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アム種_134_032話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:43:55

第三十二話 紫電の剣



「───ん?これは」



 バルドフェルドと共に艦に残ったアスランは、メニューを終えたシュミレーターの中で怪訝に眉を顰めた。



「『J・D』……ジェナス・ディラ?」



 戦闘訓練をコックピットを模したシートに座り画面上で行うそれが表示するのはトップスコアー10人の名前。アミューズメントセンターにあるゲームのようなものだと思えばよい。

 そこに並ぶイニシャルの殆どがアスランを示す「A・Z」。

 もしくはキラの「K・Y」で、僅かにシンの名がその中に混じる程度であったのだが。

 ちなみにバルドフェルドは映像での訓練など意味がないと思っているらしく、シュミレーターに座るところなぞついぞ見たことがない。



「マードック技師長」

「あん?」



 シュミレーターから顔を出し、インパルスの整備に指示の怒声を張り上げていたマードックに声をかける。

 画面上に出たイニシャルについて問うと、案の定と言うべきか、むしろ意外と言うべきか、頭に浮かんだ人物の名を常に格納庫に詰めている彼は答えた。



「ジェナスが?」

「ああ、本人はあんまり乗り気じゃないみたいだったがな。覚えといたほうがいいって、シンに教えられてたな」



──それで、この数値か。

 アスランは半ば唖然とそこに記されたスコアを見つめる。

 もちろんこの艦のパイロット、どのメンバーにも及ばないとはいえ、彼のそれは、素人のものとは思えないほど高く、ヘタなコーディネーターよりも優秀な数値を納めていた。



「これも、『アムドライバー』とかいうやつだからなのか?」



 シュミレーターのスイッチを切りながら、一人ごちる。

 あるいは、この世界の人間と彼らとでは根本的に身体能力に差があるのかもしれない。



「でも、だとしたら」



 コーディネーターでなくとも、これだけの能力を持つ者がいる。

 それはこの世界にとって、二つの人種を懐柔するための手段になるかもしれない。

 漠然とした考えではあったが、アスランの脳内にはおぼろげにそんなことが浮かんでいた。

 電源が落ちたのを確認して箱状の機械から足を踏み出すと、その瞬間、敵襲を告げる警報が鳴った。







「よーしよし、いたな、子猫ちゃん……いや。天使様というべきか?」



 機体のメインカメラが捉えた映像には、アークエンジェルが映っている。

 MSは……まだ、発進してきていない。速攻で先制をすべきだろう。



「ったく……盟主も無茶言うぜ、ほんとに!!」



 彼の機体に続くのは、十数機のスカイグラスパー。それぞれにエールとランチャーのストライカーパックを装備した機体が、半々。そして、母艦のJ・P・ジョーンズが一隻。これだけである。

 これでも寄港した基地にあった航空戦力を防衛が最低限可能なラインで、かき集めてきたのだ。



「よりによってあの艦を相手にするのに、増援がたった二機とはね!!」



 ディグラーズは、いない。

 ステラも、スティングも、アウルもいないというのに。

 映像通信によって盟主が命じたのは、一刻も早いアークエンジェルの撃破。

 どこにその根拠があるのかというような満面の自信で、撃墜をジブリールは要求してきたのだ。

 今頃アウルの夢中になっているであろう、ゲームとは違うのだ。

 盟主はまったく前線のことなど、わかっていない。



「さっさと出撃してくれよぉ、被験体のお二人さん!?」



 要請した増援MS部隊に対し、ジブリールがよこしたのはMSがわずかに二機だった。

 それらも調整が遅れているとかで、未だJ・P・ジョーンズから発進はしていない。

 指揮官でありながら搬入するところさえ見せてもらえなかったネオとしては、ちょっとやそっとの働きで満足もできそうにないというのに。

 新型のエクステンデッドという二人のパイロットはどちらも屈強そうな男であったが、本当に役に立つのだろうか。



「……くるぞ!!各機散開!!エール装備のやつらでMSの相手はしろ!!ランチャー部隊は構わず艦を狙え!!」



 真紅の機体が発進してくる。

 無理矢理に集めてきた部隊で、はたしてどれほどが生き残れるだろうか。

 ネオはガンダム顔の赤い機体の相手をしながらも、部隊員たちに対し慙愧に絶えない思いを抱いていた。







「敵襲!?そんな、赤道連合に見つかったってことですか!?」



 ミリアリアの運転する車の助手席で、キラが通信機に向かい怒鳴った。

 万一に備えてということでアスランから携帯そっくりに改造されたそれを持たされていたものの、

 傍受されることも考え緊急時以外は使うなと念を押されていた代物だ。

 一台はシンに持たせ、もう一台は手元にあるこれだ。



『いや、例の空母の部隊だ!!』

「!!あのガンダム三機の!?」



 彼ら四人はそれぞれの事情を互いに話し終えるとほぼ同時に、アークエンジェルからのコールを受けていた。

 艦が危ない、直ちに戻ってくれ───……、チャンドラの緊迫した声が、ノイズ混じりに伝わってきた。



「あー、くそ!!シンのやつ一体、どこいるんだよ、海岸って!?」

「白の袖なしのパーカー、でいいのよね!?」



 ミリアリアが運転、キラが状況把握。

 ジェナスとセラが残るもうひとり、シンの姿を探し、車は走り回る。

 話もそこそこに喫茶店を出たが、なかなか見つからない。

 海岸にはまばらに人が歩いていて、探すのもやや面倒だ。



「いた!!あれじゃないの!?白パーカーに、黒髪!!」

「あれだ!!ミリアリア、止まってくれ!!」



 ジェナスの言を受け、海岸沿いの道路に車が急停止する。

 がくんと大きく揺れた際の揺れで思い切り頭を打ったキラは無視、駆け寄ってきたシンにドアを開けてやる。



「うわ、磯臭いぞ、お前!!」

「わり、ちょっと落ちちゃって……それより、敵襲って!?」

「く、詳しい話はジェナスから……急ごう、ミリィ」

「オッケェー、飛ばすわよぉっ!!」



 額をさすりながら言ったキラに従い、ミリアリアは車を発進させた。

 今度は彼の後頭部をシートへと思い切りめりこませて。

 ちらりとシンが後ろを見たのに、ジェナスもセラも気付かなかった。

 遠くのほうで三人組の男女が、こちらのことを見ていた。

 それを見るシンの目はいつになく、優しかった。







「6つ!!」



 大気圏内において、MSにとって戦闘機はたしかに厄介な相手ではある。

 だが、熟練したパイロットからすれば別だ。

 かつてのムウ・ラ・フラガのような腕の持ち主が乗っているのならともかく、アスランやバルドフェルドにとって一般兵の乗るそれは、単に地上を這うMSに比べ小さく早い、少しばかり当てにくい的でしかない。



 出撃して僅かな時間で、スカイグラスパーの部隊をアスランたちはたったの二機で、ほぼ壊滅状態へと追いやっていた。

残るはエール装備が数機、そして指揮官機のウインダムだ。



「……いける」



 これからカオスやアビスが出てきたとしても、キラたちが戻るまでは十分に耐えられる。

 煙をあげて海面に落ちゆく最後のランチャー装備の機体を一瞥し、アスランは一息つく。

 いっそ、このまま母艦を無力化しておくべきか。バルドフェルドがウインダムと斬りあっている今ならできる。



「!?」



 攻めあぐね躊躇したようにセイバーの周囲を旋回していたスカイグラスパーが突如として、一斉にその空域から離脱する。指揮官を放置して、だ。



『気をつけろ!!何かくるぞ!!』



 その様子にはバルドフェルドも気付いたらしく、ウインダムのシールドを自機のシールドで受けたムラサメからの通信が飛んでくる。



『アスラン!!聞いてるのか!!』

「……な」



 しかしそれは彼の耳には、聞こえていなかった。

 彼はただ、カーゴベイを開いた空母からスカイグラスパー部隊と入れ替わるように現れた、二機のMSの姿に目を奪われていたのだから。



「まさ、か……?」



 それは、彼らのはるか下、海面をモーターボートでジェナスたちとともにアークエンジェルに帰還すべく急ぐキラも同様で。



「そんな……何故、あれが……」



 二体の巨人が、空母から舞い上がる。

 キラとアスラン、二人は信じ難いものを見る目で、それらを見上げる。



 鋭角的なシルエットに、巨大な背面ユニットが特徴的なそれは。



「ジャス……ティス……?」



 六枚の羽を広げた、流麗なフォルムの、その機体は。



「フリー……ダム……?」



 自由の翼と、正義の剣。

 フリーダムと、ジャスティス。

 彼らのその姿は、以前の緋色と純白の機体色を失い、堕ちた天使のように漆黒と暗い紫に染め上げられていて。



「なんで……あれがいるんだよっ!?」



 かつて家族を奪った者と、かつての主たちの前へ、禍々しきその姿で立ち塞がっていた。


 
 

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