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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第47話

Last-modified: 2008-11-04 (火) 00:02:03

『戦士たち』

 
 

 メサイアの観測レーダーが、異常を察知した。それは、ミノフスキー粒子による電波障害。言い方を変え
れば、連合軍の艦隊が迫ってきていることの証明だ。
 既に、ザフトは連合軍の侵攻に対する迎撃準備を済ませた状態で、臨戦態勢が整っている。作戦通り、
メサイアの正面を手薄に配備し、囮とすることでその空白を挟み込むようにして艦隊が布陣されていた。
左右両翼に分け隔てられた艦隊にはそれぞれ、ミネルバとエターナルが配備されている。連合軍に対する
挟撃の準備は万端の状態だ。
 メサイアへの道筋を作るように、デブリが撒き散らされた宙域の中でひっそりと息を潜めて佇む艦隊。
エターナルはその左翼へと配置され、連合軍の動き出しを見極めるかのように静観していた。
 キラの乗るストライク・フリーダムは、エターナルに寄り添う形でミーティアとドッキングし、静かに出撃の
時を待っていた。

 

 オーブ艦隊は、事前の協議の通りに不審な廃棄コロニーへの調査へと向かっていった。ユウナもそれに
同行する形でトダカの指揮するクサナギに乗り込み、出撃していった。その際に、キラはユウナからある
提案を持ちかけられていた。
 “万が一の事態の時には、アプリリウスに居るカガリを連れ出して、オーブ艦隊に合流して欲しい”――
それは、まるで最初からザフトが敗北する事を見越した上での催促だったように思える。手渡された極秘
のデータ・チップにはランデブー・ポイントが記録されていた。
 デュランダルがオーブの裏切りを防止する為にカガリを人質にとっていると言わんばかりのユウナの言
は、キラには易々と受け入れがたい事だ。キラ自身、ここでザフトが敗北するような事は考えていないし、
オーブ艦隊も無事に戻ってくる事を信じている。しかし、ユウナはデュランダルやザフトの戦力といったもの
を、完全に信用し切れていないようだ。だからこそ、カガリの実弟とされているキラに頼んだのだ。しかも、
その事を内密にするように言い含まれて。

 

「ユウナさんの心配も分かるけど…でも、やっぱりこんな事――」

 

 キラは手渡されたデータ・チップを手に見つめながら、1人ごちる。憂いを帯びた瞳は、ユウナから言い渡
された頼み事と自らの感性の狭間で揺れている証拠。何かを犠牲にして何かを得るような気持ちは、キラ
は持てなかった。目的と手段の間に理想を挟みこむ彼だからこそ、悩む。

 

 プラント防衛に残ったのは、エマ、カツ、レコアを除いたミネルバのクルー、そしてエターナルのキラであ
る。他の所謂“異世界”からの参戦者たちは、アークエンジェルに乗って廃棄コロニーの調査へと向かって
いった。パイロットだけを見れば、ちょうどU.C.世界の住人とC.E.世界の住人が分かれた事になる。
 そして、ミネルバとエターナルにも、ちょっとした人員の配置換えが行われていた。突出した火力を持つ
ミーティア装備のストライク・フリーダムとインフィニット・ジャスティスを両翼にそれぞれ配置することで、そ
のサポートとしてエターナルにはシンのデスティニーが廻されて来たのである。アスランのサポートには、レ
イのレジェンドが付き、それはレイが自ら志願してアスランのサポートに廻ると言ってきたためでもある。
 ストライク・フリーダムの傍には、デスティニーが佇んでいる。デストロイをインパルス単機で撃墜した、心
強いシンである。チラリとその姿を見やると、まるでキラの視線を感じ取ったかのようにデスティニーの双
眸が瞬いた。

 

『キラさ――、そのお手並拝見させて――すよ』
「僕の方こそ、頼りにしているよ」

 

 キラは視線を横に向けながら、片手をヘルメットに添えてスピーカーの声に耳を傾けた。電波状態が著し
く低下している。どうやら、徐々に周辺の宙域がミノフスキー・テリトリーに変質しつつあるようだ。ザフト艦
隊もそれに気付いたらしく、一様に緊迫した空気に包まれていた。
 連合軍の攻撃が、近い。核兵器装備のウインダムが、連合軍の核攻撃部隊である。俗に“ピース・メー
カー隊”と呼ばれる彼等は、地球至上主義者であるブルー・コスモスの構成員であり、コーディネイターに対
して核兵器を使用することに毛ほどの感傷も抱かない。それは、前大戦で核の炎に包まれたボアズで実証
されている。
 デブリの高密集宙域から見つめる先に、メサイアへ迫ろうかというバーニア・スラスターの光の尾びれが
幾つも輝いている。艦隊の光だ。そこから更に細かいバーニア・スラスターの光が飛び立っていくのが見え
た。恐らくはピース・メーカー隊の出撃、そしてその砲身には核弾頭が納められているはずだ。
 キラは事の推移を、固唾を呑んで見守っていた。その途端、激しい稲妻のような閃光が迸り、一瞬にして
核ミサイルが爆発を始め、ピース・メーカー隊をその熱球の中に飲み込んでいった。
 急に明るくなる宇宙、そして鮮やか過ぎる光にキラは一瞬我を忘れそうになり、しかし直ぐに作戦開始の
合図を耳にしてハッとした。ニュートロン・スタン・ピーダーの発射、それがザフトの総攻撃の合図だった。

 

 一斉にスペース・デブリの中から姿を現すザフト艦隊。核兵器を所持するという自信から、正直に真正面
から挑んできた連合艦隊を一気に包囲し、砲撃を浴びせた。その攻撃は激しい嵐の如く、宇宙に幾筋もの
煌きを放ち、閃光を生み出した。

 

 ザフト艦隊の中で、突出するのはミーティアを装備したストライク・フリーダム、そしてそれを護衛するデス
ティニー。ミーティアの圧倒的火線が連合軍のMSを次々と焼き、残像を残して舞うデスティニーが或いは
MSを、或いは戦艦を薙ぎ払っていく。
 右翼から攻めるアスランのミーティアも、レジェンドのドラグーンとの共同砲撃であっという間に連合艦隊
の一部を壊滅させていた。
 先制攻撃は、成功。作戦通り、連合軍の出鼻を挫く事には成功した。しかし、連合軍の売りはその圧倒
的な物量にある。ザフトがいくら砲撃を仕掛けたとしても、流石はコーディネイターの本拠を攻略しようという
だけの事はあり、与えた損壊は連合艦隊の10%にも満たなかった。つまりは、これからが本番なのであ
る。連合軍の核兵器が底を尽いたという確証もないし、ザフトとの戦力を拮抗させようにも、もう暫くの辛抱
が必要になる。
 まるで蜂の巣を突付いたような反応に、シンは一つ舌を鳴らした。何処にそんなに潜んでいたのか、次々
と増殖するように姿を表す敵MSの大群に、左背部にマウントされている高エネルギー砲を抱えて薙ぎ払う
ように攻撃を仕掛ける。その一方で、サポート対象であるストライク・フリーダムのミーティアを探した。

 

「本物は初めて見たけど、凄いんだな、ミーティアって……」

 

 感嘆の吐息を漏らし、シンはまるで土砂を排除するブルドーザーの如く敵MSを駆逐していくミーティアを
片手間に観察していた。その存在は、アカデミーの教科書の中で知っている。その中では文字でその性能
をつぶさに語っていたが、実物はやはり違うものなのだと、実際に目にしてみて思う。
 機体の性能もさることながら、あれだけのサイズを誇る大型MAを、いとも簡単に操って見せているキラ
のパイロット・センスが凄い。正確にMSを射抜く射撃のテクニックは、アスランですら霞んで見えてしまう程
の圧倒感をシンに与えていた。あれと同じ事やれと言われても、絶対に出来る気がしない。それだけキラ
の敵に攻撃を当てるテクニックというものは卓抜していたし、敵の攻撃を避ける反応の鋭さも凄まじかっ
た。果たして、彼に比肩し得るパイロットが存在するのかを疑問視するほどに。アスランに認められ、キラを
意識し始めたシンであったが、その戦いを初めて生で目の当たりにし、純粋に気圧されていた。
 2年前のオーブ。フリーダムの姿は、その時に初めて見た。それは、同時に家族を失った瞬間の悲しい
思い出でもある。流れ弾による犠牲で運が無かったとしても、最初は諦める事は出来なかった。しかし、そ
れをアスハへの憎しみへと転換することで、何とかシンは心の均衡を保つ事が出来た。

 

 本当なら、その場で戦いを繰り広げるフリーダムを恨む事も選択肢の中にはあっただろう。実際に、見上
げた空で最初に目に入ってきたのはフリーダムの姿だった。しかし、シンはその選択を選ばなかった。元
凶を辿れば、本土を戦場にしたアスハが一番悪いのであると解釈したからだ。後に、冷静にそう考えられ
るようになった時、シンはフリーダムの戦いを非難する気にはなれなかった。フリーダムは、ブルー・コスモ
スの攻撃からオーブを守っていただけ。対処法を違えたオーブの対応が、悪かっただけなのだと。
 一歩間違えば、シンはキラの敵になっていたかもしれない。ただ、何処で運命が組み変わったのか、今
は同じ仲間として一緒に戦っている。そして、純粋にMSパイロットとして尊敬する気持ちすら抱けるように
なっていた。
 自分は、いつかキラよりも凄い戦士になってみせる――そのシンの誓いは、近い将来に実現することに
なる。

 

 シンの決意は彼のモチベーションとなり、MSの動きにも表れる。美しい背部大推力バーニア・スラスター
の光と、ミラージュ・コロイドが生成する残像が織り成す一種のアートとも取れるデスティニーの戦いは、嫌
でもキラの瞳に強烈なインパクトとなって飛び込んでくる。
 とにかく、動きが爽快だった。見るものを全て魅了するような美しさと、何者をも寄せ付けない荒々しさ
が同居する、一見すれば矛盾した光景に見えるのだが、それがまたデスティニーの美しさを際立たせる。
それは、戦いの美しさを表現しているかのようだった。

 

「デスティニー…イケてるじゃないか――」

 

 呟いてから、おかしな事を言っている自分に気付く。ハッとして、キラは軽く首を左右に振った。

 

「イケてるって――かっこいいって言ったのか、僕は? MSが大して好きでもない僕が……?」

 

 キラは、MSがあまり好きではなかった、というよりも、戦争の道具としてのMSにはどうにも嫌悪感を抱い
てしまう。それは、彼の穏やかな性格から導き出されたMSというものに対する一方的な見方でしかないの
だが。
 キラは所謂平和主義者で、戦いに対しては悲観的な思考を持っている。戦争に参加した動機も、仕方な
かったと言うのが最初で、今でも基本的には戦いは嫌いだ。キラは、必要だと判断したから戦っているに
過ぎなかった。
 しかし、シンのデスティニーはどうだろうか。そんな非戦論者でもあるキラでさえ魅了するシンの戦いぶり
は、キラの戦いに対する哲学をも揺るがしかねない妖しい魔力を秘めていた。そして、その強さも半端では
ないのである。
 効率を重視するキラの戦法は、常に一撃必殺を狙う、極めて単純なものだった。その反面、正確な命中
技能を要求されるが、キラはそれが出来るだけの実力を兼ね備えている。シンプルで地味だが、確実な
戦法だった。
 それに比べデスティニーは、動きこそ荒削りながらも、その機動力を最大限に活かし、神速の如き勢い
で次々とMSを切り刻んでいく。反応も、早い。敵機との距離もお構い無しに突っ込んで強引にねじ伏せて
いく様は、さながらバーサーカーだ。だが、敵はデスティニーに攻撃を当てるどころか接触することすら出来
ていない。接近されたかと思えば、その瞬間には既に斬撃を受けた後なのである。一見、無鉄砲な戦い方
に見えても、シンには確信があってそれをやっているのだ。それを証明するように、遠距離タイプのMSに
対しては、しっかりと射撃で応戦している。
 荒削りなのに、強い。その不安定に見えるのに強力無比なデスティニーとシンには、魅力がある。それ
は、キラが決して持ち得ない燃え滾る情熱の成せる業だろうか。こんなMSも、悪くはない――キラの頭の
中に、ほんの少しだけ戦うMSの良さが芽生えた。
 シンは、いつかきっと自分を越えていく――そのキラの予感は、近い将来に現実のものとなる。

 
 

 最上位機種であるデスティニーに、並みの連合軍MSは敵ではない。ミーティアはその火力を存分に披露
し、敵陣にめり込むようにして進撃を続ける。快進撃はシンの気分を高揚させ、表情にも余裕の色が浮かんでいた。
 しかしその時、後続のMSの1機が、何処からか放たれたビームの直撃を貰って撃墜された。モニターに
警告の文字が浮かび上がり、シンはハッとして後ろを振り返った。

 

「何だ?」

 

 デスティニーとミーティアを先頭にして突き進むザフトMS隊の横合いから、更に数発のビーム攻撃が襲い
掛かる。何機かはその攻撃で戦闘不能に陥らされ、途端に黄色の塊のようなものが乱入してきた。それは
全身からスラスターの光を噴出させながら、あっという間に後続のザフトMSを切り刻んでいく。その尖塔の
様な頭部らしきものが回頭し、モノアイが不気味に光り瞬いた。
 その圧倒的な運動性能、シンは思わずデスティニーを振り返らせ、足を止めた――止めざるを得なかっ
た。その様子に気付いてか、ミーティアも制動を掛けて立ち止まってしまった。

 

『――はジ・O!』
「ジ・O?」

 

 ノイズで汚れたキラの声を耳にし、シンはMSを見つめながら眉を顰めた。かつて、アークエンジェルがア
ルザッヘル基地に仕掛けた時、キラの乗るフリーダムがまるで赤子の手を捻られる様にして完敗を喫した
という話を聞いた。そのお陰でフリーダムは大改修を行い、現在のストライク・フリーダムへと生まれ変わっ
たのだと言うのだが――確か、そのMSの名前がジ・Oであったとシンは記憶している。
 キラのパイロット・センスを知っているからこそ、ジ・Oの脅威が分かる。シンは一つ喉を鳴らし、ミーティア
に向けて接触回線用のワイヤーを伸ばした。

 

「ミーティアは先へ。こいつは、俺が食い止めます!」
『でも、それは――』

 

 煮え切らないキラの返答。戦争をする人間にしては、気が優しすぎる。シンはキラをパイロットとしては認
めていても、その辺りの優柔不断さはあまり好きではなかった。
 迷っている間にも、時間は過ぎていく。敵がこちらが判断を吟味している暇を与えてくれるわけも無く、容
赦なく攻撃を放ってくる。デスティニーが籠手からビームシールドを展開し、敵の攻撃からミーティアを防御
した。そうしてから、決断を鈍るキラを苛立ちをぶつけるように睨み付ける。

 

「何の為のフリーダムとミーティアなんですか! ここは俺に任せて、早く!」
『――済まない!』

 

 ようやく理解してくれたのか、キラは一言述べると、ミーティアを敵艦隊の中心に向けて加速させた。
 ミーティアの高出力バーニア・スラスターが火を噴く。ジ・Oのパイロット、ブラン=ブルタークはその姿を追
いかけようとスロットル・レバーを押し込もうとした。その時、それを阻害するようなエネルギーの奔流が彼
を襲い、咄嗟に反応してレバーを後ろに引いた。鼻を鳴らして射線の方向を見れば、大砲を小脇に抱えて
いるガンダム・タイプのMS。

 

「フリーダムを先に行かせようとするザフトの新型……エースか。しかし――」

 

 本格的に衝突を始めた両軍。あちこちの宙域で、MS同士が交戦を繰り広げ、ビームの軌跡と爆発の閃
光がひっきりなしに瞬いていた。デスティニーとジ・Oの周辺も例外ではなく、ザクやウインダムが入り乱れ
て混戦の様相を呈している。
 乱戦ともなれば、数に勝る連合軍が圧倒的に優位である。懸念はミーティアのようなMAが自陣中枢に食
い込まれる事だが、連合軍とてそれほど甘くは無い。ブランはデスティニーを睨んで口元に笑みを浮かべた。

 

「そんな華奢なMSで、ジ・Oを止められるものかよ!」

 

 ブースト・ペダルを一足飛びに踏み込み、ジ・Oを加速させる。仕掛けてきたザクをビームライフルで一撃
の下に粉砕し、サブ・マニピュレーターを含めた3本のビームサーベルを掲げて、突き破るようにしてゲイツ
Rを撃破した。そして、そのままの勢いでデスティニーに襲い掛かる。
 カタパルトから打ち出されたような急加速に、接近されたシンは何の判断も出来なかった。ただ、それま
で培ってきた戦いの経験が本能に危険を報せ、殆ど無意識にビームシールドで防御した。突風が吹き荒
れたような異様な衝撃と揺れるコックピットに、シンの表情が苦々しげに歪む。只者ではないプレッシャーを
身体全体でひしひしと感じ、デスティニーが力で押されていることに驚愕する。

 

「――けど、そんなものでッ!」

 

 プレッシャーに抗うように気を吐くシン。スライドさせるようにジ・Oのビームサーベルを受け流すと、今度
はデスティニーが腕を伸ばし、ジ・Oに襲い掛かった。デスティニーの掌に内蔵された、ゼロ距離武装パル
マ・フィオキーナで、ジ・Oの脇腹を突き刺そうと試みる。
 しかし、直前でジ・Oが前蹴りを突き出し、デスティニーを引き剥がす。重い一撃をコックピット付近に受
け、シンは低く呻いて堪えた。

 

「まだまだぁッ!」

 

 気合を入れるように叫び、固く操縦桿を握りなおす。キッとジ・Oを睨みつけ、バランスを崩しながらも高エ
ネルギー砲を小脇に抱え、撃ち放った。太いエネルギーの奔流がジ・Oに襲い掛かる。
 距離は離れていない。もし、シンが堅実に照準を合わせ、ジ・Oを狙っていたならば、或いは致命傷を与
えていたかもしれない。しかし、カウンター気味に放たれた高エネルギー砲の照準は殆ど勘であり、ジ・Oの
コックピットの中でせせら笑うブランには、そのいい加減さは分かっていた。

 

「ハッ! そんな曖昧な照準で、当たるものかよ!」

 

 笑うブラン。AMBAC制御も使わず、単純なスラスターによる体重移動だけであっさりとデスティニーの高
エネルギー砲を避ける。ブランにとっては、あくびが出るほどイージーな攻撃だった。
 ブランには、デスティニーに乗っているシンの若さというものが分かっていた。新鋭のエース機を任される
辺り、確かに強い事には強いのだ。しかし、その感情が先行するような青い動きは、ブランにとっては非常
に読みやすい。突っかかれば反発するような分かりやすい攻撃は、対処しやすいのである。何をすればど
ういう行動に出るかが、パターンとしてありがちなのである。
 シンはセンスで戦うパイロット。いわゆる天才と呼ばれるカテゴリーに属している。対し、ブランは経験で
戦うパイロットである。だからこそ、パターンに陥っている今のシンにとって、ブランは天敵であった。

 

「いくら装備が多かろうと、使いこなせなければ宝の持ち腐れってもんよ」

 

 ビームライフルでデスティニーを追い捲るブラン。反撃でデスティニーが高エネルギー砲を返してくるが、
それも嘲笑うように岩陰に隠れてやり過ごす。そうして再び姿を表し、小突くようにビームライフルを撃つ。
デスティニーは手にビームライフルを持たせ、遮二無二に接近戦を仕掛けようと躍起になっているように見
えた。明らかにパイロットが苛立っている事が分かる。ブランはにやりと口の端を吊り上げた。
 インパルスの3つのシルエットを、単機で表現するというコンセプトで設計されたデスティニー。ブランの目
に、デスティニーの装飾のような武器の数々は、装備量過多に見えていた。
 武器のバリエーションを多くするという発想自体は、悪くない発想だ。それがパワー・バランスに見合うだ
けのものであったならばの話だが。しかし、もしMSの機体バランスを崩しかねないようなありったけの装備
を積んでいるのだとすれば、それは単なるデッド・ウェイトに過ぎない。少なくとも、ブランにはそういう見識
だった。
 見れば、デスティニーは単機で遠・中・近距離の全てに対応させているような、一見無茶のある武装配
置。そういうMSは、得てして中途半端に扱い辛い、欠陥品として成り立っている可能性が高い。だからこ
そ、ブランにはデスティニーが欠陥品に見えたのかもしれない。
 しかし、そのブランの目測はあっさりと裏切られる事となる。デスティニーが左マウント・ラックに装備されている高エネルギー砲をパージしたかと思うと、徐に右マウント・ラックに装備されている大剣を引き抜き、
背中の高推力スラスターから大きな光の翼を広げたのである。そして、一瞬加速したかと思うと、その姿に
残像を残して一気に詰め寄られてしまった。そしてベース・ボールのバッターのように大きく横に振りかぶっ
て薙ぎ払ってくる攻撃を、すれすれで避けるジ・O。内心、ブランは肝を冷やした。
 尚も距離を詰め、アロンダイトを振り回してくるデスティニー。大振りな分だけ、慣性モーメントによって斬
撃が鈍ってブランは回避できているが、これがもし小振りのビームサーベルだったとしたら、非常に恐ろし
い事である。並みのMSであったならば、あっという間に切り刻まれていた事であろう。ブランは背筋に冷た
いものを感じながらも、デスティニーのパイロットの青臭さを笑った。

 

「派手な形(なり)をして、よくもピンシャカ動く」

 

 アロンダイトであれば、攻撃の筋を読みやすい。デスティニーの高速機動に一瞬だけ虚を突かれたブラン
であったが、ジ・Oは3本のビームサーベルを同時に操る事が出来る、どちらかといえば格闘戦に主眼が置
かれたMSである。攻撃の瞬間さえ見切ってしまえば、そこから煮るも焼くもブラン次第。
 果たして、アロンダイトの一撃をかわし、ジ・Oの3本のビームサーベルがその刀身を切り刻んだ。シンは
細切れになったアロンダイトの残骸を目にして、歯を食いしばる。シールドを構え、アロンダイトの爆発から
身を守って即座に後退するデスティニー。追撃を逃れるようにフラッシュ・エッジを投擲し、ジ・Oの動きを警
戒する。しかし、そのフラッシュ・エッジもジ・Oはビームソードで弾き飛ばし、間合いを詰めてきた。
 シンはもう一本のフラッシュ・エッジを取り出し、ビームサーベルにしてジ・Oの攻撃を防ぐ。輝度を増す2
振りのビーム刃の眩しさからか、シンは目を細めて眉間に皺を寄せた。

 

「凄い、コイツ……! 特別な装備は何にも無いのに、基本性能の高さだけでデスティニーと渡り合っている!」

 

 隠し腕こそあるが、デスティニーのように豊富な武装を持っているわけでもないし、幻惑するような残像を
発するわけでもない。ストライク・フリーダムのような無線誘導兵器を持つわけでもなく、インフィニット・ジャ
スティスのように全身に凶器が内蔵されているわけでもない。更にΖガンダムのように変形機構を備えてる
でもなく、非常にシンプルに纏められたMSであった。
 それでも、ジ・Oは高次元でバランスの取れた機体であり、それにブランの技量が合わさってシンとデスティニーのコンビを圧倒するような相乗効果を生み出していた。シンはそこに感心するよりも、果たして今
の自分に抗うだけの力量が備わっているかどうかを不安に思ってしまった。
 しかし、直ぐに首を横に振り、弱気になりかけた自分の気持ちを発奮させる。

 

「い…いや、弱気になっている場合か、俺! コイツを勝手にさせる訳にはいかないんだろうが!」

 

 フロント・スカート・アーマーから、ビームサーベルを持つサブ・マニピュレーターが飛び出してくる。シンの
目がクワッと見開き、デスティニーが左腕を伸ばした。そのマニピュレーターが隠し腕に添えられ、掌に内
蔵されているパルマ・フィオキーナが火を噴いて爆砕する。

 

『そんな事で!』

 

 スピーカーからブランの声。忌々しげに発する声に手応えを感じたが、しかし、サブ・マニピュレーターは
もう一本ある。即座に間合いを取ろうと後退するものの、左半身を舐める様に下から切り付けられた。
 装甲は間違いなく斬られた。その程度であれば、人間に例えれば皮を切られたようなものである。しか
も、MSであれば修理ですぐに直す事が出来る。問題は、どの程度の損傷の深さか。シンが神業のようなパ
ネル・タッチでダメージ・レベルを確認する。多少、内部にもダメージは入っているようだが、戦闘に支障を
来すような深刻なものでは無い。

 

「こんなもの! かすり傷だ!」

 

 ショートによる僅かな放電を残し、鳥が羽ばたくかのごとく光の翼を広げ、デスティニーは高速で後退す
る。そして、二本目のフラッシュ・エッジも投擲し、時間を稼いで間合いを拡げた。
 デスティニーはビームライフルを取り回し、ジ・Oの接近を避けるように牽制を放つ。見方によっては、弱
腰に見えるだろう。しかし、デスティニーの武器は既にこのビームライフル一丁と両掌に内蔵されているパ
ルマ・フィオキーナのみ。対するジ・Oが接近戦に強さを見せるならば、近付くのは自殺行為にしかならない。
 ブランがデスティニーの動きの変化に気付いたのは、瞬きをするよりも早かった。シンのような青二才の
力量を推し量る事など、ブランには造作も無い事なのかもしれない。だからこそ、シンの焦りが透けて見え
たような気がした。
 高機動力に伴う残像で幻惑するように舞い、間合いを詰めさせようとしない。その動きが、あたかも蝶が
リンプンを撒いてこちらを誘惑しているかのように見える。それは、デスティニーがジ・Oとの戦い方を意識
的に変えたという事。ブランがシンのつたない誘いの意図を見抜けないわけが無かった。

 

「あの動きは、奴が本命では無いという証明になっている。だが、敢えてコイツの作戦に乗る事で、フリーダ
ムに対するジェリド達の動きを隠せると考える事も出来るか――ならば!」

 

 シンの目論みを分かっていても、敢えてその誘いに乗るブランには余裕がある。ニュートロン・スタン・
ピーダーや挟撃による急襲を受けても、連合軍の戦力はまだ十分であるからだ。ジ・Oを機動させ、逃げる
デスティニーに対して追撃を掛けた。

 
 

 シンやキラが戦っている左翼とは対極の右翼戦線でも、同様に混戦が展開されていた。後方に位置取る
艦隊の援護射撃を潜り抜け、突破してくる連合軍のMSの数はそれ程多くは無い。右翼の最前線では、ま
るで双頭の番犬のようにミーティア装備のインフィニット・ジャスティスとレジェンドが立ち塞がっているからだ。

 

「全軍、このまま押し込めるぞ! ラインを押し上げて、左翼の艦隊と一緒に連合艦隊を囲い込むんだ!」

 

 ミーティアを装備したインフィニット・ジャスティスは、正に鬼人の如き活躍を見せていた。通常の状態で
あれば格闘戦に特化した殲滅戦に向かないMSでも、まるで巨大な兵器コンテナのようなミーティアとドッキ
ングする事で、無類の砲撃戦能力を得る。そして、アスランもキラほどではないが、その正確な射撃能力に
は誰もが認めるセンスを持っていた。ミーティアから放たれるビームとミサイルのオンパレードは、次々と連
合軍のMSを葬っていった。
 そのインフィニット・ジャスティスに随行するレジェンドは、宇宙に出た事でその性能の全てを解放する。
戦場が無重力帯に移ったことで、遂にその最大の特徴であるドラグーン・システムを使用可能になったの
である。
 バック・パックに装備された、やや大きめのドラグーンのマウント・ラックから、一斉に解き放たれる8基の
ドラグーンたち。火線の多さは、まるでビームが拡散をしているかのようにシャワーを浴びせ、インフィニッ
ト・ジャスティスに勝るとも劣らない戦果を挙げていた。

 

 そんな彼等に最前線を任せ、ルナマリアはミネルバの傍で敵を叩いていた。ブラスト・シルエットで武装
し、両肩部に乗せた砲身からミサイルを吐き出すと、そのまま即座に弧を描いて反転させ、小脇に抱えて
今度はケルベロスを発射する。ミサイルの炸裂で散り散りになった敵MSを撃ち漏らすことなく撃墜する彼
女は、もはや射撃が苦手であった頃の面影は無い。冷静に戦場を見つめ、絶えず瞳を動かすその目は精
悍に表情を引き締めていた。

 

「当てられちゃいる、けど――」

 

 誰に話しかけるでもなく呟く。唯一の懸念が、消費の激しいブラスト装備の消費電力。勿論、インパルス
のバッテリー容量は並みのMSに比べれば格段に大きいが、ケルベロスは多大なるエネルギーを消耗す
る。近くにミネルバを置いているとはいえ、エネルギー残量を気にしながら戦わなければならないのはスト
レスになる。ルナマリアは戦闘に意識を集中させながらも、インパルスの残エネルギー量は常に気に掛け
ていた。
 チラリとコンソール・モニターに視線を落とす。エネルギー・ゲージは十分、ルナマリアはグッと操縦桿を握
る手に力を込めると、インパルスをミネルバの靴底のような先端の下に潜り込ませた。敵はミネルバの上
方から仕掛けてきている。MS群をキャッチしたミネルバからはビームやミサイルが飛び交い、弾幕を形成
する。ルナマリアの目は、それを抜けてくる敵の存在を掴む事に集中していた。
 果たして、ミネルバの弾幕を運良く突破できたウインダムが現れた。ミネルバの影で、戦闘ブリッジから
送られてきたカメラの映像を受信すると、ミネルバに繋いでいたワイヤーを収納してそこから躍り出る。

 

「そこまでよ!」

 

 弾幕の薄いミネルバの底を潜り抜けて攻撃を加えようかというウインダム。しかし、インパルスがそうはさ
せじと立ち塞がる。両小脇に抱えたケルベロスとレール・ガンを一斉射すると、ビームジャベリンを取り出し
てウインダムに躍り掛かった。
 ウインダムはインパルスの一斉射で右肩を抉られる様にして被弾し、面食らっている。インパルスはビー
ムジャベリンを両の腕で保持し、突き上げるようにしてウインダムの胴を突き破った。
 そしてビームジャベリンを引き抜いて爆発から避難する。その時、ルナマリアの視界の端に、激しくなる光
の明滅が微かに見えた。

 

「何?」

 

 首を振り向けるルナマリア。俄かにアスランたちの向かった前線の方の戦火が激しくなった。それも、どう
やらアスランやレイの快進撃による光では無さそうである。あまり良い予感はしない。
 ルナマリアは再びワイヤーを飛ばして、確認の為にミネルバと通信回線を開いた。小型のモニターに妹
のメイリンの顔が映ると、タリアに取り次いでもらうように告げる。すると、殆ど間を置かずにタリアが顔を覗
かせた。ルナマリアはヘルメットのバイザーを上げ、呼びかける。

 

「艦長、前線の方で動きがあったようです。ザラ隊長の攻撃ではない様なんですけど――」
『見えたの?』
「確認をお願いしたいんです」
『分かりました。なら、その間あなたは甲板で待機。状況が判明したら、あなたにも援護に向かってもらうか
もしれないから』
「了解です」

 

 くいっとワイヤーを手繰り寄せ、収納するとルナマリアはインパルスをミネルバの甲板の上に着艦させた。
 多分ファントム・ペインだろうと直感した。その理由は、いつも因縁を吹っ掛けてきた相手が、ベルリンを
最後に遭遇する事が無くなったからだ。ヘブンズ・ベースにも、ジブラルタル基地の時にも姿を見せなかっ
たのである。これだけ長いスパンを経ているのだから、そろそろ遭遇したとしてもおかしくは無い。しかも、
確認した前線での光の増大が連合軍によるものだとすれば、それをやってのけているのは精鋭揃いのファ
ントム・ペインしかありえない。
 正直、ルナマリアはファントム・ペインが苦手だ。どのパイロットも一線級の腕前を持ち、あの英雄アスラ
ン=ザラですら手を焼くほどの相手。ただ、その敵の実力に畏怖を抱けるようになっただけの、ルナマリア
の成長もあった。以前までの彼女ならば、必死に戦う事だけで頭の中は一杯になっていただろう。しかし、
今ならば冷静に相手の実力を分析する事が出来る。それは、MSパイロットとしての確かな成長の証とし
て、ルナマリアに刻まれているものだった。

 
 

 アスランが異常に気付いたのは、ルナマリアが異変に気付く少し前だった。突き進むインフィニット・ジャ
スティスの後方で、後に続いて来ているはずの味方MSが続々と閃光の中に消えていく現象が起こり、アス
ランはサブ・モニターで後方を確認した。それは、連鎖的に爆発の光を瞬かせ、次第にこちらへと迫ってくる。

 

「何だと――」

 

 砲撃の光がアスランを襲った。ミノフスキー粒子の干渉のせいで、相手の位置を特定するには至らない。
それを証明する様に、砲撃の光は曖昧にインフィニット・ジャスティスをすり抜けていった。アスランにとっ
て、その程度の脅しは脅威にならない。
 しかし、面倒な敵が現れたという認識はあった。そこで今度はアスランが向きを変え、襲ってきた射線元
へ向けて一斉にミーティアの火力を発散させた。それは敵を誘い込む為の呼び水になる。アスランは自ら
を囮とすることで、総合的な損害を抑えようと考えていた。敵が上手く誘いに乗ってくれれば、作戦に大きな
支障は来さないはずだ。
 敵が誘いに乗ってくるかどうかは未知数。しかし、ヤキモキする必要は無かったようで、睨んだとおりに姿
を現してくれた事には感謝するべきだろうか。おびき寄せられた事と、嫌な敵が現れた事がアスランの表情
を複雑なものにさせていた。

 

「やはり、ファントム・ペイン!」

 

 予想通りといえば予想通り。この戦場にファントム・ペインが存在している事は余りにも当然であり、こうし
て戦っていればいずれ遭遇するであろう事は必然であった。ただ、彼らと相見えるのは久しぶりで、アスラ
ンは挨拶代わりとばかりにミーティアの前回射撃を見舞った。
 しかし、ファントム・ペインのMS達は一斉に散開してアスランの攻撃を回避した。その軽やかさに、忘れも
しない彼等の脅威を感じ、自然とスイッチを押し込む指に力が入った。

 

「上か!」

 

 浴びせられるのは、シャワーのような拡散メガ粒子砲。ミーティアの大きな形では、加速してかわすしかな
い。アスランの指が高速でミーティアの簡易セッティングを行い、加速重視に変更する。スロットル・レバー
とブースト・ペダルを同時に押し込み、急加速を始めるとシートにめり込むような重圧を受け、全身に力を
込めた。

 

「今度は左!」

 

 続けざまに多数の砲撃が襲い掛かってくる。それは、フリーダムのフル・バースト・アタックと比べても遜色
が無い。再びアスランはスラスターのバランスを変更し、今度は旋回能力に重点を置くセッティングに変更
させる。そうして、数多降り注ぐ砲撃の嵐の中を、大きく旋回してやり過ごした。

 

「――正面!」

 

 息つく暇も与えない連携攻撃は、ファントム・ペインならば当然だろう。ギリギリの勝負のところでアスランは更にミーティアのバランスを変更し、今度は運動性能重視に。腕を掲げ、掌の砲口からメガ粒子砲を見
舞ってくるMSに対し、突撃を敢行した。そしてミーティアをロール回転させて砲撃をかわすと、大型ビーム
ソードで威嚇して進路上から強制的に退去させる。それを切り抜けて、ようやくアスランは敵の数と機種を
確認させてもらえた。
 ファントム・ペインのMS隊は、パラス・アテネとアビス、バイアラン――ライラとアウル、カクリコンだ。疾風
の如きスピードで過ぎ去っていったミーティアを追いかけて合流を果たし、接触回線を開いていた。
 ライラが先程のミーティアの映像を静止画像で確認し、不敵に笑みを浮かべる。

 

「2人とも、見えていたな?」
『あぁ、ありゃ大物だぜ!』
『MAだな。コア部分に、赤いガンダムのようなシルエットが見えた』

 

 ミーティアの出現にやや興奮気味のアウルと、現実的に見つめるカクリコン。子供のように喜々とするア
ウルを鼻で笑い、カクリコンの指摘にライラは一つ頷いた。

 

「反対側のエリアでもそれらしきMAがもう1機確認されている。ブラン少佐やジェリドも、星を挙げたがって
いるだろうな」
『あれだけのMAだ。落とせりゃ、昇進出来るかも知れんな?』
「だったら、あたしらだけ遅れを取るわけには行かない、掛かるよ!」
『了解だ!』

 

 ライラが号令を掛けると、3機は3方向から攻め立てるように散開し、旋回して接触を図ろうかというミー
ティアへと襲い掛かった。
 それを受けて立つアスランとしては、出来ればミーティアは捨てたい。確かに加速力や火力といったもの
は圧倒的を誇るが、3機のエースを相手にこんなコンテナを背負ったままでは戦い辛い。何とかして身軽に
なりたいのはやまやまだが、貴重なミーティアは既にキラが1基潰してしまっていて、易々と放棄するわけに
は行かないのが現状だった。
 ミーティアをパージできない状況と襲ってくるライラ達。両方に対して苛立ちをぶつけるように、アスランは
一つ舌打をした。
 ライラ達のMSが、螺旋を描くように絡み合って突出し、ミーティアを護衛するザフトのMSを次々と撃破して
いく。息の合ったコンビネーションで踊るように繰り出される攻撃に、ザフトの兵士達は浮き足立っているよ
うに見える。
 相手は百戦錬磨のファントム・ペイン。ザフトのエース部隊として活躍し、その名を轟かせているミネルバ
隊や同じく無敵を誇っていたアークエンジェルとも幾度と無く刃を交え、時には圧倒する事もあった彼等で
ある。MSの性能さもさることながら、並みのパイロットではその快進撃を止める事が出来ない。

 

「戦場で足を止めるな! 的になりたいのか!」

 

 アスランの檄が、果たして味方のMS隊に届いているかどうかは分からない。電波の波長を整えようと先
程から何度も調整を加えてはいるが、ミノフスキー粒子はアスランの努力を嘲笑うかのごとく電波障害を起
こし続けている。
 これ以上の損害は、面白くない。アスランはコンテナからミサイルを放ち、ライラ達の注意を引き付けるよ
うに機動した。
 ミーティアの砲撃は、戦艦よりも激しく虚空を彩る。それは、ライラ達にしてみれば実に不愉快な現実だ。
アスランはライラ達の出現に苛立っているが、それは彼女達も同じ事だった。
 ミーティアには、既に一つの艦隊を壊滅寸前にまで追い込まれている。そこで導き出したライラの判断
は、先に仕留めるべきはインフィニット・ジャスティスであるという事だった。先ずは、あの膨大な火力を誇っ
ているコンテナを何とかするべきだと決断するのに、ライラは躊躇いが無い。アウルとカクリコンにもカメラ・
アイでの光コードで示し合わせて、目標をミーティアへと絞った。

 

「カクリコンは後続の部隊に、MAを孤立させるようにザフトを分断しろと伝えろ」
『了解だ』
「アウルは、あたしとあのコンテナ付きを追撃だ。付いて来い」
『りょ~かいっ!』

 

 パラス・アテネが腕で合図を出すと、バイアランがモノアイを一つ瞬かせて離脱する。それを見送ると、ラ
イラはアウルと共にミーティアを追った。

 

「――ん?」

 

 ミーティアに追撃を掛けると、思いの外、容易く接近できた事にライラは眉を顰めた。しかし、少し考えて
すぐにその意図を理解する。

 

「フッ、なるほど。奴も、同じ事を考えても不思議ではないということか」

 

 ミーティアの機動力はパラス・アテネやアビスの比ではないのに、ワザと追い付かせたのには理由があ
る。相手もこちらを待ってくれていたという事で、どうやら、互いに潰すべき相手は一致しているようだ。その
アスランの態度は余裕と受け取ったが、ライラは望むところとばかりに、ミーティアへと一気呵成に攻め込
んだ。
 ミーティアを反転させながら、アスランは襲い来るパラス・アテネとアビスの姿を捉えていた。その2機を相
手に何とかできるという確たる理由があるわけではない。ただ、客観的に考えて彼等に対抗しうるのは、自
惚れでも何でもなく、自分だけだろうと思ったからに過ぎなかった。
 だからこそ、重火力MSである2機を相手にした時、自分の考えが甘かったという不覚を意識せずには居
られない。ミーティアの性能だけで何とか出来ていたそれまでの敵とはまるで違い、アスランは無理矢理な
加速と制動の繰り返しと、岩を利用しながら機動する事で辛うじて攻撃から逃れられているだけである。そ
んな綱渡りがいつまでも続けられない事はアスラン本人にしても百も承知のことで、何とかして突破口を切
り開けないものかと思案を重ねるものの、内臓をシェイクされている様な加速と制動の肉体的に掛かるスト
レスのお陰で、考えは中々纏まらない。苦しくなる一方の展開に、食いしばる歯だけがギリギリと音を立て
ていた。
 そんな時、紛れ込んできた数基の小型端末が、追い縋るパラス・アテネとアビスをビームで襲った。すうっ
と編隊を整えるように並んだ小型端末から、規則正しく格子状のビーム攻撃が注がれる。

 

「え、あっ! ドラグーン!」

 

 決して突飛な出来事ではなかったが、アスランは目を丸くして間抜けに叫んだ。ミーティアの護衛にレジェ
ンドが存在しているという事は、作戦前の編成の時点で分かりきっていた事。レイはアスランに他の部隊の
フォローを命令されていたが、彼がピンチに陥ると独自の判断で援護に入ってきた。
 そのレジェンドの存在を何故か忘れてしまっていたのは、ミーアに自慢できるような良い報告を持ち帰り
たいアスランの浮かれた気分のせいかも知れないが――
 6基のドラグーンに弾幕を張らせ、一回りほど大きい残りの2基はビームスパイクとなってそれぞれにパラ
ス・アテネとアビスを追い捲る。レイの卓抜した空間認識能力が成せる業だ。空間を立体的に把握してドラ
グーンを操作する。まるで、一つ一つのドラグーンの全てにレイの意識が宿っているかのように、それは有
機的に敵に襲い掛かった。
 レジェンドはバック・ステップしてミーティアにマニピュレーターを接触させた。

 

『ザラ隊長は進撃ラインの確保を。ファントム・ペインの足止めは、俺がやります』
「だが、敵は――」

 

 レイに声を掛けられて、ようやく集中力を取り戻すアスラン。それまで弛緩していた気を引き締めるよう
に、或いはレイにだらしない自分を悟られないようにと、周囲を見回した。
 そして、頭を冷やして判断する。周囲の味方の数の少なさを確認すると、とてもレイの言うとおりに先行し
ようとは思えなかった。最悪、自分が単独で本隊と分断されかねないし、敵陣に食い込んだならば、いくら
ミーティアであろうともそれは不味い。アスランはライラ達を警戒しながら続ける。

 

「駄目だ。逆にファントム・ペインに攻め込まれると、ザフトの防御が薄くなる。こいつらはここで叩いておく
必要がある」
『しかし、ミーティアとドッキングしたままでは――』

 

 そこまで言葉を交わして、彼等を砲撃が襲った。ライラ達は流石で、ドラグーンの砲撃の中を潜り抜けて
こちらに攻撃を仕掛けてきたのである。強制的に接触回線を打ち切られ、アスランは苦渋に表情を歪めた。

 

 後ろから突っつかれるようにパラス・アテネのビーム攻撃、正面からは横合いから合流するようにバイア
ランが手にしたビームサーベルで切り掛かってくる。アスランはミーティアの姿勢制御用バーニアを噴か
せ、機体を傾けさせて斬撃を回避した。しかし、その際にビームサーベルの切っ先がミーティアの装甲を掠
り、僅かであるが損傷を受けた。問題ない損傷ではあるが当てられた事が問題である。

 

「くそッ!」

 

 後方から迫るパラス・アテネにドラグーンの横槍が入る。レイの援護でパラス・アテネは離脱して行った
が、バイアランはミーティアの下に潜り込んでいた。バイアランのモノアイが笑うように瞬くと、差し向けられ
たメガ粒子砲の光が、ミーティアの大型ビームソードの発生器を片方、貫いた。慌ててそれをパージし、爆
発から逃れる。

 

『火力と機動力がいくら凄かろうと、取り付いてしまえばただのデカブツだろうが!』

 

 乾いた男の声。接近した事で電波が繋がり、アスランの耳にカクリコンの言葉が届けられた。その言葉に
反論できないからこそ、苛立ちが募る。苦し紛れに気を吐いたところで、それは負け犬の遠吠えに過ぎな
いのだから。
 一見、無敵のMAに見えるミーティアも、こと白兵戦に限って言えば欠点が顔を覗かせる。小回りが重視
されるMS同士の白兵戦に於いては、その大きな機体サイズが邪魔をして一転して不利に陥ってしまう。一
応、格闘能力として大型のビームソードが装備されてはいるが、それも対艦装備としての側面が強い。対
MSに使うには取り回しが難しく、カクリコンのような手練には当たる気がしなかった。
 アスランの不快指数が高まってくるのを分かっているように、バイアランは追撃を掛けてくる。しかし、そん
な時またしてもアスランを援護するビームの軌跡が割り込んできた。レイか――そう思ったが、彼はパラ
ス・アテネとアビスとの交戦でこちらに構っている余裕は無いはず。ならば誰が、とアスランは射線元に視
線を向ける。

 

「インパルス!?」

 

 そこに姿を現したのは、フォース・シルエットに換装して急行してきたインパルスだった。ミーティアにしつ
こく絡み付こうかというバイアランに向かって、何発もビームライフルを撃ち、引き剥がそうとする。
 そこへ、更に彼女が引き連れてきた小隊規模の増援部隊が、集中砲撃浴びせてバイアランを追い払っ
た。ルナマリアはその間にミーティアに接近し、ワイヤーを飛ばして接触回線を開く。

 

「隊長、バイアランはあたしに――」
『ミーティアを頼む』
「へ?」

 

 目を丸くして驚いているルナマリアを尻目に、インフィニット・ジャスティスはミーティアから離脱して後続の
部隊がバイアランを追い捲って行った彼方に加速していった。まるで反論を許す間も与えられず、放置され
たルナマリアは唖然とするしかない。ほんの数瞬考えて、これがどういう事なのかを理解じたら、急に腹が
立ってきた。

 

「――た、隊長がやる事!? 戦場ではしゃごうとするなんて!」

 

 アスランを援護する為に駆けつけたのに、ルナマリアの気合は空回り。バイアランを相手にしても、今なら
そこそこ良い戦いが出来るだろうという確信を抱いていただけに、アスランの勝手な命令に不満と残念な
気持ちがない交ぜになって行き場の無い怒りを露にしていた。
 しかし、そんな軽い気持ちも直ぐに冷めた。連合軍も、ミーティアの危険性は十分に理解しているところ。
コア・ユニットのインフィニット・ジャスティスが離脱したのを見ると、ここぞとばかりにミーティアへと集まって
きた。

 

「甲斐性無しのアスラン=ザラは、女の子を囮にするような人なのね!」

 

 勿論、アスランはそこまで考えてなど居ない。逆に考えればアスランの行為はルナマリアに対する信頼の
証左なのだが、彼女自身はそうは思わなかった。
 まるで、花の蜜に群がってくる蜜蜂のように一斉に襲ってくる連合軍のMS群を目の当たりにし、目を白黒
させる。今自分が居る宙域が、一番危険な場所ではないだろうか。そう思いたくなるほど、ルナマリアは
焦った。直ぐにマニピュレーターの指関節から信号弾を上げ、付近の味方部隊に対して援護の要請を出す。
 程なくして、直ぐにザクやゲイツRの援護部隊がやってきてくれた。

 

「各隊、防衛目標はミーティアでお願いします。――ったく、フェイスの称号は伊達なのかしら? 英雄と呼
ばれるような人なら、ミーティア付きのままでもやって見せなさいよ」

 

 援護に駆けつけたMS隊に指示を出すと、ルナマリアは一言アスランに対して愚痴って溜息をついた。

 
 

 豪雨のようなビームの光が、ひっきりなしにヘルメットのバイザーに反射する。キラはその輝きに目を細
めながら、ミーティアで突き進んでいた。キラが通ったルートを後続が拡幅しながら続く。少しずつである
が、前線は押し上がっていた。
 流石に敵の陣営の奥深くまで突っ込んでくると、抵抗が激しい。特に相手になるような敵も見当たらない
が、如何せん数が多くて隙間が見つけられないといった状況なのだ。その表現は決して大袈裟ではなく、
ミーティアの機体サイズの大きさもあって、数箇所に被弾の痕が残されていた。

 

「敵は、流石にミノフスキー粒子下での戦い方を心得ているみたいだ。一掃出来ないのが――」

 

 そう呟きながらも、キラの表情にはまだ余裕があった。電波障害によるレーダーの無能力化で、2年前ま
でのような正確な一斉射撃は不可能になった。しかし、ミーティアの火力は未だ当代随一であり、乱暴に一
斉射させるだけでも抜群の効果を発揮する。常に最前線で戦っていたキラにとって、常識的に危機とされ
る状況は最早危機ではなくなってしまっているのかもしれない。
 戦争を知らなかった頃に比べ、自分はまったく以って戦闘マシーンのようになってしまった。そんな自分を
悲しく思える感性が、彼を最後の一歩のところで踏み止まらせているのかも知れない。ただ生き残る、そこ
から始まったキラの戦いは、彼の防衛本能を肥大化させ、今、正に襲いかかろうとする敵の動きをキャッチ
した。
 ジェリドの目が、脅威を振り撒くMAを察知した。ミーティアの姿は、初めて見る。まるで、巨大なコンテナ
に大推力のブースターを装備して無理矢理機動させているかのようだ。試しにフェダーイン・ライフルで小
突いてみるものの、ネズミのようにはしっこく逃げる。

 

『先の方に、フリーダムがくっついているぜ』
「見えるか、スティング?」

 

 いつの間にやらカオスからの接触回線が開かれ、全天モニターのワイプ画面にスティングの顔が表示さ
れている。その言葉に感心したように頷いて見せ、続いてそのワイプ画面の上に新たにワイプ画面が表示
された。今度はマウアーだ。

 

『どうやら、正体がハッキリしたようね。フリーダムの火力を、あのコンテナで強化しています』
「そう考えれば、ここまで食い込まれたことの説明も付くか」

 

 目線をワイプ画面から正面に戻し、嘆息気味に吐き捨てる。ストライク・フリーダムの能力はオーブで確
認済みであり、感情を抜きにすれば納得する事は出来た。ただ、それを許したままで居たのでは特殊部隊
の名折れ。ジェリドはカメラの拡大映像を消すと、操縦桿を握りなおした。

 

「これ以上はやらせられん。2人とも、掛かるぞ!」
『了解!』

 

 ジェリドのガブスレイから2本のワイヤーが離れると、3機はMA形態に変形し、散開して取り囲むように
ミーティアへと襲い掛かった。
 乱れるレーダーに接近する光点が3つ。レーダーが一瞬消えるうちに、驚くほどのスピードで距離を詰め
てくる。キラがその3機の接近に気付いた時、既に目視でその姿を確認できるところにまで詰め寄られていた。

 

「さっきの攻撃はガブスレイだったのか!」

 

 U.C.MSには重力下で自由飛行できる機体が少ない。だからこそ、空間戦でのガブスレイの動きを見るの
は初めてであり、その初動の鋭さにキラは我が目を疑った。明らかに先鋭化されたガブスレイの機動力
に、オーブでの交戦の経験は意味を成さないと思い知る。キラはオーブでの戦いを忘れるように頭の中を
切り替えた。

 
 

 カオスの一斉射を軽くかわすと、正面上からガブスレイが左右から挟みこんでくる。甲殻類のようなMAス
タイルが機敏に振り向き、フェダーイン・ライフルからビームをクロスさせるように放ってきた。キラはミー
ティアに急制動を掛け、細かく姿勢制御を行うも装甲を被弾する損傷を負う。そのダメージにチッと舌打ち
をすると、2丁のビームライフルでそれぞれを牽制し、急加速をかけて駆け抜けていった。
 傍目から見れば、それはキラの苦戦を意味しているように見えるかもしれない。しかし、それも全てはキラの計算の上に成り立った一連の流れだった。それは、ダメージを受けたという事よりも、かすり傷程度の
損傷で済ませられたと言い換えることで、その本質を表現する事が出来る。つまり、並みのパイロットが
乗っていたとすれば、今のジェリドとマウアーの攻撃で終わりなのである。それをやり過ごせたのは、パイ
ロットがキラだからという理由が全てだった。
 その事を理解できないほど、ジェリドは愚かでは無い。キラがパイロットとして自分よりも格上である事を
理解して小癪に思いながらも、それに対して怒りを露にするのは単細胞のすることであると戒めを働かせ
る。それはマウアーも同じだろうか、ジェリドの気持ちに同調するようにして、接触する。

 

「マウアー、的の大きさは十分だ。だが、あれを止めるにはどうしても一撃で黙らせる必要がある」
『スティングに任せるつもりですか?』
「カオスのカリドゥスを使わせる。あれなら俺達のライフルよりも火力がデカイし、コンテナを潰せる」

 

 手短にそれだけ告げると、ジェリドはガブスレイを機動させてカオスの下へと向かっていった。マウアーは
それを一寸見送り、凶暴な力で暴れまわるミーティアを見た。
 どれだけの物資を積んでいるのかは知らないが、圧倒的過ぎる。吐き出されるミサイルはまるで回遊魚
の如く巨大な群れを作り、次々と連合軍のMSを葬っていく。接近戦を仕掛けようと突撃を敢行するものもい
たが、殆どは接触する前に撃ち落され、よしんば近づけたところでフレキシブルに取り回されたビームライ
フルによって撃破される。あれだけの怪物を止めるとなれば、大仕事だ。血気盛んな若年の兵士が功を
焦り、ミーティアを付け狙う気持ちが良く分かる。あれを仕留めて帰還すれば、確実に昇進が待っている。
それだけの脅威を、振り撒かれているのだから。
 しかし、スティングに任せられるのか――彼の実力を侮っているわけではないが、エクステンデッドだから
なのか若いからなのかは分からないが、スティングは精神的にムラッ気のある性格をしている。ライラに
懐いているアウルほど無鉄砲ではないが、感情が先行する節は否めない。ジェリドを若くすればスティング
の性格に似るかもしれないが、その感情の迸りを抑制するだけの理性が足りていないようにマウアーには
思えていた。土壇場でドジを踏まれたのでは、次の一手が無くなってしまう。

 

 一方、傷だらけのミーティアは、しかしその機能はまだ十分に働いている。ミーティアが受けた損傷は装
甲を傷付ける程度のものでしかなく、キラはそれを全て織り込み済みでワザと受けた傷もあった。機体の
サイズを把握し、完璧にコントロールできている証拠である。
 ファントム・ペインからの攻撃が弱くなった事に、キラは気付いていた。相変わらずウインダムやストライ
ク・ダガーといったMSの集中砲火の的にはされているが、それも徐々に前線を押し上げてきた後続のザフ
ト部隊と協力して制圧しつつある。懸念は、その中で仕掛けてこないガブスレイとカオスである。彼等がこの
程度で諦めたとも思えないキラは、常に警戒心を持ち続け、注意を配っていた。
 そんな時、突然正面に躍り出てくる2機のガブスレイ。一機はMA形態で砲撃を浴びせてきて、もう一機は
ビームサーベルを手に襲い掛かってきた。

 

「隙を突いたつもりかもしれないけど――!」

 

 焦りなど一切無かった。極限にまで研ぎ澄まされたキラの集中力は、まるで全身を神経の塊に変質させ
たような凄まじい反応速度を体中に要求する。そして、それに応える肉体を持つキラは、どんなに急な攻撃
にも対応できてしまう。マウアーのガブスレイが放つ援護射撃も、牽制と分かって簡単に機体を傾けさせる
だけで回避する。その上で切り掛かってくるジェリドのガブスレイにビームライフルで牽制し、ミーティアの加
速力を活かして即座に彼等の目の前から消え去って見せた。

 

 しかし、ジェリド達が攻撃を仕掛けるのには理由がある。どんなに凄まじい力量を持ったパイロットでも、
敵を察知できる範囲外、つまり射程距離圏外の攻撃からは逃れる事が出来ない。それは、流石のキラも
そうだ。問題となるのは、そんな距離から狙撃できるのかどうかという事だけ。ジェリドはスティングにその
役割を任せられると信じていた。

 

「マウアー、もう一度だ!」
『了解』

 

 ミノフスキー粒子が干渉するレーダーは、使い物にならない。だからミノフスキー粒子下の戦場では、目
視による索敵が最も有効な手段になる。そして、ビームの光とバーニア・スラスターの光は、暗い宇宙空間
の中では一際目立つ光を放つ。スナイパーにとって、それが目印となることもある。
 先程、スティングはジェリドに見えなかったミーティアとドッキングしているストライク・フリーダムの姿を確
認している。彼は目がいいのだ。それはミノフスキー粒子下に於いて、最大の武器になる。果たして、カオ
スは絡み合うミーティアとガブスレイから離れた位置に陣取り、スティングは目を凝らして彼等の光の軌跡
を追っていた。
 カリドゥス、それはカオスの最大の武器であり、その威力はメガ粒子砲すら上回る。スティングの目が光
を追うたびに、操縦桿を持つ手が僅かなターゲット・マーカーの修正を促す。スティングには、ミーティアが
見えていた。

 

「チッ、中々動きを止めやがらねぇ。奴の呼吸は、読めるんだけどな」

 

 少しずつ、ストレスが溜まっていく。こうしてスナイパーの様に息を潜めてジッとしている事が苦手なスティ
ングである。ジェリドとマウアーが必死に戦っている事も思い浮かべると、どうしても気が逸ってしまう。次第
に、多少の妥協は止むを得ないとさえ思えるようになってきた。

 

「じれったいぜ……ッ! 2人とも、まだなのか……?」

 

 ミーティアの光は、先程から元気一杯に動き回っている。それを追いかける2条のビームの軌跡が確認
できている以上は、彼等は無事な証拠だろうが、しかしいい加減に我慢が辛くなってきた。
 そんな時、ミーティアのバーニア・スラスターの軌跡に微妙な変化が現れた。スティングは敏感にその変
化を感じ取り、目を凝らした。

 

「旋回している? 狙うなら、ここしか――!」

 

 ミーティアとガブスレイの戦闘機動に、他のザフト部隊はまるで付いて行けていないのが分かる。ミーティ
アは孤立するような格好になり、一斉砲撃に晒されていた。そのせいか、ミーティアの軌道が不安定に揺
れ、攻撃から逃れるような旋回運動を行った。小回りに動く事を意識してか、スピードはがた落ちである。
 その瞬間を、スティングは見逃さない。カッと目を見開き、トリガー・スイッチに添える親指がピクッと反応
した。

 

「そこだッ!」

 

 勢い良く確実にトリガー・スイッチを押し込む。スティングの渾身の一撃が、火を噴いた。カリドゥスの複相
ビームの軌跡が、真っ直ぐにミーティアへと向かって伸びる。
 しかし、運が無かったのだろうか。スティングの狙い済ました一撃は、不幸にも残骸となったザフトのMS
に当たって、キラはその爆発に気付いた分だけ早くカリドゥスの狙撃を察知し、ビームソード発生器を一本
犠牲にする事で難を逃れられた。
 作戦は完璧だった。スティングの腕が悪かったわけではない。ただ、最後の最後でキラにツキがあったと
いうだけの話であり、ジェリド達の作戦が破られたわけではなかった。しかし、たった一度のチャンスを逃し
たツケは大きい。ジェリドの表情が苦虫を噛み潰したように苦悶に歪むのは、当然であった。

 

「ゴミが邪魔して失敗しただと!?」
『フリーダムがカオスの存在に気付いた――ジェリド!』

 

 マウアーが叫ぶのとほぼ時を同じくして、ミーティアは火線元のカオスへと機首を向けた。ジェリドは動揺
を落ち着けるのに精一杯で、瞳の動きに落ち着きが無い。それでもマウアーの声に反応し、操縦桿を傾け
させる。ジェリド機が機動を始めると、マウアー機が続いた。

 

「カオスの援護に回る! スティングと合流だ!」
『ハッ!』

 

 確かに、スティングの目は良かった。今のカリドゥスのタイミングならば、間違いなくミーティアは潰せてい
ただろう。しかし、そのスティングの目にも、残骸となって光を失っているものまでは見ることは出来なかっ
た。それは、天がキラに味方したと言う事だろう。その運の良さに、薄幸のジェリドが嫉妬しないわけが無
かった。

 
 

 以前、ジェリドはティターンズ総帥ジャミトフ=ハイマンに運が良いと褒められた事があった。その時は畏
まって謙遜して見せたが、冗談ではない。次々と戦友を失い、復讐を果たすために最後まで生き延びてい
たかと思ったら、結局は返り討ちだ。そんな自分は、常に不幸を身に纏っていたとしか思えない。その不幸
が、スティングに伝染してしまったのではないかと言う考えが、一瞬だけ頭の片隅を過ぎった。
 いや、そうではない、そんな不幸な人生を変えるために――ジェリドは一人、頭を振り、ガブスレイを加速
させた。

 
 

 同じ頃、別の宙域ではオーブの艦隊が目的地へ向けて航行中だった。オーブ艦隊と言っても、その数は
僅か十数隻程度の比較的少ない規模の編成。オーブから脱出してきたオーブ軍だったが、やはりプラント
への道のりの中で連合軍の追撃に遭った艦は少なくなかった。だから、今その宙域を航行している艦隊
が、オーブ軍の全てであった。心細ささえ感じさせる小規模の艦隊――かつて恐れられたオーブ艦隊の姿
ではなかった。
 オーブ艦隊旗艦クサナギ級一番艦のクサナギは、トダカ一佐が指揮する艦である。総司令にユウナを戴
き、しかし実際はその補佐官を務めるソガが実質上の艦隊司令だった。2人とも、ユウナが磐石の信頼を
置く士官だ。
 ブリッジの大型モニターには、航宙図が映し出されている。明滅する光点はオーブ艦隊の現在地を示し、
その進路上には2つの大きな目標物が存在している。どちらも、これから向かう怪しい廃棄コロニーだ。

 

「この艦隊の規模だと、易々と分隊させるわけには行かない。さて、どっちへ行こうかねぇ」

 

 ゲスト・シートに足を組んで座り、手を顎に当てて腕を組むユウナは、気の抜けたような声でそう呟いた。
いや、緊張感に欠ける声であるが、本人は至って真面目なのである。ただ、シリアスな自分を表現するの
が苦手なだけで、聞く人によってはふざけているように聞こえてしまうのだ。その辺りの事情を知っているの
は、彼と親交が深い一部の人間のみ。だが、今は総司令官のユウナに口答えをする人間は、その場に存
在し得なかった。軍に所属する以上、上官に対する口答えは御法度だからだ。

 

「君達なら、どっちを選ぶ?」

 

 ユウナが振り向き訊ねたのはソガでもトダカでもなく、エマとカツだった。ユウナの問い掛けに、ブリッジ・
クルーの目が一斉に彼女達に集中する。僅かに戸惑ったように目を泳がせるエマとは対照的に、カツはピ
シッと背筋を伸ばしたまま毅然としていた。
 ユウナがエマとカツに訊いたのは、ほんの気まぐれだったのかもしれない。単純に、異世界からの人間
の意見が訊きたいだけで、特に深い意味など存在しなかった。しかし、そのユウナの気まぐれが、カツの
意見を通す事となってしまう。

 

「僕は、このまま真っ直ぐの方が良いと思います」

 

 カツが、口ごもるエマよりも先に口を開いて意見した。ユウナは、ふうん、と言って少し思案した後、ソガ
に視線を移す。

 

「ソガ、距離的には大差は無いはずだよね?」
「はい。ただ、廃棄コロニーの正体がハッキリしない以上、時間はなるべく掛けない方が賢明であるように
思われます。ですから、カツ=コバヤシの意見は現状で最も無難な線であると考えます」
「――だとしてだ」

 

 再びカツへと視線を戻す。カツが一瞬、ウッといった感じで身体を硬直させた。しかし、ユウナはそんな細
かい彼の反応をまるで気にしない。

 

「何故、君はこちらの方を選択したんだい? 出来れば、理由を教えてくれれば決断しやすいんだけど」

 

 訊かれ、カツは少し視線を泳がせた。特に、エマを気にする素振りをひた隠そうとする仕草が、エマには
堪らなく気になった。カツは、気まぐれで選択をしたのではない。何か特別な理由があって、わざわざ近い
方を選んだのだ。
 とは言うものの、ユウナの今の質問に、本人の特別に意図するところは無い。単純な興味だけでカツが
困惑するような質問が飛び出したのは、彼の理詰めの頭がそうさせただけに過ぎない。
 そのユウナの探究心から出た質問がカツには詰問に感じられ、思わず視線を逸らした。

 

「少しでもプラントに近い方を警戒するのは、おかしい事ですか? もし、スクラップ・コロニーが本当にプラ
ントの脅威になるものならば、できるだけ早急に叩くべきだと思ったまでです」
「中々生意気な口を利いてくれるね――でも、尤もな理由であるとも言える。ソガの意見との齟齬も少ない」

 

 カツの言う理由に、ユウナは軽く頷いた。良くカツを観察すれば、その仕草に不自然な点が幾つもあった
というのに、ユウナの頭はその言葉の合理性ばかりに目が行き、結果的に見逃していた。それは、ユウナ
の失敗であったのかもしれない。

 

「廃棄コロニーを使っても、そんなに大それた事が出来るとも思えないけど、君の言う事にも一理あるかも
しれない。じゃあ、そっちにしようか」

 

 こうして、あっさりとカツの意見が通り、オーブ艦隊は一路、廃棄コロニーへと向かう事になった。プラント
への侵攻作戦を展開中の連合軍も、まさかその合間を縫って廃棄コロニーへと進軍されるなんて事を考え
ないだろう。例え駐留軍が居たとしても、今のオーブ艦隊の規模でも十分渡り合えるはずである。
 しかし、この選択がカツの個人的な感傷によるものである事を、まだ誰も知らなかった。