Top > アム種_134_031話
HTML convert time to 0.007 sec.


アム種_134_031話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:43:34

第三十一話 ミス・アンダースタンディング



「っは、はぁ、はぁ」



 二人とも、全身濡れ鼠だった。

 なんとか海岸へと少女を引き上げ、シンは荒い呼吸を整える。



「大丈夫か?」

「……こほっ」



 金髪を海水で顔に張り付かせた少女は、返事するでもなく、飲んでしまった塩水にむせていた。

 察したシンが背中をさすってやると、少し楽になったのかこちらを見上げ返してくる。



「……?」

「あ、えーと」



 これでアーモリーワンでの粗相は、流せただろうか。

 不思議そう、というかぼんやりとした表情の少女が、シンのことを覚えていた場合に限るが。



「だれ?」

「って、覚えてないか」



 それもそうだ。アーモリーワンからこっち、この少女も色々と大変であったろう。

 ほんの一瞬顔を合わせた(しかも不快な思いをさせた)相手のことなど覚えているわけもない。

 シンは一人で、勝手に納得した。



「俺はシン。シン・アスカ。きみは?」



 出来うる限りの屈託のない笑みを浮かべて、シンは少女へと尋ねた。

 しばらくして少女は小声で、ステラと名乗った。







「セラ!?」



 ジェナスは我が目を疑った。



「ジェナス!?」



 同様に、セラも疑った。

 互いが、相棒とともに現れた相手のことを。

 この世界にいるはずのない人間であると思っていたから。



「えっと……二人とも」

「お知り合い?」



 傍から見ているキラとミリアリアも、二人の様子にぽかんとしていて。



「どうして、ここに!?」

「セラこそ、無事だったのか!?いや……この世界に!?みんなは!?」

「ジェナス、落ち着いて」

「とりあず二人とも、座らない?」



 他人事だからだろうか、一足先に落ち着いた連れの二人から促され、ジェナスもセラも動揺しつつ席へと座る。

 目の前に座る仲間が、今自分と同じこの世界にいるということが、こうして実際に見てみても信じられなかった。



「んじゃ、まあ。どうしよっか。順番に話したほうがいいかもね」

「そうだね。じゃあ、僕から」



 こうして四人の、奇妙な会見がはじまった。







 岩場の奥まったところに、小さな洞穴があった。

 自分はともかく女の子のステラに、砂浜で服を脱いで乾かせというわけにもいかなかったシンはこの場所をみつけたおかげで焚火を焚いて、二人分の服を乾かす作業を行うことができた。



「そっか……じゃあ、ステラはそのスティングとアウル、だっけ?二人のお兄さんたちと一緒に来たんだ」



 シンが言うと、ステラはこくりと頷いた。



「スティング……海岸でまってろ、て……ステラ、海好きだから……」



 ぼそぼそとしゃべる、ひどく幼い口調だった。

 背中合わせで見えないけれどその体は、十分に立派なものを……いやいや、成熟しているというのに、一人称が自分の名前というのもその印象に拍車をかけている。



「海、好きなんだ?きれいだもんな、ここの砂浜」

「うん……でも、ネオはもっとすき」

「ネオ?」

「ネオ、いつもやさしい」



 父親か、誰かのことだろうか。

 先程からのステラの口調にも、次第に慣れてきていた。

 だからさほど気にせず、ついシンは「言ってしまった」。

 彼が知る由もない、ステラにとっての禁句を、たしなめるように。



「けど、もっと注意しないとだめだぞ?ネオが心配するだろ?」

「うん」

「俺が見てたからよかったけど、誰もいなかったらあのままステラ『死んじゃってた』かもしれないんだぞ?」

「!?」



『死ぬ』。そのシンの吐いたフレーズに、ステラの体が凍りついたように硬直する。

 シンは気付かず、言葉を続けるが───……。



「塩水まみれで戻ったら、お兄さんたちも心配するだろうし……」

「『死ぬ』……『死ぬ』……」

「ん?ステラ、どうし───」

「いやぁっ!!死ぬのは、いやっ!!いやあぁっ!!」

「ステラ!?」



 突如として立ち上がり、髪を振り乱して泣き叫ぶステラに、シンはぎょっとする。



「危ない!!」



 暴れ錯乱するステラの足がもつれ、海水で滑りやすくなっている洞穴の岩を踏み外し、後頭部から落ちそうになる。慌ててシンが受け止めてやるも、彼女はシンのことなど見えていないかのようにじたばたと腕の中でもがき、振りほどかんとする。



「いや、いや、いやああぁっ!!!」

「ス、ステラ!!どうしたんだよ!?落ち着け、大丈夫だから!!」

「死ぬの、いやああああぁっ!!」



 ステラの発し続ける叫び声に、ようやくシンはあることに思い至る。



(死ぬのが、嫌?にしてもこんなに怖がるなんて?なんで……)



 もがき暴れるステラの力は、女の子のものとは思えないくらいに強かった。

 訓練された軍人であるシンでも、抑えるのに必死になるほどだ。



(死ぬのを、間近で見たからか?あるいは、自分が死にそうに……どこで?アーモリーワン、か?やっぱり)



 それは、事実関係だけを見れば間違いではない推測(ステラが加害者か、被害者かという違いはあれど)

 ではあったのだが。シンはそのように勘違いし、認識した。



(だとしたら……俺のせいだ。俺があの三機を止められなかったから……この子を傷つけてしまった)



 この子を傷つけたのは、自分の責任だ。

 ステラがこんなにも怯え、怖がっているのは自分が、怖い思いをさせてしまったから。

 なおもシンを引き剥がそうと暴れるステラのことが、急にいとおしく切ない存在であるように思えてくる。



(ごめん……ごめん、ステラ)



 衝動に衝き動かされるように、ステラのことをきつく、きつく抱きしめていた。

 背中を何度も拳で叩かれても、放さない。放すものか。



「……大丈夫、だから」



 アーモリーワンのようなことはもう、させない。

 君を怖い目に遭わせたりはさせない。



「君は死なない。死なないから」

「……!?」



 びくり、とステラが身を震わせ、暴れるのをやめる。

 抱き寄せた彼女は今一体、どんな顔をしているのだろうか。



「俺が、君を守るから」



 ステラだけではない。

 彼女のような子たちを、守る。

 あの強奪犯たちのような卑劣な連中から、守ってみせる。

 それはシンの誓いでもあった。



「まも……る……?」

「そう。だから、君は死なない。そんなに怯えることはないんだ」

「シン……ステラ、まもる……?」

「ああ、絶対に、守るから。だから死なない」



 そうだ。

 自分は、これでいいのだ。

 何もわからぬままなんかじゃない。

 ステラのような子たちのために。力のない者たちのために戦う。

 それでいいではないか。

 力を以って彼女達を傷つけるような者、それが俺の敵だ。

 彼女のような存在のためならば、どんな相手であろうと自分は躊躇いなく引き金を引くことができる──!!

 プラントか、オーブか。それはそのとき考えればいい。

 弱者を傷つける者がいれば、どちらであろうとそれは自分の敵だ。



「シン……?」

「守るよ。絶対に。絶対……!!」



 決意を込めて、ステラを強く抱きしめる。

 小難しい正義や考えはいらない。

 何を迷うことがあったのだ。

 彼女の身体から感じるぬくもり、それさえあれば。

 そのぬくもりを守るためであるならば、それだけでいい。

 彼の若い心は、決めた。


 
 

】【戻る】【