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アム種_134_042話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:47:33

第四十二話 マイ・サクリファイス



「驚いた……あいつが、ストライクのパイロットだったのか……」



 アスランの独白に、ハイネは珍しく神妙な顔で口を開いた。



「ヘリオポリスにいて……巻き込まれたそうです。だから……」

「ああ。わかってるよ。今は味方だしな」



 アスランの言わんとしていることを理解し、ハイネは安心しろと手をぱたぱた顔の前でやってみせる。元連合兵とは言っても、わざわざオーブから離脱しここまで合流しにきた人間だ。それに「フェイス」の人間がすぐ側についているのだから、疑うつもりはない。



「シンは……明らかに感情に任せて戦っていました。かつての俺と同じように」

「……」

「その爆発力がシンの強さであることも認めます。ですが……」

「いつか痛い目を見るかもしれない、ってことか?」

「……はい」



 アスランの心配は、自分自身の経験に裏打ちされたもの。

 それゆえにハイネも考え込まざるをえない。



「シンはまっすぐです。それ故に、周囲が見えない。自分の正義に、愚直すぎる」

「……それであの『ヒーローごっこ』か。確かに、な」



 彼にとっては、過去の自分を見ているようで歯痒く思えたのだろう。

 赤みがかった金髪を掻きあげながら、ハイネは分析する。

 と、同時に。思ったことを今度は問いただす。



「そう言うお前はどうなんだ?アスラン」

「え?」

「今のお前は昔に比べて、どうなんだってことだよ」

「私は……」



 一瞬視線を逸らし、躊躇うように俯いてから、

 アスランは言う。



「俺はそれほど、自分を信じちゃいませんよ」



 この二年間で、思い知らされたこと。

 それは人には人の。それぞれの正義があって。

 自分がかつて正しいと思っていたことも、無数にあるそれら、ただちっぽけな星のひとつに過ぎないということ。

 そしてそれらは現実の前にたやすく流されていくということ。



「俺は、やれることをやるだけです」



 あいつのために、とは言えなかった。

 愛する女が愛する国を守るために、だなんて。

 事実そのためとはいっても、ザフトに復隊した身でその精神はここにないと宣言するのは憚られた。



「戦って、少しでも犠牲の少ないうちに戦争を終わらせて。平和のために手を汚していくだけですよ」

「アスラン……お前」

「あなたもそうでしょう?ハイネ」



 けっしてプラントのためにとは言わなかったから、気付かれてしまったのかもしれない。

 自分がザフト……プラントに、全幅で身を寄せているのではないということに。



『ハイネ・ヴェステンフルス、及びアスラン・ザラ両名は基地司令部への出頭要請が出ています。至急──』

「っと」



 基地内のアナウンスが部屋にも流れ、真剣な空気が崩される。ハイネもアスランも相好を崩して苦笑し、頃合だと悟る。



「行くか」

「ええ」

「あ、小型レーザーは禁止だぞ」

「なにか別のものを考えますよ。ドラグーンとか」

「やーめーろって」



 二人の同僚は連れ立って立ち上がり。仕事を片付けるべく、部屋を出た。







──アスランは、きみに同じ道を歩ませたくないんだと思う。僕だって、そうだ──



 缶を握ったまま、シンはキラの立ち去った休憩室で考えを纏めかねていた。

 キラの言ったこと。彼の語ったアスランとの過去に思いをめぐらせながら。



──僕らは感情のままに戦い、勝手な理屈と正義でただ闇雲に力を振るう、ただの破壊者だった──



 思いがあることは、罪ではない。

 それは人が何かをなす際の立脚点であるのだから。

 キラはそうシンの思いを肯定しつつも、釘を刺すように言った。



──けど、戦場でその思いを遂げるには、他の誰かを犠牲にし続けなければならない──



 どうか、そのことを忘れないで。

 自らの正義のために戦う力ある者ならば、その自覚を持っていなければならない。

 そしてその犠牲を可能な限り減らせるよう、たゆまぬ努力をしていく必要があるということも。

 犠牲という十字架を、戦う者はみな、背負っているのだから。



「シン?」

「……セラ。どうしてこっちの艦に?」

「こっちの機体のことで色々、わからなくて聞きたいことがあって。マードックさんがいなかったものだから」



 エイブス班長を訪ねてきたらしい。

 別にその辺の連中に聞いてもよさそうなものだが。

 わざわざその道のプロに聞こうとするのがまた、律儀である。



「なんだか、元気ないわね」

「そりゃ、な。まあ」



 女性用のオーブ軍服を来たセラが、休憩室へと入ってくる。

 隣に座った彼女へと、シンは聞いてみる。



「なあ、ジェナスやセラたちって……あっちの世界?でも戦ってたんだよな」

「ええ……そうね」

「犠牲って、なんだと思う?」



 しばらく考えて、セラは答えをシンによこした。



「出したくないもの。でもどうしても、出てしまうもの。……割り切りたくても、割り切れないもの、かしら」

「……」



 どこか答えるセラの目は、ここではない遠いどこかを見ているようだった。

 彼女達の前で失われていった人々か。はたまた、その状況が続いているのであろうもといた世界のことを思い馳せているのか。それは読み取れなかった。



「……ー、ン……」



 遠くを見る彼女の唇が、ぼそりとなにかの言葉を紡いだような気がした。

 犠牲、それは背負う十字架。

 犠牲、それは避けられず、割り切れないもの。

 二人の人間から与えられた「犠牲」という意味は、シンの思いへと複雑に響いた。







「……すまない」



 いつもの気丈な表情を歪めて、カガリは頭を下げた。



「やめてよ。これは僕の責任でもある……僕が落とし前をつけにいくのが当然だろ?」

「けど……!!」

「大丈夫。相手が『彼ら』なら犠牲を最小限にするやりようはいくらでもある」



 オーブ行政府、ユウナの執務室。

 大西洋連邦の圧力に屈し増援部隊としての軍の派遣を承諾せざるをえなくなったカガリは、その司令官──とはいっても元々が政治家であるがためお飾り的なものにすぎないが──に決まった彼のもとを一人訪れていた。



「いいじゃない。ご丁寧に対戦相手まで指定してくれているんだ。こっちとしてもやりやすい」



 派遣先は、スエズ。

 そしてそれは連合の割り出したアークエンジェルとミネルバの推定航路と、ほぼ一致する。

 強力な少数精鋭の艦隊のことを連合も、ただ手をこまねいて見ていたわけではないのだ。

 やっかいな相手だからこそ、混乱した地域に投入されれば脅威になる。

 多くの火種を抱えた地域に更なる油を撒くためにその二艦が移動を開始したことを、連合側も看破していた。

 無論アークエンジェルを諜報員に逐次追わせているユウナたちも知っている。



「でも、アスランもいなくて……今度はユウナ、お前まで……!!」

「平気だって。僕のいない間は、父上を頼ってくれればいい」



 ウナト・エマ・セイラン。連合に対してはいささか弱腰ではあるが、経験でいえば当然ユウナよりもカガリよりも豊富だ。

 カガリを彼の留守中も、十二分に補佐してくれるだろう。

 だがそれでもカガリは、泣きそうな顔で彼を見上げ訴えるように見つめる。



「心配、しないで。こんな無意味な派兵に、多くの血を流してやる必要はないんだ」

「だって……アークエンジェルと……」

「言っただろ?やりようはあるって。それに僕は死ぬ気はないしね」

「ユウナ」

「きみのことが、まだまだ心配だし?きみに行政を任せておくのが不安でしかたないヨ」

「お、前……!!」



 目じりに涙をうかべていたカガリが、顔をくしゃくしゃにして笑う。

 いつもどおりのユウナの軽口に対する、泣き笑いだ。



「ま、行ってくるよ。情勢が情勢だから、ぐるっと大回りしてのんびりと船旅を楽しむことになりそうだ」



 あんまりのんびりしすぎて、増援が間に合わなくなるかもしれないがね。

 ぽんぽん、とカガリの頭を叩くユウナの目は、いつになく優しかった。


 
 

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