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アム種_134_018話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:38:50

第十八話 テル・ザ・トゥルース



 警報が、鳴り響いていた。

 ばたばたと逃げ惑う人影が、いくつも連なり。

 繰り返される発砲音が、この騒ぎが死を伴った危険なものであるということを、聞く者へと嫌が応にも教える。



「でええーいっ!!ったく、いつかこんな日がくるんじゃないかと思ってたが、ついにきやがった!!」



 倒したテーブルを盾代わりにし、放たれる銃弾を防ぎながら毒づく男が一人。

 弾の無くなった拳銃のマガジンを代えるその男は、片目をつぶす大きな傷を顔に持ち。



「なんなんですか、あいつらっ!?いきなり撃ってきて!?」



 もう一方のテーブルの影で同じように弾層交換をする少年が、これまた同じように愚痴る。

 深夜、ベルネス邸を突然に襲った襲撃者たちに応戦を続ける、シンとアンディであった。



「十中八九、ラクス狙い……大方、連合か、プラントだろうよっ!!」

「そんな……でも!!プラントが……」

「ザラ派は、彼女を恨んでるからな!!まあ、僕は──っと、連合の連中と見るがねっ!!」



 銃撃の切れ目をかいくぐって、反撃の一射。

 その射撃の腕は、軍人であるシンから見ても驚くほど正確で、黒衣に身を包んだ襲撃者たちを次々と撃ち抜いていく。



「何ぼさっとしてる!!今のうちにマリアたちと合流するぞ!!」

「え、あ──は、はい!!」



 すごい。正直、その言葉しか出てこなかった。

 見とれていたシンはアンディから怒鳴られ、我に返り後に続く。

 一体この人は何者なんだろう──そんな風に疑問に思いながら。







「はあ!?シェルターに逃げ込まれたぁ!?なにやってんだよ、あんたら!?」



 任務をソキウスたちに任せ、アビスのコックピットで居眠りしていたアウルは、報告のために戻ってきた一人によって(隠密行動のため通信は使用不可)、たたき起こされた。



『申し訳ありません。ラクス・クラインの周囲に、予想外にナチュラルの人々が多く──』

「あー、はい、はい。安易に撃てないってか」



『ソキウス』。それは、ナチュラルへの絶対服従を課せられた、ナチュラルを「絶対に傷つけてはならない」、ナチュラルのためだけに存在する戦闘用コーディネーター。「ブルーコスモス」がその存在を許容する、唯一のコーディネーターという人種である。

 そういう仕様で生み出されているのだから、納得するより仕方が無い。



『現在ターゲットの立てこもったシェルター外壁に攻撃をしかけておりますが、破壊に成功したとしても』

「りょーかい。みんな下がっててよ、破壊したあとは僕がやるからさ」

『はっ』



 報告に来たソキウスが彼の乗ってきた機体、ディープフォビドゥンを転進させ、爆発と光の見える陸地のほうへと向かっていく。

 馬鹿正直な連中のことだから、本当に外壁のみ破壊して、後退するはずだ。



「ほんじゃ、まー。いきますかね……っと。ほんと、面倒な任務だこと」



 彼は愚痴りながら、アビスの機体をゆっくりと陸地に向けて進めていった。

 もういいから、終わらせて帰ろう。

 この時点の彼は邪魔者が入る可能性など、全く心の片隅にも持っていなかった。







「『ソキウス』!?」

「ああ。おそらくな。マリュ……失敬、マリアが全く発砲を受けてないところを見るに、間違いなかろう」

「そのおかげで、なんとかこうやってシェルターに辿り着けはしたんだけど……」



 マリアが天井を見上げると、他の一同も釣られて上を見る。

 地響きに揺られ、電灯が時折点滅するそこからは、振動に合わせ付着した埃が舞う。



「MSまで持ってきてたとはなぁ……」

「……どうあっても私を、殺したいようですわね?その方々は」



 しまった、とばかりに髪をかき上げ、額を押さえる隻眼の男に、自嘲気味にこの状況を皮肉るピンク髪の少女。

 談笑中に襲撃を受けたせいで、彼女はあいかわらずのスーツ姿だった。

 キラはさきほどから俯いたまま。ジェナスもシンも拳を握り締めて立ち尽くす。

 部屋の隅では、他の二人の年長者──、キラの母・カリダと、マルキオという盲目の男が不安がる子供達を集めて、安心させようと心を砕いている。



「なんとかせにゃあなあ。いくらここが頑丈とはいってもMSの火力はちと厳しいぞ」

「……くそっ!!インパルスさえあれば、あんなやつら!!」

「そう自分を責めるなよ。俺だって同じだ、アムジャケットがあればやつらがMSなんて持ち出してくる前に取り押さえて、無力化できてたかもしれないってのに」

「今は後悔してる場合じゃないわ。なんとかすることを考えましょう」



 壁を殴りつけ、追い込まれた自分達の立場に憤るシンを、ジェナスが諭すように言う。

 マリアも続き、二人をなだめる。

 シェルターという密閉空間に追い込まれた彼らは、いわば袋の鼠。

 なにか打開策を考えない限り、このままやられるのを待つだけだ。



「……『扉』を開けよう」

「キラ!?」



 考え込む一同の中、発言したのは、逃げ惑う最中からずっとだまりこくっていた、キラだった。

 静かに、はっきりとした口調で。なにかを、決意したような目つきで。

 ラクスに向かい手を差し出す。



「キラ、お前……いいのか。俺が乗ってもいいんだぞ」

「……はい。大丈夫です。ラクス、『鍵』を」

「え……でも、それは……っ」



──『扉』?『鍵』?

 話が飲み込めないジェナスやシンを取り残し、キラはラクスへと詰め寄っていく。



「大丈夫、だから。僕はみんなを……死なせたくはない」

「───っ……」

「ユウナさんがカガリに黙ってまで、あの機体を用意してくれたのは、こんな時のためだと思うんだ」

「……キラ……」

「さあ、時間がない。はやく」



 にじり寄るキラにラクスは狼狽し、助けを求めるようにマリアやアンディ、シンやジェナスのほうへと視線を向ける。

 だが、彼が一体何をしようとしているのかがわからないジェナスたちが傍観に徹するのはもちろんのこと、意志の固いキラの様子に、マリアやアンディたちまでもが頷きラクスを促す側に回り、迷い躊躇う彼女はじりじりと追い込まれていく。



「……わかり、ました」



 遂には、観念したようにラクスは嘆息し、そのピンク色のスーツの懐から、一枚のカードキーを取り出し、キラへと渡す。

 渡す瞬間も躊躇いは続いているようで、キラに渡したキーから彼女の指が離れていくには、しばしの時間を必要とした。



「ありがとう……それと──シン」

「えっ!?は、はい!!」



 キーを受け取った彼は、軽くラクスの肩を叩いて抱き寄せ、感謝の意を表し、踵を返し壁の一角に設けられたキーボード式のコントロールパネルへと向かう。



「銃に……弾は、まだある?」

「え…?あ、はい。あと二発……」

「そう。なら十分だ。それは、残しておいて」

「へ?」



 カードキーをリーダーへと噛ませ、ディスプレイにパスワードを入力する。

 彼が叩き操作した文字は六文字。

「G・U・N・D・A・M」──ガンダム。横から見ていたジェナスには、そう読むことができた。

 ゴゥン……と、重厚な音を立てて、キラの正面にある壁の一部がスライドし、開いていく。



「君に、判断は任せる」



 開ききるのに、そこまで時間はかからなかった。

 また、開ききっても、その幅は人が一人やっと通れる程度といったところ。

 その向こうには、何か広い空間らしきものが見える。



「どうしても赦せなかったら───そのときは撃ってくれていい」



 キラはその隙間へと身を滑り込ませ、こちらへと背を向けたまま語る。

 左手でなにやら壁を操作すると、彼の姿を覆い隠すかのように扉が再び閉じていく。



「?……何が言いたいんです?」



 撃て、と言われても。誰を?何を?

 わけがわからない、といった様子で彼の後姿を見送るシンは、殆ど閉じかかった扉の向こうのキラに尋ねた。



「──君の家族を殺したMS。フリーダムのパイロットは、僕だ」



 キラは言い残し、扉の向こうに消えた。

 突然の告白に伸ばしかけた右腕を硬直させ絶句するシンと、彼を心配げに見守る一同が、その場に残された。

 真実を告げた瞬間、キラがどんな顔をしていたのか。

 それは、誰にもわからない。


 
 

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