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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第17話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 11:39:26

『ガルナハンの夕日』

 
 

 ローエングリン・ゲート攻略作戦開始前、ミネルバのMSデッキでインパルスの調整を行っているシン。そこに、コニールがバギーでインパルスの足元にやってくる。

 

「ちょ、ちょっと! こんな狭い所で車を動かすな!」
「ごめーん」

 

 シンがコックピットから顔を出すと、ヨウランがコニールに向かって叫んでいた。いつもの調子だと思い、ヨウランは無視する。視線をこちらを見上げているコニールに向けた。

 

「コニール! バギーの調子はどうだ?」
「絶好調さ! この日の為にガスだってケチってきたんだ」
「そうか!」
「ガルナハンで落ち合おう! 絶対にこの作戦、成功させようよ!」
「勿論!」

 

 コニールはシンに告げると、ハンドルを切ってミネルバのカタパルトから外に飛び出していった。先に予定地点に向かった他のレジスタンスのメンバーと合流する為だ。

 

「よぉ、シン! お前、ちょっと降りて来いよ!」
「何だ?」

 

 下でヨウランが叫んでいる。シンはゴンドラを操作して下に降りる。そこではヨウランがなにやらにやけた顔でこちらを見ていた。

 

「お前、あのコニールって子と何かあったんだろ? その湿布だって、あの子と揉めてエマさんに殴られたからって話だったじゃないか?」
「別に…何だっていいだろ?」

 

 思い出すだけで顔が熱くなってくる。頬の赤らみは湿布で誤魔化せるだろうが、まさか自分がこれ程にまで純情だとは思わなかった。女性に対して人並みに興味はあったつもりだったが、やはり経験が無いのがいけなかったか。

 

「いいや、俺は許さないね。そんな不埒なシンには俺のチューで地獄を見せてやる!」
「や、止めろよ、気持ち悪い!」

 

「へぇ、シンとヨウランってそういう関係だったんだ?」

 

 ヨウランのチューなど冗談ではない。せっかく昨日のコニールのキスがあったというのに、こんな気色悪いことをされたら甘美な想い出が台無しだ。
それだけは避けなければならない、と抱き付こうとするヨウランに抵抗していると、カツが通りかかった。

 

「何言ってんだ! 俺はノーマルだ!」
「そんな連れない事言うなよ、シンきゅん~。俺とお前の仲じゃないか~」
「黙れって…こらっ、変な所に手を入れるんじゃない!」

 

「やっぱ、そうなんじゃないか」
「冗談言う前に助けろよ! ――くそっ!」

 

 シンはヨウランの顎を突っぱねて、無理やりに引き剥がす。そのままローキックを見舞ってヨウランを更に突き放した。

 

「痛い! じょ、冗談だって! ちょっとお前をからかっただけじゃないか、ラッキースケベ」
「その呼び方も止めろ! 何でちょっと女の子と話しただけでラッキースケベなんだ!」
「だって、そうだろ? こんな荒れた土地でさ、女の子といい感じになっちゃうなんて、ラッキーだろ? それでシンのような奴だったら、むっつりスケベに決まってるじゃないか」
「だから、本当に何でもないって! そんな事言ってる暇があるんなら、さっさとインパルスの調整終わらせろよ!」

 

 シンはそっぽを向いて腕を組む。ムッとしたように頬を膨らませようとしたが、まだ少し残る腫れの痛みで上手く膨らまなかった。

 

「ひひひ、見ろよ、こんなにムキになってよ?」
「やっぱりあのコニールって子の事が気になってるんじゃないか」

 

 カツとヨウランが肩を組み、にやけ顔でシンを見ている。

 

「な~?」
「な~?」

 

「何が“な~?”だよ…出撃前なんだから準備してろってんだ!」

 

 シンはゴンドラに乗り込み、再びコックピットの中に入っていった。

 

「おっと、これ以上はシンのへそ曲がりの機嫌が悪くなるだけだからな、この辺にしておくわ。ミネルバを守ってくれなくなっちまう」
「じゃあ、僕もムラサメの準備があるから」

 

 シンのむくれ面をみて、ヨウランは作業に戻る。一方のカツも、ヨウランに別れを告げて自分のムラサメの下へ向かった。

 

(シン、あいつ恋したのか?)

 

 シンの態度を鑑みる限り、コニールに対していい感情を抱いている事だけは確かだろう。恋する少年の気持ちが分かるカツとしては、そんなシンが暴走しないかどうかが心配だった。
 そもそも、カツがそんな心配をするのはおかしい。彼はグリプス戦役で出会ったサラ=ザビアロフという敵の少女に恋をしてしまった事があった。
そのせいで何度かアーガマを危機に晒したり、命令違反をしたりして周りに迷惑ばかり掛けていた。

 

(…胸騒ぎがする――サラが来た時と同じだ)

 

 何か良くない事が起こるような気がした。カツとてニュータイプの端くれ。たまにではあるが、変な予感めいた感覚がすることもある。それが、何故か今来た。シンの身に何か起こるのだろうか。
 カツが恋をしたサラ=ザビアロフは、最後はシロッコを庇ってカツに殺された。今でもその時のことを思い出すと胸が締め付けられる思いに駆られるが、自分がこの世界にいるのならもう一度彼女に会えるのではないかという期待はしていた。

 

「大丈夫なのか、あいつ――」

 

 出撃の時間は直ぐそこまで迫っている。カツは急いでムラサメの下へ向かっていった。

 
 

「作戦開始時間まであと5、4、3、2、1――ラドル隊が前に出ます」
「ローエングリン・ゲート攻略作戦、スタート!」

 

 ミネルバが浮上し、その上下左右からラドル指揮下の部隊が進軍を開始する。空にはバビ、地上からはバクゥ・ハウンドとガズウートが編隊を組んで進む。

 

「MS隊の出撃お願いします」
『了解。セイバー、出る!』

 

 ミネルバのカタパルトハッチが解放され、各MSが出撃する。

 

「ルナマリアとレイはラドル隊と協力してミネルバの援護。エマと――」
『アスラン隊長、僕をシンと一緒に前に出してください』
「カツ?」

 

 アスランが各機に指示を出していると、カツが通信を繋げて告げてきた。作戦では前回同様にカツはエマと一緒に周辺の警戒を任せるつもりでいたが、どういうつもりだろうか。

 

「この前のブリーフィングで決めたはずだが?」
『アイツと僕が仲悪いままでいて良い訳でもないんです。この機会に――』
「とは言うが、相手はバリア持ちの大型MAだぞ。――やらせる価値はあるかもしれないが」

 

『カツ、こんな時に冗談を言うのはお止しなさい。部隊全体に迷惑が掛るわ』

 

 アスランとのやり取りを聞いていたのか、エマが回線に割り込んできた。彼女としては、カツに迷惑を掛けさせるのは監督者として歓迎できない。

 

『俺はいいですよ、別に。誰が相棒でも、MAを落とせば文句ないじゃないですか。それなら、誰とだってやれるって所を、俺は証明しますよ』
「シン?」

 

 更に割り込んでくるシン。そんなシンの言葉がアスランには意外だった。彼とカツの反りが合わないのは知っている。普段のシンなら、そんな関係の悪い人間とコンビを組むなどしないはずだ。だが、今回のシンは何かが違う。何処と無く張り切っているような気がした。

 

「分かった。なら、やって見せろ、シン=アスカ、カツ=コバヤシ」
『ありがとうございます』

 

 カツは一言述べて敬礼した後、通信を切ってMA形態にムラサメを変形させた。インパルスとムラサメが、前線に向かって突き進む。

 

「エマさんは俺とミネルバの道筋を確保します」
『ミネルバのタンホイザーを見せるためにエスコートするのね』
「そういうことです。…レイとルナマリアは先ほど伝えたとおりに」
『了解』

 

 アスランが指示を出し終えると、ミネルバからタンホイザーの砲身が浮き出てくる。こうしてタンホイザーを敵に見せておいて、注意をミネルバに集中させる為だ。
 連合側は、ミネルバの姿を見て攻撃を集中し始めた。空中のバビを中心にウインダムと交戦し、地上からバクゥ・ハウンドとガズウートが砲撃を繰り返す。レイとルナマリアもガナー・ウィザード装備のザクで迎撃していた。
 そんな襲ってくる連合のMSの中、インド洋で遭遇した黒いMSが姿を現した。スローター・ダガーだ。

 

「あの黒のMSはジェリドともう一人! 先回りしていたの?」
『エマさん! あれはあなたの世界の方が乗っているんですね?』
「そう思います。でも――」

 

 対する二機のスローター・ダガーもセイバーとムラサメを確認した。そのコックピットに座るのは、女性達。白金に近いホワイトブロンドのショートカットの女性と、エキゾチックな感じのするビリジアンのセミ・ロングの女性だ。

 

「先行していったインパルスともう一機はゲルズゲーを叩くつもりだろうが――」

 

 ブロンドヘアーの女性、ライラ=ミラ=ライラはインパルスとカツのムラサメを見逃した。どうせ行かせてしまっても、たった2機ではリフレクターを持つゲルズゲーには敵わないだろう。

 

「出来るのかい? パイロットは坊やだと聞かされているが――」
『ライラ大尉、あの2機はジェリドからの報告にあったミネルバの艦載機です』
「見えているよ、マウアー少尉。ジェリドからの報告が間違っていなければ、ムラサメの方にはエマ中尉が乗っているはずだ。なら、あたしがムラサメの相手をする。仕掛けるよ!」
『了解です』

 

 2人のスローター・ダガーは一目散にセイバーとムラサメに躍り掛かる。ここで最も厄介なのは、この2機だ。だとすれば、先にこの2機を撃墜してしまえばミネルバは裸も同然だ。後の部隊は他の味方と協力して当ればどうとでもできる。

 

「来た! アスラン!」
『混戦です! 固まってください!』

 

 セイバーがプラズマ収束ビーム砲で2機のスローター・ダガーに牽制の一撃を浴びせる。ライラ達はそれを軽くかわしたが、衝撃で機体が少し揺れた。

 

「チッ! 賢しいザフトの馬鹿力かい!」
『大尉、アグニを使います』

 

 マウアーのスローター・ダガーはランチャー・ストライカー装備で出撃していた。ライラ機がマウアー機の射線上から身を引き、太めの複相ビームがセイバーとムラサメに伸びる。

 

「クッ! 敵も砲撃戦用の装備で出てきた! こちらは――」
『アスラン、ランチャータイプの方を任せるわ! 接触して誰が乗っているのかを確かめます!』
「了解です。…ここは各個で戦ったほうがいいのか」

 

 エマのムラサメが仕掛けるのと同時に、セイバーはフォルティスビーム砲をマウアー機に向けた。
 ライラ機はムラサメが向かってくるのを見て、それに乗っているのがエマだと直感した。こちらの正体を突き止めようとする衝動に見えるのは、その証拠だろう。

 

「来るのかい、エマ中尉!」
「それに乗っているのは誰? またジェリドなの?」

 

 ライラのスローター・ダガーは基本的なエール・ストライカー装備。よって、同じ様な装備のムラサメとは同じ土俵での戦いとなる。ライラはムラサメがビームサーベルを抜いて向かってくるのを見て、自身の機体にもビームサーベルを握らせた。
 そのまま2機はビームサーベルを振り上げ、交錯させる。

 

「それに乗っているのがジェリドなら引きなさい! ここにカミーユは居ないわ!」
『やはり、その声はエマ中尉。サイド1で会った時以来じゃないか? それに、カミーユってのは一緒に居た子供だね? あの坊やもこっちに来てるってのかい』
「ジェリドじゃない…その声はガルバルのライラ大尉!」

 

 エマは至近距離でバルカンを発射するが、ライラ機は素早い動きで機体を後退させてビームライフルを取り出した。慌ててエマもビームライフルを構えさせる。

 

「ライラ大尉! 何故この世界で戦争なんかやっているんですか? あなた程の人なら、こんな所で無茶やっても空しいだけだって、分かってるはずです!」
『そっちもやってるじゃないか? 訳も分からずこんな世界に飛ばされれば、生きて行くためには飯を食えなくちゃならない。だから、あたしは軍に入ったのさ』
「それは言い訳です! 異世界の私達が、こんな所で世界に介入していいわけが無いでしょう!」

 

 お互いがビームライフルで牽制をかけ続ける。実力が拮抗しているのか、ビーム同士が交錯するだけで殆ど相手に当らない。

 

『それは中尉のものさしだね! 戻り方が分からない以上、あたし達はもうこの世界の住人だって事なのさ! だったら、何をしようがあたしの自由じゃないか?』
「子供の理屈を捏ねるのか、ライラ大尉は!」

 

 ライラの言い分に苛立つエマ。そうだとすれば、ジェリドも同じ理由で連合軍に入ったのだろうか。自分の世界のMSを持ち込んでいないだけマシとも思えるが、それでもこの介入はエマの良心に反している。
もし自分の世界の技術情報をもたらすつもりならば、ここで食い止めなければならないのが今の自分の役目だろう。

 

 他方でマウアー機と交戦するアスラン。マウアーもグリプスを戦った戦士である。ヤキンの英雄と呼ばれるアスランに対しても、一歩も引けを取らない戦いを繰り広げていた。

 

「敵はダガーの特別機なのか? インド洋でエマとカツが交戦した連中なら、セイバーでこうまで苦戦するなど――!」
『動きが鈍いな、セイバー!』
「女性の声…敵は女性なのか?」

 

 聞こえてきた声が女性のものである事にアスランは動揺した。アスランにも一つの戦争を経験した自信がある。だから、ナチュラルには尚の事、女性に遅れを取るつもりは無かった。
 しかし、その認識は改めなければならない。こうして自分と対等に戦える敵の女性が出てきたということは、エマ達の世界ではそれが普通だったのだろう。

 

「エマもあれだけ出来たんだ…同じ世界の同じ女性なら、これくらい出来て当然だという事か!」
『今更そういう感じ方に変えようとも、既に遅い!』

 

 正確な狙いのアグニの光がセイバーの右肩アーマーに掠り、ビームサーベルが一本吹き飛んだ。

 

「やらせた!? ええい!」

 

 セイバーはMAに変形し、ロール回転しながら突撃し、フォルティスビームを連射する。高速の突撃に、マウアーのランチャー装備のスローター・ダガーでは回避は困難だ。

 

「敵は焦っている。こちらの力量を見誤ってくれたお陰で、こういう攻撃は当らずに済む!」

 

 しかし、マウアー機は岩陰に隠れてセイバーからの攻撃をやり過ごした。地上から狙い撃つ形になっているが、最初のコンタクトの時にマウアーの力量を測り間違えていたアスランの攻撃などに当るマウアーではない。
地形を利用して身を隠しながらセイバーを攻撃し続ける。

 

「くっ! 相手は地の利を生かして、飛べるこちらが有利なのを誤魔化そうとしているのか? …冷静になれ、アスラン。機体の性能では、ロールアウトしたばかりのセイバーの方がダガーよりも上のはずだ!」

 

 岩陰に隠れるスローター・ダガーを真上から急襲する為に、アスランはセイバーを上昇させる。マウアーはそれに気付き、上に向かってランチャーを構えた。

 

「上に逃げた? 太陽を背にするなど!」

 

 アグニを連射し、セイバーが襲ってくるであろう方向に向かってビームを浴びせる。太陽の光で目が眩んだが、牽制するには十分だ。
 マウアー機の上空から一気に下降するつもりでいたアスランだったが、マウアーからのアグニの連射に襲われて、機体のバランスを崩してしまった。
うまく隠れたつもりだったが、こんな使い古された攻撃方法では何とかできない相手らしい。インド洋でエマがライフルを失ってしまった理由が良く分かる。

 

「下から先手を取られた!? …それにしても、相手は量産機のアップバージョンだというのに――この間のウインダムといい、連合は量産機でこちらに対抗する力を身につけたというのか!?」

 

 セイバーは隊長である自分に託されたザフトの最新鋭機だ。それがダガーの特別機を相手にこうまで苦戦するとなると、特別な何かが作用している気がしてならない。
尤も、それはアスランの気のせいなのだが、それだけマウアーはティターンズのパイロットとして優秀であったという事だった。過去にはジェリドのガブスレイと協力してカミーユのガンダムMk-Ⅱを戦闘不能に追い込んだこともある。

 

「砲撃戦の機体なら、接近してしまえば終わりだろう!」

 

 アスランはセイバーに左肩アーマーからビームサーベルを引き抜かせた。そのままマウアーのスローター・ダガーに突撃をする。

 

「近付いてくる…大尉はアーガマの女を相手にしている。なら、ここは!」

 

 マウアーは冷静に状況を判断し、アグニを突撃してくるセイバーに向けた。

 

「やらせるか!」

 

 マウアー機の構えを見たアスランはバルカン砲で牽制し、マウアー機に最接近する。ビームサーベルのレンジ内にスローター・ダガーを捉え、大きく振りかぶった。

 

「見え見えだ!」
「かわした! …跳んだのか!?」

 

 しかしマウアー機はセイバーの動きを見切った上で自機のバーニアを噴かせ、セイバーがビームサーベルを振りかぶるのと同時に上昇していた。

 

「くっ! しかし、俺はここから――うっ!」

 

 シンの動きを思い出し、アスランはそのままスローター・ダガーを追撃に掛ろうとした。自分に足りてないのは思い切りの良さだ。シンの様に動ければ、もっと良い働きが出来る。
 しかし、追撃しようとスローター・ダガーを確認した所でアスランは一瞬だけ怯んでしまった。マウアー機はこちらに向けてアグニを構えたまま跳ねていたのだ。
この接近した状態で追撃を掛けて、もし撃墜する前にアグニを撃たれてしまったらどうしよう。直撃を受ければ、アスランはそこまでだ。かわしきれる自信はまだ無い。
 そんな風に考えていたら、知らず知らずの内にアスランはセイバーを後ろにジャンプさせていた。折角の追撃の機会であったが、アスランの意気地なしの根性がセイバーを下がらせてしまった。

 

「距離を開けた? 向かってくると見せかけて、こちらの砲撃を牽制しようというのか?」

 

 アスランの動きはマウアーにはちぐはぐに見えていた。ある意味優柔不断な動きは、傍目から見れば規則性のない出鱈目な動きだ。それに、マウアーは騙されていた。
 対するアスランにはそんなつもりは毛頭無い。スローター・ダガーの持つアグニの威力を考えれば、それを受ける前に早めに決着を付けたいのが本音だ。
しかし、マウアーを相手にあの一撃を掻い潜り、ビームサーベルのレンジまで接近できる自信がまだ無かった。かつて英雄と称されていようとも、アスランは現場に復帰してまだ日が浅い。
だからこそ、アスランはブランクを取り戻すためにシンのような情熱が欲しかった。

 

「躍起になるのだけは駄目だ…ここは確実に仕留めないと、あのランチャーにやられる事になる――!」

 

 カガリへの誓いもある。戦いで死ぬなど言語道断だ。敵は倒さねばならないが、自分が死ぬ事も許されない。アスランは歯噛みしつつ、スローター・ダガーを睨みつけた。

 
 

 先行するシンとカツ。敵の大多数はタンホイザーを見せびらかしているミネルバを落とす事に躍起になっていて、たった2機でゲルズゲーを落とそうという彼等には殆ど見向きもしなかった。
それだけ、連合軍はゲルズゲーの防御性能に自信を持っている。

 

「いいぞ、タンホイザーを出した事でミネルバに攻撃が集中している!」
『残ったルナ達は大変だろうけどな』
「分かってるさ、そんな事。だから、早くローエングリンを潰さなくちゃならないんだろ?」
『タンホイザーの牽制が来るぞ』

 

 その時、ミネルバからの長距離狙撃が、彼等の後ろからローエングリン砲台に向かって放たれた。恐らくこの一撃はゲルズゲーに弾かれてしまっただろうが、これでゲルズゲーの目もミネルバに向けられる事になるだろう。
そうすれば、ゲルズゲーも前に出てくる。砲台に向かう進路がこの渓谷しかないのならば、連合軍も油断して砲台の防御に回している部隊も前に出してくるはずだ。
 作戦としては、手薄になったローエングリン砲台をレジスタンスの面々に破壊してもらう手筈になっていた。先に出て行ったコニール達は、敵に見つからないようにローエングリン砲台の近くに身を隠しているはずだ。

 

『で、何でお前が俺と一緒に前に出るって言いだしたんだ? 俺と仲良くなりたいだけじゃないだろ』

 

 シンの疑問は尤もだ。カツは本来なら組みなれているエマと行動を共にするのが最も効率がいいはずである。それが、何ゆえにこうして仲の悪いシンと一緒に行動をしたがったのか。シンにはカツの考えていることが分からない。

 

「別に――女の子の事ではしゃいじゃってるシンが見てられなかったからさ」
『はぁ? お前にそんな事を心配されるいわれなんか無いだろ。それに、俺は別に浮かれてなんか居ない!』
「本人に、自覚が無い所が危ないって言ってるんだ。――こちらの思惑に乗ってきてくれた? …来た!」

 

 パネルのレーダーに大型の機影が映し出される。これがブリーフィングで見たゲルズゲーというリフレクター持ちのMAだろう。その威容はダガーの上半身に昆虫のような下半身をくっつけた、醜悪なデザインのMAだった。

 

「なんてMAだ! タランチュラに人型を乗っけるなんて!」
『タランチュラ…そうか、こいつはここで蜘蛛の巣を張ってやがったんだ!』
「何だって?」
『いきなり宣戦布告してきた連合の考えそうな形じゃないか? こんなデザインなら、人が乗っているなんて思えない』
「それはそうだけど…接近戦を挑むしかないと見るけど、どう思う?」

 

 ゲルズゲーの周囲には護衛のMSが数機ついている。それは恐らくゲルズゲーが単機による任務遂行を考えられていないMAである証拠だろうが、堅牢なシールドを持つ相手には接近戦を挑むしかない。だからこそ、カツは護衛のMSが邪魔だと思った。

 

「その為に、こいつを持ってきたんだ」

 

 ゲルズゲーがでてくると分かっていた時点で、シンはソード・シルエットのエクスカリバーを持ってきていた。対艦刀にも使えるその巨大な一振りは、ビームシールドを持っているゲルズゲーに対して有効だ。

 

「カツは他のMSをMAから離せ!こいつは俺が落とす!」

 

 インパルスにエクスカリバーを構えさせ、ゲルズゲーへの突撃準備に掛る。

 

(そして、コニールのガルナハンを解放するんだ!)

 

 敵からのビームをかわしつつ、シンはゲルズゲーに躍り掛かる。カツもそれを援護しながら周囲の護衛MSに対して攻撃を仕掛けた。

 

 その頃、コニール達レジスタンスは岩陰に身を潜めて戦闘の成り行きを見守っていた。そして、ゲルズゲーが居なくなった時を見計らい、ローエングリン砲台に向かっていく。それぞれ、ザフトから支給されたロケット砲や手榴弾などの武器を携えている。

 

「これでこいつを潰せりゃ、俺達は自由だ! もう少しだな、コニール!」
「うん! シン達が頑張ってくれているお陰だよ!」

 

 コニールの胸の鼓動が高鳴る。もう少しで、苦しかった連合からの圧力から解放されるのだ。貧しく辛い日々を暮らしてきた。それが、この乾坤一擲の一撃で終わるのだ。

 

「やろうよ、みんな! これで連合をガルナハンから追い出すんだ!」
「おぉー!」

 

 雄叫びを上げ、レンジスタンスの駆るバギー車やトラック十数台が一気に崖を下っていき、ローエングリン砲台の下までやってくる。

 

「今だ! ローエングリンに向かってありったけの弾をぶつけてやれぇ!」

 

 手持ちの火器ではあるが、動かないローエングリンを潰すには十分だった。撃ち出された弾がローエングリンに向かって放たれ、命中して大きな爆煙を撒き散らした。爆破の衝撃で崖が崩れ、小石や土埃が振ってくる。
 少しして炎が上がり、ローエングリンが爆発を始めたのを確認すると、蜘蛛の子を散らすように一目散にレジスタンス達は逃げていった。
 これで、最大の目標であるローエングリンの破壊は成功した。後はこれをミネルバに報告し、敵が撤退するのを待つばかりである。

 

「やったな、コニール! これで俺達は自由だ!」
「そうだよ、やったんだよ! ガルナハンの街に平和が戻るんだ!」

 

 バギーを運転しながら、後ろから歓喜の声を上げる仲間と一緒に喜びを分かち合う。これでミネルバに戻る頃には作戦も終了しているはずだ。シンに会ったら、今度は右の頬にキスをしてやろうと思っていた。

 

(やった――やったんだよ、シン! あたし達、やれば出来るんだよ!)

 

 コニールは、この作戦を通じてシンともっと仲良くできると感じていた。ミネルバとマハムール基地の部隊、そして自分たちレジスタンスが力を合わせて連合軍を打ち破ったのだ。
この結束力があって、仲良く出来ないわけが無い。逸る気持ちを抑えつつ、コニールはミネルバへの道を飛ばす。

 

 ゲルズゲーの部隊と交戦するシンとカツ。しかし、相手は護衛のMSと鉄壁のMAである。若い二人では中々思うように攻撃が出来ていなかった。

 

「何やってんだカツ! 囮になってMSをこいつから引き剥がすのがお前の役割だろ! こんなんじゃ、こいつは落とせない!」
『無茶を言うな! こっちは一人で4機のウインダムを相手にしているんだぞ! 偉そうな事を言う前に1機や2機のMSぐらい避けてあれを落とせよ!』

 

 ちぐはぐで動きの合わない2人。カツのムラサメでは4機のMSを相手に囮になるのは難しい。せめてセイバーのような大出力のビーム兵器でもあればもっと目立てただろうが、これでは巨大剣をもつインパルスの方が目立ってしまっている。
かくなる上は動きで敵を引き寄せようとも考えたが、自分はアムロ=レイの様に天才的なMSの操縦技術を持っているわけではない。

 

「僕とでもやれるって事を証明するんじゃなかったのか!」
『カツがついて来たいって言ったんだろ! ――ん?』

 

 その時、ミネルバからの通信が入った。交戦中のこのタイミングで入ってきたということは、もしかしたら朗報かもしれない。

 

「こちらシン=アスカ! ミネルバどうした?」
『レジスタンスの人達からローエングリン破壊が成功したとの報が入りました! 残存戦力の掃討に入ってください!』
「そうか、了解!」

 

 通信を切り、シンは安堵した。これでローエングリンを撃たれる心配は無くなった。

 

「コニール達がやってくれたんだ、コニールが――」

 

 シンの頭の中にコニールの顔が浮かび上がってきた。それだけで俄然やる気が出てくる。

 

「カツ! こんな所でもたもたしてる場合じゃないぞ! もうローエングリンは無いんだ!」
『僕だって聞いてた! そんな事言われなくたって分かってる!』

 

 シンの嬉々とした声が癇に障ったのか、カツは不機嫌そうな声で返した。カツだって、好きな女の子のためにはしゃぎたい。シンにはコニールという背の小さい可愛らしい子が居るが、カツの好きなサラはまだ合えていない。
会える保証もないが、いつか会えたらシンに自慢してやろうと思っていた。
 その時のカツは、サラが自分に靡(なび)いているかどうかなどは考えていなかった。はしゃぐシンを見て、対抗意識を燃やしているだけに過ぎない。

 

「そうと分かったらこんな奴! ――いけぇぇぇ!」

 

 エクスカリバーを構え、インパルスはゲルズゲーに飛び掛る。ウインダムが1機、妨害しに掛ってきたが、多少の損傷は覚悟の上だった。一発貰った所で、その程度で落ちるインパルスではない。
 そして、損傷を負ったとしても、後のウインダムはカツに任せてしまえばいい。愚痴を零してはいたが、流石はミネルバに特別に編入されてきただけあり、いい動きをしているのは認めていた。
彼なら、たとえ不利な状況でもナチュラルのウインダムに遅れを取る事などないだろう。

 

『待って、シン! そんなの無謀だ!』
「カツは俺とコンビを組むって言ったんだ! だったら――!」

 

 案の定、インパルスはウインダムのビームライフルの一撃を頭部に受けてしまった。ビームの光に溶かされ、インパルスのメインカメラが機能を失う。コックピットの中のモニターも、正面が映らなくなった。
 しかし、そんな事はもうどうでもいい。狙いは既についている状態だ。後は勢いに身を任せ、ゲルズゲーをエクスカリバーで貫くだけだ。

 

「――!?」

 

 そう思ったのも束の間、どれだけ突っ込んでも手応えがない。不審に思い、何とか生きているレーダーでゲルズゲーの位置を探ってみた。

 

「…真上?」

 

 何の事かは分からない。しかしレーダーのゲルズゲーの反応はインパルスの反応に重なっている。どういうことなのかを考えていると、大きな衝撃がコックピットを襲った。

 

「な、何だ!?」

 

 危険と思いつつもコックピットハッチを開き、外の様子を確認する。すると、何とゲルズゲーは蜘蛛の足でインパルスに正面から組み付き、地面に落とそうとしていた。シンが気付いた時には既に遅し、地面に突き落とされる。

 

「ぐぁっ――!」

 

 地面に衝突した衝撃で、シンの体にシートベルトがめり込む。その強烈な痛みにシンは思わず呻いた。
 カツは、ウインダムと交戦中にその様子を見ていた。

 

「シンのお調子者! 迂闊をやってるから――!」

 

 口では文句を口にしているが、何とかしなければならないと思っていた。このままではシンはやられてしまう。

 

「――ん?」

 

 と、その時一台のバギーがやって来た。それはミネルバへ戻る途中のコニールのバギーだ。

 

「こんな所にあんなもので――何をするつもりなんだ!」

 

「あれにはシンが乗ってるんだよ! やられそうになってんだ、助けなきゃなんないだろ!」
「だ、だがコニール! こんなバズーカ一つじゃ――」
「運転代わって! あたしがやるんだから!」
「うわわっ!」

 

 コニールは同乗していた仲間に運転を任せ、バズーカ砲を構える。そして、それをゲルズゲーに向かって放った。

 

「こいつ! シンから離れろ!」

 

 コニールの放った弾はゲルズゲーに直撃したが、リフレクターを持つゲルズゲーには傷一つ付けることが出来なかった。しかし、ゲルズゲーの注意がコニールのバギーに向いて、インパルスの上から離れた。

 

「こっち来た!」
「に、逃げるぞコニール! これ以上は無理だ!」

 

 慌ててアクセルをべた踏みにし、バギーを全速力で走らせる。

 

「シィィン! 早く逃げろぉッ!」

 

「だ、駄目だコニール! そんな事をしたら――」

 

 バギーで逃げるなど巨大兵器相手には所詮無意味だったのだろうか。ゲルズゲーにはビームライフルもビーム砲もある。遠距離攻撃が出来るのだから、結果は見えていた。

 

「きゃああぁぁぁ――!」

 

 何とか蛇行運転をしながらゲルズゲーのビームを避けていたコニールのバギーだったが、爆風に巻き込まれてバギーごと吹き飛ばされてしまう。

 

「あ――あぁッ!?」

 

 シンの瞳の中に、バラバラに吹き飛んでいくバギーと、宙に舞うコニールの姿がハッキリと見えてしまった。視線はコニールに釘付けになり、その軌道を目が追う。
 時間が長く感じた。コニールの上着がはためくのが、やけにハッキリと分かる。一緒に吹き飛んだ土埃や細かい石の礫、バギーの残骸が、まるでシンにそれを見せまいとするかのようにコニールの姿をちらちらと隠す。
そして、もうこれ以上見ていられないと感じた頃、コニールの肢体が地面に叩きつけられ、土埃を上げて跳ね滑る。ニ回転、三回転した所でやっと止まり、ぐったりとしたコニールが土埃の中から出て来た。
 シンの目が見開かれる。

 

「こ――こいつぅッ!」

 

 シンの頭の中で何かが弾けた。瞬間に怒りが爆発し、エクスカリバーを携えて再びゲルズゲーに飛び掛る。今度はもう外せない、迂闊な突撃は出来ない。

 

「ぶっ殺してやるぞぉッ!」

 

 シンは鬼になった。剥き出しになった犬歯が悪魔の形相を思わせ、充血した目玉が飛び出さんばかりに大きく目蓋を上げる。バイザーの裏側に、咆哮で飛び散った唾が付着した。
 インパルスのエクスカリバーがゲルズゲーに突き刺さる。そのまま勢い良く振り上げ、ゲルズゲーを真っ二つに切り裂いた。爆発するゲルズゲーを尻目に、インパルスがバーニアを吹かして跳躍する。

 

「お前もぉッ!」

 

 バランスが取れていないのか、インパルスの跳躍はフラフラしている。しかし、長大な大剣を振りかぶり、ウインダムの胴体を両断し、続けざまにもう一機のウインダムも縦に切り伏せた。

 

「シン――くっ、落ちろぉッ!」

 

 シンの鬼気迫る動きに、残りのウインダムは怯んでいる。その隙を突き、カツがビームライフルでそれらを纏めて撃墜した。

 

 一方、その頃ライラの元に通信が入ってきた。部隊指揮官からのもので、ライラは眉を顰める。

 

「――ん? ローエングリンが落ちた? 撤退命令が出たのか。なら、あたしもジェリドの事は笑えないね」
『何ですって?』
「エマ中尉、今回はあたし達の負けだ。でも、次もこう上手く行くとは思わないことだね。…マウアー少尉、撤退する!」

 

 マウアーのスローター・ダガーを引き連れ、ライラ機が撤退していく。それに釣られる様に、他の生き残った連合軍も撤退を開始した。

 

「あの女性…これがエマの世界の女の力か…」

 

 マウアーが撤退して安堵の溜息をつくアスラン。戦ってみて、マウアーが普通のナチュラルよりも成熟したMSパイロットであることが分かった。確かに、エマの世界ではMSが世に現れて十数年が経過している。
MSの歴史が2年そこそこのこの世界の事情に比べれば、彼女達の方がMSの扱いにかけては一枚も二枚も上だろう。
 去っていく敵の後ろ姿を見つめ、アスランはゆっくりと体をシートに預けた。

 

 インパルスが四つん這いになり、コックピットからシンが飛び出してくる。カツは、それをムラサメのコックピットの中から見ていた。シンが駆け寄るのは勿論コニールのところ。彼女は、無事なのだろうか。

 

「は――!」

 

 コニールを抱きかかえるシンが首を横に振っている。がくんと首を下に落とし、肩を震わせていた。駄目だったのだろう。
 シンの後ろ姿がとても小さく見えた。カツは、動こうとしないシンを待つことにした。待っていてあげるのが、仲間としての自分の役目だろう。先程から、帰還命令が出ている。後でタリアかエマ辺りに怒られるかも知れないが、それは自分が全て受けようと思っていた。

 
 

 作戦が終わり、歓喜に沸くガルナハンの街。その騒々しさから逃げるように、夕日が照らすミネルバの甲板にシンは出ていた。柵に体を預け、夕日を見つめる。
 コニールが居ないのに、何が嬉しいものか。シンにとって、ザフトの作戦成功よりも、コニールを守れなかった後悔の方が遥かに大きい。彼にとって、今回の作戦は死に等しい敗北だ。
 ふと、後ろから扉の開く音がした。ふいにシンはその方向に顔を向けてみる。すると一瞬、コニールの幻が見えた。しかし、それは直ぐに消え、現れたのはルナマリアだった。シンは目を擦ると、視線を下に外してルナマリアに背を向けた。

 

「シン――」
「何しに来たんだよ?」

 

 何かを言おうとしたルナマリアの言葉を遮るように、シンは言う。まるで、ルナマリアに何も言って欲しくないかのように。そんな意図が透けて見えたのか、ルナマリアは視線を落として言おうと思っていた言葉を飲み込んだ。

 

「俺を慰めに来たんだろ? コニールが死んだから」
「分からない……」
「分からない? じゃあ、どうして俺のところに来たんだ?」

 

 棘のようなシンの言葉。笑い混じりでしゃべっているが、ルナマリアには痛いほど分かっていた。シンはかつて無いほど落ち込んでいる。口では強がっているが、顔をこちらに向けないのが何よりの証拠だ。
 シンが落ち込んでいるということは、もしかしたら亡くなった家族にも影響しているかもしれない。シチュエーションは似ている。しかし、流れ弾に巻き込まれたシンの家族に対し、コニールは戦闘に参加していて死んだ。

 

「あのさ、あたし――」
「触るな!」

 

 ルナマリアがシンの肩に手を伸ばすと、急に荒げた声でシンが怒鳴った。それに驚いてルナマリアは思わず体を一回ビクつかせ、差し伸べた手を引っ込めた。

 

「なんで――?」
「…今俺に触ったら、ルナの事殴るかもしれないだろ」
「な、殴る? …そうか、そうだよね。ごめんね、シン……」

 

 ルナマリアは少し泣きそうな顔をして甲板を出て行った。それを肩越しに確認すると、左頬に貼られている湿布を剥がして擦った。コニールとの想い出は、それしかない。

 

 甲板の上の展望室で、エマとカツはそんなシンを見つめていた。特にカツはシンと一緒に戦っていただけに、彼の事が心配だった。

 

「戦いには勝ったっていうのに、どうしてこんなにやりきれない気持ちなんでしょう」
「人間は、勝利の喜びよりも、誰かが死んでしまった悲しみの方を強く感じてしまう生き物だからよ。だから、夕日の色だって悲しく見えてしまうわ」

 

 ちょうど、夕日が渓谷の間から覗いている状態だった。刺すような光が、カツの小さな目を更に細くする。

 

「だったら、人はどうして戦争を続けられるんですか? 人の死を悲しく思える人間が、どうして人が死ぬ戦争を続けられるんです? そんな理屈じゃあ、僕達はいつまで経っても先に進めやしませんよ!」
「あ…えぇ、そうよね、カツ。理屈だけでは駄目よね……」

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ――……!」

 

 夕日に向かって雄叫びを上げる獣が一匹。その雄叫びも、ガルナハンの夕日に融(と)けて消えた。