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『ONE PIECE』VS『SEED』!! 514氏_第07話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 17:33:55

 史上初めてグランドラインを制し、名実ともにこの世のすべてを手に入れた海賊王ゴールド・ロジャー。
 大海賊時代とは人々が彼の残したワンピースと呼ばれる財宝を求めたことに始まるわけだが、それから二十余年が経過した現在、もはや新たな海賊王を目指している人間はごくわずかしかいないのが現状なのである。
 ワンピースにたどり着くまでの障害があまりに巨大すぎるためにほとんど者が諦めてしまったというのが一つ。
そしてもう一つは人間には如何ともしがたい地理的な条件によるものであった。
 もともとこの世界には大陸と呼べるような巨大な陸地は存在していなため、ほぼすべての交易が海運によってなされている。おそらく、今この瞬間に陸の上にあって海の上にないものは存在しない。つまり海賊が一種の職業として成立してしまうほど、海に物が溢れているわけだ。
 そこに利があれば食い付きたくなるのが人の性、そもそも大半が他人の宝欲しさに海に出たような連中である。
辺りを見回せばカモがうようよいるような環境から出て行こうと思うはずもなかろう。
 そして物が流れる以上はそれを運ぶ人間もまた同様に海を行きかうわけで、とするならここ海上レストラン『バラティエ』もある意味で海賊と同じ背景のもとに成立したのかもしれない。ならばこれも必然といえるのだろうか、とシンはすでに三日目となった海の上のランチに舌鼓を打ちながらふとそんなことを考えていた。
 そういえばここのオーナーは元海賊の船長だとか。従業員もみんな柄が悪いし、船の外観とコックの服装を変えれば十分海賊として通用しそうなところではある。もしかしたら、

(変に吸い寄せられたのか・・・?)

 と心の中に付け加える。
 隣の席に立てかけているギターやカジュアルパンツにTシャツという少々ラフな格好がまるでどこぞの流しのようであり、事実さっきまでここの客を相手に舟唄やあちらの世界のポピュラーソングを披露して好評で、アンコールもやってけっこうなおひねりを頂戴したりしていた。もちろん別にそんなことが目的でここに来たわけでもなければ、優雅に観光を楽しみにきたわけではない。
 シンの視線の先ではいつもの服装に前掛けという格好のルフィが客から注文をとっているのだ。それがまったく様になっていなくてなんとも可笑しいし、海賊王になると公言してはばからない男の姿というのだから滑稽だ。
まぁ、サボろうとはしないあたり、律儀といえば律儀といえよう。
 どうやら昼飯はまだのようで、シンの箸が少し止まったのを見てルフィがすかさず近付いてきた。

「シン、お前、食わねぇなら俺が食ってやろうか」
「黙って仕事してろ、雑用。まじめに働かないとまたあの店長にどやされるぞ」
「俺たち仲間だろぅ。いいじゃねぇかぁ、それくらい」
「これはあくまで俺の演奏に対する評価の結果なんだから、俺が責任持って食わないとここの人たちに失礼なんだよ。悔しかった例の『宝払い』でもしてみることだな。ま、ただ働き期間が長くなるだけだろうけど」
「この野郎~ッ」
「おい、雑用! いつまでだべってやがる! さっさと戻ってきやがれ!!」
「ふえ~い」
「じゃあ、まったな~」

 すごすごと厨房に歩いていくルフィの姿を見ながら、シンは笑いをこらえるだけで精一杯でどうしても軽やかになる声の調子までは隠すことができない。いままで何度となく理不尽かつ多大な迷惑をかけられてきた身としてはこの店で一番高い料理を食べながら笑い転げてやりたいくらいだ。ここでギターを弾いたのもこれを見逃さないためである。ご飯をご馳走になったのは予想外であったが。
 元をたどれば数日前、海でたまたまヨサクとジョニーというゾロの昔馴染みを拾ったことがきっかけでここに来たのだが、いつもの様にトラブルを起こしたルフィが一年間のただ働きをする羽目になってしまったのだ。
 海を渡る上で限られた食材を用いて栄養満点の料理は命そのものであり、それを提供してくれるコックはこれからの航海に必要不可欠な存在である。ナミとシン以外のそういったことに無頓着な連中もヨサクがかかっていた壊血病にはさすがに感じるものがあったようで、すぐにコックを仲間にすることになった。
 どうやらルフィはサンジというコックに目をつけているらしい。ここの副料理長らしいから料理の腕は確かだし、なんでも店から追い出された腹ペコの海賊の下っ端にもこっそり食事を差し出す粋な男であるという。そしておそらくかなり強い。姿勢や立ち居振る舞いなどから感じ取るに、シンは彼の実力をルフィやゾロとも比肩しうると判断している。仲間に入れるのにこれほど適した人間はおそらくいまい。
 ネックとなるのはルフィのただ働きだが、一年どころか一月、いや半月もしないうちにルフィを『雇うことによる被害』に店側が耐えられなくなるだろうというのが仲間内での共通見解である。その証拠にさっそく厨房のほうから怒声が聞こえてきている。
 そのときが来るまではせいぜい久しぶりの平穏をたっぷり享受してやろう、とシンはひそかに目論んでいたが、その思いはこれから数時間もしないうちに粉砕されることとなる。

 昼食を食べ終えた後、休憩に一寝入りでもしようとシンはメリー号に戻っていた。島国育ちの彼にとって潮風や波音は慣れ親しんだものであり心地よく日差しも暖かい。ハンモックで揺られながらもいいが外でそれらを感じるのも悪くないと思って、甲板に寝転がってうつらうつらしていた。
 すると、

「おいっ、やべぇぞ!! 逃げたほうがよくないか!!」
「「アニキ~、船を出してくれ~! おれ達ァまだ死にたくねェよ!!」」

 なにやら周りが騒がしくなってきた。
 目を擦りながら顔を上げると、たしかにびっくりするほど巨大な船――ガレオン船というタイプらしい――がバラティエの正面、つまり彼等の反対側に止まっていた。さぞかし名のある海賊のものであることは一目瞭然なのだが、岩石の雨にでもあったかのように船体中がボロボロだし人がいる気配もかじられない。まさしくゴーストシップである。
 イマイチ状況がわからないのでシンはこの船一番の情報通であるナミに話を聞こうと思って姿を探すと、ちょうど階段のところに隠れながらチラチラと船の様子を伺っていた。

「あれってなんて海賊の船なんだ? ヤバイ奴か」
「当然よ。イーストブルーの覇者、五十隻の船を従える海賊艦隊ことクリーク海賊団の本船なんだから。船長の『首領(ドン)・クリーク』は『ダマシ討ちのクリーク』とも呼ばれる奴で勝つために手段を選ばない、海賊の中でも一番最悪な奴ね。もちろん実力だってハンパじゃないって話だわ」
「そんなやつがわざわざレストランで食事か・・・?」
「ほら、私達が来たとき海賊が追い出されてたじゃない。あれがクリークの仲間だったんじゃないの」
「ふーん」

 いつもにもましてやけに説明が詳しいのは、きっと何もしていないよりは口でも動かしていたほうが気が楽だからだろう。

「・・・賞金額は」
「えーと・・・たしか一七〇〇万ね」
「なんだ、バギーと二〇〇しか違わないのか? じゃあたいしたこと無いな」
「バカ言ってんじゃないわよ! この海の賞金アベレージなんてたった三〇〇万なのよ。クリーク以上の大物っていったら・・・・・・」
「・・・・・・どうした?」

 そこまで言うと急に彼女の顔色が変わった。血の気がうせて今まで見たことのない、凍りついた表情が浮かび、何か別のものを見ているかのように空を凝視している。
 明らかに尋常ではない様子にシンが慌てて声をかけた。

「おい・・・おいっ」
「あ・・・・・・ごめん・・・」
「大丈夫か? いきなり黙ったりして」
「う、うん。なんでもないから。ちょっと目眩がしただけ。そっ、それよりもう何か聞きたいことはない?」
「いや、もう十分だ。ありがと」
「そう・・・」

 海賊相手に盗みを働く豪胆な彼女の焦ったような口調にシンは礼を言いながらも首をひねる。
 もう一度声をかけようかと思ったが、その時、店の裏口から中にいた客達が我先にと外に逃げ出して、自分達の船に乗り込むとさっさと出航していった。あっという間に残っている船はメリー号だけとなってしまう。

「何かあったみてェだな」
「まさかクリークの連中に飯でも出したってのか!?」
「そうじゃねェのか。レストランなんだからよ」
「バカァ! そんなことすりゃどうなるかなんてガキでも分かるぞっ」
「うるせェな・・・・・・ま、あのバカもいることだしな。様子でも見に行くか」
「そ、そうか。よし、なら行って来い!」
「おめぇも来るんだよ」
「は、放せぇ!」
「シン。お前は」
「ああ、俺も行くよ・・・・・・もうちょっとゆっくりしたかったな」

 小さな声でつぶやいてから、シンはゾロと彼に引っ張られるウソップに続いた。中ではコック達とルフィが鎧を着込んだ大男――ドン・クリークとは間違いなくこの男だろう――が対峙して張り詰めた空気が流れている。
誰も自分達に気づかないことをいいことに堂々と席に座って話を聞くに、どうやらグランドラインから逃げ帰ってきたクリークが再起を狙うためこの船とオーナー・ゼフが持っているというグランドラインの航海日誌に目をつけた、ということらしい。

「海賊の墓場ってのは本当みたいだな」
「上等じゃねェか、グランドライン。怖気づいたのか、シン」
「まさか。それぐらいでなきゃ張り合いが無い」
「まったくだ」
「なに言ってんだお前ら! さっきの話聞いてたろっ。あのクリークが渡れなかったんだぞ!? なっ、悪いことはいわねェよ、やめとこうぜあんなとこ行くの」
「うるせェな。お前は黙ってろ」

 いきなりウソップが大声を出すものだから、皆こちらに気付いた。ちょうどルフィがクリークに因縁をつけていたところなので、タイミングとしては問題ないちょうどいいだろう。

「来てたぞ、ルフィ」
「戦闘かよ、手をかそうか」
「シン、ゾロ、ウソップ、いたのかお前ら。いいよ、座ってて」

 周りの雰囲気に反してちょっと遊びに来たとでもいうようなやり取りだが、この連中は基本的にこれが常態だから仕方がない。
 この後、クリークはいいたいこと言ってから部下達に食料を食べさせるために船に帰っていった。全員が腹いっぱいになり次第、襲い掛かってくるのだろう。ついさっきまでほぼ死ぬ一歩手前だったとはいえ、相手は東の覇者。戦うコックさんを旨とするバラティエの面々にもさすがに緊張が走る。
 数分も経たないうちにクリークの船から海賊船に相応しい活気が沸き立ち始め、それが少しずつ獰猛な略奪者の気配に変わり、ついに雄叫びとなって押し寄せてきた。
 いよいよ戦いのゴングなる。がその時、SEEDを使うたびに鋭敏になるシンの感覚が何かまったく別で遥かに巨大な危険を捉えた。
 そして突如、

 ズバァン!!!

 目の前に泊められていたはずの巨大ガレオン船が輪切りになって三つに分断されるという、自然現象というにはあまりにも唐突かつ限定的で、人の業というにはあまりにも無茶苦茶な現象が発生した。シンが知るなかでこんな事ができるのは、それこそMSくらいしかいないがこちらの世界にそんなものがあるはずもない。
 波乱はこれだけではなかった。
 船の崩壊によって瞬間的に海が荒れるのだが、さすがに船が大きいだけあって波もそれに比例しており、本気でメリー号くらいなら転覆してもおかしくないほどである。慌ててルフィ、シン、ゾロ、ウソップの四人が外に出てみるとそこにメリー号の姿は無く、船番を頼んでいたヨサクとジョニーが海に放り出されていた。
 二人曰く、ナミが船ごと宝を持って逃げていったらしい。
 本来なら海賊としてこれ以上の背信行為はなく、追っていってけじめをつけるくらいしてもいい所だろう。だが、

「おれはあいつが航海士じゃなきゃいやだ!」

 船長であるルフィがそう言い切った以上、反論の余地はない。
 シンにしてみても、ナミの航海士としての腕は高く評価しているしいい奴であることも理解している。他の二人だってそのはずだ。結局ヨサクとジョニーを加えた五人でナミを追うことになった。
 しかし、ヨサクとジョニーの船に乗り込もうとしたときに、その男は現れた。

 一人で五十隻からなる艦隊を壊滅させ、今も巨大ガレオン船を斬って見せた『鷹の目』と恐れられる世界最強の大剣豪。つい先ほどクリーク海賊団を壊滅させた元凶として話に出てきたこの男は、ゾロが刃を交えるために探してきた男なのだが、両者の間には残酷とも思えるほどの差があった。
 鷹の目は手に玩具のようなナイフしか持っていないにもかかわらずゾロの必殺技『鬼斬り』をいとも容易く防いで、その後に繰り出される斬撃もまったく歯牙にかけない。このまま戦い続ければいずれ敗北することは間違いないだろう。それほどこの戦い――戦いと呼べるのかすらもわからない――は一方的であった。
 起死回生にゾロがもう一つの大技を放つ。

「虎狩り!!」

 しかし、

 ズバン!!

 両手に持った刀を背負うように後ろに回し、しゃがみ込みながら相手を一気に上から下まで切りつけるこの技は、その構えからどうしても正面ががら空きになる。本来なら相手との間合いを正確に測った上で放つのだが、鷹の目がその隙を黙って見逃すわけも無く、ゾロの予想をはるかに超える速度の突きで彼の胸にナイフをつきたてた。あと数センチで心臓に達するであろう、誰が見てもとどめの一撃。

「このまま心臓を貫かれたいか。なぜ退かん」
「さァね・・・わからねぇ・・・・・・ここを一歩でも退いちまったら、何か大事な今までの誓いとか約束とか、いろんなモンがヘシ折れてもう二度とこの場所には帰ってこれねぇような気がする」
「そう。それが敗北だ」
「へへっ、じゃなおさら退けねェな」
「死んでもか」
「死んだ方がマシだ」

 最強の力と死に直面しながらも信念を一切曲げず、それどころか不敵ににらみ返し剣士としての誇りを選び取る。そこには恐怖も気負いも無い。

「小僧、名乗ってみよ」
「ロロノア・ゾロ」

 鷹の目はナイフを抜き、そこで初めて自分に牙を向いた男の名を聞いた。それは相手を一端の剣士として認めたと言うことであるが、同時にゾロが鷹の目と同じ場所に立った、いや立ってしまったことも意味している。
 ゾロ自身もそのことを十分に理解していた。次でこの戦いが終わることも。
 故に自分の最高の力を出すべく、改めて三刀を構えた。

「憶えておく。久しく見ぬ『強き者』よ。そして剣士たる礼儀を持って世界最強のこの黒刀をもって沈めてやる」

 辺りの空気から殺気や殺伐としたものが消えたが、代わりに重さは増していく。
 時間にすればほんのわずかの静寂。
 そして、

「三刀流奥義!」

 二人の影が一瞬重なる。

「三・千・世・界!!」

 バキンッ!

 その渾身の一撃は、しかし両手に持つ二本の刀ごと粉砕された。止めを刺すべく背後に迫った鷹の目に、ゾロは残った刀を納めて正面を向ける。

「何を・・・」
「背中の傷は剣士の恥だ」
「見事」

 『世界』が振り下ろされた。

「うわあああああ!」
「ゾロ!!」
「「ア二キーーッ!!」」

 叫び声が響き、ゾロが力なく海へと崩れ落ちる。

「ヨサク! ジョニー! 薬と針と糸を準備しろ! それくらい用意あるだろ!!」
「へ、へいッ」
「あの男がこれくらいで死んでたまるかッ」

 そう言ってシンは海に飛び込んだ。
 先ほどの波も収まって海中は穏やかであった。急いでゾロのところまで泳ぎ体に触れると、弱々しくもまだ脈はあった。隣で沈みかけていたゾロの刀もつかんですぐに船へ引き返す。

(ちくしょう・・・!)

 鷹の目の存在感はシンが今までに遭遇したあらゆるものを遥かに超越していた。正確無比な射撃を誇るフリーダムも多彩な格闘兵器を駆使するジャスティスも無尽蔵な火力で敵を破壊しつくすデストロイもまるで玩具にしか思えないほどのプレッシャー。

(ちくしょう!!)

 ただ遠くから見ているにすぎなかったのに少しでも気を抜けばシンは思わず後ろに退いてしまいそうになっていた。自分が戦っているわけでもないのに、戦闘という行為そのものに恐怖を感じた。

(こんなのじゃ・・・)

 初めて目の当たりにする世界の力は、異邦人であるシンにとってあまりにも強大で途方もない。ゾロが負けるわけがないと信じる一方で彼の本能はこうなってしまうとも叫んでいた。
 なのに動くことが出来なかった。仲間の敗北を、死を予測していながら見ていることしか出来なかった。

(あの時とどこが違うって言うんだ!)

 一騎打ちに水をさしていけないくらいわかっているし、自分に出来ることも一つとしてなかった。それでもただ指をくわえて見ていた自分が許せない。

「プハッ!」
「おい、速く船に乗せろ!!」
「アニキィ! 返事してくれ!!」

 船の上にゾロの体を横たえて、まずは傷口を消毒する。ZAFTの訓練所にいた頃に習った応急処置くらいしかシンには出来ないが何もしないよりはマシだし、鷹の目にゾロを殺す気は無かったようで出血はひどいものの内臓などへのダメージがほとんどないのも幸いである。

「シン、ウソップ、ゾロは無事か!?」
「無事じゃねェよ! でも気ィ失ってるだけで死んじゃいねぇ!! 今、シンが手当てしてるとこだ!!」

 そのとき、ルフィの声に反応したようにゾロが目を覚まし、傍らにおいてあった自分の刀を空に向ってまっすぐに掲げた。

「シン・・・・・・ル・・・ルフィ・・・? 聞・・・こえ・・・るか?」
「ああ!」
「黙ってろ、今傷口縫うから・・・!」
「不安にさせたかよ・・・おれが・・・・・・世界一の・・・剣豪にくらいならねェと・・・お前らが困るんだよな・・・・・・!!」
「なんでお前が謝るんだよっ。俺は何もしないで見てるしか出来なかったんだぞ!」
「剣士の決闘・・・・・・最後まで・・・見届けて・・・くれた・・・・・・じゃねェか・・・それで・・・・・・十分だろ・・・・・・ありがとよ・・・・・・」
「え・・・・・・」
 
 その言葉にシンは手に持っていた針を落とした。体から力が抜け、自分への怒りも消えていく。なんだか初めて自分の事が認められたような、そんな気さえした。

「俺はもう! 二度と敗けねェから! あいつに勝って大剣豪になる日まで、絶対にもう、俺は敗けねェ!!」

 涙を流しながらも自分の敗北を受け入れてゾロは新たな誓いを立てる。その姿は滑稽でもなんでもなく、むしろこんな男が自分を仲間と呼んでくれることがとても誇らしいとさえ感じる。

「文句あるか。海賊王、音楽家」
「しししし! ない!」
「なんか俺しょぼいなァ・・・」

 どんなに無様であろうと死んでいないのならそれは終わりではない。心が折れ戦うことをやめたとき、信念を捨てたときこそが本当の敗北。たしかに今は守れなかったかもしれないが、生きている限り次があるのだ。後悔はあの時のようにすべてが終わってからすればいいし、やれることはまだある。やけになってなどいられない。
 心の中のモヤモヤはまだ完全には消えていないが、気にしなくていいくらいには小さくなっている。問題はまだ何も解決してはいないのだし、ここは最古参の自分が確りしなくてはと気合を入れてシンは傷の縫合を始めた。

「シン、ウソップ、行ってくれ!」
「わかった! 俺とシンとゾロで必ずナミを連れ戻す! お前はしっかりコックを仲間に入れとけ! 六人ちゃんとそろったら、そんときゃ行こうぜグランドライン!!」
「そいつを倒せば俺たちが東一番の海賊だ! しっかり頼むぞ!!」
「ああ!! 任せとけ!!」

 視界の隅に何とか映るメリー号を目指して、五人を乗せた船は海を走り出した。

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