせて。海から出てくるアビスは手強いわよ」
「了解です」

 

 ミネルバのカタパルトハッチが解放され、MSの発進が行われていく。最初に飛び出したのはアスランのセイバーだ。飛び出すのと同時にフェイズシフトを展開させ、全身を真紅に彩る。

 

『ミネルバから隊長機へ、飛行ユニット各機は敵を撃破しつつ周囲の索敵をしてください。敵の母艦か、連合軍の基地が隠されている可能性があります』
「セイバー了解」

 

 通信でメイリンからの指令を聞き、アスランは各機に通信を繋げる。

 

「各機へ、飛行可能な機体は二手に分かれて敵母艦、及び連合軍秘密基地を探索する。シンは俺と、エマはカツと共に索敵を行え」
『エマ機了解。カツ、行くわよ』
『はい、エマさん!』

 

 アスランからの命令を受けたエマとカツのムラサメが、MAに変形して陸地へと向かっていく。

 

『どうして俺が隊長と一緒なんです?』

 

 その直ぐ後でシンが不満を訴えてきた。彼がオーブからの出向者である自分に不満を抱いているのは知っている。彼としては、出戻りの自分がいきなり隊長になったのが許せないのだろう。
その上カガリのボディーガードをしていたのだから、その思いは尚更なのかもしれない。
 しかし、今はそんな不満を口にされても困る。

 

「不満があるのなら後にしろ。これは隊長命令だ、今は従うんだ」
『隊長だからって、編成まで勝手にしていいんですか?』
「何を言っている? 部隊の指揮を執るのは隊長である俺の役目だ。お前は軍人の癖に命令を無視して勝手に戦うつもりか?」

 

 シンはまだお子様だ。自分の実力を過信し、何でも出来ると思っているに違いない。シンの言葉はアスランの耳にはそう聞こえていた。だからこそ、彼の面倒は隊長である自分が見なければならないだろう。
彼が生きるのも死ぬのも、これからの自分の指導次第だ。

 

『大気圏もまともに突破できなかったくせに』
「…前方に敵小隊だ。掛るぞ」
『…了解』

 

 シンの侮辱を無視し、アスランは前方に迫ってきたウインダムの小隊に注意を促す。シンも不満そうにしていたが、一応命令には従う姿勢を見せているようだ。
 と、思った矢先にシンのインパルスが単機で躍り出て勝手にウインダムの小隊に突撃して行ってしまう。これにはアスランも呆れた。

 

『こんな奴等、俺一人で何とかしてやりますよ。隊長は後ろでのんびり眺めていてください』
「待てシン! 勝手な行動をとってどうする!?」

 

 しかし、そんなアスランの制止も聞かずにインパルスは勝手にウインダムと戦闘を開始してしまう。確かに指令内容には敵機の撃墜も含まれているが、こちらの足並みを乱されたのでは堪ったものではない。
 それでもここでインパルスを失うわけにも行かず、セイバーも突撃させるしかない。アスランは一人溜息をつく。

 
 

 その頃、ジェリド達は待機命令のままJ・Pジョーンズに留まっていた。何故自分達が待機なのか分からないが、その代わりにあの生意気な小僧達が出撃したのが気に喰わない。
同じく専用のウインダムの前で待機しているネオに詰め寄った。

 

「何であのガキ共が出て俺達が待機命令なんだ! 本当にミネルバを落とす気があるのか!?」
「そういきり立つなよ、ジェリド。複数方向から仕掛けたって事は、相手もここか基地を探しているはずだ。あいつ等には注意を引き付ける役割を与えた」
「それは俺達に任せればいい! あんな欠陥品の強化人間などに頼らずとも、俺達の方が確実にこなせるだろ!」
「あの基地の司令官殿の命令だ。私は従わねばならん。それに、逆にあいつ等に任せていたら、もし発見された時に万が一の事態が起こったら困るだろ?」

 

 あの発作が万が一の事態なのだろうか。適当な会話でですら発症する発作が万が一で済むわけが無い。こんなのは、ネオのいい訳だ。ジェリドはそう思って更にネオを追及しようとした。

 

「だから俺達がここに残って、タイミングを見て基地の援護をする――そういうことか」

 

 と、その前に発したカクリコンの声にジェリドが顔を振り向かせる。気勢を挫かれた感じだ。

 

「だが、それじゃあ納得できないんだな。俺達は戦う為にここに来たんだ。留守番をするためじゃない」
「そうだ。留守番など、それこそあのガキ共にやらせておけばいい」

 

 カクリコンの意見にジェリドも同調する。これでは何の為に自分達が派遣されてきたのか分からないからだ。折角新たに戦いの場を与えられたのに、与えられた命令はJ・Pジョーンズでお留守番である。
これでは兵士としてのプライドはズタズタだ。

 

「まぁ、待てって。奴等は見つけるさ、絶対にな」
「ほぉ…その自信、何処から来るのか知りたいものですな」
「見つけるよ。ミネルバって艦は、この私を追撃してきた艦だからな。今度も、絶対にやってくれる」

 

 ネオが思い出したのは、アーモリー・ワン襲撃からユニウス・セブン落下までの事だ。カオス、ガイア、アビスの3体を強奪し、それを追って来たのは当時進水式を終えたばかりのミネルバだった。
新造艦だけあり、優秀なスタッフを揃えていたに違いないが、それでも自分の指揮するファントム・ペインの錬度とは比べ物にならないほど経験で劣っていただろう。
しかし、それでもしつこく喰らいついて来て、罠を仕掛けてもそれを掻い潜ってきた。更にユニウス・セブンの破砕作業の最中でも、偵察に出したMSの奪回をも目論んでいた。それは、ネオにとっては脅威だった。
それ故、ネオはミネルバを単なる新造艦としては見ておらず、ザフトの主力艦として警戒していた。更にそれに新たな戦力が加わったと聞けば、嫌でも慎重にならざるを得ない。

 

 ジェリドは、そんなネオの表情を横目で見ていた。この男は単に臆病なだけだ。守りの姿勢を取るという事は、相手を殲滅する自信が無い証拠だ。だが、兵士である以上、上官の命令は無視できない。
彼や基地の司令官がその気になるまでは大人しくしているのが賢いだろう。

 

「分かりましたよ。だが、20分経っても敵が来なかった場合、俺達は勝手に出させてもらいますぜ」

 

 ただし、このまま大人しくしているのも性に合わない。この位の条件なら、大して蟠(わだかま)りも残らないだろうと思った。

 

「あぁ、それでいい」

 

 ジェリドの言葉に、一言だけ返事をするネオ。確かにこれではミネルバを落とす事は出来ない。この慎重さは自分の弱さなのか、それは分からない。ただ、警戒感だけは持ち続けようと思った。
そうでなければ負けるような気がしたからだ。

 
 

 シンとアスランはカオスとガイアに遭遇していた。相手はザフトから強奪した3機の新型の内の2機だ。アスランの本心としては、この機会に1機でもいいから奪還しておきたい所だ。

 

「シン、ガイアに目標を絞るぞ」
『まとめて捕まえちゃえばいいじゃないですか? それなら、2機纏めて相手にした方が――』
「確実に捕えるのが最優先だ。さっきみたいな勝手な行動は慎むんだぞ」
『…了解』(何だ、偉そうに!)

 

 返事はしたが、シンは心の中で悪態をついていた。先程遭遇したウインダムの小隊も、先に仕掛けた自分が殆どやったのだ。その時出遅れたアスランは観戦していただけに等しかった。
 自分の実力は見せ付けたはずである。それなのに、どうしてこの男はこんなに偉そうに言えるのだろうか。シンはアスランの神経を疑っていた。

 

 一方のカオスとガイアのパイロット、スティングとステラは目の前に現れた2機のGタイプを確認し、気合が入る。先程、水中を潜行するアウルからミネルバに仕掛け始めたとの連絡が入った。
彼の声を聞く限り、展開は有利に働いているらしい。それなら、こちらも負けるわけには行かない。

 

「ステラは地上からビームを撃ってりゃいい。飛べないガイアで飛び掛ろうとするなよ?」
『分かった』
「よし、ネオに言われたとおり、派手に行くぜ!」

 

 スティングが気合を入れ、機動兵装ポッドからファイア・フライ誘導ミサイルをばら撒き、次いでビーム砲を連射する。そして地上からはMA形態のガイアが背部のビーム砲で2機を狙い撃つ。

 

「くぅっ! 弾数が多い!」

 

 シンは舌打ちする。彼等とは何度か剣を交えた事が会ったが、追撃戦であった前回までと違い、本格的に攻めてくるカオスの攻撃に手を焼いていた。

 

『落ち着くんだ、シン。あんな攻撃の仕方をしていて、いつまでも弾が持つはずが無い。弾切れになった時を狙えばいい』

 

 苛立つシンを意識したのか、アスランが通信回線でシンにアドバイスを送る。しかし、シンにとってアスランのアドバイスは屈辱だった。まだ、自分の方が上だと思っているからだ。

 

「じゃあ、隊長一人で待っていればいいでしょ! 俺は行きます!」
『ま、待てシン!』

 

 シンはアスランの制止も聞かずに突撃をかける。シールドを構え、ビームライフルを撃ちながら地上のガイアに向かって一目散に向かっていく。
当然ガイアもビームで応戦したが、たった2門のビームでは弾幕にもならずにあっさりとインパルスの接近を許してしまった。

 

「これでも喰らえ!」
「やらせない!」

 

 インパルスがビームライフルを納め、ビームサーベルを引き抜く。そして、それを大きく振りかぶってガイアに振り下ろした。
しかし、ガイアは即座に横へステップしてかわし、MSに変形して空中にジャンプしながらインパルスに向かってビームライフルを撃った。インパルスはそれをシールドで防ぐとガイアを追って空中へ躍り出る。

 

「こいつ!」
「負けるもんか!」

 

 再びビームサーベルでガイアに切りかかる。対するガイアは1Gの重力下では飛行能力を持たない。故に、空戦に特化したフォース・インパルスの前では置物に等しい。
必死にビームライフルで応戦するガイアの攻撃をいなしながら、シンは勝利を確信していた。
 しかし、その時にMAに変形したカオスからのカリドゥスがインパルスを襲った。シンはそれにギリギリで反応し、シールドで機体をカバーしたが、威力に負けて左腕ごと吹き飛ばされてしまった。

 

『へっ、油断しやがって! ステラ、今だ!』
「分かった!」

 

 スティングの作った好機。ステラはガイアを再びMAに変形させ、両翼にビーム刃を発生させてインパルスに必殺の突撃を敢行する。インパルスはカオスのカリドゥスで態勢を崩し、尚且つ左腕を失っている。
このタイミングなら、確実に獲れる。
 そう思ったのも束の間、今度はインパルスに飛び掛るガイアをプラズマ収束ビームの光が掠めた。それに慄いて、ステラは思わずガイアを後退させてしまう。

 

「好きにさせるか!」

 

 インパルスを援護したのはアスランのセイバー。シンの突撃で出遅れてしまったが、彼もただ傍観しているわけではない。

 

「んなろぉ! もう少しで白いのをやれたってのに…紅い新型が!」

 

 スティングはインパルスを仕留められなかった事に苛立ちを募らせた。インパルスは何度か交戦した経験があり、その度に何かしらの痛手を負わされていた。だからこそ、インパルスを仕留め切れなかったのが悔しくて仕方ない。
 対するアスランにはそんなスティングの憤激など知る由も無く、続けざまに小脇に抱え込んだ砲身からフォルティスビームを連射してガイアに牽制をかけ、インパルスから引き離した。

 

「無事か、シン!」
『た、隊長――!』

 

 地面で尻餅をついて倒れているインパルスに駆け寄り、アスランはシンに呼びかける。それを受けるシンは屈辱だと思っていた。ここは強がりを見せて助けてもらった事を無かった事にしたい。

 

『べ、別に助けてもらわなくたってあのくらい――』
「何とかできると思ったのか、お前は? だが――」

 

 アスランは即座にMA形態のカオスが、こちらに向かってカリドゥスの照準を合わせているのに気付いた。インパルスの腕を引っ張り、飛び上がるセイバー。そしてビームライフルを連射してカオスの機動兵装ポッドに穴を空けた。

 

「こ、この野郎!」

 

 スティングのカオスが煙を噴いてMSに変形する。そして、そのまま地上に不時着した。それを確認し、セイバーの頭部カメラがインパルスに振り向く。

 

『貴重な戦力であるお前をここで死なせるわけには行かない。敵が連携で来るのなら、こちらも連携を取らなくてはならないだろう?』
(っていうか、あんた一人で十分なんじゃないのか?)

 

 通信回線越しに爽やかに言ってくるアスランの声を聞いて、シンは心の中でそう突っ込んだ。

 
 

 エマとカツは、敵軍の出現方向から秘密基地の位置を探っていた。途中の敵を撃破しつつ、内陸部の奥へと向かう。

 

『敵の秘密基地って、何処なんだ…?』

 

 通信回線からカツの不安げな声が聞こえてきた。もうかなり進んだはずである。とすれば、そろそろ当りがあってもいい頃だが、未だに発見できないのは、タリアの判断が間違っていた可能性も考えなければならない。
 エマもそう思い、カツの不安に思う気持ちを理解していた。ミネルバを孤立させてしまっている現状では、タリアの判断をミスと仮定すれば、ミネルバにとって致命傷になりかねない。だからこそ、逆にタリアの判断は信じなければならない。
敵の母艦か秘密基地を見つけ、根城を叩いておかなければ敵の策略に嵌められてしまった事になるのだから。そうでなければ、この戦いは負けである。

 

「焦らないで、カツ。まだ敵が出てきているって事は、この方向に何かがあるって証拠よ」
『ですが、こうも見つからないと――』
「来たわよ、カツ!」

 

 その時、2機のMSの反応をレーダーが捉えた。まだレーダー有効範囲のギリギリの位置にいるが、相手もこちらの存在に気付いただろう。

 

「行くわよ!」
『了解です!』

 

 2機のMA形態のムラサメが敵機に向かって加速を始めた。

 

 スローター・ダガーのコックピットの中、ジェリドとカクリコンはJ・Pジョーンズを後にして意気を上げていた。J・Pジョーンズで命令に従って待機し続け、やっと掛った獲物である。これで仕事が出来るというものだ。
先に出て行ってしまったネオを恨みつつも、ジェリドは歓喜に舌なめずりをする。

 

『久々の実戦だ。抜かるなよ、ジェリド!』
「ふん、誰にモノを言っているんだ。MK-Ⅱを盗まれた貴様じゃないんだ、遅れを取るかよ!」
『そのMK-Ⅱを本部ビルに落としていた貴様がよく言う』

 

 お互いがお互いの恥ずかしい過去を知っている。それはかつてティターンズであった頃のグリーン・ノア・コロニーでの事だ。
ジェリドは訓練飛行中のガンダムMK-Ⅱを本部ビルに墜落させ、カクリコンはカミーユにガンダムMK-Ⅱを奪われた。
カクリコンとしては急なエゥーゴの襲撃に何も出来なかったし、ジェリドに至っては無理な低空飛行が原因だった。
 ジェリドは思う。あの頃は若かった。

 

「だが、もうあんな無様な真似はしないさ。俺達のコンビでコーディネイターとかいう人造人間をのしてやるぜ!」
『向こうもこっちに向かってきている。接触まであと30!』

 

 カクリコンに言われて気付いたが、こんな遠くからでも相手の位置を察知できるというのは驚きである。彼等が戦っていた頃は、ミノフスキー粒子の影響でレーダーや通信の類は殆ど役に立たなかったのだ。
それが、Nジャマーによる多少の影響があるとはいえ、こうしてレーダーを便利に使えているということは、彼等にとっては有利だった。

 

「ミノフスキー粒子が無いってだけでこんなに戦いやすくなるとはな!」
『俺達にしてみれば、敵が丸腰で向かってくるようなものだ。こりゃ楽勝だな』
「あぁ、行くぞ!」

 

 モニターを映すカメラにも敵の姿が映し出された。相手は2機の戦闘機。まだ有効射程外だが、レーダーに映っていれば彼等には問題なかった。射程外から攻撃を仕掛け、敵の出鼻を挫く、そう考えていた。

 

「何!?」

 

 しかし、相手の戦闘機の方がこちらよりも先に仕掛けてきた。同じ事を考えていたという事だろうか、ミサイルが白い尾を伸ばしながら向かって来る。

 

『敵もそれ程馬鹿ではなさそうだ。少しは楽しめそうだな、ジェリド?』

 

 ロックオンはされてないはずだから、その攻撃は簡単に的を外す事が出来た。易々と敵の先制攻撃をかわし、カクリコンが笑っている。ジェリドも同じ気分だった。

 

「そうでなくちゃ面白くないさ!」

 

 しかし、敵に先制を取られたのは面白くない。ジェリドとカクリコンはレバーグリップを握りなおし、スローター・ダガーに加速を掛けた。

 
 

 ジェリド達に対するのはエマとカツのムラサメ。先制攻撃を放ったのは、2人もジェリド達と同じくミノフスキー粒子下の戦闘経験があったからだ。
こうしてレーダーで相手の位置が丸見えならば、先手を取ったほうが有利である。

 

『当らなかった――中尉!』
「敵もこちらが見えているはずだわ。掛るわよ、カツ!」

 

 ヘルメットのバイザーを下ろし、敵機の上空を取る為にムラサメを上昇させる。カツもそれに倣い、エマの後に続いた。
 敵機との距離が近付き、相手のMSのフォルムが鮮明になってきた。今までのウインダムとは違う、ダガーのシルエット。しかし、その塗装は黒に彩られている。一目でその2機が普通の相手とは違う特別機だと分かった。

 

「黒いダガー、まるでティターンズね…カツは私から離れないようになさい! 相手は只者じゃないわ」
『分かりました!』

 

 ビーム攻撃の中を2機でフォーメーションを組んで、当初の目的どおりスローター・ダガーの上空に位置をとる。そこで変形を解き、上からビームライフルのビームを2機に浴びせた。

 

『ジェリド、散開だ!』
「言われなくたって!」

 

 スローター・ダガーは一旦お互いの位置を離し、ムラサメのビーム攻撃を逃れた所で再び合流した。

 

『外れた!?』
「もう一度よ、ついて来なさい!」

 

 再びMA形態に変形し、スローター・ダガーの上を取ろうと上昇させる。

 

「二度もやらせるか!」

 

 しかし、エマの目論見を察知したジェリドはスローター・ダガーにビームサーベルを引き抜かせ、上を取ろうとするムラサメに向かって加速を掛けていく。カクリコンのスローター・ダガーはビームライフル装備のまま、ムラサメに牽制を掛ける。

 

「こちらの変形MSを相手に、向こうから仕掛けてきた…カツは私から離れて! もう一機の方の頭を取るのよ!」

 

 エマの指示に従い、カツのムラサメがカクリコンのスローター・ダガーの上空へと向かう。向かって来るジェリドのスローター・ダガーは、どうやらエマ機に狙いを定めたようだ。
 エマは止む無くムラサメをMS形態に戻し、頭部のバルカン砲で牽制を掛ける。しかし、ジェリドのスローター・ダガーはロックオンを無理やり外す大きな旋回を掛けて、横からエマ機に襲い掛かった。

 

「くっ――!」

 

 コックピットの中を衝撃が襲う。ジェリドの斬撃は何とかシールドで受け止める事が出来た。しかし、攻撃を仕掛けてきたのが左側からで良かったと思う。もし右側から攻められていたら、シールドでの防御が間に合わなかっただろう。

 

「このっ――!」

 

 近付いたジェリド機に向けてビームライフルを取り回す。しかし、そこに既にジェリド機の姿は無く、今度は反対方向からのアラームが響いた。エマは慌ててムラサメをMAに変形させてその場から緊急離脱をする。

 

「ちっ、逃がしたか。…だが、何時までも逃げ切れると思うなよ、人造人間!」

 

 ジェリドは完全に取ったと思って仕掛けた攻撃が外れたことに、それ程落胆していなかった。待機していた時間が長かっただけに、この程度の攻撃であっさり片がついてしまってはつまらないと思っていたからだ。
 対するエマは深呼吸をする。一瞬ヒヤッとしたが、直ぐに冷静さを取り戻さねばまた危ない目に遭ってしまうだろう。

 

「やはり…この敵、普通の相手とは違う!」

 

 黒のカラーリングは伊達では無いと言う事だろう。片割れに向かわせたカツも苦戦しているようだ。向こうは中距離戦をお互いに仕掛けているようだが、追いかけられているのはカツの方だ。

 

「何とか合流しないと…」

 

 個々で戦っていたのではこの2機相手では分が悪い。相手も合流して手強くなるかもしれないが、確実に不利だと分かっていながら個別に戦うよりは、少しでも互いを補い合うために敢えて集団戦に持ち込んだほうが勝機もあるだろう。
 エマがカツを気にしていると、ジェリドが再びビームサーベルで襲ってきた。今度は丁寧にバルカンでこちらの飛び道具を牽制してきている。

 

「余所見とは舐められたもんだ! …が、貴様の命運もこれまでだな!」
「当るものですか!」

 

 しかし、ジェリドの意図は正直すぎた。いくら先程エマが致命傷を受けそうになったとはいえ、接近戦を仕掛ける気が見え見えの突撃では、流石に当てられない。バルカンをシールドで防ぎ、エマはムラサメを横へ流す。

 

「掛ったな!」

 

 しかし、ジェリドのスローター・ダガーはシールドで隠すようにビームライフルを所持し、エマからは見えないように右肩を突き出して半身で迫ってきていた。
エマがビームサーベルを避けるのと同時に左腕を突き出し、ムラサメに向かってビームライフルを構える。

 

「少しはいい腕をしているようだが、これで終わりだ!」
「やられる――!」

 

 咄嗟にエマは危険を察知した。ジェリド機の狙いは完全に自機を捉えている。今からでは方向を変えようにも、敵のビームが自分の機体を貫くほうが先だろう。何とかならないかとレバーを必死に動かした。

 

「堕ちろ!」

 

 ジェリドのスローター・ダガーのマニピュレーターがビームライフルのトリガーを引く。それと同時に銃口からビームの筋が伸びた。直撃コース。
 しかし、そのビームは一瞬だけ動いたエマのムラサメのビームライフルを吹き飛ばしただけに終わった。何とかエマはムラサメを捩(よ)じらせて、致命傷を避けた。
取りあえずビームライフルを失うという失敗を犯してしまったが、何とか機体が無事だっただけでも良かったとしよう。

 

「これを避けただと? 何だってんだ、こいつは――何!?」

 

 ジェリドが驚愕していると、今度はすかさずエマ機がビームサーベルを片手に迫ってきた。
 エマとしては、ビームライフルを失った時点で効果的な射撃武器が残されていない。MA形態で戦おうにも、ジェリドが相手では当てるのが難しいだろう。何より、MA形態では立ち止まって戦う事が出来ない。
それではカツを孤立させる事になってしまう。合流して迎え撃つのが得策であるこの状況では、MA形態での射撃は選択できない。それ故、エマはビームサーベルで接近戦を挑むしかなかった。
 受けて立つジェリドとしては、好都合だろう。彼の機体にはまだビームライフルが残されている。相手が接近するしかないのならば、ビームライフルの使えるこちらの方が圧倒的に有利だ。

 

「まぐれで何度もかわされて堪るか!」

 

 ジェリドはそれでも敢えてビームサーベルで相手の土俵に合わせた。どんなパイロットが乗っているのか確かめたかったからだ。
ファントム・ペインに配属になる前に何度か模擬線やらシミュレーターでの訓練はしていたが、カクリコンや他の元ティターンズのメンバー以外でこれ程苦戦する相手はいなかった。
 ビームサーベルを振りかぶり、お互いの刃が交錯する。ムラサメのビームサーベルがジェリドのスローター・ダガーの胸部装甲を掠った。

 

「こいつ!」

 

 すかさず返す刃でムラサメの胴体を狙いに行く。もうこの際誰が相手だろうが構わない。ムラサメのパイロットの力量がこちらの想像以上であるならば、手加減をすればやられるのは自分だ。
 だが、エマも同じ事を考えていたのか、ムラサメのビームサーベルもジェリドを狙っていた。そんな気持ちの交錯が、お互いを互角たらしめ、二人の振るったビームサーベルは共に相手のシールドに防がれてしまった。

 

『どけって!』
「この声!」

 

 ジェリドの声が接触回線でエマの耳に届いた。その声に、エマはハッとする。対するジェリドにもエマの声が届いたらしく、同様に驚いているようだ。

 

『その声…まさか!』
「ジェリド!」
『エマか!』

 

 かつては志を共にしたティターンズの同志である。エマがエゥーゴに移籍した後も、何度か戦場で交戦した経験もある間柄だ。一声で相手が誰であるか分かった。
 そして、同時にエマが最も危惧していた事態が起こった事も証明していた。かつて予想したとおり、自分たちだけでなく、ティターンズの面々もこの世界に飛ばされていたのだ。
カミーユが来た時点で何となくそんな予感はしたが、こうして現実になって見ないとどうも実感が沸かなかった。しかし、今それが現実になってしまった。
 ムラサメとスローター・ダガーは互いに動揺したのか、シールドで相手のビームサーベルを弾きあって距離を開ける。

 

(ということは、カツが相手にしているのもティターンズの誰か――?)

 

(エマがいるという事は、もう片方にはカミーユが――?)

 

 少し間を置いて、先に動いたのはジェリドだった。もし自分の予測が正しいのだとすれば、カクリコンが今相手にしている相手は自分の手で落とさなくてはならない。
 そういえば、エマのMSの戦闘機形態のフォルムは、何処となくΖガンダムのウェイブライダー形態に似ている。その脳裏に焼きついた記憶と、単純な思い込みから、ジェリドはカミーユの存在を勝手に確信する。

 

「待っていろ、カミーユ! 貴様は、この俺が引導を渡してやる!」

 

 思い出したようにエマを放ってカクリコンと交戦するムラサメに向かう。

 

「待ちなさい、ジェリド!」

 

 それを追ってエマもムラサメをMAに変形させて後を追う。

 

 最悪の事態になったと感じた。この調子で次々と異端者が明らかになれば、シロッコが出てくるような気がしたのだ。事の真相はジェリドにでも聞かなければ分からないが、聞いたら聞いたで後悔しそうな気がした。
シロッコがいればこの戦乱は益々混乱の様相を呈し、泥沼に嵌っていくだろう。そう思うと、真実を知るのが怖かった。