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アム種_134_003話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:33:06

「奇妙なエネルギー反応?プラント周辺でかね?」



 オペレーターよりもたらされた、プラント本国からの報告。

 不可思議といえば不可思議極まりないその内容に、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルは怪訝そうな表情を傍らの女性へと向ける。



「プラント周辺というよりも、月、地球軌道上……その他、ある程度軌道の安定したポイント、全般のようですわね」



 パネル上のデータを指し示して応える女性は、彼と同年代くらいであろうか。

 軍服を着込んだその姿、動作はきびきびとしていて、事実そうなのだから発散していて当然の、油の乗りきった仕事適齢期真っ盛りの女が放つオーラのそれを窺わせる。



 ザフト軍戦艦・ミネルバ、そのブリッジ。

 艦長のタリア・グラディスは艦長席の右後ろの席に座るデュランダルとつき合わせているこの状況をあまり好ましく思っていない。けれどこのような珍妙な報告を受けては、そうせざるを得なかった。

 奇妙なエネルギーとは一体、何なのだ。その要領を得ない報告は。



「本国からは他に何も言ってきていないの?」

「ええ……調査中とのことで、何も」



 副長のアーサー・トラインも首を傾げる。

 そんな折、艦内通話をオペレーターが受けて、艦長たる彼女へと伝えてきた。



「艦長、医務室からです。アーモリーワン宙域でシンの救助した民間人が目を覚ましたそうです」

「そう。……それもあったわね」

「はい?」

「いいえ、気にしないで。巻き込んだこっちとしても、一応会いにいかないとね。応対はできそう?」

「起き上がるのは無理だそうですが、意識ははっきりしているようです。今はシンが彼と話していると」

「そう。応対はできるのね。時間を見つけてこちらから説明に向かいます」

「艦長自らですか?」

「ええ、そうよ。少なくとも彼を乗せっぱなしにしてる事情を、説明しないとね」



 軍規違反の常習犯のシンなんぞに任せておいたら、どんな機密をしゃべるかもしれない。

 巻き込んだ張本人として、会っておく礼儀もある。

 つらつらと理由を並べ挙げてみせながら、タリアは心中で、全く別のベクトルのことを考えていた。

 シンが拾ったという、少年の正体。

 無論それは彼女の予想を良くも悪くも、とんでもない形で裏切ってくれたのだが、少なくとも彼女の脳を占めていたのは二択しかなく。



 ただの民間人があのような場所で、救助されるだろうか。



 彼が敵か。否かということだけだった。

 最悪の事態を思い浮かべ、彼女は嘆息し索敵の行われている上部モニターへと視線を戻した。










「……『地球連合』?」

「ああ、艦長たちはアンノウン扱いしてるけど、専ら襲撃犯は地球連合の奴らって噂」



 ジェナスがあげた疑問の声を、シンは確認のニュアンスとして受け取ったらしく。

 その地球連合とはなんなのかも、それらが一体どこを襲撃したのかも彼にはわからない。

 いや、それだけではない。

 シンの話すことの端々に出てくる様々な言葉、用語が完全に、彼の持っていた常識の範疇には存在しないものばかりであったのだ。

 ただ、自分達がガン・ザルディと戦っていて知らなかったというには、あまりに多すぎる。

 はぐれたらしい、あの城へと残してきた傷つき倒れた仲間達のことも心配で、少しでも情報が欲しいところだというのに。



「だからゴメンな、今そいつら追ってて──……見失ったけど、とにかく追撃中で。しばらくプラントには戻れないと思う」

「あ、ああ……そうか……」



 すまなそうに言うシンに対し、あまり強く出ることができないジェナス。

 そのせいもあって、目を覚ましてから結構な時間が経っているというのに、シンとの会話から得る情報はいまいち要領を得ていなかった。



「でも、珍しいよな。ジェナスの着てたノーマルスーツ。民間じゃあんなテレビのヒーローみたいなの使ってるんだな」

「……は?」

「いいよなー。軍のやつなんてせいぜい色の選択ができるくらいで、首元息苦しいし。装飾もできねーし」



 俺の着ていた──何?

 また耳慣れぬ言葉を受けて一瞬思考が停止するが、すぐに自分の着用していたアムジャケットのことを彼が言っているのだと理解する。



「……ああ、アムジャケットのことか」

「アム……何?ジャケット?あのノーマルスーツ、そんな商品名までついてんの?」

「?アムジャケットはアムジャケットだろ。まあそりゃ、独特のチューンはしてあるけど……」

「?」



───まさか。アムジャケットを、知らない……?

 考えられなかった。少なくともジェナスの知る限り、アムジャケット……少なくともその形状を見てそれがなんなのかわからないというピープルなど、聞いたこともない。



 まして、軍の関係者ともなればなおさらだろう。どの陣営にも属さず一歩間違えばテロリスト集団として扱われかねなかった自分達は、各陣営の軍に対してそれなりに有名であったという自負はある。ジャケットのデザインを見て気付かぬことなど、ありえまい。



 だというのに、彼は知らないと言う。

 少なくとも、ジェナス達のいた世界では、まずありえないことだった。



(!?……俺、今。なんて思った?世界?……俺達のいた?「世界」?)



 何故、そのようなことを思う。

 まさか、そんな。

 あまりに荒唐無稽で、現実離れしすぎている。

 自分の頭がおかしくなったか、夢でも見ているのではないかとすら思えてくる。

 大体、だとすれば自分は今、どうやってこの場にやってきたというのだ。

 ラグナあたりが聞けば、鼻先で笑いとばすことだろう。



(あの、時?ゼアムの光……か?)



 しかし、ジェナスの脳内では想像が進んでいく。

 フルパワーを開放した、ゼアムとゼアムのぶつかりあい。

 それは常識をはるかに超えた衝撃と力を生み出していたはずだ。

 今このときも、自分があのような力を行使していたなど、信じられないほど。

 自分が目覚める前、最後に見たものは何だ?

 対峙することを決めた、歪んでしまったかつての憧れ。

 戦友の形見と、それに浮かび上がる彼の幻影。彼の声。

 そして視界一面に広がりゆく、眩しく暖かくも、強大すぎてどこか危うさを感じさせる──ゼアムの光。



 すべてが消え失せたとき、自分はここにいた。



(ゼアムの仕業だってのか……?俺が「ここ」にいるのも)



 異世界に飛ばされた、なんて。

 冗談だろう、よしてくれ。そんな子供じみた想像、ほとんど妄想も同然じゃないか。

 あまりに幼稚で短絡的で、馬鹿馬鹿しい。

 懸命に──知らず知らず懸命になっていた──自身の想像を否定する、ジェナス。

 それはある意味で当たり前の常識を持つ人間として当然であったけれど。

 その実、彼の両掌は確かにその予想に対して、嫌な汗をじっとりとかいていた。




 
 

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