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〜ジオン公国の光芒〜_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第02話

Last-modified: 2007-12-18 (火) 07:14:35

 トーマス・シティ。
 
 メサイア戦役の後、L1宙域に新たに建造されたこのコロニーは、電力その他の、エネルギー資源の生産を行い、地上圏に“販売”する事を目的としている。
 ラクス・クライン政権発足後、“デュランダル政権下のダメージが大きく”悪化の続くプラントの経済を立て直すべく、建造された。
 偉大なる発明王のファーストネームを戴くこのコロニーは、まさにプラントの生命線だった。
 むしろ、だからこそ、ジオン成立の下地が出来上がったといって良いし、逆に、プラント本国である宙域から離れているこのコロニーまで、わざわざ主力艦隊の一部──それでも、本来ならプラント国防軍以外の相手を圧倒するには充分すぎる戦力を送り込んできたのだ。
 
 
機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~
 
 PHASE-02
 
 
 その中枢部、トーマス・ワン。
 大公宮廷──旧市長公邸なので、宮殿というイメージはほとんどない、質実剛健とした建物──に、シン・アスカは現れる。
 着ている制服は、かつてのZAFT黒服そのものである。だが、一番の違いとして、胸に階級章が入るようになった。
 ZAFT時代、あいまいな指揮系統によって、技術的には圧倒していたにもかかわらず、個々の戦闘でさえ連合や、オーブ軍に圧倒されてきた苦い教訓から、元連合軍人の亡命者の意見も汲み、確立された階級体勢を構築していた。
 シンのつけているそれは、少佐の物である。ただ、シンはその階級に拠らず、こうした重要施設への出入りや、情報の参照が可能な立場だった。その理由は────
 敬礼して出迎える、緑服の警護員。シンも返礼しつつ、大公の執務室に向かった。
 ドアをノックする。
「シン・アスカです。ただいま参りました」
「お入りなさい」
 中からの返事は、すぐにあった。
 扉を開けて中に入ると、そこに、ジオン公国の中枢をなしていると言っていい人物が集まっていた。
 仮面姿の女大公、ジオン・アルテイシア・ダイクン。
 エザリア・ジュール、トーマス・シティ市長。実質的に、内閣総理大臣とも言うべき立場だ。
 その息子、イザーク・ジュール。階級はシンと同じ少佐。実戦部隊ではあるが、MS部隊筆頭──ただし『マリア』搭載部隊は除く──という立場にあり、シン同様その権限はより上位になるが、その分責務も重い。
「いよう、待っていたぞ英雄」
 開口一番、イザークがおどけた口調で、そう発した。
「やめてください。それに、貴方だって、俺以上に働いているでしょう」
「こなした戦闘の数では負けてるな。デスクワークが多くて……」
 シンの言葉に、イザークは苦笑しながら、肩を回したり、反対側の手で揉んだりした。
 L2会戦から1週間、シンはアビーと共に『マリア』に乗り、地球圏を奔走していた。もっともそれは、イザークも似たような物だったが。
 2人のやり取りを見て、女性2人がクスクスと笑う。
「それで、シン、イザークさん。最新の情勢はどうなのですか?」
 アルテイシアの言葉に、シンとイザークは中央に置かれたテーブルに歩み寄る。メルカトル図法の地図が広げられていた。
「アジア圏では、日本帝国、台湾民国が新たに、我がジオンの承認と軍事同盟、ならびにエネルギー協定の締結を行いました。これで、ベトナム共和国、タイ王国、インドネシア ・ムスリム共和国、マラヤ共和国、それにインド連邦が加わって、西部太平洋はほぼ、我々ジオンの共同体に組み込まれた形になります」
 
 ────ラクス・クライン政権発足後、世界は再び分離再構築の道を歩み始めた。
 地球連合は解体された。ZAFTに代えて新たにプラント国防軍を設立したプラントは、民族の自由と平和を訴え、世界再構築戦争後に誕生していた大国を、再びバラバラの小国に分断させたのである。
 ちなみに日本は、旧東アジア共和国下だった日本帝国と、ユーラシア連邦下だった北海道、日本アイヌ共和国に分かれている。日本帝国は、その分離の際に皇室復権による立憲君主制を選択した為、便宜上帝国と呼ばれていた。しかし、そのせいで、クライン政権のプラントからは冷遇されていた。
 同様にインドネシアも、イスラム・ヒンドゥ系のインドネシア・ムスリム共和国と、華僑系のインドネシア民国に分断されていた。マレーシアも同様で、マラヤ共和国と、汎マレーシア・シンガポール共和国に分裂している。逆に、インドは旧バングラデシュを連邦内国家として取り込み、外交上は一体化した。
 
 ────閑話休題。
 
 シンは説明しながら、その国家にピンの旗を立てて行く。
「台湾民国は、プラントのお膝元でしょうに。よく同意してくれたわね」
 エザリアが、地図を見ながら、感心したように言った。
「だからこそではないでしょうか、母上。彼らは我々の後ろ盾を得て、プラント軍を追い出したいと」
「その線もあるかもしれませんね」
 イザークの言葉に、アルテイシアが同意の声を発する。エザリアも頷いた。
「それで、イザークの方は?」
 シンは地図から顔を上げて、イザークに話を振る。
「ヨーロッパ連邦については、問題ない」
 ヨーロッパ連邦、旧称、西ユーラシア連邦。C.E.73の戦役でユーラシア連邦から分離した部分だ。
 その後、旧英国が大西洋連邦から分離し、これに加わっている。世界再構築戦争以前の、EUの姿に戻っただけの事だ。
「だが、南側がな」
 イザークは渋い顔をして、そう言い、顎を手で抱えた。
「旧連合の拠点を、ほとんどプラントが抑えているし、台湾と違って、彼らはそれに対抗しうる戦力を保有していない」
 イザークの言葉に、シンは不快そうに顔をしかめた。
 そもそも、この拠点をプラントの実力部隊として接収したのは、デュランダル政権時代の自分達だった。
 そのデュランダルを否定して、殺害したラクス・クライン一派は、“世界の平和と自由を守るため”と称して、デュランダル時代に抑えた拠点を地上権の支配に利用している。
 シンの脳裏に、どす黒い物が渦巻いた。
「一刻も早く、シンドバッド作戦を展開したいですね」
 シンが呟くように言う。
「待て、シン。気持ちはわかるが、戦力の拡充が済んでいない状況では、かえって足元をすくわれるぞ」
 イザークが、嗜めるように言う。
 すると、エザリアとアルテイシアは顔をあわせ、頷く。それから、エザリアがきりだした。
「『ミシェイル』が2週間後に竣工します。それまで自重してください、シン・アスカ」
「2週間後!?」
 シンが驚きに顔を上げた。そして、イザークも声をそろえて驚いた。
 ミシェイル──改ミネルバ型、つまりマリア型2番艦である。
「予定より2週間以上早いじゃないですか!」
 シンが興奮した様子で聞き返す。
「簡単な事です」
 悪戯っぽく、アルテイシアは口元で微笑む。
「『アークエンジェル』『ガーティー・ルー』の建造に携わった人材を、発掘する事ができたのです」
「なるほど……」
 2艦とも、シンとは因縁のあるフネである。だが、それとこれとはまた、話が別だ。
 ジオン公国軍唯一の主力艦艇、マリアの2番艦は喉から手が出るほど欲しい。
「それまでは我慢、といったところでしょう」
「わかり……ました」
 シンは息を呑むようにゴクリと喉を鳴らしてから、そう答えた。
「シンドバッド作戦の準備に関して、シン・アスカに権限を与えます。必要と思われる戦力を選出し、申請しなさい。イザーク・ジュール、貴官は作戦展開中の、ジオン本国の防衛計画書を提出願います」
「はっ」
「諒解しました」
 アルテイシアの指示に、2人はそろって敬礼する。
「エザリア市長、治安維持の方をよろしくお願いします。特に入り込んでいるブルーコスモス残党、彼らの行動を厳密に。彼らは決して、諦めません」
「諒解しました」
 エザリアは軍隊式のそれではなく、頭を下げる礼をした。
「本日の会議はここまでとします。各員、職場に復帰しなさい。……ああ、シン・アスカは残るように」
 付け加えるように言った、アルテイシアの言葉に、ジュール親子は顔を見合わせ、肩をすくめて見せた。
「エザリア・ジュール、職務に戻ります」
「イザーク・ジュール、原隊に復帰いたします」
 そう言って、2人は執務室を後にした。
 僅かな沈黙。
「ふぅ……」
 と、アルテイシアがため息をついた。
「1週間ぶりだね、シン」
 先程までとうって変わり、ざっくばらんな口調で、アルテイシアはシンに話しかけた。
「そんなに離れてたかな」
「そうよ」
 口元で苦笑しながら、アルテイシアはシンを招く。
「この部屋じゃお互い、休まらないでしょう? こっちへ来て」
 2人は、廊下を経ずに直接つながっている、アルテイシアの私室に場所を移した。
 一国の主の部屋としては質素極まりないのだろうが、それでも内装は、豪華に飾られている。ベッドも、本来はアルテイシア1人の為の物であるが、ダブルサイズだ。
 アルテイシアは、仮面をそっと外した。
 その素顔は、ややきつい印象を与えるものの、美女、それもかなり上位、そう表現して良いだろう。
 否、いい筈だった。
 それは、過去形となっていた。顔の左上部は激しい火傷でケロイド状になっており、ギョロリと覗く左目は虹彩から色素が抜けてアルビノの様になっていた。髪の毛も、左のこめかみの辺りを頂点として、山形に生え際が抉られていた。
「俺の仕事はアビーがやっといてくれる筈だから、今日はゆっくりして行かせてもらうよ」
 シンは微笑みながら、アルテイシアに言った。
「そう、嬉しい! 泊まっていくでしょう?」
「太閤殿下がお望みとあらば」
 シンは言う。
 かつてはこのような冗談とは無縁の自分だったが、アルテイシアと男女の関係になってから、こうしたウィットな言葉遣いも覚えるようになった。
 ────もっともその関係は、アルテイシアがシンを手駒として使う為の手段かもしれなかったが。
 とは言え、彼女はシンを積極的に受け入れてくれたし、今のシンにとっては、彼女を拠り所とすることが、何よりの癒しだった。
 ────彼女の為なら、駒として戦争に駆り出されたって構わない。
 シンは本気でそう思っていた。
 自分のような存在を生み出さない為に軍人になったはずのシンだが、気がつけば、軍人として以外の生き方をできなくなっていた。それ以外の全てを手放していた。
 そしてあの日、キラ・ヤマトの手を拒絶したその瞬間、それは決定的なものになったのだ。
 アルテイシアは小型の2ドア冷蔵庫の扉を開ける。私室には、小型のキッチン・シンクも用意されていた。
「お酒がいい?」
「いや、アルコールじゃなくて、甘い物が飲みたいな。少し、疲れてるんだ」
「OK」
 シンの答えに、アルテイシアは炭酸のソフトドリンクを取り出した。
 
 もし、アルテイシアの素顔を見たなら、彼は仰天していただろう。
 何より彼にとって幸いな事に、彼は当面はそんな状況に置かれることはなさそうだった。
 キラ・ヤマトは、ようやく書類整理から開放された。軍法会議で処分が決定した人間の、処分先の決定である。最もキラは、すでに作成された書類に、メクラ判を押すだけだったが。
 それでも相当な量である。L1会戦でジオンに対して惨敗した士官たちの、処分の決定書類だったからだ。3桁に及ぶ枚数に目を通し、サインと承認のスタンプを入れる、単調で精神力を削る作業である。
 今のキラの立場は、ZAFT武装親衛隊々長(SS)兼、プラント国防軍統一指揮官という立場だった。
 プラント国防軍もジオン公国軍同様、オーブ方式で階級制を導入していた。少し事情として面白いのは、武装親衛隊では元帥として最高指揮官に納まるキラだが、国防軍はさらに幕僚が他にもいる関係から、こちらの階級は中将だった。
 もっとも、前者がただただラクスのイエスマンであれば良いのに対し、後者はキラがいまだ持ち得ない軍人としての判断力、大局観が要求されるから、という本人の知らない事情もあったが。
「それにしても……あー、参っちゃうよな、ホント」
 キラは行儀悪く、執務机に肘を突いて、ため息をついた。
 プラント国防軍宇宙軍の1/4にも匹敵する、それだけでも無敵といって差し支えない戦力を与えたにもかかわらず、規模で劣るジオン公国艦隊に敗れたのである。
 上官である自分の前でさえ、傲慢な態度でふんぞり返っていた中年男、シュン・キム少将の顔が、キラの脳裏に浮かぶ。
 ヤツは一番過酷といわれる、小惑星帯の資源掘削現場に回してやった。それはそれでいい気味だった。
 しかし、事態は政治に疎いキラにもはっきりとわかるほど、悪化していた。
 L1会戦でのプラントが敗北した事により、旧連合、あるいはザラ派、デュランダル派の残党が、ジオンに集まった。
 彼らは海賊に身をやつしつつ、再起の時を伺っていた。そこへもってきて、L1会戦でのジオンの大勝利である。
 彼らはジオン公国軍に編入された。烏合の衆ではあったが、数の上では、ジオンはプラントやオーブに充分対抗しうるだけの軍事力を手に入れていた。
 もちろん、キラ自身がストライクフリーダムに乗ってトーマス・シティに向かえば、たちまちのうちに殲滅してやる自信はある。
 しかし、キラの立場は武装親衛隊々長、すなわちラクスを守る最後にして最大の盾でなければならない。自らホイホイ出て行くような立場ではないのだ。
 いや、キラ自信はL1会戦後、出ていく気で満々だったのだが、ラクスにそう諭され渋々引いたのだ。
 
「シン……君はどうして戦いを続けるんだい?」
 少年時代の面影を多分に残すキラは、無人の空間にそう語りかけるように呟いた。
 
 ────ふざけるなぁっ
 
 あの日、自分の差し伸べた手を拒絶したシン。
 
 ────また植えるだって!? 吹き飛ばされた花は、失われた命は、どうだって良いって事かよ!!
 
 失われた父母を返せ、妹を返せと叫ぶシン。
 
 ────ルナ……ルナ、君までもそいつらの肩を持つって言うのか!?
 
 守ると約束した異性の、自分を否定する言葉に、哀しそうな目で震えるシン。
 
 ────そうさ、俺は負けたんだ! でも、魂までは渡すもんか! 心までお前らに
       支配されるぐらいなら、死んだ方がマシだ!
 
 そう言って、自分達の元を去ったシン。
 
 解り合えなかったことは、仕方がないのかもしれない。だが────
 戦争を憎み、人が死ぬ事を許せなかったシン。その彼がジオンの先鋒になり、平和と自由を標榜するラクスの敵になる。再び、戦争を起こす。
「どうして…………」
 キラにはわからなかった。いくら考えても。
 
 
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