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アム種_134_023話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:40:41

第二十三話 ready?



「こんなところにいたのか」



 頭上から、アスランの声が聞こえた。

 ジェナスは起き上がり、声のしたほうを見る。



「……アスランさん」

「アスラン、でいいよ。歳は3つしか違わないだろう」



 割とかっちりとした服装の多かった彼は、今は珍しくグレーのつなぎを着ていた。右手にはなにやら、紙袋。

 ジェナスの横に、膝を立てて座る。



「すまないな。巻き込んでしまって。……未だに君が異世界から来た、なんて信じられないが」

「……俺だって、そうですよ。でもたしかにこの世界は、俺のいた世界とは違うんです」



 アスランが隣に座ったことで、ジェナスは改めて床へと四肢を投げ出し、寝転がった。



「何か、考えてたのか」

「……ええ、まあ」



 ぼんやりと屋根に覆われた空を見上げながら。

 天使の膝の上で、二人は語らいあう。



「この世界の『戦争』って、俺達の経験したものとは、随分違うんだな、って」

「……違う?」

「シンとキラのこと見て、話を聞いてたら、そう思ったんです」



 人々を守るための存在であったアムドライバー。

 政府によって仕組まれていた虚構の真実。

 権力をめぐり開かれた戦端。

 人々を守るべきアムドライバーとアムドライバーが戦いあう戦場。



 ジェナスは、ひとつひとつ噛み締めるようにしながら、アスランに聞かせていく。



「……そうか、たしかにこの世界とは状況が違うみたいだな」

「世界そのものは、もともとひとつだったんです。だけど……」

「それが割れてしまった、か。権力の魔力、ってやつか」

「……はい」



 歪ながら構築されていた平和は崩れ去り、世界は戦乱に包まれた。

 互いの戦力が標的であったが故、民間人が戦闘に巻き込まれることはあまりないものの避難を強いられ、アムドライバー同士の戦いは激化していった。

 コーディネーターとナチュラルの民族対立によるこの世界の戦争とは、根本が異なる。



「……正直言って、俺にもよくわからないよ。何が駄目で、どこですれ違っているのか」



 いつからナチュラルはコーディネーターを憎み、戦い、コーディネーターは彼らを蔑み、離れていったのか。

 それを暴発させた契機となったのは、血のバレンタイン事件なのだろうが、

 その大元の部分については、互いが感情的になっているという以外の説明を、アスランも思いつけない。

 双方、「気に食わない」、「受け付けない」。それ以上の理由が、見つからない。

 権力がらみというもののほうが、よっぽどわかりやすい。

 感情でどうこうなってしまったものを論理で解決するのは、難しい。



「……」

「多分、多くの人はそうなんだと思う。だから、答えが出ない。戦争が起きる。気がつけば相手を憎んでいる」

「なんですか、それ」

「滑稽で、情けない話だよな。理由もわからない、解決法もわからない。あるのは偏見だけ。なのに戦争をする」



 そういった点でいえば、歪んだ形とはいえひとつにまとまっていることのできたジェナスたちの世界を、アスランは不謹慎とわかっていながらも少し羨ましく思う。



「シンとキラは、どうしてます?」

「……冷戦ってとこか。二人とも顔を合わせれば気まずいだけだから、互いを避けているよ」

「そう、ですか」

「あの二人のことも──……難しいな。よ、っと」



 家族を殺した者と、殺された者。

 アスランが腰をあげる。

 手に持っていた紙袋を投げてよこし、方向転換。



「これは?」

「ああ、お前のだよ。出航までに着替えておくように」

「?」



 袋の中には、白い軍服がきれいに畳まれて入っていて。



「しばらくいるのなら、必要だろ?」



 アスランはじゃあな、と右手をあげて戻っていく。

 白い床───甲板デッキ上には、ジェナス一人が取り残された。

 大天使は、再び動き出す時を今か、今かと待っている。

 眼下には、搬入されるインパルスとネオエッジバイザーが。

 ドックの屋根に設けられた天窓からは、一機のシャトルが宇宙へと上っていくのが見えた。







「そうか、それじゃあ大体メンバーは揃ったんだな?」



 珍しい部屋着姿のカガリが、窓枠にもたれかかって言った。



「……うん。サイやミリィみたいに、今海外に言ってる人たちはいないけど……クサナギの人たちもいるしね」

「ああ、そっか。なら十分か。……しかし、キラ」

「ん?」

「お前、よかったのか、本当に」



 カガリに問われ、一瞬目を瞬かせたキラ──顔には白い絆創膏や包帯だらけだ──は、こくりと頷く。



「うん。できることからはじめようと、思ったから。守れるものから、守っていこうって」



 それくらいはやるのが、筋だと思う。キラは言った。

 二年前自分がやったことや、この二年間なにもやらずにきたことを考えれば、しなければならない。

 守れるものから、ひとつずつ。自分にはそれをやる力があるのだ。

 そうすることが、自分にとっての贖罪だと思うから。やるのは、義務だ。

 平和を望むなら、オーブ一国くらい守れなくてどうする。

「守る」ために戦う。そう、決めたのだ。



「そうか……」

「うん。だから、僕は平気。……カガリはいいの?」

「へっ?何が」

「ユウナさんとの結婚」

「……思い出させないでくれ」

「ご、ごめん」



 柔らかかったカガリの顔が、一気に苦虫を噛み潰したような表情になる。

 どうやらこの縁談、カガリにとっては(ユウナもであるようだが)気の進まないものらしい。



「そ、そんなに嫌なの?」

「ユウナのことは嫌いじゃないんだけどな。どうしたってそういう対象としては見れないよ。それに」



 最大の問題として。



「私は芝居が下手糞なんだ、昔っから」

「あー……」

「納得するな、そこ。台本まで作りやがって、ユウナのやつ……」

「……ははは……」



 キラの乾いた笑い。

『カガリは大根なんだから、気をつけてよ?』、ユウナの声が鼓膜の内側にリフレインする。

 ええい、腹立たしい。小さい頃から学芸会での定位置が背景の木ということを知っていて、あの男はよく言う。



「私だって一回くらいお姫様役やりたかったさ!!」

「は?」



 もっとも、それはそれでユウナなりに注意を促すよう気を使った結果ではあるのだが、カガリとしては腹立たしく、不満なようである。

 傍から見ているキラから言わせてもらうと、芝居の下手な政治家もどうかと思う。

 その辺はユウナのフォロー次第ということになるか。



「そうだ!!お前がかつら被ってドレス着れば……」

「あ、それじゃあ僕帰るから」

「こら!!嘘だ、冗談だ!!逃げるなよ!!」

「っと、と」



 速攻で回れ右した弟の肩をひっつかんで、引き留める姉。

 まったく、姉弟なのか兄妹なのかこれではわからない。



「まあ……がんばって。ぼくらもやれるだけ、やってみるから」

「……ああ。気をつけてな。お前も、みんなも。ちゃんとシンたちを届けてやってくれ」



 姉と弟は抱擁を交わし、ひとまずの別れを告げる。

 次にこうして会えるのは、いつになるだろうか。



「あとで、アスランも来ると思うから」

「わかった」

「それじゃ」



 キラがドアを閉め切るまで、カガリは肩の上で手を振っていた。

 そして二日後、遂にオーブは運命の日を迎える────……


 
 

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