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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第31話

Last-modified: 2009-05-13 (水) 22:27:19

『吹雪の中』

 
 

「これが、モスクワで遭遇したデストロイの映像だ」

 

 時間は遡り、ジブラルタル基地を出撃直後、ミネルバのブリーフィング・ルームに集った各パイロットの前に立つアスラン。手元のパネルを操作し、後ろのスクリーンに記録映像を映し出す。暗闇の中にボゥっと光る画面の中は、画質が安定していない。
 しかし、その映像の中の出来事は、人を恐怖させるのには十分な効果を持っていた。まるで、蟻とライオンの戦いのようなふざけた戦闘が繰り広げられている。次々と葬られて行くザフトのMSに、誰かが唾を飲む音が聞こえた気がした。

 

「じょ、冗談ですよね? こんなのが相手なんて――」

 

 震える声の主はルナマリア。シンはデストロイの映像を横目でみやりつつ、隣に座る彼女の横顔を見た。ザフトとはいえ、根本は16才の少女。弱気になるのも、無理の無いことだ。彼女は、自分が守らなければならないと感じた。

 

「ネオ=ロアノーク大佐の情報どおりだ。我々は、これからこの化け物を食い止めに向かう」

 

 デストロイをこのまま放っておけば、ヨーロッパの都市は全滅だ。そして、行く行くはその矛先はジブラルタル基地に向けられる事になる。ジブラルタル基地がいくら地球最大の拠点であっても、MSをまるでゴミの様に蹂躙するデストロイに攻め込まれれば一溜まりもないだろう。
だから、それを食い止める役目は最新鋭艦であるミネルバと、伝説を築き上げたアークエンジェル以外に置いて他に無い。シンにもその位のことは分かっていた。

 

「でも、いくらミネルバだって――」

 

 カツが漏らす。確かに、ザフトの最新鋭の装備を持つミネルバ隊、そしてアークエンジェルであっても、デストロイの性能は未だ未知数だ。モスクワでの戦いに於けるデータは、採る前に味方MSが撃墜されている。辛うじて残ったのが、今再生されている映像なのだ。
そんな相手に自分達が向かったところで本当に食い止められるのか、それ以前にまともに戦うことが出来るのかも定かではない。
 カツが不安に思うのも尤もだと感じた。かく言うシンも、内心ではデストロイの性能に怯んでいる。ただ、ここで気合負けしては駄目だとは思っていた。

 

「カツ、それでもやるしかないんだ。俺たちが行かなくては、必死に持ちこたえてくれている同胞に申し訳ない」
「前大戦の英雄であるアスランさんとキラさんが居たって――」

 

「大丈夫だよ。僕達なら、きっと上手くやれる。相手は、これまで戦ってきたファントム・ペインなんだ。そこに、大きな機体が加わっただけだよ」

 

 カツの不安を和らげるように、キラは言葉を挟む。シンはその声に視線をカツからキラに移した。彼が気楽にそう言い切れるのは、それだけ自身の腕に余裕のある証拠か、はたまたそれまで経験してきた修羅場の記憶がさせるのか。
キラの表情は、非常に落ち着き払っている様に見える。
 アスランと同様に、キラ=ヤマトは2年前のヤキン・ドゥーエ戦役に於いてフリーダムを駆り、目覚しい活躍を見せたことは、アカデミーで習った通り。当時のフリーダムは正に戦略級と呼べるほどだったらしいのだが、しかしデストロイは次元が違うように思えた。
果たして、今のこちらの戦力だけでデストロイを食い止められるのかどうか、微妙なところだ。ネオとの約束は、貧乏くじだったのかもしれない。

 

「カツにプレッシャーをかけるつもりは無いけれど、相手はデストロイだけでは無いのよ」
「分かってますよ、エマ中尉。ティターンズの連中だってファントム・ペインなんだ」
「そうよ。これは、想像以上に難しい作戦になるわ」

 

 エマは流石といったところだろうか。怖いところもあるが、女性の軍人として、凛とした佇まいを見せる彼女は頼もしく見える。ビビッて居る場合ではない。彼女やアスラン、キラのように背筋を伸ばして挑まなければ、本当の勝負は出来ない。

 

「エマさんの言うとおりだ。しかし、それでも俺達は行かなければならない。連合が――いや、ブルー・コスモスがあのデストロイでコーディネイターの殲滅を目論んでいるのなら、俺達はそれに屈するわけには行かないんだ。
本当に平和を勝ち取る為には、ブルー・コスモスの野望を挫き、ナチュラルと対等に講和できる舞台を整えなければならない。だから、その為には破壊の象徴であるデストロイを放置しておくわけには行かないんだ」

 

 アスランがそう考えるのは、オーブの精神があるからだろうか。否、シンにはそうは見えなかった。カガリの様な人物の影響を受けたにしては、話がコーディネイター寄りだ。その言い方は、誰かといえばデュランダルに近い。

 

「プラントは、連合の武力には屈しない。寧ろ、彼らがこの様な行いをしている限り、あくまで抵抗を続けるというところを見せ付けてやるんだ。そうすればいずれ、連合内部でもブルー・コスモスのやり方に疑問を持つ声も上がってくる。
その時に彼等の牙城を崩す手立てを、デュランダル議長も用意しているだろう」

 

 彼がそう考える根拠はシンには分からない。政治的な駆け引きは、その場の責任者に丸投げしているのが兵士としてのシンの立場。だから、アスランがデュランダルに何を期待していようとも、それはシンには関係ない。

 

「そして、その前にデストロイは止めなくてはならない。今、我々がやるべき事は、少しでもブルー・コスモスの謀略を狂わせることだ。我々が平和を望んでいるように、ナチュラルの中にも平和を望むものが居るはずだ。障害になっているのは、彼等だ」

 

 今日のアスランは、いつに無く饒舌だ。普段の彼からは想像だにできない、思想掛かったものを感じた。何か、彼の考えを動かす出来事があったのだろうか。
 しかし、シンはアスランが何を考えているかの推測はしない。兵士として、やることは決まっている。立ち上がり、口を開いた。

 

「とにかく、俺達がやることは決まっているんだ。デストロイを止めなきゃ、隊長の言うような先は無い。…なら、やってやろうじゃないですか」

 
 

 インパルスのコックピットの中、人の形をした要塞を見つめながら、シンはブリーフィング・ルームでの回想を終えた。そして、ネオとの約束を思い出す。
 エクステンデッド――もし、彼等を解放できれば、ネオとの信頼関係を築けるかもしれない。連合軍の大佐といっても、彼のエクステンデッドに掛ける情は自分達のそれと同じだった。
ならば、信頼関係を築けた上でなら、コーディネイターとナチュラルの間にも友情を築けるのではないか。シンはそう考えた。

 

『シン、ザクの足に合わせろ』

 

 フォース・シルエット装備で飛行するインパルス。その後方から、雪上用のホバー・システムを脚部に装備したザク・ファントムとザク・ウォーリアがついてくる。ジブラルタル基地で支給されたレイとルナマリアの乗機だ。

 

『デストロイの動きはシンに任せるけど、あたし達は3機で動かなくちゃあれには敵わないんだからね!』

 

 ルナマリアの零す愚痴。機動性は上がったとはいえ、空中を飛行できるインパルスに比べればウサギとカメの様なものだろう。聞いた話によれば、そのホバー・システムはセカンド・ステージ・シリーズでのトライアルでザクに負けたMSの技術が応用されているらしい。
鑑みるに、それは基本性能だけならザクよりも優れたMSだったのだろう。しかし、ウィザードの換装で様々な局面に対応できるザクの汎用性に負けた。運用面で考えた末での結論だったのだろう。
 シンが余計な事を考えていると、デストロイがこちらに振り向いた。どうやら、こちらの動きに気付いたらしい。

 

「デストロイが動くぞ!」
『散開だ!』

 

 固まって行動していれば、デストロイの強力な攻撃で一網打尽にされることは分かっている。レイの掛け声とともに、3人は一斉に散開した。そして、そこへデストロイのツォーンが照射される。その威力はスローター・ダガーが使っていたメガ粒子砲の比ではない。
雪煙と、ツォーンの熱で溶かされた雪の蒸気で視界が曇る中、シンはデストロイの影に睨みを利かせた。

 
 

 他方でシン達とは別方向からデストロイに接近を迫るエマとカツ。ベルリンの守備隊と協力してデストロイ以外の敵MSを相手にしつつ、接近を続ける。

 

『中尉! デストロイがシン達の動きを察知したようですよ!』
「ミネルバ側から向かった彼らに目を向けた? なら、アスラン達が動きやすいわね」

 

 デストロイを攻略するに当たって、アスランは隊を三つに分けた。レイを小隊長とするインパルスとザクの部隊、エマと相性のいいカツを組ませたムラサメ隊、そして、デストロイ阻止の本命がアスランとキラが組んだセイバーとストライク・ルージュの部隊。
レイかエマの部隊を囮にしつつ、本命の彼等がデストロイに接近戦を仕掛けるというものだ。
 圧倒的な威力で敵MSを寄せ付けないデストロイ。その余りにもの威力に、中距離はおろか、遠距離からの攻撃も効果を得られない。しかし、唯一検証されていないレンジがあった。それは、陽電子リフレクターを潜り抜けられる接近戦。
デストロイは射撃武器に対する強固な防御装置を持っていても、未だビームサーベルによる接近戦での効果を確かめられていなかった。オーブ近海での戦いや、ガルナハンで遭遇したザムザザーやゲルズゲーのような例もある。
もし、デストロイにも弱点があるとするとなれば、そこではないかとエマは睨んでいた。しかし、並大抵のパイロットでは接近する前に撃墜される。そこで並ではないパイロット――キラとアスランに本命を任せたいとエマはアスランに進言した。

 

「デストロイの上から仕掛けるわ! カツ、付いてらっしゃい!」
『了解! ……待ってください!』
「どうし――」

 

 カツの制止に足を止めると、横方向からメガ粒子砲が飛来してきた。慌てて回避運動を行い、射線の方向に注意を向ける。そこからやってきたのは、2機のスローター・ダガーとカオス。ジェリド、マウアーとスティングだ。

 

『ティターンズ!』
「ジェリドね!」

 

 カオスと行動するスローター・ダガーは、ジェリドだ。続けて追い討ちを掛ける様に更にメガ粒子砲が撃たれる。

 

「吹雪の中なら――!」

 

 前回の夜襲の時、カツは闇に同化するスローター・ダガーを相手に四苦八苦した。あの時は、機体色が迷彩となり、ルナマリアと対応しながらも一機にいいようにしてやられた。
 しかし、今回は雪で白く染まる白銀の世界。正反対の黒は、必要以上に目立つ色だ。こうして相手との距離が測れれば、前回のような間抜けな戦いはしなくて済む。

 

『カツ! ジェリド達は私達の足止めをするつもりなのは間違いないわ!』
「でも、シンが囮になっているなら、ここは僕達でティターンズを――!」
『全員で掛からなければデストロイは倒せない相手よ! ここで躓いては駄目!』
「任せられないんですか!?」

 

 彼等を振り切ってデストロイに仕掛けなければ駄目だとエマは言う。しかし、カツには無謀な試みに思えた。いくらこちらが無視を決め込んでデストロイに向かったとしても、こちらを追いかけてくるようなしつこさをジェリド達は持っている。
そうなった場合、デストロイの周辺は敵味方が入り乱れる大混戦に突入するだろう。アスランとキラの行動にも大きな支障を来すはずだ。
 その一方で、エマの言うことも尤もだと思う。デストロイは、シン達だけで囮が務まるような生半可な相手ではない。複数方向から注意を引き付けなければ、圧倒的な攻撃力で撃退されてしまうだろう。
デストロイの阻止を第一に考えるならば、多少の無理は承知でも自分達が向かわなければならない。

 

『いつものように分散して叩ける敵ではないわ!』
「デストロイの誤射を誘えって言うんですか!? こちらが落とされるほうが早いですよ!」
『やるのよ!』

 

 作戦前にエマの言ったとおり、非常に難しい選択に迫られる。しかし、エマに迷いは無い様で、カツの意見を無視してムラサメをデストロイに向けて機動させる。仕方なしに、カツもそれに倣った。

 

 ジェリドは、そんな自分達を蔑(ないがし)ろにするようなムラサメの動きに顔面を引き攣らせる。

 

『ジェリド! ムラサメがデストロイに向かった!』
「デストロイを止めるつもりなら、そうするさ! ミネルバとアークエンジェルの部隊は、デストロイを止められる唯一の戦力だからな!」
『なら、追わねーと!』

 

 カオスをMA形態に変形させ、追撃に掛かろうとするスティング。その時、ベルリンの守備隊からの一斉砲撃がカオスを襲った。敵は、ミネルバとアークエンジェルだけではない。

 

『スティング、敵の方も必死になっているわ。的を絞るのは得策ではない』

 

 一斉砲撃をかわし、バランスを崩すカオスを庇う様にマウアーのスローター・ダガーが前に入る。放たれる反撃のビームライフルが、1機2機と撃墜した。

 

『そんなもの、見りゃ分かる!』
『それならいいわ。――どうする、ジェリド?』
「そうだな――スティング、お前は他の部隊と合流してベルリンの雑魚共を相手にしろ。俺とマウアーがムラサメを追う!」
『俺に掃除を任せるって言うのか!?』
「カオスの火力があれば、あの程度はどうって事無いだろ? 先に行って待ってるぜ」
『後で吠え面かくんじゃねーぞ!』

 

 確かに、貧弱な武装のスローター・ダガーよりも、機動兵装ポッドを持つカオスの方が対集団戦には有利だ。ムラサメが相手ならば、カオスを残して行くのが最も合理的だろう。しかし、ジェリドに置いて行かれたスティングは不満だ。
ミネルバのMSに因縁を感じているのは、彼も同じだからだ。

 

「――ったく! ジェリドの女ったらしめ!」

 

 友軍のウインダムが1機、撃墜される。狙ったのは、砲撃戦用MSのガズウート。遠距離からの攻撃に、手を焼かされているのは他のウインダムやダガーLも同様だった。カオスもその砲撃に晒され、MAで大きく旋回して回避する。

 

「地上に這い蹲(つくば)って弾を撃つしか能がねぇ鉄屑がぁ!」

 

 ガズウートは長距離砲撃は出来ても、地上をキャタピラーで移動している為、回避性能は汎用MSに比べれば極端に低い。登頂高の低さが的を小さくしているが、スティングには関係ない。ファイアフライ・誘導ミサイルを放って蹴散らす。

 

「フン、雑魚が! 粋がって向かって来んならよ、お望みどおりバラにしてやるぜ!」

 

 ビームライフルを構え、機動兵装ポッドのビームを撒き散らしながら次々と葬って行く。しかし、流石にモスクワの部隊が合流しただけあって、数だけは多い。カオスの物資だけでは全てを倒すのは無理だろう。

 

「チッ! 面白くねぇ数だぜ。こいつら、倒しても倒しても蟻の様に群がってきやがる!」

 

 勿論、カオスの周りには味方のウインダムが付いている。しかし、大部分の戦力をベルリンの防御に集中しているザフトを相手に、一個師団で侵攻を続けている連合軍でも中々攻め手が見つからない状態だ。スティングもその状況に歯噛みしている。
 と、そこへ、別方向からの一斉射撃がザフトを飲み込んだ。一撃で2小隊を壊滅させたそれは、カオスを上回る大火力。スティングが視線を射線の方向に向けると、そこに佇んでいたのはアビスだった。

 

「アウル!?」
『苦戦してんじゃねーか、スティング? 手伝ってやろうか…っても、もうやっちまったんだけどよ』

 

 回線の向こうから、不敵な笑みを浮かべたアウルの声が聞こえてきた。しかし、単独でこちらの援護に回ってきたのは疑問に思う。彼は、ライラにべったりだったはずだ。

 

「ライラ大尉の傍に居なくていいのか?」
『うっせーな! そんなんじゃねぇっての!』

 

 痛いところを突かれたのか、アウルの声色が不機嫌に揺れた。恐らく命令に従ってやってきたのだろうが、納得はしていないようだ。それもそうだろうな、とスティングは思う。自分とて、ジェリド達に置いて行かれた事に不満を持っているのだ。

 

『とにかく、さっさとゴミを掃除してミネルバの連中の相手に戻るんだよ! 貧弱なカオスだからって手を抜くんじゃねーぞ、スティング!』
「フッ、恨みを持っているのはお前だけじゃねーんだ。そっちこそ、アビスのエネルギーを惜しんでもったいぶるんじゃねーぞ」
『ヘッ! 誰がこんな雑魚に時間を掛けられるかってんだよ! ステラに全部取られちまう前に、俺達もライラ達と早く合流するぞ!』

 

 空中からはカオス、地上からはアビス。2人の連携が、波状攻撃となってベルリンの守備隊を押し込んで行く。エクステンデッドの2人、過酷なサバイバルの中で生き残ってきた彼等の戦闘能力は、既に並みのコーディネイターの比ではなかった。
そして、ザフトは皮肉にも、奪取された最新鋭機の“G”に屠られて行く。自らの生み出したMSにやられていく気分というものは、一体どんな気分なのだろう。スティングとアウルは、そんな事を考えたりはしなかった。

 
 

 アスランとキラは戦闘の激しくない空域をデストロイに向かって移動していた。若干の遠回りだが、レイかエマの部隊を囮にするという意味では、接触までに時間を掛けるのは間違っていない。途中、3機のMSと1隻の陸戦艦を撃墜してきたが、順調だった。

 

(これなら、デストロイに取り付くのも時間の問題だな……)

 

 少し前、そう考えた自分の浅はかな思考は、今現在激しい思い上がりとなってアスランに歯噛みさせていた。現れた3機のMS。黄色い円盤と、ドダイに乗った蜘蛛を擬人化したかのような黄緑のMS、そしてはじめて見る灰色が基調のコオロギを思わせるMS。
全て、放ってくるのはメガ粒子砲だ。

 

「アッシマーと――」
『パラス・アテネだ!』

 

 アッシマーと交戦経験のあるアスラン、そして月でパラス・アテネと遭遇したキラ。2人が同時に叫ぶ。加えて空中を飛行する謎のMSも居る。その3機の奇抜なデザインの共通点に、核融合炉搭載型であることが覗える。

 

『アスラン、あれは全部核融合炉搭載型だ!』
「分かってる!」

 

 一斉に襲い掛かってくるメガ粒子砲の嵐に、反撃を見舞いながら後退するしかない2人。その様子を眺めつつ、アッシマーのブランは不敵に笑った。

 

「お前たちがどう動くかなど、こちらはお見通しだったというわけだ。…が、隊長機が引っ掛かってくれたのは嬉しい誤算だったな」
『ブラン少佐、パラス・アテネで突っかかるよ!』
「任せる。カクリコン中尉も大尉の援護に入れ。俺はセイバーを狙わせてもらう」
『了解』

 

 夜襲では、アスランのセイバーに苦戦させられた。基本性能は、恐らくアッシマーの方が上だろう。しかし、相手の技量は自身のそれに近かった。性能で劣る相手に互角たらしめられたのは、正直屈辱だった。
相手は自分がアッシマーを自在に駆る様に、セイバーの性能を熟知していたのだろう。基本性能で敵わないと見るや、セイバーの火力を利用して見事に対等に戦って見せた。ブランは、その時の記憶が忘れられず、面白がっていた。

 

『やはり、貴様の様な敵がいなければなぁ! そうでなければ、戦争など!』
「戦争を面白がっている!? こんな奴が――!」

 

 特徴的な火線のビームがセイバーを襲う。アスランはその威力に機体を揺さぶられながらも、反撃のビームを撃つ。メガ粒子砲がシールドでも防げないとなれば、かわすしかない。

 

『違うな! 貴様の様な力を持った者が敵に居て抵抗しなければ、戦争など起こり得なかったということだ! 軍人だから戦争を望んでいるとでも思ったか?』
「なら、抵抗を止めれば討たないとでも言うのか!? 連合の核は、無抵抗のユニウス・セブンに撃ち込まれたんだぞ!」
『知らんなぁ? だが、例えどんなものであれ、軍の命令に従って見せるのが兵士としての使命だ。貴様の様な小僧には分からんことかも知れんがな!」
「分かってたまるか、そんなもの!」

 

 円盤型の変形を解き、ブランはフレキシブルにビームライフルを取り回してセイバーを狙う。対してセイバーはMA形態でメガ粒子砲を振り切るように大きく旋回して回避する。アッシマーの滞空高度が低くなったところでMAに変形して、高度を稼いだ。
それと入れ替わりになるように、今度はセイバーがMS形態に戻り、フォルティスで同じように逃げるアッシマーを狙撃した。

 

「奴のMSには、弱点がある――MSの状態では、自由飛行が出来ないという点だ!」

 

 セイバーがアッシマーに対して有利な点、それは火砲の多さと空中での機動性だ。MA形態にならなければ自由飛行の出来ないアッシマーに対し、セイバーはどちらの形態でも自由に空中を機動できる。
そして、ビームライフル一丁のアッシマーに比べれば、武器の多さはセイバーの方が圧倒的だ。基本性能で劣っていても、これだけの利点があれば対等以上に戦える。寧ろ、心配なのは2機を相手にしているキラだ。
アスランは視線をキラのストライク・ルージュへと向けた。

 

『余所見をする余裕があるのか?』

 

 但し、アッシマーのパイロットの技量は互角かそれ以上。即座に反撃してきたブランにビームライフルを取り回すも、MA形態のアッシマーの加速力には目が付いていけない。
オート・ロックで追いつけないのならマニュアルで補正を加えなければならないのだが、それでも外される。そんなアッシマーの嘲笑うかのような機動は、不愉快というよりも感心を覚えた。
あの射角の狭いビームライフルでこちらの攻撃を回避しつつ攻撃するそのテクニックは、見事と言わざるを得ない。ナチュラルである事を疑わせるほどの軽妙さを見せ付けていた。

 

「問題はアッシマーのパイロットの技術……敵は相当戦い慣れている!」

 

 ヒット・アンド・アウェイは、MA形態での攻撃の基本的動作。アスランが迎撃すると、それをすり抜けるように機動してビームライフルを撃ってくる。アスランもそれをかわすと、一気に脇を通り過ぎていった。
振り返ってビームライフルを見舞うも、旋回飛行で軽々とかわされる。そして、再び向かってきた。

 

「格闘戦を仕掛けてこないのは、こちらのフェイズ・シフト装甲の事を知っているからと見るが――キラは持ち堪えているのか? デストロイだって――!」

 

 デストロイに対する焦りを募らせる一方でキラを気に出来るのは、アスランに余裕のある証拠だった。こうして射撃戦を繰り広げている間は、メガ粒子砲といえども脅威ではなくなっている。こちら側にも決め手は無いが、油断しない限りは落とされる心配はまず無い。

 

「この動きは――アッシマーめ…俺をここから先に行かせないつもりなのか!?」

 

 ただ、これでは決着を付けようにも出来ない。お互いに決め手を欠いたまま、時間だけが無駄に浪費されて行く。ブランの狙いは正にそれで、彼にとっては非常に有意義な時間だろう。それに付き合わされているアスランにしてみれば堪ったものではないが。

 

「ようやくこちらの意図に気付いたようだな。パイロットのセンスはあっても、その辺はまだ子供か。ライラ大尉達の方も、上手くやれているようだが――」

 

 時間を掛ければ掛けるほど、アスラン達の戦略は崩れて行く。それは徐々に、しかし確実に進んでいく。真綿で首を絞めるようなもどかしさを感じ、アスランの額から汗が流れた。
 セイバーの動きが変わる。勝負を急いで、アッシマーを撃墜しようと躍起になったようだ。ブランがビームライフルを撃ってもMAには変形せずに、危なげな回避でありったけの砲撃をかましてくる。
流石にそれにはブランも付き合いきれないようで、攻撃の手を緩めて回避行動に専念する。尤も、それもブランの思惑通りで、交戦は長期化の様相を呈していった。

 

「下手な鉄砲なんとやらと言うがなぁ? この俺には、そう簡単に当たりはせん!」

 

 まるでアスランの苛立が透けて見えているかのようにブランは嘲笑し、アッシマーを機動させる。MA形態の機動力に、的の小さくなった機体面積は、アスランの焦りを誘う。

 

「こいつ――ッ!」

 

 焦りから照準が甘くなる。アスランは音を立てて歯を食いしばり、必死に苛立ちを抑えようと努力していた。しかし、アッシマーの機動はのらりくらりとアスランの攻撃をかわし続ける。それが、こちらの思惑を引き裂かれているようで、悔しかった。

 

 そして、キラはストライク・ルージュでパラス・アテネとバイアランの攻撃に晒されていた。勿論、2機掛りの攻撃はキラに正確な攻撃の余裕を与えていないが、それでも攻撃をかわす分には危なげない動きをしていた。
 ストライク・ルージュは、モルゲンレーテで調整が行われただけあって、以前のストライクの性能の比ではなくなっている。恐らく、この機動性を鑑みるに、コーディネイターに対応できるように改修されているのだろう。
最終的なOSの調整は自分でやったが、M1アストレイと違って自分の反応速度に十分に対応できている点は大きく評価できる。本気で動かしてガタが来ないのは、キラにとっては限定解除された気分だ。この感覚は、フリーダムを降りて以来かもしれない。

 

「2機で襲ってきたって――!」

 

 敵も、自分の動きに焦っているのかも知れない。自分でもびっくりするほど、ストライク・ルージュを上手く動かしていた。カガリの気持ちが乗り移っているからだろうか。ストライク・ルージュは、まるで自分の手足の如く動いてくれる。
そのお陰か、キラはじっくりと敵MSの性能を観察することが出来た。
 パラス・アテネの2連ビーム砲。メガ粒子砲でも、避けてしまえば唯のビームと変わらない。それよりも厄介なのは、シールドから放たれる小型ミサイルだ。雪で視界の悪いこの戦場では、フェイズ・シフト装甲で防げたとしても余計なエネルギーを削られてしまう。
フェイズ・シフト・ダウンすれば、物理的な攻撃にもダメージをもろに受ける。それだけは避けなければならないが、見え辛い小型ミサイルはキラを一番悩ませる。
 そして、名は知らないが新型の核融合炉搭載型。武装の点に関して言えば、特筆すべきものは何も無い。敢えて言うなれば、両腕部に内蔵されたメガ粒子砲だろうか。携行武器で無いだけに、直接腕を狙うしかない。
しかし、バイアランの注目すべき点は、武装なんかではない。ドダイに乗って空中戦を行っているパラス・アテネに対し、バイアランはこちらと同じ様に単独での飛行を可能にしている。それが意味するものは、こちらとの格闘戦が比較的容易だという点。

 

「コオロギが向かって来た!」

 

 パラス・アテネが肩部の拡散メガ粒子砲で牽制してくると、バイアランがビームサーベルを手にストライク・ルージュに突撃してきた。キラは拡散メガ粒子砲の合間を縫い、襲ってきたバイアランの一振りをかわす。

 

『空中戦が、貴様等の専売特許だと思うな!』
「当たるかッ!」

 

 袈裟切りをかわし、続けて水平に薙ぎ払われるバイアランのビームサーベルもかわし、更に追い討ちで撃って来たパラス・アテネの2連ビーム・キャノンをかわす。これだけの回避性能を満たせる今のストライク・ルージュは、フリーダムに匹敵するかもしれない。
 ただ、反撃を行うことが出来ない。無反動で撃てるイーゲルシュテルンで牽制し、距離を離してビームライフルを構えようとしたが、すぐさまパラス・アテネの拡散メガ粒子砲がキラの動きを阻害した。攻撃はかわせても、反撃の手立てが無い。
もし、フリーダムであったならば、バラエーナで反撃することも出来るのだが――

 

「そんな事、考えてる場合じゃない! このままじゃデストロイに補足されているシンたちが――!」

 

 この2機を撃退できなければ、デストロイを止めるどころの話ではない。レイの部隊がデストロイを相手に健闘してくれている様だが、止め役の自分達がこの場を切り抜けられなければ作戦は成り立たない。キラの焦りは、目の前の敵に向けられた。
集中力を高め、何とか敵MSの弱点を探そうとする。ジ・Oに比べれば、そこまで性能の高いMSでは無いはずだ。

 

「何が弱点なんだ…何が――!」

 

 その時、ふと気付く。バイアランは飛行できているのに、何故パラス・アテネを飛行できるようにしなかったのだろう。不思議とそう思ったキラは、パラス・アテネではなく、バイアランの方に注目した。

 

「マニピュレーターが、5本指じゃ無い?」

 

 バイアランのマニピュレーターは、一般的なMSのそれと同じではない。作業用の、小さなものである。どうしてだろうかと考えていると、メガ粒子砲が腕部に内蔵されている事実を思い出した。それは、無意味に内蔵されているのではない。
搭載火器の少なさから、飛行するにはそれだけ武装の簡略化が必要だったのではないのか。可能な限り機体重量を削っていった結果、あの形になったとすれば、バイアランは脆い。

 

「ビームサーベルも、辛うじて使える程度の握力しかないんだ!」

 

 パラス・アテネとバイアランの攻撃は止む事が無い。キラは回避に専念せざるを得ない状況に追い込まれているが、しかしその分だけ相手の性能を見ることが出来た。その結果、バイアランの弱点を発見した。
 そして、チャンス到来とばかりにパラス・アテネの砲撃に合わせてバイアランがビームサーベル片手に突っ込んでくる。ミノフスキー粒子を刀剣状に固定されているバイアランのビームサーベルでは、こちらの持つシールドでは防げないかもしれないが、打つ手はある。

 

『エースだからって赤い専用機などと!』
「今だ!」

 

 バイアランのビームサーベルがストライク・ルージュに向かって振り下ろされる。その瞬間、キラはストライク・ルージュにシールドでの打突を繰り出させた。その狙いはバイアランの本体ではない。

 

『なッ!? 貴様――!』
「うおおぉぉッ!」

 

 キラが狙ったのは正に振り下ろされているビームサーベル、それを握っているマニピュレーターだった。不意な出来事に、カクリコンも寸止めが効かない状態に陥ってしまっている。
果たして、ストライク・ルージュの繰り出した打突は、ビームサーベルに焼き切られながらもバイアランのマニピュレーターを潰した。ひしゃげ、破片とともに砕け散るバイアランのマニピュレーター。それを確認しつつ、キラの表情に喜びが生まれる。

 

「やった! 思ったとおりだ!」
『おのれ、小癪な!』

 

『中尉、どきな!』

 

 しかし、喜びも束の間、バイアランがその場を離脱すると、すぐにパラス・アテネの2連ビーム・キャノンの火線が襲ってきた。一瞬の気の緩みが、キラの回避行動を遅らせる。
咄嗟に反応できたはいいが、掠めるようにメガ粒子砲を受け、慌てて構えたシールドが溶かされてしまった。

 

「しまった!? ――クッ!」

 

 使い物にならなくなったシールドを放り投げ、パラス・アテネに向かってビームライフルを撃つ。パラス・アテネはドダイに乗りながらも器用に避けて見せ、バイアランの退避を更に援護した。
 キラは仕方なしに距離を開くしかない。ライラはそれを確認すると、カクリコンに呼びかけた。

 

「油断したね、中尉?」
『まだ左が残っている! 継戦は可能だ!』
「少しは頭を冷やしな。セイバーと新型が本命との少佐の読みが正しければ、ここで奴らを貼り付けにしておくのがこちらの作戦だ。中尉は勝負を急ぎすぎたな?」
『フンッ、冗談ではない! 2度も焼け死ねるかよ!』
「なら、あたしの言うとおりにしてもらおうか。片腕が残っていれば戦えるのだろう、バイアランは?」
『勿論だ』

 

 散開するパラス・アテネとバイアラン。ストライク・ルージュを挟み込むように機動してきた。その動きの変化に、戦略の変更があった事をキラは察知する。先程の撃墜を狙った動きではなく、こちらの動きを牽制しようというものだ。

 

「向かってくるのならまだ勝機はあったって言うのに、これでは――!」

 

 最も厄介な事態になったと言える。先を急ぎたいキラの意志を嘲笑するかのごとく機動する2機の核融合炉搭載型は、こちらの思惑が読まれているようで癇に障る。しかし、この様な状況になれば打つ手が無いのが、事実だった。
受け入れて直視するしかないキラは、同じく動けないで居るアスラン同様に歯噛みした。

 
 

 デストロイが圧倒的だという事実は、初めから分かっていたこと。しかし、こうして近くで改めて遭遇してみると、認識の甘さが目立って仕方ない。滑る様に雪上を駆け巡るザク・ファントムは、デストロイの腕であるシュトゥルム・ファウストに追いかけられている状態。
切り離されたデストロイの腕が、五指の全てに装備されているビーム砲でザク・ファントムを狙う。

 

「これは…ドラグーン・システムなのか!?」

 

 後方を向きながらバックで逃げるレイ。無線で空中を機動し、生き物のように追いすがってくるシュトゥルム・ファウストは、まるでデストロイから分離された小型機動兵器さながらの動きをしていた。それを可能にするには、ドラグーン・システム以外に無い。

 

「連合め、厄介なものを――!」

 

 レイはシュトゥルム・ファウストのビームをかわしながら、ビームライフルで反撃する。的が小さい分、当たり難い印象を受けるが、レイにはそれを見切れるだけの才能がある。

 

「そこだッ!」

 

 牽制から照準を絞り、本命の一発を放つ。しかし、そのビームはシュトゥルム・ファウストのバリアによって弾かれてしまった。何とも贅沢なことに、シュトゥルム・ファウストにまで陽電子リフレクターが装備されていた。これにはレイも舌を巻かざるを得ない。

 

「チッ! 打つ手なしか……!」

 

 シュトゥルム・ファウストから逃げている内に、背後にはデストロイが迫ってきている。本体と子機に前後を挟まれ、警告が鳴り響くとレイは即座に機体を横に滑らせた。デストロイの放ったスキュラが、シュトゥルム・ファウストに誤射される。
しかし、驚異的な威力を誇るそれでも、シュトゥルム・ファウストは無傷だった。やはり、こういう事態も考慮されて設計されているのだろう。厄介な事この上ない。

 

「シン、ルナマリア! 持ち堪えられているな!? 聞こえていたら返事をしろ!」
『――るぞ! そ――!』
『何――いわ!』
「ミノフスキー粒子とか言うものか…ややこしい事を!」

 

 3方向から攻めているが、意志の疎通が出来なければタイミングを合わせて連携攻撃を仕掛けることが出来ない。

 

「デストロイに接近できているのは俺たちだけか? ザラ隊長やエマさんは――!」

 

 加えて、他の部隊の到着が遅い。いや、遅すぎる。作戦前に打ち合わせた通りであるならば、既に決着が付いていてもいい時間。しかし、未だデストロイに接触できているのは自分の部隊のみ。自分達だけでこのデストロイを食い止めなければならないのか。

 

「頼りになるのは、シンのインパルスのみ……俺とルナマリアのザクだけでは――!」

 

 視界が悪い影響で、2人の行動が見えない。ふと、自分を狙っていたシュトゥルム・ファウストが離れて行った。こちらを狙うのを諦めたのだろうか。否、デストロイのターゲットは、明らかにこちらに向いている。
とすれば、シュトゥルム・ファウストはシンかルナマリアに向かって行ったのだろうか――

 

「ぐぁッ――!」

 

 推測を巡らせていると、アウフプラール・ドライツェーンがザク・ファントムに襲い掛かる。デストロイの最強兵器の威力に、爆風だけで機体が吹き飛ばされる。雪の上を、もんどりを打って転がった。
攻撃は逸れたのに、たった一発の爆風だけでこれだけの威力を示せるものなのか。頭頂高約18Mのザク・ファントムは、その倍以上もある巨体のデストロイに、子供のようにあしらわれた。

 

「く…うぅ……!」

 

 転がった衝撃で、レイはベルトに体を軋ませて苦しんでいた。恐らく、パイロット・スーツを着て体を固定していなければ、今頃体中の骨を粉々に砕かれて苦しみにもがいていた所だろう。それだけ激しい衝撃だった。

 

「は――!」

 

 続けて、背部円盤型バック・パックからミサイルが放たれる。苦しんで倒れている場合ではない。レイは即座に気持ちを奮い立たせ、咄嗟に機体を横に転がした。その回転を追いかけるように、ミサイルが次々と着弾する。

 

「くそッ…かわし切れない――!?」

 

 やがて、一発のミサイルがザク・ファントムに着弾した。当たった箇所は、コックピット付近の胸部装甲。他の箇所に比べて強固に設計されている場所で、良かったと思う。そして、デストロイのミサイルが他の兵器に比べて並みの威力で良かったと思う。
しかし、それでも今の一撃はザク・ファントムの胸部装甲を吹き飛ばし、コックピットが露(あらわ)になってしまった。シートに体をうずめるレイのヘルメットも、バイザーが割れてしまっている。

 

「前が――」

 

 立て続けの衝撃に体中を負傷し、苦悶に顔を歪めるレイ。しかし、敵はまだ目の前に敢然と立ち塞がっている。痛みを堪え、ヘルメットを脱ぎ捨てた。
 その様子を眺め、デストロイのステラはザク・ファントムが既に虫の息であることを悟った。小ばかにするように雪の上を滑っていたザク・ファントムも、攻撃が当たってしまえば他のMS同様に脆い。

 

「あんた達が…あんた達がステラからネオを奪うからいけないんじゃない……!」

 

 デストロイは、復讐を果たすに足る性能を持っている。ザフトのMSなど、殆ど蟻を潰す程度の作業でしかなかった。それを平然とやってのけるのは、ステラがネオを失ったから。彼女の中に、容赦という言葉は既に存在しない。
それは、目の前で苦しんでいるザク・ファントムも同じ。
 ネオは、きっと苦しんだのだろう。ステラは、その時に戦場に出られなかった事を激しく後悔していた。そして、ネオをその様な目に遭わせたザフト、とりわけミネルバには極上の苦しみを与えなければならない。

 

「消えちゃえばいいんだ、あんた達なんか……消えちゃえば――」

 

 ステラの呪いの言葉。それと同時に前進するデストロイ。目の前のザク・ファントムは、最後の力を振り絞るかのように立ち上がろうとしている。関節部分をショートさせ、機体をガクガクと揺らしている。
ステラは、そんな努力をデストロイの脚で踏み潰してやろうと思っていた。

 

「ぺちゃんこになっちゃえばいいんだ、あんた達なんかぁッ!」

 

 ザク・ファントムの前に辿り着き、大きく脚を上げる。苦しむ様を見届けようと、ステラはザク・ファントムに視線を集中させた。その時――

 

「え……!?」

 

 ステラの瞳に飛び込んできた一人の少年。ザク・ファントムのコックピットから覗いているパイロットの顔に、振り上げた脚を止めて元に戻す。

 

「ネ…オ……?」

 

 白を基調とした胸に淡い青紫のプレートを装備したパイロット・スーツに身を包む少年。大きく肩で呼吸し、額からは一筋の血を流している。ブロンドの長髪は乱れ、片目を隠していた。
 レイに重なる、青年の影。年齢に差はあれど、思わず勘違いするほど面影が似通っていた。

 

「ど、どうしたんだ…デストロイ……?」

 

 息を弾ませ、レイは途端に動きを止めたデストロイを見上げた。
 少しの間、時間が止まる。天候は相変わらずの吹雪。天を覆う圧し掛かる雲の下で、それを支えるようにそびえるデストロイ。ザク・ファントムと見つめ合ったまま、微動だにしない。

 

 デストロイが動きを止めたことにより、インパルスとザク・ウォーリアが交戦していたシュトゥルム・ファウストも動きを止めた。

 

「動きを止めた? どうしたんだ?」

 

 やがて、動きを止めたシュトゥルム・ファウストは、主人の下へ帰って行く。突然の出来事にシンは眉を顰め、インパルスを着陸させた。そこへ、ザク・ウォーリアが駆け寄ってくる。

 

『シン!』
「ルナ、無事だったか! どうなってんだ、こりゃ?」

 

 左肩部のアーマーと、オルトロスは破壊されてしまったのだろう。それでも、よくもザクでシュトゥルム・ファウストから逃れられたものだと思う。彼女も、幾度の戦いで自身の腕前を上げていたことだろう。

 

『レイと連絡が付かないの。この吹雪だし、ミノフスキー粒子って奴のせいで通信も繋がらないし…もしかしたら――』
「バカ、逆に考えろ! 確認できないなら、まだ無事かもしれないだろ? レイがこんな所でくたばるか!」
『でも――』
「――来た!」

 

 デストロイが動きを止めても、他の敵が動きを止めたわけではない。デストロイの静止を察知したウインダム数機が、早速やって来た。

 

「ルナは下がってろ。こいつらは俺がやる!」
『一人で!?』
「武器の無いザクはもう無理だ。ミネルバとも距離を離されているし、ルナはどこか安全な場所へ――」

 

 そう告げると、シンはザク・ウォーリアの胸部をそっと押してウインダム部隊に向かって飛び立つ。確かに、丸腰になったMSは的にされるだけで何の役にも立ちはしない。せめて盾になることしか出来ないが、シンはそれを望まないだろう。
加えてこの悪天候であれば、足手纏いにしかならないかもしれない。ルナマリアは諦め、シンの忠告どおりに岩場を探してそこに身を隠した。

 
 

 アークエンジェルの通路を少しずつ、しかし確実に前進するネオ。連合軍の攻撃もベルリン攻略に主力を向かわせているらしく、戦闘能力を落としたアークエンジェルは放っておかれている状態だ。
多少の部隊が功績を挙げようと仕掛けてきているようだが、ミネルバが盾になって防いでくれている。余裕の生まれたアークエンジェルならば、誰かが自分の存在に気付くのも時間の問題かもしれない。

 

「煙の流れが早くなっている…もうすぐか?」

 

 風の流れの中に、冷気を感じた。垂涎の出口は目前だろう。ネオは逸る気持ちを抑えつつ、油断しないように歩みを進めた。

 

「これか…いい穴だ」

 

 果たして、ネオの眼前に人が一人やっと通り抜けられるほどの大きさの穴が現れた。外へ抜けるように煙が流れ、吹雪の景色は極寒の地。普通なら地獄を連想するその光景も、ネオにしてみれば天国への通り道に見えた。

 

「フッ、短い間だったが、これでサヨナラさせてもらうとするか」

 

 薄着の囚人服でも、雪が吹き荒ぶ寒気をものともしない。確かに寒いが、訓練で培った精神力は伊達ではない。躊躇うことなく、ネオは穴の縁に足を掛けた。

 

「そこまでよ!」

 

 掛けられた声に、動きを止める。後一歩というところだったが、遂に見つかってしまったか。流石に両手足を拘束されたままでは、すんなりと事を運ぶことが出来なかった。ネオはゆっくりと掛けていた足を戻し、声のした方向に体を向ける。

 

「お前は……」

 

 そこには、銃を両手で持ってネオに狙いを定めているラミアスが立っていた。震える手は、穴から洩れる冷気のせいか、はたまた別の理由があるのか。

 

「そのまま動かないで。動いたら、その瞬間に貴方を撃ちます!」
「そんなに震える手で、私を狙えるのか?」
「弾薬が切れるまで撃ちます。即死は出来ないかもしれないけど、その分、貴方は苦しむわ。それに、手足を拘束されていれば――」
「私の直ぐ横には、出口がある。その前に、逃げ切って見せるさ」

 

 ラミアスの目は本気だ。前に自分の手当てをしてくれた時の様な優しげで儚げな印象は微塵も無い。逃げようとしている自分を、本気で殺そうとしているのかもしれない。

 

「下手なことは考えないで。貴方は確かにムウに似ているけど、それは顔だけだわ。私の知っているムウじゃない……」
「それが理由で、私の治療をしてくれたんだったな?」

 

 未だ頬に貼られているのは、以前にラミアスに貼ってもらった湿布薬。両手を上げて、擦ってみる。

 

「もう…私のムウを汚さないで……! 貴方を見ていると、どうしてもムウを思い出してしまう……」
「それはお前だけの感傷だな。そんな自己中心的な感傷で、私を否定する権利がお前にあるのか? …しかし――」

 

 通路に流れる煙。高いところの好きなそれは、天井に這い蹲って開いた穴を目指している。もっと高く、遠くへと手を伸ばしているかのように。その気持ちは、ネオのもの。吸い込めば人間を窒息死させるそれが、ネオの気持ちを汲むようにここまで導いてくれた。
後一歩のところ、そこで、邪魔者が現れた。マリュー=ラミアスという女は、自分に勝手な因縁を吹っ掛けて何処までも付いて周ろうというのか。確かにいい女ではあるが、ストーカーに心を奪われるほど滑稽な自分ではない。ネオは、嘲笑を浮かべた。

 

「私を見つけたのがお前だとは、これも何かの因縁の為せる業か」
「知らない人同士なのよ、私達は……だから、逃げるなら殺すの。私と貴方は敵同士……ここで見逃すくらいなら、せめて私の手で貴方を殺します……」
「私を殺して、何になる? お前の感傷で私を殺しても、そのムウとか言う男は嘆くんじゃないのか? もう少し、冷静になって考えろ」
「あの人はもう居ないのよ! だから、お別れをするの……ムウの顔をした貴方を殺して――」
「自分も死ぬってか? バカバカしい!」

 

 ラミアスに自殺願望は無い。しかし、この場でネオを逃がしてしまうくらいなら、自分の手でネオを殺して置きたい。なまじムウと同じ顔を持つばかりに、そのいい加減で優しさの欠片も無い態度が彼を侮辱されているように感じていた。
 捕虜として捕らえている間は我慢できた。ジブラルタル基地に入ってからは、何度と無く痛い目を見てきた彼だ。その時、一時の気の迷いで優しさを施してしまった事は今この場で忘れよう。ただ、逃げられてしまう事態だけは許せない。
ムウとの思い出を侮辱するネオは、ラミアスにとって憎むに値する。

 

「このまま私達に拘束されているか死か、決めなさい!」
「そんな二択など――」

 

 ネオが言いかけたとき、アークエンジェルが振動した。ミネルバがダメージを負わせたウインダムが1機、近くに墜落してきたのだ。その揺れで、ラミアスもネオも通路の床に倒れてしまう。
 その時、ネオは見た。穴の外には、殆ど損傷の無いウインダムが転がっている。コックピット・ハッチは誤作動で開いてしまったのだろう。この千載一遇のチャンスを逃すわけには行かない。これは、ラミアスに見つかりはしたが、運はまだこちらにある証拠だ。

 

「ま、待ちなさい!」

 

 床に倒れ伏したラミアスの視界に、うっすらとネオの姿が見えた。こちらが這い蹲っているのをいい事に、逃げようとしているのだ。警告はした。それでも尚、逃げるというのならば、引鉄を躊躇う理由は無い。
震える腕が、添えられていた指が、ネオに弾丸をぶち込もうと連動した。
 そして、発砲の乾いた音が響く。ネオは銃声に身を竦ませた。しかし、痛みは無く、即座に全身を手でさすって確認した。どうやら、弾は命中しなかったようだ。

 

「フッ、選択肢は、三つあったようだな!」
「これで終わりだと思わないで!」

 

 勝ち誇ったネオの声を聞き、ラミアスは更に引鉄を引く。1発撃ってしまったのなら、2発も3発も同じ。次第に震えが解け、煙の向こうでぼんやりと霞むネオを狙う。

 

「クッ! 野蛮な女め!」

 

 何発もの銃弾。それでも、視界の悪さがネオに味方したのか、全て外れてくれた。そればかりか、両手を繋ぐ鎖に命中したらしく、思わぬ形で両手の自由を得ることが出来た。
正に天運。この時ばかりは、ネオも偉大な宇宙意志のようなカルト的な存在を信じる気になった。
 それから、外へ飛び出す。先程墜落してきたウインダムの下へ、不自由な足で出来るだけ急いだ。途中、そのウインダムのパイロットと思われる者を発見した。投げ出されて、運悪く岩に頭をぶつけてしまったのだろう。
ネオが近づいて確認したところ、そのパイロットは既に絶命していた。体中の関節が有り得ない方向に曲がっていてヘルメットが派手に割れている状況を鑑みるに、相当な勢いで投げ出されたのだろう。
しゃがみこみ、パイロット・スーツのポケットから護身用のハンド・ガンを失敬した。

 

「済まないな…これと、お前の愛機を借りるぞ」

 

 取り出したハンド・ガンで、枷になっている足の鎖を撃ち砕いた。鎖の金属片が飛び散り、ネオの頬を掠めて血を流す。ネオはそっとハンド・ガンを亡骸のポケットに戻し、久々に自由になった四肢の感覚を確かめるとウインダムに向かって走りだした。

 

 その頃、ネオの居なくなった通路で跪くラミアス。座りながら銃を構え、弾倉が空になったそれの引鉄を引き続ける。

 

「どうして当たってくれなかったの……? 逃げられるくらいなら、私は彼を殺したかったのに、どうして――」

 

 虚ろな瞳から、涙が零れる。カチッカチッと鳴り続ける銃を手に、茫然自失になっていた。
 本気で当てるつもりだった。本当に、逃げられるのなら殺してしまおうと思っていた。しかし、当たらなかった。全弾費やしても、ネオに命中するどころか、手助けをしてしまった。

 

「ムウ…どうして……」

 

 教えて欲しかった。もし、本当に死者の訪れる国があるのなら、そこから自分を見ていてくれる彼に教えて欲しかった。どうして、ネオに銃弾を当てさせてくれなかったのか。
 ラミアスの目に溜まる涙。視界は霞み、世界が歪んで見える。これが、ムウが見せている世界なのだろうか。心で念じ、しかし応えは無かった。

 

 その涙で歪んだ世界を見ている内は、彼女に真実は見えない。本当の真実を見つけるためには、涙を拭って現実を直視する必要があった。しかし、今のラミアスにはその余裕が無かった。