Top > ΖキャラがIN種死(仮) ◆x > lz6TqR1w 氏_第26話
HTML convert time to 0.015 sec.


ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第26話

Last-modified: 2009-05-13 (水) 22:21:08

『再会と別離の先には』

 
 

 J.Pジョーンズの放った最後のミサイル。有効射程圏内にミネルバを捕捉し、放ったそれはファントム・ペインが補給部隊から渡された切り札。ミネルバの装甲をズタズタにし、タンホイザーをも巻き込んで大損害を与えた。

 

《罪滅ぼしだと思われなくてもいい――でも、あたしにはこうするしか他に無いのよ……》

 

「レコアさん……? エマさん!」

 

 チャージ中のタンホイザーの爆発がミネルバを包み込む。空気中を振動が伝い、ビリビリとした揺れを感じた。
 カミーユはミネルバに振り返り、目を見開く。

 

「まさか――カツ、来てくれ!」
『僕にも分かった! レコア少尉とエマ中尉が……!』

 

 カミーユが呼ぶと、すぐに駆けつけるムラサメ。カミーユはその背にガンダムMk-Ⅱを乗せ、ミネルバへ急行する。

 

「ム……Mk-Ⅱが逃げる? 待て、カミーユ!」

 

 その姿を発見し、ジェリドは我先に追いすがろうとする。しかし、すぐにマウアーから通信が入った。

 

『駄目だ、ジェリド。大佐が撃墜された』
「大佐が!?」
『J.Pジョーンズの被害も深刻だ。イアン艦長からも撤退命令が出ている』

 

 ふと気付くと、撤退命令のコールが鳴り響いているのが分かった。J.Pジョーンズは既に撤退行動を開始しており、ウインダムも続々と帰還を始めている。ミネルバに打撃を与え、その隙に姿を眩ませようというのだ。

 

「奇襲を受けてカミーユも落とせずに――退くしかないのか、くそぉッ!」

 

 ジェリドは悔しさを滲ませ、歯を食いしばる。カオスと共に相対するブラスト・インパルスとM1アストレイにありったけの砲撃をかまし、仕方なくJ.Pジョーンズへ進路を向けた。

 

 一方でアスランと交戦するライラとカクリコンにも撤退の命令が届いていた。アスランも、ミネルバの爆発に流石に動揺しているようだ。

 

『大尉、ここは退くしかない! 大佐がやられた以上、これ以上の消耗戦は部隊存続の危機だ!』
「分かっているよ、中尉! しかし――!」

 

 なんとも小癪なのはセイバー。こちらが2機で襲い掛かっているのにも関らず、相手は1機で事も無げに戦って見せた。互いに致命傷こそ与えられなかったが、セイバーのパイロットの力が上がっているのがハッキリと分かる戦いだった。

 

「こんな知恵遅れのMSでは、コーディネイターのMSには敵わないってのかい……」

 

 スローター・ダガーは、高級量産機だけあって悪くないMSだと思う。しかし、それでも高性能なセイバーとエース格であるアスランのコンビを相手にするには、MSに実力を制限されたままの現状では既に太刀打ちできない次元にまで来てしまっている。
この先、ミネルバと戦うには、もっと高次元で戦闘力を発揮する高性能MSが必要となってくる。少なくとも、かつて乗っていたガルバルディβ以上の性能が欲しい所だろう。
 正直、MSの性能に頼らなければならなくなった事が悔しくもある。腕に自信があっただけに、その現実が酷く滑稽に思えた。きっと、ジェリドや他の面子も同じ事を考えているだろう。

 

「フン…あたし達を目の前に余所見かい? 舐められたものだね……!」

 

 セイバーは爆発を起こしたミネルバに気を取られている。その様子に、ライラのプライドが傷つけられた。

 

『引き上げるぞ、大尉!』

 

 カクリコンの声に一言応え、ライラは今に見て居ろよ、とセイバーを一瞥してJ.Pジョーンズへ機体を向かわせる。

 

「ミネルバは――あっ…敵が、退いていく……」

 

 ミネルバの損傷に気を取られていたアスラン。気を取り直し、ライラ達を睨み付けたが、その時には既に撤退を開始していた。気を取り直し、再びミネルバを気にかける。

 

「ミネルバに急がなくては――」

 

 爆発の規模が規模なだけに、ミネルバの安否が気に掛かる。アスランはセイバーをMAに変形させ、ブースト・ペダルを踏み込んだ。

 
 

 戦闘が終了し、その後、ジブラルタル基地からの輸送部隊とクレタ島で合流し、ガンダムMk-Ⅱを引き渡した。
アークエンジェルの降下地点のズレで生じた計画の不具合を修正する為に、ジブラルタル基地の研究員の予(かね)てからの要望どおり、ガンダムMk-Ⅱを先行させることになった。
 そして、その部隊に、カミーユとロザミアも一緒に行くことになった。民間人が無断で出撃したという罪で逮捕、という名目になっているが、それは建前で、実際には彼をガンダムMk-Ⅱのデータ解析研究に参画させるという主目的があった。
保釈する代わりに、強制的に彼を解析研究に加えて、速やかに核融合炉搭載MSの生産体制に移行しようというのがザフトの思惑だ。
 それに加えて、彼の体調を整えるというタリアの配慮もあった。無理をして戦闘に出て行ったばかりに、彼の顔色が優れない。

 

「カミーユ、レコアの事をお願いね」

 

 輸送艦に移動しがてら、頭に包帯を巻き、腕を首から吊り下げているエマがカミーユに言葉を投げ掛ける。レコアに庇ってもらったお陰で、軽症で済んだようだ。
 対するレコアはまだ目を覚ましていない。外傷こそ酷くなかったものの、運悪く強く頭を打ち付けてしまったようだ。彼女は担架の上で、まるで人形のように眠っている。
 カミーユは視線をレコアに落とし、顔を見やった。

 

「はい。…でも、どうしてあんな事を……」
「私が迂闊だったのよ。レコアは私達を裏切った過去に罪悪感を抱いていた…だから――」
「レコアさんって、いつも無茶ばかりして危険な目に遭って――」
「責めないであげてね、カミーユ。レコアはレコアなりに、私達に対する罪滅ぼしをしているのだから」
「分かっています……」

 

 エマも少し元気が無い。レコアを心のどこかで信用しきれず、監視という意味で彼女と同じ戦列に立った。しかし、彼女に救われた事でそれが間違いだった事に気付き、若干の自己嫌悪に陥りつつあったのだ。

 

「シン」
「何ですか?」

 

 不意にシンに声を掛けると、少し取り繕うように表情を変化させた。

 

「この間俺が言った事、考えておいてくれないか?」
「またそれですか? そうは言われても――関係ないじゃないですか、俺には」
「戦っていく上で、そういう感性も必要になってくる。お前には、ただ戦わせられているだけの人になって欲しくないんだ」

 

 どこかアスカ少年に感じるものがあったのかもしれない。カミーユはシンには伝えるべきことがあるような気がした。彼の瞳は、全てを燃やし尽くすかのような真紅の瞳。地獄の業火にその身を焼かれようとも戦い続けるような荒々しさが感じられた。

 

「今、傍に居てくれる人を大事にしてやってくれ。そうでなければ、きっと後悔する事になる」
「俺の傍には誰も居ませんよ」
「そうかな――気付いていないだけで、お前を大切に思ってくれる人は居るんじゃないのか? 自分を大切に思ってくれる人が居るって事は、いい事さ」
「何です、それ? 単なる精神論じゃあ、戦争には生き残れませんよ」
「君は戦争で家族を亡くしたと聞いている。そういうものって、結構引き摺られるものなんだよな――過去に引き摺られて、目の前の現実に盲目になるなよ」

 

 そう伝えると、カミーユはキラ達の方に向かって行った。シンはその後ろ姿から視線を外して渋い顔をしていた。彼は、カミーユが何となく苦手なのかもしれない。何でも見透かすかのような視線が、とても鬱陶しく感じられた。
 シンがそう感じたのには、理由がある。カミーユの言っている事が、少なからず彼の無意識的な悩みになっていたからだ。本人は気付いていないが、それは徐々に彼の精神的余裕を蝕んでいた。
 カミーユの去り際に舌打ちをしていると、隣にルナマリアがやって来た。

 

「何、話してたの?」
「知らないよ」

 

 質問にそっぽを向き、シンはミネルバに帰っていく。その態度に怪訝に首を傾(かし)げながら、後を追って行った。

 

 輸送艦のハッチが閉じ、ガンダムMk-Ⅱの搬送作業が終わったようだ。カミーユとロザミアは輸送艦に乗り込み、窓から修理作業に追われるミネルバとアークエンジェルを見た。
 J.Pジョーンズの攻撃でボロボロになったミネルバ、月での作戦でローエングリンとフリーダムを失ったアークエンジェル。この先の事を考えれば、当然その2艦の力が必要となってくるだろう。ジェリド達、元ティターンズのメンバー、それにシロッコとサラ。
たった数人の介入で、世界はこれ程にまで混乱した。

 

「シロッコめ……!」

 

 核融合炉搭載MSを持ち込んできたのはシロッコ。いつまでも人を見下すだけ彼を放っておけば、ナチュラルとコーディネイターの確執以上に不自由な世界が待っているだろう。それは、同じ世界からやって来た自分達が――止めを刺したカミーユが止めなければならない。
その為には、こちらも核融合炉搭載MSで対抗するしかない。ジ・Oや他のMSと対等に戦う為には、Ζガンダムも必要となってくるだろう。

 

 カミーユを乗せた輸送艦が、離陸する。まるで先程までの騒ぎを忘れてしまったかのように海は静かだった。

 
 

 それから数時間後、ミネルバの一応の応急処置が終わり、飛行は出来ないまでも海を航海するまでには回復した。それに合わせるようにアークエンジェルも海上を行き、ジブラルタル基地への航海が再開された。

 

 戦闘より帰還したレイは、部屋に篭ったきり、ベッドに腰掛けて物思いに耽っていた。戦場で撃墜したファントム・ペインの指揮官、それがネオ=ロアノークという名だという事は分かった。しかし、どうして自分と感じ合える感性を持っていたのか、全く分からない。

 

「何故、あの男がラウに近い感じがした? あんな野蛮な男を、優しかったラウと感じ間違えるなど――!」

 

 自らMS乗りこみ、エクステンデッドを煽動して戦わせているネオ=ロアノーク。その所業は、まるで自分やラウのような身分のものが操られているそれに見えた。そんな憎むべき人間が、自分達と同じであるとは思えない。
 ラウは、ただ自らの生に哀れみを抱いただけであるとレイは考えていた。そうでなければ、同じ身の上の自分を可愛がったりなどしなかったはずだ。彼の優しさは、同種である自分に向けられた哀れみだった。
 それでも、構わなかった。仲間であると認識できれば、彼のような人間は頼もしかった。彼のお陰で、レイは一人ではないことを証明できたのだから。
 しかし、そんな彼を壊したのはキラ=ヤマト。彼の存在が無ければ、ラウはあれ程にまで自暴自棄にならずに済んだのかもしれない。なまじ完璧すぎる人間の存在を知ってしまっただけに、自己の存在が極めてちっぽけなものに思えてしまったのだろう。
 それは不幸な巡り合わせで、レイもまた現在その様な状況に直面してしまっている。ラウを壊し、殺したキラを許すことが出来ない。ただ、デュランダルの存在がある分だけ、彼は感情を抑えているに過ぎなかった。

 

「……?」

 

 部屋の中は明かりに乏しく、薄暗闇の中にレイが佇んでいるだけだ。きぬ擦れの音もしない部屋の中に、軍靴の音が聞こえてきた。なにやら外が騒がしい。気になったレイは立ち上がり、部屋を出た。

 

 レイが気付いた喧騒の正体、それは、海に浮かぶMSの残骸だった。そのコックピットから這い出て気を失っている男が居るというのだ。
 アークエンジェルのブリッジで、モニターに映し出されたその男の顔に、ラミアスは慄いていた。

 

「か、艦長……!」

 

 モニターを見つめるサイも、その顔は良く知っている顔だ。そして彼だけでなく、かつてアークエンジェルでヤキン戦役を戦った者なら、誰でも知っている男。
 ふと、ラミアスが涙を零した。2年間、ずっと死んだと思っていて、諦めようと思っても諦めきれなかった男性。

 

「ム…ムウ――!」

 

 ポツリと名を口にしたきり、それ以上は言葉にならなかった。脇に転がっているヘルメット、そしてウインダムのものと思しき胴体部。それがレイが撃墜したファントム・ペインの指揮官機である事を、雄弁に語っている。

 

「マリューさん、すぐに収容しましょう! 僕がスカイ・グラスパーでムウさんを迎えに行きます!」

 

 駆けつけてきたキラが叫ぶ。その声にハッとし、ラミアスは我に返った。

 

「だ、駄目よ……まだ、ムウだと決まったわけではないのだし、そんな急に――」
「マリューさんがそんな事でどうするんですか!? あの人はムウさんです! さっきの戦闘を見てて、どこかで見たことのある動きだと思ってたけど――そういう事だったんですよ!」
「でも、ミネルバのタリア艦長だって――」
「そんな事は関係ないです! マリューさんはムウさんの事が好きなんでしょ!? だったら――とにかく、僕は行きます! あれが本物のムウさんだったら、こんな再会の仕方だってあるんですよ!」
「あっ、待って……」

 

 興奮するキラは感情を抑えきれずにブリッジを飛び出していった。ラミアスはそれに手を伸ばしかけたが、捕まえる事は出来なかった。躊躇う気持ちがあったからだ。
 ラミアスの気持ちは、複雑だ。本物であって欲しいと思う反面、どうしてもモニターに映る男がかつて愛したムウであると認めたくなかった。
もしあれが本物のムウならば、彼は2年間、何の連絡も寄越さずに、連合軍でエクステンデッドを指揮して敵になってしまっていた事になる。そんな不条理で不可解なことを、混乱するラミアスが認められるはずが無いのだ。

 

(どうすればいいの? どうすれば――)

 

 髪が伸びて、かつての面影を感じさせない風貌。顔には幾つもの傷が刻まれていて、もしかしたらそれが奇跡の生還を果たした証なのかもしれない。
 ただ、それはラミアスを余計に混乱させるだけのものでしかなかった。激しい葛藤が心の内を掻き乱し、体はまるで石になってしまったかのように動かない。金縛りのような感覚に囚われ、モニターをじっと見つめる事しか出来なかった。

 

 緊急用として搭載されていたスカイ・グラスパーに飛び乗り、キラはムウの下へ向かう。ミネルバから、同じく彼を収容しようと出てきたセイバーが、こちらに気付いてくれた。通信回線で、アスランが呼びかけてくる。

 

『キラ、あれはムウ=ラ=フラガ少佐なのか?』

 

 彼が疑問に思うのも無理も無い。かつての頃よりも、大分風貌が違って見えている。しかし、長いこと付き合いのあったキラには、それは些細な違いに過ぎなかった。

 

「間違いないよ。あれは、ムウさんだ」
『そう…なのか。あの人は――』
「お願いだ、アスラン。ムウさんを、アークエンジェルで収容させてくれないか? ムウさんを待っている人が居るんだ」
『そりゃあ――』
「勿論、ザフトの事情も分かっている。でも、一番最初にマリューさんに会わせてあげたいんだ……」
『キラ……』

 

 キラの気持ちも分かるアスラン。自分とて、隊長である自らがこのような雑用に出なくてもいい身分なのに、気になって出てきてしまった。

 

『尋問は、俺たちでやらせてもらえるんだな?』
「ありがとう、アスラン」

 

 キラはスカイ・グラスパーを加速させた。一刻も早く、ラミアスに対面させてあげたいと思っていた。
 アスランもそんな彼の優しさを知っているからこそ、彼の我侭を許してしまった。昔からキラにだけは甘い自分を、何故か笑ってしまう。そんな自らの滑稽さに笑いながら、アスランはセイバーをミネルバに向かわせた。

 

 ネオはキラのスカイ・グラスパーに回収され、アークエンジェルの医務室に収容された。裂傷は見当たらないが、体中に打撲の痕が無数に散りばめられている。
コックピットから這い出ていた事から、少しの間意識があったのだろうから、一先ず生命の危険は無いと言えるだろう。後は、彼の体がOKを出して意識が回復するのを待つばかりだ。
 ラミアスが医務室に入ってくると、ネオを回収したキラが付き添っていた。ラミアスの方を振り向き、視線で手招きしている。フラフラと歩み寄り、ベッドの側に跪いてネオの顔を注視した。
 肩口にまで伸びたブロンドの髪と、刻まれた痛々しいまでの傷跡。それがかつてのムウと同じと言えば嘘になってしまうが、しかしこの顔はムウ以外の何者でもない。

 

「キラ君、この人が、本当にムウだと思える?」
「マリューさん、正気ですか? この顔がムウさんじゃなかったら、誰だって言うんですか?」
「でも、この人は私達の敵の指揮官なのよ? そんな人がムウだなんて……」
「生きていたって事が信じられないのは分かりますけど――」
「だったら、どうして――どうして私に何も言ってくれなかったの……?」

 

 ラミアスは仰向けに横たわるムウの体に顔を埋め、泣き出した。裏切られたという気持ちがあったのだろう。キラはそんなラミアスの背中を擦り、ゆっくりとネオの寝顔を見た。

 

「きっと、ムウさんにはムウさんの事情があったんですよ。だから――」
「何の事情があったって言うの!? それが、私達に敵対してまでしなければならない理由なの!? こんなの、酷すぎるわよ!」
「マ、マリューさん……」

 

 顔を上げ、キラに声を張るラミアス。強張った表情で、流れる涙が鬼の形相を思わせた。普段温厚な彼女が絶対見せない表情に、キラは思わず慄いてしまう。
 そんなキラの恐怖にも気付けずに、ラミアスは口元を手で押さえて嗚咽を漏らし始めた。

 

「必ず帰ってくるって、約束したのに……どうして――」

 

「そんな大声で話されたんじゃ、おちおち眠ってられないな」

 

 聞きなれた声が、部屋の中に木霊した。ハッとして視線を向けると、ネオは薄目を開けて天井を見つめている。

 

「ムウさん!」
「ムウ……!」

 

 慌てて駆け寄るキラ。ラミアスは涙で崩れてしまった顔も気にせず、顔をネオに向けた。

 

「ムウ…って、私はネオ=ロアノーク連合軍特殊部隊ファントム・ペイン所属大佐だぞ。誰と間違えている?」

 

 体がまだ痛んで動かないのだろう。視線だけキラに向けて、訝しげそうに睨んでくる。

 

「も、もうそんな嘘をつく必要は無いんですよ、ムウさん! ここはアークエンジェルですから、もう大丈夫なんです」
「はぁ? 何を言っているんだ、お前は? …フン、さては、そう言って私を混乱させ、よしんば懐柔して尋問をし易くしようって算段だな? そんな小細工に、私が引っ掛かると思うなよ」
「ち、違いますよ! ほら、マリューさんです、ムウさん!」
「ん?」

 

 キラが手でラミアスに注意を向けさせようとすると、ネオはその通りに見やった。そこには、涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまっている女性の顔があった。普通の顔をしていれば美人だろうが、こんな顔では興味すら沸かない。

 

「色仕掛けだったら、もっとマシな美人を連れてくるんだな。こんな女で私を落とそうというのなら、お前の趣味を何とかした方がいいぞ」
「――ッ!?」

 

 ショックだった。完全にムウと認めたわけではないが、よもやこの様な辛辣な暴言を、ムウと同じ声で言われるとは思わなかったからだ。居た堪れなくなって、医務室を飛び出した。

 

「ムウさん!」

 

 キッとネオを睨むキラ。しかし、ネオは何の意にも介していない様子で釈然としていた。

 

「捕虜の扱いは、戦時条約に基づいて丁重に扱ってくれるんだろうな? 大佐としてもてなしてくれるのなら、尋問にも誠意を見せるくらいの事はするぞ」
「あなたは……!」

 

 酷い暴言を吐いておいて、悠々とこのような事を口に出せるネオが、本当にムウなのだろうか。キラは固く拳を握り締め、今すぐにでも彼を殴り飛ばしてやりたい気分だった。
 しかし、それは出来ない。殴ったところで、彼が反省するようには決して見えないし、逆に口を閉ざされたらアスランに彼の身柄を譲ってもらった意味が無い。グッと憤りを堪え、キラは一瞥すると医務室を出て行った。

 
 

 航行を続けるミネルバとアークエンジェル。やはり機関出力が上がらないせいで、非常にゆったりとした航海になってしまっているが、この地域に配属されていたファントム・ペインを撃退した事により、安全な航海が出来ていた。

 

 そして、ミネルバから移動してきたタリアが、ネオの尋問の為に収容されている医務室へ入ってきた。その隣には、護衛に志願したレイが付随していた。
 タリアはベッドの側にある椅子に腰掛け、ネオを尋問していた。

 

「核融合炉搭載型MSについては、私にも詳しい事は分かっていない。私の部隊に配置されていたのは、少数のミノフスキー粒子を応用したビーム兵器だけだ」
「では、連合軍は完全に核融合炉搭載MSをモノにしたわけではないのね?」
「だから、私は技術部の情報は知っていない。あれは、月のパプテマス=シロッコとかいう男が主導で開発しているんだ。現場担当の私が知るわけが無いだろ」

 

 タリアは溜息をついた。大佐という肩書きを貰ってはいるが、どうやらいいように利用されているだけの男のようだ。立派な肩書きは、便宜上のものなのかもしれない。

 

「では、そのパプテマス=シロッコという男が何者なのかも知らないのね?」
「フッ…ハハハ!」

 

 急にネオが笑い出した。眉を顰め、睨みつけるタリア。

 

「何か?」
「あんたらも知っているんじゃないのか? いや、知っている人間がいると言った方がいいかな?」
「どういうことかしら?」
「しらばっくれなくてもいいだろう? 私の調べでも、“イレギュラー”と呼ばれる者が何人か連合軍に紛れ込んでいるという事が分かっている。そして、ミネルバに経歴不詳の兵が混ざっているって事もな――そいつらが、そうなんだろ?」

 

 ネオは気付いていた。ジェリド、カクリコン、ライラ、マウアー……いくら経歴を洗っても、数ヶ月前までの足取りが掴めなかったのだ。そんな人間を、よくも連合軍は雇用したな、と不思議に思っていたが、それがシロッコの差金と知って納得した。
 ミノフスキー物理学を手土産にジブリールに取り入ったパプテマス=シロッコ。彼が“イレギュラー”と呼ばれている事を知るのに、大した手間は掛からなかった。そして、突き詰めていった結果、彼が異世界から来た人間だと分かったのである。
流石にそれを知ったときには面食らったが、しかしあのような高度な技術を何の前触れも無く持ち込んできた現実を考えれば、そう思わざるを得ないだろう。
 そこから先の調査は芋蔓(いもづる)式に判明してきた。同じ様な身の上の人間達がオーブに入ったという情報も、特殊諜報部隊としても活動しているファントム・ペインの情報力を駆使すれば容易い御用であった。

 

「月でMk-Ⅱを奪ったってガキも、その一人だって話じゃないか? そいつ等に直接聞いたほうが、話が早いんじゃないか?」

 

 ぎこちなく笑みを浮かべるネオ。余裕を見せたいところだが、打撲が痛んで顔の筋肉が悲鳴を上げた。

 

「艦長、私にもやらせていただきたいのですが」
「いいわ、レイ」

 

 入れ替わって、今度はレイが椅子に座る。

 

「ネオ=ロアノーク大佐」
「ん? お前は――」

 

 話しかけられて、ネオは気付いた。その少年の声が、自分を落としたムラサメのパイロットだと分かったのだ。意外そうな顔で、少し悔しさを滲ませる。こんな軟弱そうな少年に落とされたなどと、笑い事にしかならない。
連合軍大佐としての名声も、地に落ちたと悟った。

 

「コーディネイターは、少年の内から人を殺す術を教えているようだな?」
「俺はナチュラルだ。それにプラントでは、成人年齢が16になっているだけに過ぎない」
「ナチュラル? チッ、私も焼きが回ったようだな。 …しかし、流石はプラントだ。こんな少年を戦場に出してくるとは、恥も外聞も無い様だな?」
「貴様に言えた事ではないだろう」

 

 レイの語気が強まった。目つきは険しくなり、怒りの表情を浮かべている。

 

「私は大佐だぞ。口の利き方には、気をつけてもらおうか?」
「よくもそんな事を言える……! エクステンデッドの少年少女を率いておいてプラント批判とは、あなたこそ恥という感情が無いのか?」
「彼等は私が救ってやったのだ。兵士として戦えるだけ、幸せと思ってもらわなければな」
「貴様!」
「止しなさい、レイ!」

 

 感情に流され、椅子を倒して立ち上がるレイ。その異変にタリアは面食らいながらも、彼の肩を掴んで必死になだめた。

 

「見た目とは違って、血気盛んな少年だな、お前は?」

 

 挑発を繰り返してくるネオ。その言葉に苛立ちを覚えながらも、タリアに制止され、レイは仕方なく落ち着きを取り戻した。

 

「聞きたいことがある」
「私も、お前には聞きたい事があるな」
「何故、あなたはあんな感覚を持っている? 実に不愉快だった……!」
「フッ、同感だな? だが、私にも理由が分からん。迷宮入りだな」

 

 レイは、ラウからフラガの血筋に連なる不思議な特性について聞かされていた。それは、フラガ家の血筋には、同じ血筋に連なる者と感応し合えるというものだ。
 しかし、ネオはフラガの人間ではない。名前が違うし、何よりもフラガの血統は、2年前のヤキン戦役を最後に自分を残して途絶えたはずである。
 もしかしたら、ネオも自分と同じ身の上なのかもしれないと考えたが、こんな男と同じであると認めたくないレイは、黙るしかなかった。

 

「ちょっと宜しい、大佐さん?」

 

 タリアが前に出てきて訊ねる。ネオは視線を彼女の方に向けた。

 

「さっき、“エクステンデッドを救ってやった”とか、“兵士として戦えるだけ幸せだ”とか仰ってたけど、それはどういう意味?」

 

 少し調子に乗ってしゃべりすぎたか、とネオは思った。連合軍は、核融合炉の開発に成功し、超巨大人型機動兵器を完成させた。
それは対ザフト・ヨーロッパ方面軍用に開発された拠点制圧・防衛兵器で、連合軍の中でも一部の人間にしか公になっていない。そして、その巨大人型兵器の生体コアに、エクステンデッドを使用するという計画が持ち上がっていたのだ。
 しかし、ネオにはスティング、アウル、ステラの3人を、そのような機械の一部にはしたくないという思いがあった。だから、それならまだ普通の兵士として戦っていた方がマシだろうと思ったのだ。
加えて、精神操作を施したとはいえ、最近ではジェリド達とも仲間意識が芽生えてきた。このままいけるかと思った矢先に、自分が捕まってしまったのが唯一の失敗だ。

 

「エクステンデッドと言ったって、元は普通だった少年や少女に人体実験を施して、戦闘マシーンに仕立て上げたのなら、それは非人道的と言えるでしょう? なのに、あなたはそれを正当化している。
レイを戦場に送り出しているプラントを批判するという事は、連合軍の倫理観は私達に近いものがあると考えますけど――それとも、あなたの感性が崩壊しているというのかしら?」

 

 巨大人型兵器、“デストロイ”は極秘事項だ。その存在を、今ザフトに知られるわけには行かないのが、ネオの立場だ。本来なら、この場で黙秘するのが普通だ。
 しかし、仮にではあるが、デストロイが出てきた時点で、3人の内の誰かがデストロイの生体コアにされたということになる。それは、連合軍大佐である彼でも許すことは出来ない。
 ネオは考える。エクステンデッドを使う自分に対して怒りを顕わにしたレイ、そして、それに同調する素振りを見せたタリア。彼らなら、万が一デストロイが出てきたときに、止めてくれるだろうか。

 

「その答は、少し考える時間をくれ。今すぐには答えられない」

 

 敢えて、ここでは口にしない事にした。まだ捕虜にされて時間も経っていない。気持ちを落ち着ける間もなかったし、自分は気付かない内に混乱しているのかもしれない。先ずは気持ちを整理して、冷静に思考を巡らせられるようになってからその是非を考えようと思った。
 タリアも、ネオの反応を予測していたのだろう。特に表情を変化させるでもなく、淡々とした顔つきでネオの反応を見ていた。

 

「いいでしょう。ですが、いつまでも黙秘を続けていられると思わないで貰いたいわね」
「それは…分かっているさ……」
「今日は、ここまでにします。大佐は、ゆっくりと療養なさってください」

 

 そう言うと、タリアは医務室を出て行った。その後に続いて、レイがネオを一寸睨んで出て行った。

 

 ネオには懸念がある。デストロイの事もそうだが、レイという少年の存在が引っ掛かって仕様が無い。実際に目にして分かったが、彼には面識が一切無い。それなのに、どうしてあのような感覚を得たのだろうか。
 ふと、自分の記憶に疑問を持った。先程の戦いではそのせいで調子を崩し、レイに撃墜されたわけだが、これまで生きてきた記憶がもし、スティング達と同じ様に誰かに操作されたものならば――

 

「私は、一体誰だと言うのだ……?」

 

 目を閉じ、涙を流した。

 
 

 先行して地中海を横断する輸送艦。ヨーロッパはいまだザフトの優勢な勢力圏内だ。それも、ガルナハンでの連合軍橋頭堡をミネルバが押さえたお陰で、ヨーロッパに進出してきた連合の勢力は殆ど居ない。

 

「あと、どのくらいで落ち着けます?」
「今はイベリア半島に差し掛かる頃かな。旧スペイン領の辺りさ。ここまで来れば、ジブラルタルはもう目と鼻の先だよ」
「そうですか……」

 

 カミーユが輸送艦のパイロットに尋ねると、そう返事が返ってきた。目の前は相変わらず青い海が広がっているが、左右に大陸のものと思しき陸地が見えてきた。

 

「右がユーラシアで、左がアフリカ大陸――」
「分かるのか? 君はコロニーに居たと聞いているが、地球は初めてなんだろう?」
「いえ…生まれは地球ですけど――それを入れれば3回目ですかね」
「へぇ、リッチな身分なのかぁ」
「違いますよ」

 

 見当違いな話を振られ、カミーユは迷惑そうに眉を顰めた。観光気分のように言われたが、冗談ではない。少なくとも、地球に降りたときはエゥーゴの作戦行動に従事していたのだ。
 ジャブロー侵攻作戦やシャトルの打ち上げの為のアメリカ大陸、それにアウドムラの補給に訪れたホンコン・シティにキリマンジャロ攻略作戦――そこで経験した色々な出来事。カミーユにとっての地球というものは、悲しい思い出のほうが遥かに多い。
 操縦士の軽い口調に多少の違和感を覚えたが、しかし実情を話す気にはなれなかった。きっと、話しても何の意味も無いと思ったからだ。

 

(ん――?)

 

 その時、カミーユの頭の中を予感が過ぎった。その予感は、以前にも感じた事のあるものだ。確か、宇宙に戻ってエマに気合が抜けていると叱られた時に感じたものに似ている気がする。ハッキリとはしないが、危険が近付いているような感覚だ。
 カミーユは操縦士の座席の背もたれに手を掛け、話しかけた。

 

「レコアさんの容態も気になります。出来るだけ急いでくれませんか?」
「そうは言うがな――俺達も、早くガンダムMk-Ⅱを届けたいのはやまやまだが、焦ってご婦人の容態を悪化させても君に申し訳が立たない。これでも、ギリギリのペースで急いでいるつもりさ」
「す、済みません……」
「君が焦る気持ちも分かる。それに、聞くところによると、君の体調も優れないらしいじゃないか? まさか俺のせいで君の参加が遅れる事にでもなったら、責任は取りきれないからな。堪えてくれよ?」
「は、はい……」

 

 予感が、はずれであってくれる事を祈るしかないのかもしれない。操縦士の彼等も、それなりに急いでくれている。保証の出来ない予感だけで彼等を急かしても、迷惑を掛けるだけだろう。
 ただ、不安は徐々に大きくなってきている。何も無ければそれに越した事は無いのだが、如何せんニュータイプとしての感性に優れているカミーユの予感は、滅多な事では外れたりはしないのが難儀だ。我慢して心の中に留めているとはいえ、口に出したい衝動はあった。

 

「ん? 未確認のMS反応?」

 

 ふと、操縦士の隣に座る、副操縦士がレーダーに映る機影に気付き、言葉を漏らした。嫌な予感がして、思わずカミーユは前のめりに顔をレーダーに突き合わせた。

 

「どうしたんです?」
「いや、データ・ベースにも入っていない未確認のMSの反応をキャッチしたんだが、識別信号を出していないんだ。こんな所に連合のMSがいるとは思わないけど――ジブラルタルで開発中の新型か?」

 

 レーダーに映る機影は、徐々に輸送艦に迫ってきている。やがて、フロント・ガラスにも、飛来してくる物体が見えてきた。それは、カミーユの予感が確信に変わる瞬間。

 

「凄いスピードだ。大気圏内でこんなスピードを出せるMSなんて、聞いたことも無いぞ」

 

 凄まじい勢いで迫ってくるMS――と言うよりもMAだ。それは減速を掛けずに輸送艦に接近してくると、威嚇するようにコックピットを横切って上昇して行った。急な出来事に一同が驚き、悲鳴を上げる。
 その中で、カミーユだけがそのMAの正体に気付いていた。地球で幾度と無く遭遇した特長的なシルエットは、忘れる事は無い。目を見開き、声高に叫んだ。

 

「アッシマーだ! やっぱり――」
「し、知っているのか!? ――って事は、あれもMk-Ⅱと同じ“イレギュラー”のMS!」

 

 黄色い、円盤とも取れるシルエットのMA。空飛ぶ円盤とは、まさにあのような物体の事を指すのだろう。中央に赤いラインが入り、推力を発揮している下部のバーニア・スラスター部分は深いビリジアンに彩られている。
その更に下にぶら下がるように設置されている大型のビームライフルが、アッシマー唯一の武器だ。

 

「どっちだ! あれは、ザフトに味方するのか!?」
「そういう感じじゃないでしょう! Mk-Ⅱを出します!」
「ま、待て! 折角鹵獲したMSなのに――」
「待ってたら落とされますよ! 艦に閉じ込められたまま死ねるものかよ!」

 

 操縦士の制止も聞かず、コックピットを飛び出すカミーユ。そのまま、急ぎ格納されているガンダムMk-Ⅱの元へ向かって行った。

 

「お兄ちゃん?」

 

 その途中、ロザミアに出くわした。しかし、彼女に構っている時間的余裕は無い。恐らく、先程の接触でアッシマーのパイロットはこの輸送艦がザフトのものであると気付いてしまっただろう。不安げに近寄ってくるロザミアを適当にあしらおうと、彼女を見た。

 

「ロザミィ、レコアさんの事を看ていてくれ」
「敵が来たのね、お兄ちゃん!」
「いい子にしているんだぞ、ロザミィ」
「あっ――!」

 

 ロザミアが手を伸ばそうとした瞬間、カミーユの体はそれをすり抜けて駆けて行ってしまった。伸ばしかけた手を戻し、眉尻を下げて寂しそうな表情を浮かべた。
 そして、感じる。今襲ってきているパイロットの事を、何となく知っているような気がした。おぼろげであるが、不思議な違和感が彼女の頭を刺激している。

 

「この感覚は何だ? …そうか、あたしはこの感覚が誰のものなのかを知っているんだ――」

 

 壁に体を摺り寄せ、俯き加減に呟く。しかし、知っている感覚のはずなのに、誰なのかを思い出せない。必死に思い出そうと試みるも、頭を抱え込んでその場にしゃがみこんでしまった。違和感の正体――知りたいはずなのに、何故か思い出してはいけないような気がした。

 

 そのアッシマーに乗っているパイロットは、輸送艦がザフトのものであると既に理解していた。コックピットの中でコントロール・レバーを握るのは、青いパイロット・スーツに身を包んだベテランを思わせる風貌の中年。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、獲物を捉えたかのごとく輸送艦を悠々と見やる。

 

「フン! ファントム・ペインに合流する為に、アッシマーの飛行テストを兼ねて出てきてみりゃあ――」

 

 輸送艦の真上で大きく縦に旋回し、ビームライフルの砲身を差し向ける。

 

「J.Pジョーンズの航行コースと外れていたはずが、こんな所でカモに出会うとはなぁ!」

 

 アッシマーの大型ビームライフルが、六角形の数珠繋ぎのような見慣れない火線を伸ばして輸送艦に襲い掛かってきた。その攻撃は辛うじて掠めただけに留まったが、アッシマーはもう一度旋回して仕掛けてくる様子だ。

 

「クッ――!」

 

 艦が揺れ、格納庫でガンダムMk-Ⅱに乗り込もうというところで脚がもつれそうになったカミーユ。慌てて体勢を整え、急ぎコックピットに飛び込んだ。リニア・シートに腰を埋めると、コンソール・パネルが浮き上がり、それを操作して即座にガンダムMk-Ⅱを起動させる。

 

「こんな所で好き勝手やってくれて――高度はもっと高く! Mk-Ⅱ、出しますよ!」

 

 コックピットの操縦士に向かって怒鳴ると、すぐさまガンダムMk-Ⅱを発進させた。

 

 そして、輸送艦をもう一度捕捉し、ビームライフルのトリガーに指を添えるアッシマーのパイロット、ブラン=ブルターク。次の一撃で決めるつもりで居た。

 

「しず――何だと!?」

 

 ビームライフルの砲身から放たれるビーム。しかし、その火線は突如現れたガンダムMk-Ⅱに驚いて、またも輸送艦を掠めただけに終わった。ブランは予想外の出来事に、面食らってアッシマーを旋回させた。

 

「これ以上やらせるかよ!」

 

 ガンダムMk-Ⅱは輸送艦から飛び上がり、ビームライフルを連射する。その火線の多さにアッシマーは反転してビームの嵐を掻い潜り、態勢を取り直した。

 

「こんな所に――月からザフトに渡ったMk-Ⅱが、のこのことぉ!」

 

 変形を解き、MS形態になるアッシマー。マニピュレーターにしっかりとビームライフルを握らせ、空中を漂うようにバーニアを吹かすガンダムMk-Ⅱを狙い撃つ。
 一方のカミーユは反撃のビームをゆらゆらとかわし、続けざまにアッシマーを迎撃する。空中戦で、しかも整備不良でシールドを失っていてはかなり厳しい状況だ。

 

「変形のタイミングを狙えれば――輸送艦は出来るだけここから離れて!」

 

 更に浴びせられるアッシマーのビーム。バーニアの消費を抑えながら何とか対応している状態だが、これではいずれバーニアの回復が追いつかなくなって機動力が無くなってしまう。
 そんな時、アッシマーが再びMA形態になって一気に距離を詰めてきた。

 

「向かって来る――これなら!」

 

 左のマニピュレーターにビームサーベルを引き抜かせ、接近のタイミングを図る。機動を不規則に変化させながらビームを撃ってくるアッシマーの攻撃をかわしながら、すれ違う瞬間を狙っていた。

 

「貰ったぁッ!」
『甘いな!』

 

 すれ違う瞬間、アッシマーはMSに戻り、回し蹴りを叩き込んできた。ガンダムMk-Ⅱのビームサーベルは空を切り、機体をくの字に曲げて態勢を崩す。アッシマーは更に変形してガンダムMk-Ⅱの背後に回りこんだ。

 

「クッ――!」
《後ろよ、お兄ちゃん!》

 

 唐突にロザミアからの思念波が、カミーユの頭に響いた。その瞬間、カミーユは背後に殺気を察知し、コントロール・レバーを動かす。

 

「――そこぉッ!」

 

 ガンダムMk-Ⅱが即座に反転して、ビームライフルを構えた。そこには、同じくビームライフルを構えてこちらを狙っているアッシマーが度肝を抜かれていた。

 

「見えているだとぉッ!?」

 

 ブランが驚くのも無理の無い話。態勢を崩して、アッシマーが見えていないはずのガンダムMk-Ⅱが、まるで背中に目があるかのように機敏に振り向いてビームライフルを取り回してきたのだ。
 そして、先にビームライフルを撃ったのもガンダムMk-Ⅱ。ブランは慌ててアッシマーを変形させてその場を離脱した。

 

「こいつめ――パイロットは只者じゃないな?」

 

 歯を軋ませ、再度MSに変形しようとしたその時――

 

「遅いッ!」

 

 アッシマーの変形による一瞬のタイム・ラグを突き、火を噴いたガンダムMk-Ⅱのビームライフル。アッシマーの胸部装甲が閉じ終わる前を狙われ、ブランは辛うじて機体を背後に反らせて掠めただけに止めた。

 

「これは――ケネディで同じタイミングで狙ってきたMk-Ⅱが居たが、パイロットは同じ奴か!? ――チッ!」

 

 ブランとしては、アッシマーはファントム・ペインに届けなければならない貴重な機体。それを、こんな所で傷物にしてしまっては、本末転倒だ。苦虫を噛み潰し、アッシマーをMAに変形させて撤退して行った。
 その後ろ姿を見送り、落下するガンダムMk-Ⅱのコックピットの中でカミーユは大きく息を吐いていた。何とか撃退できたのはいいが、慣れない空中戦でガンダムMk-Ⅱに無茶をさせてしまったかもしれない。多分大丈夫であると思うが、何処かに損害が生じていたとしたら問題だ。

 
 

『カミーユ君、敵MAは撤退して行ったようだ。もう、レーダーにも映っていない』

 

 輸送艦からの通信が入ってきた。とりあえず、今心配する事でもないだろう。先ずはガンダムMk-Ⅱをジブラルタル基地に送る事が第一。カミーユはベルトを外し、身体を背もたれに預けた。

 

「その様ですね――戻ります。済みませんが、迎えに来てください。バーニアが、整備不良で少しイカれ気味なんです」
『君もそんな機体で無茶するなぁ? 了解した、すぐに向かわせる』

 

 空に漂うガンダムMk-Ⅱ。両腕を広げ、大の字になって迎えに来た輸送艦に向かって落下していく。

 

「次から次へと、どいつもこいつも――! 一体、この世界の事を何だと思っているんだ……!」

 

 膝の上で手を組み、憮然とした表情で呟くカミーユ。アッシマーをあれ程にまで機動させて見せるのは、きっとヒッコリーやニュー・ケネディで襲ってきた人物と同じ人間だろう。そうなると、これでまた一人増えた事になる。
これ以上の混乱は止してくれよ、と思いながらも、これだけで終わるような予感はしなかった。

 

 輸送艦に戻り、やがてジブラルタル基地が見えてきた。これで、ようやくレコアを落ち着かせることが出来る。そして、これからカミーユの本当の戦いが始まる。
 先ずはジブラルタルでガンダムMk-Ⅱの解析と体調の回復を図り、次にいよいよオーブへ向かう事になる。高い技術力を誇るモルゲンレーテ社にデータを渡し、変形機構の似ているムラサメを基にすれば、Ζガンダムの開発も可能になるだろう。
 ただ、これでは自分もシロッコと同じ事をしているだけなのではないかという懸念が無いわけではなかった。しかし、彼がこうも容易くU.C.世界のMSを持ち出してきたのでは、こちらも早急に対応するしかない。
既に、彼のアドバンテージは大きく築かれてしまっているのだ。これを逆転する為には、ザフトとオーブに頑張ってもらうしかない。

 

「こんな事になるなんて……」

 

 眼下に迫った巨大規模のジブラルタル基地を眺め、カミーユは力なく呟く。そして、そこには再び地球に降りてきたデュランダルが待っていた。