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アム種_134_047話

Last-modified: 2007-12-01 (土) 15:49:11

第四十七話 人の夢、人の業



「ああ、キラくん。きみは少し残ってくれないか」



 食事も終わり、デュランダルから直々に3日間の休暇の辞令をうけとったあと。

 敬礼を交わし立ち上がった一同の中から、キラは呼び止められた。



「僕ですか?」

「そうだよ。少々、見て欲しいものと、頼みたいことがあってね」

「はあ。構いませんが……?」



 横目で、彼の隣に座っていたラクスに視線を移すと、彼女は微笑んだ。

 彼女も納得の上でのことのようだ。ならば問題ないだろう。



 そう判断し、キラは足を止めてその場に残った。







 せっかくだからと、ミネルバ、アークエンジェルの両艦のMSパイロット達、

 それにジェナスとセラには、今日はホテルに泊まっていくよう言い渡されていた。



 平時であっても滅多に泊まることのできない、高級ホテルである。

 ルナマリアははしゃぎ、メイリンも呼ぼうかと言い出したがそれはアスランに止められた。



 タリアは一足先に帰っていたし、いざというときにはバルドフェルドとハイネがそれぞれ残っている。

 押し付けるような形になってしまうが、ハイネはこの基地に親しい友人がいると言っていたし、夜のライブもある。バルドフェルドも、アスランたちがいないほうがマリューとよろしくやれるだろう。



「うわ、なんだこのだだっぴろい部屋は」



 かくして、シンとともにツインの部屋に通されたジェナスは、その豪華さ、広さに圧倒されていた。

 同じくツインルームだったルナマリアとセラも(主にルナマリアが)、驚いていることだろう。



 ベッドに腰を下ろしてみると、明らかに艦のものとは違う感触が伝わってくる。



(……シムカのとこにいたときよりいいベッドなんじゃないか?これ)



 まあ、あれは基地であったから比べるほうが間違いな気もするが。

 少しショックだった。



「?」



 振り向くと、背を向けてシンももうひとつのベッドの反対側に座り込んでいた。



「シン?」

「……」



 けっして付き合いが長いわけではないが、シンが色々と考え込んでいるということが、俯いたその背中からジェナスにも汲み取れた。

 おそらくはそれがデュランダルの言っていた「平和」や、「ロゴス」のことについてであるということも。



「『ロゴス』……、ジェナス。俺、本当にそういう奴らがいるなら、赦せないよ」

「……シン、お前?」

「またアスランたちには熱くなるな、私情を戦争に持ち込むなって言われそうだけど」



 言葉を切るシンの表情は、俯いていて窺い知ることはできない。



「そいつらを前にしたら、冷静でいられる自信がない。マユたちは、家族はやつらに殺されたようなものだから」

「シン」

「だから……暴走しそうになったら。お前が……止めてくれ。ルナや、レイたちと一緒に」







「これはっ!?」



 キラの通された基地の格納庫には、二機のMSが佇み、二人を待っていた。

 そしてそのうちの一機に、キラはたしかに見覚えがあった。



「……ZGMF-X666S、『レジェンド』。ZGMF-X42S、『デスティニー』。共に工廠から出てきたばかりの機体だ」

「デュランダル議長、これは。このデザインは……?」

「やはり、わかるか。かつてラウ・ル・クルーゼが乗った機体……『プロヴィデンス』の後継機だよ」

「キラ」



 彼の予想は、当たっていた。円形の大型バックパックに、ドラグーンと思しきいくつもの突起状のパーツ。それはかつて自分が傷つけ、守ろうとした人を奪っていった機体に酷似していたのだから。

 自然、彼の目は厳しいものとなる。



「デスティニーは、インパルスの後継機にあたる。どちらも連合のフリーダム、ジャスティスとの戦闘に備え急ピッチで組み上げられた機体だ」

「……それで、何をさせようというんです?僕にパイロットになれと?」

「いや。そうではない」



 きつい口調のキラに、デュランダルは苦笑を漏らす。

 だが、パイロットとして呼んだのでなければ一体、なんだというのだ?



「きみにこの子らを、育てて欲しいのだよ」

「……育てる?」

「そうだ。如何せん、この二機は開発を急ぎすぎてしまってね。複雑・高性能化した機構に、肝心のソフト面……OSが、対応しきれていないのだよ。レジェンドに至ってはドラグーン制御もままならん」

「……」



 言いたいことはわかった。プログラムならば自分の専門分野でもあるし、興味深い。けれどやはり、はいそうですかとは頷けない。



「……この際だから言おう。この二機のパイロットには、シンとレイを想定している」

「!?」



 シンと、レイを。再び驚くキラの前を抜け、デュランダルはコントロールパネルを操作する。

 するとどちらも鈍い鉛色だった二機が、それぞれのカラーリングに染まっていく。

 レジェンドは、ダークグレーの、原型機と瓜二つの色に。そしてデスティニーは赤・青・白のトリコロールカラーに。

 だがそれよりもキラの目を惹いたのは───……、



「泣いて、いる?」



 デスティニーの双眸の下に、血涙のごとくデザインされ引かれた、二筋の赤いラインだった。



「……そうだ。戦いによって奪い、奪われる悲しみ……それを終わらせてほしいのだ、この機体には」

「議長……」

「ロマンティシズムに浸りすぎかもしれんがね。この赤はその痛みの涙なのだよ。その意図で私がつけさせた」



 戦いを終わらせるために戦う、苦痛の涙。

 その言葉にキラは苦い思いを覚える。



「その涙を知る君に。ラウ・ル・クルーゼの暴走を知る君に、この二機を育ててもらいたい。

 デスティニーとレジェンドが。シンとレイ、若き二人が道を誤らぬように。だから、たのむ」

「……」

「キラ」



 ラクスもまた、懇願するような視線を向けてくる。

 無意識、キラはこれらの機体と己の業とを、心の天秤にかけていた。



「……わかりました。やります。3日でどれだけやれるかはわかりませんが」



 完全に納得したわけでもないし、レジェンドの外観に対するわだかまりは依然ある。

 しかし、シンやレイ。彼らが乗るというのならば、自分が手助けできるだけのことはしておく必要があるのではないか。キラはそう結論付けていた。







「お疲れ様、アスラン」

「いや。ミーアこそ。いいステージだった」



 カチン、とスパークリングワインの入ったグラスを軽くつきあわせて、乾杯。

 一息に呷って、双方安心したように息をつく。

 窓からはディオキアの夜景が美しい。



「アスランにそう言ってもらえると、嬉しいです。まだまだ、うまくやれてるって気がしないから……」



 少女の顔はそのまま、ラクス・クラインだった。

 ラクスの異母妹という触れ込みの少女──、ミーア・キャンベルその人である。

 彼女とアスランは今、アスランの宿泊するホテルの部屋で、ひとときの語らいを楽しんでいた。



「そんなことはない。君はよくやってくれてる。衣装とキャラクターの違いがなければ、本当にそっくりだ」



 アスランは素直に彼女のことを賞賛した。

 彼女を元々ラクスの影武者として教え込み、仕立て上げたのは他でもない、彼自身なのである。

 そのときはいささかラクスを演じさせるということに抵抗があったが、こうして彼女が本当の名で表舞台に出てくることができて一安心といったところだ。



「ラクス様の妹をやるの、すごく楽しいです。こうして、色んな人と会うこともできるし」



 爛漫に笑う彼女を見て、アスランは何故だかほんの少し心が痛んだ。

 と同時に、昼間議長の言っていた『ロゴス』のことが脳裏をかすめる。

 その名前と存在自体は幼少の頃にラクスの父、シーゲルから聞いていたので知っていたが。



(……やってることは奴らも俺達も、同じってことか)



 どちらも世界を誘導し、自分達のよかれと思う方向に持っていこうとする。

 ときにこういった、人を欺くような手段までも使って。



(だが、ベクトルが違う。私利のためにやっている連中とは)



 あくまでも自分達がやっているのは、戦争を終わらせるため。

 無辜の民たちのためだ。そのために手を汚しているに過ぎない。公益のためにやっている。



「どうしたんですか?アスラン」

「……いや。なんでもないよ」



 俺達と奴らは、違う。

 二杯目を注ぎ、アスランは再びそれを飲み干した。

 酒の勢いだろうか、ミーアの肢体に目をやると、カガリと久しく交わっていないその身体が疼いた。


 
 

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