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〜ジオン公国の光芒〜_CSA ◆NXh03Plp3g氏_第21話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 18:59:45

「これが、ジオンのスエズ侵攻からオペレーション・エッジ以前までの、平均的な3日間あたりのデータです」
 プラント国防軍宇宙軍大佐、ルナマリア・ホークは、宇宙軍幕僚の前で、大型液晶モニターにそれを表示させた。
「そして、これが最新3日間あたりのデータです」
 新しいグラフを、透過表示で既に表示されているグラフに重ねる。
「ご覧の通り、ジオン本国と地上拠点の通信量は、オペレーション・エッジ以前に比べて1/3以下に減少しています。
 対して、L1圏内での通信量は、倍増しています」

 オペレーション・エッジとは、つまり武装親衛隊の実施した衛星軌道ステーション襲撃作戦である。
 偵察用の人工天体や通信傍受艦による通信傍受は、ジオンが地上との交信を減らし、代わりに宇宙艦隊相互間、
あるいは艦隊とジオン本国、トーマス・シティとの交信が増えている事を察知していた。
「彼らは、宇宙で作戦行動を行うと判断していいかと思います」

機動戦士ガンダムSEED
 逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~

 PHASE-21

「しかしホーク大佐、地上との通信に関しては、中継点である衛星軌道ステーションが破壊された影響もあるんじゃないのかね?」
 壮年期から初老にかかろうと言う年齢の、大将の階級章をつけた白服の男性、タンジオ・トン最高幕僚長が、ルナマリアに聞き返す。
「しかし、ジオン艦隊の通信量が倍という事実は見逃せません。加えて、識別符丁の中には、新たに大型艦と思われるものが、
 最低でも6、確認されています。彼らが、本国防衛の戦力とは別に、宇宙での作戦行動を起こし得る規模になったのは、間違いありません」
 ルナマリアはあくまで険しい表情で言う。
「大型艦といっても、例のコイ……とか言うふざけた名前の艦でしょう」
「左様。あのような旧態依然とした艦が多少増えたところで、我々の戦力的優位は変わらない」
「ギャンの増産も順調ですし、遠からずMS戦力の優位も取り戻せましょう」
 将官の階級章をつけた幕僚達は、口々にそんなことを言う。

 ジオンの兵器の恐ろしさはそんなところにあるのではない。地下活動の頃から開戦、そして現在に至るまでの僅かな間に、
これだけの数を揃えられたと言う事だ。何故この老人達には理解してもらえない?
 昔のZAFTはこうではなかった。ルナマリアは、憂鬱な気分に目を細める。

「みなさん、静粛に」
 議場に緊張が走る。鶴の一声。ラクス・クライン大統領、国防軍においても総軍最高司令官だ。

「皆さんの仰られるとおり、プラントの国防は厚い、そう彼らの奔放を許しはしないと、私は信じております」
 胸をなでおろす幕僚達。対して、げんなりした様な表情をするルナマリア。
 だが。
「けれども、こちらがステーションを破壊した事で、彼らがその報復を企図しないとは限りません」
 その言葉に、幕僚達はギョッとし、ルナマリアの表情は引き締まった。
「月軌道艦隊に警告を発しましょう。それと、彼らに急ぎギャン・カビナンターの配備を」
 プラント国防軍宇宙軍・月軌道艦隊と、ジオン本国艦隊は、お互い目の上のたんこぶとなる存在だ。交戦の可能性は高い。
「それがいいですな」
「元々彼らに対する矛のような物です、見せ付けてやった方が良い」
「大統領の御慧眼には、我々も感服するばかりでございます」
 ルナマリアは目を伏せてため息をついた。ラクスは自分は軍事は素人だと公言している。
 この5年で大分知識をつけたとは言え、本職の軍人達がそのラクス以下の愚将かと思うと目眩がする。
「それでは、短期戦略会議はこれにて終了いたします」
 解散の合図で、幕僚達は立ち上がると、それぞれの秘書を連れ、談笑しあいながら会議室を後にする。

 他のスタッフと共に、ルナマリアが議場の片付けをしていると、そこに、1人、近づいてきた。
「よろしいでしょうか? ルナマリアさん」
「!? 大統領閣下!」
 驚きに目を円くする。歩み寄ってきたのは、ラクス・クライン大統領本人だった。
「ラクスさん、で結構ですわ、ルナマリアさん」
 ラクスはルナマリアに言い、親しげに微笑みかける。
「貴女に、見ていただきたいものがあるのですけれど」
「私に、ですか?」
 ルナマリアはキョトン、として、聞き返した。
「御一緒願えますか?」
「え、ええ」
 特に断る理由などない。
 ラクスとルナマリア、それにラインハルト補佐官の3人は、国防軍総司令部の建物を出ると、
ラクスの公用車であるリムジンに乗り、移動を始めた。
 その先は、アプリリウス1の港湾施設、それも、
「軍港……ですか?」
 ルナマリアが狐につままれたような表情で訊ねるが、ラクスは悪戯っぽそうな表情で微笑みかけるだけだった。
 リムジンはその一角で停止した。横には大きな倉庫、否、このサイズは、MS用ハンガーだ。

 ラクスに連れられ、その中に入る。MSが1機、停められているらしいが、薄暗く良く見えない。
「あの」
 ルナマリアが質問しようとした途端、照明がつけられた。一瞬、眩しさに怯みかける。
 そして、視界を開く。すると……
「これは……!」
 薄暗さで良く見えなかったMS、VPS……否、PS素材の複合化を行ったアドバンスドフェイズシフト装甲の、
濃いグレーのメタリックボディ。GタイプMS。
「ZGMF-X31F、『アンビテン』ですわ」
 ラクスが言う。Unbeaten、不敗。
「インフィニットジャスティスを母体にしつつ、セイバーのMA変形機構も継承した新型です」
 キャットウォークの手すりにのめり、凝視するルナマリア。やがてはっと気付いたように、ラクスの方を見た。
「もしかして、あたしに!?」
 ラクスは頷き、そして少し苦笑気味に微笑みかける。
「失礼な言い方になってしまいますけれど、アスランはジオンに引き渡されて以来消息不明ですし」
「え、ええ」
 ルナマリアは、戸惑ったように頷く。プラント国防軍では、アスランがオーブからジオンに引き渡されて以来、その消息を掴んでいなかった。
「他に格闘戦で優秀なパイロットと言いますと、貴女が最適かと思うのです」
 佐官としてめっきり事務作業の多くなったルナマリアだが、MSパイロットとしてもまだ現役は退いていない。
 少なくとも、メサイア戦役以前より腕を落としたつもりは、本人にもない。
「あたしが、これに……」
 インフィニットジャスティスの後継機。
 ラクス・クラインの2本の剣の一方。
 だけど────
「どうしても、お引き受けできませんか?」
 ラクスは、黙り込んだルナマリアに向かって、不安そうに訊ねた。
 しばらくの間、戸惑ったように逡巡していたルナマリアだったが、ゴクリ、と喉を鳴らすと、ラクスに向かって、表情を引き締めて、言う。
「わかりました、謹んでお受けいたします」

 ────そうすれば、シンに会えるかも知れない…………!!

 メサイア戦役の後、シンがその消息を絶った時、ルナマリアは激しい後悔の念にとりつかれていた。
 ────どうしてあたしは、シンの味方をしてあげられなかったんだろう。
 傷ついていた。敵意に敏感になっていた。親切もまっすぐに受け止められなくなっていた。
 そんなシンの心境は、理解していたはずなのに。
 その後、キラがシンの、家族と両親の仇だと言う事を知った。ヤキン・ドゥーエ戦役の際のオーブでの戦いで、
フリーダムの砲撃の流れ弾で吹き飛んだのだと。そのことを妹から知らされた時、目の前が真っ暗になる思いだった。
────あたしは取り返しの付かない事をしてしまった!
 
 全てが遅かった。シンは一切の消息を絶ち、プラントやオーブが懸命に捜索したが、世界再々構築の混乱で、一向に情報は得られなかった。
 どうにか、インドに密入国したらしいというところまでは掴んだが、そこまでだった。
 ルナマリアはプラント国防軍に属した物の、一時期は退役を考えていた。
 その矢先の事だった。ガルナハンで武装組織の蜂起が起きたという情報が入った。
 その中には、1機だが、数機のプラント軍MS相手に暴れる連合型MS──ウィンダム──が、居ると言う情報も得られた。
 ────シンだ。
 確証しないが、確信はあった。ルナマリアの心に、一筋の光明が挿した。
 だが、それはすぐに絶望に変わる。
 ストライクフリーダムが出撃し、そのウィンダムは撃破された。ガルナハンの街はローエングリンゲートの砲撃を受け、壊滅した。
 シンがそこに居たとしたなら、そしてウィンダムのパイロットだったとしたなら、その生存は絶望的だった。
 否、そうでなくても同じだ。シンのことだからいずれどこかのレジスタンスに請われてMSに乗る。
 そしてストライクフリーダムに、キラに撃破される。そして、焼かれる。
 ルナマリアは、生きる目的を失った気がした。

 それ以来、ルナマリアは感情を意図的に殺し、毅然とした軍人の態度を取った。
 シンの事は強引に記憶の片隅に押し込め、あくまでプラント軍人として振舞った。周囲から「カミソリ女」と呼ばれても、
妹に「お姉ちゃん変わったね、冷たくなった」と言われても、気にはならなかった。
 上官であるキラが自分のことを求めてきた。どうもルナマリアの姿が過去に死別した恋人を思い出させるらしい。
 抱かれてやった。どうせ誰かと正式に結ばれる気はなかった。
 キラはその恋人の名前を、時折無意識に出していた。構わなかった。こちらも“女性”を単純実行、処理しているだけだった。
 精神のつながりなど無い。利害を求めているわけでもない。
 幸いにして、そのことをラクスに含もうと言う愚か者は居なかった。

────そうして、2年の時間が過ぎた。
 突然、事態が動いた。
 ジオン独立宣言、L1会戦勃発。
 ジオンの先鋒は、プラントのエースパイロットだったイザーク・ジュール、そして──

──行方不明だったZAFTの英雄、シン・アスカ。
 
────どうして、シンが、それも、今頃!?
 ルナマリアは衝撃を受けた。生きていた。戦う意欲を失っていなかった。そして、おそらくは復讐の為に、プラントに戦いを挑んだ。
 ────助けなきゃ、シンを。
 ジオンは核融合MSを前面に押し出し快進撃。だが薄氷の勝利だった。プラントの規模には及ばないのだ。
 遠からじ形勢は逆転する。他の官僚軍人同様、ルナマリアもそう感じた。
 ────今度こそ、殺されてしまう。
 その前に、シンを止めなければ。
 過去に捨てたはずの“自分”が、蘇ってくるのがわかった。
 キラとの愛人関係を解消した。さすがにキラも、その事実をラクスにバラされたくは無かったようだ。
 対ジオンの前線で戦う事を希望したが、なかなかそれは受け入れられなかった。
 そして今、ようやくそのチャンスが回ってきた。
 ラクスが、自分のシンに対する想いを知らずにアンビテンを託しているのか、
あるいは知りつつ、最初から自分をシンにぶつけ、止めさせるつもりなのかはわからない。
 ただ、どちらにしても利害は一致する。
 ────毒を食らわば皿まで、よ。
 アンビテンのコクピットで初期設定をしつつ、ルナマリアは覚悟に息を呑んだ。

 アーモリー1、ZAFT大統領武装親衛隊L4支部。
 ジーク・ナカムラ“中尉”は、久しぶりの休暇へと繰り出すところだった。

 爽快だった。驚異的な性能を誇ったジオンの核融合MSはケルビックフリーダムに手も足も出ず、何機か反撃を試みてきたが、
ギャン・カビナンターには従来の“神通力”の如き強さは発揮できなかった。
 ────ついに、反乱軍どもに一泡吹かせてやったぞ。
 ジークに限らず、プラントでは、ジオン公国軍を反乱軍と位置付けていた。
 オペレーション・エッジに参加した武装親衛隊員は、ボーナスとして昇進と、休暇が与えられた。
 直接の金銭での賞与は無かったが、基本給の額などを考えればむしろ大きい。
 ジークの上機嫌の理由は、それだけではなかった。
「やあ、ニーナ」

 私服姿に着替え、支部庁舎のエントランスホールで、彼は待ち合わせの相手に挨拶した。
 ニーナ・トーラス、武装親衛隊少尉。
 オペレーション・エッジに共に参加した、女性隊員である。
 ウェーブのかかった淡い金髪を長めのショートに、前髪をヘアバンドであげていた。ややきつめの顔立ちだが、
美女、もしくは年齢的に美少女と言っていい。
 アカデミーを卒業したばかりという話だったが、ジークも舌を巻くほどの優秀なMSパイロットだった。
 作戦の最中、彼女の姿に心を揺り動かされたジークは、死ぬ前にとモーションをかけ、交際を約束する事に成功していた。
 そして、無事生還。やや歳の離れた2人ではあったが、男女の関係に至る事になった。
「ヤマト閣下、さま様だな」
「ん? 何のこと?」
 顔のつくりからはややギャップを感じさせる、優しげな笑顔で、ニーナは聞き返してくる。
「いや、なんでもない、行こう」
 ジークはニーナを促して、庁舎を出た。

 繁華街へと繰り出す。
 ニーナはパンツルックだが、やや落ち着いた彩度のピンクを基調としたコーディネィトで、
可愛らしさを引き立てていた。ジークはデレデレと鼻を伸ばす。
「どうしたの? やけに嬉しそうね」
 そういうニーナ自身もニコニコとしつつ、ジークに訊ねる。
「え? あ、ああ。うん、俺はプラントで休暇って、久しぶりだったからさ」
 つい、誤魔化してしまう。
「そっか、ジークは国防軍にいたんだもんね」
「地上軍のMS隊員は、花形だって言われるけどね。プラントから離れての勤務だから、正直疲れたよ」
 ぐりぐりと首を回し、肩がこるというジェスチャーをしながら、ジークは言う。
「トシなんじゃないの?」
 おどけたように笑いながら、ニーナが聞いてきた。
「あ、酷いなぁ。これでもまだ、20代なんだぞ。結構、ギリギリだけど」
 苦笑しつつ、ジークは言い返す。その苦笑は、さらに苦い物に変わる。
「だいたい、ジオンの連中が好き勝手放題しやがって……」
 さらに、ため息をつく。
「でも、それもこれまでって事ね」
「ああ、そうだな」
 ニーナの言葉に、ジークは答えると、軽く口元で笑った。
「これでやっと、連中に目に物見せてやれる。オスカーや、他の仲間達の仇も……」
 ジークは自分の手を見つめ、そして、軽く握った。
「そうね、せいぜい今日は、前祝いと行きましょ!」
 ニーナはそう言って、ジークの手を引いていった。
 2人は、人通りの多い飲食店街に消えて行った。

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